美味しい話には裏がある。
素晴らしい仕事の話が舞い込んで、いい思いが出来たはいいが、それでも待ち受ける末路は悲惨なものだ。
(この作品は前作の続編です)
前編中編後編
魂の抜けきった顔で地道な作業を続けているが、その手際の悪さはよほど他人の苛立ちを煽るものらしい。
「チッ」
日雇いのライン作業中、現場を見回る正社員は、他の誰にもそんな態度は取らないのに、エイジの時に限って舌打ちをしてくるのだ。
普通のバイトも、きちんとした就職もしていない。
そんな立派なご身分自体は、他の日雇い仲間も同じだろうに、二十歳そこそこの可愛い女性の扱いが良いのはもちろん、他の大学生や年配の男性も、まともな態度で接してもらっている。
五十歳の男すら、正社員からニコニコと良い顔を振りまいてもらっている。
(チッ、なんでだよ……)
世間一般の価値観としては、まともに就職している年齢だろうと、関係無く良い顔をしてもらっている。おまけに、休憩時間中も仲間内で楽しく雑談の花を咲かせて、随分とまあ楽しそうなものではないか。
(何が違うっていうんだよ……)
おかしいではないか。
まともに就職をしていない、いい歳をして日雇い稼ぎという身分は同じのはずが、ここまで扱いが違うだなんて。
幸い、給与まで差別されているわけではないが。
エイジは一人、テーブルの片隅でサンドイッチを頬張りながら、楽しそうなおしゃべりを遠巻きに眺め、そして内心で舌打ちしてから目を逸らす。
(何なら、顔だって……)
エイジはブサイクだった。
下顎の妙に引っ込んだ出っ歯の上に、鼻の骨が反り返り、豚鼻のようになっている。肥満体格で腹も出ていてスタイルが悪い、性格も陰気な底辺の男である。
楽しく女性と喋っている中には、エイジに負けず劣らず顔の悪い男もいる中で、自分だけがぽつんと片隅に追いやられている。
この疎外感から芽生えるものは、仲間外れにしやがって、という被害者意識だった。
自分が悪いとは考えすらしていない。
覇気のない顔で、あまりにもぼんやりしながら仕事をしていたのが悪いとも考えない。内向的な性格で、そもそも一人でいる方が楽だと思っていながら、いざぽつんと一人で置かれていると、仲間外れが気になってくる。そんな自分の性格に問題があるとも考えない。
エイジの中では、悪いのはいつだって他の誰かであり、自分には責任がない。
あの舌打ちをしてくる正社員も、他の日雇い仲間達も、みんなでエイジのことを虐めている。無視したり、あからさまに態度を変えるという種類の虐めである。
そんな被害者意識が肥大するうち、誰かのことをどうにかしてやりたいような、何とか思い知らせてやりたい気持ちが湧くも、エイジは胸に手を当てて衝動を抑え込む。
さすがのエイジも、衝動的に犯罪を犯すのはまずいと思った。
釈放されたばかりなのだ。
痴漢や盗撮の罪で捕まり、三年は牢屋で過ごし、やっと出て来たエイジは日雇いで細々と暮らしている。捕まえる前もフリーターの稼ぎで安いアパートに暮らしていたが、今はもっと安いアパートで、食事は豆腐やモヤシばかりである。
いつかこんな暮らしから抜け出して、もう少しまともにやっていきたい。
そのためにも、また捕まるようなことがあってはいけない。
警察の世話になったショックのおかげで、その衝動だけは抑えるエイジなのだが、ろくに発散の方法も知らないので、溜め込むばかりとなっている。
一人でカラオケに行くことすら思いつかず、ストレス発散といったらエロ動画でのオナニーくらい、というのがエイジなのだった。
そんなエイジは憂鬱な顔で仕事を引き上げ、壁の薄いアパートに帰るなり、薄暗い部屋に寝そべり、無気力に天井を見上げていた。
「あー……」
酷いアパートである。
隣の部屋には一体どんな老婆が暮らしているのか、毎日毎日イタコのように、ぶつぶつと呪文を唱える声が聞こえてくる。上の回では男が怒鳴り、その直後に女の悲鳴が聞こえることもしょっちゅうで、一体何が起きているのか、どういう男女関係なのかは考えたくもなかった。
以前のアパートも酷かったが、さらに悪化したようなアパートで暮らしていると、あんな部屋でも懐かしくなってくる。
「なにか……いいこと……」
エイジは薄ぼんやりとした眼差しで、おもむろにスマートフォンの画面を起こし、ブラウザでインターネットを眺め始める。
ものは試しに、仕事を探していた。
だがエイジが求めるのは、今よりもやり甲斐があって、今よりも稼ぎの良い仕事だ。何のスキルもなく、やる気もないのに、条件だけは一丁前のものを求めていた。
やり甲斐も何も、労働アレルギーのあまりに毎日を憂鬱な顔で過ごすばかりで、どんなことになら意気込みを発揮できそうかのイメージもない。
そんなエイジに向いている仕事といったら、まさに誰にでも出来る仕事、日雇いの簡単な作業くらいなものなのだが、エイジは自分の格の低さを自覚せず――というより目を背け、高望みした条件ばかりに目を向けていた。
そして、給与や有給などの条件を見て、これならと思う仕事を見つけこそしても、業種が自分には向かない、自分のやりたいことはこれではないと、何かと理由を付けて応募すらしない。
やりたいことなど、本当は始めから何もない。
自分に向いていると思う業種も、何もない。
だから言い訳を作り出し、ウェブで探すだけ探した仕事をただ見送り、永遠に保留することだけに関しては一流だった。
そして、いつも見ているアダルトサイトの影響で、その手の広告が表示された時、そちらに指が動いてしまうのも、およそいつもの流れである。
もっとも、その仕事を見つけた瞬間だ。
「え!?」
興奮で飛び起きながら、必死になって検索欄への入力を行い始めた。
なんと、アダルト関係の仕事があったのだ。
その情報に目を通した時、何か詳しい情報はないものかと、血眼になってウェブ上を徘徊すると、やがていくつかの有力なページを見つけ出す。
募集情報すら発見して、この時ばかりは喜んで飛びついていた。
「これだ……!」
エイジでもやりたくなるような、これならやり甲斐を感じられそうだと思う仕事がそこにはあった。
*
エイジが見つけたのは、AV男優の痴漢役だ。
つまり、異性の尻に仕事で触れる。
早速のように応募して、電話確認の末に面接の時間を決めると、なんという奇跡か、その場で採用すらしてもらえた。かつてエロジとあだ名を付けられたことだけはあり、その手の熱意を伝えることは、やはり一流なのかもしれなかった。
それに面接時に受けた説明では、顔は出さなくて良いとのことだった。
弊社には独自のAIを導入しているため、出演者の顔に別人の顔を被せて、ディープフェイクの状態で出すことが出来る。張本人の顔を世に出さず、架空の顔で販売サイトに流れると聞かされて、ますます好条件に思えたのだ。
AVに出て来る男には、同じメーカーのものを繰り返し見ていると、またこいつか、と思う顔がたまにある。
無数に存在するAVの中から、たまたま自分の顔が覚えられ、そのせいで社会生活に困る可能性はどれほどあるか。かなり確率の低い話だとは思うが、あり得ないとも言い切れず、ならば顔は誤魔化してもらえる方がありがたい。
すぐにでも撮影企画の話になり、契約書に目を通したエイジは迷いなくハンコを押した。
エイジは駅で獲物を見定める。
標的と決めた女子高生の、ワイシャツから下着のラインが薄らと透けて見えそうな、それにポニーテールのうなじが劣情を煽る後ろ姿にニヤニヤしながら後ろにつき、列に並んで電車を待った。
さながら本物の痴漢のように、こうして駅にいるものの、周りの客はほとんどがエキストラで、目の前の女子高生も、本当はAV女優が制服を着ただけの女性である。
立派な撮影現場というわけだ。
周りにはカメラを持った男もいて、痴漢現場はカメラマンやエキストラの壁で取り囲む。一般人による目撃で、厄介なことにならないようにする形で、エイジかこれから女子高生の尻に触るわけなのだ。
捕まらないことが確定している合法的な痴漢である。
(覆面は邪魔だけどな)
顔は出さなくていい。
そうは聞いていたが、てっきり撮影中はそのまま顔を出し、編集時に後から処理を行うのだと思っていたが、撮影中はずっと覆面で良いと言われたので、ありがたくそうさせてもらっている。
顔を出さずにいる安心感はいいが、顔全体を包んでくる感触は、少しばかり鬱陶しい。
もっとも、それを我慢するだけで痴漢にありつけるなら、安い話である。
エイジはブレザーの背中をニヤニヤ見つめた。
(若くていいじゃん)
本当は成人した女だと、頭の中ではわかっている。
だが、こうして本物の駅を使い、実際に電車を待った上で行う痴漢となると、やはり本物の女子高生を前にした気分になる。この空気感は悪くない。
やがて、電車がやって来た。
本当は人などほとんどいない、数人降りてくれば良いような時間帯の車両は、無人と見間違えそうだった。エイジの並んでいたドアの方には、降りて来る客は一人もおらず、別のドアから一人、もっと遠くのドアから二人、見渡せば本当にその程度の人数がけが降車していた。
列が電車へ入り込む。
エイジは女子高生の後ろについて進んでいき、人混みの中で背後を確保し、ぴったりとくっつきながら、早速のように手を伸ばす。
周囲からすれば、こうして一箇所だけに人混みが出来上がり、周りは空いている状況は、何となく気になるものだろう。だが意外と、大学や会社など、何かの集まりと思って終わりの方が多いのではないか。
エイジはつり革を掴みつつ、右腕をだらりと下ろし、電車の揺れに合わせてさりげなく、決して故意ではない風を装いながら、手の甲でスカートに触れていた。
たった一瞬だけ布地の表面に触れるなり、すぐさま後退することの繰り返しは、撮影前に監督から指示された方法だ。
撮影である以上、コンセプトは守ってもらう。
好き勝手にやるのでなく、軽いタッチから徐々に大胆に、という指示をエイジは忠実に守っていた。
(少し面倒だけどな)
最初のうちは、だからスカートの表面だけに手の甲を掠めさせ、向こうは接触があること自体に気づいていない。
だが、次に触れる時には、尻の感触がわかるまでに押しつけて、その柔らかさを具体的に味わった。やはり一瞬で手は離し、さりげなさと、故意ではないことを装い続けるが、それが微妙に馬鹿らしくも思えてくる。
どうせ相手はAV女優。
自分の役目をわかってここに立っている。
本当の意味でバレないようにやる意味などないのだが、まあせっかくこれで金を稼げるのだ。文句は言うまいと、エイジは指示を守り続けた。
また手の甲だけを押しつけ、尻の感触がわかった途端に引っ込める。
それを何度もやっているうち、女子高生は微妙に首を動かして、後ろを気にした気配を見せ始めた。
(ま、気づくか)
などと、ついつい思ってしまう。
(いや気づくも何も)
だから撮影ではないかと思うわけだが、テレビ撮影のようにして、わかりやすい大型カメラを抱えたカメラマンがいるわけではない。
ハンドカメラでさりげなく周囲に溶け込み、どこからか撮っているのだ。
撮られている自覚を持ちにくく、そして本当に獲物を見つけ、たまたま狙った女子高生に触っている気分になるので、撮影という趣旨が頭の中からたまに薄れる。
(とにかく、そろそろいいだろう)
エイジはいよいよスカートに手を置いた。
(おお……!)
実に素晴らしい感触だ。
生地の厚みを介したその下に、尻山の丸みがある。手の平を這い回らせれば、その形状を感触によって読み取れる。エイジはすぐに鼻息を荒くして、活発に撫で回しているのであった。
(JKの尻! いや、女優だけどさ!)
頭では成人済みとわかっていながら、しかし女子高生に触っている気分になりきって、興奮のあらわになった右手を執拗なまでに蠢かせる。
そして、今度は左手でスカートを捲り上げ、ショーツの上から触り始めた。
感触が変わる。
スカートの生地を介した尻から、ショーツの布だけを介した尻へと触り心地が変化して、皮膚や肉の感触が如実になる。
(こいつはいい!)
エイジは活発に撫で回した。
女子高生――もとい、女優の方にも、何か嫌がるような素振りをするように、監督から指示が出ている。そのせいか、腕を後ろにやってきて、手で自分のお尻を押さえたり、エイジの腕を掴んで抵抗しようとしてくるが、随分と形ばかりのものである。
弱々しい指で袖を掴まれても、そんなものに痴漢を阻止する力はない。
どうせ撮影、エイジは指に力を込めて揉みしだく。
ショーツの上からだけでは飽き足らず、ゴムをずらして手を潜らせ、尻肌を直接触り始めた。
(おおおおお!)
ますますの興奮に駆られ、エイジはせっせと撫で回し、指に力を加えて捏ね回す。
一心不乱にそうしているうち、さらにショーツを引き下げると、エイジはとうとう後ろから抱きついていた。ブレザー越しの胸を揉み、片方の手ではアソコを触り、上下どちらも同時に愛撫をするのであった。
「あっ……やだ……やめて……ください…………」
小さな小さな声で、女子高生は言ってくる。
後ろに回した手で、エイジのことを軽く押し退けようとはしているが、あまりにも力が弱い。
「やめて……いや……やだ…………」
(どうせ演技だろ?)
実際そうだ。
撮影なのだから、それは演技に決まってはいるが、エイジの人柄までそうとは限らない。
(演技のくせにフリだけで嫌がってんじゃねーよ)
邪悪な笑みを浮かべて、ブレザーのボタンすら開き始めるエイジの場合、目の前の女を完全に見下している。男に触られ、性欲処理のために使われる性別に生まれたくせに、一丁前に逆らおうなどとは生意気だと、半ば本気で考えているのだ。
ブレザーのボタンが解放され、ワイシャツのボタンさえもが一つずつ外されていく。女子高生はそんなエイジの手首を掴み、ポーズでは邪魔しようとしているが、本気の抵抗によって、本当にボタン外しを阻止してしまっては、痴漢映像の撮影にならない。
AV撮影の趣旨を逸脱せず、かといって嫌がる素振りも捨てないように、バランスを保つだめの仕草を女子高生の方は意識している。
(だから無駄なんだよ。そんな弱っちい腕で)
エイジの方はというと、女優の演技がわかっているのかいないのか、しだいにあやふやになっていた。
乱暴な手でワイシャツのボタンも外しきり、ブラジャーさえも雑にずり上げ、エイジは乳房を揉みしだく。尻には股間を押しつけながら、女子高生の背中に体重まで預けての、極めて大胆な痴漢行為を働いていた。
誰も気づかないはずなどない。
周囲の乗客がきちんとした一般人なら、今頃は誰か一人は肩を叩いて注意するなり、駅員の呼び出しボタンを押そうと考え始めているはずだった。
エキストラで固まっていればこそ、誰一人としてそんな真似はせず、何も気づいていない一般客の顔を装っていた。
乳首が突起してきている。
その硬い部分に指を絡めて、執拗な刺激を繰り返し、さらには腰を振り動かす。ズボンは穿いたままなのだが、硬く膨らんだ部分を押しつけるべく、やけに活発に腰を働かせているのであった。
*
電車での撮影が終わると、次の撮影現場に移動する。
そのまま電車がてらに渓流のキャンプ場へ向かっていき、今度はそこを舞台にして、痴漢や覗きといったことを繰り広げていくこととなる。
キャンプ場といっても、必ずしもテントを張った寝泊まりとは限らない。
エイジや撮影班らが訪れたのは、テニスコートやプールなど、いくつかのスポーツ設備を山中に用意して、合宿所としても利用可能なスポットだ。
次にエイジが狙うのは、その露天風呂施設である。
(へえ? 湯煙っていいねぇ?)
エイジは覗きを行っていた。
竹作りの柵に穴を空け、その向こうにある女湯を眺めている。ちょうど穴の正面に位置するのは、洗い場で身体に石鹸を塗り伸ばし、体を洗っている二人組の後ろ姿だ。
二人の大学生が真っ白な背中を向け、美味しそうな尻を椅子の上に潰している。湯煙が薄ら漂う後ろ姿は、森林から届く小鳥のさえずりや、遠くに聞こえる滝の音など、自然界の音も合わさることで、実に栄えるものとなっている。
エロスに自然の美しさを掛け合わせ、官能美に仕立て上げた絶景を、エイジは血走った眼で視姦する。
反り返った豚鼻から、興奮による荒っぽい息を吐き出して、極限まで勃起している部分へと、無意識のうちに右手まで忍ばせている。
そんなエイジに対してハンドカメラは向いていた。
AV撮影という関係上、覗き役の姿も撮るという方針に、エイジも同意してのことである。だから覗く最中の姿を傍から見られている形なのだが、最初こそ気にしたエイジも、女体の艶めかしさに夢中になっていくほどに、そんな些末なことを気にしている場合ではなくなっていた。
二人組の女子大生は、やがてシャワーで泡を流し、温泉の方へと浸かり始める。
そちらを覗く手段として、わざわざ脚立が用意されていた。
リアリティを考えれば、こんなものを温泉に持ち込むのは荒唐無稽な気もするが、どうせエイジのアイディアではない。いずれ動画が発売され、レビューで馬鹿にされるとしたら、さしずめ監督あたりだろう。
良いものを覗き見さえできるなら、自分には関係無い。
エイジは脚立に登っていき、壁の向こうにある景色に向けて、双眼鏡まで使っていた。レンズに曇り止めまで施して、大きく拡大した女子大生の入浴姿に、エイジは鼻息を荒げて興奮する。
湯船から谷間が出ている。
乳首が水面のすぐ下あたりにあるような、そんな具合に乳房は浮き出て、水の滴る谷間が湯煙に飾られている。風情あるエロスがたまらずに、今すぐオナニーで射精したくて仕方がなくなっていた。
(巨乳だなぁ? いい乳だなぁ?)
エイジはその心の中で、乳房の品評を開始する。
双眼鏡で拡大した二人の谷間を交互に見比べ、どちらの方が大きくて、どちらの形状が優れているか。点数まで付けながら、湯煙の漂う中の谷間を凝視して、目に深く焼き付ける。
*
その後の撮影場所は川だった。
設定では大学水泳部の合宿となっていて、他に何十人もの女子がいて、それを指導するコーチもいるものとしているそうだが、現場を訪れている女優の数はそこまでいない。
一体、今日の撮影で撮った映像と、その設定と、どう整合性をつけるのかは知らないが、エイジにとってはどうでもいい。
女優の裸を眺めたり、痴漢をやったりして楽しんで、お金まで稼げるというのなら、何の文句もないわけだった。
二人の女子大生が川に入って、水かけっこをして遊んでいる。
どちらも競泳水着を身に着けて、その衣装でもって水泳部という設定を守っているのだろう。
しかし、きちんとプール設備があるにも関わらず、川で撮影とはちぐはぐだとは思いつつ、いちいち指摘するつもりはない。
エイジはまず遠巻きに、二人の水かけっこを視姦した。
川の水深は、二人の乳房がちょうど水面に浮かぶ程度らしい。下乳が水に触れ、立っている分には胸が沈むことはない。流れも弱く、そうそう溺れることはないだろう。
このAV撮影中、エイジは一貫して痴漢役だ。
残念ながら、本番シーンの撮影はないそうだが、AV男優としての仕事が板につけば、腰を振りながら稼げるようになるのも、きっと時間の問題に違いない。
エイジはまず二人から距離を離して、なるべく見えない位置からこっそりと、密かに入水して、ゴーグルをかけて深くへ潜る。
(まったく荒唐無稽なもんだよ)
川での痴漢シーンを撮るのに、ダイビングスーツや酸素ボンベが用意してあるのだ。
まあしかし、痴漢のためだけに装備を整えたり、深い計画を練ったりする一人前の痴漢師という設定らしいので、これくらいおかしな方がいいのだろう。
エイジはバタ足で水底を進んでいく。
その後ろでは、同じくダイビングスーツを来たカメラマンが、水中カメラを握ってエイジのことを追って来ている。痴漢するにも大がかりなら、それを撮るのも大変そうだ。
女子大生二人の位置まで辿り着く。
女優としての実年齢は知らないが、大学生という設定の片割れに忍び寄ると、エイジの目の前では尻がフリフリと左右に踊っていた。
(すごい絶景だ!)
布がぴっちりと食い込んで、尻肉のはみ出た腰は、水かけっこの挙動によってか、胴体が左右にくねっている。左右に振り動かしているようになり、見栄えする光景が出来上がる。
それをエイジは、まずゴーグル越しに視姦した。
(それじゃあ、触ってあげるね?)
エイジは迷わず手を伸ばす。
競泳水着の尻に手を置いて、その瞬間にビクっと、ひどく驚いたように腰が引っ込んでいた。水面の上では、きっとこれでもかというほど背中が反らされている。
(ま、驚くよな)
自分の役を知っている女優といっても、いつどのタイミングでエイジが到達して、脚本通りに尻を触ってくるかは読めないはずだ。
それに撮影上は、痴漢被害に遭った一般人でなくてはならない。仮に何も感じていなくとも、驚いた演技は必要というわけだ。
(じゃあ、もう一人の方っと)
エイジは遠回りのように水底をしゃがみ歩いて、もう一人の尻へと手を伸ばす。やはり競泳水着が食い込んで、魅惑のはみ尻を披露したその場所へと、エイジは指を食い込ませた。
「きゃ! 何何? なにかいるんだけど?」
「だよね? なんかいるよね?」
(いるよ?)
「どういうこと? 河童?」
「いやここ河童の伝説あったっけ?」
(河童ねぇ?)
かの妖怪が痴漢の犯人なら、伝承になぞらえてアナルを狙うに違いない。
下らないことを思いつつ、エイジはまたさらに手を伸ばし、女子大生の尻を握る。触ると同時に手を引っ込め、見つからないように後ろ歩きで下がっていき、やっていることはヒットアンドアウェイであった。
(しかし、思い出すなぁ)
かつて捕まる前、プールでこんな風にして、水中で尻を触ったものだった。
だが、やがて警察が現れ――。
逮捕された瞬間の、苦い思い出を頭から振り払い、エイジは痴漢に精神を傾けることにより、過去を忘れようと懸命になるのであった。
川辺には金髪白人の女性がいた。
彼女もAV女優の一人であり、エイジの獲物となる役を担っている。
日本人の中に一人混ざった西欧人は、少しばかり目立っていた。
人種や髪の色だけでなく、周りが競泳水着や普通のビキニの中で、彼女だけがマイクロビキニを着ているから、格好もあって余計に浮く。
合宿にやってきた女子大生の、バーベキューを楽しむシーンらしい。
女子同士の華やかなバーベキューの周りでは、エキストラによる男臭いバーベキューも行われており、つまり女の周りを歩く通行人の男が、背景としていてもおかしくない、そんな状況設定が作られている。
このバーベキューに盛り上がる現場をフラフラと徘徊して、金髪白人の尻を触るというのが、今回の撮影だった。
(いいケツだなぁ?)
金髪白人の彼女は、ストレートの髪を背中に伸ばし、さらにその下には豊満なヒップを膨らませている。他の誰よりも肉厚で、しかもTバックの紐が尻たぶを丸出しに、男の視線に対していくらでも吸引力を発揮する。
かなりのナイスバディだ。
胸も大きなもので、くびれきった腰に連なる巨尻は、他の誰よりも目を見張る。
エイジは通行人のフリをして、実にさりげなく、すれ違い際の一瞬だけ、ぺたりと手の平を置いていく。手形を貼り残していくような、ワンタッチ限りの痴漢をこなし、そのまま通り過ぎていく。
(おおっ!)
その肌触りにエイジは感激した。
圧倒的な張りの良さと、弾力が手の平に残っている。
「?」
金髪白人は後ろを気にして一度だけ振り向くが、気のせいかと思ったように前を向き直し、肉や野菜の焼き加減や友達とのお喋りの方に夢中になる。
そんな金髪白人の、無意識のうちに突き出された尻へまた近づき、やはりすれ違い際のワンタッチで、エイジは素早く通り過ぎていく。
また金髪女性は振り向くが、やはり気のせいかと思って、バーベキューの方へ意識を戻す。
しかし、あまりに同じことが繰り返されるので、金髪白人はだんだんと周りを警戒し、痴漢の存在を疑うようになっていくのが、この撮影での流れであった。
その撮影のコンセプトに従って、エイジは何度も、何度も何度も巨尻のすぐ近くをすれ違う。
ワンタッチ、またワンタッチ。
合計何回タッチしていることか。
そんな痴漢のうちに、やがて金髪白人はレジャーシートに置いた荷物へ駆け寄って、スマートフォンでどこかへ連絡を行うのだ。
通報である。
撮影場の脚本に沿い、ここで通報という流れに合わせた通話のフリで、もちろん本物警察など呼んでいない。本当はどこにも電話などかけていないのに、通話の向こうに向かって呼びかけて、警察に来てもらうよう、金髪白人は少しだけカタコトの、しかし十分に流暢な気もする日本語で訴えかけているのだった。
それにしたって、さすがに思う。
(なんでビキニかなぁ?)
いくらなんでも、ビキニを着た婦警がやって着て、真顔で話を聞いているなど荒唐無稽だ。
婦警役の女優がやって来た後。
被害について熱く語る金髪白人に対し、婦警はしきりに頷きながら、手帳にペンを走らせている。
それだけを見るなら、被害を訴える市民と、それを聞く警察という、そう不自然はない組み合わせだが、婦警はビキニ、金髪白人はマイクロビキニという状況が、その光景をどこかおかしなものにしているのだ。
(ま、与えられた役をこなすまでなんだけどな)
婦警もまたAV女優であり、そして痴漢の対象だ。
流れはこうだ。
被害者から話を聞いた婦警は、バーベキューの様子に目を光らせ、この中に犯人がいるはずだと捜索を開始する。そんな時、河原を去って行く一人の後ろ姿を見て、婦警の勘が告げるのだ。
犯人は彼に違いない。
どこかへと消える犯人を追いかけて、婦警はたった一人で山の奥へと進んでしまう。
その結果がこうだった。
「や、やめなさい! 犯罪ですよ!」
エイジは婦警に抱きついていた。
「うるせーな! お前だって痴漢されたいんだろ?」
職務質問と称して後ろから声をかけられ、振り向いた先にはビキニの婦警がいたという場面から、少しばかり喋ったところで、エイジは急に襲いかかったのだ。
「そんなわけないでしょう!? 逮捕しますよ!」
「逮捕? 手錠もないくせに!」
周りには誰もいない。
正確にはカメラマンがいるのだが、そのカメラに映る人間は二人きり、エイジと婦警だけである。出来上がる映像としては、目撃者のいない状況で襲われて、男の腕力を前に何もできない婦警という絵が撮れているはずなのだ。
「やっ、いやっ、駄目――!」
「駄目じゃねーだろ駄目じゃ」
エイジは乱暴な言葉遣いで両腕に力を込め、腕力の限りを尽くして抱き締めながら、背中に手の平を這い回らせる。さらにビキニの紐を指先で見つけ出し、すぐさまリボン結びを引っ張ると、奪い取ったブラジャーを投げ捨てた。
「あっ……!」
「いいオッパイだな」
剥き出しになった乳房に両手を伸ばす。
「駄目、駄目……!」
婦警はエイジの手首を掴み、腕力で押し返そうとするような抵抗をしてくるが、AV女優としての嫌がったフリに過ぎない。そこに本気の力はなく、乳房はエイジの指に揉まれるまま、変形を繰り返しているのであった。
「あっ、あぁ……!」
「下の方も確かめてやるよ」
エイジは右手を下へやり、腰の両サイドにあるリボン結びを指先に絡め取る。引っ張ることでショーツも脱がせ、婦警のことを全裸にするなり、すぐさまワレメを指で嬲り始めた。
「あっ、あぁ……!」
婦警は両手でエイジのことを押し返そうとしてくるが、胸板に当たる細い腕には、やはり大した力など籠もっていない。
「濡れてんのか? 痴漢されて嬉しいのか?」
エイジは衝動のままにワレメを擦り、左手では一心不乱に揉みしだく。
そのうちに愛液が指に絡んできた。
(おっ、おぉ……!)
役とはいえ、撮影とはいえ、自分が女を感じさせてやっているのだという、充足感が大きく膨らみ、エイジはさらに活発に女優を嬲る。
唇さえ頬張った。
大口を開けて食らいつき、舌をねじ込みながら行うキスと共に、膣口にも指を埋め込みピストンする。
「んっ、んぅぅ――!」
そして、婦警はガクガクと両膝を震わせて、次の瞬間にはその場で膝を突く。
どうやら、果てたらしい。
それも演技とは思えない形で、随分と激しく震え、エイジの手にも潮吹きらしき滴が当たっていた。
(おぉ……!)
なんと気分の良いことか。
だが残念ながら、この撮影はここまでなのだ。婦警をイカせてやったところで、後ろから他の警察の気配がするので、エイジは慌ててその場を逃げ去る。
そんな脚本指示に合わせて、合図と共にその場を駆け出す必要があったのは、やはり残念なのだった。
どうせなら、本番シーンの撮影も入れて欲しいものだった。
*
自分の出演した映像はどんなものか。
是非とも見てみたいのも当然の話、事前にタイトルを聞いていたエイジは、発売日に合わせて動画配信サイトをチェックする。
「あったあった」
床に寝転びながらスマートフォンを弄るエイジは、そこに新着一覧の中から一つのタイトルをタップする。
『実録! 痴漢師エロジ』
かつてのあだ名そのままなので、抵抗はあったのだが、企画時のスタッフに強く押されて、結局はOKを出したのが、この本名をもじった名前である。
「で、確か合成か何かで――」
顔は別人に変えてあるとか。
そう、聞いていたはず――。
「え――」
だが、エイジは絶句した。
パッケージの画像、サンプル画像、さらにはサンプル動画を見た時の、エイジの戦慄といったらない。
「なん……で…………!」
顔がそのままではないか。
いや、確かに微妙な顔立ちの違いはあるが、合成は合成でも、どうみてもエイジ本人の顔である。
確かに、ずっと覆面を付けていた。
合成でなければ、素顔が出ているはずはない。
「どういう……」
わけがわからない。
一体、これはどういう……。
男優に顔出しをさせるなら、わざわざ覆面など被せた上で、後から合成を重ねるなど、手間をかける意味がない。
その手間をあえてかけた理由は一体――。
「陥れたのかよ!」
エイジは途端に怒りをあらわにした。
そうだ、そうに違いない。
販売ページのあらすじを見てみれば、かつて話題となった事件の犯人は、未だ痴漢師として活躍を果たしていたなどと、まるで実際の事件をモチーフにしたようなことを匂わせている。
しかも、エイジが販売ページを見た頃には、既に誰かが購入と視聴を済ませ、レビュー点数を付けていた。
恐る恐る見てみたレビュー内容はこうだった。
☆3
『前にあったねww エロジとかいうのが起こした事件ww』
☆5
『ネットで話題になった痴漢をモチーフにしたキャラクター。エロジといえば、SNSでアカウントが特定され、炎上状態になっていたものだが、そのエロジの顔写真を男優に合成してまで痴漢師というキャラクターを作った意気込みは良い。
その意気込みを買ってレビューは満点にしたが、実在人物の顔を無断利用している点で、肖像権の問題が気にかかる』
☆1
『制作陣はちゃんとあの事件見た?wwww
婦警をレイプしそうな感じになってたけど、
エロジなんかにあんな度胸ないよwww』
レビュー欄だけではない。
凍りついた表情で、恐る恐るとSNSで検索をしてみれば、三年前の話題が掘り返され、まさかのAVデビューについて語られていた。
『え? あいつAV出たの?』
『お似合いの仕事かな?』
『いや、男優は普通しっかりした人だと思うし、エロジなんかに触られる女優さんが可哀想』
『だよねー』
『ま、顔の部分だけなんか荒かったし、男優は別人じゃない?』
『でなきゃ女優さんマジ可哀想w』
エイジなんかに触られる女優への気遣い、それを通してのエイジへの中傷が大半だった。
そんなものがSNSに溢れかえって、エイジの腸は煮えくりかえり――
「くそ! クソクソ! なんなんだよ!」
声を荒げた瞬間だ。
かつては隣の部屋から、今は天井から、その怒声は響くのだった。
「うるせーぞ! 近所迷惑野郎が! ぶっ殺すぞ!」
「……」
「おめー次騒いだら玄関ぶち破りに行くからな!」
「………………」
そう言っている本人は、隣室のことなど顧みずに女を連れ込み、喘ぎ声を響かせているくせに――。
だが、そんなことを口に出せるはずもなく、発散できない怒りを胸に溜め込み、エイジはただ床に頭を打ちつけたり、軽く床を殴ってみることしか出来ないのだった。
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