【変種ウイルスについての手記】

 実験中に生まれた変種だが、どのような条件下で、どういった方法によってこのタイプに変化するのかは不明である。これが生まれた条件を再現しても、意図的に生み出すことには成功しない。何か見落としがあるのだ。
 ただ、その特徴は明らかになった。
 基本的に男性にしか感染せず、人間や動物の男の体内に侵入すると、まず真っ先に睾丸を目指して移動を行う。そこで生まれる精子を吸収して、やがて性器を独立した生物へと変化させていく。逸物の主を食い殺し、巣立ちするというわけだ。
 どういうわけか、女性や動物のメスに入り込んでも、ウイルスは体内で死滅する。これも詳細は未解明だが、男性の肉体でないと生きられないらしい。
 除去する方法は至って簡単だ。
 射精時の精液と共に、ウイルスは大半が体外へ放出される。睾丸に居着くため、精液と一緒に出てしまうのだ。
 もっとも問題なのは、感染中の男性は刺激を感じにくくなっており、自慰行為による放出は困難となる。女性の協力を得なければなかなか排泄できないのは、おそらくウイルスが心地良い住処に定着しようとする際の作用である。


 ベッドと机に、それから棚には血清が並んだ保管室で、レベッカ・チェンバースは身体を休めていた。
 毒蛇に噛まれたリチャードの治療を済ませ、そのリチャードが体力を取り戻すなり、屋敷を調べるために部屋を出た。一人残って部屋で待機しているのは、ただ休むばかりでなく、ここにクリスが戻って来た際の手当てを行うためだ。
 ここにある薬品の量は限られているが、ある程度は何とかなる。
 ただ、何もせず過ごすのも退屈な話で、せっかくなら部屋の中を漁っていると、睾丸で成長するという変種ウイルスについての手書きの資料が出て来たのだ。


【変種ウイルスについての手記 2 】

 風邪のような発熱とだるさ、加えて勃起が収まらなくなる。ウイルスによってペニスや睾丸の血管が拡張して、血流が増幅するためである。そして、精子以外にも、血液が運ぶ栄養分を奪い取り、成長していく。
 精子が主食のようだが、他の栄養分も糧にしながら、睾丸内部で周囲の細胞に働きかけ、やがて独立した生物の肉体を形成していく。睾丸に心臓が出来上がり、亀頭には脳が生まれ、最後には手足を生やし、牙を剥き出しにして主を襲う。
 自分のペニスに喰われて死ぬなど、なんて死に様であろうか。
 このウイルスの名前だが、ペニスにちなんでPウイルスとするか、はたまたは……。
 まだ名前は決まっていない。


 そんなウイルスがあるなんて……。
 と、そんな感想を一人こぼしたのは、もう何時間も前の話か。ここまでクリスが顔を見せる気配はなく、そろそろ自分も屋敷の探索に加わろうと考え立ち上がる。
 その時だった。

 バン!

 と、向こう側から、ドアに何かが激突した音にぎょっとして、すぐにゾンビを警戒して、戦慄しながら、レベッカは咄嗟に銃を構えていた。ドアに狙いを定めつつ、ゾンビの腐った顔を見た瞬間に、引き金を引くつもりでいた。
 しかし、実際にドアが開いて、そのまま倒れ込んで来る男の姿に、レベッカは即座に銃を下ろして駆け寄った。
「クリス!」
 鍛え抜かれた太い腕に手を触れて、レベッカはすぐに怪我の状態を気にかける。衣服に広がる赤色と、何かが刺さったような穴の存在は、ちょうど蛇か何かの鋭い牙にやられたものと伺える。
「レベッカ……どうやらしくじったらしい……」
「立てますか?」
「ああ、何とか……」
 問いかけるに、クリスはどうにか両手で床を押し返し、とても辛そうに、苦しそうに、自分の身体を持ち上げる。ふらつきながら立ち上がったクリスの、今にも再び倒れそうな顔色の悪さに、見ていられずに腕を貸す。
 ここにやって来ることさえ大きな試練となっていたのは、見るからに明らかだった。
「さあ、こっちへ」
 ベッドへと導いて、クリスを寝かせた。
 すると、すぐにそれが目についた。
 とても立派な高らかな山となり、ズボンを大きく押し上げている存在感に。嫌でも視線は吸引され、レベッカはそれを見てしまっていた。
「……すまない。どういうわけだか、気にしないでくれ」
 申し訳なさそうに、気恥ずかしそうに、クリスは顔を背けて壁に視線を流し始める。
「い、いえ! こちらこそ!」
 ジロジロと凝視しぎたことで、こちらこそ申し訳が無いかのように、レベッカは慌てて顔を背けていた。
 体調を崩し、苦しそうな、辛そうな表情をしていながら、それでいてズボンの中身は元気ときている。それにチラりと視線をやり、もしやと思い至ったレベッカは、今度は治療の一環として尋ねないわけにはいかなくなる。
「その、それなんですけど、噛まれてからでしょうか」
 資料で見た変種ウイルスの存在が頭にちらつく。
 もしそれなら、クリスの股間が未知の怪物に変化するという、笑いたくても笑えない状況になってしまう。
「ああ、確かに、そんな気が……」
「重要なことです。ちゃんと思い出して下さい」
 普通、勃起のことでここまで踏み込んでしまうのは、デリカシーがなく気遣いに欠けている。殊更にからかうような性格はしておらず、ならば下手に触れないのが本当だが、レベッカにしてみれば、目の前の患者を救えるか否かに関わる情報だ。
「……噛まれてからだ」
 さすがの真剣な表情に、クリスははっきりと断言した。
「聞いて下さい。ここにあった資料の中に、変種ウイルスについてあったのですが――」
 そう切り出し、レベッカはウイルスの特性について説明していく。その驚くべき症状や治療の方法に、みるみるうちにクリスは引き攣り、最後には呆れるべきか悩むべきかもわからない、全ての言葉を失った表情だった。
「つ、つまりだ。レベッカ。俺は君に助けを求めないといけないのか?」
「……まあ、そうなります」
 レベッカとしても、進んでそういうことをしたいわけではない。望まない性行為を前にした面持ちはクリスにも伝わって、だからクリスもクリスで、おいそれと頼む気持ちになれなくなる。
「と、とにかくだ。まずは自分で試すのが筋だろう。どうしても駄目なようなら、君に大きな借りを作ることになる」
「わかりました。一旦外に出ています。試し終わったら、呼んで下さい」
 そうして部屋を出るレベッカは、ドアに背中を預けたり、適当に廊下をふらついてみたりしながら、クリスに呼ばれるまで待ち続ける。
 どうであろうか。
 あの資料の通りなら、自分の力ではどうにもならない。

「レベッカ」

 ドアの向こうから、大きな声で名前を呼ばれ、レベッカは部屋に戻った。
「どうでしたか? って、聞くまでもなさそうですね」
 半身を起こしたクリスの様子は、やはり何とも言えないものだった。できるだけ挑戦はしてみたが、成果がなかったことに気に病むように、本当に頭に手を当てて悩ましくしていた。
「君も本意じゃないだろう。嫌かもしれないが、こっちも命がかかってる」
「……わかってます」
「大きな貸しを作る」
「もう、いいですから、とにかく何とかしましょう」
 レベッカはクリスの肩に触れ、横になっているよう目で告げる。従うままにクリスはベッドに背中を沈めていく。仰向けとなった男のズボンに手を伸ばし、たどたどしい手つきでベルトやチャックを開いていくと、雄々しく立派に聳える肉棒を目の当たりに、ほんのりと顔を赤らめていた。
 血清、飲み薬。
 もちろん、そういう方法でいいのならそうしたい。しかし、資料にそんな手がかりはなく、サンプルを採取して薬を開発するような暇も時間も、この状況でありはしない。わかりきっている手段を取るしかない。
「では……」
 レベッカはそっと手を伸ばし、右手によって包み込む。快楽を与えるために上下にしごき、加減もわからず単調に続けていく。どこまで気持ち良くなっているのか、それとも上手くできていないのか、どちらの実感も持てずに繰り返す。
 指圧のような力を入れると、石の固さが指に伝わる。
 それをどんなに上下にしても、ここまで硬い逸物を相手に、まるでびくともしていないのではないかと思えてくる。
「どうでしょうか」
 とうとう、レベッカは訪ねた。
「ああ、とてもいい。だがいつ射精できるかどうか」
 そんな答えに焦りも生まれる。
 このまま精液が出ることなく、時間だけが経っていけば、やがて手遅れの時を迎える。症状が進行してからでは、処置のしようがなくなるのだ。クリスの生死に関わる焦燥は、この手で人の命を救えるかどうかのものでもある。
「失礼します」
 意を決して、レベッカはベッドに上がった。仰向けの姿勢で伸びきったクリスの足の、膝のあたりの位置に跨がり、まるで土下座で上半身を倒していくかのように蹲る。手コキで何分、何十分とかかるかがわからないなら、それ以上の刺激を与えるしかないと踏んでいた。
「おい、何もそこまで……!」
 クリスは咄嗟に起きようとしていたが、そんな元気さえなく、股間の逞しさに反して肩が少し浮いた程度で力が抜けていた。起きることもできずに倒れ直して、手だけでレベッカを押しのけようとしているも、その肩を押そうとする力さえ、あまりにも弱々しいものだった。
「命がかかってます。やらせて下さい」
 レベッカは自分の肩に乗せられた手を掴み、どかしていき、改めて唇を近づける。
 するのは、初めてだ。
 性行為自体、あるのは知識のみ。
「はむっ」
 と、レベッカは亀頭を咥え、生まれて初めてのフェラチオを開始する。頭を上下に動かして、口内にはクリスの亀頭が出入りする。さらには手による刺激も続け、懸命な奉仕を行った。
「ちゅぶっ、じゅぅ――ずっ、はじゅっ、ちゅるぅぅ――――」
「うっ、レベッカ――……」
「じゅぅぅ……じゅっ、ずっ、ずうっ、じゅっ、じゅむぅ――――」
 太々とした剛直に向け、顔を上げては下げている。上下運動によってクリスの脚や腹や陰毛も近づいては遠ざかる。しだいしだいに、亀頭からもう少し先へ、さらに先へと唇を押し進め、口内に入りきる限界まで、レベッカは肉棒を飲み込んでいた。
「じゅむぅ……じゅっ、ずりゅぅ…………じゅぅっ、ずぅぅ……………………」
 少しでも早く、射精をさせなくてはならない。こうしているあいだにも、症状はどこまで進んでいるか。最初は抵抗感があった行為だが、やはり命がかかっているからには、レベッカの奉仕はそれ相応の懸命ぶりとなっている。
 唇に力を入れればいいだろうか、舌を巻き付けるイメージか。ヨダレは使うべきか。精液を排泄させようとする思いから、どうするのが適切な措置かという考えが頭を巡る。ただ肉棒を口に出入りさせるだけの行為に、それ以上の特別な方法など浮かびはせず、せいぜい歯を立てないように、舌を使いこなすことだけに集中するしかできなかった。
「ずるっ――ずぅ――ずっ、じゅぅ――じゅむぅ――はじゅっ、すずぅ――」
 早く、早く取り出さないと。
 ウイルスの除去に気持ちが焦り、その分だけ口技にも磨きがかかる。
「レベッカ……! もう……!」
「出して下さい――ずぅぅ――ずじゅるぅぅ――――」
 レベッカの口内へと、精液の噴水が噴き上がる。喉の奥にぶつかって、頬の内側にもべったりと、まるでペンキをぶちまけたように汚れている。
「じゅぅぅ……ちゅぢゅぅぅ………………」
 こぼさないため、吸うようにしながら頭を上げ、肉棒を解き放つ。まるで表面に粘液を塗りたくってあるように、クリス自身の精液によって汚れたそれは、決して白濁色などではない。手の平に吐き出せば、それは緑色の粘液だった。
「俺の中に、そんなものが」
「このタイプは男性の肉体でしか生きられないようです。これで大丈夫だと思いますが、念のためにもう一度だけ出しておきましょう」
 レベッカはもう一度するつもりで、ひとまず手の平に吐き出した精液をティッシュに拭き取り、改めて同じフェラチオを始める体勢についていた。
「ああ、そのだ。もちろんありがたい。いい思いをさせてもらった。だが一回で十分じゃないのか?」
 クリスはそれを制止した。
「命に関わることですよ? 油断してまずいことはあっても、念を入れてまずいことはありません」
 止めてくれるクリスの意図はもちろんわかる。
 欲望を満たす機会に、理性を優先してくれる気遣いもわかる。
「そうかもしれんが、俺自身驚いているんだ。俺のものから、そんな緑色の……。ただでさえ我慢してやってくれたんだろう? だからもう十分だ」
 そんな風に言いたいのは、聞くまでもなく伝わっていた。
「いいえ、十分じゃありません」
 しかし、レベッカはきっぱりと言う。
「レベッカ」
「あなたがいるといないとで、私の生存だってかかっているんです。もう一度させて下さい」
 だから、譲るわけにはいかなかった。
 一度の射精で抜けきれていなければ、ウイルスは睾丸で繁殖を繰り返し、もとの量まで戻ってしまう。まだ残っている証拠のように、クリスの逸物は立派なままだ。二回でも三回でも、本当は抜いておきたい。
 もちろん、そういう関係ではない男への奉仕という抵抗はある。
 だが、やはりそれどころではない。
「どうあっても、二回目をすると」
「はい」
「わかった。これは二回分の貸しだ。必ず返す。ここを出たら、何でも言ってくれ」
「考えておきます。なので、今は……」
 はむっ、と。
 改めて咥えるレベッカは、そうして再び精液を取り出した。二度目の射精も緑色混じりで、しかし本来の白濁も混ざっており、もしやこれでウイルスは抜けきったのかもしれない。
 いや、まだ不安だ。
「貸しは二回分までで構いません。完全に白いものしか出なくなるまで――」
「お、おいっ」
 レベッカは本当に、緑色が一切混ざらない、純粋な精液しか出なくなるまで繰り返し、それでもなお豪胆な勢いでそそり立つ肉棒の、優れた勢力に生唾を飲みながら、クリスの肉棒を下着の中へ戻していき、開いたチャックを閉じていく。
 これで、クリスは助かるはずだ。
 数十分後には体調を回復して、しきりに礼を言ってから、クリスは屋敷内の探索へと去っていく。レベッカもまた、屋敷の中や外を散策して、犬やゾンビに弾の数を減らしつつ、やがては地下施設に行き着いた。
 ウェスカーが黒幕であることなど、この時はまだ知らない。
 だが、やがてはタイラントの前まで辿り着くのだ。




 
 
 

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