目次 次の話




 <泡禍>の原理は<神の悪夢>によって説明される。
 全ての人間の意識の奥底、集合無意識の中に『神』は存在するという。
 この『神』と呼ばれる存在の見た悪夢が上へ上へとせりあがり、やがて人間達の抱える恐怖や悪意、狂気と結びついた時、<泡禍>は起こる。
 それらは往々にして悲劇をもたらしてきた。
 ……しかし――。

 もしも<神の淫夢>が性的衝動と結びついたら?

 神の見た淫らな夢が人間の表層意識と結びつき……。

 かくして<泡禍>は『カエルの王子様』の形を取った。

     *

 夜、自宅の部屋。
 時槻雪乃はピンク色の可愛いパジャマを着て、ベッドで身体を丸めていた。布団の中で横向きになり、太ももの間に手を差し込み、大事な部分を指でひたすら擦っている。
 ――オナニーだ。
 雪乃も年頃の少女である。初潮はとうに来ているし、胸もふんわりと膨らみ、大事なところも発育している。
 健康な女の子であれば性欲を持つのは当然で、だから普通の女子なら異性に興味を持って恋に憧れを持つ。誰か一人、大切に思える相手と結ばれて、肉体的に交わり合いたい。性にまつわる考えは人それぞれにあるが、それがおそらくは一般的な欲求であろう。
 いかに普通を捨て、<泡禍>との戦いに身を投じた雪乃といえど、人間である以上は性欲そのものはどうにもならない。溜めれば溜めるほど衝動は高まってゆき……。
 身体の疼きに耐え切れなくなり、やがてはこうして淫らな遊びにふけってしまう。
「…………ううんっ」
 快感に若干の声が出た。
 戦いに身を置いた存在でありながら、その実、オナニーに夢中になる。雪乃はそんな自分を複雑に思いつつ、それでも欲求を解消するべくズボンを下げた。
 白いショーツに包まれたお尻を出して、雪乃は秘所に手を愛撫する。
 指を三本ほど真っ直ぐにして、それを性器の上に沿え、まるで振動でもさせるかのようなブルブルとした擦り方をした。
 上下に、あるいは回すように擦り続けていく。

 ジワリ……

 女性器の分泌液がほんのりと漏れ始め、ショーツはかすかに湿っぽくなった。
「んっ……んん……あぁ…………」
 しだいに息は乱れ、雪乃の吐息は淫らで色気あるものとなっていた。頬は可愛らしいピンク色に紅潮し、乳房のあたりも疼いてくる。
 秘所への刺激を繰り返す中、雪乃の余った手は自然と胸へと伸び、パジャマの上から揉み始めた。
 ――こんな恥ずかしいことをしているなんて……。
 雪乃は思う。
 普段は気丈に振舞っていながら、一人になればエッチな遊びに身を投じる。断じて人に打ち明けるような事柄ではないが、それでもこんな事が誰かに知れら、一体どう思われてしまうだろう。
 夢中になる反面、自分がイケナイことをしているような気分もする。
 ――いや、これは必要なことをしているだけだ。
 溜め込んでばかりでは逆に不健康で、自分の肉体に性衝動が蓄積されていくのも、それはそれで何かと不安がある。こうして一人でエッチなことをするのも、確かに胸を張ることではないが、実際のところ健康な証拠だ。
 自分にそう言い聞かせて、雪乃は胸と秘所への愛撫を続ける。
「どうせ、このままじゃ眠れない……」
 雪乃はやや思い切って身体を起こし、ベッドの横に足を下ろし、座った姿勢になる。
 パジャマのボタンに手をかけて、ゆっくりと前をはだけていった。

 はらり、

 全てのボタンが外れたパジャマは肩からずり落ち、上半身の素肌をほとんど晒す。純白のブラジャーで胸を包んだ、雪のように白い肉体があらわとなった。
 さらに雪乃は背中に手を回し、ホックを外す。カップをぱかりと外し、生のオッパイを丸出しにした。
 雪乃の乳は美乳だ。
 お椀を逆さにしたような、ほんの少し手に余る大きさにそびえている。丸みを描くカーブは滑らかで、色白の素肌に乗ったピンク色の乳首もしゃぶりつきたくなるほど可愛らしい。
 雪乃は自分のオッパイに両手の平を乗せ、揉み始めた。
「………………」
 雪乃は静かに性感に集中し、胸への刺激を楽しむ。
 グニョグニョと指を踊らせると、乳房は実に柔らかな変形を繰り返す。食い込んだ指にこねられ、潰れ、すぐに乳首も固くなる。
 次に立った乳首を摘み、優しくつねった。
「んん……」
 摘んでクリクリと刺激していると、淫らな声が漏れてしまう。
 ショーツの中に手を入れて、秘所を直接愛撫した。
「あぁっ……いい……」
 具合のいい触り方を探りながら、貝の表面に指の腹を回していく。湿り気はみるみるうちに濃くなってゆき、やがては愛液の水音がクチュクチュ鳴り始めた。
 充分に濡れてきたところで、膣の中に少しだけ指を挿入する。処女だから奥までは入れなずに、人差し指の第一関節までだけでピストンして、快楽を堪能した。
「あっ……あぁ…………」
 気持ちよさのあまり、小さな喘ぎ声が漏れてしまう。
 雪乃は歯を食いしばり、声が出過ぎないようにして胸と秘所への愛撫を続ける。
「はぁ……はぁ……」
 満足いくころには、雪乃の目はすっかり熱にとろけており、雪乃らしからぬ顔の染まった表情となっていた。息はいやらしく乱れ、頬は薄紅色に染まり、口元からはほんのりとよだれが垂れている。人には決して見せられない姿だ。
 だから気を遣ってか、風乃はこういう時には決して出てこない。
 それが二人のあいだの暗黙の了解だ。
 雪乃は濡れた秘所をティッシュで拭き、始末をつけてから眠りに落ちるのだった。

     *

 その晩を過ぎた翌日、泡禍の前触れがあった。
 夏木夢見子の持つ<断章>、<グランニギョルの索引ひき>から一つの童話の名があがったのだ。

 ――カエルの王子様……。

 恒例の神狩屋の薀蓄と、それを真面目に聞く蒼衣のやり取りを聞いた限り、それは少女の性への目覚めを暗示しているらしい。
 どこかで<泡>の気配が拾えないかと見回りに出るも、その日は特に収穫はなく、ほどなくして雪乃は帰路についた。
 そんなパトロールを数日繰り返すも、一向に当たりは出ない。
 どこかに獲物がいるはずなのに、その姿を全く見ることに出来ない焦燥感に苛々する。毎日ではないが、雪乃はしきりにオナニーで気を晴らしていた。
 ある時はセーラー服のままスカートを脱ぎ、ショーツを丸出しにした状態で椅子に座り、伝道はブラシを股に挟み込んだ。その振動から来る快楽を秘所で味わい、机に身を預けて股を引き締めながら身悶えした。
 ある時は浴室でシャワーを当ててオナニーした。M字開脚で座り込み、好みの威力を秘所に当てて、刺激を味わった。さらにお尻の穴を良く洗い、石鹸ですべりを良くしてから指を入れた。そのままでは入りにくいが、石鹸の泡を塗った指なら意外とすんなり入る。肛門に指を出し入れし、直腸を出入りする感触を味わった。
 ある時は鉛筆の丸い部分を擦り付けたり、机の角を使ってオナニーをした。こんなにいやらしい自分をひどく複雑に思いながらも、やはり三大欲求の一つを晴らさずにはいられず、机の角に向けてほどよい腰振りをした。

 そんな日々の果て、その日も収穫はなく……。

 その夕暮れの中、喉の渇きを癒そうと自動販売機を見つけ、小銭を入れようとした。しかし誤まって指をすべらせ、小銭を落としてしまった。百円玉は自販機の隙間へ転がって、雪乃はため息をついた。
「まったく、近頃はついてないわね」
 泡禍を発見できないことといい、今といい、一体何なのだろう。
 雪乃が不機嫌に頬を強張らせたとき、

「あのっ、私が拾ってあげます!」

 元気な女の子の声がかかってきて、雪乃は振り向いた。そこにいたのは雪乃と同じ学校の制服を着た少女だが、名前はわからない。そもそもクラスメイトになど何の興味もないので、同じクラスなのかどうかもわからない。
「別にいいわよ」
 雪乃は冷たくあしらうが、女の子は構わず地べたに顔をべったりつけ、自販機の隙間に手を伸ばす。好意を拒む隙もなく、彼女は小銭を拾ってしまった。
「はい! どうぞ」
 雪乃は小銭を受け取りつつ、やや彼女をいぶかしんだ。
「恩でも着せたつもり?」
 普通の人なら、ここで引くところだろう。感じの悪さに反感を持ち、もう二度と雪乃には好意を見せないかもしれない。雪乃自身、半ばそれを狙って拒絶の意志を示していた。
 しかし、
「そうです!」
 と、恩の押し売りを肯定されてしまった。
「随分やかましいわね、あなた」
 雪乃は今度こそ自販機に小銭を入れ、缶ジュースのボタンを押す。
「んまあ、良く言われますけど気にしたことは一度もありません! ところで、せっかく恩を着せたんだから友達になってくれますよね?」
「ふざけているの?」
 雪乃は缶ジュースを取り出し、それを彼女へ投げ渡した。
「あれ? 飲まないんですか?」
「恩はそれでチャラよ。友達なんていらないから」
 雪乃はそうして彼女を振り切り、さっさと帰る事にした。
 何が友達になってくれますよね、だ。
 泡禍と戦う騎士となり、とっくに普通の幸せを捨てた身だ。今頃になってそんなものは必要なく、ただ鬱陶しいだけである。
「本当に、近頃は最悪ね」
 毒を吐きながら、雪乃家に着いた。



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