前の話 目次




 その夜、和也はカーテンを見た。
「え……」
 そして、そのシルエットに呆然と固まっていた。

 …………
 ……

 あずさと共に帰ってから、夕食や風呂といった時間を過ごし、勉強をきちんとしておこうと座り込む。苦手な部分の復習をしているうちに、集中力が切れてきた頃合いに、あずさからのメッセージでも入っていないか、スマートフォンを見てみるものの、残念ながら何もない。
「どうしたんだ?」
 妙な不安に駆られた。
 いつもなら、特に用事がなくても日常会話のメッセージが入っており、とりとめのないやり取りで適当に時間を潰すことが多いのだ。
『今何してる?』
『勉強中?』
『さっきヘンなニュース見ちゃった』
 というような内容が来ているのが、普段の流れのはずだった。
 まあ、たまたま気が乗らない時もあるだろう。和也自身、いつも当たり前にやっている事柄を、その日その時の瞬間だけ、何故だか妙に面倒臭く感じることがある。特に理由のない煩わしは、それでもあえて理由を付けるなら、気分の移り変わりのせいとなる。
 そして、そういった種類の鬱陶しさは、次の日には晴れていたりするもので、今日のあずさはそれかもしれない。
 だとしたら、あずさとの会話は諦めるしかないのだろう。
 だったら、今日はもうベッドに入り、適当に眠くなるまでゲームでもしていようと、ソーシャルゲームのアプリに指を触れ、ログイン画面に突入する。
 ベッドに入る直前、何となく窓際へ行った。
 その瞬間こそが、それを目撃してしまう瞬間だった。

 騎乗位としか思えない、上下運動の影があったのだ。

 優の家とは隣同士で、窓を開けた数メートル先には、優の部屋の窓がある。向こうにその気があれば、お互いに窓から顔を出し合っての挨拶も可能なのだが、優にそんな気はないだろう。
 そして、部屋の明かりが上手いこと影を作って、カーテンにシルエットを形成することで、たまに優の姿が見えるのだ。ベッドから起きた様子であったり、立って部屋を出て行く瞬間の、ちょっとした影が稀に目につく。
 しかし、あれは……。

「なんだよ……どういうことだよ…………」

 信じられないものを見る目で、和也は目を見開いていた。
 それは世界の終わりを目撃して、言葉も出せなくなってしまったような、驚愕に満ちて震えた瞳であった。

 巨乳の影が動いている。

 男の上に跨がって、一心不乱に上下でもしているように、絶えず弾み続けるその影は、大胆にも乳房を上下にぷるぷると振り動かす。あずさとの肉体関係を持つ和也は、まさにあずさの揺れる乳房を拝んだことがあり、仰向けの姿勢で見上げるぷるんぷるんと激しく動く下乳は圧巻だった。
 その時は下から見上げていた景色を、今はカーテンに映った影を介して、遠巻きに横から眺めていた。
「嘘だよな……違うよな…………」
 そうだ、違うに決まっている。
 だいたい、どこにそんな予兆があったのか。どこにそんな前触れがあったのか。何一つわからない和也には、目の前にある確かな現実の景色を見ていながら、それを現実のものとして受け止めることができずにいた。
 それは夢か幻に違いないと、そう思いたくてたまらない気持ちが強く働き、現実を現実として受け止めることを心が拒否していた。
「……あずさ……今、何してるんだ?」
 放心しきった顔のまま、和也はソーシャルゲームの画面から、通話の画面に切り替える。
 目的はもちろん、あずさとの会話だ。
 あずさが今、どこで何をしているかを知ることだ。
 そこに見えている答えを心で拒み、もっと別の答えがあるはずだと、必死になって思い込もうと、和也はあずさに電話をかけていた。
 頼む、出てくれ……そう願いを込めながら。
「えっ、あぁ……!」
 そして、和也は絶望に顔を歪めた。
『あ、和也? んっ、はぁ……どうしたのかな……?』
 あずさが電話に出たのだ。

 騎乗位の影がその上下運動を停止して、何かを拾うような動作の上で、通話は繋がっているわけだった。

 違う、違う、違う。
 頭の中で、否定の言葉が繰り返される。
「……今……何、してる?」
 恐る恐る訪ねていた。
 もしそこで、うっかり最悪の答えを聞いてしまえば、そこで世界が終わってしまうかのような、切実な恐怖を帯びた顔だった。
『もー。どうしちゃったの?』
「いや、何でもないけど。教えてくんない?」
『ゲームだよ? フィットネスみたいのあるじゃん?』
 いかにもケロっとした顔で、あっさりとそう答えるあずさの声に、ある意味では裏切られた。
 てっきり、恐るべき答えがあずさの口から出て来ると思っていたのだ。
 そこにあってはならない光景があり、和也が電話をかけたタイミングに合わせて騎乗位が止まった以上、いくら心では拒否していても、頭の片隅では覚悟していた。実は優とそういう関係になっていて、セックスをしちゃってますと、打ち明けてくるかもしれないと、全身の冷え切った思いで覚悟していた。
 今だって、巨乳のシルエットはそこにある。
 服を脱ぎ、裸でいるとしか思えない、漆黒の切り絵がカーテンに浮かび上がって、耳にスマートフォンを当てている。顔の高さに物を持ち、それを耳に当てている際の、わかりやすい肘の形がきちんとそこに見えているのだ。
 だが、その覚悟とは裏腹に、本人はそう答えたのだ。
 一体、何をそんなに恐る恐ると聞くことがあるのかと、さも不思議そうにしている顔が、目に浮かぶようですらあった。
「えっと、フィットネスって……」
『ほら、あるでしょ? なんかバーとかグローブとか使って、画面の前で体を動かすみたいな。そういうゲームがあるって、和也も知ってなかったっけ?』
「……あ、ああ! そ、そうだよな! うん、そうそう」
 和也は途端に納得していた。
 そうだ、そうに決まっている。
 常識で考えて、彼氏を持つ女が他人とセックスをするはずがない。優は決して他人ではないが、あずさとは姉弟も同然の関係で、お互いにそういう目で見ることはありえない者同士だ。せいぜい、家族に対するような愛情があるくらいだろう。
 それなのに、どうして優とあずさがセックスをする必要があるというのか。
『ねえ、どうしちゃったの? 何か心配ごとでも?』
「いや、なんでもない。声が聞きたかっただけだ?」
『え? なになに? 今のもう一回言ってくれる?』
 やたらに嬉しそうに、テンションを上げた上擦った声で、あずさはそんなことを言ってくる。
「あー……。もう声は聞いたし、寝ちまおうかなー」
『えー。もうちょっと話そう?』
「いやいや、ゲーム中だろ? 邪魔しちゃ悪いって」
『まーゲーム中だけどさー』
「ま、とにかく悪いけどそろそろ切るわ」
『うん。おやすみー』
「ああ、おやすみ」
 その挨拶を最後にして、和也はすぐに通話を切る。
 すると、カーテンに映った影もまた、スマートフォンの画面を親指でタップしていた。スマートフォンを操作する人の姿を真横から見た場合の、顔が画面に向いている際のシルエットが、確かにそこにはあるのだった。
 そして、次の瞬間にはカーテンが閉まる。
 白いカーテンの上から、遮光カーテンが引かれていき、和也の目の前からはシルエットが消えるのだった。
「まあ、ゲームっつってたもんな」
 和也はそう納得していた。
 だが、胸のざわつきは依然として残っている。
 心からの納得というよりも、そんなことはありえないので、無理にでも否定しておこうとするような、どこか強引な納得なのだった。

     *

 あずさはすっかり、母性に駆られてしまっていた。
 優という可愛い可愛い子供の世話にのめり込み、甘やかすように支えてやり、応援して、成長させていくことへの、確かな喜びを感じ始めていた。
 学校へ行くと言った瞬間、嬉しくなった。
 実際に登校をこなし、無事に友達を作った様子を見ても、やはり嬉しくなってしまった。
 姉の弟に対するような愛情にしても、それにしたって行きすぎていると、自分でもわかっていながら、一度ハマると抜け出せない自分がいる。
(私って……)
 おそらく、年下も好きだったのだ。
 和也のような精悍なタイプは好みだが、それとは別に年下の可愛いタイプにも興味があり、童顔な優のルックスは、実際には同い年でも、そんなあずさのストライクゾーンを突いていた。あずさ自身も知らなかった性的趣向に、すっかり気づいて目覚めてしまった。
 元来の世話好きの一面で、優の面倒を見ることも面白くて、気づけば抜け出せずにいる自分がいる。
(ごめん……和也……)
 心の中で、和也に謝る。
 本当なら、恋人以外にはさせるべきではない行為を、付き合ってもいない相手にさせているなど、きっと許されることではない。
 そうとわかっていながらも、あずさはベッドでセックスを続けていた。
 優の気持ちよさそうな顔を見ていると、どうにも止まらない自分がいるのであった。

     *

 優は騎乗位をしてもらっていた。
「あっ、あん! あん! あん! あん! あん!」
 上擦った声で喘いで、乳房と共に上下に弾む姿を見上げ、肉棒を満たす快楽は言うまでもなく、優は視覚的にも満足感に浸っていた。
 実に艶めかしい光景といえた。
 風呂上がりのしっとりとした肌で、張りのよい乳房を手前に突き出しながら、肉棒の上に腰を落として運動を開始する。悩ましげな、気持ちよさそうな表情で、色っぽい喘ぎ声を出して跳ねる姿は、優の興奮をいくらでも掻き立てていた。
「あぁっ、あん! あぁん! あぁん!」
 乳房は本当にぷるぷると、大胆に揺れ動く。
 日頃はツンと手前に突き出て、重力に逆らうように、僅かにしか下垂をしていないメロンサイズの巨乳は今、上下運動をすることで、初めて激しく揺れている。
 ぷるん、ぷるん、と。
 角度が大きく持ち上がり、そして今度は引き下がる。
 その角度の変化についていうなら、さながらレバーを延々と上下させ続けているような、瑞々しくも活発な乳揺れは、あと何十分と眺めていても、飽きずに楽しんでいられることだろう。
「あぁっ、あぁ……! あぁぁ…………!」
 しかし、その時だった。

 ブィィィ……ブィィィ…………!

 スマートフォンがマナーモードの振動を放ったのだ。
 そういえば、和也にまだ何のメッセージも送っていないと、後で何か会話のネタを送るため、ベッド上に持ち込んでいたスマートフォンは、ところが今の今まで放置され、あずさはすっかりセックスの方に夢中になっていた。
「あ、電話か」
 そして、あれだけ喘いでいたにも関わらず、急に冷静になったようにして、快感に満ち溢れた表情から、普段の平常心の顔に戻る。
 息が荒れたままな以外は、何らの色っぽい気配も感じさせずに、あずさは和也との通話を始めたのだ。
 フィットネスゲームの最中だと言っていた。
 おそらく、何をしている最中なのか、会話の一環で聞かれての答えだろうが、優に勉強を教えていると答えるでも、普通に自分の家にいると言うでもなく、どうしてフィットネスゲームという答えを思いついたのか、優にはわからなかった。
 あずさと和也が通話をしている間中、セックスは中断され続けていた。
 ただ、膣に収めた肉棒は抜かないまま、結合は保ったままに腰を落ち着け、あずさはケロっとした顔で和也と会話を行っていた。
 そのやり取りも終わったところで、あずさは電話を切った後、何やら急にカーテンを気にして閉め始める。そういえば白いカーテンしか閉めていなかったが、何かを思い出したようにして、遮光カーテンを閉めているのだった。
「ごめんね? 続けよっか」
「うん」
 それから、あずさの上下運動は再開される。

「あぁぁ……あっ、あぁぁ…………!」

 嘘のように喘ぎ始めた。
 スイッチの切り替え機能でもあるように、全ての悦楽や火照りを顔から消し去っていたはずのあずさは、たちまち先ほどまでの状態に立ち戻り、一心不乱に快楽を求めていた。
 優は何も、考えないようにした。
 その切り替えの早さに対する一切の感情を切り捨てて、さも何も見ていない、何も起こっていない、そもそも電話など来ていなかったような気になりきって、あずさと交わる快感だけに意識を傾けていた。
 やがて、その活発な動きに搾り抜かれて、優はあずさの膣内に出してしまう。
「あっ、また。こらこら、いくら安全日だからって、次は一応外に出してね?」
 満足そうな顔をして、肩を上下がさせながら、大して怒ってなどいない風に、ミスさえ可愛くてたまらないように優しく注意してくるのだ。
「う、うん。気をつける」
「いい子いい子。次はどうする?」
 あずさは当然のように尋ねてきていた。
「ええと、じゃあ仰向けになって欲しい」
「はいはーい」
 ポジションを入れ替わり、今度は優が上となり、正常位の挿入を受ける気でいるM字へと、そのワレメの上へと竿を乗せ、乳房に顔を埋めにいく。
「ママ……」
「おっぱいが欲しかったんだね?」
「うん」
「いいよいいよ? いっぱい可愛がってあげるからね?」
 あずさは頭を撫でてくれた。
「あぁ……ママ……」
 やはり、安心する。
 頬が乳房に包まれて、その上で頭も撫でてもらえる。愛おしくてたまらないものを扱う手つきで後頭部を撫でられての、うっとりと心が溶けてならない快感に浸りつつ、優は素股を行っていた。
 すぐには入れず、竿をワレメに押しつけて、縦筋の上をなぞる形で性器を味わう。今までの結合と、中出しした精液により、表面がぬかるみを帯びていることで、素股行為による滑りはとても良かった。
 最初のうちは、擦り点けるために腰を振る。
 しかし、やがては挿入を試みて、正常位の結合を果たして快楽を貪った。
「あっ、あぁっ、いいよ……優……!」
 甘い声を吐きながら、あずさは優のことを抱き締める。
「ママ……!」
 優もまた、思いっきり甘えていた。
 乳房に顔を埋めたまま、頬で柔らかさを味わいながらのピストンで、一生懸命になってあずさの膣内を抉り抜き、お互いに絶頂を迎えていった。
 それからまた、優は母乳を味わい始める。
 乳首にちゅぱちゅぱと吸いついて、その味を舌に広げて堪能した。
 しばらくすれば、また体位を変えて挿入し、一晩中かけて快楽を楽しみ尽くし、優はこれ以上ないほど幸せな時間を過ごしていった。

     *

「おはよー」
「おはよう。あずさ」

 そして、和也は気づいていない。
 昨日のカーテンに見たシルエットは、きっと夢だったかのように思いつつ、和也は玄関から出て来るあずさを迎える。わざわざあずさの家まで行き、あずさが自分の家の玄関から現れる場面を見ることで、無意識ながらに安心感を強めていた。
 しかし、和也は知りもしない。
 一晩中のセックスをした上で、あずさはきちんと自分の家に戻って、自分のベッドで眠ってから、こうして和也と顔を合わせているのだ。
 だから、その当たり前の日常は続いている。
 和也にとって、いつもとまったく変わらない、本当にいつも通りの登校時間がそこには流れているのであった。




 
 
 

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