突如として新型ウイルスが流行した。
 パンデミックなどと世間を騒がせ、ワイドショーなども連日のように不安を煽る。そうした中で徐々に判明してきたウイルスの特徴は、十代女性への感染率が極めて高く、逆に男性への感染率が低いことであった。
 しかし、たとえある程度対象が絞られても、感染爆発の危険性は変わらない。
 ライブコンサートやコスプレ会場など集団の集まるイベントは、感染防止の観点から次々と中止となっていき、そうなればスポーツ大会も中止ではないかと危惧された。
 今まで一生懸命練習して、勝ち上がって来た人達にとってはたまったものではない。
 それも、全国大会の延期であればまだしものところ、中止とはってここまで上り詰めた意味は失われる。
 もはや中止とは、恐怖の文字と言ってもいい。
 全国優勝の実績を手に入れて、そのままプロを目指すかもしれない人間にしてみれば、新型ウイルスのせいで将来が失われるという、切実な心配さえあるはずだった。
 だから、なのだろう。
 厳しい条件を選手たちは受け入れていた。
 ショーツ一枚での検診を参加選手全員に行い、なおかつ短距離走に使用する会場には一切の観客を入れないこと。また、もちろん検査で感染が判明した選手は出場停止。こうした条件の下で、中止でも延期でもなく、実施が決定されていた。
 いくら理由があるとはいえ、初めて会う見知らぬ男に乳房を見せる。とても抵抗のある話なのだが、本気で頑張ってきた努力の成果を試すことすらなく、ただただ中止にされてはたまったものではない、陸上に想いを賭ける少女たちの九割近くが同意書にサインをして、一時的な羞恥心を堪えてでも出場を選択していた。
 そして、そんな受診者の一人が現れる。

 住山美佳、高校三年生。
 受験の関係から、高校最後の大会出場となるわけだ。

 既に待合室で服を脱ぎ、看護師に預けてきている美佳は、グレーのスポーツショーツを穿きながら、両腕のクロスをがっしりと固めてやって来た。
 短パンに近い形の、ゴムの部分に英字でメーカー名を記した無地のグレーは、スポーツ用品で有名な会社のマークもプリントしている。その上にある腹筋は、筋肉の気配を凹凸によって薄ら浮かべ、いかに鍛え絞り抜かれた肉体であるかを明白にしていた。
 脚も腕も、力さえ込めれば筋肉が目立つだろう。
 だが、余計な脂肪がそぎ落とされ、腰もくびれたスタイルは、むしろ多くの男性の興奮を煽りそうなものである。
 医師の目の前に用意した受診者用の椅子に座ると、さっそく美佳は会釈を行う。
「よろしくお願いします」
 軽く頭を下げてから、いかにも躊躇いがちに両腕をだらりと下げ、それがスイッチとなったかのように、桃色に染まっていた顔の色合いをみるみるうちに濃くしていた。
 陸上選手にしては大きな胸だ。
 メロンを半分に切ったかのようなサイズ感で、瑞々しくぷっくりと膨らみながら、医師に向けて乳首を咲かせている。
「では早速、触診をしていきますね」
 医師は何の躊躇いもなく、さも当然のように手を伸ばし、美佳の胸を揉み始めた。五指がそれぞれに絡みつき、指の動きに応じて乳房は変形を始めていた。
「…………」
 美佳は何も言わない。
 ただ、耐え忍ばんばかりに目を瞑り、赤くなった頬を少しだけ歪めている。
「こうして乳房に接触するっていうのは、あらかじめご理解頂けているとは思いますが、最近なにか違和感だとか、熱や痛みといったものは感じていますか?」
 医師の指は丹念に蠢いて、乳房に柔らかい変形を与えている。耐えようとする顔の力みが強まって、だらりと下がっていた両腕の、二つの拳にも力が入る。こんな風に胸を揉まれて、いい気分でないのは明らかだ。
「特には……」
「一番最近体調を崩されたのは?」
 問診をしながら、指は止めない。
 目はじっくりと乳房を見て、両手の神経にも意識を配り、揉んでみた感触を確かめる。それは医師が異常の有無を調べるためのものなのだが、どんな意図で、どういった種類の異常を探しているかがわからない美佳にとっては、ただ揉まれているとしか感じられない。
「去年です。ちょっと風邪で」
 揉みしだく指が止まって、けれど手の平は乳房から離れない。
 離れずに、包んだままにしているのだった。
「あまり体調を崩すことはない方ですかね」
 少しだけ、揉むような指の動きが再開するも、あまり活発な蠢きはない。
「体調管理は大事なので、寝る時間とか、体を冷やさないとか、色々と気をつけてます」
「大会に向けた調整もあるだろうしね。普段鍛えて免疫も高いのかな」
 医師の手つきが変わった。
 今度は下から掬い上げるようにして、四本の指先によってプルプルと、揺らしながら顔を近づけ、明らかな乳揺れの鑑賞が始まっていく。
 美佳は静かに目を背け、壁でも眺めているために、顔を横へと動かすだけだ。
「…………」
 何も言わない。
 されるがままに、プルプルと揺らされ続けていた。
「んー。なるほどね」
 医師は前屈みに身を近づけ、顔を乳房に接近させて、そのプルプルと上下に揺れ動く有様を至近距離から『視診』する。この方法で一体何がわかるのか、どんな意味があるのかは、美佳にはわかりもしなかった。
 大きな乳房が織り成す小刻みな揺れは、絶えず振動を送り続けているような、わずかな振幅の幅によって成されている。
 次に医師は乳首を摘まむ。
「んっ…………」
 甘く、小さな声。
 それを発してしまった自分に気づくなり、美佳は慌てたような焦ったような表情で、赤らみを強めて俯いていた。
「どうなさいました?」
「い、いえ……」
 まさか、感じたなどと言えはしない。
 気持ちよかったことは押し隠し、太ももをより強く引き締めながら、膝の上に作った拳をモジモジさせて、美香は乳首の刺激に耐える。
「しかし、大変ですよねぇ? こんな検査受けなきゃいけなくなって」
「え、ええ……まあ…………」
「変なウイルスさえなければねえ? 普通に大会もできるんですけどねえ?」
 医師は美佳の様子に構うことなく、世間話のように語りかけ、さも親しみやすい笑顔を浮かべつつも、その指は左右に乳首を弄り回す。美佳にはわからない触診の作法によって、症状の有無を探っているとはいえ、美佳にはその正当性がわからない。
 どうして、乳首をつまむのか。揉むように、転がすように刺激するのか。
 さらには引っ張り、指を離して、元の形状に戻った乳房をまた引っ張り、伸ばして見せてはまた離す。症状のある乳首なら分泌液が出て来るため、医師はそれを確かめているのだが、そんなことは知らない美佳からすれば、遊ばれているように感じてしまう。
 いいや、れっきとした医師だ。
 これも正統な診察に違いない――触診の作法を受診者も把握していれば、美佳がおかしな疑念を抱く機会はなかったものの、何も知らずに受けてしまっている。だから、おかしいとは思いつつ、仕方がなく我慢しているような、さもセクハラや性暴力に対して何も言えずに黙っているしかないような心境を美佳は抱える羽目になっていた。
「大会に出られなくなるよりは――」
 それだけ、練習に練習を重ねてきた。
 努力の成果を発揮する機会そのものが失われ、誰とも競い合うこともなく終わる結末より、この一時的な羞恥心の方がマシだと、診察を受ける前までは思っていた。
 しかし、やはり恥ずかしい。
「みんなそう言ってますね。やっぱり、みんな大会に命賭けてますからね」
 再び五指が乳房を包む。
 揉みしだく指の蠢きを堪え、ただただ終わりを待ち続けている美佳は、唇を噛み締めながら辛抱強く耐えている。
 すぐそこに、デスクの上にはデジタル表示の時計が置かれていた。
 ……一分、二分。
 長らく揉まれ続ける乳房は、ただ揉みしだくだけでなく、表面を指でさすってみたり、あらゆる角度から指の腹で叩いてみたり、いかにも調べようとする手つきによっても触り尽くされ、散々に調べ抜かれていく。
 医師の視点から見ている以上、美佳自身ではわからない、健康状態はもちろんもっと深い何かまで、詳しく知り尽くしてしまったのではないか。そんな秘密を暴かれていそうな予感に、美佳の頬はより歪んだ。
 さらに一分、また一分。
 単調なまでに揉まれ続けて、一体あと何分間もこうして乳房に触れられていなくてはいけないのか、いよいよわからなくなってきた。
 だからといって、医師は真面目な顔で集中して、いやらしい目つきはしていない。それを疑うわけにはいかず、大会出場権のことを思っても、やはり黙っているしかない。
「はい。乳房は終了ですねー」
 やっとのことで手が離れ、触診から解放されるも、安心しきるにはまだ早い。
 乳房の視触診が終われば、今度は次の内容に移るのだ。
「では立って下さい」
 丸椅子から尻を浮かせる美佳は、両腕で胸を隠しつつ直立する。普通の下着よりも、まだしも恥ずかしさを抑えられると思って穿いたスポーツショーツは、露出度でいえば競技用の短パンと変わりはないが、人前に出るための衣類ではない。
 水着姿は見せられても、下着姿は見せたくないかのような微妙な具合で、スポーツショーツもやはり好きで見せたいとは思わない。
 十分に、美佳は羞恥を堪えていた。
「内股のリンパをみていきますね」
 やはり、医師にはいやらしい目つきの気配もなく、むしろ真面目に勉学にでも励む表情で手を伸ばす。もはや疑惑を持たせてもくれず、命や健康に関わるからと、迫り来る男の手を迎え入れ、美佳は大人しく触診を受けていた。
 内股の、アソコに極めて近い位置にべったりと、手の平は張り付いている。揉むようにさするようにしてくる手は、いかにも性器に触れてきそうで緊張する。あと一センチかその程度、指が少し上に来ただけで、一番大切な部分に触れられてしまうのだ。
(大丈夫……たぶん、大丈夫…………)
 不安にまみれていながらも、大丈夫に違いない、平気なはずだと、美佳は自分に言い聞かせていた。
 ほどなくして、内股のリンパは終わる。
 もう片方の太ももにも触れられて、十分な触診をされてから、これで診察の半分以上は終わったところだろうか。
 しかし、まだ続きは残っている。

「次はいよいよお尻ですね」

 肛門を調べることは、始めからわかっていた。
 美佳も覚悟の上でここにいて、お尻の穴を見せてでも大会に出場したい。陸上のために鍛え抜き、絞り込んだ肉体を駆使して全力で走りたい。勝負に賭ける想いを胸に、今はどんな恥ずかしさにも堪えるつもりで立っていた。
「後ろを向いて、椅子に両手を突いて下さい」
「………………はい」
 背中を向け、上半身を倒していく。
 お尻を差し出す無防備なポーズを取るだけでも、乙女心のある少女には辛いものがある。診察とはいうものの、ポーズだけを考えれば、どうぞ自由に撫で回して下さいと言っているようなものである。
 まず、手が乗った。
「ではいきますからね?」
 と、そんな開始直前の、ちょっとした挨拶のためだけに、何らの悪意もなく突き出されたお尻に手を乗せて、ポンポンと軽く二回ほど叩いていた。
 そして、指を下着のゴムにかけるなり、あまりにも呆気なく、簡単にショーツを下げてしまっていた。
「やぁ……………………」
 何の力もない、小さな小さな悲鳴。
 美佳が穿いていたグレーのスポーツショーツは、一気に膝の位置まで下げられて、生尻が医師の眼前にあらわとなっている。腰を突き出す姿勢で尻の割れ目も広がって、肛門が丸見えとなっているのはおろか、その下にある乙女のワレメも視線に晒されるままだった。
「まずはね。肛門の色合いから確かめていきますので、そのままじっとしていて下さい」
 左右の尻たぶに、医師の両手ともが乗せられた。
 直後に迫る顔の気配に、男の眼球がまさにお尻の真後ろに、至近距離にあることが如実に伝わる。体温から放たれる熱気と、皮膚に触れてくる息遣い。そもそも、尻たぶに乗せられている手の温度まで、全てが美佳に辱めを与えている。
「んー。なるほどねぇ?」
 医師は肛門を観察していた。
 色合いはどうか、腫れた気配はないか、不自然な角質は、吹き出物は、そういった症状の有無から感染しているか否かを見つけ出し、早期発見であれば治療する。専門的な目をもっての観察でも、美佳にとってはただ視姦される気持ちと変わらない。
 放射状の皺を凝視して、視線によってその皺の一本一本をなぞっていく。
(恥ずかしすぎる…………!)
 美佳は丸椅子の上で拳を固め、力ませ震わせて、肛門の視姦に耐える。お尻の穴ばかりでなく、アソコさえもが医師の視界に収まっているに違いない。本当は性器も観察されているかもしれないことを思うと、余計に顔が羞恥に歪む。
「ご自分のお尻の穴がどんな色か、おわかりになりますか?」
「え? いえ、そんなの」
 知るわけがない。
 自分では見ることも困難な部位のことなど、急に聞かれてもわかりようがなく、そんな質問の存在自体に驚きながら美佳は答えた。
「綺麗な桃色でして、黒ずみもあまりなく、とても素敵ですよ?」
 褒められた。
「え…………」
 お尻の穴を褒められるということが理解できず、困惑のままに固まる美佳は、極めて微妙な表情を浮かべていた。
「そう……ですか…………」
 困った反応しかできなかった。
 そして、それから沸き上がる感情は、鏡を使うかなにかして、どうにか工夫しない限り、自分では確認不能の部位の色合いを知られた事実に及んでいた。自分ですらしらない情報を暴かれて、しかもそれが肛門にまつわることだということに、もう自分の顔から湯気が出ているような気さえしていた。
「では肛門括約筋に力を入れたり抜いたりしてくれますか?」
(な、なにそれ! 何の意味が?)
「さあ、お願いします」
(本当に……難の意味が……やるしかないのかな…………)
 泣きたい思いをぐっと堪え、美佳はお尻の筋肉を意識する。穴の周りに力を入れ、キュっと引き締めてみたところ、肛門がきつく締まろうとしている感じが自分でわかる。
「続けて下さい」
 そう言われ、美佳は何度もそれを続けた。

 きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、

 何度も何度も、肛門に力を入れては抜く。
 入れては抜く、入れては抜く。
 肛門で芸をやらされているような屈辱に、言い知れぬ感情を抱えながらも、医師の指示があるまでは堪えて続けた。

 きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、
 きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、きゅっ、

 本当に、これで何がわかるというのか。
 叫び出したい気持ちも堪え、美佳は肛門をヒクヒクさせ続けた。
「いいですよ」
 終わってもいい合図を受け、すぐさま美佳は好意をやめるが、こんな人に肛門を見せつけるポーズのまま、安心も何もない。
「体温を計りますね」
 次は体温計だった。
 金属の先端が肛門に当たるなり、先端の丸まった細いものが、美佳の体内へと埋め込まれ、あたかも尻尾を生やしたようになってしまう。
 尻たぶに両手が乗った。
「それにしても、よく鍛えられてますよねぇ?」
「え……」
 美佳は困惑した。
「お尻の筋肉がしっかりしていて、これで足の回転がよくなるんですね」
 いかにも感心しきったような医師の声から、まるで悪意を感じられない。女の子が嫌がることをしている自覚が欠片もなく、自分が痴漢やセクハラをしていること自体に気づいていない。ただただ、アスリートの鍛えた筋肉に興味を示した風な医者は、しかし美佳のお尻を撫で回しているのだった。
「あの――」
「ああ、失礼」
 やっと気づいたように手を離し、ちょうどよく体温計の音が鳴る。
 肛門から引き抜かれ、異物感が消えると共に、医師が温度を書類に書き込む。そのボールペンが紙を引っ掻く音を聞き、バインダーの紙をテーブルに置いた気配で、書き込みは終わったのだと美佳にもわかる。
「では粘膜を採取します」
 次は綿棒を差し込む検査であった。
 お尻の穴へと、先ほどよりも細いものが挿入され、傍からすればやはり尻尾を生やしたような有様となる。
「今回のウイルスって、色んな場所に症状がでますから、これくらい色々なチェックをしないと見逃しちゃうんですね」
「そ、そうなんですか…………」
「このまま、お尻の穴をもう一度パクパクさせて頂けますか?」
「えぇ……はぃ…………」
 やるしかなかった。
 先ほどのようにキュッ、キュッ、と、肛門括約筋を引き締めるなり直後に緩め、また力を入れてはすぐに緩める。
 キュッ、キュッ、キュッ――。
 と、そうすることで、お尻に刺さった綿棒は上下に動く。
「うーん。なるほど」
 観察しているのだろう医師に向け、絶えずキュッ、キュッ、とやり続け、綿棒はレバーの上下のように、リズミカルに切り替えが行われた。
「はい。ではこれで終わりにして、最後に指を挿入しますからね」
 ぐっと緊張が高まった。
 お尻から綿棒が遠のいていき、何かケースに入れている音の気配を聞き取る美佳は、すぐさまビニール手袋を嵌める物音に気づいていた。お尻の穴に指を入れ、中身を直接確かめるための準備が進んでいるのだ。
 体温計、綿棒。
 そして、指。
 今までは『物』が挿入されたが、今度は男性の身体の一部である。より大きな緊張感が沸き起こり、唇のまわりを強張らせる。
「ヒヤっとしますよー」
 指先が皺に触れ、ひんやりとしたジェルを塗りつけられ、それにビクっと腰を震わせた美佳は堪えに堪えた。
 肛門を触られている。
 ジェルを塗り伸ばすため、ぐるぐると皺の窄まりをなぞっている。ジェルが肛門の皮膚に浸透していき、十分に滑りが良くなって、いよいよ指が突き立てられる。人差し指か、中指か、どの指なのか、美佳自身にはわからないが、とにかくそれは挿入された。
 ずぬぅぅぅぅぅ――と、入っていき、指の根元までが美佳のお尻に収まった。
(や、やだ……ううっ、気持ち悪い――――――)
 医師の人には悪いと思うも、肛門に指を入れるなど、肉体関係の恋人でなければ入り込む余地のない領域に踏み込まれている。それを不快に思い、尻に鳥肌を立てるのは、いたって自然な反応なのだった。
「すぐ終わりますからねぇ?」
 医師は内部を探っている。
 指を回転させながら、指の腹であらゆる角度を擦り抜き、腫れか何かを探している。炎症の一つでも見つかれば、症状ありの判断が下ることは理解ができる。
 しかし、辛かった。
 ただ探るだけでなく、若干のピストンを帯びてヌプヌプと、ちょっとした出し入れさえも行われている。まるでアナルの性行為で、とにかく美佳は唇を噛みながら耐えていた。拳を固めて肩も力んで、全身を歪ませながら耐えていた。
 ようやく指が引き抜かれ、ジェルの残った肛門が拭き取られる。
「はーい。お疲れ様」
 この言葉を聞くなり、すぐさま美佳はスポーツショーツを穿き直し、胸も隠して丸椅子に座り直した。
「ははっ、恥ずかしかったねぇ?」
 恥ずかしいどころじゃない。
 人にお尻まで拭いてもらう恥辱感は、とてつもないものだった。
「じゃあ、後日検査結果が出て、陽性であっても初期症状であればワクチンが出ます。症状が進行してしまっていると、現状では治療薬の開発が不完全なので、残念ながら出場停止となりますので、そのところはご理解下さい」
「はい」
「では、いいですよ」
「――ありがとう、ございました」
 美佳は診察の場を後にした。
 陽性か陰性か、結果が出るまでわからない。
 胸やお尻に残った診察の余韻を引きずりながら、待合室へ出て行く美佳は、ライバルとなる選手とすれ違う。彼女もまた、既に下着一枚まで服を脱ぎ、両腕で胸を隠して医師の元へと向かっている。
 これから、美佳と同じ目に遭う。
 そして、美佳よりも順番が早かった選手達は、既に遭った後なのだ。

 こんな目に遭ったからには――。

 絶対に出場したい。
 優勝したい。
 ここでの恥辱も屈辱も、全て大会にぶつけてみせると、美佳は強いメンタルで強引にでも自分の心を切り替えているのだった。




 
 
 

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