本文 ひびき輪姦!水泳部の悲劇

 保育児たちを外に出し、公園で遊ばせる。
 保育園での外出時間を迎えた塚原ひびきは、元気に駆け回る子供達を見守っていた。
 高校生の身でエプロンを着用して、保育士の真似事をするのは小児科医を目指す活動の一環だ。それが直接進路を固めるわけではないが、小児科となれば小さな子と接する機会が多いので、早いうちから小さな子供に慣れておこうと手伝いをさせてもらっている。
 無邪気に遊ぶ微笑ましい光景を見守るが、こうして一人で子供から目を離さないようにしていると、心にぽっかりと穴が開いた感じにふと気づく。寂しくなって一人の少年の顔を浮かべるが、それでは駄目だと頭の中から振り払った。
 彼のことを考えるのは、今この時間にする事ではない。今はしっかり子供の様子を見て、怪我人は出ないか、一人で遠くへ行ってしまう子はいないか、目を光らせる時間である。
 最近まで、子供の相手を手伝ってくれた人がいる。
 後輩の橘純一だ。
 彼がたまたまこの公園の近くを通りかかって、保育士を真似る姿を目撃された時は驚いた。見られたくないものを見られてしまった気になったものだが、しかしそれがきっかけに、彼は子供の相手を手伝うと申し出てきた。
 そのおかげか、思ったよりも早く子供に慣れる事が出来たのだが、だからこそひびきは考えた。支えになってくれる人間がいつまでも隣にいたら、そのまま甘え続けてしまうのではないか。一人でも大丈夫になるべきではないか。
 自分自身の成長について思い、いつしかひびきは自分一人でこなす決意を彼に伝えた。
 受験前の忙しい時期という事もあり、学校でも顔を合わせる機会がなく、そのせいか純一の顔が思い浮かぶたびに寂しくなる。
 居てくれたらと、心の底では思ってしまう。
 しかし、一人で頑張ると決めた以上、寂しい気持ちは振り払い、じゃれつく子供の相手に専念した。

     *

 翌日。
 授業が終わり、昼休みの時間を迎えると、不意打ちのように純一の事が脳裏に蘇る。子供相手のために一緒に過ごし、いつの間にあの後輩の存在が心に染み込み、あの少し子供っぽくて馬鹿馬鹿しいところのある少年が恋しくなった。
 ……会いたい。
 いや、そんな時間はない。
「はあ」
 心に余白が出来ると、いつもこれだ。
 忙しい時、何かに専念している時、集中すべき時や友達と過ごして楽しい説き、それら他の事柄が寂しさを遠くに押し流し、普段は心の穴など感じもしない。
 なのに、こうして授業が終わったり、家で勉強をしている際の区切りがついた時などの、忙しさや集中が途切れる隙間に入り込むのが、やはり橘純一の顔なのだ。
 まったく、我ながら何を考えているのだろう。
 さすがに心の穴を感じる頻度が高すぎる。
「はあぁ」
 そんな自分に対して、ひびきはため息を重ねるが、するとそれを耳ざとく聞きつける友人がいた。
「なになに? その幸せが逃げちゃいそうなため息は」
 森島はるかがやって来た。 
「なんでもないわよ」
「ひょっとして、誰かさんのことでも考えてたぁ?」
「誰かさんって誰なのよ」
 純一の手伝いがあった時期、公園で二人きりの時間を過ごす場面があった。そこをはるかに目撃されているためか、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて何やら邪推してきている。
「さあ、誰でしょー」
「いいからお昼にするよ」
 話の切り替えを狙ってみると、はるかはすぐにお昼ご飯のことを考え始める。
 少し落ち着きが得られたところで響きは思う。
 あの後輩の存在は、ひびきの心の中でここまで大きくなってしまったようだと――その責任を、是非とも取って欲しいところである。

      *

 その日の放課後、ひびきは先生からの呼び出しを受け、職員室でちょっとした話を持ちかけられた。
 水泳部における他校との合同練習だ。
 それも大学の水泳部らしい。
 大学と高校で交流の機会を作り、大学側としては自分の学校について知ってもらう狙いがある。
 オープンキャンパスに近い主旨の交流会で、ひびきには向こうの様子を見てきて欲しいそうである。
「こんな時期で悪いが、付き合ってくれないだろうか? いや、時期が時期だ。こっちは一応意志確認だけしたかっただけだから、遠慮無く断ってくれれば他を当たるからな」
 どうも先方から塚原ひびきの名前が出ているらしく、しかし教師としては受験前の時期という事に理解を示し、こういう風に言ってくれている。
 ではお言葉に甘え、本当に断っておこうか。
 と、思うが、口から出かかった言葉を引っ込め、少しだけ考える。
 意義のある活動に参加するのも、人生経験の一つではないか。小児科医という目標には何ら関わりのない話だが、今まで医者に診てもらった記憶を振り返ると、人の良い相手であるほど安心して症状にことを話しやすかった。
 医者も客商売だ。
 大学生の患者など小児科にはかからないが、将来的には中学生までとは接する機会が多くなる。少し年代は異なっても、自分の人生に対人関係を蓄積して損ということはないだろう。
「いえ、やります」
 てっきり断ると思っていたのか、教師は意外そうな顔をしていた。
「本当か? もっと何ヶ月も前に来た話ならともかく、こんな時期だし、お前のためにならない気がするけどなぁ」
「いいえ、勉強はしっかりしていますし、ちょうど気晴らしをしたいと思っていたので」
「そうか? 本人がそう言うなら、了承ということで先方には返事をする。途中で気が変わりましたなんて通じないから、本当に断るなら今のうちだぞ?」
「大丈夫です。行ってみようと思います」
「まあ、代わりを決めなくて済むのは正直助かるよ」
 こうして急に決まった話により、来週にはその大学を訪れ水泳部に顔を出す事になる。先に一人の部員が挨拶に伺い、下見のように練習に交じり、交流してみた感じはどうだったか、それを学校や顧問、部員達に伝えるのがひびきの役目というわけだ。

      *

 しかし、当日を迎えて眉を顰めた。
(私だけ?)
 大学の敷地に足を踏み入れ、案内役の青年にプールへ連れて行ってもらい、更衣室で着替える事になるのだが、女子部員による出迎えの様子がない。案内役がたまたま男子である分には良いのだが、プール前に到着しても、更衣室に入っても、なお女子の気配がしないのは気にかかる。
 プールサイドへ行けばいるのだろうか。
 ひびきは競泳水着に着替え、青く広々としたプールの水を前にするのだが、ここまで来ても女子はいない。待っていたのは逞しい上半身を晒した男子ばかりで、狼の群れの中へと羊の身で入り込むような不安がよぎる。
(大丈夫かしら? なにもないといいけど)
 学校同士の交流が名目なのだ。
 高校から大学へと送り込まれた生徒に何かあったら、大学の看板に傷がつく。普通の分別が付く人間なら、もちろん元からセクハラも何もしないが、背景のおかげで余計に手が出る確率が低くなる。
 まるで自分に言い聞かせるように、そう計算してみる事で、女子が自分一人である不安を落ち着かせる。
「どうも、塚原ひびきさんだね?」
「はい、今回の交流会にお招き頂きありがとうございます」
「いいよいいよ。そういう堅苦しい挨拶は無しで――俺は健太っていうんだ。よろしくな」
 一人の男子がそう名乗り、仲間の部員達を背に握手を求めた腕を出す。それにとりあえず応じるひびきだが、肌にぴったりと張り付く水着には、随分と立派なものがもっこりと形を成しているのが視界に入り、なるべく下を見ないように意識した。
(あれって、普通に大きいだけ? よね)
 まさか勃起ではないだろう。
 ただ肌へのフィットが強いから、体の凹凸ラインが出やすいだけに違いない。
「ところで、なにか気になる事とかない?」
 握手を済ませ、お互いに腕を下ろした直後、健太は急に尋ねてくる。
「女子部員はいないのでしょうか」
 せっかくなので、女子がひびき一人である状況について口にした。
「それな。実はさ、女子部員でなんか集まりをやって、そこで集団食中毒とかあったらしいんだ」
「食中毒ですか、それはまた……」
「たぶんニュースになるぜ? 何年か前にも、テレビで集団食中毒ってやってたし。そんな事件が身近でさ、しかもこんなタイミングで起こるなんて思わなかったぜ」
 そのおかげで、本当は女子部員もひびきの事を待っていたはずが、男子だけによる出迎えで不安になった。どんな不安を抱こうと、杞憂に終わるとは思うのだが、どうしても胸騒ぎが止まらない。
(橘君……)
 どうしてか、あの後輩の顔が浮かんだ。
 だが元々、部活動の問題に彼を招いて、甘えるわけになどいかない。
 ただ練習や交流をするだけだ。
 何も起きない。
 こんな必要以上の不安など、抱く必要はないはずだ。

     *

 戸の裏側に蓄光ペンで書き込んで、押し入れの中に閉じ籠もれば出来上がる。非常に簡易的なプラネタリウムを眺めて過ごし、橘純一は体育座りで物思いに耽っていた。
「塚原先輩……」
 子供の相手は自分一人で、そんな決意を聞かされて以来、先輩とは顔を合わせていない。あまりの会う機会のなさに気落ちして、今日はいじけて過ごしているわけだった。
 最近、先輩の夢を何度も見た。
 最初に見たのは、こうして暗闇に浮かぶ蓄光塗料の輝きをぼうっと眺めて過ごしていた時、急に戸が開け放たれ、てっきりまた美也が部屋に入ってきたのだと思った。
 ところが、そこにいたのは競泳水着の先輩だ。
 その驚きに目を覚まし、すっかり目が冴えてしまう出来事があったのだが、それからも何度か先輩の夢を見た。
 一番最近の先輩の夢は……。
 …………
 ……
 見知らぬ施設のプールサイドを先輩が歩いている。その後ろ姿をまじまじと眺めていると、水着が内側から膨らむ大きな尻に目が行った。ぷりっとした厚みによって中央へと布がずれ込み、割れ目のラインが浮き出る上に、尻山にゴムが食い込み、ぷにりと潰れてはみ出ている。
 その魅力的な尻が動くのだ。
 脚の前後に合わせてぷるぷると、振動を帯びた震えの光景は、いつまでも見ていたいものだった。
 ふと、先輩は立ち止まる。
 後ろに両手を回したかと思ったら、指先をゴムに差し込み左右に引っ張る。割れ目に飲まれた布を引き出し、そして指が外側へ向かって離れた時、パツンとした音が鳴っていた。
 いつまでも見ていたい夢だった。
 ところが、先輩の背中を追うように、一人の男が背後から尻肉を掴みに現れた。大きな手の平が片方の尻たぶを掴み、五本の指ががっしりと食い込む絵に、興奮よりもむしろ衝撃を受けて飛び起きた。

「どうしてあんな夢を……」

 まさか、どこかの誰かに痴漢や強姦をされて欲しい願望が、無意識にあるのだろうか。
 いや、まさか。
 そんな目に遭って欲しいわけがない。ただちょっと、陵辱や輪姦系のエロを見てしまったから、頭の中でイメージが混ざっただけだ。
 しかし、胸騒ぎがする。
「まあ、ただの夢だし」
 気にすることないのだろう。
 そういう夢を見たから心配して、ここは一つ男らしく駆け付けてみました。
 なんて、馬鹿馬鹿しい。
 夢の出来事など間に受けても仕方がない。
「勉強、するか」
 先輩も今頃は頑張っている。
 自分も勉強ぐらいはしっかりとしておこうと、押し入れの暗闇から外に出て、その後数時間ほど机に齧り付く事となる。

      *

「な、なにするんですか!」

 ひびきは驚愕していた。
 最初の挨拶でいくつかの言葉を交わし、集団食中毒の話を聞いてから、すると健太はおもむろに人の背後に回り込み、何かと思えば触ってきた。

 お尻を鷲掴みにしてきたのだ。

 右腕を横へとやって、尻たぶをがっしりと、指の深く食い込んでくる感触に目を見開き、ひびきは咄嗟に大声を上げ、健太の腕を振り払おうとした。
 その瞬間、直ちに仲間達の腕が伸びてくる。
 右から左から、素早く食らい付いてくる手によって、ひびきは手首を掴まれていた。抵抗を封じられ、お尻の腕を振り払う手段がなくなり、あっという間にただ触られるがままとなった恐怖に強張った。
「いいケツだねぇ? ひびきちゃん」
 競泳水着のお尻が撫で回される。繊維の素材と手の平での摩擦が起こり、這い回る指がゴムの外側にある生肌にも触れてくる。好き勝手に楽しむ手つきに背中が凍り、ひびきは恐怖と恥辱で顔中を歪めていた。
「本当に何を……。冗談はやめてください」
 次の瞬間、今度は胸に手が伸びた。
「すっげー! いいオッパイだねぇ? ひびきちゃん」
 正面に一人の男が迫り、鷲掴みにして揉みしだく。後ろからはお尻が触られ、前からは胸が触られ、どちらも好きに扱われる屈辱が吹き荒れる。
「どうしてこんなっ、こんなことをして……!」
「ねえ? 俺のこと覚えてない?」
 背後の健太が人の尻を揉みながら、急にわけのわからない事を尋ねてくる。
「覚えてって、初対面のはずです」
 答えた瞬間だ。
「うわぁ、マジかよ! 覚えてねーとか!」
 わざとらしい大声で、いかにも明るく残念がってみせていた。それを仲間がけらけらと笑い飛ばして、胸を揉む男もニヤニヤと、健太に向かって茶化す言葉をかけていた。
「忘れられてやんの」
「うるせえ」
 わけのわからないやり取りだ。
 健太のことなど本当に知らないのに、まるでどこかで会った事があるはずの口ぶりは何なのか。
「忘れたもんはしょうがねーから教えるけどさ。中学、同じだったんだわ。そんで、ひびきちゃんって、練習とか厳しかったよねー?」
「中学って、そんな前の話……」
「なんかサボりすぎとか? いや、サボってたんだけどさ。後輩に注意とかされちゃうと、やっぱムカツかね? 自業自得とか関係なくてさ」
「ま、まさかそんな理由で……」
 ひびきは薄らと思い出す。
 プールには顔を出すのに、しかしプールサイドでだらだらと、不真面目な姿を曝け出す先輩の姿が毎度毎度気になって、とうとう堪らず注意に行った記憶が蘇る。
 ……思い出した。
 あの時、そこにいた先輩の一人と、この健太という男子大学生の顔はよく似ている。
 まさか中学の出来事を根に持って、こんな仕返しをしてくる人間がいようなど、かつて想像すらした事がなかった。
「別に仕組んだわけじゃねーぜ? 集団食中毒とか、マジに身の周りで起こるとか思わねーわ!」
 健太がそう語った時だ。
「ホント、奇跡だよねー」
 そんな相槌を周囲の誰かが挟んできた。
「恨みのある相手がやってくるそのタイミングで、俺らみたいなのだけを残して女子部員は全員欠席とか、これって神様の采配じゃね? 運命が俺達に言ってんだよ。そういうことをヤレってさ」
 ひびきの心はみるみる冷え込み、恐怖と危機感が大きく膨らむ。
 咄嗟に周囲を見渡した。
「むりむり、ここらには俺達しかいないから」
 その視線の意図に気づいて、胸を揉む男が目の前から茶化してきた。
「誰も助けなんてきませーん」
 続けて健太も愉快でたまらないような声を上げ、そのついでにぐっと握力を込めてくる。
(そ、そんな……こんなことって……)
 ひびきを囲む男という男の数々の、誰もがニヤニヤといやらしい笑みを投げかける。こんな仕打ちに出ることに、この場の誰一人として疑問を抱かない。性犯罪を目論む集団に捕らわれてしまった絶望感に、頭をチラつくのは橘純一の顔だった。
(橘くん……!)
 その直後、後ろ手に拘束された。
 健太の手がお尻を離れて、するとひびきの腕は力ずくで腰の後ろへ動かされ、健太と入れ替わりで背後を取った一人の男子の、強い握力によって拘束される。
 腕を封じられ、そして健太は正面に陣取って、今度は彼こそが人の乳房を揉み始める。
「やめて……」
 悲痛な声に性犯罪者は応じない。
 ニヤニヤと勝手気ままに指を使い、しばし好きに揉みしだくと、健太は水着の形に指を差し込み左右に引っ張る。まるで皮でも向くように、黒い競泳水着の布に閉じ込められた果実を暴き、注がれる視線にひびきは顔を赤らめた。
「やっ……!」
「おぉぉ……」
「美乳だねー? ひびきちゃん」
「可愛いおっぱいだよー」
 周囲からの視線が突き刺さり、いくつもの感想を聞かされて、羞恥に苛まれるだけではもちろん済まない。
 健太が乳首に触れてきた。
 指で摘まんでくにくにと、指圧混じりの刺激を行い、上下にも弾いて転がす。
「や、やめて……」
「とかいっちゃって、乳首が硬くなってるねー?」
 彼の刺激で突起して、ひびきの乳首は敏感となり、ますます気持ち良くなる循環で、乳房の中に詰まった神経には、細胞を溶かさんばかりの甘いものが駆け巡った。
 さらに隣から、本当に嫌な言葉が突き刺さる。
「お? ってことは、ひびきちゃんも喜んでる?」
「……っ!」
 ほとんど反射的に、怒りで隣を睨みつけた。
「おっと、怖い顔だ」
 だがそんなひびきの反応も、彼らにとっては面白おかしいものでしかない。睨んだ直後にケラケラ笑われ、女の身で複数人の男達など、どうにもできない悔しさで歯噛みした。
 そして胸から手は離れ、下の方へと移っていく。
「こっちでも感じちゃったりしてー」
 ヘラヘラとした笑顔を投げかけ、健太は右手で水着越しの性器をなぞる。
「うっ……!」
 アソコすら愛撫され、ひびきは一層のこと強く歯を食い縛る。
「ひびきちゃーん? どうかなー?」
「気持ち良かったら、遠慮無くイっていいんだからねー?」
「もうクリが突起してたりして」
 人をからかう言葉が屈辱を煽り、堪らずひびきは身じろぎを激しくした。
「やめて……!」
 人の腕を後ろ手にして、手首を拘束してくる握力も、正面から好き勝手に愛撫してくる健太も、周りにいる男達も何もかも振り払いたい一心だった。
 しかし女の力で抵抗しても、筋力差はあまりにも無情なものだった。
「おっと、あんまり暴れると、足も押さえておかないといけなくなるねぇ?」
 人の暴れかける様子を見るなり、二人の男が両隣に、しゃがみながら手を伸ばし、それぞれ足首を掴んで来る。足すら握力の枷にかけられ、四肢を封じられたひびきには、もう愛撫を我慢することしかできなかった。
「やめて……やめなさい……!」
 どれほど強く言葉で拒んでも、健太をはじめとした周りの誰もがヘラヘラと、人の怒る様子すら眺めて楽しんでいる。
 おかげで屈辱は加速した。
「あれれ? ひびきちゃん、まだ水には入ってないのに、どうして濡れてるのかな?」
 アソコが上下になぞられ続け、いつしか膣から分泌液が染み出していた。内から外へと染み込む水分で、楕円形の変色が生じてぬるぬると、その部分の滑りが明らかに良くなっていた。
「うるさい! もうやめて!」
「気持ちいいくせに、もっと楽しそうにしたらどう? ほら、俺の指にもくっついてきたよ」
 健太は右手を持ち上げて、顔にぐっと近づける。親指と人差し指の間で糸を引かせて愛液の存在を見せつけられ、ひびきは激しい恥辱の情に駆られていた。
「そんなもの……」
 快楽の証拠を見せられて、それで楽しい気持ちに切り替わるわけがない。そんな事はわかった上で、ただ人をからかうためだけに体液を見せつける行為に煮えくり返り、しかし女子の筋力に対して複数の男子である。
 彼らが満足するまで一方的な我慢を強いられ、一体いつまで耐えれば屈辱の時間は終わるのか。
「お気に召さない顔じゃね? ひびきちゃん、もしやまだまだ楽しさが足りないかなぁ? 指くらいじゃ満足できないなら、もっと良いコトをしなくちゃいけないよなぁ?」
 健太が周囲を囃し立てる。
 すると、男達はひびきをその場に引き倒した。人を寝かせようとする力をかけられ、無理にでも座らされ、仰向けへと寝かされて、急な体勢の変化に恐怖と危機感が急速に膨張する。
 この流れから待つ運命など決まっている。
 仰向けになるばかりか、手首がタイルへ押しつけられている。顔の両側に置かれたひびきの腕へと、それぞれに上から押さえつける役の男が両手で体重をかけてきて、おかげで枷にかかったように自由が利かない。
 足も横から掴まれている。
 力ずくで開かされ、大きく左右に開いたM字にさせられて、こんな正常位のポーズを取らされては、最も避けたい行為がたった十数秒後の未来に迫っている。
 健太が水着を脱ぎ始めた。
 その一枚きりを身に着けた水泳の格好で、即座に全裸となって位置へ着き、アソコの布に指を引っかけずらしてくる。もう恥じらっている場合などではなく、性器を見られて感じるものは危機感や恐怖だけだった。
「やっ、やだ……! やめて……! ほ、本当に、それだけはやめて……!」
 ひびきは訴えかけるが、ここには一人として、こうした行為に疑問を持つ者がいない。周囲に居並ぶ顔という顔の数々の、本当にどれもこれもがニヤニヤと、しまいにはスマートフォンまで構えて撮影を始めている。
「はーい、楽しんでねー? ひびきちゃーん?」
 健太の亀頭が当たってくる。
「お願いします! やめてください! それは――それだけはやめてください!」
 必死に叫んだ。
 無駄だとはわかっているのに、犯される事だけは避けたい一心で叫ばずにはいられなかった。
 健太は止まらない。
 ひびきの悲痛さを見たところで、お構い無しに前へ前へと腰を押し込み、切っ先によって肉貝の縦筋が左右に広がる。膣口がめりめりと、裂けんばかりに幅を広げて、太く大きなものが根元まで収まっていた。
「あぐっ……! あっ、あぐぅ……!」
 目尻に涙が滲む。
 こんな運命になるとわかっていたら、この大学の水泳部になど来ていない。
 いつどこで選択を間違えてしまっただろう。
 どうしたら、こうならずに済んだだろう。
「うおっ、気持ちいいわー!」
 初体験のひびきに対して、健太は嬉しそうに腰を振る。ピストンによって生まれる振動にリズムによって、胴の上では乳房が揺れた。
 ぷるぷると、皿の上のプリンのように揺れていた。
 その光景がよほど嬉しいものなのか、周囲から集まる視線はどれも、乳房の揺れに集中していた。
 気持ちよさそうな顔を向けてくる。
 いかにもわざとらしく、自分がどれほど快感を味わっているのか伝えてこようと、満ち足りた表情を投げかけてくる。その屈辱を煽る顔つきの果て、健太は射精に至るのだった。
「はーい、出るよー?」
 直前に引き抜いて、腹や胸へと撒き散らす。熱っぽいものが首や顎にまで届いてきて、体液で汚されるおぞましさに顔中が引き攣った。
 信じられなかった。
 たまたま同じ中学に通っていた先輩がそこにいて、ただサボりを注意した過去があるという、たったそれだけの理由でこんな目に遭わされた。肉棒が抜け出ても、未経験の穴を好きに使われ、無理に拡張された余韻で膣壁がまだ痛い。
「次は誰だっけ」
「おいおい、ジャンケンで決めてあっただろ」
(ジャンケンって……!)
 人を犯すつもりで待ち構えていたばかりか、一人の人間の意思や尊厳をまったく無視して、ジャンケンなどで順番まで決められている。
 健太から二番目らしい男へと入れ替わり、せっかく一度目が終わったばかりの膣口に、もう次の肉棒が入って来る。大きさや形状の個人差で、感触が微妙に異なるものが出入りを始め、やはり腰を叩き付ける勢いによって乳房が上下にぷるぷると、プリンかゼリーのように揺れていた。
「あっぐぅ……んぬっあっ、ぐぅ……!」
 つい先ほどまで処女だったのに、もう経験人数が二人である。まだまだ何人もの男が周りにいて、自分は一体どこまで汚し尽くされるのか、もしや何時間にもわたって地獄が続く事になるのではないか。
「ぐっ……!」
 気が遠くなりそうだった。
「うっはぁ! いいわぁ!」
 猿のようにせっせと腰を振り、ハァハァとわかりやすく興奮の息遣いをしている男は、鼻の下が面白いほどに伸ばされていた。顔つきもどこか猿に似ていて、いやらしい笑みからヨダレまで垂らしていて、自分はこんなにも下らない人間のために尊厳を汚されているのかと泣けてくる。
 この二人目による射精も、直前に引き抜いてのものだった。
 熱を含んだ粘液の固まりが振り撒かれ、黒い競泳水着の繊維に白濁が絡みつく。ヘソやその周りで色が目立って、剥き出しとなった乳房や首に顎まで汚れが増える。
「次は俺だろ? ったく、待ち侘びたぜ」
 そしてまた、人を尊重する気のない、ただの性処理道具と思った男が位置に着き、その肉棒を挿入してくる。
(橘君……)
 彼とそうなる事を想像していた。
 なのに、こんな……。

      *

 ひびきは長時間犯された。
 体位を変えて、四つん這いで後ろから突かれ始めたのは、一体何回分の射精が済んでの事だったか。
「んっ、ぐぅ……んぅぐぅ……んっあぐぅ……!」
 数えている余裕はない。
 後ろから腰を掴んで打ちつけて、パンパンと鳴らしてくる男が何人目か、もうひびきにはわかっていない。
 ただ、全身汁まみれだ。
 やはり外に出してくるので、お尻や腰、背中やうなじ、髪にすら精液はかかってきた。何回も何回も、どこもかしこも白濁に埋め尽くされる勢いで、ひびきの体にはきっと臭気が染みついている。
 ここまで汚れた体に向かって――。

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ――。

 腰の当たってくる衝撃に体は前後に揺らされて、肉棒が抜けたと思った直後、新たに精液が散布され、肩甲骨や背骨の凹凸に付着してきた。
「ひびきちゃん? よく頑張ったねー? ご褒美に、また俺がしてあげるからねー?」
 健太の声だった。
 彼が後ろに着いてすぐ、性器に触れた亀頭が閉じた膣壁を割り裂き侵入する。

 ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ――。

 やはり淡々と打ち鳴らされた。
 使われ尽くし、汚れ尽くして、まだ終わらないセックスは、ひびきにとっては災害だった。ただ過ぎ去る事を待つできない嵐であった。
「ほら、プレゼントだ。ひびきちゃん、来てくれてありがとうな」
 今の今まで、全ての射精が外だった。
 これだけ白濁にまみれた体に、また新しい汚れが追加されるのだろうと、ひびきは当たり前にそう考えていた。

 ドクゥゥ――ビュルッ、ビュルゥゥ――――!

 ひびきは動揺した。
「えっ……」
 外では、ない。

 熱気に満ちた白濁が膣内に注がれている。

 アソコの中で上下に脈打ち、鳴動は膣壁に伝わっている。吐き出される汁が奥から跳ね返り、肉棒と膣の隙間へ広がり入口から拭きだしている。
「中って……えっ、え……?」
 ショックを受けるひびきの膣から、健太の肉棒はゆっくりと引き抜かれた。まるで白濁を溜めた容器に浸したように、先端から根元にかけて、どろりと汚れを纏ったものが糸を引かせていた。
 亀頭と性器の間には、長々と伸びた糸が垂れ下がり、それが二重にも三重にも並んでいた。幾本もの糸が亀頭と性器を未だに繋ぎ、そして下垂した糸に加えてもう一本、ひびきの膣から真っ直ぐな糸が垂れ下がった。
 真下へ向かうその糸は、先端の滴によって揺られてぷらぷらと股の間を揺れ動き、プールサイドにタイルへ向かっていた。
 ぐったりと、ひびきは横向きに倒れた。
 周りからはパシャパシャと聞こえてくるが、心ばかりか体力さえ削られて、負担のかかった肉体には、もうそれを気にするだけの余力がない。放心する事しかできない人間には、撮られる恐怖や抵抗を感じる事すら出来なかった。
 ただ放心したままずっと固まり、死体のように動かなくなっていた。
 そんなひびきが少しは気力を取り戻すと、一体何人分の肉棒が自分の中に出入りしたのかと、今になって別の種類の恐怖が湧いてくる。
 揃って外出しだったとはいえ、避妊具の装着もなしに行われた挿入と、最後にあった膣内射精で、自分を輪姦したうちの誰かが父親になりかねない恐ろしさは、心を氷のように冷え込ませていくものだった。

 翌日、ひびきは欠席した。
 学校へ行く元気など、彼女にはなかった。

      *

 何も知らない橘純一は、放課後の空を見上げて先輩を思う。

「今日も先輩は頑張ってるかな……」

 水泳部の活動をこなし、勉強をこなし、保育士の手伝いも行う先輩の、将来を考える立派な姿を見習って、自分も勉強ぐらいはきちんとしようと帰宅する。
 教科書とノートを開いて真面目に机に齧り付き、その夜にまた純一は夢を見る。
 先輩の夢に浮かれて目覚めた朝は、少しばかり幸せな気持ちがするのであった。