しかし、翌日。
放課後の高校から出て、すぐさま古本屋に向かってみて、周りには誰の視線もないことを確かめてから、恐る恐ると『痴漢に気づかぬ女子高生』を手に取った。
インターネットでの試し読みがなかったのだ。
不親切な出版社なのか、そういったサービスが行われておらず、ホームページに繋いでみるも、作品紹介ページにあるのは表紙とあらすじ、それから挿絵が一枚。本文から一部抜粋した文章も載ってはいたが、肝心の試し読みがないのでは、内容を知るには物足りない。
日頃、一度立ち読みをしてから買っているのだ。
だから、内容をわかってから買うというのが、真美の中では当然化しているのだ。
それなのに試し読みページがなく、ネットから確認できる内容が薄いのでは、もはや実物を読んでみる以外に手はなくなる。
そんな理由から、運良くもオジサンがレジから姿を消しているうちに、本当にはしたないとは思うのだが、官能小説の立ち読みを開始した。
冒頭には本が大好きな女の子が早速のように登場して、おこずかいが少ないから、やりくりしながら趣味を楽しむために、普段は古本屋で小説を買っているという人物描写が行われ、そのまま立ち読みをしているシーンに移っていく。
おこずかいの額が大きい真美とは少し違うが、やりくりしているのは同じである。
作中、主人公はSF小説を読んでおり、この子が読んでいるのはこのようなあらすじの、大宇宙を舞台にした冒険とアクションに満ちた作品であると、そう伝えてくる文章が、ページの中にはひとしきり書かれている。
時折、ページを捲っている描写が挟まれて、読書に集中しているシーンで内容は進んでいく。
そのまま、主人公の少女は本の世界に囚われていく。
すっかり夢中で、架空の世界に没入しきっていることまでが書かれてから、いよいよもって少女の背後には一人の男が忍び寄る。
(店員さん…………)
真美の立場に置き換えれば、あのオジサンが真美のお尻を触ってくるようなものである。
さわ、
と、途中からは神の視点に変わっていた。
集中力のあまりに、少女は気づいていないのだが、男はこのようにしてお尻を触っている。だから本来なら、この子はこのように男の手の平を感じているはずである。鼻息の荒い男から、その熱い息がうなじに噴きかかり、スカートを撫で回す手は活発になっているのが、気づいてさえいればわかるはずだ。
といった具合に書かれている。
少女が感じていなくてはならない感触を描写しつつも、少女の心は小説の世界に入り込み、現実に何が起きているかはわかっていない。
そのように説明しつつ、そのまま痴漢の描写は進んでいく。
――まさに、真美の背後には本当に店主のオジサンが忍び寄り、触り始めていることにも気づかずに。
スカート越しに、本当に存在している手の平の感触に、真美は少しも気づいていない。
(手の平をべったりと貼り付けて、ぐるぐると撫で回す男の手つきは、お尻の形を丹念なまでになぞっている。片方の尻たぶを確かめると、もう片方の尻たぶへ移っていき、丸みと膨らみの具合を丁寧に味わっていく)
真美はそんな痴漢の世界に没入していた。
そして、妙に想像力が働いていた。
読んでいるうちに、ありもしない男の気配が本当に背後に現れ、真美のお尻を触っている。スカートの上から触っているだけで、何ページもかけて文章を費やしているのだが、指で肉をつまんでいたり、揉んでいたり、撫で方がぐるぐると回すようであったり、左右に動き続けるのであったり、上下に撫でるのであったりと様々だ。
その感触が真美のお尻に現れていた。
スカートを捲られることにより、脚にかかっていたはずの、丈の気配が遠のいていく。白いショーツの尻があらわとなり、そこにスマートフォンが向けられる。何枚も何枚もかけて行われる撮影で、おぞましいほどの容量を盗撮だけで食い潰す。
真美はそんな描写の中に入り込み、ある意味では想像力から、夢中のあまりに痴漢をされている気になっていた。
ショーツの上から触られて、手の平の温度がお尻でわかる。手が接している部分に意識をやると、その手がどれほどの大きさで、指の一本一本はどの程度の太さなのか。お尻の皮膚を通じて頭の中に浮き上がる。
そう、真美は夢中なのだ。
ページの上に書かれた文字に取り込まれ、だからこそお尻の上に手の感触が現れている。それは本来なら、真美の頭の中だけの出来事なのだが、まるで真美の妄想と一致するかのように、実在の痴漢が実際に立っているのだ。
真美には現実と空想を区別できない。
区別も何も、架空の世界観に入り込み、没入しきって夢中でページを読み進める。集中しきった脳が生み出す幻の感触は、そもそも読書に熱中しているだけの話にすぎない。小説の文章が想像を膨らませ、如実なイメージを作り出しているだけなのだ。
ただ、そこに本物が重なっていることに真美は気づかない。
本に入り込めば入り込むほど、今のページに書かれた触り方が皮膚に現れ、幻の感触が真美のお尻を揉みしだく。大胆に指を押し込み、そこまではっきりと指が食い込めば、さすがに気づくものではないかというほどに捏ねられる。
そのうち、男は股間を当てて来るのだ。
始めはズボンの中にしまったまま、テント状に膨らむ股間のピラミッドで突いてくる。右の尻たぶをぷにりと押したら、左の方もぐにっと押す。すぐにベルトの金具を外し、トランクスの中からつまみ出すと、お尻の割れ目に挟まんばかりに腰ごと密着させてくる。
お尻が温かい。
ほかほかのカイロで温めてくるかのような、ほどよい熱気を帯びた棒状の感触が、真美の尻に密着している。ショーツ越しの割れ目に押しいって、尻山に挟まろう挟まろうと密着をしてきている。
それはどこまでいっても、真美にとっては架空の世界に浸っているだけの話に過ぎない。
本当に股間が当たっていることなど、気づいてはいなかった。
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