本文 誤った依頼相手 badend
アニエス・クローデルは不安にまみれた面持ちで、俯きながらに歩いていた。
あの情報屋の男から、肝心の情報を貰うべくして、これからアジトに顔を出すわけなのだが、きっとまた色々と要求される。
昨日は散々に嬲られて、途中で気まで失った。
あんな男達のいる場所で、少しでも意識を手放しているあいだに、おかしなことをされていないかも不安でならない。体は元から捧げているが、アニエスの想定していないような、写真でも撮るような真似はされていないかと不安であった。
失神するほど激しい快楽を与えられ、玩具のように弄ばれた手前、今度は一体どれほどの目に遭わされるのかも、やはり大きな不安となって、アニエスの心を蝕んでいる。
心底の不安を胸にして、元々はソープだったという建物の入口へと進んでいく。
こんな場所への出入りを学校の誰かに見られたら、一体何と言われるかわからない。
しかも、働いているわけではないとはいえ、本当に男といかがわしい行為をしているのだ。
アジトに辿り着くまでの道中、知り合いには見られたくない思いをいっぱいに抱えていた。最初に裏の解決屋を頼ろうとして、次に情報屋に声をかけ、今の今まで重ねたアニエスの行動は、元よりあまり褒められたものではない。
その上、体を使った交渉にまで乗ったのだ。
後ろめたい気持ちは強く、悪いことをしている姿を誰にも見つかりたくない思いは強かった。
そんな暗さを密かに抱え、俯きながら歩んだアニエスは、建物の中へと入るなり、すぐに受付へ顔を出す。
店としてやっているわけではない、単なるアジト、溜まり場ながらに、しかし情報屋の情報を求める客が来ることもあるわけなのか、カウンターには店員として振る舞っている男がいた。
アニエスの顔は覚えているらしく、すぐにリーダーを呼ぶと言われて数分ほど待たされる。
ほどなくして現れた『情報屋さん』の姿を見るなり、アニエスは即座に強張っていた。
「約束通り、昨日はあなた達の言うことを聞きました。今日は情報を教えて下さい」
緊張ながらに、アニエスは強い意思を瞳に宿していた。
「わかってんだろ? 俺から何かを聞き出すには、一体どうすればいいかぐらい」
「でしたら、言うことは聞きますから、始める直前でいいので教えて下さい」
「新しいネタはまだないな。だが調査を継続して欲しかったら、今から部屋まで来てもらう。嫌なら中断だ。どうする?」
そう問われ、アニエスはやはり躊躇う。
部屋へ行けば、そこで何が始まるかなど、とっくにわかりきっている。それに前回はなかったプレイも、今回は要求されるかもしれない。
何なら力ずくで、ということも……。
尻込みするアニエスだが、ここで調査を中断させてしまったら、昨日は一体何のために恥辱を堪え、最後まで耐え抜いたのかがわからない。
「……………………わかりました」
心底躊躇いながらだが、やはりアニエスはそう答え、昨日のように部屋へと向かうこととなる。
あまり入りたくない部屋だ。
風俗の知識などないアニエスでも、そういう店だと伝わるような構造で、しかも実際に性的なことをこれからする。
まるでソープ嬢になった気分だ。
決してここに働きに来たわけでく、そもそもソープ閉店後の建物を買い取ったアジトに過ぎないので、風俗としての経営自体がされていない。
だが、ベッドが設置されていて、すぐそこにある段差を降りると、浴場のようなタイルが敷かれ、湯船も置かれている構造は、そんな仕事の気分を煽るには十分だ。
それに考えようによっては、確かにそういう働き方を選んだと言えるだろう。お金での交渉は一切受けない。そう言われて仕方なくとはいえ、代わりに体で払うのだ。
「さーて、脱いでもらおっか」
情報屋の男はベッドの縁にどりしと座り、人のストリップを楽しみそうに待ち構える。
「…………」
アニエスは静かにブレザーを脱ぎ始めた。
乳房はとっくに見せている。たっぷりと触られてもいる。
一度も二度も変わらないと、アニエスは自分に言い聞かせ、恥ずかしさを堪えてボタンを外す。最初の一枚を脱ぎ去って、首に通したネクタイを引っ張り抜くと、今度はワイシャツのボタンも外していく。
その脱衣過程を彼はまじまじと見つめてきた。
あまり詳しく見られているので、何かやりにくいような、居心地の悪い感覚にも囚われる。
とっくに複数人の視線に晒し、好き放題にされてしまった乳房とはいえ、改めて見せるのは恥ずかしかった。ワイシャツを脱いだだけでも頬は染まって、ブラジャーを外した時にはもっと顔は赤くなり、羞恥心で情報屋の男とまともに視線を合わせられない。
「……脱ぎました」
顔を背けがちにして、アニエスは言う。
「パイズリしろ」
「……えっ」
昨日は言われなかったことを言われて、アニエスは一瞬だけ戸惑った。
「どうした? お嬢様にはパイズリなんて知識はないか?」
「いえ、その……。あくまで人並みの興味なら、ありますので」
「なら、わかるってことだな。やってみてくれよ」
情報屋の男はベルトを外し、あれだけ躊躇いながら脱いだアニエスに対して、実にあっさりと下半身を露出する。下着越しでもわかるほどに勃起していた肉棒は、解き放たれるなり天を向き、表面には太い血管を走らせていた。
「では……さ、させて頂きます……」
人前で脱いだことすら、何なら恋人を作ったことすら今までなかった。胸に逸物を挟んだ経験ももちろんなく、生まれて始めて行う行為を一体どこまで上手くできるか。
その不安もさることながら、アニエスがもっとも強く抱く感情は、男性器を直視したり、接触することに対する抵抗感なのだった。
(しないと……情報が……)
改めて思う。
金銭での取引にさえ応じてくれれば、お金の用意はきちんとあるのに……。
アニエスは彼の股に胴体を近づける。
躊躇いながら肉棒を直視して、視界に収めることさえ恥ずかしく思いつつ、乳房のあいだへ迎え入れる。硬さと熱気に満ちた感触を双乳に抱き込んで、たどたどしく上下に動かし始めてみれば、情報屋の男はニヤっと嬉しそうな顔をしていた。
(情報のため……情報のため…………)
アニエスは自分の目的を執拗に反芻させ、頭の中にぐるぐると回している。
こんな風に乳房を捧げ、好きでもない男に奉仕していることの、精神的な苦痛に耐えるため、唇を噛み締めながら自らの両手で乳房を持ち上げ、そのまま上下に動かしている。
実に不慣れなパイズリだ。
こんなことは初めてなので、上手くできているのかどうかもわからずに、ただただ乳圧で肉棒をしごいている。乳房を持ち上げる際には肉棒が谷間に埋もれ、下げた時には亀頭が双乳から突き出てくる。
一体、いつまで続けるのか。
あとどれくらいすれば満足なのか。
アニエスは険しさと哀しみの入り交じった複雑な表情で、苦悶めいたものを浮かべていた。
(早く……せめて、早く出して…………)
彼の精液を見たいわけでも、身体にかけられたいわけでもない。おぞましいものが皮膚に触れれば、より大きな汚辱感に囚われるだけなのだが、こうして男性器に刺激を与えるからには、どうせ出すものを出さなければ終わらない。
どうせ精液がかかったりするのなら、いっそ早いところ済んで欲しい。
アニエスはそんな願いを込めて、徐々に奉仕を活発にしていった。体がコツを掴み初めて、身体もろとも上下して、床にべったりと触れていた尻まで上下する。
「お? 飲み込みが早いな。向いてるんじゃないか?」
「そう言われても、わかりません。自分がどこまで上手くやっているかなんて……」
「気持ちいいぜ? いっそ、こういう仕事でもやってみるか? アンタが望むなら仕事の斡旋をしても構わない」
「……やめて下さい。これだって、あなたがお金でのやり取りに応じてくれないから、仕方なくしているだけなんです」
「そうだったそうだった。ま、気が変わったらいつでも言ってほしいね」
「変わるわけありません」
目的さえ果たしてしまえば、もう二度と好きでもない男に裸を見せたり、まして触らせたり奉仕したりなどしたくはない。
「ところで、最後までさせてくれないか?」
言われるなり、どくりと心臓が弾み上がり、アニエスは無意識のうちに奉仕の手を停止していた。
「…………それは、駄目です」
せめて、そればかりは守りたい。
「どうしてもか?」
「駄目です! 他のことなら、しますから……」
「だったら、口も使え。パイフェラってやつだ」
「…………」
アニエスは改めて自分自身の谷間に視線を落とし、狭間から突き出た亀頭を少し見てから、躊躇いがちに目を背ける。
胸で挟むことにすら、本当は抵抗を感じている。それを口の中に入れるなど、抵抗感はますますのものだ。
それも無理だ。
アニエスはそう感じて、咥えなどできずに固まっていた。
「あ? 他のことならって言ったばかりだろ?」
「そう……ですけど…………」
やらないとは言っていない。
ただ、躊躇っているだけだ。
「今すぐ咥えなきゃ、力ずくで犯す」
「なっ……!」
アニエスは慌てて亀頭に唇を重ねていた。純潔を守るため、代わりに別のものを捧げるべくして、乳房から飛び出ている限りの、亀頭の半分までを唇の内側へと含めていた。
「……っ!」
触れた部分から頬にかけ、さらに顔中やうなじにかけてまで、たちまち鳥肌が広がっていく。
(む、無理――こんな――――)
アニエスはひどく顔を顰め、拒否反応から反射的に顔を離した。その際の唇には、カウパーが付着したための、透明な糸が数センチほど伸びていた。
(無理でも……や、やらないと……)
拒否反応は収まらない。
元々、性的な行為と引き換えという交渉だ。こういう覚悟はしていたはずで、やらなければ情報は手に入らない。頭ではそう割り切り、改めて唇を近づけるが、心の方がなおも拒否反応を示し続けた。
「ちゅっ」
また再びキスをした時、磁石の反発力でも働くように、アニエスは顔を離しそうになっていた。実際に数センチほど引っ込めて、唇に触れてしまったものの、嫌悪の余韻を色濃く感じはするのだが、アニエスはしきりにキスを繰り返し、どうにか慣れようと苦心していた。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ」
触れるたび、拒否反応によって数センチの距離を開け、そうやってアニエスは頭を上下に動かしていた。
「いい調子だ。けどな、オッパイがサボってるぜ? 口と胸をきちんと両方使うんだ」
「うぅ……はい……」
アニエスは不慣れながらに胸と頭を連動させ、同時に上下させ始めた。亀頭に被せた唇を下へとやり、飲み込むと同時に乳房も下げて、頭を後退させると同時に、それに応じて乳房も少し持ち上げる。
「んっ、んぅ――んっ、んぅ…………」
そんな上下運動を繰り返しているうちに、少しずつではあるが慣れ始めている自分に気づく。
まだ上手とは言い難いが、開始直後よりはマシになっているはずだった。
本当に少しだけ、微妙な慣れに過ぎないものの、欠片でも上達してしまった自分に対して、アニエスは複雑な情を抱いていた。
本来、きちんと恋人が出来て、その上で肉体関係が成立して、
始めて身につくものがこういう奉仕だ。それまではせいぜい頭の中だけの話で、知識が身につくことはあっても、実技をこなすことなど普通はない。
自分が穢れてしまった感覚とはこういうものかと、アニエスは痛感していた。
もう、身につけてしまったのだ。
ほんの僅かであろうと上達した以上、完全な素人にはもう二度と戻れない。真っ白な自分ではなくなって、しかもその相手のには好意を微塵も抱いていない。
きちんと恋の上で経験したなら、汚れると表現するにしても、正当な汚れ方と言えるだろう。
だが、これはどうか。
何の言い訳もつかない汚れ方を自分はしている。
祖父の遺品に、一体どれほどの秘密が隠れているのか、理解しきっているわけでもなく、漠然とした危機感しか抱いてはいないのに、自分は本当にこんなことをして良かったのかと、後悔の念は何度でも蘇る。
「んっ、んちゅぅ…………」
しかし、もう後戻りは出来ない。
何がどうあれ、アニエスは奉仕と引き換えに情報を得ようとしている。
払うべきものは払っている以上、この情報屋の男からは、必ず情報を引き出すのだ。
*
青臭い香りが漂っている。
パイフェラというものを続けて、やがて射精の時が訪れた時、アニエスは顔と胸を汚されていた。
「おっ、出るぜ?」
そう言われ、このままでは口内に出て来ると思ったアニエスは、咄嗟に顔を逃がしたが、そうしたらそうしたで頬や鼻にかかってきた。唇の周りも汚れ、顎にもおびただしく付着して、その跳ね返りが胸の谷間に降り注いだ。
ぎょっとした顔をしているうちに、乳房のあいだでビクビクと震えた肉棒は、途端に吐き出すことをやめて静止する。
なおも勃起を維持する肉棒は、白濁によって先端や周りの部分を濡らしたまま、谷間で静かに佇んでいるのであった。
「うぅ……!」
それを気持ち悪いと感じるのは、アニエスの立場なら当然の反応だった。
「なかなか良かったぜ? もっとも、一度出したくらいじゃ収まりはつかないけどな」
その言葉の通り、肉棒の硬度は出す前と変わっていない。
胴体を離していくと、肉棒に堰き止められていた白濁が表皮を伝い、谷間の溝の深くへさらに流れた。滴がヘソにまで筋を伸ばして、穴の中へと入り込んでしまうのだった。
「ってわけで、本番も頼むわ」
「な、何を言ってるんですか! だから本番は――」
「ああ、そうだよな。本番無しって約束はしてるんだよな。だけど、ここまで来て本番無しなんてなぁ?」
「約束は約束です。だいたい、まだ情報だって……」
「どうしても嫌か?」
「当たり前です。今までのことだって、本当は嫌なんです。どうしてお金では応じてくれないんですか」
「そりゃ、アンタが上玉だからさ。ヤっちまいてーから、金じゃ受けつけねーのよ」
「そう……ですか……」
最低だと、口に出しそうになっていた。睨むというほどではなくとも、何かを言いたいような、文句のある眼差しで、アニエスは情報屋の男を見ているのだった。
「お? 遺憾の意って感じの顔だが、嫌なら他の情報屋を探すって手も、アンタにはあったはずだぜ? ま、時間との勝負でもあるから、やむにやまれず仕方のない気持ちなのはわかるんだけどよ」
そんな言葉くらいで納得して、全てをすんなりと受け入れられるようなら、始めから複雑な気持ちなど抱いていない。こんな形で体を許したり、自分を売るような真似をしてもいいのかと葛藤もしていない。
今日から自分は娼婦だと、いとも簡単に切り替えが効くようには、純真な乙女の心は出来ていないのだ。
「とりあえず、いいもん見せてやるよ。ちょっと待ってな」
彼はおもむろに立ち上がり、棚の方へと向かって行く。そのガラス張りの戸の中には、ディルドやローターといった数々のアダルトアイテムが並んでいるので、もしやその中のどれかを使ったプレイになるのかと身構える。
しかし、情報屋の男が振り返り、ニヤっとしながら見せびらかしてきたものはカメラであった。
「まさか、撮りたいなんて言うつもりですか?」
自分の裸が記録に残されることを警戒して、アニエスはますます身構え、警戒心をあらわに両腕で胸を隠した。
「撮りたい? ちょいと違うな。言っただろ、いいもんを見せてやるってな」
彼はカメラの操作を開始する。
そして、モニター部分が突きつけられ、そこに映っていたものを見るなり、アニエスは驚愕に目を丸めた。
まさか、そんな……。
一体、いつの間に?
驚きと共に困惑するアニエスだが、昨日のプレイでは途中で一度失神したことを思い出す。
ひょっとして、気を失っているあいだに……。
そこにはアニエスの裸が映っていた。
乳房を丸出しにした姿が、顔も一緒に綺麗に写されていた。
「んで、どうだ? こういうものをバラ撒くとか、学校に送りつけるっつー脅しは、アンタには通用するのか?」
勝ち誇った笑みが浮かんでいた。
「…………」
それに対して、アニエスは何も言わずに目を背け、返す言葉もなく俯いていた。
祖父の遺品について情報を探るため、アニエス自身が表では言えない検索方法を使っている。そして、裏の解決屋であるヴァン・アークライトを見つけ出し、元々はそちらを頼るつもりであった。
まさか学校では言えないような活動を、アニエスは元から行っていたのだ。
単なる犯罪に巻き込まれ、ただただ盗撮犯に脅されている状況なら、脅しには屈せず通報する手もあっただろう。写真をバラ撒かれたいわけなどもちろんないが、自分に後ろ暗いものがなければ、まだしも堂々としていられる余地がある。
だが、この一連の流れはどうか。
非合法すれすれの方法を使い、その上で裏社会に近い人物に自分から接触して、本番無しなら――という交渉にすら応じてしまっている。
これではアニエス自身に落ち度があるとしか、世間や大人は考えてくれないだろう。
どうして、こんな場所にいたのか。
何故、写真を撮られることになったのか。
通報をしたとして、それを嘘偽りなく、詳しく丁寧に話すことがアニエスには出来ないのだ。
「どうなんだ? 本番は有りか? 無しか?」
嫌だ、嫌だ、嫌だ――拒否反応が心理的に働いて、反射的に心の中で繰り返される単語はそれだった。
アニエスは激しく葛藤する。
一体誰が、こんな本名すらわからない男となど……それに思い返せば、最初は力ずくで襲おうとしてきたこともある男だ。
こうなることを警戒しなかった方がどうかしていた。
「……したら、どんな情報をくれますか?」
情報と引き換えでなければ、今度こそ絶対に応じない。
それがせめてもの抵抗のようなものなのだった。
「遺品とやらの、現在の在処が掴めそうだ」
「掴めた後、先に情報を渡して頂ければ考えます」
「用心深いねぇ?」
「ただでさせる理由がこちらにはありません。たとえバラ撒かれても、情報無しで応じることは出来ません」
「わかったわかった。なら、本番は明日にしといてやる。今日のところは、本番以外のことに応じて貰うぜ?」
「……はい」
やはり、それとて本当に嫌で嫌でたまらない。
始終嫌悪を感じながらの、苦しい時間を延々と過ごした上で、今日のところのアニエスは情報屋のアジトを後にする。
*
そして、翌日。
情報屋の男は約束通りに情報を提示して、遺品の現在の在処を教えてくれた。
アニエスが提示した本番許容の条件は、つまり満たされたわけなのだった。
アニエスは今日、全裸となった。
ベッドの上、仰向けである男の上に跨がって、自ら処女を捧げさせられる。
股下へ手を伸ばし、指先に亀頭を絡め取り、膣口に位置を合わせた上で、下へ下へと体重をかけ始める。先っぽが一センチ、さらにもう一センチと、少しばかり埋まったところで、アニエスは一度腰を停止させていた。
「本当に、いい趣味ですね」
批難の眼差しを浮かべ、アニエスは言う。
「情報はやっただろ?」
「確かに頂きました。そうではなくて、どうして台詞を言わなくてはいけないんですか」
アニエスはただ体位の指定を受けているだけではない。
こうやって自分から腰を沈めて、自分自身によって処女を散らすだけではなく、その際にはとある一つの台詞を言うように命令された。
屈辱的な台詞を言わされた上で、アニエスは彼と交わることになるのである。
「へへっ、そういうのも興奮を煽るんでな」
「……そうですか。私には理解できません」
「してもらう必要はないぜ? 俺が楽しめればな」
とことん最低な男である。
あんな脅しさえなければ、本番交渉自体に応じてなどいなかったのに……。
ぐっと屈辱を堪えながらに、アニエスは口にする。
「こ、この私、アニエス・クローデルは……これより、情報屋さんであるあなたに、処女を……捧げます…………」
興奮がひしひしと伝わってきた。
勃起は既に限界までしているだろうに、より一層大きく膨らんだような気がした。
アニエスの宣言を聞き、彼がどれほどいい気になっているかが肌に伝わる。
そんなろくでもない相手に快楽を与えるため、アニエスはしだいしだいに腰を沈め始めていた。亀頭を飲み込み、さらに竿の部分まで収め始めて、額には脂汗が噴き出てくる。
感じるものはまず痛みだ。
生まれて始めて男性器が入って来る感覚に、アニエスが苦しみばかりを感じていた。肉体的にも、精神的にも、こんな形で純潔を失うことに苦悶していた。
「んっぐぅ――んぅ…………」
穴が拡張される感覚に喘ぎながらも、ついに根元にかけてまでを膣内に収めきる。
結合を果たしたアニエスは、しかしすぐには動けず静止して、しばらく呼吸を整えてから、ようやく上下運動を開始するのであった。
「ぐうっ、んっぐぅ――んっ、んぅ…………!」
苦しみながら動いていた。
生まれて初めての感覚に快楽はなく、穴を拡張されるせいでの苦しさで、ひたすら苦悶ばかりを浮かべている。
「おおっ、いいぜ? 最高だわ」
逆に情報屋の男の方は、随分と気持ちよさそうだった。
「そう……ですか……」
人が脂汗を掻いているのに対して、満足そうにしている姿が癪に障る。文句の一つでも言ってやりたい、そんな気に駆られるものの、それよりも苦しさの方が先に立ち、やはり何を言っている場合でもないのだった。
「あっぐぅ……ぐっ、んぅ……」
歯を食い縛り、眉間に皺を寄せながら、アニエスは耐え抜くように上下する。その膣には破瓜の痛みも走っており、やっとのことで膣壁を保護しようとする粘膜が分泌され、多少は楽になり始めていた。
汁気のおかげで滑りも良くなり、上下運動はスムーズになるものの、それで気持ち良くなるわけではない。ただ痛みが薄れていき、いくらかはマシになるだけの話であった。
アニエスにとって、ひたすら苦悶の時間だった。
よしんば気持ち良かったとしても、こんな男で悦びを覚えるなど、そんなことをわざわざ望みはしない。
「んぐぅ――――」
そして、十分以上は上下運動を繰り返した時だった。
ドクッ、
と、肉棒が跳ね上がり、急に精液が放出された。
「おっと、出た出た」
下腹部の内側でコンドームが膨らんで、アニエスは怖気や恥辱を感じると同時に、これでようやく地獄の時間は終わったのだと思い込む。
セックスは終わったので、腰を持ち上げ肉棒を引き抜いて、ベッドにへたり込んでいた。
だが、その瞬間にアニエスは予感した。
(えっ、終わったんじゃ……)
などと、心の中に声が出たのは、まだ続きでも残っているような、次を楽しみにしているニヤニヤとした顔が、アニエスへと向けられているためだった。
まずい、これ以上ここにいてはいけない。
「あの、もう帰ります。情報は貰いましたし、見返りも支払いました。取引は十分なはずです」
慌てたように立ち上がり、さっさと着替えてしまおうと、床に散らかした衣服を求めた時である。
がっしりと、後ろから腕を掴まれた。
「きゃっ!」
さらに次の瞬間には、力ずくで引っ張られ、ベッドへと引き戻された。ほとんど無意識のうちに、反射的な抵抗で少し暴れたアニエスは、しばし格闘した後になってから、ようやく自分の状況に気づいていた。
頭が真っ白になってしまい、引っ張られた時から今この瞬間まで、状況をしっかりと悟ることが出来ずにいた。
――レイプだ。
つい先ほどの騎乗位は、仮にもアニエスが交渉に応じた結果の、取引のための交わりだった。
だが、これは違う。
二回目の挿入など、話にもなければ同意もしていない。
「やっ、やめ……!」
そして、アニエスは正常位で犯された。
暴れようとしてみたところで、押し倒された状況で腕力で押さえ込まれて、しかも手元には武器がない。文字通り丸裸の状況で、屈強な男に太刀打ちなどできようはずもなかった。
肉棒が動いている。
無理矢理の挿入で、好き勝手に欲望を貪るピストンの、激しい嵐の中に晒され、アニエスは多大な恐怖と恥辱に晒された。
しかも、ただ犯されただけではなく。
ドクッ、ドク――――。
今度はコンドームがなかった。
射精に至るほどまでピストンが続けられ、またも肉棒が膣内で跳ね上がったその瞬間、今度はゴムが膨らむのでなく、体内に直接熱気が広がったのだ。
「おっと、悪い悪い。うっかりゴムを忘れてたぜ」
「う、うっかりって――」
これはそんなことで済まされる話ではない。
怒りをあらわにしかけたアニエスは、しかし次の瞬間には顔面蒼白になっていた。
「避妊薬、欲しいよなぁ?」
ゲスな笑みが浮かんでいる。
そうか、わざとだ。
まだまだアニエスの肉体を味わって、楽しみ尽くすための手段を、彼は始めから画策していた。
妙に素直に情報を渡してくれたものだと、もっと疑うべきだったのだ。
(わかっていたはずなのに……)
相手が人格者などでないことは、わかっていたのに……。
これからも抱かれ続ける未来が待っているのだろうかと、アニエスは暗い未来に表情を染め変えて、胸中にもどんよりとした雲を広げていくのであった。