温泉に入っていたら、なんと男が入って来た?
 まさか、時間で男湯と女湯が変わるだなんて・・・!


前編後編


 大垣千明は山道を行く。
 傾斜の緩い坂道は、いくらかの落ち葉に覆われている。それが人の足やタイヤに踏まれてか、足元を見てみれば、路面に葉脈を張り付けて、厚みをすり減らしたものがたまに目に付く。
 森林の中に線を通して、そこだけを舗装したアスファルトの道のりは、左右のどちらに目を向けても木々が詰まっている。ガードレールに遮られた向こう側は、一体どこまで森が続いていることだろう。
 頭上には枝葉が伸びて、惜しくも天井にはなっていない。
 左右どちらの枝ももう少し長ければ、見上げた先の隙間を閉ざし、道のりの上には木漏れ日だけを落としていたかもしれない。
(だけどまあ、これもこれで風情ってものがあるよなー)
 千明は清々しい青色を見て思う。
 若々しい葉と葉のあいだに、青空の線が通って見える景色というのは、なかなか絵になるものである。せっかくなら撮っておこうと、千明はスマートフォンのレンズ部分を天に掲げた。
(にしても、腕が疲れてきた)
 トランクとリュックで荷物を運び、ここまで歩き続けた千明の脚は、悲鳴を上げ出すまで時間の問題だ。
(さすがに休みたい。座りたい)
 しかし、休憩可能な場所はまだ先なので、千明は仕方なく足を進めて、坂道を上がっていった。
 今回はソロキャンだ。
 いつもの二人とは予定が合わず、かといって一人で行くのもどうかとは思ったが、志摩リンなどはいつも単独行動を楽しんでいるという。
(だから私も、なら一度はソロキャンを嗜んでみようと思ったものの……)
 会話によって気を紛らわせる相手がいないのは、人恋しい性格にとっては逆に毒だ。他人が煩わしかったり、喧噪の中にいると疲れるので、一人を好む性質の人間がいるのなら、逆に騒がしさを求めてやまないタイプもいるわけだ。
 気楽を取るか、賑やかさを取るかは人それぞれ。
 といっても、現代人に真の孤独というものはない。
(お、着いた着いた)
 山道を上がり始めてからしばらく、やっと施設の看板が見えたところで、疲弊を溜め込んだはずの脚は逆に早まる。そこに休憩所があると思ったら、かえって元気を取り戻しているのだった。
(では連絡しておこうっと)
 スマートフォンでアプリを起こし、文字入力さえ行えば、寂しさの埋め合わせは簡単にできるのだ。
 適当に写真を撮って、アプリ内に貼りつけた上で、到着を告げてみる。
 すぐに返事が返ってきた。
 千明はしばし、だからスマートフォンに夢中になるも、ほどよいところでやり取りは打ち切って、受付で手続きを済ませに行く。
 あとはテントを張るべき場所へ行き、空いているスペースに陣取れば良いのだが、それよりも足腰を休めたい欲望が上回り、千明は温泉の存在を思い出す。
(確かあるんだったなー)
 この受付施設となった建物では、そのまま温泉の経営も行っており、風呂を求めるキャンプ場の利用者達は、ここで露天風呂の景色と共に、お湯の成分をその身に味わっていくという。
 重い荷物を背負い、引きずることに疲れた千明は、温泉の受付に進んでいき、そして料金を支払うのだった。
 だが、この時の千明は気づかなかった。
 その受付時の職員が、料金を受け取りながら、いかにほくそ笑んでいるかということに……。

     *

 何の疑問もなく脱衣所で服を脱ぎ、何の疑問もなく風呂を洗い、千明は温泉の中に腰を沈める。
 疑問がないのは当たり前だ。
 確かに『女』と記された赤い暖簾をくぐり、女湯に入っているはずなのだから、これから何かが起こったり、問題が発生するようなことを、まず想像すらしていない。
「いやー貸し切りですなー」
 髪がお湯につかないように、ターバンのようにタオルを巻いての千明は、肩まで浸かって空を見上げた。健康に良かろう温泉の成分を全身で味わいながら、流れゆく真っ白な雲を観察するのは、なかなかに乙なものである。
「いいお湯だ」
 荷物を引きずっていた腕に、リュックの食い込んでいた肩と、歩き詰めだった両脚から、疲れが抜けていくである。溜まったものを抜き取って、状態がリセットされていく感覚は心地がいい。
「貸し切りだなー。リッチな気分だ」
 タイミングが良かったのか、他に利用客の姿はない。
 今なら、大金持ちにでもなって、温泉を丸ごと貸し切りにした気分になれる。
「泳いじゃう? いやいや」
 あの子なら泳ぐだろうな、などと想像しつつ、うっとりとしたくつろぎのため息を吐く。
 もっとも、貸し切りタイムは続かなかった。
(お、誰か来たか)
 その時、戸のタイヤがレール上で回転しての、ガラっという音を背後に聞き、他に利用客がやって来たことを千明は悟る。
(まーそんなもんだ)
 せっかくの貸し切りだったが、本当の貸し切りではないのだから、こうもなるだろう。
 などと、呑気に考えている千明は、今のところ振り向いたり、特別に意識をやったりして、背後から温泉へと、だんだんと迫る気配について、確認しようとしていない。
 自分の後ろにいるのがどういう人か、あえて見ようなどと思っていない。
 ただただ、他に利用客が来たという、それ以上もそれ以下のことも思っていない。

「おやぁ? 女の子がおるのぉー」

 あまりにも自然とした声がかかってくると、抱くべき疑問が一瞬は消えるのだろう。
「はーい。女の子でーす。って、え?」
 そこで千明は遅れて気づく。
(えーっと? 今、どういう声がした? 男っぽい、それもお年寄りっぽい声がしたのか?)
 いや、そんなはずはない。
 女湯に男が堂々と入って来るなど、およそあり得ないことなので、不思議と無意識のうちに、それを可能性の中から排除してしまう。
 男が入って来たのでなく、今のは自分の聞き間違えか、あるいは声が低めで男っぽく聞こえやすいだけなのだと、千明は自然とそう思い込むのであった。
「ほんとじゃほんとじゃ」
「ピチピチの女子高生かのう?」
「おっほっ、混浴じゃあ」
 だが、さすがに表情が凍りつく。
(な、なになに? 本当に男の人? え、つまりどういうことだ?)
 まず、気が動転した。
 まさか自分は、間違えて男湯に入ってはいないだろうかと、そんな可能性すら頭に浮かび、千明は冷や汗をだらだらと噴き出していた。
(い、いや! 間違えようが……。けど、男の人達が実際入って来てるし)
 奇跡的なうっかりでもかまして、自分は男湯に入っていたとでもいうのだろうか。
(待て待て! 気のせいだ。男の声に聞こえるのは気のせいで、声がそれっぽいだけの、普通に女性客だ)
 声帯が勇ましい人達がやって来た。
 という、そんな可能性を執拗なまでに捻り出し、自分が男湯にいるかもしれない可能性を、千明はあくまで排除する。
 だって、本当に間違えようがない。
 記憶を振り返り、自分の行動を脳内で再生し直しても、やはり赤い暖簾をくぐっている。
(でも、でもだぞ?)
 千明は恐る恐る肩越しに振り向いた。
(もし本当に、やばいうっかりをしていたら……)
 そこにいるのは女性客に違いないと、望んだ事実がそこにありますようにと、心の中で祈りながら振り向いた。
 その結果は驚愕のものだった。

 おじいちゃんが三人ほど、萎れたペニスを剥き出しに、ぷらぷらと揺らしながらお湯の中へと入ってきた。

 千明は即座に戦慄した。
「いや! あのちょっと! ここって男湯ですか!?」
 大慌てになりながら、両腕で胸を隠し、太ももを引き締めアソコも隠して、千明は声を荒げんばかりに尋ねていた。
「ああ、ここはのう」
「時間帯によって男湯と女湯が入れ替わるんじゃよ」
「よいしょ。わしらも入るかのう?」
 おじいちゃん達はにこやかに、本当にご機嫌そうな顔をして、爪先からお湯に足を入れ始める。そして当然のようにして、何故だか千明の近くで肩まで浸かり始めるのだ。
「ま、間違いというか! なんというか! お、男湯なら今すぐ出て行きますので!」
 それが当然の判断だった。
 丸裸で男に囲まれるより、さっさと脱衣所に戻って服に着替え、出て行くのが得策に決まっていた。
 しかし、ここで一つの問題が発生する。
(って! 出れるかー!)
 出ようと思ったはずが、千明は逆にもう少しだけ体を沈め、さらには両手で身体をがっちり隠す。胸やアソコを守りつつ、太ももをきつく締め上げておくことで、さらにガードを堅くしていた。
 今ここで立ち上がれば、胸やら尻やら、色々と見られてしまうではないか。
 それが出られない理由だった。
 この温泉のお湯は、成分によって白く濁らせた色をしているので、浸かっていれば視線を遮ることはできる。出て行く恥ずかしさを思うと、腰が引けて仕方ないのであった。
(そうだ! タオルタオル!)
 近くにタオルを置いてある。
 面積は限られているので、全ての部分は隠せないが、少しはガードしながらお湯を出られる。
 すぐ後ろ、縁に置いたタオルへ手を伸ばした時、しかしおじいちゃんの一人が手首を掴み、千明の行動を食い止めてくるのであった。
(え? はい?)
「お嬢ちゃん。タオルをお湯につけるのはマナー違反じゃよ?」
「えっと、あの……。そうではなくて、出ようかと……」
 弱々しい声でそう口にした途端である。
「なあ、お嬢ちゃん」
「ちょっと話し相手になってくれんかのう?」
「孫がなかなか相手してくれんで、お嬢ちゃんくらいの年頃の子に飢えとるんじゃよ」
(飢えって、知るか!)
 とは思うが、千明は周りを囲まれていた。
 縁を背にして、三人が三方向から迫る形で、千明はまるで壁際に追い詰められたような思いを味わっていた。
「ちょっと、ちょっとでええんじゃ」
「うちなんかは孫が交通事故でな」
「ああ、もう一年になるか……」
 しかも交通事故の言葉が出て来た途端、何やら急にしんみりとしたような、今にも哀しみを思い出し、涙を流しそうに俯く姿を見て、いたたまれなくなってくる。
(いや、でもだ! でも、裸の女子高生が男に囲まれているわけにはいかんだろ! 相手がいくらおじいちゃんでも!)
 至極真っ当なことを考え、やっぱり出たいと願う千明なのだが、そこにあるのは合わせ技だ。
 断ったらひどく悲しんできそうな空気感で断りにくいのと、お湯から出たら必ずどこかは見られるであろう状況で、本当に出るに出られないのだ。
「わかりましたから、手を離して欲しいような……」
「おっと、そうじゃったそうじゃった」
 やっと手首が解放される。
 そして、わかったと言ってしまったからには、余計に出ていきにくくなり、こうなれば話し相手にでも何でもなって、おじいちゃん達には先にお湯から出てもらうしかない。
(そして、乙女の柔肌はこの白っぽいお湯に隠し通す!)
 という、そんな作戦に打って出る。
 もっとも、視覚的には肌を隠しているといっても、何一つ身に着けていない状況で、腕や脚だけを頼りにガードを固めている。こんな心許ない状況では、狼にでも囲まれたような不安が湧いて仕方がない。
(考えてもみれば、既に恥ずかしい状況では)
 千明は徐々に頬を染め始める。
 いくら見えてないとはいっても、お湯の色だけを頼りに隠しているだけなのだ。その恥ずかしさを思うと、手足のガードはより一層のこと固くなる。
「なあ、お嬢ちゃん。ここにはキャンプかの?」
 その時、真ん中のおじいちゃんが立ち上がった。
 二人のおじいちゃんは左右に座り、一人は真正面に座っていた中、その正面のおじいちゃんがお湯から腰を出すのであった。
(な! ななな!)
 千明は大きく目を丸めた。




 随分と立派なペニスがあった。

 おじいちゃん達の年齢は、七十代だか八十代だかはわからないが、そのくらいの歳だと思う。
 性欲などとっくに枯れていて良さそうな年齢なのに、まるで体の一部分だけを若返らせてあるように、血管の浮き出た長大なものがそそり立ち、亀頭を千明に向けてきているのだった。
(デカ……!)
 吸引力にでも引かれたように、千明は好奇心からまじまじと眺めてしまう。
「え、ええっと? はい、そうですね。キャンプで……」
 などと、答えている最中だった。
「よいしょ」
「わしも、ちょっと冷まそうかの」
 左右の二人もそう言って、それぞれお湯から腰を上げ、縁に座り始めるのだ。
 そのどちらも、やはりデカい。
(なんだそりゃ! そこだけ十代!? 二十代!?)
 信じられない勃起と大きさである。
 こうもまじまじとペニスを見るのは始めてで、平均サイズなど知りもしないが、おじいちゃん達の逸物は圧倒的な覇気を帯びている。熱湯から引き上げた直後の湯気を纏って、それがそのまま強者の風格を演出して見えるのだ。
(というか、ソレに囲まれた!?)
 右を見ても、左を見ても、前を見ても、千明の視界には必ず肉棒が飛び込んでくる。しかも吸引力が高いため、視界に収めさえしていれば、瞳がそこへ釣られてしまう。
(ごくり)
 いや、何を考えているのだと、心の中の理性の部分が訴えかける。もしも痴漢や強姦でもされたらと、女の身では危機感からの警笛が脳裏に響く。
 しかし、それにしたって千明は肉棒に興味を引かれ、できれば少しは観察していたいような思いに駆られていた。
 そういうことには、少しくらい興味がある。
 オナニーもたまにするので、彼氏はいなくとも、挿入から得られる快楽について、妄想としては何度も思い浮かべている。
(いやいや、見ちゃいかん見ちゃいかん!)
 千明は必死に俯いて、湯気の漂う湯面だけに視線を注ぐ。
 身の危険のある状況だ。
 性犯罪の被害に遭いかねない、かなり深刻な恐怖を抱くべき状況なのだ。
 もっと震えた子犬のようにして、ぷるぷると恐怖を感じる方が正常な反応で、チラチラと肉棒の様子を窺うのは、まともなことではないはずだ。
 とはいえ、やはりおじいちゃん達だ。
(い、いくら勃起してたって……歳が歳だし……)
 少なくとも、強姦だの輪姦だの、そこまでの恐怖を感じる必要はないのではないかと、相手の歳を思うと、妙な楽観視が頭の片隅に入り込む。
 その時には無意識のうちに視線が上がり、正面や左右の肉棒を、やはりまた伺ってしまうのだった。
「お嬢ちゃん」
 と、真正面。
「さっきから」
 次は右から。
「気にしているようじゃのう?」
 そして、左から。
「えーっと、何のことでしょう……」
 心が冷え込む。
 この三人が一体何を指摘してくるつもりなのか、もう既にわかりきっている。違う違うと、誤魔化したいようにして、千明はぐっと俯くが、もう手遅れなことは頭の中ではわかっていた。

「そんなに」
「おチンチンが」
「気になるかのう?」

 一体、何を三人で台詞を分割して喋っているのか。
(いやそんなツッコミをしてる場合じゃなくて――)
 一気に熱を注ぎ込まれたようにして、千明の脳は瞬く間に温まり、頭が沸騰に近づいていく。
 いざ声に出して指摘され、尋ねられてしまったことで、ただ気づかれるよりも、もっと余計に恥ずかしくなってくるのであった。
「いやぁ……だって、そのですね……」
 頭の中には言い訳が浮かんでくる。
 何か目立つ物が周囲にあったら、視線がチラチラとそこへ行くのは当然だ。あくまで目立つ物があるからで、特別に男性器だから見ているわけではないと、弁解が浮かびはしても、それを口にすることはできなかった。
(言えん! 苦しすぎる!)
 必死になってその通りの論理を唱えれば、いかに見苦しい言い訳に見えるだろうか。
 なので浮かんだ言葉を吐き出せず、千明はただ羞恥に歪んだ唇をぐにゃりと閉じ合わせるばかりであった。
「だったら、お嬢ちゃんも立ってくれんかのう?」
 と、真正面から。
「はい!?」
「だって、観察したじゃろう?」
「そりゃもう、チラチラとさりげない感じを装って」
 右から、左から、千明が今まで取った行動について、さらに具体的な指摘が飛んでくる。
(言うな! それ以上言うな!)
「好奇心旺盛じゃのう?」
「いくらでも見てええんじゃぞう?」
「のう、お嬢ちゃん」
 真正面のおじいちゃんは、一歩前へと迫ることで、亀頭を少しばかり近づけてくる。左右のおじいちゃんも立ち上がり、それぞれ亀頭を肩に近づけ、一瞬だけ押しつける真似さえしてくるのだった。
「ほれほれ」
「立ちなさい」
「お嬢ちゃんだって見たんだから」
 そして三人がかりで圧をかけてくる。
 千明には様々な感情が渦巻いた。
 男三人に襲われたら、いくらおじいちゃんが相手でも、色々と危ういのではないか。そうでなくとも、年上が三人がかりで圧力をかけられたら、心理的には屈しそうになる部分と、確かに人の体の一部をチラチラと伺いすぎたような気はする部分とで、何か断りにくいような気持ちが出来上がる。
「あ、あははは…………」
 千明の中で何かが壊れた。
 少しばかり壊れた笑みを浮かべて、真っ赤な顔で手足の筋力を緩めていく。そうしてガードを解いていき、促されるままに千明はお湯から立ち上がるのであった。
 何か逆らえないような気持ちになりきって、千明はこの羞恥の運命に従っているのであった。
「おおっ」
「ええのうええのう」
「孫も今頃、こんな体なのかのう?」
 三人の視線が一気に裸体を這い回り、胸や尻を熱っぽく観察される。
(う、うおおおおおお!)
 恥ずかしさで頭が回る。
 今すぐにでものたうち回り、壁に頭をぶつけ続けたい衝動にさえ駆られてくる。
(やばい! やばい! やばい!)
 薄らとした膨らみの、乳首へと視線が注がれる。アソコの見た目を確かめようと、しゃがみ込んだ視線が真っ直ぐに注ぎ込まれて、陰毛すら確認される。
 後ろ側を覗き込み、お尻にまで視線は這ってくる。
 全ての恥ずかしい部分を見られ、頭の内側では沸騰の勢いが加速した。脳がぶくぶくと泡立つ感じが強まって、お湯から漂っている湯気は、まるで千明の顔から噴き出たかのようだった。
「可愛い胸じゃのう?」
「お尻もええ具合じゃ」
「わしも高校生じゃったらのう?」
 まさに羞恥地獄である。
 三人がかりで視姦してくる上、しかも体に対する感想まで口にしてくる。その一言ずつが千明の胸を締め上げて、ますますのたうち回りたい心境にさせてくる。
(お断りだお断り!)
 この人達が高校生だったとしても、誰が付き合うものか。
「そうじゃ、背中を流してやろうかの」
「おお、ええのう?」
「お嬢ちゃん。こっちじゃこっち」
 急に思いついたように一人が言うと、もう次の瞬間には手首が掴まれ、千明は洗い場の方へ向かって、手を引かれ始めるのであった。
「え? あのー。体はもう洗ってあって……」
 少しだけ抵抗しながら、しかし本気では抗えずに、千明は洗い場へと引っ張られる。
「ええからええから」
「ほれ、座るんじゃ」
 とうとう洗い場へ到達して、千明は椅子に座らされる。
(いや、ちょっと待て!)
 千明の中で、戦慄ものの予感が膨らむ。
(これは……これは……)
 この状況は、三人分の手で体中を触られることになるのではないか――。
「そういえば、孫の面倒を見てやったこともあったのう」
「ああ、わしは……」
「そうそう。交通事故に遭うより、もっと前じゃったか」
(だから何で悲しいエピソードがあるんだ。色々と言いにくくなるじゃないか……)
 おじいちゃん達は、ボディーソープのポンプから、それぞれ中身を手の平で泡立て始める。
 千明はすっかり固まっていた。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ――――――)
 緊張のあまりに石のようになりながら、頭の中には同じ三文字が延々と繰り返される。
 せめて背中だけであって欲しい。
「んひっ!」
 その背中にいざ触られた時、ビクっと反応しながら背筋を伸ばし、反らし気味にまでなりながら、緊張による全身の硬度を上げていく。
 真後ろに陣取ったおじいちゃんは、背中や腰に泡を広げる。滑りの良さでもって這い回り、蠢いてくる感触に、千明の体中に鳥肌まで広がっていた。
(うっ、うおおぉ……!)
 まるで虫でもくっついてきたようだ。
 服の中にイモムシでも入って来て、一刻も早く取り出したくて仕方のないような、悪寒と戦慄が背中全体を駆け巡る。
「それじゃあ」
「わしらはこっちじゃのう?」
「ちょ……!」
 左右から伸びてきた手は、太ももを中心に洗い始める。やはり泡だくの手の平は、ぬるぬると滑りが良く、表皮を滑らかに這い回る。
(なんだ! なんだこの状況は!)
 三人分の手に触れられ、体を撫で回されている。
(ぬおっ、お、お尻まで……!)
 しかも背後のおじいちゃんは、背中を上下に撫で続けていたかと思うと、尻の上端にまで指を這わせてきた。膨らみの北半球を狙い済まして、明らかに集中的にくすぐってくる。
 肝心な部位に触れられて、千明の体はさらに硬度を上げる。もしも緊張による硬さが体表に現れて、本当に皮膚の硬度を上げるとしたら、千明の全身は今頃ダイヤモンドである。
 時間が経てば経つだけ、千明の体に泡は広がる。
(ぬおっ、おぉ……おぉぉ…………)
 引き攣っているのか、強張っているのかもわからない、滑稽な表情が鏡に映り、千明自身の視界にそれは入った。自分のおかしな顔を見たところで、とても表情を取り繕っていられるような状況でなく、千明はやはり固くなる一方だ。
 肩や二の腕、肘から指先にかけてまで、泡は塗り広がってくる。
 さらに左右のおじいちゃんは、腹や腰へと手を伸ばし、前側まで洗い始めた。
(も、もしや……もしや……!)
 当然、その予感は膨らんだ。
 肩を揉むかのように、後ろから両手が置かれると、背後のおじいちゃんも鎖骨に向かって手を滑らせ、あからさまに接近させてくる。
 徐々に迫っていた。
 鎖骨よりもう少し下まで指先はやって来て、左右のおじいちゃんも肋骨や鳩尾に手の平を這わせてくる。
 どう考えても、だんだん近づいている。
 ついには端っこのあたりに指が触れ、全身がまたもピクっと反応した。
(やばい……もうやばい……もう無理だ……あ、あたしは……あたしはここで、色々と諦めることになるのか……)
 三人のおじいちゃんの全ての指が、端っこを触っている。あと一センチも進めば乳房のエリアに踏み込むような、それとも既に乳房に触っている最中でもありそうな、境界線の微妙な部分を中心にくすぐられ、何やら体が反応を示してしまう。
 乳首に血流は集まって、だんだんと突起していた。
(だ、駄目だ……揉まれてしまう……)
 観念したように目を瞑り、膝の上でぎゅっと拳を固めた時、とうとう乳房が触られた。はっきりと明確に、膨らみが指先で押し潰され、マッサージが施される。
(お、うおぉ……は、初めてが……胸のバージンが……!)
 左右からは横乳が、背後からは北半球が、指先だけでくにくにと揉まれている。千明の持つ膨らみは、薄らとしていながらも、確かな変形を繰り返した。
(あっ、あぁ……なんでだ? このシチュエーションで? こんな形で体が反応しているというのか?)
 恐ろしいことに、気持ち良かった。
 泡のおかげで表皮での滑りがよく、ぬるぬると這ってくるせいなのか、そのマッサージが血行を促進する。乳首に血流は集中して、限界までの突起を果たした時である。
「あっ、あ……んぅ……!」
 ついに乳首まで触られた。
 上からの両手が乳首にまで絡みつき、くりくりと転がし抜くような刺激をしてきた時、千明の胸には甘い電流が走り始めていた。
 しかもアソコまで反応した。
 胸が気持ちいいことに釣られてか、クリトリスにすら血流が集まって、ヒクヒクと蠢きつつあることを千明は感じる。自然と太ももを引き締めて、すりすりと擦り合わせた時、それが左右のおじいちゃんの目に止まったらしい。
「おやおや」
「ここがええんか?」
 なんと二人の手は股へ移って、アソコを触ろうとしてくるのだ。
「ままままま待ってくださ――――」
「ほれ遠慮しなさるな」
 反射的に両手で覆い、ガードしようとする千明なのだが、それは素早く阻止されていた。気づけば背後のおじいちゃんにより、どちらの手首も掴まれていた。
 股に指は潜り込む。
 引き締めたはずの太ももは、しかしあっさりと開かれて、ワレメに指は当たるのだった。
「んっ、んおっ、あぁぁ……!」
 性器への愛撫が始まり、その思わぬ刺激が体を襲う。
「おっ、あっ、あぁぁ――――」
 千明は驚愕に目を見開いていた。
 オナニーの経験は正直あるが、自分の指で触るのと、人の手でやられるのでは、明らかに感覚が異なっている。こうまで快楽は変わるのかと、驚きに震えていた。
「ヌルヌルしとるのう?」
「感じ取るのかのう?」
 左右の男は二人して、ニヤニヤと千明の顔を覗き込む。人に快楽を与えてやって、それを大手柄のように思った顔が視界を占めた時、千明は必死に首を振って否定する。
「嘘はいかんのう?」
 アソコを愛撫している手は、右側のおじいちゃんのものだった。
「あっ、あぁ……!」
 クリトリスに指が掠めて、より強い電流が背中を駆ける。
「ほれ、これに興味があるんじゃろう? 見るがええて」
 そして左側のおじいちゃんは、急に立ち上がるなり顔に近づけ、太いものを見せつけてくる。竿の横側が目の下へ、頬のあたりへ触れて来そうに迫った時、千明の視線は吸い込まれ、血管の浮き出た皮を無意識に観察してしまった。
「あぁ……あっ、んぅ…………!」
 続く愛撫に喘いでいるうち、今度は背中にぷにりと何かが当たり、背後のおじいちゃんは亀頭を背骨のラインに擦りつけているのだとわかった。
 もういっぱいいっぱいだった。
 ありとあらゆる意味で、千明は限界を迎えそうであった。
「あっ、んぅ……んっ、んぅぅ……!」
 心理的な限界もさることながら、太ももが急にもぞもぞと、肩のあたりもそわそわと、しだいしだいに全身が落ち着きをなくしている。
 アソコからは糸が引くようになっていた。
 おじいちゃんがたまに指を離した時、そこには必ず、泡から透明な糸が飛び出ていた。
「あっ、あぁ……あぁ……あぁ……あぁ……あぁ……」
 さらにアソコは高ぶってくる。
 膣壁が興奮して、熱を上げ始めているように、これから何かが起きる予兆のような、未知の感覚がアソコの内部に漂っている。
 その時だった。

「――――――――っ!」

 千明は絶頂していた。
 急にビクっとしながら仰け反って、生まれて始めてイってしまった時、千明はかっくりと意識を失う。
(もう……駄目だ……)
 それが失神直前の意識であった。
 そして千明は後ろへと倒れかけ、背後のおじいちゃんがそれを抱き止めているのであった。

     *

 目が覚めた時、千明はソファーに腰を沈めていた。
「……あれ?」
 千明は首を傾げる。
 自分はいつから、こんなところで寝ていただろう。
 それを思い返そうとした瞬間、温泉で起こった出来事が次々と記憶に押し寄せ、恥ずかしい思いが蘇る。
「あ、あぁ……あぁぁぁ…………」
 耳まで真っ赤に染まっていた。
「夢だ……きっと夢だ…………」
 そう思い込もうとした千明の前に、一人の従業員が立っていた。
「おや、お目覚めですか」
 声がかかってきて、千明はその従業員の顔を見上げていた。
「あ、あの。あたしはいつからここで……」
「お客様はお風呂場の方で倒れていて、何故だかタオルがかけてあったそうです。最初は変なところで寝ているのかと思ったそうですが、やっぱりおかしいと思ったとかで、その女性客から報告があったんですよ」
「あ、あはは……そうですか……お風呂場で……」
 現実は非情である。
 せっかく思い込もうとしてみても、アソコを触られ失神した際の、あの激しい電流さえもが記憶から蘇る。おかげで従業員の説明と、自分がこんなところで目覚めたことの辻褄も合ってしまう。
 それにアソコがムズっとする。
 余韻であった。
 イった時の余韻が未だにあって、アソコが微妙にピリピリと、痺れるような感覚がするのであった。


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