本文 芹沢あさひの羞恥身体測定

 特別身体検査について、などと記した書類が芹沢あさひの手元にはある。アイドルの仕事が立て込んで、学校で実施する身体測定を休む事になると決まった時、ではこの書類に同意のサインをしてくれないかと先生から頼まれたのだ。
 その日に休むという事は、あさひのために別の日程を割く必要が出るという事なので、面倒な対応といわば引き換えに、これを受けてくれないかという話になった。
 渡された書類を見てみれば、どうも『検査の妨げになる着衣』だとか、『肌を直接観察』など、何やら恥ずかしい展開を思わせる文面が見受けられ、難色を示したあさひなのだが、担当するのは女性のみ、男性の立ち入りは一切無いらしいので、渋々ながらに同意した。
 元々、こちらの都合で別の日取りを用意させ、そのために人に面倒をかけている立場だ。それを思うと断りにくく、肌を出すならさすがに……とは感じたものの、女性のみなら断る理由もなくなろうというものだ。
 かくして、あさひはその日の放課後、保健室で特別な検査を受ける事となる。
 指定の時間に保健室に入ってみれば、見知った養護教諭の他に、外部から来たのであろう見知らぬ女性が数人ほど、待ち侘びたようにあさひの事を出迎えた。

「こんにちはっす! 芹沢あさひっす!」

 医者に自分の名前を伝えるため、挨拶も兼ねて大きな声で元気よく、すると養護教諭は微笑ましいものでも見たように口元を綻ばせ、女医なのであろう白衣の三人も、和やかな表情を向けて来た。
「待っていたわ? 芹沢さん」
 白衣の一人が口を開くと、続けて二人目の女医が説明を開始した。
「書類には目を通していると思うけど、ここでやるのは普通の身体測定ではありません。医学データを収集するため、普段はやらないような検査も含まれるから、そのつもりでね」
「はいっす!」
 三人の女医はそれぞれ、黒髪ストレートにショートヘア、セミロングの、揃ってアイドルとして通用しそうな美人である。プロデューサーがこの場にいたら、彼女達もスカウトするのだろうかと頭の片隅で思いつつ、あさひは身長計や体重計に目をやった。
 この学校の保健室には常にこれらが置かれているが、使う用事のない普段は意識しない。背景か何かのように、無意識のうちに存在を無視とでも言うべきか、何気ない景色の一部としてしか脳が捉えていないものである。
 だが身体測定を受ける今回は、いつもは背景でしかないそれらを、あさひははっきりと認識していた。
「では芹沢さん。肌を出して頂くため、カーテンを閉め、ドアにも鍵をかけてから実施します。急に男子が飛び込んで来た、なんて事故が起きないようにね」
 セミロングの女性は言うなりドアの方へ向かっていき、養護教諭も窓のカーテンに手を伸ばし、外部の視線や出入りのシャットアウトを行った。
(んー? 確かに肌を観察とか、そういう事は書いてあったっすけど……)
 急に違和感が湧いてくる。
 セーラー服を持ち上げたり、といった可能性があるのなら、もちろんシャットアウトはしておいた方がいいだろう。男子立ち入り禁止と書いた紙でも貼っておく手もあるが、見られる可能性は潰すに越したことはない。
 それにしても、この湧いてくる違和感は何なのか。
 鍵をかけ、カーテンを閉めておくくらい、別に普通のことだろうに、どうして奇妙な違和感が湧いてくるのか。
 ここにいるのは全員女性だ。
 いやらしい気持ちを抱くなど、特にないとは思うのだが、まるで男ばかりの空間に一人だけ閉じ込められ、これから複数人の視線を浴びる羽目になるような、恥辱の予感が薄らと、本当に薄らと、何故か不思議と湧いてくる。
 空気の質が悪い気がした。
 大気に粘り気などないはずだが、妙にべたつく空気感の中にいるような気持ちになる。
(なんなんっすかね。この妙な予感っつーか感覚っつーか)
 普段はやらない検査をやるというのだ。
 ひょっとしたら、自分で思っていたよりも、実は緊張でもしているのかもしれない。
 自分の感覚について、あさひはそう片付ける。
 だが、いざ身体測定が始まると、女医の口から困った指示が出て来たのだ。
「それじゃあ、早速だけど下着姿になってもらえるかしら」
 黒髪からの指示だった。
「はいっす――えっ?」
 反射的な返事をして、その直後にぎょっとした顔をした。
「あら、書類は事前に読んでくれているんでしょう?」
「それはそうっすけど、下着っすか? もっとこう、必要なタイミングで一瞬だけ? みたいなカンジだと思ってたんすけど」
 というのが、あさひの想像だった。
 胸なり、腹なり、露出する可能性はありそうだと、もちろん予感はしていたが、いきなり下着姿になるのは考えてもみなかった。
「そうねぇ? 細かい事は具体的に書いていなかったかもしれないけど、肌を出すってこと自体は、同意してくれているのよね?」
 優しく諭そうとするように黒髪は言ってくる。
「はいっす。それはもう」
「じゃあ、ちょっと意外で悪いんだけど、とにかく下着姿になって頂けるかしら」
「あー……。はいっす」
 あまり気が乗らなかった。
 この場にいるのは女性のみ、男性の視線は存在しない。必要以上に気にする事はないはずだが、女子同士でもあけっぴろげに下着を晒し合う事はあまりない。皆は普通に服を着ている中で、自分だけ無防備に近づくのは、どうしても心許ない気はするのだが、仕方がないのであさひはセーラー服を脱ぎ始めた。
 スカーフを外し、上半身を曝け出す。
 脱衣自体はさして躊躇わず、スカートもさっさと脱いではみせるのだが、やはり下着姿になった途端、急に身が小さくなった心地がした。まるで服を着ているか、いないかという理由で権利が縮小され、立場の段階が下がったような感覚だった。
 この感覚は本当に何だろう。
 今まで、衣服の着脱くらいで、そんな風に感じた経験があっただろうか。
「あら、可愛いわね」
 ショートヘアの女医が下着の感想を言ってくる。
「えっ」
 同性とはいえ、下着姿に対して言葉をかけられ、あさひは少しだけ引き攣っていた。
「そのブランド、いいわよね。私も同じところのをよく買うのよ」
 セミロングがそう付け足す。
「あ、ああ、いいっすよね。このブランド」
 あさひは戸惑いを晴らした。
 そうだ、そういう話に決まっている。
 急に言われた時は何かと思ったが、まさかセクハラオジサンのような感覚で下着を褒めたわけがない。言葉通り、ブランドに見覚えがあっただけなのだろうが、それにしてもねちっこい視線というか、目つきがいやらしい気がするのは何故だろう。
 男でもないのに、視姦などしないだろうに、どうして彼女達の視線はこうも気になるのか。
 あまり見られていたくない。
 彼女達の前で下着姿を晒しているのは、どうも嫌だと感じてしまうらしい。
(なんっすかね、この感じ。やっぱ、落ち着かないっす)
 きっと、やはり自分一人だけが下着姿で、周りは服を着ている心許ない状態が悪いのだろう。守りの足りない心細さで繊細に、そして敏感にでもなっているのだ。
 あさひはこの妙な居心地をそう捉える。
 そして、身体測定は始まった。
 身長計で背筋を伸ばし、頭の上にバーを下ろしてもらう。一時的に上履きを脱ぎ、靴下越しに台のひんやり具合を感じた状態で、気をつけの姿勢で柱に背中を当てる中、やはりどうにも、まじまじとした視線を感じる。
 他意はないのだろう。
 だが、それにしたって、みんなが身長計の前に立ち、人の姿をまじまじと見つめてくる。
 実施最中の測定を見守るという、それ以上でもそれ以下でもないとは思うが、黒髪の女医が隣に立ち、身長計のバーを握っている前で、セミロングとショートヘアの眼差しが真正面から真っ直ぐに突き刺さり、養護教諭もその隣から見つめてくる。
 この一斉に見られる感覚は、着衣状態だったとしても落ち着かない。それを下着姿というわけなので、そわそわする感じは尚更だ。
(ヘンな居心地っすね。本当に)
 頭からバーが離れて、あさひは身長計の台から降りるが、すぐに体重計の上に乗り、表示される数値の確認が行われる。
 こんな事、着衣のままでも良いだろうに、どうしてこの時点で脱がなくてはいけなかったのか。セーラー服やスカートがあってはいけなかったのか。
 納得のいかない気持ちもあって、早く終わらないだろうかという気持ちが加速する。
「次は手足を測るわね」
 黒髪はそう言って、メジャーを用意していた。確かに普段の身体測定では測らない部分である。手足のデータが何に役立つのかはわからないが、測るからには何らかに使うのだろう。
 だが、やはり下着姿の必要があるだろうか。
 あさひは腕を水平に伸ばしたり、気をつけの姿勢を維持するなどしてメジャーを当ててもらう事になる。ショーツのゴムあたりから足の位置まで、肩から指先まで、四肢の長さを記録される事となり、自分について調べられている感覚の、何とも居心地の悪い感じはより一層のものとなっていく。
 こうなると、次に測るのは胴体ではなのか。
「スリーサイズも測るからね」
「はいっす」
 予想通りの言葉に、胸にメジャーを巻かれる心の準備をするあさひだが、しかし黒髪は続けてこう言った。
「というわけで、ブラジャーを外してもらうわね」
「えっ」
 驚きの声が出てしまった。
「正確に測るためよ?」
「いや、ですけど、既に下着ですし……」
 ブラジャーを外したら、乳房が見えてしまうではないか。
「肌を出すって、同意のサインはしてあるのよね?」
「それはそうっすけど」
「なら、ブラジャーを取ってもらえるかしら?」
「いやぁ……。そのぉ……」
 あさひはさすがに抵抗を示していた。
 いくら同性相手とはいえ、好きで晒したいものでもない。それに彼女達の目つきはねっとりしているというか、視姦じみているというか、妙な好奇心を感じてならない。もしや同性愛者ではないかと、薄らと疑念が湧き始めるほどには気になるので、できれば下着姿までで勘弁して欲しい。
「あらあら、困ったわねぇ」
 だが、黒髪は明らかに眉をハの字にしていた。
 随分と、本当に困ってみせていた。
「そういう規定になっているのに……」
 続けてセミロングも困った顔をしてみせる。
「これじゃあ、測定が進められないじゃないの」
 ショートヘアもそう言ってため息をつき、それぞれ困ってみせてくる。
「えっ、えっと……」
 こうなると、あさひもまた困っていた。
 困った顔をされる事で困るという、そんな状況に陥っていた。
「芹沢さん? 書類は読んで、それでサインしたのよね」
 養護教諭は困るというより責めてくる。
「そう……っす、けど……」
「彼女達は外部からわざわざ来て下さってるの。学校としてはね、お願いしている立場なの。生徒の態度が悪いと、怒られたり文句を言われたりするのは学校になるの。それはわかっているかしら」
「……すみません」
 惨めになる。
 こんな下着姿で、どうしてこう、説教をされなくてはいけないのか。
「だったら、きちんとしなさい」
「って、言っても……」
「確かに、なんでブラジャーを外す必要がって思うかもしれないけど、そういう取り決めになってるの。ちょっと特別な測定になるって、あらかじめ言ってあったでしょう? 取り決めも特殊な事になっているのよ」
「そうなんっすか? いや、といっても……」
「ここまで言っても、まだ皆さんを困らせるつもり?」
 養護教諭はあさひの事を悪者のように見ていた。
 ここに味方はいない。
 渋るあさひに対して三人の女医は困ってみせ、養護教諭はもっぱら人を責めてくる。四人がかりで圧をかけられては、さすがに折れるしかなかった。
「わ、わかりました……。なら、外すっす……」
 やはり抵抗はありながらに,背中に両手を回してブラジャーを外し始める。たどたどしく肩紐を下げていき、胸の上からカップをどかしてやる。
 乳房を出した途端、視線の圧が強まった。
 明らかに、人の胸をじろじろと観察している。それも三人揃って一斉に、鼻の下を伸ばして思えるのは気のせいだろうか。
「じゃあ、測るわね」
 測定は黒髪の担当らしい。
 やはり彼女の手にメジャーは握られており、あさひは指示に従って、頭の後ろ両手を組むことになる。背中を通ったメジャーが手前に伸ばされ、折り畳むように乳房へ巻かれ、乳首の近くに合わさった目盛りから、トップバストの数値が読み取られる。
 続けて位置を下にずらして、アンダーバストの計測が行われ、あさひのカップサイズが明らかになった。
 さらに位置は下へと下がり、ウエストとヒップの数字も出され、ここまではまだよかった。ブラジャーを外さなくてはいけなかったのか、その点は非常に納得がいかないが、身長に体重に、そしてスリーサイズの計測までなら、身体測定の一環として疑問はなかった。
 だが、次に黒髪はこう言った。
「ここまでは済んだけど、乳首や乳輪も測るから、まだこのままでいて頂戴ね」
「そ、そんな場所を? どうするんっすか、そんなデータ……」
 さすがに理解が及ばない。
 測ってどうするのか、本当にわからない。
 しかし、黒髪はノギスを用意して、そのアームパーツを乳首に添えて直径を測り始める。自分では測ろうと思うはずもない、そもそもそこを計測しようという発想自体が存在しなかったあさひにとって、実に衝撃的な展開であった。
 金属がほんの少しばかり触れ、数値を読み取ろうとする女性の顔が接近してくる。いくら同性とはいっても、ここまで乳首に注目される事はないので羞恥心を刺激され、あさひは赤らんでいるのであった。
(困るっすね。ちょっと……恥ずかしい……)
 アームの開閉具合を調整して、黒髪は乳首に続けて乳輪の直径も計測する。それが済めば、さすがに身体測定は終了だろうかと思っていたが、今度は乳房の直径まで測ると言い出した。
 真正面から見た場合の乳房を円に見立てて、その横幅や縦幅を測り始めたのだ。アームパーツを大きく開き、縦と横から二度も挟まれ、しまいには標高すら測り始める。
 こうも何度も胸に計測器具が当たってくる状況など、今の今まで考えた事もなかった。
(マジでなんなんっすか。どうしてこんな測定が……こんなとこ、測ってどうするんすか……)
 わけもわからず、あさひは大人しく従っていた。
 そうしなければ、また困った風な態度を取られ、それによるッ三人がかりの圧をかけられる。養護教諭には説教までされかねないので、渋る気持ちを萎縮させ、あさひはただただ終わりの時を待ち侘びていた。
(まあ、これさえ終われば……)
 今度こそ、さすがに身体測定は終了だろう。
 ここまで細かい計測をしたのなら、もう他には測る所など残っていないはずである。
 と、思っていた。
「さて、胸も済んだし、次は――」
「次が……あるっすか……」
 かなりの嫌な予感がした。
 スリーサイズの計測という理由でブラジャーを脱ぐように言われて、そのまま乳首や乳房を調べられた。だとしたら、次は下半身の晩ではないだろうか。
「ショーツも脱いでもらうわ」
「…………は、はいっす」
 うげぇ……と、声に出したわけではないが、さすがに表情に出してしまっていた。心底嫌そうな顔をどうしてもしてしまい、本当に渋々といった表情で、あさひはショーツを下ろしていく。
 もう全裸だ。
 陰毛を剃り落とし、つるりとさせた性器を露出して、もう上履きと靴下しか身に着けているものが残っていない。そして周りの女医三人や養護教諭は白衣を着ている。
 周りは服を着ている中、自分だけが下着姿というのも気になったのに、下着を通り越して全裸である。
「ではベッドに移動してもらいます。横になったら足を開いて、肝心な部分が見えやすいようにお願いね」
「そんな指示……当たり前みたく言わないで下さいよ……」
 要するにM字開脚ではないか。
 裸が恥ずかしいだけでなく、ポーズまで恥ずかしいことになろうとは、この身体測定は一体どこまで人を辱めるものなのか。
 より赤らんだ表情で、あさひはベッドに背中を置き、脚を左右に広げていた。
「あらぁ? 毛は剃ってあるのね?」
 と、セミロング。
「綺麗な見た目ね? 羨ましいわ」
 ショートヘアも続けて言葉をかけてくる。
 そんな性器に対する感想を聞かされて、あさひが浮かべる表情は苦悶のものだった。
(勘弁して欲しいっす……)
 計測が始まれば、性器を細かく測られる。
 先ほどに続けてノギスが使われ、まずはワレメの長さが調べられる事となる。金属のアームが微かに触れて、黒髪はその数字を確認するため、顔を性器に近づけてくる。
 四人の人間に裸で囲まれ、そして彼女には性器を至近距離から見られている。
 恥ずかしさで死にそうだった。
 同性の視線だからまだマシなど、そんな事を思っている余裕がなくなるほどに、脳が熱され頭が沸騰に近づいて、あさひは耳まで真っ赤に染め上げていた。
 閉じ合わさった肉貝の、やはり縦や横の幅が測られる。ノギスをまずは縦向きに、そして横向きに、二つの角度から測った数字が書類の中に書き込まれる。
 バインダー留めの書類にボールペンを走らせるのはセミロングで、そのペン先で紙を引っ掻く音が聞こえると、自分のデータを取られている実感が湧いてくる。
 体重ですらプライバシーに関わる情報なのに、そこには乳房の計測データが書かれている。さらに性器の情報まで書き足され、内容がどんどんとんでもない事になっていないだろうか。
 性器から肛門までの距離が測られた。
 金属の触れる感じで、皮膚感覚でどんな計測かがわかった時、沸騰に近い頭により熱が加えられ、指で中身が開かれた時にはいよいよ脳が泡立った。
 頭蓋骨の表面から、頭の沸騰による蒸気でも出てきそうなほどまでに、あさひは激しく恥じらっていた。
 左右にぱっくりと開かれた肉ヒダへと、真正面から視線は注がれ、しかも中身を測られている。
 膣口の直径が、クリトリスのサイズが、小陰唇さえもが測られている。箇所や縦横の向きを変え、繰り返し当てられ続けるノギスと共に、数値の読み上げまで行われ、書類の中に次々と書き込まれる。
 最後は四つん這いにさせられた。
 この時には、もはや限界を迎えたような激しい頭の沸騰にいたっており、あさひはとっくに涙目になっていた。泣きたいほどの恥ずかしさを味わって、ベッドに強く顔を埋め込み、シーツを掴む二つの拳は、力むあまりにぷるぷると震えていた。
 肛門の直径が測られている。
 剥き出しのお尻の穴をまじまじと眺めた上で、ノギスまで当ててくる黒髪の行動と、それを脇から見つめるショートヘアやセミロングの視線が痛い。
 どこまで調べれば気が済むのか。
(こ、ここまでしたら……さすがに、もうやることなんて……)
「じゃあ皺の本数を確認するから、姿勢はこのままでお願いね」
「皺って、本数って、マジで言ってるっすか!?」
 あさひは狼狽した。
 肛門に人の視線が注がれるという、普通とはかけ離れた状況だけでも頭がどうにかなりそうなのに、なおも詳しく恥ずかしい部分を調べるなど、いよいよ正気を保てなくなりそうだ。
「えーっと、一……二、三、四…………」
 しかも声に出して数えている。
 皺の本数がカウントされる恥ずかしさで、パニックに近しい状況にまで陥りながら、あさひは激しく頭を沸騰させていた。恥ずかしさのせいで死ぬ、そんな思いを本気で味わい、涙目となった目尻から、シーツへと水気が移っていた。
 尻たぶに指は来ている。
 肛門に直接触れるわけではないが、触れかねないほどに近い距離へと指先が当たっている。軽く皮膚を押し潰し、ぷにりと埋まった指先の存在と、そしてカウントを進める黒髪の声に、一本一本を目視で丁寧に確かめているのが伝わって、それがあさひの羞恥心を加速させていた。
 どこまでも感情は膨れ上がり、恥ずかしさの極地に置かれ、あさひは顔中を歪め尽くした。シーツに埋まったその顔が、どれほど滑稽な表情と化しているのか、もはやわかったものではないのだった。
 肛門をこうも詳しく調べられ、カウントが終了してから、やっとの事で身体測定は終わりとなった。
「はーい。お疲れ様、もう服を着てもいいわよ」
 そう言われた瞬間、元気があれば飛びつく勢いで素早く着替えたかもしれないが、もはやあさひにそんな気力はない。魂をごっそりと削られて、尊厳を失った暗い顔でどんよりと肩を落としながら、あさひはショーツを穿くのであった。
 これを脱いでいた時間は、せいぜい数分くらいだろう。
 しかし、その経った数分だけで、随分と久しぶりに下着を穿けたような気持ちになった。そしてブラジャーを身に着けて、やっと乳房を包めた安心感を味わうが、あれだけ見られ、調べられた事実は変わらない。
 ベタベタと何かを塗りつけられでもしたような、肌に痕跡がこびりついたかのような余韻があった。乳房に、お尻に、性器に、肛門にすら、皮膚の奥まで余韻が浸透して、赤らんだ頬から未だに熱が引いてくれない。
 スカートを穿き、セーラー服を身に着けて、ようやく元の服装に戻っても、あさひは意識してしまう。女医の持つ書類には、乳首や性器を計測した細かいデータが揃っている。体重などという騒ぎではない、もっと深くプライバシーに関わる情報を握られた気持ちは言い知れないものがあり、あさひはすっかり深く俯いていた。
 しかも、最後にこう言われた。
「ほら、きちんとお礼を言いなさい」
(お礼! こんなっ、散々な目に遭って、私がお礼を言う側!?)
 あさひは仰天した。
 そして、非常に納得のいかない気持ちで従ったのだ。

「あ、ありがとう……ございました……っす…………」

      *

 数日後であった。
 それを知った時、開いた口が塞がらなかった。

「なっ、な……な……なっ……!」

 こんなに動揺したのは初めてだった。
 こんな事が許されていいのだろうか。
 いや、いいはずがない。
 こんな……こんな…………。

『芹沢あさひ激似!』

 そう題したアダルト動画の情報がネット上で拡散され、話題があさひ本人の元まで届いて来た。本人としては、あまりいい顔は出来ないが、そっくりなAV女優がいるのだろうと、最初はそう考えていた。
 しかし、どうも雲行きがおかしい。
 ただのそっくりさんという話題にしては、身体測定やら肛門の皺を数えるやら、妙に既視感のある言葉が散見され、恐る恐ると話題の動画を見てみれば……。
 そこにはあさひ自身が映っていた。
 激似も何も、本人ではないか。
「ありえない……ありえない、ありえない、ありえない……」
 全身が凍りつく思いであった。
 身長計で背筋を伸ばすシーンは下着姿で、スリーサイズを測る時にはブラジャーを外しており、ノギスによって乳首や乳房を詳しく調べる。最後はショーツの中身すら計測して、それら数値が全て読み上げられるという形で、体重どころの騒ぎではない、恥ずかしい情報がネットの海に流れたのだ。
 魂が抜ける思いであった
 現実を現実と認めたくない。
 現にアップロードされている動画を見て、嘘だ、これは嘘だと、何度呟いたとも知れない。
 大きなショックを受け、そしてあさひは思い出す。
 あの恥ずかしかった瞬間の気持ちが蘇り、今度は動画を通してより大勢に視姦されていると思ったら、またしても頭を沸騰させずにはいられないのだった。