――目が覚めると……。
ていうか、覚めたことで、あたしは初めて、自分が今まで寝ていたって事に気がついた。性感検査で果ててしまった後、気でも失ってしまったのだろうか。
見ればここは、保健室。
あたしはそのベッドの中、やっぱり衣服無しのまま眠っていたらしい。
どうも、ここでやっていたギョウチュウ検査も全て終了しているようで、医者や順番待ちの生徒の姿もなく、しーんとしている。
ぐすん。
あたしは枕に顔をうずめ、そこに涙をこぼした。
みんなに裸見られて、検査とかいう名目で触られまくって、挙句の果てに絶頂させられて――。
こんな学校で、あたしはやっていけるんだろうか?
逃げ出したい、やめてしまいたい気持ちになるけど、退学には退学の費用があることを思うと逃げられない。首輪でもはめられた気分だ。
室内に人の気配がないのを確認して、それからあたしは泣いた。
涙はたくさん出たと思う。
何十分って時間がたつ頃に、あたしはようやく泣き止んだけど、今だに服も着せてもらえていない状態なので布団を出れない。いや、室内は無人だから出れるといえば出れるかもしれないけど、でも廊下にまでは行けない。
ある意味では閉じ込められたも同然なので、あたしはこのまま布団にもぐってベッドにうずくまり続けた。
やがて……。
ギィィイ
ドアの開く音と共に、足音が室内へと入ってきた。
誰?
あたしは自然と警戒心を抱いた。
まだ検査があるのか、ないのかは知らないけど、二度と人に裸体を晒したくはない。もっと言えば、パンツや太ももさえも誰にも見せたくない。そんな思いでいっぱいだった。
けど、入ってきたのは教師でも男子でもなく、
「あのお……。如月…咲夜さん?」
女の子の声が聞こえた。
緊張にあがりきったような、おどおどとした喋りだ。
よかった……。
少なくとも、相手が女の子なら酷い目に遭わされる可能性はそうないだろう。あたしは安心して、布団で体を隠しながらも身を起こした。
そこにいたのは、同じクラスの白野観月であった。
ツインテールを結んだ可愛らしい顔をして、制服のセーラー服に身を包んでいる。どうやら検査は全て終了し、体操着から元の服装に着替えていたようだ。
見れば、観月は胸にあたしの体操着と下着を抱えていた。
「これ、先生に言われて届けに着たの」
ちょこちょこした可愛い足取りで、観月はあたしのいるベッドの側にやって来る。
「あ、ありがとう」
あたしは念願の衣服を受け取って、さっそく着替え始めた。
人に見られながら着るのも多少気恥ずかしいけど、同じ女の子の前でなら、特に特別な羞恥心を覚える必要はない。
パンツを履き、ブラを取り付け、元の体操着姿に戻った。
しかし、うーん……。
どうせ検査も終わっていて、で、届けてくれるんなら制服を持ってきてくれても良かったように思えるんだけど、何故また体操着なんだろう?
ま、やっと服を着れたんだし。
せっかく届けてもらっておいて、文句を言うつもりはないけど……。
何か、嫌な予感がした。
「あのお、咲夜さんって呼んでいいですか? 私のことは観月でいいので!」
観月はやたらに緊張しながら言ってきた。
「別に、いいけど」
「ありがとうございます! 私、咲夜さんと友達になりたかったの!」
へ?
「咲夜さんって、なんかみんなが注目してるみたいで……。だから、検査の時とか他の子に比べてすっごく触られてて、なのに咲夜さんは堪えきってて、たまに睨み返したりもしてて、すごいなって思って……」
「ああ…そうなんだ」
別にそこまで精神的に耐え切っていたかというと……ねえ?
あたし、ついさっき泣いちゃってたばかりだし。
っていうか、あたしってそんなに特別に触られてたのか……。まあ、何人もの男子に触られた時も、岡部の奴は「この子だけ特別ですよ」なんて言い方をしていた。
思えばギョウチュウ検査の時も、モアレ検査の時も、順番の早かった他の子以上の目に遭わされている。モアレでお尻丸出しはあたしだけだったし、ギョウチュウ検査でも他の子はお尻を揉まれまではしなかった。
ひょっとして、気に入られてしまってるんだろうか。
普通にサイアクだ!
「あの、だから……。友達に、なってくれると嬉しいな」
さて、観月は観月で、わざわざそんな告白をしてくる。
「いいよ。よろしくね、観月」
「……ありがとう!」
観月はお礼と共に深々と頭を下げてくる。
えーっと、友達になることを了承した程度でそんなに感謝しなくたってよくない?
まあ何でもいいけど。
「ねえ観月、アンタもこの学校には騙されて入ったの?」
学費無料に釣られていた当時のあたしは、受験合格後の学校説明を受けるまではこんなふざけた制度の存在は知らなかった。ロクに怪しむこともせず、タダで入れてラッキーって思ったらこのザマで、だいぶお馬鹿な流れでやって来ちゃっているよね。
でも、貧乏な家計のために他に行く当てがなかって、途方に暮れている最中にこの学校を知ったっていうのを忘れないで欲しい。そりゃ、馬鹿な騙され方をしたに変わりはないかもしれないけど、当時は救いの糸一本でもあればついつい飛びついちゃうような心理状態に陥っていたってわけであって。
「うん。ウチ、お金なくて……。奨学金も何故だか上手く取れなかったみたいで、そんな時にここの事知って……」
ふーん、あたしと大体同じってわけね。
「もしかして、他の子もだいたいそうなのかな?」
「たぶん。そういう話してる子、他にもいたし。だからひょっとしたら――」
うん、まあそうだね。
「貧乏な女の子を吊り上げて、エロ目的で搾取しまくってるってわけね」
「そうだと思う」
おかしいよね。日本の法律はいつからこんな学校の創立を認めたわけ? っていう疑問を持ちたいとこだけど、それは入学前の説明会の時点で解決されている。
この学校は官僚だとか政治家だとか、色々と権力の庇護を受けているらしくて、だから誰かが実態を告発したとしても、揉み消すなりなんなりするくらいの力があるらしい。家族の夜逃げを捕獲したっていうエピソードも聞かされたよ。
やれやれ。権力を持ったおっさん共は、わざわざ裏の力を尽くしてまで女子高生を搾取したくてたまらないらしい。こんな学校の存在が世の国民に知れ渡れば、きっと革命さえおきかねないほどの超絶バッシングが腐敗権力を攻め立ててくれるだろうに、その辺の情報操作さえも徹底しているというのだから、そんなエロへの激しい執着心には軽く恐怖を感じざるを得ないね。
散々なトラウマのおかげで、あたしはとりあえずもう恋ができそうにない。あと、男の顔自体を見たくない気分だったりする。
男性恐怖症? ははっ……なっても仕方ねー。
気持ちとしては、このあたしの恥辱に関わった男全員に対し、BLチックな復讐で同じ思いを味あわせてやりたい。まあ学生の身でしかないあたしに、当然そんな手腕なんてないんだけど。
「観月? とりあえず、友達同士になったんだし、支えあわない?」
「ホント? 嬉しい」
観月はぽっと顔を赤らめた。
「こんな目に遭ったんだし、お互い少しでも慰めは欲しいでしょ」
あたしは自分の手を差し出す。
観月はどうにも恥ずかしそうに握手に応じた。
しかし……。
「あ、でも……」
観月は何やら後ろめたそうな顔をして、もじもじする。あんまり可愛い仕草をしてくれると、あたし、アンタで口直しならぬ体直しをしたくなっちゃうんだけど。
「どうしたの? 観月」
「あのね咲夜さん。検査、あと一個だけ残ってるの」
「…………」
あたしは閉口した。
あはは……。
観月が制服でなく体操着を届けてきたっていうのは、なるほど、そういうことだったってわけか――この学校マジ滅べ!
「観月、最後のってどんな……?」
「えっとね、せい……ぇ……」
観月は一旦言いよどみ、恥じらいながら口を閉ざす。それからもう一度口を開いて、言い直した。
「せーえき採取の……補助……」
あたしは絶望に打ちひしがれ、さっそく観月に癒しを求めた。
「観月……。ちょっとだけ、失礼させて?」
あたしはベッドを降りて、観月の肩を抱き寄せた。背中に手を回し、ぎゅぅぅぅっと強く抱きしめる。
「あっ…」
観月は甘い声を漏らした。
「観月。お互い、充電といこ」
こうやって、傷ついた心にエネルギーを補充しなければ、もうやってられない。いい加減、イかされた時だって、いっそ気をおかしくしちゃった方がラクなんじゃないかって、そんな思いすらよぎっていたのだ。
だから観月の体温を借りて、自分の心を暖める。
観月も、あたしの背中に手をまわし、あたしを強く抱き返していた。
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