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 脱ぐことに決めたのは、薄らとした恐怖を感じたためだ。
 目の前のスタッフは、佳純が拒否して帰ろうとも、引き止めては来ないだろう。お前がどうなろうと知ったことではないとばかりの、突き放した態度なので、性犯罪を目論んでは見えないのだ。
 そして、代わりに胸で膨らむのは、自分は本当にとんでもない高校を選んでしまったのだという、逃れられない網にかかった恐怖感だ。
 女子生徒があんな格好で歩いているのに、それが世間では少しも話題になっていない。
 一体どんな力が働いていて、ああした校則がまかり通っているのか、それに対する恐怖と寒気で、ここで拒否すれば不利になると感じたのだ。まさか殺人や窃盗でもないのに、罰金や懲役はないにしても、決して良いことは起きないはずだ。
 心境そのものは、逆らえば消される恐怖に近い。
 本当に消されるとまでは思っていないが、何か大きな存在に逆らって、果たして問題なくいられるのかという、背筋の凍りつく恐怖が掠めていって、気づけば指示に従う決心をしてしまっていた。
(まったく、まともじゃないわ)
 佳純はブレザーのボタンを外しきる。
 袖の中から腕を引き出し、脱ぐなり周囲をチラっと見やり、スタッフの様子も見る。脱いだものの置き場所は、きちんと用意してくれているわけではなさそうなので、仕方なく床に畳んで置いていた。
 床にも白いシートが敷かれているので、そう汚くはないだろう。
 次はリボンを引き抜いて、さらにワイシャツのボタンを外し始める。下から上へ、順々に外すにつれて、緊張感は大きく膨らむ。ヘソだの、腹だの、そんな程度の露出で恥じらうつもりは毛頭無いが、好きで下着を見せたいわけもない。
 一つずつ外していくうちに、ついには鳩尾よりも高い位置のボタンに触れ、きっと隙間からはチラチラと、ブラジャーが覗けて見えている。
 佳純の今日の下着は白だった。
 そういえば、昨日の説明時、スタジオには白の下着でなどと言われていた。何かおかしな指示を出されたらどうしよう、という不安感もそこから来るもので、そして本当にこんな指示が出てきたわけだった。
 かくして、残り少ないボタンを外しているが、一体下着の写真などどう使うのか。
(学生証、アルバム、パンフレットよね?)
 佳純はそう聞いている。
 ならまさか、それらに使用する写真が下着姿になりやしないかと恐怖する。学校にはスカートを穿かずに歩く女子がいて、ここでも脱衣の指示が出た以上、その程度のことは起きても不思議はない。
 ワイシャツのボタンが外れきる。
 佳純は頬を薄ら染めながら、恥じらいつつも前を左右に開いていって、白い袖の中からも腕を引き出す。上半身はブラジャーのみの姿となり、その恥ずかしさで頭にほんのりと熱が浮かんだ。
「ほら、あとはスカート」
 スタッフがカメラを握っている。
 人の下着姿を撮るために、デジタルカメラのレンズが向けられることとなる。
(グラビアアイドルじゃないのに)
 羞恥と共に抱くのは、不満不平の感情だった。
 その手の仕事を始めた覚えはないのに、どうして人前で服を脱ぎ、裸に近い格好で写真撮影などしなくてはいけないのか。納得がいかず、スカートに触れた指はそのまま止まり、佳純はしばし固まっていた。
 だいたい、スカートを脱げば完全な下着姿だ。
 まだ性の経験がなく、異性に裸を見せたこともない佳純には、下着を晒すことすら恥ずかしい。ましてブラジャーだけでもなかなかの感覚なのに、ショーツまで見せてしまったら、顔が今より赤くなってしまう。
 頬が妙に温かい。
 羞恥心で熱が上がって、染まった頬の温度が上がっている。皮膚の内側でピリピリと、淡い電気のようなものさえ走っていた。
(……屈辱的だわ)
 佳純は指で留め具に触れ、ぱちりと触れてファスナーを下ろしていく。
 もうそれで、一気に不安になった。
 どうせ下着姿にはなるというのに、腰の締め付けが緩むことでの、このままでは脱げてしまう不安感で、胸がざわつき落ち着かない。何なら、ファスナーを下げたことでの、ほんの少しだけ露出した太ももと、ショーツの一部分だけでさえ、より恥ずかしくなってきていた。
 スカートを握る拳に力が籠もる。
「ほら、早く」
「わかってます」
 淡々と答えてみせるが、カメラを持った男の前で、さらに露出度を上げるなど、どうぞ撮って下さいと、身を捧げるようなものである。実際、撮影のために脱いでいるのだが、自分の身体を切り取って、生け贄にでも捧げなくてはならないような、我が身を犠牲にすることへの思いが膨らみ続ける。
 どうして自分がこんな目に。
 人前で脱衣をさせられて、あまつさえ写真まで撮られなくてはいけない、そんな悪いことはしていないのに、納得がいかなくてたまらない。
「……くっ」
 密かに歯を食い縛り、少しだけ睨まんばかりの目つきになって、佳純はスカートから手を離す。とっくに緩んでいたスカートは、拳をパーにしただけで、ばっさり床へと落ちていた。足の周りにドーナツ状のリングが出来上がり、そしてそのリングから足をどかして、佳純は拾い上げたスカートを軽く畳んだ。
 足の近くには、ブレザーとスカートの、折り畳んだものが積み上がる。
「はーい。それじゃ、一回これで撮るからね」
 スタッフがそう言うので、佳純は気をつけのポーズを取り、カメラ目線となって背筋を伸ばす。

 パシャ!

 シャッター音が大きく聞こえてきた際の、辱めを受けた感覚といったらない。
「このままもう一枚いくからね」
 スタッフはさらにシャッターを押し込んで、その音声を鳴らしてくる。
「さっさと済ませなさいよ」
 聞こえる声量では言わないが、小さな小さな声でぼそっと、佳純はそうこぼしていた。
 平然とした顔をしてみせてはいるが、下着姿など落ち着かない。本来、人に見せることのない部分を見せびらかし、撮影までされている状況で、脳がみるみるうちに熱を上げ、少しずつ沸騰に近づいていく。
 頬の熱気も強まって、いくら冷静沈着なつもりでも、実際のところどこまで赤く染まっているか。
「後ろ向いて?」
 背中を向ける。
 ストレートの黒髪ロングに隠した背中と、白いショーツの食い込む尻にも、スタッフによるシャッターを浴び続けた。

 パシャ! パシャ!

 上下どちらも白い下着の、ショーツは尻に食い込んでいる。ゴムの部分が尻山を少しばかり押し潰し、その凹みが作るぷにっとした膨らみと、布がいくらか割れ目に入っての、形の浮き出た状態は、いかにも男を喜ばせる。

 パシャ! パシャ!

 首は真っ直ぐ、なおも前を見据えたまま、佳純は後ろなど見ないでいたが、身動きの気配で接近を感じ取る。他に物音などしない、静寂に包まれた環境下では、人がただ歩いただけでも、意外にも衣擦れの音が聞こえてきた。
 どうして接近してきたのか、今はどこを撮っているのか。

 パシャ! パシャ!

 なおもシャッター音声は繰り返される。
「横向きになってくれる?」
 そんな指示が来ることで、佳純は身体の向きを変え、視界の端にスタッフを捉えた。
 彼はしゃがんでいた。
 片膝を突き、姿勢を低めて撮っていた。ならば数秒前まで撮っていたのは、尻のアップに違いなかった。
(最悪……)
 彼はそのまま、姿勢は変えずにカメラの微妙な距離感だけを調整しながら、繰り返しシャッター音声を鳴らしていく。一種類の写真を撮るにも、やけに何度も撮り直し、そのデジタルカメラの中には一体どれほどの画像データが溜まったことか。
 やがてスタッフは腰を上げ、カメラの高さを調整する。

 パシャ! パシャ!

 横乳に対するシャッターだった。
 この距離なら、ブラジャーの素材や細かな刺繍にかけてまで、ブランドをじっくりと観察できるに違いなかった。
「もう一回、前向こうか」
 そしてこの距離で、カメラと向かい合う羽目になる。
 彼は直ちにしゃがみ直して、ショーツにレンズを迫らせて来た。
 佳純の穿いている白い下着は、いくらか着古してはいるものの、まだ買ったばかりのように純白は輝いている。白い布をベースとして、刺繍の糸は白銀なので、光を微妙にキラキラと反射する。
 五つの花びらで咲いた刺繍の花は、その並びによって花粉部分の円形を形成しつつ、ブラジャーとショーツのどちらにも、光沢を帯びた白のフロントリボンが飾られている。白い布に、さらに白を重ねているが、素材の違いで見栄えが異なり、だからリボンの存在は、背景に溶け込むことはなかった。

 パシャ! パシャ!

 鳴り続けるシャッターは、最初の何枚かはショーツに集中した。
 人の穿いていた下着を、写真に撮ってまで確認される、プライバシーに踏み込んだ検査の気分すら味わっていた。

 パシャ! パシャ!

 カメラの位置が変化して、今度はブラジャーが集中的に撮り尽くされる。
 佳純の胸はそこそこにボリュームがあり、谷間を作るほどではないが、カップの上端からは魅惑の上弦がはみ出ている。乳房をフルに包むというより、元々谷間を見せる構造のデザインなので、茶碗やリンゴよりも少し大きい、巨乳の一歩手前のサイズ感は、ブラジャーによってしっかりと持ち上げられていた。

 パシャ! パシャ!

 そこにレンズが向いている。
 レンズ越しに、視線もこの距離から注がれている。
 スタッフの表情には、人の裸に対するいやらしい目つきはなく、鼻の下も伸ばしていない。純粋に仕事をこなす顔でしかないものの、それが羞恥心を和らげてくれているかといったら、頬に溜まった熱気は薄らぐどころか温度を上げ、さらに赤らみが広がっていることが、佳純には感覚的にわかっていた。
 せめて、平静でいたい。
 恥じらう様子など見せず、さもあっけからんとしてみせたかったが、顔中に広がる熱気のモヤで、もうそれは無理なのだとわかってしまう。表情そのものは無感情に徹しているが、顔の色までは操作できずに、染まっているのがきっとバレバレに違いなかった。
 カメラの位置がまた変わる。
 ブラジャーのアップを撮っていたかと思いきや、今度は顔にまでレンズを向けてくるので、顔の染まり具合まで撮られることへの抵抗感が一気に膨らみ、さしもの佳純も表情を変えそうになっていた。

     *

 両手を背中のホックに回す。
 最終的には全裸になると言われてしまい、自分は一体何をしているのか、どうしてこんな言うことを聞いているのかとは思いつつ、黒髪ロングの下に隠れたホックを指に絡めて、ぱちりと外してブラジャーを緩めていた。
 じっと、スタッフは見てきている。
 表情は変えていないが、真っ直ぐにジロジロと、人の胸に視線を注ぐ。あまり見られていると、どんな作業もやりにくい気になって、そのやりにくさが羞恥心と絡み合う。恥じらいの心理の別のものがブレンドされ、心境がより複雑になった中、佳純は改めて尋ねていた。
「本当に見せるんですか?」
 顔すら何枚も撮られてから、その直後に出て来た指示が、今の下着をずらす内容だった。
 完全に脱ぎきる前に、ずらしただけの状態でも撮るというのだ。
「そうだけど?」
「そうですか」
「早くしようか」
「そうですね」
 極めて淡々としたやり取りを経て、佳純はぐっと恥じらいを堪え、顔中に何かが広がる感覚を抑えよう抑えようとしながらも、その手でブラジャーを持ち上げる。やはりジロジロと見てくる前で、ブラジャーが乳房の下弦に引っかかり、柔らかな山が上へ上へと角度を変える。
 しかし途中でぷるっと飛び出て、乳房は露出してしまっていた。

 カァァァァ――――

 と、赤らみの広がる感覚で、自分が赤面しきっているのを自覚する。
 ツンと飛び出た半球ドームの北半球に、ずらしたブラジャーをそのまま乗せる。
「ほら、次」
 そしてショーツもずらすのだ。
 それでなくとも、かなりの赤らみを帯びた今の顔は、性器と尻を出してしまったら、一体どうなってしまうのか。鏡もないのに、正確な具合はわからないが、とても人に見せられない表情になってはいないか、気になって仕方がなかった。
 もちろん、顔というより、恥部を見せる方が嫌である。
 こうして乳房を出しているのも、これからショーツを下げた中身を出すのも、どちらも嫌でたまらない。その視線を反射して、どこかに跳ね返してやりたい抵抗感と、そんな真似ができるはずもなく、見られるままとなる不快感は、胸中で羞恥心と混ざり合い、恥辱とでも呼ぶべき感情となって広く大きく成長している。
 佳純の置かれた心理状態は、およそまともなものではない。
 拷問を受けているわけでもないのに、何かを自白すれば許されるなら、そうしたい気持ちすら湧いてくる。
「どうしたの? 早くしてくれる?」
 佳純の心境を知りもせず、あるいは知っていようと構いもせず、早く仕事を済ませたいスタッフは、手が止まっていると急かしてくる。
「わかってます」
 声だけは、淡々と冷たいものが出る。
 耳だけで聞く分には、きっと冷気すら宿った声のはずだったが、それと裏腹に顔は赤らみと熱ばかりを帯びている。ショーツのゴムに指を入れ、あとは下ろすだけとなった時、熱気はさらに強まっていた。
 顔がますます赤いはずだった。
 頬が高温を放つことにより、部屋を暖めようとしている勢いを、自分自身の顔に感じていた。
「さあ」
 それだけの恥じらいが湧いていようと、スタッフはお構いなしに急かしてくる。
「急かさないで下さい」
 そう言って、下げ始めた。
 物理的には難しいことが何もない、しかし心理的には強烈なストッパーのかかる動作を、佳純は開始するのであった。
 するっ、と下ろし始める。
 ショーツのゴムは、あるべき位置から下へ下へと向かい始めて、佳純の姿勢も少しずつ、微妙にくの字に近づいていく。
 動作が重かった。
 布切れ一枚、重量などありはしないが、重いものでも動かす負荷でもかかったように、両手の動きはいかにも鈍い。数秒かかって、後ろの方ではやっと尾てい骨が見えている。
(躊躇ったって……)
 ゆっくり脱げば、この時間は余計に長引く。
 早く済ませてやろうとばかりに、佳純は意を決して速度を上げた。できるだけスムーズに、だんだんと姿勢を低めていきながら、太ももを通過させ始める。下ろす分だけ、くの字の具合も増していき、少しだけ尻を突き出す形となって、佳純のショーツは膝に絡んだ。
「はい、一旦そこまででいいよ」
 そして、そこで指示が出た。
 だが、一瞬体が動かない。
 それは本当に一瞬だけ、数秒だけの話だったが、ただ気をつけの姿勢に戻るだけで、かなりの抵抗感が生まれたのだ。今、こうして腰を折り曲げ気味に、そしてスタッフも背筋を伸ばして立っている。
 つまり相手の視点からでは、今ならまだ性器が見えていない。
 一番恥ずかしいところを、まだ辛うじて視線に晒さずに済んでいる。
 気をつけのポーズを取ることで、その最後の牙城さえ崩れ落ちていくことへの、大きな抵抗感や悲しさが溢れ出し、何秒かは体が動かず固まっていた。
 しかし、いつまでも硬直しているわけにもいかず、佳純の背筋は伸び直す。
 乳房を晒し、アソコまで晒した瞬間の、顔中に炎が広がっていく感覚といったらない。頬の筋肉はみるみるうちに強張って、唇の形も歪み、とても普通の表情はしていないはずだった。
「面白い顔になってるね」
 とうとう、口に出して言われてしまった。
 目の前の男といったら、人の表情を面白がっているようだった。
 こうなると、表情を見せることさえ、お尻やオッパイに並んで恥ずかしい。顔すら隠しておきたい恥部の一つとなっていた。
「早くお願いします」
「ああ、そうだね」
 スタッフは改めてカメラを構える。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 まずは一旦距離を取り、全身を撮り始める。
 真正面からだけでなく、横向きと後ろ向きの撮影も行うために、だから尻すらカメラに収まる。執拗に鳴らされ続けるシャッター音声を聞くうちに、背中を向けた佳純の背後に、また先ほどのような気配が迫った。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 今度はもう、わかっている。
 カメラの高さを尻に合わせて、剥き出しの丸みを収めているのだろう。
「横向きでお願い」
 と、指示が出るなり、佳純は視界の端にスタッフを捉え、撮っていたのは尻だけでないかもしれないことに気づいた。明らかに膝に向け、レンズを近づけ撮影している。尻もアソコも映らない、そこに絡んだショーツだけが収まる状態での撮影で、アップ写真の種類が増えたことを佳純は悟った。
「前向きね」
 そして、久々のように真正面から向かい合う。
 乳房に迫るカメラを見下ろし、そのシャッター音声を聞き続けるのは、何かを搾取され続けている感覚そのものだった。自分の大切な財産が目の前で消費され、他人に使い潰されていくところを、ただ黙って見ているしかない心境に似ているかもしれなかった。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 大事な乳房、大事な体の一部分。
 自分の認めたパートナーでもない限り、本当ならば決して見せることのない場所へ、シャッター音声は鳴っている。ボタンに指を乗せておき、それを押し込む動作まで、この距離ならば目について、撮られている実感は増幅する。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 スタッフはまた、しゃがむ。
 アソコの高さにカメラを合わせ、至近距離から撮ってくる。乳房を撮られる以上の、より大きな羞恥心に脳が煮え立ち、苦悶にすら近い表情が浮かんでいた。
 佳純のアソコは毛が細い。
 薄らとした三角形が灰色の草原を作り出し、その下にあるワレメの一本筋は、中身をはみ出すことなく、ぴったりと閉じ合わさっている。

 パシャ! パシャ! パシャ!

 それが、撮られる。
 さらにカメラの位置を変え、膝に絡んだショーツに対しても、延々とシャッターが切られ続ける。
「じゃあ、全裸ね」
 ついにスタッフがそう告げて、下着を手放すこととなる。
 きちんとした丸裸でも、全身を写した写真、横向き、背面、それから複数のアップ写真を撮られていき、最後には顔まで撮られた。赤らみを帯びて、羞恥に歪んだ表情へと、執拗なシャッター音声が鳴り続けていた。



 
 
 

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