真喜多莉緒にとって、その少年はただの弟ではなかった。
 あるきっかけから「王子様」に変わっていたのだ。


前編 目覚めのアリスはかく語る中編 眠らぬ姫はかく語る後編 姉弟はかく交わる


 刃物が刺さっていた。
 一人の男が華奢な少女の後ろを狙い、急に切っ先を突き立てたのだ。
 その鋭い痛みに、少女は壮絶な表情で目を見開く。
 刺されてしまう瞬間まで、彼女は自分が狙われていること自体に気づいていなかった。その急に何かが接触してきた驚きも含め、少女は途方もない驚愕を浮かべていた。
 背中を覆うほどある、真っ直ぐに伸びた日本人形のような髪の隙間へと、男の握る刃は入り込んでいる。繊維さえ貫きながら、刀身は皮膚の内側へ埋まっていた。
「――――っ!」
 鳩尾の後ろあたりに、少女は激しく鈍い熱を感じる。
 生温かいものの広がりは、全て出血のせいである。赤い雫が傷口から表皮を伝って流れ落ち、衣服にも真紅の染みが広がっての、自分自身の血の温度を少女は感じ取っていた。
「死、死、死、死、死、死――――――」
 自分を刺した男の、無限に続く無機質な呟きで、犯人が正気でないことを辛うじて悟る。
 だが、それどころではない。
 切っ先がさらに肉の奥まで潜り、臓器すら破ってくる。体内で金属の動く感触と、自分がみるみるうちに死へ近づいている恐怖で、犯人の男に意識を割いてなどいられない。
「――あ――かはっ!」
 食道から血流がせり上がり、吐血していた。トマトジュースでも口に含んで、だらだらと垂れ流すようにこぼれ出た血液は、顎や首の表皮を伝って衣服に染み込み、顎先からも何滴もの赤い雫は垂れ続ける。
 たちまち視界が暗転した。
 網膜に暗いフィルターがかかり、少女には今、世界がモノクロに見えている。
 突き刺さった刃はなおも奥まで進もうと、みちみちと筋肉繊維を千切って潜り込む。しまいには拳さえもが穴に入り込もうとして、しかしナイフの刺さった穴だけでは幅が足りずに、触れた拳がはそれ以上進まない。
 それを力ずくでも押し込もうと、怪力による進軍が行われると、狭い皮膚と肉を引き裂きながら、狭い穴幅が強引に拡張される。
 ついには鳩尾から刃が生えた。
 胴体を貫通して、切っ先が腹部の皮膚に到達すると、その部分を尖らせるように盛り上げて、そして破って生えてくる。刀身の全てが露出して、胴の向こうへ刃先からの雫を垂らし始めた時、男は初めて引き抜いた。
 少女にもう意識はない。
 痛みを熱のように感じる錯覚と、世界がモノクロに見える眩暈と、体内には金属が入り込んでいた感触を最後に、ぐったりと力なく倒れ込む。
 叩きつけたかのようだった。
 急に倒れる肉体は、膝から順に地面に突くこともなく、顔や胸がどんな形で地面にぶつかろうともお構い無しの、無機質で容赦のない倒れ方だった。
 血の池が広がる。
 とっくに心臓の止まった肉体から、さらに命が流出している。
「死、死、死、死、死、死――――――」
 男の目は少女を見向きしていない。
 そもそも、目がどこも見ていないのだ。
「死、死、死、死、死、死――死、死、死、死、死、死――」
 正気などない彼は、自分が何故、どうして後ろから少女を刺したのか、そもそも刃物を握って外を歩いていたかもわかっていない。
 だらりとヨダレを垂らし、眼球があちらこちらに活発に泳いだ男のフラついた足取りは、それだけで正気ではないと判断するには十分だ。
 まともな人間なら、彼を薬物使用か何かで狂った人間と思うだろう。
 だが、薬ではない。
 彼は<神の悪夢>の被害者であり、そして今、加害者だった。
「死死死死死死死…………」
 フラフラと歩み続ける男は、少女の死体を通り過ぎ、まともに前も見ないままにどこかを目指す。どこを目指し、いつ進み終わるのか、どうして外を歩いているのか、本人ですらわかっていない。
 だがもし、彼に少しでも正気が残っていれば、きっと驚愕することになるだろう。普通の感性を持つ人間なら、見ただけで心臓の凍りつく事態が、男の通り過ぎた後ろで起こり始めていた。

 血の池が縮んでいた。

 まるで動画でも撮影して、それを逆再生しているように、それまで広がり続けた円の面積が収縮して、少女の内側に血液が戻っていく。
 破れた服の内側で、みるみるうちに千切れた筋肉繊維がつながり、臓器の穴も塞がって、何事もない滑らかな皮膚へと再生していく。
 そして、立ち上がった。
 自分が地べたに眠っていたことに気づいた少女は、両手で地面を押し返し、眩暈を感じながら立ち上がる。自分を刺した犯人の後ろ姿を見据え、ゆっくりと息を吸い上げていた。
 何かを始める心の準備であった。
 少しでも緊張を抑え、失敗しないようにと、意気込む眼差しがそこにはあった。

「死…………」

 男がぴたりと止まる。
 たった今刺し殺し、動かなくなったはずの少女に対し、首を捻らんばかりに振り向く狂った挙動で、ひどく目を見開きながら、生き返った女の子を凝視していた。
 本当の意味で、男は首を捻っていた。
 関節の可動範囲を超え、本来ならあり得ない角度にまで、男は首をねじ曲げ振り向いていた。
 殺したはずの相手が生きていることに、まともに驚くだけの正気が彼にはない。狂った男が示しているのは、ただただ、動くものへの反応に過ぎない。
 そこにあるのは衝動か、あるいは機械的な原理か。目に付いた人間なら誰でも刺し殺し、一人やったらまた次を求めて彷徨い歩く、それ以上でもそれ以下でもない存在が彼なのだった。
 そんな彼を前に、生き返った少女は後ずさる。
 刃物を持った男に対し、いたって正常な恐怖を顔に浮かべて、さらに一歩、二歩へと後ずさっていた。
 蘇生した少女こそが真っ当な人間の反応をして、男の方には人間らしい反応が何もない。男は自分が殺そうとしる相手の、つい先ほど刺したばかりのはずという事実も、生き返っている事実もわかっていない。
 生きた人間がそこにいるから刺す。
 生き返った少女以上に、男の方がずっと怪物なのだった。
 そして、まともな人間の感性を持つ少女は、その正気でもって怪物を怪物として恐れ、体中に戦慄を広げている。パニックを起こすことなく、こうして対峙しているだけ、もしや勇敢と言えるくらいだ。
 恐怖の感情を目立たせた眼差しは、やがて決意に変わる。
「すぅ…………」
 と、改めて息を吸い込んだ。
 そして、真っ直ぐに男を見据えた少女は、強い意思を込めて口にする。

「<今度は落とさないでね>」

 瞬間、男は恐怖に染まり上がった。
 まるで今更になって正気を取り戻し、死なずに生き返る少女という、異常を前に戦慄を向き出しにしたように、おびただしい汗を噴き出し、目を見開きながら瞳は激しく震わせていた。
 その手からナイフを落とし、両手で頭を抱えていた。
「あっ、あっ、あぁ……あぁあぁああ………………!」
 男こそが恐れていた。
 体格があり、凶器があり、年齢も上のはずの男の方こそ、少女に対する恐怖のあまりに慌てふためき、みっともなく腰を抜かしていた。
 地べたに尻を突きながら、それでも逃げようと必死に脚をじたばたと、ジーパンを路面に引きずってでも身体を押し出して、少女から少しでも遠ざかる。
 だが、逃げることに意味はない。
 恐怖に飲まれたその男は、何かに内側から打たれたように、突如としてビクっと仰け反り、そのまま大の字に倒れ込む。

 男は死んでいた。

 散々に恐怖して、パニックを起こしかけていた表情から一片して、不思議なほど安らかに眠った顔で、男はその場で亡くなっているのであった。

     †

 真喜多莉緒は死なない。
 おそらく、死ねないそうだ。
 莉緒がそんな体になり、そして<騎士>としてロッジに所属することになったのは、全てあの事件がきっかけだ。
 祖母、父親、母親、家族を一気に三人も失うあの事件こそ、今の莉緒がある大きな理由だが、さらに遡るなら中学二年の頃、母親に向けた言葉こそが根本なのだろう。
 当時、莉緒が友達から聞いた怪談話を、ちょっとだけ試すようなつもりで、夕食の席で両親に聞かせた、あの日からだ。
 よくあるらしい、生まれ変わりの怪談。
 あの時――

 最後の『今度は落とさないでね』というくだりを莉緒が口にした瞬間、お母さんは金切り声を上げて莉緒の頬を思いっきり叩いたのだ。

 あれさえ言わなければ、起きなかった事件なのだろう。
 だが<神の悪夢>や<泡禍>など知りもせず、ごく普通の女の子として育った莉緒には、あんな超常的な怪異など予測できるはずもなかった。
 家が茨に包まれ、お母さんは殺しても死なない<異形>となり、さらにお父さんはその一連の現象に勝手な解釈を行い、ゴルフクラブでみんなを殺して回ろうとした。
 祖母はそのゴルフクラブの餌食になった。
 そんな父親に向かって、莉緒もゴルフクラブを振り回した。そうでもしないと、そんなことでもしないと、正気のまま狂った父親を止めようがなかった。
 そして父親は反射的に反撃して、お互いに重い一撃を浴びたのだ。
 そう、莉緒だって頭をやられた。
 それなのに、何の怪我もなく生還して、病院に行った頃には完治していたなど、自分自身も心霊現象の一部になったと捉えずして、どう解釈すればいいだろう。
 莉緒はパニックになりかけた。
 リカや馳尾勇路から<神の悪夢>について聞き、<泡禍>を生き残った者が<保持者>になると説明を受けなければ、莉緒はそのまま狂っていたかもしれない。
 その後、リカの厚意で白野蒼衣の連絡先を教えてもらい、彼に電話で話を聞いてもらおうと考えた。
 この時には<騎士>としての基礎知識も、あの<泡禍>が何故起こり、どんな<断章>によって解決したのかも知っていた。
 いばら姫事件の全てを『理解』している蒼衣なら、莉緒がどんな<保持者>になるかも見当がつくと思ったのだ。

『十五歳になると百年の眠りにつく、っていうのが、童話のいばら姫の内容なんだ』

 最初に連絡をした時は、驚いた様子だったが、しばらく話し込む中で悩みを打ち明け、莉緒は一体どんな<断章>の持ち主になったのか、推測してもらおうとした。
 その当時のやり取りがこうだった。
「<泡禍>は童話と符号することがあるってお話だっけ」
『そして、莉緒さんが十五歳の時、あれは起こった。童話の中なら、お姫様が百年の眠りにつくタイミングで』
「私が眠っているお姫様?」
『だと思う。いばら姫では、周りの国の王子が美しいお姫様の噂を聞いて、茨の国へ向かっている。これって、お姫様の国では時間が止まっていても、周りでは普通に時間が流れていた、って考えることもできるよね?』
 それを莉緒自身に当て嵌めれば、時間が止まったはずのまま自由に歩き、行動していることになる。
「ってことは……。不死、とか?」
 莉緒は躊躇いながら尋ねてみる。
 死ななくなった母親の存在は、ひどく脳裏に焼き付いて、自分が同じ化け物かどうかを確認する、その答えに対する恐怖はあった。
 だが知らずにいるわけにはいかなかった。
『そのはずだよ。ただ……。試すわけにもいかないよね』
「あー……。ちょっと試せないね……」
 元々、<断章>はトラウマをフラッシュバックさせ、それによって当時の現象を引き起こすものだ。自らの精神を抉る行為なので、それだけでも気軽には試しにくいのに、死なないかどうかとなると尚更だ。
 試しに飛び降りてみて、そのまま普通に死んでしまうなど、笑い話にもならない。
『だから試すのはやめた方がいいけど、一つ聞いていいかな』
「うん、なに?」
『勇路くんから聞いて思ったんだけど、莉緒さんにとっての百年目の王子って――』
 その指摘にドキリとする。
 暴かれてはならない、絶対の秘密に触れられたような不安に、心臓が今にも飛び出そうだった。
「ねえ、それは……」
 黙っていて欲しい、触れないで欲しい。
 そんな意図を、莉緒はこの声に含ませていた。
『わざわざ言い触らしたりしない。秘密は守るよ。ただ、一人くらい事情を知っている人がいてもいいんじゃないかなって、本当にそれだけなんだ』
 体中に走った緊張は少し緩んで、心臓の鼓動も少しは収まる。
 しかし、その告白には勇気が必要だった。
 重大な秘密を明かすことに加え、今の莉緒が抱える性癖さえも伝えることと同じである。
 だが蒼衣の言う通り、一人くらいは知ってくれている人がいた方が、気が楽になるとは思ったのだ。
 だから話した。
 莉緒にとっての百年目の王子、十五歳の時にこの胸を震わせた異性といったら……。

 弟の耀しかいない。

 瀧でも、蒼衣でも、勇路でもなく、莉緒の王子様は弟であり、そして<保持者>となって以来の莉緒は、近親相姦に目覚めているのだった。




 真喜多莉緒の<断章>には、時槻雪乃は馳尾勇路のような、漫画じみた戦闘手段はない。死なないからといって、腕力が強いわけでも、他に特別な現象を起こせるわけでもない。
 しかし、死んだ莉緒は、自分を殺した相手にとっての、最悪のトラウマになれる。

 ――今度は落とさないでね。

 その<断章詩>を口にする時、莉緒を殺した者は別の存在に成り代わる。莉緒が〝莉緒〟ではないように、血が、肉が、魂が、別の誰でもない誰かに書き換わる。
 自分が本当は自分ではない。
 それまで、別の誰かとして生きてきて、それが悪夢の一端となったトラウマを押しつける。押しつけた相手の中、肉体や魂の内側に、<断章>を引き金とする現象を引き起こす。

「お前は莉果だったんだ」

 それは父親に言われた言葉である。
 莉緒として育てておきながら莉緒ではない、莉緒であって莉緒でなかったことがトラウマの一部であった。
 その人であってその人ではない、誰でもない誰かへと存在を書き換える力によって、強制的に悪夢の配役から引きずり降ろし、配役を失った悪夢は行き場を失い霧散する。
 使うことが出来れば、そして大元が大元でなくなれば、<目覚めのアリス>のように絶対的だが、蒼衣と違って一度殺されなくてはならないので、気軽に使えないどころの話ではない。
 莉緒の<断章>がどんなものか、蒼衣から教わったはいいものの、まるで使い道のないまま、ただ<保持者>には耐性があるという理由だけで、ロッジの関係者となっていた。
 死んで生き返りを繰り返せば、間違いなく精神はおかしくなり続けるので、安易に<断章>を使うことは禁止されている。
 禁止されるまでもなく、不死とわかっていても死にたくない。
 それに偶然にも巻き込まれ、自分が本当に生き返るという体験でもしなければ、蒼衣の推測を立証する機会がなかったくらいだ。
 いばら姫の事件からしばらく、またもや次の怪異に巻き込まれ、配役として否応無しに組み込まれた莉緒は、大元の人物に一度殺され、生き返ることで<断章詩>を口ずさみ、大元を大元ではない、誰でもない誰かに変えた。
 またしばらして、次の<泡禍>が起こった時、その某町に広がる怪現象の、詳細も規模もわからないまま、莉緒はあくまでサポートに回っていた。
 だが通り魔的に背中を刺され、生き返った莉緒は、自分を殺した相手が<異形>と思って<断章>を使い、そして本当に怪現象は収束した。
 二度も怪異を消したいずれも、死にたくて死んだわけではなかった。
 それから、しばらくだった。

 神狩屋が暴走したと聞いたのは――。

 不死という同じ特徴を持つ人物の暴走で、莉緒は自然と周囲から警戒され、最近ではいつ同じく暴走するかもわからない、危険人物のような目で見られている。
 勇路が味方でいてくれなければ、すぐにでもロッジから離れていたかもしれない。
 神狩屋事件から生き残った蒼衣は、いずれ自分のロッジを持つと、その後の連絡で話してくれた。
 ならば自分も、いずれは蒼衣ロッジの中に入ろう。
 その時は、縁のある勇路も一緒だといいが、雪乃とあまり相性が良くないらしいのが悩み所か。
 ともかく、そんな未来を見ることで自分を慰め、莉緒は日々を過ごしていた。
 だが莉緒を支えるのは、蒼衣や勇路との関わりだけではない。
 莉緒にとって、一番の支え。
 この世でもっとも大切な存在は、帰ればいつも莉緒を待ってくれている。

「ただいま」
「おかえり! 姉ちゃん!」

 顔に少しの芽を残し、しかし以前のように元気で振る舞う、一度は死んだはずの耀が出迎えに来てくれる。

     †

『耀くん、生きてるよね? いや、生き返っている、かな』
「……うん」
『責めてるわけじゃないんだ。秘密は守るっていうのは、さっきも言った通りなんだけど――』
 あの時のやり取りで、蒼衣はこう尋ねてきた。

『どうやって匿うのかな、って』

     †

 元々が元々なリカが手配してくれなければ、弟と一緒に暮らす場所など得られなかっただろう。
 そして秘密というなら、自分も一度は瑞姫を、死んだはずの女の子を連れ歩いていた勇路には話している。それに蒼衣が平気なら、流れ的には雪乃にも知られて大丈夫なのだろうか。
 だが必要以上に多くの<騎士>に秘密が知れれば、耀のことを危険視して、始末しようと考えるかもしれない。

『莉緒さんの<断章>は、耀くんを、つまり百年後の王子様を先取りして、止まった時間の中に閉じ込めているんだ』

 十五歳の時に針に刺されて眠る姫、それから百年後に現れる王子様で、童話の通りなら順序が合わない。だがあの時の耀は、味方をしてくれると熱く宣言してきた耀は、莉緒にとっては間違いなく王子様だった。
 先取りした王子様と一緒に、百年間時間が止まる。
 時間が止まっているのだから、死ぬこともない。
 もしかしたら、本当は耀も不死。
 そして家に帰った時の莉緒は、いつも耀の手を引いて、自らの部屋に導くのだ。

 いばら姫事件以来、急に目覚めた近親相姦という性癖のために――。

     †

「姉ちゃん……」
 年下の幼い顔が熱に浮かされ、決して目が離せないように凝視してくる。その視線が降り注がれるのは、仰向けに横たわった莉緒の、丸裸の乳房であった。
「耀、始めて?」
「うん。姉ちゃん……」
 静かな部屋で、呼吸の荒さが耳に伝わる。ウブな男の子の緊張混じりの様子は少し可愛く、けれど莉緒自身もまだ少しは緊張している。
 しかし、初めての時に比べれば、この緊張はずっと軽い。
 これでも慣れた方なので、耀はやがて乳房に手を伸ばし、そっと柔らかな手つきで揉み始める。豆腐のような、何か簡単に崩れるものを扱う繊細さで、かといって力を抜きすぎているでもない、まだ少ない回数で随分と手慣れた両手に揉まれると、莉緒の乳房には甘い痺れが走り始める。
 乳首が突起していって、その硬さが耀の手の平をつつき上げ、すると愛撫は乳首にも及び始める。
「耀…………」
 快感に目を細め、莉緒もだんだんと息を荒っぽくしていた。

 ――姉ちゃん、僕、姉ちゃんに味方するからな。

 いばら姫事件の最中、耀に言われた言葉は、莉緒の心に深々と突き刺さった。キューピットの矢というが、後々になればなるほど、一体どれだけ深いところまで、長い針として入り込んでいたかを自覚して、気づけば莉緒は弟を性の対象に見始めていた。
 弟が生きてくれている。一緒に暮らせる。
 最初はそれだけでも幸せだと思っていたが、しだいにそれだけでは満足がいかなくなった。もっと何かが欲しい、今の幸せだけではまだ足りない。
 満ち足りていると思った自分自身の、少し大きな欠けを自覚した時、それを一体どうやって埋めたいと思っているのか、歪んだ性癖さえ自覚して、莉緒自身がまず驚いた。
 近親相姦を漫画や小説では見たことがある。
 だが、実際に耀を対象に、などと考えたことは一度もなく、世の中にある創作物の、単なるジャンルの一つとしか思っていなかった。
 そういう設定を好む人達がいて、その手の人が楽しむ創作物。
 莉緒にとって、そんな認識でしかなかったはずが、実の弟に対する、異性への愛が急に芽生えていた。
 本当の本当に愛おしくてたまらない。
 これから何があっても、耀だけは手放したくない。
 きっと、もう二度と会えないと思った耀への、深い感動から来る気持ちなのだろう。そして、そう自分の心を見つめてみたからといって、だから熱意が収まるわけでもなく、燃え上がる想いをついにはぶつけずにはいられなかった。
 恋人同士のような関係にならないか。
 初めてそう伝える時の、緊張と恐怖といったらない。実の姉からそんなことを言われた弟は、一体どんな反応をするものか。もしや引かれたり、こんな姉は嫌だと思われはしないかと、内心ではかなり恐れていた。
 そして実際、耀は随分と驚いて、動揺した様子だったが、決意したように頷いてくれたのだ。

 ――うん、僕が姉ちゃんを守る!

 嬉しかった。
 本当の本当に嬉しくて、だから耀の願いなら何でも聞けると思ってキスをした。抱き締めた。体に触ってみないかと、緊張混じりに恐る恐る、ドキドキしながら誘いもした。
 ついには体を重ねる関係になり、莉緒はもう処女ではない。
 避妊具だって、もうじき一箱目の中身がなくなる。
「んぁ……あぁ……んっ、あぁぁ…………」
 乳首の絡む指の蠢きが心地良い。
 耀も莉緒への攻め方を覚え、初めての時に比べれば、実に愛撫を心得ている。莉緒自身の感度が上がり、経験を重ねることで感じやすくなったのもあるのだろうが、耀は着実に攻めるべきポイントを掴み、莉緒を感じさせるようになっている。
 少しの緊張を帯びるのも、いつも最初の数分だけだ。
 一度始めてしまえば、あとはだんだんと夢中になり、お互いを激しく求め合う。
「ちゅぅ――――」
 乳房に吸いついてきた。
「あっ、あぁ……あっ、んぅ……!」
 吸い上げる力が、歯で優しく引っ掻いてくる刺激が、甘い痺れを走らせる。
 ちゅぱちゅぱと、右の乳首を吸った後、左の乳首にも吸いついて、舌で活発に唾液を擦り込む。どちらの乳房にも粘膜がまとわりつき、光沢が部屋の明かりを反射していた。
「姉ちゃん……」
 下の方へ手が伸びる。
 ワレメに指が絡んだ時、莉緒はその快楽に身を浸す。間もなく溢れる愛液で、耀の右手を汚した時、だんだんともどかしさを感じ始めた。
 気持ち良くなり、気分が高まっていくにつれ、莉緒はいつも太ももを擦り合わせたり、何かが切なくてたまらないような顔をする。
 このままでは物足りない。
 いよいよ、欲しいのだ。
 そんな莉緒の様子に気づくと、耀は言う。
「……姉ちゃん。欲しい?」
「言わせないでってば」
「でも、欲しそう」
「うん、欲しい」
「挿れるね。姉ちゃん」
 枕元へ用意していた包装箱へと、耀の手は伸びていく。
 耀の年齢なら、本来は触ることすらないコンドームの、ビニール包装を破って中身の装着を始めている。歳に似合わず、もう何度目かになる装着は手慣れていた。
 肉棒がゴムを纏う。
 皮膚が青いゴムに包まれ、その色を根元まで被った時、準備が整ったことへの、本番がぐっと迫っての、楽しみなような身構えるような、これから起こることへの反応が、もぞもぞとした挙動に現れる。
 莉緒は脚を開いていき、そのあいだに耀は腰を入れ、そして結合は始まった。
「あぁ……んっ、んぅ…………!」
 その瞬間、莉緒はさらに興奮する。
 実の弟と一つになり、快楽を味わっていることの背徳感。年下を籠絡して、手に入れてしまった罪の意識は、しかし結合を彩るスパイスとなり、莉緒を大いに楽しませた。
「あっ、あん! あぁん!」
「姉ちゃん……姉ちゃん……!」
 肉棒の出入りが気持ちいい。
 自分のことを熱っぽく呼び続け、鼻息まで荒くして、せっせと腰を振る弟の、夢中になっている姿が性癖をくすぐり、心はより一層のこと高ぶる。
 ピストンは数分続いた。
「姉ちゃん……!」
「あっ、んっ! あっあん! あぁっ、あん!」
 続けば続くだけ、その腰振りは活発になっていた。激しく貫かれる分だけ、衝突によって莉緒の体は前後して、ベッドからはぎしぎしと音が聞こえた。
 そして、ついには十分以上が経った時、耀は奥まで押し込んで、腰をどこか微妙に震わせながら、ゴムの内側に放出をするのであった。
「はぁ……はぁ……姉ちゃん……」
 果てた耀は、ゆっくりと肉棒を引き抜いた。
 そのゴムの表面には、莉緒の愛液がいくらでもまとわりついている。
「気持ち良かった?」
「うん」
 素直に頷く耀が可愛い。
 満足そうにしてもらえて、とても嬉しい。
 莉緒自身、気持ち良かった。
「まだする?」
 若干の期待を込めて問いかける。
「したい!」
 即答する素直さも、本当に可愛くてたまらない。
「じゃあ、もう一回」
 ただでさえ、残り少ないゴムをさらに消費し、二人の交わりはまだ続く。
 体位を変え、数々の奉仕や愛撫も交えたプレイの果てに、最後には二人で布団を被り、裸のままで一緒に眠ってしまうのだった。




 二人はそんな罪な日々を繰り返していた。
 日常的にキスをする。一緒にお風呂に入って、洗いっこをした上で、同じ布団の中で寝る。頼まれればフェラチオをして、莉緒の方からも愛撫を頼み、お互いにいつも快楽を味わっている。
 そんな生活の中、ついには生挿入すら許したこともあり、莉緒はさすがに後悔していた。
 一度くらいなら、と。
 軽く考えてしまったのだ。
 普段の莉緒なら線引きはしているのに、絡み合う最中の気持ち良さ、心が熱に浮かされた感覚に流されて、気づけば許してしまっていた。
(妊娠……)
 耀に責任能力はなく、かといって周囲にも相談しにくい。
 近親相姦自体の後悔はしていないが、膣内射精に関してばかりは、さすがに拒む必要があったと頭を抱える。許してしまった自分が悪いと思う莉緒だが、さらに我ながら頭を抱えるのは、孕んでなお、心が耀を求めてしまうことだった。
 もう二度と引き返しようのないところまで、魂には耀の存在が深く染みついてしまっている。将来、この愛情が薄れ、いつか関係を解消して、他の男と付き合う未来が、欠片も想像できないのだ。
 生涯、添い遂げる相手は耀であると、心の底から決めきってしまっている。
 一般的な恋愛と違って、別れなど微塵も想定しない。
 耀と離れる自分がイメージできず、むしろ万が一にも耀の気持ちが薄れ、何かの拍子に他の女の子に興味を示す兆候が現れたら、一体どうしようと思う気持ちが強い。
 危機感について想像を膨らませると、それだけのことでハラハラして、起きてもいないことを阻止したくなってくる。
 だとしたら、妊娠は良い機会だと、歪んだ考えすら浮かんでいた。この新しい命を絆にして、耀には二度と外れない鎖をかけ、そして生涯を共にするのだ。
 そのために使い道のように思う自分への、嫌悪感はもちろんあった。
 莉緒ではないのに莉緒として育てた両親への、自分を見てくれていないことの不満。耀を繋ぎ止める手段と思い、宿った命を少しでも道具と見做している自分。
 自分が不満を抱いていたはずの、あの両親と、今の莉緒には、一体どれほど違いがあるのか。例えば詐欺と盗みでは罪状が異なるが、罪の重さは同じくらい、なんてこともありはしないかと、自分自身に対する不信感が湧いている。
 それに生まれた子供は<血脈>として扱われるであろう不安もあり、妊娠を前向きに喜べる土台が何もない。年齢的にも、経済的にも、他のあらゆる意味でも、不安ばかりが膨らみ続ける。
 だが、そんな不安を抱えてなお、莉緒は耀との時間を求め、この日は乳房のあいだに肉棒を挟んでいた。
 孕んでからまだ、腹は大きくなっていない。
 膨らみ始めるのは時間の問題だが、今は先送りにして考えないようにして、莉緒は耀との時間に浸っている。
「どう?」
 脈打つ肉棒の温度を乳肌に感じながら、莉緒は耀に向かって問いかける。
「すっごく気持ちいい……」
 うっとりとした答えが返ってきた。
 まだ妊娠については話していない、しかし膣への挿入はしばらく受け入れられない状態で、それでも耀を求めた結果として、まずは奉仕に励んでいる。
 耀をベッドで仰向けにさせ、膝は床へと下ろしてもらっていた。
 そして、床で膝立ちになることで、胴体を耀の股へ近づけ、莉緒は胸に肉棒を挟んでいる。
 この短い期間で、カップ数は上がっていた。
 耀からの愛撫が影響してか、妊娠がきっかけなのか、ここ数日でブラジャーがきつくなり、新しいサイズに買い換えている。その少し成長した乳房でもって、肉棒に快楽を与えていた。
 両手で自分の乳房を掴み、乳圧をかけつつも、乳房を上下に動かししごいてやり、しげきを与え続けていた。
 そればかりか、自らの胸に首を落として、舌を伸ばしてペロペロと、先っぽを舐めもしている。
「姉ちゃん……」
 うっとりと浸った声だ。
 気持ち良くなってもらえている実感もさることながら、耀の手が頭に置かれる。優しく撫でてもらえるおかげで、莉緒もまたうっとりと目を細め、気を良くして奉仕を活発にしていった。
「いつでも出してね」
 莉緒はしごきを続けていく。
 胸が大きくなったとはいえ、まるっきり肉棒を隠しきるほどには、まだ成長していない。まんべんなく包み込み、竿をぐるりと覆いきるには、乳房で両側を挟んだ上で、手の平で蓋を閉じるようにして、抱き締めておく必要があった。
 手での接触も交えたパイズリで、莉緒は唇も使っている。
 正座に近い姿勢から、尻を上下に動かすことで、胴体もまた上下させ、その全身を駆使した運動で刺激を与える。挟んだあいだで肉棒が出入りして、亀頭がその都度顎に近づくリズムに合わせ、先っぽを頬張ったり、ペロペロと舐めたりを繰り返し、しだいにそのパイフェラに慣れていく。
「んっ、んちゅぅ――ちゅっ、ちゅぶぅ――――」
 慣れれば慣れるだけ、そのリズムに乗って活発に舐め回し、吸い上げて、キスの雨も降らせていた。
「姉ちゃんっ、そろそろ――」
 そんな声が聞こえた時、莉緒は乳房のあいだから肉棒を手放して、急にフェラチオだけに集中する。
「はっずっ――じゅずぅぅ……!」
 口で受け止めるつもりでいた。
「ずっ、ずぅ……ずぅ……ずぅぅ…………」
 大口を開けた中に頬張り、一心不乱に頭を前後させるうち、太ももの微妙にぴくりとする挙動と、髪に触れてくる手つきから、耀から垣間見えるあらゆる仕草や息遣いから、莉緒は予兆を感じ取る。
 あと十秒、あるいは数秒。
 もうじき解き放たれるとわかった瞬間、青臭い味が口内に振りまかれ、莉緒は咄嗟に唇を引き締める。一滴たりともこぼさないように、きつく締め上げんばかりにして、吸い込む力までかけて受け止めて、顎を後ろへ引いていく。
 白濁のぬかるみを帯びた肉棒を解放して、先端と唇とのあいだに糸を引かせる。
 いつも通り、飲んでしまうか。
 いや――。
 直後、莉緒は衝動的に唇へ襲いかかった。
 精液を口に含んだまま、激しく頬張り、舌を絡め合わせるディープキスと共に押し倒す。
「んっ、んぅ――――」
 耀は少しだけ驚いていた。
 一瞬だけ、その急なキスに対して莉緒の両肩に手をやって、押し返そうとしたものの、両手にこもった力はすぐに抜け、腕はだらりと脱力する。
 ただ二の腕を撫でたり、背中を抱き返すだけの手つきに変わり、耀はこのキスを受け取ってくれていた。
 口移しで精液を耀に与える。
 自分がいつも口に含んだり、時には飲みさえしているものを、耀自身にも味わわせたい衝動がふっと浮かんで、気づけばこんなことをしているわけだった。
 舌や歯には、まだぬかるみが残っている。
 しかし、押し倒した先の口へと、ほとんどを移し終えたところで唇を離した時、やはりねっとりと糸が引く。
「……ねえ、耀」
 莉緒は耀を見下ろした。
「なに?」
 そして、耀も莉緒を見上げている。
「妊娠したって言ったら、驚く?」
「え……」
 さすがに目を丸めている。
 一体、これからどうしたらいいのか、何もわからないような動揺が浮かび上がって、瞳が僅かに震えている。
 逃がすものか。
 いいや、そもそも耀が莉緒から離れられるわけがない。耀は莉緒の見た悪夢の中に、何よりも<断章>の中にいる。莉緒なくして、耀は存在しないはずだ。
「耀。私、耀のこと離さないから。絶対、一生、傍にいてもらうんだからね」
「……うん」
「私が何でもしてあげるんだから、他の女の子を好きになったら、絶対に駄目だからね」
 そう圧をかけた時、さしもの耀もうろたえた顔をする。
 しかし、やがて静かな決意を宿し、耀は言うのであった。
「僕、姉ちゃんの味方だから。父さんとか、母さんとか、そんなこと関係無い。いつまでも味方だから」
 熱っぽい言葉がまたもや衝動を生み出して、莉緒は咄嗟のキスをする。
 今度は耀の方からも、両手を莉緒の頭に回し、逃がさないように力を込めて、かなり激しく頬張ろうとしてくるのだった。

     †

「……照れてる?」
「だって、これはちょっと……」
「私だって、いつも恥ずかしいんだよ? たまには我慢してよ」
「でも、そこは汚いんじゃ……」
「いいよ。耀だし」

 二人はそのまま、絡み合う時間を続けていた。
 口内には精液の味を残して、ならばきっと耀の口にも青臭い余韻がある中で、莉緒が行っているのは肛門責めだ。
 仰向けに寝てもらい、膝を立てて広げたあいだに指を埋め、ベッドと尻の狭間に隠れた皺の窄まりに、莉緒は指を突き立てている。
 もちろん、お互い体は洗った後だ。
 綺麗な状態であることと、相手が耀であることで、そこへ触れることへの抵抗はさしてない。それよりも、肛門も性感帯になるらしいことを試してみたくて、指先でくにくに揉んだり、ピストンをしていると、肉棒から反応が見え隠れして、面白くなってくるのであった。
「へえ、気持ちいいんだ?」
「た、たぶん――変な感じ…………」
 耀の照れ臭そうな、恥ずかしそうな様子は無理もない。女の子が受ける攻めのような形で、自分がそのまま攻められるとは、思ってもみなかったのだろう。
 その反応が愛おしい。
 もう少し、虐めてみたくなってしまう。
「あむぅ……」
 肛門をやればやるほど、ピクピクと反応している肉棒さえも可愛く見えて、莉緒は釣られたように咥えていた。
 指と頭を同時に動かす。
「あっ、あぁ……姉ちゃん……」
「はじゅっ、ずぅ……ちゅっ、ねぇ……」
「な、何……?」
「イク時は、莉緒お姉ちゃんって呼んで欲しい」
 ただ姉ちゃんというのでなく、名前を含ませて欲しかった。
「う、うん――あっ、僕……!」
 もうすぐだろうか。
 次の射精は近いのだろうと感じたとき、指も口も、どちらの動きも活発になっていく。
「ふじゅっ、じゅぅ……!」
 指のピストンで感じての、ピクっと弾み続ける反応の、脈打つ感じは如実に伝わる。舌をべったりと張り付けているおかげで、かなり明確に感じ取ることが出来るのだった。
「姉ちゃ――り、莉緒っ、莉緒お姉ちゃん――でる……!」
 ドクっと、心臓が弾む。
 ゾクッと、興奮で背筋が震える。
 歓喜ですらしていた。
 名前を呼んでもらったのだ。お姉ちゃんと付いてはいるが、下の名前で呼ばれてしまった。
(耀……!)
 莉緒は頬張り方を激しくして、唾液の音を大きく立てる。
「はじゅぅぅ――じゅっ、じゅりゅっ、ずぅっ、ずずっ、じゅっ、はっじゅぅぅぅ――ずっ、ちゅっぢゅぅぅ…………!」
 一心不乱だった。
 無我夢中で頭を上下しているうちに、口内に精は放たれ、喉の奥にも当たって来るのも構わずに、莉緒はなおも頭を動かし続けた。
 そして、射精が済んだと気づいたところで、やっとのことで唇や指を離して、口内に溜まったものは嚥下する。腹に耀のエキスを収めることに、満足感さえあるのだった。
「耀……」
 熱っぽく潤んだ目で、莉緒は囁く。
「今度は……お姉ちゃんのお尻……。アナルセックス、してみよ?」
 四つん這いになることで、尻によって耀を誘う。
「莉緒、お姉ちゃん……」
 その誘いに耀は乗っていた。
 魔力に絡め取られたように、朦朧としたように誘い込まれる耀の、両手が尻の上へと置かれる。無心になって肛門に押しつけて、挿入しようとしてくる耀の、莉緒は肉棒を受け止めていた。

     †

 肛門に耀の肉棒が収まっている。
「あっ、あん! あぁん! あぁん!」
 そのピストンに莉緒は喘ぎ、激しい快楽の中でもしっかりと、耀の息遣いを意識していた。呼吸の荒く、無意識のうちに莉緒お姉ちゃんと口ずさんでいる声に、ただでさえ興奮している体の奥から、より大きな熱が溢れて来そうであった。
 だらっと、愛液が溢れている。
「んぁっ、あん! んっ、んあっ、いい! いいよっ、耀っ!」
 内股に滴る愛液で、莉緒の太ももには光沢が広がりつつあった。
「お姉ちゃん……莉緒お姉ちゃん……!」
「耀っ、耀っ!」
「莉緒……!」
 名前を呼ばれる高揚感に、ますます体の感度は上がる。気持ちいいあまりの電流で、全身がぎゅっと強張り、無意識のうちにシーツをきつく握り締めていた。
 荒っぽい息を吐き出して、自分が唾を飛ばしていることも、莉緒はもう気づいていない。やがて愛液の糸が伸び、ピストンで尻を突かれる勢いに、それがぷらぷらと揺れていることにも気づいていない。
 頭の中は耀だけだった。
「莉緒っ、莉緒……!」
 耀からの感情が向けられている。
 そして、耀の欲望によって、この肉体が貪られている。
 その一体感、喰われてみることの喜びばかりで心は溢れ、自分がどんな顔をして感じていたり、どれほど股を濡らしているかなど、完全に意識の外側だった。
「出る……!」
 その時、莉緒は肛門の内側に熱を感じる。
「耀っ、もっと……!」
 しかし、これだけ射精をしてもなお、まだ元気があるとわかるや否や、莉緒はさらに耀を求めた。耀に欲望を向けてもらい、味わい尽くされることの興奮に、もっと身を浸していたかった。
「莉緒……!」
 いつしか大きな声で名前を呼び、その声音を熱っぽくしてくる耀からの、さらに激しいピストンを莉緒は受け止めていた。
「あぁぁ! あっ、あぁっ! あっ、すごい! 耀っ、すごい! こんなのっ、あっすごっ、すごすぎる……!」
 巨大な快楽の嵐であった。
 もう身が持たない、気持ち良すぎて勘弁して欲しい。いっそ、そんな気にすらなるほどの、強い快楽電流で脳が痺れて、手足の指先さえもピリピリしていた。
 乳首が破裂しそうに突起して、クリトリスも硬く成り果て、もはや今の莉緒の肉体は、全身が性感帯も同じであった。肉棒のピストンは言うまでもなく、尻の上で手が這って、微妙に摩擦が生まれることさえ、異常に気持ち良く感じていた。

「あぁぁぁぁ――――!」

 莉緒が絶頂するのも無理はなかった。
 急に潮を噴き出して、シーツにスプレーを撒いたようにして、雫が散乱しているのだった。

     †

 最初は思ったのだ。
 死んだはずの耀が生きているのは、狂ってしまった自分が見ている幻で、本当は存在しないのではないかと。勇路やリカに、蒼衣に秘密を打ち明けてなお、その不安は続いていた。
 雪乃と風乃の話を聞いてしまうと、ただ<保持者>同士でなら誰とでも共有可能なだけの、やはり幻ではないかと。
「姉ちゃん」
 視界に影が被さっていた。
 アナルセックスを繰り返し、絶頂もまた繰り返した果て、ぼんやりと仰向けに、余韻の中で天井を見上げていると、その視線の先に耀の顔が入ってきた。
「耀……」
 あまり熱っぽく見つめてくるので、莉緒はゆっくりと手を伸ばし、少しだけ芽の残った頬を包んだ。
 すると、その手の甲へと、耀の手が置かれるのだ。
「守るよ」
 ドキリと、胸が弾む。
「僕が姉ちゃんのこと、莉緒のこと、守るから」
 強い意思の宿った眼差しを向けられて、さらに心臓は激しく弾み、頬が赤らみを帯びてくる。
「耀ったら……」
 耀は直後、目を背けていた。
 自分自身の言葉に恥じらって、それに先ほどまであった肛門責めのプレイを思い出してか、さらに恥じ入ったような赤い顔をしているのだ。
「耀……大好き…………」
 幻かどうかは関係無い。
 やっぱり、もう耀がいなければ、生きてなんていけないのだ。


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