目次 次の話




 エッチの指導を行うため、担任教師である俺は一人の女子生徒を呼び出した。
 名前は御影梓。
 生活指導室へ来るように連絡を告げ、今まさにドアがノックされている。鍵なら開いていることを告げると、
「失礼致します!」
 凛々しい声を上げてやって来た。
 バスケットボール部所属、全国優勝チームのキャプテン。
 担任として俺が見てきた梓の姿は、いつでも積極的にリーダーシップを取り、よく周りの様子を観察して、体育祭でも修学旅行でも指揮を執っていた。
 意見があれば極力発言を行って、みんなを良い方へ良い方へと導こうとするところがある。

「体育の柔道のとき、君は手業がすごかったよね? 騎馬戦では君が上になって、ラグビー部のみんなに支えて貰うのが一番じゃないかな?」

 騎馬戦のグループを決めるとき、梓の発言で流れは決まったといってもいい。
 一体、男子の柔道の様子などいつ見たのか。
 確かに同じ体育館で実施されるが、男女別の練習では男子の動きに目をやる暇など皆無だろうに、なら自分達女子をおろそかにしていたかといったら、そうでもない。体育教師の話によるなら、受け身や技のコツを迅速に吸収して、みんなに教える側にまわっていた。
 柔道部の方が腕は上でも、そういう積極性では梓が上だ。
 そうなると、柔道経験者の自分を差し置いて、バスケ部の女子がみんなに頼りにされている構図は面白くないはずで、ちょっとした恨みつらみを買うんじゃないかと想像できるが、実はそんなことは起きないらしい。

「実は彼女の動きを参考にさせて頂きました! さすがは柔道部!」

 なんと、自分よりも柔道女子の方を立て、教え子をそちらに回す芸当を見せたという。その子は性格の問題で積極的になれずにいたが、周りから頼られれば話は別で、聞かれたコツについて次々答えた。

「なーんだ。あなたって、ケッコー教えるの上手じゃん! 私も、もっとあなたに教えてもらえばよかったかなー」

 などと、励まし勇気付けまでしたという。
 少しだけ――本当に少しだけだが、それから控え目だった柔道女子は積極性を見せるようになっていき、他のクラスよりも活発な雰囲気で授業は進んだという。
 体育祭のときもそうだった。
 それは大縄跳びの練習の際である。

「足が痛い? さっき、ちょっと様子がへんじゃない。いいから見せてみなよ」

 といった具合で、担任の俺が気づきもしなかったクラスメイトの様子を見抜き、そうとわかるや否や声をかけ、「いいからいいから!」と半ば押し切るように靴下まで脱がせて、腫れている足の症状を発見した。

「保健委員――は、風邪で休みだったね。私が保健室まで連れていくから、みんなは練習続行だよ! いいね!」

 人の様子によく気づく習性と、その上で指揮を執るセンスは、さすがはキャプテンと言わざるを得ない。
 人の上に立ち、人を動かす才能の持ち主だ。
 バスケ部の顧問が言うには、梓は司令塔的役割で、声出しやハンドシグナル以外にも、アイコンタクトでチームを操る。
 視線による合図はサッカーにもあるが、梓はそれが上手いという。
 相手チームが梓のアイコンタクトを見抜き、こちら側のチームワークを崩してやろうと動いたものの、実は視線を使ったフェイクで、全くの虚を突いて場の流れを獲得する。それが全国決勝で勝利を掴むきっかけの一つになったという。
 他者の様子によく気づく。
 なるほど、それはスポーツでも武器になる。
 
 俺はその御影梓にエッチを教える。

 全国大会に出るほどの実力者で、おまけに勉強も出来る梓が、まさか推薦入試を狙わないわけがない。バスケの強い高校へ行き、高校でも全国優勝を狙うつもりらしいが、十年以上も前に常識革命の起きた今の日本では、推薦面接における性接触は珍しくもない。
 その高校に何としても入りたい、合格したい。
 志望校にかける熱意や覚悟を表現するため、これまで何人もの女子が服を脱ぎ、自分はこの学校がいいんだということを表明してきた。
 肉体という対価は、熱意の表現にうってつけとされた。
 だから梓も、面接本番に向けた準備のため、直々に指導を受けることはできないかと申し出てきたのだ。
「来たね。梓ちゃん」
 百七十センチを超える体躯で、とてもスタイルのよい梓は、ブレザーの上からでも整ったボディラインの色香を醸し出している。
 凛々しいポニーテールの顔立ちで背筋は真っ直ぐ。
「やっぱり、何の準備もなく本番を迎えるわけにはいきませんからね」
「うん。いい心がけだよ」
「というわけなんで、先生。今日はご指導のほど、よろしくお願い致します」
「よし、そしたら鍵をかけて、俺の前まで」
「はい」
 ドアの鍵を内側からかけさせて、梓を目の前に呼び寄せる。
 俺はベンチソファから梓を見上げた。
 やっぱり、百七十越えは座っていると余計に大きく見えてしまうが、服の内側にはボディラインを引き締めるための筋肉がたっぷり詰まって、腰のくびれや太ももの白い輝きをよく引き立てているのだろう。
 俺の視線の正面にあるのはスカートだ。
「梓ちゃん。これからエッチの指導をするけど、面接官が見たいのは、受験生の熱意であってキスが上手いとか、セックスの技術なんかじゃない。そのことをまず忘れちゃいけない」
 セックスのテクニックなんかで選んでしまうと、成績優良児やスポーツに優れた子供というより、未来の娼婦か風俗嬢でも呼び込むことになっていく。
 あくまで高校受験の一環だ。
 マナー良く入室して、志望動機について活き活きと語り、面接官の行う質問にもはっきりと答える基礎がなければ意味はない。
「そりゃもう! 私を選んで下さいって立場ですからねー」
 梓にそれがわからないわけがない。
 意外と馬鹿な生徒がいる分だけ、もしも自分が教師の立場で、受験生を自分の高校に呼び込むとするなら、果たしてお前のような生徒を選ぶかという視点が欠けている。
 もちろん、子供は教師側の苦労を知るまい。
 中学生には無茶な視点だが、部活やクラスでたびたび人を指揮する立場にある梓は、人を雇う側の人間はどんな人材を欲しがるかというべき、大人の視点に対する想像力が他の中学生の平均を上回る。
「そうそう。梓ちゃんて理解が早くていいよ。すっごくいい!」
「まったまた。褒めてもなにも出ませんよ?」
「それが出ないと困るんだよねー」
 俺はスカートの丈を掴んで、前触れもなく急に持ち上げてやった。
「きゃあ!」
 梓は咄嗟に手で押さえる。
「はい。今のそれ、失礼な反応に当たります」
「そんなぁ……」
「何故だかわかる?」
「そうですね。推薦入学の立場は、自分は素晴らしい生徒です。是非選んで下さいと、自分を売り込むみたいなもんで、面接でも自己アピールが大事ですからねー」
「つまり?」
「自分を売り込みたいはずなのに、選んで下さる相手に失礼な態度は禁物ですよねぇ……」
 がっくりと肩を落として、しょぼくれている梓。
 頭ではわかっていても、慣れずに急ではどうしても隠してしまう。
「ここでエッチを学ぶ意義がわかったね」
「はい。もう本当に、早く体を慣らさないとって痛感しちゃいました」
「そうしたら、まずはパンツで慌てたりしないところから始めよう」
「……ご覧下さい」
 梓は自らスカートを持ち上げた。
 躊躇う気持ちも、恥ずかしい気持ちも噛み殺し、えい! とばかりにショーツを晒し、白い下着がさらけ出された。
 綿のようにふんわりとした白い生地が、梓の股を優しく包んでいる。
 うすいピンク色のレースで飾りつけ、大人しいながらもキュートなデザインは、凛々しくて活発な梓のイメージからすると意外性がなくもない。
「恥ずかしい?」
 当然、梓の顔は赤かった。
「け、けど頑張ります! だって、私を見てもらえるようにしないと」
「その心は?」
「そりゃだって、面接官は受験生をよーく観察するはずですから」
 日頃から他人を観察している梓だ。
 自分が観察対象に置かれることについても、よく考えているのだろう。



 
 
 

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