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 秋月文乃の書いた文章はこうだった。

     ××

 長く文章を書いていたせいか、だんだん肩が凝ってきた。
「疲れただろ。肩でも揉んでやろっか?」
「うん。お願い」
 私は静太君の親切を受け入れ、言葉に甘えてマッサージをお願いする。太く温かい指が私に触れ、ゆっくり優しく肩の肉をほぐし始めた。

     ××

 これが文乃の書いた文章の一部分なのだが、『静太君』とはどういうことか。
 作品の舞台は文芸部の部室となっていて『静太君』と一人称の語り部である『私』が二人きりの時間を過ごしている。つまり、文乃の書いた小説は実際のこの部室をモデルにして、しかも静太の実名を本文中に使っているのだ。
「となると、この『私』っていうのは、やっぱり文乃自身のことだよな」
 何を思ってこれを書いたのかは知らないが……。
 要するに、部室に来てから文乃がずっと書いていた作品は、文乃自身と静太とのやり取りを文章化したものだ。そんなものを静太本人の前で書いていたのだから、なるほど顔も赤くなるのだろう。
 読んでもいいかと尋ねたとき、了承した文乃がやたらと緊張かのようになっていたのも、これが理由だったのだ。
 ただ理解できないのは、何故わざわざ静太と文乃自身とのやり取りを文章化しているのか。
 そして、そんな恥ずかしい文章を読むことを、どうして許してくれたのか。
 そこがわからないが、とにかく静太は読み進める。
 その先の内容は、次のようになっていた。

     ××

 男と女が二人きり、ずっと同じ空間にいるのだ。
 おかしな考えの一つも、沸くのかもしれない。
「静太……くん?」
 今まで肩を揉んでいた彼の手が、前の方へと降りてくる。マッサージのために鎖骨周りを触るのかと思ったが、そうじゃない。静太君の手はさらに鎖骨の下まで伸びてきて――。

 モミ、

 私の胸を揉み始めた。
「静太君!? な、なにしてるの?」
「何って、マッサージだけど」
 そしらぬ顔で、さも当然のように静太君は私の胸を揉みしだく。ブレザーのやや厚めの生地の上から、乳房の形を手で探ってくるかのように、手の平全体で包み込んで撫でてくる。
 私は気が動転して、そのまま固まりされるがままになっていた。
 本当は、肩を揉みを申し出てきた時点で予感はあった。せっかく二人でいるのだから、少しは女の子の体に触りたい考えがあったのだろうなと、気づきはしていた。
 だけど、まさか胸を揉まれるなんて思わなくて……。
 肩を揉むぐらい、許してあげようかな。
 なんて考えて揉んでもらえば、その手は乳房を狙ってきたのだ。

     ××

 と、そんな内容を読み……。
「…………」
 静太は言葉も出せずにいた。
 つまりこれは、肩を揉むといいながら、友達がだんだんと文乃自身の体をまさぐっていく筋書きの官能小説だ。
 一人称で書かれているということは、心理描写の部分は全て文乃の頭の中を表している。

     ××

「あっ……。もう駄目。駄目ってば……」
 乳首から乳腺にかけての乳房の芯が、内側から熱を発してくるかのようで、胸がじわじわ熱くなる。
 気持ちいいのだ。
 静太君の丁寧なマッサージに刺激され、私の体は素直に反応してしまっている。
 そっか、私……。
 感じちゃってるんだ。
 好きな人に触られてるから……。

     ××

 妙な一文を見てしまい、
「……うぇ?」
 静太は一人頓狂な声をあげた。
 文章中にある『好きな人』にあたる人物は、どう読解しても『静太君』以外に存在しない。静太しか登場人物がおらず、その他の男が一切出ない以上、いかに頑張った解釈をしても答えは『静太君』になるしかないのだ。
 好き、なのだろうか。
 文乃は静太の事が。
 だから、この文章を読むことを許してくれたのだろうか?
 そう思うと嬉しいような、しかしこんな形での発覚では素直に喜びきれないような、微妙で複雑な感情を静太は抱いていた。



 
 
 

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