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 夕暮れの日差しが差し込み、店内を赤焼けの色に染め上げる。
 古堂真一が経営する古書店は、高校から徒歩数分程度に位置する個人経営の店なのだが、インターネットを利用した通信販売を中心に、マニアが高額で買い取るような希少本のやり取りで成り立っている。ゲームやCDの中古販売もやっており、ネットオークションへの出品もやっている。
 だから店が店として繁盛している必要はなく、レジを通した買い物からの収益は、真一にとっておまけのようなものである。
 何を気に入ってのことだろう。
 そんな真一の店にたびたび訪れ、気に入った本を立ち読みしては、時折買っていくこともある少女がいた。
 高校が近くにあるから、きっとそこに通う子で、よほど読書が好きな子だろう。
 名前はわからない。
 ただ、週に数回以上は現れて、たまに買っていく常連なので、さりげなく「いつもどうもね」といった言葉をレジでかけたことがある。店の前を箒で掃き、掃除をしている最中にやって来たので「いらっしゃい」と一言かけたこともある。
 そのせいか、入店時に目が合えば、会釈をするか、「こんにちは」や「おはようございます」の挨拶が飛んでくる。出て行く時にも、会釈をしていくことがある。毎回はないが、ある時はあるといった具合か。
 常連とはいっても、それ以上の交流は特にない。たまたま訪れたお客さんと、その店の店主という、それ以外の何でもない。
 実のところ、それだけの関係だろうと、真一はその子の来店を楽しみにしている。
 胸が大きいのだ。
 ブレザーを内側から押し上げて、胸元の曲線が大きな山となっている。スカートは太ももの半分あたりの位置に丈を合わせた短めなもので、そこから白い太ももを露出している。丈を持ち上げるお尻の曲線は魅惑的で、スカートを捲った内側のボリュームはどんなものか、想像が膨らんでしまうところである。
 髪は肩甲骨のあたりにかかる長さのセミロングで、ストレートを下ろしている時もあれば、ポニーテールでうなじを出していることもある。見るたび見るたび、そのどちらかの髪型になっているのは、気分によって二種類を切り替えているのだろう。
 黒縁眼鏡をかけており、地味な印象が妙に強い。
 が、そんな印象の中に隠れたルックスは、なかなかに可愛らしいものである。第一印象でいくら地味で大人しそうなものを醸し出しても、美貌は隠しきれていなかった。
(今日はポニーテールか)
 真一は少女の真後ろにポジションを取ると、ブレザーから見える白いうなじに目をやって、それからスカートの尻を視姦した。
 日頃、この子のことを見ているうちに気づいたのは、非常に集中力が高いところだ。立ち読みの最中は周囲の物音に気づかない。
 ひょっとすれば、火事が起きても気づかない。
 というのも、何週間も前、店の付近でガードレールにぶつかる車の事故が起きたのだが、その際の激突の音が店の中に響いて来て、ぎょっとした真一が慌てて外の様子を見て来たのだ。自分の店から何メートルも離れた位置での、こちらには被害の及んで来ない事故であったことに安心しつつ、すぐさま警察や救急車への連絡を行った。
 この子はというと、それほどの物音にも関わらず、じっくりと本を読み、ページを捲る以外は文字を追うための瞳しか動かさない。あとはぴくりともせず、静かに静かに読み耽り、思わず「おーい」「お客さん」など、意味のない声をかけ、その集中力の高さを思わず確かめてしまったくらいだ。
 まるで壁に話しかけたかのように、その子からの反応は何もなかった。
 周りで何が起こっても、たとえ世界がどうなっても、一度集中力の世界に入った少女は全てのことに気づかない。
 そうとわかって、衝動にかられてやってしまったことがある。
 初めて行った時、犯罪に手を伸ばしてしまった事実に始終心臓は高鳴り続け、夜も眠れぬ毎日の中で、今にも突如として警察が現れ、自分を逮捕するに違いない妄想にさえ陥った。激しい後悔の念が沸き溢れ、それを補って余りある興奮の材料が、盗撮に使ったスマートフォンからパソコンの中へと移してあるのだ。
 スマートフォンのカメラを差し込み、パシャリとやった人生初の一枚は、純白ショーツを逆さ盗りにしたものである。
 それだけなら、確かにAVでも見た方が、単純に卑猥さには優れている。
 しかし、この手で、自分の力で手に入れた一枚は、AV女優でも何でもない、ただの一般の高校生を被写体としたものだ。ネットに転がる、ヤラセと本物の区別などつきようもない画像より、自分で撮ったこれにこそ価値があるのは言うまでもない。
 罪悪感や理性より、欲望が勝った真一は、その後も恐る恐ると盗撮を繰り返し、ついにはスカートを捲り上げ、じっくりと観察したことまである。経験を重ねるうちに、集中力が深い時と、そうでない時の区別までもがつくようになってきて、慣れきってしまった今では、もう当初の罪悪感や後悔の念には囚われない。
 さながらプロであるように、いけるタイミングとそうでないタイミングを見極める。今はいけると踏んだ真一は、今日も痴漢に踏み切った。
 真一はスカートの上に手を置いて、お尻の肉をたっぷり詰め込んだ丸みをなぞり始めた。

 すっ、すり……すぅ……すり……しゅり……すしゅ……すり…………。

 音の無い世界で、無音が張り詰めるからこそ、時折思い出したように聞こえて来るのは、店の前の車道を乗用車が走り抜けていく走行の音である。それ以外の何の雑音も存在せず、強いていうなら、少女がページを捲る音があるくらいか。

 すり……すり……すっ、すぃ……すぅ……すり、しゅっ、すしゅ…………。

 そんな中で、唯一存在している雑音は、真一が少女のお尻を撫でての、手の平がスカートを擦る小さな音だ。あまりにも小さく、弱々しい衣擦れの音は、もしも店内にBGMの一つも流せば、簡単にかき消される程度である。
 お尻というより、スカートの表面をわずかに触っているようなタッチだ。
 わかりやすく揉んでは、さすがに集中力を断ち切って、バレることになるだろう。
 あくまでも、強すぎない手つきを意識して、スカート越しにフォルムをなぞる。

 すぅ……すう……すっ、すぅ……。

 上下にさすっていると、手の平を使って尻山を登り、カーブの向こうへ下っていく感触が如実になる。お尻の下弦の、太ももの生え際というべきか、尻のタレ目のラインに四指を引っかけ、そのまま振り子のようにする。

 すり……すり……すすっ、すぅ……すりぃ……。

 手の平の部位でも、足でいうかかとにあたる場所は、確か手根部というらしい。真一は手根部を支点にして、指先を左右に振り動かす。タレ目のラインを四指でなぞり、感触によってありありと形をイメージしていきながら、真一は股間を膨らませる。
 気をつけないと、もっと激しいことをしたい衝動にかられてくる。
 しかし、こうしてお尻に触るだけでも、発覚するリスクは高い。
 真一は少女の集中具合を確かめながら、慎重に指を押し込む。強くしすぎれば簡単に気づかれてしまうだろう。皮膚の表面を本当にわずかだけ、手首に指を当てても脈がわからないほどの弱い指圧で揉み始める。
 スカート越しに、表面だけをあまりにも辛うじて変形させている。
 背徳感へのスリルもあった。
 まるで少しでも扱いを間違えれば起爆する爆弾のように、専門的な知識の元に扱わなければならないようなつもりになりきって、慎重に慎重に揉んでいる。そのあいだにも少女は文字を脳に流し込んでいる様子で、ページを捲るも触られていることには気づかない。
 もう片方の尻たぶに手を移し、同じくなぞり回して揉んでいく。
 五分近くは堪能して、真一は手を離した。
 スマートフォンを取り出して、しゃがむなりスカートを捲り上げると、今日のショーツは輪切りにしたオレンジの柄が散りばめらたものだった。ベースの生地は白であっても、果実で飾っているせいか、純白というよりも、限りなく白に近いまでに薄めたオレンジの布といった風に見えて来る。
 カメラの音消しアプリをいいことに、真一はスマートフォンにそれを収めた。
 何枚も何枚も、同じお尻のために大胆にストレージを食い潰し、これで何百何千というコレクションが集まったかもわからない。その日の盗撮だけで、毎回のようにありとあらゆる角度から、写真を撮り尽くしているのだった。



 
 
 

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