新入生代表の挨拶が終わり、ようやくそれぞれの教室へ向かって行く。
壇上での挨拶が終わった時点で、元の格好に戻っているので、佳純も皆と同じくスカートと下着を穿き、全員が全員、揃ってミニスカートという状況さえ除けば、いたって普通の装いで名前順の席につく。
青木という名字は、名前順では一番や二番になりやすい。
しかし、名前順には関係なく、この入学初日で行うクラスでの自己紹介は、必ず新入生代表が一番手と決まっているらしい。新入生代表のいないクラスでも、それぞれクラス代表が立てられており、今頃は佳純と同じ方法で挨拶を始めているはずだ。
今度は教室という、体育館に比べればずっと小さな空間で、それも教卓をわざわざ横にどかした上で、クラスメイト全員の前に立つ。人数こそ大幅に減ってはいるが、この状況の方が体育館よりも距離が近く、後ろの方からでも佳純の身体が見えやすい。
体育館で脱ぐのは緊張したが、こんな教室の中で脱ぐ方が、どうやらもっと緊張してしまうらしい。
佳純はみんなの前に立っていた。
「ああ、あの子」
「マジで脱いでたよな……」
「ちょっと信じらんないんだけど」
「うちら、どういう学校に来ちゃったわけ?」
向けられるのは、正常な人間に対する視線ではない。
全校生徒の前で下半身裸になったばかりの今、それがそのまま佳純の評価と化している。佳純が望む望まないに関係無く、校則という線の内側の、学校側の世界の中に、佳純は立たされてしまっている。
(ふざけた話ね)
どうして佳純の順番が――否、新入生代表の自己紹介が、名前順を無視して必ず一番としてあるのか。
「皆さん。初めまして」
先陣を切らせるためだ。
始業式の最中だけでなく、教室の中でも校則に従う姿をアピールして、校則が嘘偽りのない本物であることを訴えかける。そして、一番に校則を示した佳純の存在を皮切りに、全ての女子が一人また一人と、同じことをやっていく。
こんな最悪な話があるだろうか。
佳純の状況はつまり、争いごとには反対なのに、そのスタートスイッチを握らされ、押すことを強要されたものである。主義とは正反対のことをさせられて、煽動にまで使われる気持ちといったらない。
担任は石動秋子であった。
相変わらずサディストらしい悪魔の笑みで佳純のことを見守って、内心ではさぞかし面白がっていることだろう。恥ずかしさで泣き出す子が出て来たとしても、彼女ならば喜んで虐めるのだろう。
「まずは校則に従い、下着を下げさせて頂きます」
スカートの内側に手を入れて、膝の位置まで下げていく。
視線が痛い、本当に痛い。
声などなくとも、「うわ、本当にやってるよ」とでも言わんばかりの、信じられないものに対する気持ちがいくらでも伝わってくる。女子の露骨に引いた視線ほど痛いものはなく、男子ですら皆が皆興奮で鼻を伸ばすわけではなく、この子は一体何をやっているんだという、奇異に対する眼差しを向けてくる。
興奮で鼻の下でも伸ばして、ハァハァと息を荒げてくれた方がまだ楽だと、生まれて初めて思っていた。
そしてスカートをたくし上げ、何人も何人もの、おびただしい数の視線をアソコに浴びると、教室の全員が絶句していた。凍りついた空気の中で、佳純は惨めな思いを味わいながら、ゆっくりと自己紹介を続けて行く。
「私立中学出身、青木佳純といいます」
名乗った名前は、みんなの耳に届いているのだろうか。
「中学時代、部活には入っておらず、勉強と習い事が中心の毎日でした。高校生になってからは、もう少し気楽な生き方をしてみたいとも思っていましたが、ここが普通の学校ではなかったことに私自身驚いています」
せめてものアピールだった。
佳純だって、本当はそちら側に立っていたのだと、悲痛の思いを無表情の仮面に覆い隠して、訴えかけているのであった。
「このような学校ですが、どうにかやっていければと思っています。どうか、よろしくお願い致します」
軽く頭を下げたとことで、佳純の自己紹介は終了する。
その瞬間だった。
「はーい、皆さん?」
石動先生が嬉々とした声を上げ、教室の全員に向かって言い聞かせる。
「見ての通り、この学校では本当にパンツを下げたり、スカートを脱いだりしてもらいます。ああ、男子はいいのよ? うちはね、女子の教育に力を入れているんだから」
聞いていて、横で思わず、鼻で笑いたくなってくる。
「女子生徒の皆さんは、こちらの佳純さんをお手本として、同じような方法で自己紹介を行ってもらいます。きちんとしなければ、帰ることはできないわよ? せっかく恥を忍んでお手本を見せてくれたんだから、みんなも佳純さんの誠意に応えなくっちゃ」
一体、他のみんなには、この先生がどう見えているだろう。
まさかとは思うが、既に石動先生の仲間のように思われて、その認識の目を向けられてはいないかと、どんどん不安になってくる。
「自己紹介が終わっても、許可が出るまでパンツを戻してはいけないわ。それに新入生は最初の一ヶ月間、在校中は膝まで下ろした状態で過ごしてもらうわよ。例外は生理くらいかしらねえ?」
楽しそうな声が上擦りさえしている。
佳純と違って、初めて恥ずかしい目に遭う女子が、それぞれどんな反応をして、どういう表情で赤らむのか。それが楽しみでならないのだろう。
佳純は席に戻った。
下着を膝に絡めたまま、歩幅を制限された形で歩き、すぐそこにある最前列の席へと座る。その次に名前を呼ばれる女子は、困惑と緊張ですっかり固まり、たどたどしくなってしまっていたが、悪魔の囁きが魔法のようにその子を動かし、その子もまたショーツを下げて、同じようにアソコを公開する。
次の子も、また次の子も、何かの呪いか魔法のように、必ず指示に従っている。
誰一人として、抗議の声を上げていない。逃げ出しもしていない。
場を魔力が支配しきって、ショーツを膝に絡めた女子の人数は、自己紹介の進行に合わせて一人ずつ増えていく。男子の自己紹介の時だけが正常で、女子の自己紹介の全てが、その内容は出身中学や入っていた部活、高校での目標を語るだけの内容なのに、異常さを孕んでいるのであった。
本当の本当に、とんでもない学校に来てしまった。
これから、こんな学校での生活が始まろうとしているのだ。
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