ヴィヴィアンと汚いオッサン




「さて、ヴィヴィアン殿」
金髪剣士の名を呼ぶのは一人の魔女。
 少年の弟子を従え、三角帽子を被った彼女の名はホルボーンという。
 村の辺境にあるガーディアンストーンが血によって穢れたことをホルボーンは、古戦場遺跡にあるダーククリスタルを手に入れれば、その穢れを払うことができると語った。
 ガーディアンストーンは村に魔物が侵入することを防ぐ守りの石。
 力が失われている限り、村は平和でなくなってしまう。
 これを引き受けたヴィヴィアンが、見事にダーククリスタルを持ち帰り、ホルボーンへと手渡したまでは良かったのだ。
 しかし、油断していたのかもしれない。
 あるいはホルボーンも、ヴィヴィアンの技を始めから警戒して、利用する算段を立てていたのだろう。ヴィヴィアンがホルボーンを味方と思い込み、事態が解決して一安心の、ホっと気を緩む一瞬を逃すつもりなどなかったのか。
 いずれにせよ、ヴィヴィアンはホルボーンに呪縛をかけられた。
「まさに魔術師を殺めるために編み出されたような技」
 その瞬間、ヴィヴィアンは動けなくなっていた。
 光のリングをいくつも並べ、あたかも人を閉じ込めるほど大きなバネをかけてしまったように、その内側にあるヴィヴィアンの肉体は身じろぎ一つ許されない。
「素性を隠さなくても結構。お前の正体はわかっている」
 そして、ホルボーンは言うのだ。

「ルーンワーデンよ」

「……くっ」
 ヴィヴィアンは歯噛みするしかない。
「お前には今まで、いったい何人の魔術師が殺され、あるいは何人の魔術師がお前を殺すのに失敗してきたことか。そんなことは私にはどうでもいいのだ」
 ホルボーンの別に誰かの恨みや無念を晴らそうというわけではない、ただただヴィヴィアンの手で何人が死んだことかと、気まぐれに口にしてみているだけの、それ以上でもそれ以下でもない口ぶりから、決して今まで殺された魔術師が理由ではないとわかった。
 だが、ホルボーンはさらなる魔術をかけてきた。

「あぁっ! くっ!」

 ヴィヴィアンの悲鳴。
 それは呪縛だった。
「……ふん」
 もう拘束している必要がなくなってか、束縛の光はすぅっと消え去り、やっと動けるようになったヴィヴィアンの身体は、真っ先に膝をついていた。
 呪いをかけたのだ。
 もしもホルボーンに逆らおうとすれば、一瞬にしてヴィヴィアンの命を奪う。断るという選択肢を初めから剥奪して、いかなる要求も飲み込ませ、従わせるにはこれ以上向いている術はないはずだった。
 当然のように取引を持ちかけられた。
 探して欲しいものがある。それを持ち帰れば呪いを解き、今後一切ヴィヴィアンには関わらない。元の生活に戻れることを約束する。報酬さえ出すという。
 その上で問われれば、受け入れるしかない。
「どうだ? 取引するか」
 圧倒的に優位な立場から降りかかるホルボーンの言葉。
「私に選択肢はなさそうだな。お前の言う通りにしよう」
 そんな答えを出すしかなかった。
 そうに決まっていた。
 生殺与奪を握られてはどうにもならない。おまけにアカデミーから懸賞金がかけられていること、生死は問わないことまで持ち出されては、ただでさえ弱い立場でえ、余計に反抗できなくなる。
「さすがは傭兵。ものわかりがいい」
 ホルボーンの表情はおぞましかった。
 一言、邪悪。
 己の計略通りにことが運んで、優位な立場で言うことを聞かせ、それが嬉しくてたまらない。これ以上ないほどに黒い笑みが、ホルボーンの頬を歪めていた。
「だが、その前に。少々教育しておきたいな。何、悪いようにはしない。自分の立場は十分にわかっているだろうが、より一層のことわかってもらうため、少しばかり仕事をしてもらう」
「何をさせるつもりだ?」
「男の相手だ」
「……なッ!?」
 ヴィヴィアンは驚愕と共に顔を上げ、その黒く歪んだ笑顔を見た。優位に立って人を従わせることに、味を占めでもしたわけか。どういうわけか。ますます頬は吊り上がり、邪悪極まりなくなっていた。
「もちろん、相手となる男にお前の素性は言わん。秘密は守る。だが、呪縛で言うことを聞かせていること、教育しておきたいことだけは伝えることになるだろうな」
「…………」
 ヴィヴィアン自身にはどうにもならない、変えようのない運命が、ホルボーンの手で決められていく。
 冗談ではなかった。
 男の相手が仕事など、娼婦の真似事など真っ平だ。
 たった今にでも、ヴィヴィアンは辱めを受けた気持ちに顔を歪めて、ぎゅっと拳を握り締める。
「心配するな。一回きりだ」
「……ああ、そうしてくれ」
 一回。
 それがせめてもの救いか。
「結構上手いそうだ。せいぜい楽しむといい」
「…………」
 楽しめるものか。
 ヴィヴィアンは内心で歯噛みして、目の前の魔女を斬り伏せてしまえればと思いを抱くが、出来ないものは出来ないのだ。
 言う通りにするしかない。
 マシな男であることを、願っておくしかなかった。

     †

 ベッドの部屋で、相手を待ち――。
 
 客となる男は醜かった。
「なッ!?」
 ゾっとして驚くほど醜悪な、浅黒い肌の肥満の男は、正直に言って魔物の亜人種と見間違える風貌である。
 骨格の作りを疑うほどの垂れ目はいやらしく、ヴィヴィアンの肉体をいかにもそういう気持ちで眺めている。乳房や下腹部に視線を寄越されているだけで、ねっとりとした気色の悪い液体でも塗りつけられている心地がする。
 鼻が異常に反り返り、ブタでしかない。
 唇が分厚く、脂っこい光沢で汚く見える。
 吹き出物でいっぱいの肌は、まんべんなく凹凸にまみれている。
「はぁっ、はあっ、び、美人だね? 綺麗だね? ヴィヴィアンたんっていうんだっけ? 可愛いね?」
 気持ちの悪さは見た目だけでは済みそうにない。
 明らかに興奮しきった犬のような呼吸に、下劣な妄想がありありと窺える目つきに態度。ここまで気色悪い男を見て、生理的に拒否反応を起こさずにいられる女が、果たしてこの世にいるのだろうか。

 ――これの相手をするだと?

 運命が忌まわしかった。
「そ、それにしても、え、え、エッチな格好だよねぇ?」
「…………」
「む、むむむ胸はほぼ下着だしっ、ず、ズボンも内股を切り取ってパンツ丸出しで、これじゃあ痴女と言われても仕方がないよねぇ?」
 緊張なのか、声を震わせ、どもらせる。
 女とまともに喋れないのか、人との交流自体が苦手なのか。お喋りに不慣れで、接し方も不器用なのがひしひし伝わり、そして卑猥なトークでヴィヴィアンに接しようとしてきている。
 ホルボーンを信じるなら、この男はヴィヴィアンの秘密を知らない。
 従わなければいけない立場と、これが反抗しようと思う気持ちを良くしするため、つまりは自分の状況について思い知らせるための行為であることだけを、この男は知っているはず。
「き、き、キスしよっか」
 どこか恐れつつありながら、どんな要求でもできるはずの立場の男は、本当にヴィヴィアンと性交できるのか、何でも言うことを聞かせても構わないのか、緊張混じりに迫って来る。
「…………」
 ヴィヴィアンは思わず顔を背けていた。
 ただでさえ汚い唇から、覗けて見えた歯が黄ばんでいた。口の臭そうな男とキスなど、嫌悪感しか湧きはしない。
「あ、あああ、あれ? いいんだよねぇ? あ、あのっ、何でも言うことを聞くんだよね?」
 男はビビっていた。
 自分は何かを間違えたのか、聞いていた話と違いはしないか。
 このままヴィヴィアンが牙を剥き、威圧的な態度で迫れば、こいつは必ず萎縮する。強い目つきで睨みつけ、チンピラのように恫喝すれば、たちまちヴィヴィアンには刃向かえなくなるだろう。
 しかし、それもまずい。
 心臓に直接かかった呪縛を思えば、キスを拒んだせいで殺されないとも限らない。
「……ふん。すればいい」
 嫌だ。したくない。
 だが、しなければ……。
「うひっ、うひひひひひひひ!」
 その瞬間、急に人格を入れ替えて、中身が別人になったのかと思うほど、男の表情は豹変していた。
「そっかぁ! 本当なんだね! 何してもいいんだね! 何でも言うことを聞くんだね!」
「…………っ!?」
 それはおぞましい欲望の表れだった。
「ほらほら、こっちを向いて? ほらほらほらほら!」
 男はヴィヴィアンの顎に触れ、背けた顔を自分に向かせ、迷いなく遠慮なく、先ほどまでの縮まった態度からは想像できないほど大胆に、醜い唇を近づけていた。
「――んっ!?」
 ヴィヴィアンは本気で顔を顰めた。

 醜男に唇を奪われ、貪られ、おぞましさに本気で震えた。

 ねばっこい粘液をまとった唇に、ヴィヴィアンの唇が喰われている。不快な柔らかさが押しつけられ、ベタベタとした唾液に汚れ、舌が口内への侵入を試みる。
 きつすぎる異臭が口腔を侵食した。
 嫌に濃厚な味のする醜男の舌が、ヴィヴィアンの唇をベロベロと、前歯をねっとりと舐め込んで、奥へ向かって絡みつかせる。
 肩に両手が置かれていた。
 こんなキスの距離に迫られ、ヴィヴィアンの乳房に醜男の胸が押しつけられている。脂肪によって膨らみ、たるみ、おっぱいの出来損ないでしかない脂肪袋が、毛穴から脂分を噴き出しながら、乳房と密着しているのだ。
 丸く膨らみ大きな腹も、ヴィヴィアンの腹に当たっている。
 全身の細胞が蝕まれ、みるみるうちに腐食が広がってくるような、自分の身体がやがて腐敗物に変わっていきそうな悪寒に晒され、背中全体に寒気が走る。
(い、嫌だ……! 無理だ……!)
 つい、押しのけようとする手を醜男に当てていた。
 本当なら、思いっきり押しのけて、突き飛ばし、直ちに剣さえ抜くところだ。
 ホルボーンの呪縛が、そんなヴィヴィアンの反射的な行動に歯止めをかけ、だから本当に突き飛ばすことはできずにいた。
「へへへえっ、初めてキスしちゃった」
 とっくに四十代は超えているだろうに、ファーストキスであることを告白しながら、醜男は乳房を揉んだ。
(本当に……こんなのに体を許しているのか……私は…………)
 醜男の五指が押し込まれ、乳房が潰れる。力を抜けば、ヴィヴィアンの乳房は弾力によって弾き返す。それが面白くてか、醜男は楽しい遊びを見つけたように揉み潰し、力を抜き、指が押し返されてしまうほどの弾性を堪能していた。
 しだいに腰をまさぐって、腹筋を撫で回す。
 ベッドへと押し倒し、飽きずに胸を揉みしだき、アソコにも手を伸ばして布越しの愛撫を始めた。
「うっ……くっ…………」
 ヴィヴィアンにとって、それは汚物を塗りたくられているような、身体が不潔な異臭にまぶされていく汚辱感でいっぱいだった。不快や嫌悪の心から、顔中の表面が汗ばんでいき、歪んだ顔や目つきで耐え忍ぶ。
「うへっ、えひひひっ、ふひぃぃぃぃ……!」
 ブラジャーでしかない胸の衣類をずり上げて、片手で乳首をつまんで転がしながら、もう片方の乳には吸いついた。
「ううっ! うぅ……!」
 完全に、汚いものが付着してきた引き攣った反応だった。
 世にもおぞましい顔立ちの男が、自分の乳房をしゃぶっている。ベロベロと唾液を塗りつけ、甘噛みで刺激してくる。
「ねぇ、ねえねえヴィヴィアンたんは、こういう経験あるのぉ?」
「……初めてだ」
「そっかぁ! 僕がヴィヴィアンたんの初めて貰えるんだぁ!」
 これほど醜い中年に、子供のような無邪気な喜び方は似合わない。鼓膜に粘液が張ってくるような、嫌にねっとりとした声質は、怖気が走るものでしかなかった。
「ヴィヴィアンたんのオマンコはいけーん!」
 醜男はヴィヴィアンのショーツをずらし、未経験の性器のワレメが曝け出された。
「あ、あまり見るな……」
 じっくりと凝視しようと顔が近づき、至近距離で視線を浴びて、さすがの羞恥に顔が赤らむ。
「だめだめ、見てあげるんだから」
 醜男は親指で性器を開き、桃色の肉ヒダさえもあらわにされ、より大きな羞恥と屈辱にヴィヴィアンは苛まれる。
「へえ? これが処女穴かぁ!」
 おもむろに指を突っ込み、やけに女を知った指使いでピストンの刺激を行う。中指一本の出入りが膣壁をうねらせて、おぞましいばかりのはずの醜男の手で、少しずつ快感が芽生えていく。
「ぬっ、くぅ……!」
 身じろぎしながら喘ぐヴィヴィアンは、ホルボーンにかけられた魔術とその効力を思い出す。

『感じやすくしておいてやる』

 さも恩でも売るように、ホルボーンは言ったのだ。
 この部屋で男を待つよう言われ、相手の到着まで待機する時、思いついたように事前に魔術をかけ始め、ホルボーンの魔力はヴィヴィアンの肉体に浸透した。

『初めてが苦痛とあっては可哀想だからな。男の方にも術をかけ、技量を与えておいてやる』

 つまりヴィヴィアンには感度上昇の魔術が、醜男の方には性技上昇の魔術がかけられ、中年童貞には似つかわしくない、およそありえないはずのテクニックを醜男は発揮している。
「気持ちよさそうだぁぁ……! ヴィヴィアンたんは僕の指で感じてくれてるんだねぇ?」
「だ、誰が……!」
「だってほら、こんなにヌルヌルで、反応もしちゃってるんだもん」
 中指のピストンが早まった、
「――ぬっ、うっ、んっ、うんっ、んんっ、んっ、ぬっ」
 耐えんばかりに、ヴィヴィアンたんは唇を丸め込み、いかにも我慢している表情で醜男を睨み返した。
「気持ちいい? 気持ちいいよねぇ?」
「――うっ、ううっ、んっ、んっ」
 違う。魔術のせいだ。
 ホルボーンの力さえなければ、何も感じなどするものか。
「気持ちよさそうだねぇ?」
「ちっ、ちが――」
 アソコの快感を堪えきれない。
 歯を食い縛り、ぐっと顎に力を入れ、どうにか喘ぎ声を抑え込んでいるヴィヴィアンは、それでも髪を左右に振り乱す。腕でよがってベッドシーツ鷲掴みに、悩ましげな色を目に浮かべる。
 気持ち良くなっているのは、どこのどんな人間から見ても、隠しようがないだろう。

 ニタァァァァァ……!

 と、醜男はいい気になっていた。
 自分がヴィヴィアンを気持ち良くしているのだと、心の底から勝ち誇った笑みで頬と唇を歪めていた。

「挿入しよっか。ねえ、ヴィヴィアンたんも欲しいでしょう? おちんちん」
「ほ、欲しいものか……そんなもの……」
「僕さ、生まれて初めてセックスするけど、ヴィヴィアンたんみたいな美人が初めてで嬉しいよ。気持ち良くしてあげるからね」
 まるで話など聞いていない。
 自分のことしか頭にない醜男は、おもむろに下着を脱ぎ捨て、とっくの昔から勃起している逸物の蒸れを解き放つ。
 パンツに閉じ込められていた熱気がむわりと漂い、アソコを包んで来る心地は、質感の異なる奇妙な大気に撫でられているようなものだった。
「さあ、ヴィヴィアンたん」
 切っ先が、ワレメに触れる。
 この瞬間、ヴィヴィアンは腹を括った。

 ずにゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――――。

 ついに肉棒が侵入してきた。
「ぬっ、ぐぅぅぅ――!」
 太い剛直の感触が押し込まれ、切っ先がヴィヴィアンの体内へと突き進む。根元までがぴったりと収まって、醜男はますます微笑み、その表情に黒い歪みを増していた。
 笑顔の邪悪さだけで人間をやめようとしているほど、おぞましく不快な顔つきだった。
「どう? ヴィヴィアンたんの中に僕のおちんちんが入ったよ」
「……ふん。大したことはない」
 本当は最悪だった。
 女として、これ以上の災厄があるのだろうか。
「僕は嬉しいよぉ? ヴィヴィアンたんのオマンコぉぉ……!」
 下劣極まりなく歪む唇から、舌なめずりをする猛獣のようにヨダレを垂らす。ぽたりぽたりと、それは乳房の上に垂れてきて、ぬかるみを帯びた液体の不快な感触に身じろぎした。
「ひひひっ、ひひひぇ……!」
 不気味ですらある笑い声を上げながら、醜男は両手で胸を揉みしだく。
 そのまま、動き始めた。
「――っ! んっ、ん! ん! んっ、んっぐっ、ぬっ、ふぐっ、ん、んがっ、あっ、ん! ん! ん!」
 苦しそうな声で身じろぎして、首でよがって金髪を振り広げる。
 決して、苦しいのではなかった。
 快感だった。
「やっ、あ! あ! ん! ん! ん! んっ、んあ!」
 そして、屈辱だった。
 ホルボーンの術さえなければ、きっと感じるはずはない。ヴィヴィアンが喘いでいるのも、醜男自身の技量とは関係がない。そうであっても、その指で、その肉棒でヴィヴィアンが感じる以上、醜男は極上の気分に浸るのだ。
「どう? どう?」
 大いに楽しむ醜男は、ヴィヴィアンの手首を押さえつけ、体重任せに抵抗を封じていた。
「んっ、あ! くっ、こんな――どうとも――!」
 乳房が上下に揺れていた。
 裸のまま小さくジャンプを繰り返しているように、ピストンの衝撃が胸まで伝わり、ブルブルと大胆に弾んでいる。弾力と張りの強さで、すぐさま元の形に戻ろうとするものが、絶え間なく与えられる衝撃で延々と揺らされ続けた。
「んっ、んっぐっ、ぬっ、ふぐっ!」
 頭が痺れ、快感に染まっていく。
 両足もよがり、ピストンで足首が反り返る。

 やがてヴィヴィアンは絶頂した。

 手首も、足首も、全身にかけての筋肉がブルりと震え、肉棒の出入りしていたアソコで何かが弾けた。そんな見えない破裂の感覚と共に、ヴィヴィアンは頭を真っ白にして放心した。
「はぁ……はぁ………………」
 疲弊しきった息づかいで、それから少しずつ意識を取り返す。
「イったね? ヴィヴィアンたん」
「ふん」
「もっとしたいね? 四つん這いになろうか」
「したいには、お前の方だろう……」
 そう言いながらも、ヴィヴィアンは仰向けから背中を返し、ベッドシーツに両手を突き、言われるままのポーズを取ってしまう。

 ――ホルボーンめ……。

 調子づく醜男に対しても、恨めしい気持ちでありながら、敏感になった尻が醸し出すメスの香りは明らかに男を誘っている。散々に喘いだ証拠の蜜が、内股まで濡らしている。
「エッチなお尻だねぇ? プリプリのむっちりだ」
 醜男の手が、尻たぶに乗せられた。
 可愛がる手つきですりすりと、味わうようにじっくりと、醜男は尻を撫で回す。
「す、するなら早くしろっ」
 こんな時間、一秒でも早く過ぎ去って欲しい。
 いや、気持ち良くなりたい。

 くっ、魔術のせいだ。

 あれだけの快楽が生まれたセックスに、体の方が来たいをしている。挿入を待ち侘びて、尻の方では肉棒を今か今かと待っている。いつでも入って来て欲しいと、アソコの穴がヒクついている。
「うひひっ、シてあげるね」
 醜男はヴィヴィアンの腰を両手に捕らえ、宛がった肉棒を一気に突き込み、すぐにでもピストンを開始した。

 ぱんっ、ぱっ、ぱん! ぱん! ぱつっ、ぱつん!

 尻から良い打音が鳴り渡り、たっぷりと愛液をまとった肉棒が、ピストンによって見え隠れを繰り返す。
 乳が揺れていた。
 姿勢によって、真下に向かって垂れ下がった豊満な乳房が、今度はバックからの勢いで前後に揺られて動いている。
「あっ! ん! ん! なっ、んあ! あっ、ああっ!」
 何とか歯を食い縛っているヴィヴィアンが、それでも甘い声を漏らして鳴いていた。首が反り返り、突いた両手の肘が折れ、頭がベッドシーツに埋もれていく。
「うひっ! ぶひひひっ! 気持ちいいなぁ! あ、アナルがヒクヒク動いてるよ? 可愛いねぇ? 可愛いねぇ?」
 醜男は大喜びで腰を振り、肛門に指を押し当てグニグニと揉んでいじくる。
 さらに――。

 ぺちん!

 尻を叩いた。
 肛門をほじくりつつ、もう片方の手でペチペチと、ニヤニヤと尻を叩いて虐め始めた。

 ぺちん! ぺちっ、ぺち! ぺん! ぺっ、ぺちっ、ぺちん!

 片側ばかりだけでなく、肛門弄りを一度やめ、もう片方の尻たぶでもペチペチと叩いて遊ぶ。
「ヴィヴィアンたんで遊ぶのは楽しいなぁ!」
「あっ、遊ぶって――あっ、あ! あん! あっ、くっ、んぁ――」
 完全に玩具として扱われていた。
 喘ぐ穴として思うようにピストンして、尻まで叩いて楽しむなど、まるでこんな程度の低い男に支配されてしまっているような、泣けてくる思いにヴィヴィアンは歯噛みする。
「あっ、あ! あ! あん! あぁっ、あ! あぅっ、んん! あっ、んああ! んあ! んあ! あっ、あぐっ!」
 こんな男のために乱れている。
 途方もない快感が、頭が真っ白にしようと押し寄せる。ほんの少しでも油断をすれば、今にも何も考えられず、自分がただひたすらに喘ぐだけの存在になり果てそうな、どうしようもない気持ち良さに飲み込まれ、抗うことなどできなかった。
 確かに屈辱だった。
 中身にかけても最低な男に、ここまでいいように喘がされ、しかもホルボーンの術のおかげということなど忘れている。自分の力でヴィヴィアンをここまで乱していると思い込み、抗おうにも快楽のあまりに何もできない。
 もしも剣を握って醜男を殺そうと思っても、こうして挿入されたまま、ピストンされながらの状況では、ヴィヴィアンはまともに振り回すことさえできないだろう。
 いつしか、頭は真っ白になっていた。
 理性を保つことが出来なかった。
「あぁぁあ! あ! ああ!」
「まだいけるね? まだまだいけるね?」
「い、いけるっ! まだ――いっ、いくらでも! おぉぉ!」
 いつの間にか体位が変わり、騎乗位となってヴィヴィアンが自ら快楽を貪っていた。
 乳が上下に暴れ回って、醜男は仰向けのまま景色を楽しむ。
 尻が、胸が、顔が、いたるところが精液に濡れていた。いつどの時に射精され、かけられたのか、ヴィヴィアンにはわかっていない。醜男がこうもたくさんの精液を出したこと自体、心が快楽に囚われるあまり、気づいていない。
 完全に堕ちていた。
 感度上昇の魔力に、そして醜男の技量上昇の術に、何らの抵抗もできないままに、ヴィヴィアンは喘ぎ続けた。セックスが気持ちいいことしか頭になく、体位を変えろと言われれば、その言葉を辛うじて理解できる意外、夢中で夢中で周りの何にも気づかない。
 一日中、セックスをした。
 セックスに疲れ、同じベッドで眠りにつくまで、二人のまぐわいは飽きることなく続いていた。

 それから……。

 …………
 ……

 ――昨日の私は、私でなくなっていた。

 自分がいかに喘ぎ散らして、無様に絶頂を晒していたか。醜男なぞに散々に遊び尽くされ、気づけば彼の腕に抱かれたまま、眠りにまでついていたのか。
 快楽に堕ちた自分を思い出し、翌朝のヴィヴィアンは頭を抱えていた。
 途方もない快感を与えられ、甚振られれば、自分はあのようにされてしまう。夜中に眠り、朝に目覚めるまでの時間を置いたから、あのセックスに夢中でならない自分自身を振り返り、どれだけ乱れた姿をさらしていたかに気づいていた。
 そしてまた、ああなるかもしれない。
 しばらくすれば醜男も起きて、朝から再びセックスを始めたからだ。
「昨日みたいに楽しもうねぇ?」
 醜男はぬっぷりと肉棒を差し込んで、正常位のままにヴィヴィアンの顔を見下ろし、悦に浸って腰を振る。
 緩やかなものだった。
 いつでも好きに乱れさせてやれることの愉悦を知り、実に余裕を身って人を見下す。そんな醜男の肉棒が、ぬるりと下がって抜けていき、ピストンにおって一気に奥まで貫いてくる。
「――あっ」
 と、その時は軽く声が出てしまう。
 しかし、貫いた後は一度止まって、ゆっくりと息を落ち着け、何秒かの時間を待ってから、再び後退を始めている。
「元気なものだな。あれだけの量を出しただろうに」
 悔しいが、気持ち良かった。
 無理のないペースでゆっくりと、緩やかに動く刺激も、喘ぎ疲れることなく静かに感じていられるらしかった。
「ぶっひひひひひひっ、ずっと童貞だったからかな? 初めてあんなに気持ち良くなれたおかげで、僕のおちんちんはとっても活発になっているんだ。ヴィヴィアンたんのおかげだよ」
 いい気な顔で胸を揉み、軽やかに五指を押し込む。
「そんなことを褒められても困るだけだな」
 醜男から顔を背けて、壁でも眺めて黙していると、耳の穴に舌を押し込み舐めてくる。唾液のぬかるみが広げられ、濡れてしまった皮膚が空気にふれてひんやりする。
「んっ、んぅ……! んっ、あっ、あ……あ……あぁ……」
 じっと、静かに喘いでいた。
 緩やかな出入りによって、肉棒の熱気にアソコが溶け堕ちていくような快感の、肉体を蝕む甘ったるさに身を委ねていた。

 ――くそっ、こんな奴とのセックスに浸るとは……。

 いいようにされ、まんまと気持ち良くされていることの屈辱を、心のどこかで思い出し、思い出したように顔を顰めていきながら、頬を強ばらせていきながら、それでもヴィヴィアンは浸っていた。
 その時だった。

「いい姿になったな。ルーンワーデン」
「ホルボーン……!」
 
 ヴィヴィアンをこんな目に遭わせた元凶が、無遠慮にドアを開いて踏み込んで、人の犯される有様を高みの見物とばかりに眺めていた。
「これで余計な企みをする気持ちもなくなるだろう」
「……はじめから選択肢などないだろう」
「そうだがな。心まで従属させるには、こういう手は効くだろう」
「ふん。どうだろうな――んぅぅ……あっ、ぬぁ……!」
 乳首を指で攻め抜かれ、甘い痺れが弾けて広がる。脳に電流が走ったように、頭が快感に囚われて、自分がまた昨日のように堕ちる想像がよぎって唇を噛み締める。
「いい眺めだ。そうだな、体位を変えてくれないか? 結合部をよく見せてもらいたい」
 ホルボーンが醜男に言った。
「だってさぁ、ヴィヴィアンたん。ちょっと変わろうか。うん、背面座位がいいよねぇ?」
 体位を変えるため、醜男は一旦引き抜く。
「あ……」
 そうして抜かれてしまった肉棒が、アソコの穴に洞窟のような空洞を残したようで、急に膣内が寂しくなる。
「ぐっ」
 肉棒と離れることが寂しいなど、そんな気持ちにさせられての、自分を戒めたい思いにヴィヴィアンはかられていた。
「よいしょっと」
 醜男はベッドの横から足を下ろして、ベンチ代わりのように座ってから、ヴィヴィアンには肉棒の上に座るようにと言ってくる。
「…………」
 ヴィヴィアンはベッドを降り、そして腰をくの字に折り曲げながら、股元にある肉棒を自らの入り口に導く。膣口が亀頭を捕らえ、あとは座れば根元まで埋まってくる。
 急に感じた膣内の寂しさが埋められる。
「うっ、ぐぅ……んぅ……んぅぅぅ…………」
 ヴィヴィアンは座り込み、背面座位で繋がった。
 脂肪によってたるんだ腹と、垂れ落ちた胸の感触が、ヴィヴィアンの背中に密着する。醜男がヴィヴィアンの足を持ち上げて、M字の形が作られれば、それはもう見せびらかすための結合となっていた。
 大きくM字に広がった足の、その中央で、穴に肉棒が刺さっているのがよく見える。
「はしたないな。汁を垂らして、気持ちよさそうな顔までして、その男がそんなにいいか」
「……冗談を言うな」
「なら一つ賭けをするか」
 何かの悪巧みでも思いついたかのように、ホルボーンは嫌みたらしく唇を歪めて微笑む。
 目が、完全に人を見下していた。
「賭けだと?」
「十分でいい。絶頂を堪えてみろ。我慢できれば呪縛を解く」
「ほう? ありがたいな」
 二人が、対峙していた。
 まるで決闘が始まる直前のような、命のやりとりを前にした緊張感にも近い空気は、荒野か草原あたりで向かい合っていたのなら、きっと絵になっただろう。
 しかし、結合しているのだ。M字開脚なのだ。
 逆らえない立場だからそうしているだけとはいえ、ヴィヴィアンの左右に開ききった脚から、肉棒を深く咥えたワレメが見えている。二人の会話が終わるまでの退屈しのぎか、醜男は手慰みに乳を揉み、耳の裏側にべったりと唾液を塗って遊んでいる。
 丸々とした豊満な乳房の、皮膚の表面をじっくりと優しく撫でる手つきが両胸ともに這い回り、乳首や乳輪をくすぐりもしている。その刺激に少なからず身じろぎして、熱い吐息を漏らしている。
 埋まったまま、まだピストンの始まらない肉棒に意識がいき、快感を待ち侘びる肉体がついつい動く。少しだけ、ほんの一センチか二センチだけ腰が浮き、それを落として、まだセックスが始まらない寂しさと待ち遠しさを、本当の本当に小刻みでさりげない上下運動で誤魔化している。
 とても対等には見えない、だからホルボーンも優位の立場から見下ろしている、そんな対峙であった。
「イった場合は、そいつに奉仕しろ。フェラやパイズリをたっぷりとしてやるんだ。どうせ何度も交わって、全身に精液を浴びた身だ。負けたところで、今更気にするような条件でもあるまい」
「そ、そうだな……んっ……。ホルボーン。あっ……ふっ……お、お前が約束を守るようなら……あっ、あぅ…………ふはぁ……。面倒な捜し物をすることもなく、この場で解放されるというわけだ――あっ、んっ、ん……ん……んぅ」
 喘ぎ声というほどでもない、しかし確かに快感から漏れている声が、他でもないヴィヴィアン自身の、たった数センチの尻のはずみを数秒おきに小刻みに行っていることでの甘い声が出ているのだ。
「そう上手くいくかな」
「……耐えてやる。約束は守ってもらうぞ」
「いいだろう。やれ」
 ホルボーンが命じた途端だ。

「んんんん! ん! あ! あ! あ! あぁああ! あっ、くあああああ! あぁっ、んっ、んんんんん!」
 
 醜男はせっせと腰を動かして、それだけでヴィヴィアンの乱れようはここまで変わった。
「どうした? 耐え抜くんじゃなかったのか?」
 ホルボーンが嘲っている。
「ぬっ、ぬぁっ、ぐぅぅぅぅ! くっ、あ! あ! あ! あ!」
 ヴィヴィアンは懸命に堪えていた。
 全身全霊をかけて食い縛る歯が、それでも大きく開くほど、醜男は活発に突き上げている。ヴィヴィアン自身も腰を浮かせて、耐えたいはずが無意識のうちに弾んでいる。
 乳房が上下に暴れていた。
 背中が大きく反り返るほど、ヴィヴィアンは自分の背中を醜男の肉体に押しつけて、これ以上は上がりようもない密着度合いを、なおも上げようとしてしまっていた。
「ぬぁああ! あ! あん! あん!」
 反りきった首は、醜男の肩を枕代わりにしてしまっている。
「あ! あん! あん! んんん! んぁあ! あっ、あん!」
 ヴィヴィアンが喘ぐ分だけ、醜男は我が物顔になっていた。こいつを感じさせているのは俺だ。俺のチンポこそが、ヴィヴィアンを淫らな女にしているのだ。醜男はそんな風にいい気になって、ヴィヴィアンを自分のもののように扱っていた。

「んっ! ぐぅ――――――――――――――――――――――――!」

 叫びが、喘ぎが、声になっていなかった。
 肺が空になるまで酸素を絞りきり、もう声が出せない喉から、なおも何かを叫ぼうと大口を開いたヴィヴィアンは、腰を痙攣させていた。脚の筋肉も震わせていた。
 手首が、足首が、反り返っていた。
 頭の中では稲妻が弾け、全ての思考や感情が消し飛んで、文字通りの真っ白となっていた。
「イったようだな。ルーンワーデン」
「………………」
 ヴィヴィアンの敗北だった。
 これでホルボーンは呪縛を解かない。それどころか、ホルボーンのさらなる要求で、ヴィヴィアンはこれからフェラやパイズリまでしなくてはならないのだ。

     †
 
 ヴィヴィアンは無念の奥底に沈んでいた。
 目の前には肉棒。
 木の床に膝を置き、ベッドを椅子代わりに座した醜男の前で、イってしまった自分の情けなさにヴィヴィアンは俯いている。じっと床ばかりを見つめながら、やがて顔を上げ、肉棒へと手を伸ばした。
「さあ、見せてみろ。お前の奉仕する姿を」
 そんなホルボーンの声が背中にかかる。
「……わかっている」
 眼前の肉塊は太かった。
 こんなにも大きく膨らみ、皮に血管を張り巡らせた剛直が、今まで自分の膣内に入っていたのか。たどたどしく指で触れ、さらに根元を握ってみれば、火傷しそうな熱気が肌に染み込み、セックスの心地や激しい絶頂の快感を全身が思い出す。
「うっひひひっ、ぶひひひっ、こんな美人が僕のになるなんて」
「誰がお前のだ」
 所有物になるつもりはない。
 ……ないのだ。
 しかし、あの快感。あの絶頂。頭の中身が弾け飛び、何も考えることも出来ずに、ただ喘ぐだけの存在と化す瞬間。この一連のセックスで、自分は挿入には勝てないことを教え込まれて、それをすっかり全身が覚えてしまっていた。
「お前はそいつのものだ。少なくとも今はな」
 ホルボーンはそう言った。
「おねがぁぁぁい! 優しくしてね? ペロペロしてね?」
 聞くだけで鼓膜に何か付着した気になる気色悪い声質と、見たくもない醜い笑顔に、誰がお前など喜ばせるかと、心の中には反意が湧く。睨み上げ、自分はお前のものではないと、反抗心をアピールするが、それがどこまでもポーズでしかないことをヴィヴィアンは自覚していた。
「ちゅむ」
 先っぽを咥えた。
 その瞬間に、逞しいオスの香りと精液の匂いが口に広がり、喉を通って鼻孔さえ通り抜け、頭をぴりっと痺れさせていた。自分はこのチンポに属しているのだという意識が広がり、もう心の大半が醜男によって蝕まれていた。
 本当にギリギリの、精神のわずかな領域だけが、無念や屈辱を根強く感じ取り、自分がチンポに従属していることへの悔しさや悩ましさにかられていた。
「はずっ、じゅぅ……」
 ヴィヴィアンの頭が前後に動く」
「ずっ、ずりゅっ、りゅちゅぅ……じゅっ、ずむぅ……」
 こんなものに、チンポなんかに尽くさなければならないのか。その心境がヴィヴィアンの胸を締め上げ、それでいて活発にヨダレを使う。淫らな音を立てながら、自分が仕えるチンポに懸命に奉仕していた。
「ヴィヴィアンたんは本当におちんちんが大好きになったねぇ?」
 違う、そんなわけがあるか。
 醜男を睨み上げ、鋭い視線で頬張った。
「くちゅ……ちゅく……ちゅっ、むちゅ…………」
 咥えていると、口内の領域を大幅に占領してくる太さに、挿入最中はこんなにも硬く立派なものが出入りしていたのかと、関心というか感慨というか、そんな気持ちを抱いていた。
「じゅずっ、じゅむっ、じゅぷぅ……」
 この奉仕自体が、自分はチンポに屈服し、こうして仕える身となっていることの証明のようだ。
 チンポには逆らえない。チンポに負けている。
 それを教え、自覚するためのフェラチオ。
「じゅっっ、ぽっっ……んちゅ……ずっ……ぱぁ…………」
 屈服したままでいられるものか。
 このままチンポの従者になどなりはしない。
「えっへへへぇぇ、そろそろパイズリしてねぇ?」
 醜男は楽しげに命じてきた。
 冗談じゃない。
 そんな命令……。
「私は別に……屈してなどいないからな……」
 ヴィヴィアンは自分に言い聞かせた。
 ホルボーンの呪縛に逆らえないだけだ。命を握られているからだ。でなければ、そもそもこんな醜男には、指一本とて触らせはしていない。そんな思いで釘を刺し、ヴィヴィアンは身体を近づける。
 乳房のあいだに肉棒を挟み、しごき始めた。
「こんなことを……」
 パイズリなど経験のないヴィヴィアンは、コツもわからず、ただただ両手で乳圧をかけている。風船のような弾力で圧迫を与え、上下にしごきもしてみていた。
 乳房を両手で閉じ合わせての、ぴったりと隙間のない合わせ目に、醜男の肉棒は埋まっている。
「んっ、くっ」
 谷間に亀頭が見え隠れする。
 乳房だけを手で上下に、不慣れながらもどうにかしごくヴィヴィアンは、しだいに身体ごと動いていた。無意識のうちにコツに気づいて、知らず知らずのうちに床から尻を浮かせていた。
「どうなんだ。気持ちいいのか」
「もちろんだよ? ヴィヴィアンたん」
「……ふん」
 駄目だ、なっていないなど言われても嫌だったが、こんな男が悦んでいると思うと、やはり癪だ。
 しかし、疼きもする。
 自分を散々に喘がせた肉棒に、今度はこちらが至福の快楽を与えているのかと思うだけで、女としての愉悦がわく。ここまで刺激を与えて、興奮させてやったからには、もっと挿入してもらえるに違いない期待が湧いてしまう。

 ――何を考えている。
 ――快楽にハマっては……。

 と、自戒しつつも。
「口も使ってね」
 ヴィヴィアンは自らの胸元に顔を落として、パイズリどころかパイフェラさえも行って、ペロペロと舌を動かし亀頭を舐めた。
「んっ、ちゅっ、ちゅるっ、ちゅむっ、むっ、むっ」
 谷間から飛び出る亀頭を咥え、飲み込んで、乳房の上下に合わせて頭も動かす。
「ちゅっ」
 と、先端にキスをしている状態から、乳房と共に顔を下げ、口内に亀頭を導く。
「んっ、んむっ、むっ、むぬ、ぬっ、んむっ、むっ」
 口内では舌を大いに踊らせながら、まるで乳房を使って肉棒にマッサージを施すように、ぐにぐにと、むにむにと、乳圧の強弱をかけてしごいている。
 こうした繰り返しであった。
 ペロペロと舐め続け、亀頭を口に出し入れさせ、咥え込んだままに刺激を与え、それを醜男が満足しきるその瞬間まで繰り返す。
「ふひっ、ぶひひっ、ザーメン顔に浴びたら、またおちんちん挿入してあげるからねぇ? 可愛がってあげるからねぇ?」
「そんな必要は……」
 そう言いかけ、睨み上げ、なのにアソコはきゅっと引き締まる。
 心のどこかでセックスを求め、ヴィヴィアンはそのために奉仕を懸命にこなしていた。
 ご褒美を貰うため、頑張っていた。
 そして……。

 どくっ! びゅりゅびゅる! どりゅ! ビクビク! ドクン!

 噴水のような白濁が解き放たれ、それがそのままヴィヴィアンの顔に直撃していた。
 白い射撃が鼻にぶつかり、頬や額に飛散して、なおも飛び出る精液は、髪にも唇にも張り付いた。ピクピクと脈打ちながら、出すだけ出した肉棒は、なおも先端から液体を流していた。
 温かい白濁が、肉棒の表面を流れ落ち、乳房の谷間に入り込む。
 顔と谷間を精液で飾っていた。
 ツンとした精子の香りが漂い、それがヴィヴィアンの鼻孔に流れ込む。それを吸い込んだヴィヴィアンは、ますます下腹部を疼かせて、ヒクヒクとセックスを求めていた。
「したいのだろう? ルーンワーデン」
 ホルボーンの嘲笑う声が降りかかる。
「欲しいのだろう? してもらえばいい。素直に挿入を求めるがいい」
「わ、私は……」
 嫌だった。
 チンポに屈服していると思われるのが、快楽に溺れ、堕ちていると思われるのが嫌だった。
 だというのに、肉体は灼熱している。
 おちんちんが欲しい欲しいと、アソコが必死にヨダレを垂らし、ヴィヴィアンの理性を踏み倒しても、挿入を求めようと、セックスがしたいことを主張している。
「私は………………くっ…………………………」
 わかっていた。
 もう、我慢できない。耐えきれない。
 とっくに屈しているのだ。
 本当は屈していて、堕ちていて、その上で意地を張り、気丈に振る舞う余裕を精液の香りによって奪い取られた。

「挿入…………してくれ……………………」

 ヴィヴィアンは肉棒を求めた。
 あとはもう、醜男の思うままだった。ベッドの上にあがらされ、好きな体位を命じられ、その通りのポーズで挿入を受けて、ピストンの音がパンパンと打ち鳴らされる。
 一日中抱かれた最後、ヴィヴィアンは使い捨てられた人形のようにベッドに伸び、さらにいたるところを精液で汚して倒れていた。セックスに体力を使い切り、起きることも出来ない状態で、夜が明けてからダーククリスタルの捜索に出かけていった。

 その後も、性欲を持て余し……。
 ヴィヴィアンはそれからも、何度か醜男に抱かれていた。