苦痛。恐怖。憎悪。悲嘆。かつて遭遇した<泡渦>の中で焼印のように心に焼き付いた感情を汲み出すことが、自分の中の悪夢の<断章>を紐解く最初のプロセス。日常というぬるま湯に漬かることなく、孤独の中で過去を反芻し、ただひたすらに自分を切り刻み続けることが、化け物と戦う化け物であるために、雪乃に必要なことだったのだ。
――しかし、こんな苦痛。
雪乃はおっぱいを攻められていた。
上半身を起こされて、胡坐をかいた雪乃の背中は、斉藤の胸に密着して預けられている。背後からの乳揉みに囚われて、数分以上も揉みしだかれた上、さらに乳首まで刺激され、雪乃はその快楽をどうにもできない。
「気持ちいいでしょう?」
「うるさい……!」
「これはねぇ? 一応、ちゃんと効果があってね。こうして乳首の血流を活性化させることにより、バストアップの効果が出るんだ」
「……興味ないわね」
美容など考えもしない雪乃には、本当にどうでもいい知識だが、斉藤はお構いなしに雪乃の乳首を苛めている。
クリクリと、コリコリと。
アイマスクの分だけ皮膚感覚に意識のいく雪乃には、ただでさえ強い刺激がより如実で、ともすれば指の動きが正確にイメージできる。指の腹でプレスして、その強弱によって乳首を摘み続けてから、左右に弾くような刺激を行い、軽く引っ張る真似もする。乳輪を延々となぞり続けもする。
「ん……くふぅ……ぅ…………」
せめて声だけは抑えていた。
「我慢しないで、もっと大きな声で鳴いてもいいのに」
「ふざけないで…………」
何も知らなかった雪乃の身体は、大人の指に快感を教え込まれて、いいように敏感にさせられている。もっと早くに疑っていれば、こんなことにはならなかったかもしれないが、後悔してももう遅い。
気持ちいいことによって息は乱れて、歯を食い縛っていなければ、どれほどみっともない声が漏れていくことか。
「そう言わないで鳴いてごらん?」
アソコへと手が伸びるに、紙ショーツに潜った指がクリトリスを見つけると、静電気が弾けるような快感に雪乃は激しく身をよじった。
「…………あっ!」
背中が斉藤に密着しきり、中年の胸板が壁となって、仰け反りようがないにも関わらず、それでも仰け反ろうとした雪乃の身体は、背中を強く押し付けた。
「ほら、可愛い声だ」
「この……ぉっ、あ……あぁ……!」
腕が二本ともアソコへ群がり、クリトリスにも膣口にも指が取り付くと、肉芽への攻めと指のピストンが雪乃を襲い、雪乃はさらに身をよじる。
「もっともっと鳴いていいんだ」
「あぁ……ぅ……ぁ……んっ、んぁ……!」
首でも仰け反り、雪乃の後頭部が斉藤の肩へと押し付けられる。背中ももっと、それ以上は増しようのない密着度合いをそれでも増そうと動いている。
「雪乃ちゃんは完全にオジサンのコントロール下にあるんだからね」
「コントロールって……!」
「ほら」
「……あん!」
雪乃は悟った。
まるで楽器でも奏でるように、この男は自在に雪乃を喘がせている。太い指の出入りが緩く、まだ手加減されているうちだけは、声を我慢することが許される。
屈辱。羞恥。快感。
雪乃の感情に新しい焼印が与えられ、「――あ! あっ、あん!」と、さも弦を奏でるつもりのような指先が、雪乃から鳴る音色を自在に引き出す。
……悔しすぎる。
自分はいつ死んでも構わないし、自分の<断章>は不測の戦いにも向いている。<騎士>として戦い続けた自分が、こんな形で辱めを受けているなど最悪だ。どんな憎悪や恐怖も糧としてきた雪乃には、これまで積み上げてきたプライド全てが汚されているも同然だった。
「……うっ、あっ、あくぅぅっ」
そして、雪乃はここに来て、これまでにないほど必死に耐えた。
何かが――来る気がした。
全身に張り巡らせてある神経が、ある一点に信号を集めていき、それがいつしかアソコの中で爆発する予感に見舞われ、初めての体験に何がなんだかわからない雪乃は、とにかく必死に我慢をした。
太ももから足首まで、筋肉が完全に強張るまでに力を入れ、腹にもぐっと力を込める。必死の必死に歯を食い縛り、我慢に我慢を重ねる雪乃のアソコから、たった一度だけ手が離れる。もちろん愛撫をやめてくれるわけではない。雪乃の足を持ち上げて、M字開脚のポーズに変えるためだった。
足を左右に投げ出して、誰がいるわけでもない壁に秘所を見せ付ける。
情けないとも卑猥とも言えるポーズのアソコは、女を知り尽くした指に蹂躪され、穴もクリトリスも嬲りつくされ、ついに雪乃の我慢の限界を突破した。
――来る!
来る、来る、何か――。
「――――――――っ!」
声にもならない、絶叫に近い喘ぎ声。
この時、時槻雪乃は生まれて初めての絶頂を味わった。
***
イクことを覚えても、敏感になった肉体はまるで静まろうともしていない。触れればそこで快楽の電気が弾け、肩に触れても足に触れても、ビクっとした反応を雪乃は示す。そんな自分の反応を、今しばらくのあいだ雪乃は自覚していない。
頭が真っ白になった余韻から、だんだんと脳を離れた意識が戻り、自分の置かれた状況を明確に思い出す。
そうだ。
こいつは性犯罪者で……。
「どうだい? お尻も気持ちいいだろう?」
いつの間に自分が四つん這いになっていることを自覚して、おまけにショーツまで脱がされていることに気づいた雪乃は、ハっとした反応で惨めな姿勢を変えようと試みた。
ぺちん!
雪乃の取ろうとした行動を、その一撃は完全に先読みしていた。
「な……!」
そして、雪乃は驚愕した。
ぺち、ぺちっ、ぺちん!
お尻を叩かれている。
痛いわけでも何でもない、ただ尻肉をタップして、平手で振動を与えたいだけのスパンキングに過ぎないが、幼い子供が親にお仕置きを受ける時を覗いて、人がこんな体罰を受ける機会はどれほどあるか。いや、だいたい、親によるお仕置きだろうと、こんな形で子供を教育するのがどれほどいるか。
ぺち! ぺち!
生まれて初めて、雪乃はお尻を叩かれていた。
「ふ、ふざけないで!」
「雪乃ちゃんが勝手にポーズを変えようとした罰なんだけどね」
斉藤は両手で尻を鷲掴みに、好きなように揉みしだき、撫で回す。敏感になった雪乃の皮膚神経は、いやらしい手つきを存分に感じようと、雪乃の過去や今の気持ちに関係なく、尻揉みのマッサージを味わっている。
「何が罰? 性犯罪者がよくも――」
ぺちん!
また、手の平が良い音を打ち鳴らし、言葉による反抗も、勝手にポーズを変えようとした気持ちも、何もかもが一撃だけで封印される。
「お尻を叩かれて悦んでいるのは誰かな?」
「馬鹿馬鹿しいわ! 喜ぶわけ――」
ぺちん! ぺちん! ぺちん!
ぺちん! ぺちん! ぺちん!
二つの尻たぶが交互に打たれ、プルプルと振動するに、雪乃はどこか身動きが封じられた思いでスパンキングを続けてもらう。
ぺちっ、ぺちん! ぺちぺち!
ぺちぃっ、ぺちん! ぺち!
こんなことをされながら、雪乃は自分が本当に喜んでいることを自覚する。本当に軽い力に過ぎないが、こんな扱いを受ける苦痛に、精神的な痛みに心が喜び、もっと叩いてもらおうと体が後ろへ動いていた。尻を少しだけ突き出して、自らお仕置きをねだっているのに、雪乃は自分で歯噛みしていた。
これも<痛み>だ。
「……いいわ」
こうした屈辱から生まれる憎悪でさえも、雪乃は復讐の糧にしようとしていたのだった。そのことに気がついて、明確に自覚した瞬間から、どこかで何かが吹っ切れて、そのうち辱めに泣いたかもしれない自分のことを鼻で笑う。
「好きなようにして頂戴」
「おや?」
「どんな形だって構わないわ。屈辱ぐらい望むところよ」
死んでも構わない覚悟をしておきながら、お尻を叩かれるのは嫌など通らない。
「何か気が変わったみたいだね。じゃあ――」
斉藤は考えている。
次はどうやって雪乃を辱めるのか。
断じて期待しているわけではない。本当の意味で喜びなどしない。ただ心を刻み取る何かがある限り、<断章>の痛みを忘れない。自分のことを憎しみに浸すための、ただただ糧を取り込むためのプロセスだ。
「お尻の穴を見てあげるよ」
ぐにぃっ、と。
二本の親指によって、閉じ合わさっていた尻の割れ目が開帳され、その奥に隠されていた皺の窄まりが中年男性の視界に現れる。
「うぅ……ぅ……」
これまでにないほど、雪乃の顔は赤く染まった。色白だから赤面がわかりやすい、雪乃の首から上だけを見る分には、いっそ肌の色が別の人種に変わったまで例えられる。
じぃぃぃぃ――。
皮膚を焦がさんばかりの視線照射が、肛門目掛けて浴びせられていた。
「君の肛門の皺の本数を数えているよ?」
「……変態ね」
そう返すのがやっとのように、雪乃はそれだけの不機嫌な声を返した。
「知りたいかい?」
「どうでもいいわ」
「○○本!」
「だからどうでもいい!」
怒鳴ってから、雪乃はぐっと歯を噛み締めた。肛門などをジロジロと視姦され、皺の本数まで知られるなど、いかに<泡渦>と戦う人生であれ想像もしなかった。
***
肛門視姦をたっぷりとされた後も、雪乃の全身はこれでもかというほど愛撫され、乾いてきたオイルを改めて塗り直す。身体を火照らす効果がさらに染み込み、全身熱く疼いた雪乃の肉体は、指を触られても気持ちいいほどにデキ上がっていた。
「あぁ……あ……あう……んぁ……あぁぁ……ぁ……ふぁ…………」
太い一本の指が、雪乃のアソコに出入りしている。自然と足は開いていき、言われたわけでもないのにM字開脚となった雪乃は、快楽に溺れないことだけを意識していた。
自分は憎むべき犯罪者の辱めを受けているのだ。この憎悪を糧としなければならない。気持ち良さに夢中になり、ただただ喘いで終わるのは違う。みっともなく、惨めな扱いを受けていようとも、せめて心だけは<騎士>でいるのだ。
『そうよ。それが正しい食べられ方。可愛い雪乃には、優しい王子様に抱かれる甘い初めては似合わないわ』
……でしょうね。
と、心の中だけで受け止めて、雪乃は気持ちよさを我慢する。
浸ってはならない。くつろいでも、癒されてもいけない。そんなものは自分には必要ない。
「あふぅ……んぅ……んっ、あっ、あぅ……あぁぁ…………」
たったの指一本だけに、雪乃の全身が支配されていた。
暴れようとも思っていないが、仮に暴れて抵抗しようにも、全身を甘く解かされた今の肉体では何もできない。こうして指のピストンだけで、脳まで快感に貫かれ、意識していなければとっくの昔に溺れ喘ぐだけの乱れた女と化していた。
何度もイカされた。
絶頂の予感がするたびに、天国が近づくにつれて斉藤の指は活発化して、ピストンの激しさが愛液を撒き散らす。
「あ……う……うぁ……あぁ! あ! ああ! あぁぁ! あああん!」
喘ぐ声のトーンが上がり、絶頂に朽ち果てると、一度は指が抜かれるが、やはり火照った全身の熱が冷めるわけではない。まだまだ体力を残した身体が、次の快感を求めてしつこいほどに疼いており、すぐに愛撫は再開される。
自分はさしずめ、横たえられた玩具に過ぎない。斉藤は有り余る技巧で好きなように雪乃で遊び、雪乃の喉から聞きたい声を絞り出す。
斉藤はご丁寧なことに、イクたびに数分くらいはインターバルを挟んでから、一度だけ水分補給のドリンクまで持ってきた。「エッチなお汁がたくさん出たから」と、わざわざ嫌な言い方をしながらも、唇に当たったストローから雪乃は水分を取り込んだ。
そんな愛撫が止んでいる最中さえ、雪乃の恥ずかしいポーズは持続していた。いつ再開しても構わないため、アソコを嬲ってもらうため、秘密の部分を解放したままでいる自分をいつしか自覚して、雪乃はもうそのままであり続けた。
十回もイった頃には、膣に指が入っていなくとも、まだピストンが続いているような余韻が残り続ける。思考が弾けて頭が真っ白になる際の、アソコの中で一気に跳ね上がる瞬間も、膣壁の神経が覚えている。
アイマスクが外された。
中年の顔と目が合うと、斉藤は既に施術用ベッドに乗り上がり、見ればズボンを脱いで出すべきものを露出している。
「はぁ……はぁ……ぁ……ふぁ……あぁぁ…………」
雪乃はすっかり息が上がっていた。
もはや手が触れていなくとも、余韻が残っているだけで気持ちいいアソコは、そのワレメの奥から欲望の汁を滲ませている。
「さぁて、雪乃ちゃん」
ぺったりと、ワレメの線に沿うように、アソコに肉棒が乗せられた。その未知の存在感が猛烈な勢いで意識を引き摺り、全ての集中力がアソコへ行って、肉棒から発せられる熱気を感じ取ろうと神経が必死になった。
こんな男に挿入されるだなんて――自分の中に、レイプを拒む気持ちが残っているのを確認すると、雪乃はそんな自分の気持ちを大事に抱えて肉棒を意識した。他の男を知らない雪乃は、今自分に当たっているのが大きいのか小さいのかわからない。わからないにせよ、きっと太くて長い方に思えるサイズだ。
ムラムラと滲み出る淫気というべきか。ありていに言えばオーラが出ていると、稚拙に例えてしまえば済むかもしれない、肉棒から絶えず放出され続ける何かが、アソコの触れている部分からだんだん奥へと染み込んでいく。
股間の筋肉が意識せずとも反応して、膣肉がヒクヒクと蠢いていた。
「オジサンとセックスしようか」
雪乃は静かに中年を睨んだ。
「……すればいいじゃない」
誰からも不機嫌とわかる眼差しが、憎しみと敵意を含んで細められ、眉間にも眉の寄せられた雪乃の顔は、明らかにセックスに合意していない。心だけは堕ちていない証拠が、気持ちという目には見えないはずの証拠品が、表情さえ見ればありありと浮かんでいた。
それでいて乳首は突起していれば、クリトリスも勃っているのだ。
合意がなくても気持ちよくなる状態が、気持ちの上では憎悪さえ吹き荒れていながらも、それでも快楽が溢れてしまう肉体が、とっくの昔から完成していた。
「雪乃ちゃんは初めてだよね? 初めての体験を忘れないように、じっくりゆっくりと、オジサンのオチンチンを感じてごらん?」
「ふん。気持ち悪い」
にべもない雪乃。
だが、斉藤の腰が動いて、肉槍の切っ先がワレメをなぞると、生まれて挿入される瞬間がこうして一秒ずつ近づいていることを、雪乃は存分に感じ取る。
ヌルゥゥゥゥゥ……。
オイルにも愛液にも塗れ、十分すぎるぬかるみを帯びた雪乃のワレメで、亀頭が上下に動いて感触を擦り付ける。腰を前後に動かすことで、またアソコに竿が乗るように、そして形や長さを教えるようになすり付け、雪乃は無言でそれを感じる。
圧迫感があるほど腰を押し付け、竿の側面が密着すると、自分のアソコに対してどの程度の太さなのかが嫌というほど雪乃に伝わる。勃起というものが、肉棒をどれほどの硬度にするのかも、果てはどれくらいの長さなのかも膨らんで、雪乃の頭の中には少しずつ、斉藤の持つ肉棒の正確な形状が作られていた。
ただでさえ、純粋な施術による血行の効果も出て、今の雪乃には活発に血が通っている。必要以上に敏感になり果てた神経が、見えない手で包んで測定しているように、ちょっとした反りや血管の浮き出た具合まで、何もかもを知ろうとしてやまなかった。
「これから雪乃ちゃんの中に入るのは、どんなオチンチンかわかったかな?」
そう、わかっていた。
直接は目で見ていない、にも関わらず想像力だけで限界まで正確に、雪乃はこの男のペニスを知っていた――否、挿入前の予習のように教え込まれた。
「時間の無駄よ。さっさと挿れたらどうなの」
変態じみた問いかけを、雪乃はそうして突き放す。
「そうだねぇ? そろそろ、味わってもらおうかなぁ?」
もうそこには、第一印象にはまだあった穏やかさが欠片もない。おぞましいほどに唇の変形した微笑みが、元の顔立ちの良さを台無しにして、ルックスではそうでもなかった中年が、気持ち悪いだけのオジサンにしか見えなくなった。
また亀頭がワレメをなぞり、膣口に狙いを定める。
私にはお似合いの初体験ね。
自嘲的になる雪乃の脳裏には、一瞬だけ白野蒼衣の顔が掠めて、どうしてあんなヘラヘラとした男がと、「ちっ」と雪乃は舌打ちする。
ずにゅぅぅぅぅぅぅぅ…………。
想像以上にゆっくりと、根元まで押し込むのに何分かける気でいるかもわからないスローペースで、中年による挿入行為は開始された。
「――ぐっ、うっ」
穴の幅よりいくらか太い、それでも散々にほぐされたおかげで痛みが最小限の膣口は、その太さによって拡張されていく。ワレメの皮膚ばかりが覚え込んでいた肉棒の形状が、今度は膣壁の神経を通しても脳に伝わり、その一ミリの進行ごとに雪乃の中で、肉棒の存在感は拡大していた。
亀頭の先が、半分が、そしてカリ首まで収まると、先っぽの形が細やかに感じられる。膣の筋肉にヒクヒクと力が入り、締め出さんばかりに力んでしまっても、肉棒はたった一ミリとて後退したりなどしない。余りある滑りの良さが、膣肉による圧迫などまるで無視して、どれだけ膣圧があろうと数ミリずつ、ゆっくりゆっくりと、雪乃の穴へと収納される。
そうやって力が入る分だけ、膣壁と肉棒の密着度は最大限になっていた。
「くっ……あ……あぁ……あぁぁ……あぅ……んぅ……んぅぅ…………」
四分の一――さらに数ミリ。数秒間もかけてやっと何センチか入っていき、三分の一、そこからさらに数秒かけ、やっと半分までが入っていく。
十秒でも二十秒でも、何十秒でもかけるつもりの腰の動きで、本当にやっとのことで、ようやく根元までが入っいた。
「ほら、全部入った。感想を教えて欲しいな」
「……別に……んぅ……あなたを殺したいだけよ」
敵意。憎悪。殺意。およそ黒いといえる感情ばかりが表情から噴き出て来て、睨み殺さんばかりの眼差しで睨んでいる。普通の感覚をしていれば、誰であれ恐れるほどの目付きであれ、もう挿入を済ませてしまった斉藤には、毛ほどの恐怖にもなりはしなかった。
レイプの犯人を呪いたくもなるなんて、女としても、まして時槻雪乃という少女の感覚からしても、当たり前すぎるものだった。
――殺す。
そんな言葉が、嵐の勢いで表情から吹き荒れる。
「はい」
それほどの表情でさえ、斉藤が乳首をタッチしただけで、若干の色気を含んで歪み、そのまま快楽に染まりかねない顔が、ほどなくして憎悪のものへと立ち戻る。
右手でも左手でも、雪乃の乳房を包み込み、丁寧に撫でては指先で乳首を苛める。その技巧が雪乃の口から淫らな吐息を引き摺り出し、どう控え目に見積もっても、感じている女のそれでしかない乱れた呼吸の音が響き渡った。
「はぁ……ぅっ、ぁ……あぁ……はぁ……ふはぁ…………」
息遣いだけが興奮しても、もう簡単に表情は変わらない。
ただ、耳まで朱色に染まっているだけだった。
「ほーら、動いちゃうぞ?」
ニタァァ……と、おぞましく変形する表情は、誰しもを戦慄させかねない恐怖を孕む。
その恐怖にこそ、雪乃は身を浸していた。
「さっさと動けばいいじゃない」
殺意を増してさえいる雪乃の声。
だが、身体は肉棒のピストンを待ち侘びていた。
中年の腰振りが開始され、ゆさゆさとした動きで膣壁を抉り抜くと、想像以上の快楽電流がせり上がり、雪乃はその激しすぎる気持ちよさに目を見開いた。
「あぁぁ――!!」
大きな喘ぎ声が天井を貫いた。
――じゅぷっ、ずぷっ、にゅぷ! つぷ! じゅぷ! じゅぷん! じゅぷん!
ピストン運動の腰がぶつかり、肉棒の根元にある陰毛と、雪乃の股にあるオイルに愛液が衝突するたび、ねっとりとした水気の捏ね合わさった水音が鳴り響く。
「あ! ぐっ、うっ、うっ、ぐっ、あぁ! あっ! あっ!」
快楽が凄まじすぎた。
ピストン運動がそのまま快楽発電であるように、無尽蔵に生まれる電気は決して体外に逃げてくれることはなく、溜まるだけたまって快楽の密度を上げる。脳まで染まりそうなほどの激しさに喘ぎ、鳴き散らしながらも自分を保ち、最後まで斉藤を睨み続けている決意で、雪乃はシーツ代わりに敷かれているタオルを鷲掴みにした。
『そうよ。あなたは堕ちてはならない。獲物を求める狩人は可愛い雪乃の方なんだから』
風乃の声が聞こえてくる。
頭が痺れるなどというものではない。雷を絶えず落とされ続けて思える刺激の強さに、いつ意識が飛んでもおかしくなかった。
「あぁぁ……! がっ、がぁっ、んんんん! んん! んあああ!」
歯を食い縛っていることも許されない。
男は射精するんでしょう!?
それさえ済めば話は終わるわ! それだけ! それだけよ!
暴風雨の激しさに晒され続け、懸命に自分を保つ雪乃の目は、このまま絶頂を迎えても相手を睨み続けていた。
「イったねぇぇぇぇ!?」
「っさい! うる――さっ、あぁ! あぁ……! あぁぁ……!」
「ほーら、また次の絶頂が待ってるよぉぉ?」
「うるさい! うるさ――いぁああ! ああああ! んん! んが、あぁぁああああ!」
ピストンに合わせて背中が弾み、リズム通りに反り返った背筋が施術ベッドに打ち付けられ、それが一切のリズムを変えることなぬ何分間も、五分以上も続いていく。その五分間だけでも五回はイキ、別の体位を求める斉藤は仰向けに寝そべった。
騎乗位となった雪乃の肉体は、自分で弾む義務などないのに、自ら上下に跳ね回り、快楽を貪っていた。
「殺す! ころ――こっ、ん! んん! ああん! あん!」
コントロールされているのだ。
下から突き上げる腰使いに雪乃の肉体は反応して、意のままに操られ、十分に誘導したところで肉棒は動きを止める。結果として雪乃は自分で弾んでいるのだった。
イったと共に雪乃は倒れ、その乳房を中年の胸に押し当てる形となって、抱擁に迎え入れられ密着し合う。そうして上半身が捕らわれてなお、尻だけは上下に弾み続けて止まらずに、雪乃は自分自身を狂おしく呪っていた。
私が求めてるなんて!
私が――私が――!
自分から動いているなんて!
自分をそのようにした元凶に、そのような憎しみが新たに沸き、それが睨む視線を辛うじて保たせていた。
バック挿入に変わると、自分からは男の顔が見えない状態で貫かれ、腰と尻のぶつかり合う打音がパンパンと鳴り続ける。
パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン!
初めは斉藤だけが動いていた。
腰のくびれを両手で掴み、雪乃のことを逃がさないようにしたピストンで、さらに三回の絶頂を体験させる。
しかし、途中からは棒立ちで、むしろ雪乃の身体が前後していた。
パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン!
同じ音でも、微動だにしない男の腰に対して、雪乃の尻が積極的にぶつかっていき、自分で自分の動きを抑えられない雪乃にとって、自らの肉体が忌まわしい。初めてセックスしている中で加減がわからず、肉棒の長さに対して前に出すぎて、抜けてしまうまで何分間も、雪乃の前後運動は続いていた。
そして、肉棒が抜けてしまったことで、また入れ直してもらえることを体が望み、自分がいかに乱れているのかと自覚しながら仰向けとなり、挿入を求めるサインとして、入れてもらうためにM字開脚のアソコで誘った。
挿入したら殺す顔をしていても、肉棒はあっさりと雪乃の穴に入り込む。
「あん! あぁん! あっ、あぅ――うぁぁ……! あぐっ、んんぁぁあああ!」
何度絶頂を味わったか。とても数える余裕はない。単に物凄い回数をイったことしか理解できずに、実に二時間近くも性交を続けてから、やっとのことでピストン運動の停止する休憩時間が挟まれる。
抜かれるようなわけではなく、根元まで肉の栓がハマったまま、激しさがやんだ分だけ肉棒の存在を意識しやすい。未だにピクっと、血管が脈打っているのが膣壁に伝わって来る。雪乃のアソコは肉棒を握り締めようと、ヒクヒクと力を加え、その強弱によってマッサージまでしているのだった。
「初めてなのにいっぱい気持ちよくなれて嬉しいねぇ?」
もはや当然でしかないように、また胸に斉藤の手が置かれた。
「はぁ……あぁ…………はぁ…………」
激しかった余韻はアソコどころか、気持ちよすぎて痙攣した脚の筋肉にも、つま先にも、真っ白になりかけた脳にまで残っている。それでいて、この肉棒がもう一度ピストン運動を始めるだけで、また同じ激しさに呑まれるのだ。
『……うふふふふふ。最低で、愚かで上手な狼さんね』
耳元で囁く、恐ろしく純粋な、硝子のような悪意の笑い。
その耳に流れ込む声の、あまりにも透明な悪意と凶器に心が引っ掻かれて、雪乃の感じる空気の温度が一気に低下した。
「…………!」
『この何も知らない愚かな狼さんに教えてあげましょう? 自分が、燃え盛る篝火をつついているのだと』
「……」
その亡霊の声を、雪乃はただ黙殺する。
「気持ちよすぎて声もでないかなぁ?」
「……るさい」
どちらに対して言ったのか。
確かに、この男を焼き尽くしてしまえば、犯された復讐心は晴らせるだろう。
そんな自分の心の声と、風乃の言葉を、雪乃は共に黙殺する。自分に言い聞かせる。『話つぃの目指す化け物は、そんな安いものじゃない』、と。
「………………別に」
「初体験でいっぱい気持ちよくなれたねぇ? 嬉しいねぇ?」
「嬉しくないわ」
これだけ精神が堕ちてもおかしくない陵辱の中でさえ、そんな風に返せる自分がこうして残されている。<神の悪夢>の次に憎い、破滅ばかりを囁く亡霊への感情も、雪乃を支え抜いた一つに違いはなかった。
「これからプレゼントをしてあげるよ」
斉藤の腰がまた動く。
「んっ……んぅ……んふぅ……ふあっ、あぅ……ふぁ……あぁ……」
まったりとしたピストンで、先程までの激しさがあるわけじゃない。緩やかな刺激であれ、快楽漬けとなった肉体では、息を荒く乱したような喘ぎぐらいは出してしまう。
プレゼント?
想像がつかなかった。
「ん……ぐっ、は……ぅ…………んぅ………………」
これなら唇を噛み締めて、声を抑えていることは出来そうだった。
こんな奴に気持ちよくさせられている。
憎むべき、忌まわしい事実に身を浸し、雪乃はこうして自分を刻む。
ここまでゆったりしていても、手足が溶けているような、それとも熱に溶かされやすい甘い何かに肉が変質しているような心地良さに支配され、気をつけなければすぐにでもうっとりと目が細くなりそうだ。
中年の老獪な手つきが、ピストンと共に乳房を揉み続け、時折乳首も苛めているのが、心地の良さに拍車をかけた。
「ねえ、このままオジサンのペットになろうよ」
「……っ! ふざけているの?」
口を開けば乱れた息を吐き出しそうで、そのことに顔を顰めた雪乃は、喋ってすぐに唇を引き締めた。
「気持ちいい思いを何度も何度もさせてあげるよ」
「……ひっ、必要ないわ……あっ、さっさと済ませて……ぅ……さっさと……ぁっ、か、帰らせて……もらえないかしら」
「でも、雪乃ちゃんは結局はペットになる」
完全にふざけている。ここまで憎しみを保った雪乃のどこに、心を捧げてペットとやらに成り下がる要素があると思っているのか。雪乃には本気でわからなかった。
「そろそろだ。プレゼントを出してあげる」
「……出す?」
ここまで、雪乃の理解は遅れていた。
快楽に漬け込まれた脳のおかげで、判断の速度が鈍っていたことも、それに性交経験が一度もなく、そういうことに慣れてもいないから、なかなか発想が出なかったのだ。
出すとはもしかして――。
「ま、待ちなさい!」
雪乃は心の底から焦り始めた。
出すとは、精液のことではないか?
そう気づいた雪乃を逃がさないかのように、ピストンのペースが途端に速まり、自分が何をされるかわかっていながら、雪乃には逃げることもどうすることもできなくなる。感じて喘いで睨む以外、あらゆる抵抗の手段が快楽によって潰されていた。
「……あっ、あぅ! ん、んくぅっ、んん、んぁっ、あ!」
みるみる早まるピストンが、その予感を雪乃の中に膨らませる。
そして、とうとうペニスは脈打った。
――ドクン! ドク、ドクン! ドクドク! ビュックン! ビュルルゥゥ!
白濁の熱い汁が、熱気が膣に広がって、おそらくは子宮にも染み込んでいる。肉壷には入りきらない精液は、肉棒と穴の狭間から吹き零れ、その熱さは膣壁全体にも浸透した。
「そんな………………」
膣内射精。妊娠の恐怖。
雪乃の表情には絶望の色が見え隠れして、そんな雪乃を満足そうに眺める斉藤は、実に楽しかったように肉棒を引き抜いた。その開いた穴の中から、肉栓が抜けたことにより、さらにいくらかの量が流れ出し、それがタオルに染みを広げる。
「事後避妊薬があれば赤ちゃんはできないけど、欲しい?」
「…………」
そういうことだったのだ。そうしてこいつは、人をペットにするつもりだ。
「あとね。ここ、隠しカメラがあるから動画もあるよ?」
「…………最低ね」
中年の性犯罪者を本気で軽蔑している雪乃の目など、気にも留めずに雪乃の裸に腕を回して抱き起こす。
そして、斉藤はベッドに乗り上がり、雪乃の目の前で仁王立ちになった。
「で、避妊薬だけど、欲しい?」
眼前にまだ勃起している肉棒を突きつけ、今までまともに目で見ていたわけではなかった雪乃は、初めて見せ付けられて反射的に顔を背ける。
「…………」
黙して、雪乃は斉藤を睨み上げた。
「いらないとは言えないよねぇ?」
「で、欲しかったら何をしろって言い出すわけ?」
「フェラチオだよ」
冗談じゃなかった。
男の手で被害に遭わされ、合意無しに犯されていたのと違い、こちらから奉仕の行動を取るなど考えたくもない。
しかし、雪乃は考える。
受精はしてしまったのだろうか。赤ちゃんが出来るのだろうか。犯罪者の子供を絶対に生みたいとは思わない。だいたい、腹が大きくなったら学校は、それから伯父夫婦にも何をどう話せばいいのか。
何よりも<泡渦>との戦いは……。
ありとあらゆる不安が駆け巡り、こんな男一人のために、雪乃のこれまでのあり方が、音を立てて崩れ落ちていくかのようで、それでなくとも憎い男が、余計に殺してやりたくなった。
本気で震えた。やりきれない怒りが全身の筋肉に伝わって、痙攣のようにピクピクと、プルプルと震えを起こして、握り締めた拳には爪が喰い込む。
歯茎が壊れるほどに歯を食い縛り、かつてないほどの凶眼で斉藤を睨んだ。
「……いつか殺すわ」
本物の殺意。
いずれ本当にこいつの焼死体を作ってやりたい、本気でそう思えてならない、呪いたいし殺したい憎悪の膨らみが、睨んでも睨みきれないほどに視線を鋭く研ぎ澄まし、そんな雪乃の形相さえも、中年はニタニタと見下ろしていた。
「で?」
改めてペニスを突きつけ、雪乃の凶眼はその切っ先に向く。
この男の象徴が、これが雪乃の中に精液を……。
そう思うと、こんな目に遭ったからには自然な感情と言えた。世の全ての男がこんなわけではない。犯罪に走る方が少数だ。理屈的なことがわかっていても、急速に膨らむ心の中では明確に、一つの思いが芽生えていた。
男性そのものへの憎しみと、男を象徴する男性器への殺意。
こんなもの、本気で焼いてしまいたい。
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