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  試してみたいことがあった。
 バレる危険を冒したり、ましてや全裸で町を歩く気まではサラサラないにせよ、試せる範囲のことなら試したい。デッサンモデルから期間を置いた美東一菜は、学校の女子トイレで全ての衣服を脱ぎ去っていた。
 仕事に区切りがつき、時間を作れる機会の中でのこと。
 トイレの個室という安全領域でなら、極めて少ないリスクで裸になれるのではと思いつき、外の空気を素肌いっぱいに感じ取る。ほんの少しドキドキしながら、全裸で過ごすこの時間を満喫した。
 解放感があるのだ。
 衣服によって、肌という肌を覆い隠し、人は皮膚に窮屈な思いをさせている。服による拘束感から肌を解放して、空気を全身で味わうことには、相応の解放感があるものだ。
 これも、脱ぐことの醍醐味なのだろうか。
 裸族なんてものがいるらしいのは、こういう肌の解放された状態が良いからだろうか。なんてことを思ってみる。
 そして一菜は、冷たい壁へ寄りかかり、一菜は秘所へ手を伸ばす。皮膚を揉みほぐすような指遣いで肉貝を揉み、こんな場所で行う自慰行為の快感にどっぷり浸った。
 一菜は自慰を試したかったのだ。
 教師が、学校で、とても不謹慎なことをしてしまう。トイレの中なら、そういう自慰行為ができるはずだと、一菜はそれを実行している。
 別に教師は聖職者ではない。
 なので、例えば教師が犯罪を犯したニュースを見ても、単にそういうケースもあるのだろうというだけだ。せいぜい、この学校から同様のケースが出ないといいなと、薄っすら思う。それ以上でもそれ以下でもなく、事件一つにいちいち特別な思いも考えも沸いてこない。
 同僚が風俗へ通おうとも、飲み会で酔い潰れていようとも、生徒の前で相応の仕事さえしていれば、それでいいと考えている。ただ、そういう隙を見せないことも、イメージを保つ戦略のうちになるだろうとも、思っている。
 今の一菜は、完全に『隙』が丸出した。
 文字通りの丸裸だ。
 これが万が一にもバレようものなら、もはや大問題という話ではない。まともな神経をしていれば、もう二度とこの学校には来られなくなるだろう。
 安全圏の中とはいえ、そういうリスクを楽しんでいる。
 要するに一菜は、こっそりやる火遊びにハマっているだ。
 生徒達の中の一菜は、さしずめ冷淡で感情が薄いか、あるいは事務的で機械的な女のような存在だろうか。そんな自分が、そんなイメージとは程遠い自慰行為を楽しんでいる。この事実そのものが、なんとなく面白かった。
 だから、一菜は性器を貪った。
 両手を使って集中的に、膣とクリトリスを触り抜き、その快楽をじっくり味わう。
 とても、気持ちいい。
 性的な刺激など、突き詰めれば神経からの信号で、別に状況が変わったからといって電気信号の種類は同じだ。シチュエーションごときで、何か格別な違いが出るのだろうかと、露出趣味に目覚める前のかつての一菜なら、きっと思ったことだろう。
 だが、気持ちいい。
 何かのシチュエーションから得る快感は、単なる自慰行為と違って、スパイスでもかけたように不思議と別の風味がかかって思える。
 気のせいかもしれない、錯覚かもしれない。
 しかし、心一つで何かを違って感じるのが人間だ。
 バレはしないけど、もしかしたら人が来て、下手に物音なんて立てられない状況になるかもしれない。そして、生徒の手本になるべき教師の立場で、こんな場所で自慰をしている。小さなスリルと、背徳感によるスパイスが、一菜の性感を高めていき、秘所はしっとり濡れていく。
 ぬるりと滑りが良くなって、液が絡んで指が汚れる。
 教師の身分である自分が、こんな所で愛液を出している。
 これがどんな火遊びなのかを実感すればするほど、性感帯はますます敏感になっていき、乳首もクリトリスも、しだいに突起し始めていた。
 女子トイレでここまでの気分になれる。

 ならば、男子トイレならどうだろう?

 一菜は当然のように興味を持った。
 まさか、それはリスクが高い。掃除道具を取りに来たとか、適当な言い訳も可能だろうが、万が一バレた場合に、その相手に言い訳が通用するかどうかわからない。女教師が男子トイレを出入りするべき正当な理由など、普通に考えても思いつくわけがない。
 しかし、もう日は暮れた。
 今の時間帯、どれほど生徒が残っているのか。
 せいぜい、運動部で遅くまで練習をしている生徒以外、大半がもう校舎を出ているはずだ。
 だから、一菜は思った。

 今ならリスクは少ないはずだ。

 校舎内の電気も概ね消され、廊下も暗くなり始め、本当に極々一部の生徒と教員しか残っていない。この時間帯なら、教室の近くのトイレであれば使用率は低い。教員は職員室から近い方を使うはずなので、ほぼ生徒しか利用していないトイレであれば比較的安全なはずだ。
 どうだろう、マズいだろうか。
 そうだ。
 さすがに、マズい。
 リスクを楽しむ遊びといっても、結局は安全を大事にするから面白いと思っていられる。バレないうちだから、遊び半分な気持ちでいられる。もし、実際に誰かにバレたら、その時点でショックを受けたりトラウマになったり、最悪の場合は職務上の処分を受けるなどして、もう何も楽しくなくなるだろう。
 そういう危険を、冒していいのか。
 いや、そこまで危険だろうか?
 バレる危険性とはいったものの、バレるべき相手がそもそもいない環境なら、いいのではないだろうか。
 そんな方法は存在しないが……。
 もし、全裸で市街を徘徊して、絶対にバレることなく帰ってこれる魔法のような露出方法が存在するなら、やってみてもいいかもしれない。
 魔法ほどではないが、今こそ比較的バレない環境とは言えないだろうか。
 そうだ、平気だ。
 むしろ、今しかない。
 何も校舎まで徘徊するわけではないのだ。
 飽きがこないように期間を開けながら露出するという、自己ルールを持つ一菜にとって、今を逃せば次の時期まで待たなくてはいけなくなる。
 理由をつけて自己ルールを破ったら、ルールの意味がない。
 だから、やるなら今だ。
 一旦、服を着替え直した一菜は、その足で男子トイレの方へ向かい、周囲に誰もいないことを確かめてから、個室へと足を踏み入れた。




 
 
 

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