次の日曜日も、麗華は校長の呼び出しを受けていた。
用事は当然、一つしかない。
決まりきった用件を断るわけにはいかず、嫌でも従うしかない立場の麗華は、憎悪と苛立ちを抱えて学校へ向かう。今回はどういう事をやらされるのか。最悪の仕打ちを受けるため、麗華は校長室を訪れた。
コンコン。
性行為なんかのために、わざわざ外出し、ここまでやって来る手間なんかをかけた嫌さを噛み締め、半ば暗い気持ちでノックしていた。
「おはようございます。麗華さん」
厚顔無恥な校長の笑み。
「どういった用件にせよ、最速で済ませて下さい」
「おや」
「自分のやってる事をわからないとは言わせない。そんな奴の顔も見たくないのは、当然です」
「嫌われましたねぇ? いいですよ? あなたがどう思っていようと、懸命なあなたは従ってくれるのですから」
「……っ!」
麗華は歯噛みした。
脅迫対象が自分一人であれば、麗華はとっくに警察へ行くなりしているのだ。屈辱的体験を喋ることになっても、こんな犯罪者を野放しにしないためだ。自分ならば、それくらいは耐えられる。
だが、後輩女子の写真を盾に、自分以外の人の命運を握られ、麗華としては勝手な行動が一切取れない。
相談はした。
問題の後輩と話をして、一緒に警察へ行かないかと。
結果、後輩は首を振った。
後輩はこの一件にすっかり弱気だった。例え写真を握られようともお構いなく訴えよう。などと気概を持てるのは麗華だけで、後輩はひたすら自分の裸の流出を恐れている。
問題が問題だけに、気合いや根性論で「立ち向かえ!」とはさすがに言えず、具体策を思いつけないまま時間だけが経ち、この日曜日に再び呼び出しに応じている。
それはまるで、校長の手の平の上にいる気分だった。自分だけの問題なら、むしろその方が戦いやすかったこと。後輩を気遣うあまり、そのせいで手も足も出せないこと。それら全てが校長の計算通りで、気ままに踊らされているこの状況が、とにかく恨めしい。
後輩のことさえなければ……。
とにかく、歯がゆかった。
優れたプランが浮かばない自分にも、腹が立つ。
今は耐え、無残な扱いを受け入れながら隙を伺う。確実性のない、賭けに近い計画だけが麗華の中には薄っすらと、浮かんではいる。それさえも、実行の段階には至っていない。
唯一の救いは、現在の被害者は自分だけらしいことだ。後輩はもう過去の被害者で、ひとまず手は出されていない。他のクラスや学年にも、特に脅迫を受けている者はいない。
救いとはいえない救いだが、これ以上他に人質同然の生徒がいない事は、麗華にとって有り難かった。
「さーて。前回は胴着でフェラチオをしてもらいましたが、今回はなにをしましょうかねぇ?」
校長はわざとらしく、嫌に高い声を上げて迷ってみせる。首を大きく傾げ、どうしよう、どうしよう、と執拗に声に出して見せながら、全身の挙動まで交える。その姿は完全に舞台演技じみており、麗華の苛立ちを煽りたいのがよくわかった。
そして、相手がわざと煽っているのだとわかったところで、苛立ちを上手く抑えられるほど感情のオン・オフなど器用にできない。
剣道の試合でなら話は別だ。その強さ故、執拗な煽り行為や挑発を受けたこともあり、多少のことは無視したり、軽く流せるような耐性がある。
だが、自分の体、性の強要に関わる内容なのだ。
どうしても感情が沸き立って、ふつふつと心が煮えるようになってしまう。こんな状況でまで感情をオフにして、何も感じずにいられるほど、高度な心のスイッチはさすがになかった。
「ま、ず、は。全裸にでもなってもらいましょうか?」
腰を折り曲げ、わざわざ下から顔を覗き込む、鬱陶しい上目遣いで麗華を見る。
「どうする気ですか?」
麗華は校長を睨み返す。
「心配なさらず。今日は貸切ですよ? 他の先生方はいらっしゃらない予定なので、見つかる心配はありません」
いや、そもそもこの部屋で何かをする分には、鍵でも閉めておけばいい。貸切、誰もいないという言葉自体が、まるでこれから行うプレイ内容を暗示しているようで、麗華に若干の不安がよぎる。
「警備は? 用務員は」
「ああ、それはいますよ? ま、そんなに歩いちゃいませんから大丈夫ですよ。見つかる心配をするほどではありません」
「……やっぱり。全裸で、外でも歩けと?」
「あくまで校舎内です。本当に外に出すほど、私も馬鹿ではありませんから、ご安心を」
「何がご安心だ……」
手や口を使う分には、もちろん死にたいほど真っ平なのが本心とはいえ、微粒子程度にマシではある。部屋を出て、校舎内とはいえ全裸徘徊を強要されるくらいなら、室内で胸でも揉まれた方がいくらかいい。
どうせ、いつ本番まで要求されるかわからない身だ。
貞操の危機に変わりはない。
人に見つかるスリルなんかに肝を冷やすくらいなら、まだ安全な室内を望みたい。全裸徘徊を行うなど、ただでさえ嫌なこの状況に、屈辱の上乗せだ。
「万が一見つかりでもしたら、あなただって困るはず」
「大丈夫ですよ」
「なんでそう楽観的なんだ!」
麗華は自分の意見を通そうと食い下がり、なんとか校長側に妥協させようと押し問答を繰り広げる。あくまでも譲らない姿勢の校長は、余裕と煽りを交えた嫌らしい笑みで、適当な言葉を並べて麗華の意見を跳ね除ける。
大丈夫、平気平気、問題ない。
そんな言葉を無造作に並べられ、それでも麗華は交渉を試み続けた。
だが……。
結局、校長を折れさせるのは無理だと、麗華がそう悟るまでのあいだ、無意味なやり取りが続いただけだった。無理だと判断してようやく、麗華は悔しい思いで校長の指示に従った。
「さ、全裸ですよ?」
麗華はスムーズに服を脱ぐ。躊躇い、恥じらいで手を止めることなくセーラー服を脱ぎ、スカートを脱ぎ、下着を外しにかかっている。
恥じらいはある。屈辱もある。
怒りで手も震えていた。
ただ、初々しく脱ぐのを躊躇ってみせたところで、それが校長を喜ばせる事くらいは想像がつく。少しずつ肌が見えていく瞬間こそ、男を余計に楽しませる。どうせ全裸を強要されているというのに、脱ぐ行為までジロジロ見られるのは、プラスアルファで不愉快だ。
だから、麗華はさっさとブラジャーを外していた。
一見ケロっとして見える表情の裏側で、本当はこんな男の目など潰してやりたい激しい気持ちを抑え、パンツを脱ぐ。もはや下の毛を見られようとも、表面上は動じなかった。
「脱いだけど?」
どうせ全て観察される。
全裸になった麗華は腰に手を当て、片手で机をバンと叩くようにしながら、そこへ脱いだものを置く。手で胸を隠したり、アソコを隠すような動作は取らなかった。
恥じらいはある。証拠に顔が染まっている。
怒りか羞恥か。あるいはその両方か。
それはともかくとして、身体にも微かな痙攣に見える震えがあり、肩が薄っすら揺れていた。
我慢強さがよく出ていた。
麗華はとっくの昔に、もっと尊厳を剥奪するような無様な扱いを受けている。あらゆる体の記録を取られ、その上、校長相手のフェラチオだ。羞恥心が薄れるというよりも、それに耐え抜く我慢強さが身についていた。理不尽な状況下でも決して狂わず、自己を保てる芯の丈夫さが備わっているのだ。
とはいえ、耳も赤い。
麗華がどう耐え抜いていたとしても、その見た目は、このくらいは全然平気だと言い張って、まるでやせ我慢をしている姿に見える。
校長がその内面に気づいていても、いなくても、関係ない。
それは立派に、男目線から面白く見える光景だった。
「どれどれ?」
「んっ……」
校長は両手で乳房を揉み始めた。まるで自分には人の胸を揉む権利があるかのように、まさしく当然の行為として校長は指を躍らせる。
手の平から伝わる体温、食い込む指の感触。
全てが不快に思えた。
「おやぁ、やっぱり柔らかいですねぇ?」
猫なで声が、麗華の苛立ちを刺激した。
下から持ち上げ、プルプルと揺らして遊ぶ。玩具遊びの感覚で胸を触られ、心底腹が立っていた。
何よりも、こんなことで乳首が突起する、自分自身の肉体の反応さえも、麗華にとっては気に食わない。こんな時こそ身体のスイッチを切り、できることなら全ての性感帯をオフにしてやりたかった。
心の中ではそう努めているが、まるで成功していなかった。
「さてさて、今日は首輪を用意しています。どんなプレイをすると思いますか?」
「とんだ変態行為でしょう?」
もう、内容には想像がついている。
「その通り! 昨日ほど、ペットショップで犬用の首輪とリードを購入しましてね? 麗華さんには犬になって頂きます」
「……そんな事だと思った」
「ほら、首を出して下さい?」
校長が首輪を用意するのを見て、麗華はくいっと顎を上げ、自分の首を差し出した。歯を食いしばり、呪い殺さんばかりの眼差しで睨みながら。
カチリ。
首輪がはめられる。
確かに、今の麗華は立場が低い。脱衣命令を拒否できないような状況だが、それがこの瞬間、明確に形にされたような気がした。首輪を付けることで、立場の違いをはっきりと目に見える形にされた。
リードを繋がれ、お散歩の準備が完了する。
こんなゲスな男を相手に、リードを握られたというだけで、自分という存在の手綱を握られた気分がした。自分の体の主導権を取られた気がした。
「黒崎麗華さん。あなたは犬です」
「……」
そんな事を宣言され、麗華は大きく顔を歪める。
「どうしました? 犬といったら四足歩行でしょう。いつまでも人間みたく直立するんじゃありません」
そこに人権の保障はない。すっかり、麗華を奴隷扱いした気でいる校長は、直立する麗華の尻を叩いた。
「――ほら!」
ペチン!
さも親が幼い子供でも叱るような、理不尽極まりない扱いである。
「早くしなさい?」
ペチン!
尻たぶが揺らされた。
「私は……こんなことじゃ……」
あえて、全ては言わない。
だが、絶対に屈してはやらないという決意を。最後には必ず逆転して、目にもの見せてやろうという意地を、心の中に深く宿した。
麗華はそして、膝をつく。
両手を床にぺったり置き、四つん這いの姿勢を取る。丸い尻がよく目立ち、そして校長がリードを握っている。服を着た男が全裸の女を従えるその構図は、まさしく奴隷とその飼い主そのものだった。
「さ、行きましょうか」
校長がリードを引き、麗華はその後へついていく。
戸が開かれ、麗華の犬のお散歩が始まった。
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