本文 ホシノ・ルリの羞恥ライブ
ホシノ・ルリは顔を顰めた。
始めに衣装を見た時から、表情の変化に乏しい彼女であっても、露骨に眉を顰めて嫌そうに、果ては今すぐにゴミ箱へ持って行こうと思ってか、そちらに視線をやっていたほどだ。
ルリはとあるイベントに抜擢され、それを断れない立場に置かれていた。やれ上の意向だ、政治的なしがらみだと、いかに拒んではまずいかと説く大人によって、無理にでも押しつけられた仕事など、やる気が出るわけがない。
「それって、セクハラでパワハラです」
と、始めに仕事の話を振られた時には、目の前の大人に向かって呟いたものだった。
少しばかり派手な衣装になると、最初に説明されてはいたのだが、それにしてもこれは予想外だ。こんなものを着ていたら、いかに恥ずかしい女の子に見えるかなど考えるまでもなく、そして姿見の前に立ってみれば予想通りだ。
まずスカートが短い。
丈の短さを除けば中高生が穿く一般的なスカートに過ぎないが、必要以上に際どく作られているおかげで、穿けば太ももは丸出しだ。たった一センチでも布を上げれば中身が見えかねない、街で見かけるミニスカートよりあと少し短い丈など、本当に心許なくてたまらない。
しかも、下着の用意までされている。
イベントのキャストとなるにあたって、下着の穿き替えすら強要されるのだ。
「本当にセクハラです」
姿見の自分を見て、ルリは不満そうにそう呟く。
ショーツは過剰に布が少なく、アソコを包むのは細長い二等辺三角形である。肉貝をちょうどぴったり収めているが、あと一センチでも幅が狭ければ、両端から数ミリなりはみ出していた事だろう。
お尻に至っては紐である。
紐と紐を繋いだTなので、スカートを捲ればお尻は全て丸出しである。そしてギリギリまで短い丈なので、静かに立っている分にはいいが、歩いただけでもチラチラと、中身が覗けて見えかねない。
これではとても落ち着いてはいられない。太ももの露出からして恥ずかしいのに、お尻の肌にスカートの裏地が直接当たる感触で、余計に体が焦ったような、そわそわとした感覚にさせられる。
そしてセーラー服も丈が短い。
上半身には白いセーラー服を着るのだが、胴囲をばっさり切り落としたような作りで、腹や腰回りが剥き出しなのだ。言ってみるなら、胸だけに布が巻きついた形である。捲ったり持ち上げたり、動き回った拍子に布がずれれば、やはり中身が見えるだろう。
ブラジャーはマイクロビキニも同然だ。
乳房を隠す用途を成さない、乳首さえ隠せればそれでいい面積の、非常に心許ない三角形が白いセーラー服の内側に潜んでいる。
まるで変態コスプレイヤーだ。
着るだけでも嫌悪感を煽られるのに、こんな格好で更衣室の外へ出て行って、廊下を渡りイベント会場へ赴いて、大勢が集まる人前に立たされる。
「こんなの、やっぱりセクハラです」
誰に見られているわけでもないうちから、着ていること自体に抵抗を感じて、今すぐ脱ぎ捨て元の服装に戻りたい、衝動的な気持ちすら湧いていた。
しかし、そこでドアから音がした。
コン、コン、と。
ノックが聞こえるなり、大人によるルリの呼び出しが行われた。
「ルリさん、そろそろ時間です」
「わかりました。今行きます」
いいや、行きたくなどない。
行きたくはないのだが、とぼとぼとドアに向かって、ルリは廊下へ出て行った。
「いやぁ、似合ってますねぇ?」
すると待ち構えていたスタッフは、人の格好を見るなりニヤニヤと、遠慮のない不躾な視線を送ってくる。視姦としか言いようのない眼差しで、ただ恥ずかしいばかりでなく、身が危険に晒された心地すらして、ルリは自然と肝心な部分を手で守った。
腕を胸に置き、手をアソコの辺りへやり、上下をそれぞれ押さえていた。
「こんなものが似合っているだなんて、馬鹿にしてます」
「そんなことないって。さあ、お客さんが待ってるよ?」
早くこちらへ、そう言わんばかりに顎で促し、着いて来るよう求めるスタッフの後ろに続き、ルリは廊下を渡り歩いていくのだが、歩行によってスカートが少し揺れれば、それが気になり今度は後ろへ手が回る。揺れを押さえておかなければ、とても歩けたものではなかった。
これで人前に出るなど考えられない。
(人前に出て、ライブして……。こんなの、本当に辱めです。どうかしてます。セクハラでパワハラです)
しかもステージは最悪だ。
ルリが立たされるその場所は、人混みという名の海に浮かせた円形の島だった。周りをぐるりと人に囲まれその中心で、しかも観客のほとんどが男性なのだ。
こんなスカートでそこに立つなど、どうぞ覗いて下さいと言うようなものではないか。
そんな円形ステージに立って周りを見れば、人、人、人、無数の『目』がルリへ向けられ、しかも手前にいる男ほど、露骨に姿勢を低めて覗き見ようとしていたり、カメラを構える者までいる始末だ。
これではパフォーマンスを行うどころではない。スカートを手で押さえ、見えないように気をつけていなければ、立っている事すらできなかった。
「ど、どうも……。はじめまして、ホシノ・ルリです」
頬を真っ赤に染め上げて、目という目の数々を気にしながら、どうにか右手のマイクを持ち上げ、しかし左手ではしっかりとスカートを押さえていた。
「え、えっと……歌います……」
あまりの状況にイベントの進行はぎこちなく、しかし可愛らしい女の子の破廉恥な姿に興奮して、スカートやセーラー服の中身を見よう見ようと、目を血走らせている男達は、そんなたどたどしさには構わない。
パシャ!
その時、大きなシャッターの音が聞こえた。
「……っ!」
肩を跳ね上げ驚くルリは、前を押さえていた左手を咄嗟に後ろへ移して振り向いて、困ったような怒ったような、ますます赤らんだ顔でこう言った。
「あの、撮らないでくださいね?」
と、注意したにもかかわらず、パシャッ、パシャッ、と、お構いなしのように周りから、他にもカメラの音が聞こえてくる。ルリはさらに頬を赤らめ目を瞑り、もう一度同じ注意を繰り返した。
「すみません、写真を撮らないでください」
しかし――。
パシャッ!
と、今度は真正面でフラッシュまで瞬いて、ルリは真っ赤になって顔を顰めて、お尻を押さえる左手を前へ戻した。
「ですから、写真を撮らないでください。これではステージができません」
そう訴えかけて静観していると、出されたカメラが視界の中から消えていく。ようやく写真撮影の気配が収まるが、すると今度は――。
ビュゥゥゥ!
狙い済ました強風でスカートが捲れ上がった。
「きゃっ!」
その時は前を押さえていたルリの、無防備だった後ろ側がばっさりと、高く大きく捲れ上がった。
「うおぉぉぉお!」
「Tバック! Tバックだぁ!」
「可愛いお尻だねぇ!」
「エロいよ? ルリちゃん!」
「サイコーだぁぁぁぁぁ!」
丸出しも同然の尻が見えてしまい、ルリの顔中が燃え上がり、同時に観客も盛り上がる。まだ一曲も歌っていないうちから、まるで熱狂の渦が広がるように男達がざわめいていた。
「やっ、やだっ! 見ないで下さい!」
ルリは直ちに後ろへ手を回し、捲れた丈を押し戻すが、風が止まらず布が暴れてばたばたと、押さえていようとお構い無しに激しくはためき、きっと尻たぶの両端は延々と見え続けている。
しかも手前が捲れ上がった。
「うそっ、そんな……!」
後ろを守っているのなら、今度は前が無防備なのだ。
腹にべったりと張りつくように、高く捲れたスカート丈から、今度は布面積が異常に小さい、性器だけをギリギリで包んだショーツがあらわに、熱狂がさらに広がり会場は盛り上がった。
「おおぉぉぉぉ!」
「エロい! エロ下着ィィィィ!」
「ルリちゃーん!」
「ブヒ! ブヒィィィ!」
「おパンツをありがとぉぉぉぉう!」
四方八方から嫌な叫びが届いてきて、衆人環視に晒されるだけでも恥ずかしいのに、これでは羞恥の上塗りだった。
「なんなんですか、このステージは……!」
頬に激しい熱を溜め込み、ぎゅっと瞼を閉ざしたところで、ようやく風が止まっていた。暴れていたスカート丈が大人しさを取り戻し、それから少しの間だけ、ルリは周囲を警戒していた。また風が吹きはしないか、どこからかシャッターの音が聞こえて来ないか、注意の目を光らせて、もう大丈夫だろうかと思ったところで改めて、ルリはステージの進行へ移るのだった。
「それでは改めまして……。ホシノ・ルリ、歌います」
ようやくライブが始まって、音響設備から流れる楽曲のリズムに合わせ、歌い出しのタイミングに唇を開き、ルリは歌詞を口ずさむ。
言えない気持ちを抱いたまま
この胸にあなた満ちてくる
だけど、切なくて苦しい思い
どうにか歌いこなしているが、気持ちはまったく落ち着かない。そもそも、この格好で人前に立つこと自体がおかしいのに、まして衆人環視に晒されているのだ。
先ほどスカートが捲れた余韻もあって、未だに頬から熱の噴き出るルリなのだが、風が吹いたりシャッターの音が聞こえるようなことがなくとも、もっと始めから恥ずかしい思いでいっぱいなのだ。
こんな場所からは一刻も早く解放されたい。
泣き出しそう
彼女を見つめるその瞳
永久に揺るがない気がするの
頬の赤らみが一向に引かないままに、ルリは歌い続けていた。
そして、気づいていなかった。
マイクを握り、フレーズを一つ一つ口にすることで精一杯の今のルリには、後ろの様子を確かめる余裕がなかった。
このステージにはバックモニターが設置されている。ルリから遥か後方には、映画のスクリーンほどに大きな画面が立てられて、そこに先ほどまで流れていたのは、遠くの客にもルリの姿が見えるようにと、単に拡大した映像に過ぎなかった。
だが今は、それが変わっている。
画面の内容が男達の視線を惹きつけ、ニヤニヤといやらしい笑みを誘発している。嫌な熱の広がる奇妙な雰囲気だとは思っても、まさかモニターに注目が集まっているとは気づかないまま、ルリは歌詞を口ずさむ。
そしてようやく歌い終わって、やっとのことで男達の視線の先に気がついた。ステージに立つ自分というより、その背後を見ている眼差しで、一体そこに何があるのかと、ルリは振り向き唖然とした。
お尻が大きく映し出されていた。
風で捲れた瞬間を撮られてか、尻たぶがただの少しも隠れていないTバックの、丸出し同然の写真が巨大な画面に、実物よりも遥かに大きく拡大されて、ルリは今の今までそんなものを背景に歌っていたのだ。
「い、いや……! なんですかあれ!」
ルリは激しく赤らんだ。
今は捲れているわけでも、写真を撮られているわけでもないのに、手が自然と後ろへ回り、スカート越しのお尻を必死に押さえていた。
もう撮られてしまった後から、しかもモニターに表示されている真っ最中に押さえても、その仕草には意味がない。意味などなくとも、羞恥に駆られたルリの手は、どうしてもそのように動いていた。
そんな時……。
じわっ、
と、アソコに何かが染み出した。
尿意があったわけでもなく、どういうわけか布が湿って、その感触に気づいたルリは、こんな状況で愛液を分泌してしまったのだと自覚して、もっともっと赤く燃え上がり、もはや頭が沸騰する勢いだ。
(う、うそ……これ、わたし…………)
ライブはまだ終わっていない。
他にも何曲か歌ったり、それにダンスの振り付けまで決まっているのに、これで続けろというのだろうか。あんなTバックの尻を背景に飾り立て、写真を視姦されながら、イベントを進行しろというのだろうか。
(こうなったら……ヤケクソです……!)
もうどうにでもなれ。
ルリは思い切って次に移って、歌と共にダンスをこなすが、その振り付けは腰を左右にフリフリと、いかにもお尻をアピールするものだ。
ふりっ、ふりっ、ふりっ、ふりっ、
見えているのではないか、Tバックをチラチラさせて、尻たぶに直接視線が集まったりはしていないか。それが非常に心配になりながら、ルリは腰を振り動かしていた。
ふりっ、ふりっ、ふりっ、ふりっ、
非常に短いスカート丈だ。
腰を突き出すだけでも中身を見せるようなものなのに、振り動かしまでしている以上、やはり尻たぶは露出している。ルリが心配しているように、腰がくいっと右や左に振られるたび、スカートの丈は浮かび上がって、南半球にあたる丸みが何度も何度も繰り返し、チラチラと見え続けていた。
足を振り上げる振り付けがあった。
右足で上段をキックして、続けて左足も高らかに振り上げる。まさにスカートを見せびらかすためにあるような、本当に困った振り付けを嫌でもこなし――。
「うおおおぉおぉ!」
「見えたぁぁぁ!」
「濡れてたぞ! 濡れていたぞ!」
「ルリちゃんの愛液ィィィイ!」
「エロ汁が染みているぅぅぅ!」
頭の沸騰の勢いが強まった。
今でさえ、脳がぶくぶくと泡立っているというのに、その噴き出す勢いが加速していた。
さらに、ジャンプだ。
振り付け上、高く飛び上がらなくてはならないルリは、非常に躊躇う気持ちを胸に床を蹴り、体を宙に浮かせて着地して、スカートが捲れるなど案の定だ。
そればかりか、セーラー服まで一瞬ずれた。
舞い上がった体が落下する際、その勢いで服の内側に風が通って、白い布が持ち上がり、マイクロビキニも同然の、薄らとした乳房が露出したのだ。
「ちっぱいぃぃぃ!」
「お尻! マンコぉぉぉ!」
最悪の盛り上がりだ。
人の羞恥心を煽ったり、恥辱を加速させてくるような、本当に嫌な歓声ばかり上がってくる。
本当に……本当に……!
耐え難かった。
バックモニターの表示写真は、いつの間にお尻からアソコに切り替わり、愛液の染みがデカデカと晒されて、濡れてしまった事実が全ての観客に広まっていた。胸が一瞬でも見えた時には、乳首だけを隠したマイクロブラジャーの、薄らとした乳房が映し出されて、ルリの頭の沸騰は勢いを増すばかりであった。
「本っ当にバカばっか!」
恥ずかしくて恥ずかしくて、ルリは叫んだ。
そして、そのマイクを通して轟く声ですら、ホシノ・ルリという美少女の可愛らしさを引き立てて、会場を盛り上げるエッセンスでしかないのであった。