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 最悪だった。
 ただ下着を見られるだけだと思っていた。
 それも脱いだ後の下着であり、着衣状態を見せるわけではない。気持ち悪いのは確かでも、全裸を視姦させるよりはマシな行為だとさえ考えていた。
 それが、こんなことになるなんて……。

「どうしてなのよ!」

 サーシャは人前に立たされていた。
 せっかく女子が気を利かせ、男子に圧力をかけてくれていたというのに、それも全て台無しになっていた。
 指輪の指示で、二人並んで教卓の前に並ぶことになったのだ。
 もちろん、好きで従ったわけではない。
 サーシャが覚悟していたのは、下着を見せる羽目になる一点のみのはずだったが、それしきで済ませることは、<羞恥の指輪>としては少々許せないものらしい。
 二人は肉体操作を受けた。
 魔力によって人形のように操られ、教卓に立たされてしまったのだ。
 それに抗うことはできなかった。
 指輪から流れる魔力に対して、反魔法は発動できず、骨を直接掴まれたように足が動いた。行きたくもない場所へ勝手に足が動いた挙げ句、ただ立たされるだけに留まらず、男子まで回りに集められてしまったのだ。
 これから<契約>を解くためのゲームを行う。
 二人に協力したければ、決して邪魔はせず、余計な口も挟まないこと。説明する内容に従って、男子達は必ずゲームを楽しむこと。
 そういった指示を指輪は<思念通信>によって飛ばしたのだ。
 女子の圧力もあり、おいそれと従うのは男子としても気まずそうな様子ではあったが、指輪が皆を説得するうちに、エレオノールもファンユニオンも、非常に渋々ではあるが圧力を解除していた。
 そうしなければ、二人は裸の呪いから解放されない。
 呪いを解くためならば仕方がない。
 そんな状況を盾にすれば、多少の無理も通るのだった。

『では開始だ』

 指輪が放つ<思念通信>の合図により、それは始まる。
 男子達による下着の観察大会だ。
 クラスメイトの男子達は、全員ができるだけ前の列に集まっている。サーシャとミーシャはその全員に見える形で立たされて、手で隠すことは許されているとはいえ、一糸纏わぬ姿をジロジロと見られることになったのだ。
 加えて、最悪の光景である。
 席に着いた男子の一人が、ドキドキした顔でショーツを持ち上げ、表や裏の素材を眺めたり、クロッチに付いたおりものを確認している。他の席にはミーシャのショーツが、さらに他の席にはブラジャーが、それぞれ男子の手に渡っている。
 自分の下着が男子に触られ、観察される。
 その様子を本人達が眺めさせられ、屈辱でたまらない。
 サーシャは恥辱で歯を食い縛り、表情に乏しいミーシャも赤らんでいた。
 しかも、それだけではない。
(へえ、これがあの二人のパンツか)
(白なんだな)
(これって生理の染みだよな?)
 声が聞こえてきた。
「なっ、な……なっ、なぁ…………!」
 サーシャは戦慄していた。
「やだ……!」
 ミーシャの声も震えていた。
『<思念通信>の応用だ。男子達の心の声が届く気分はどうだ?』
「何が気分はどうだよ。本っ当に最低」
 憤りの感情が止まらない。
<思念通信>の繋ぐ相手や人数を自在に選び、今は二人だけに聞こえる声を発してくるが、そんな<思念通信>を仲介して、読心魔法で読み取った心の声を二人の脳に届けてくる。
(俺も早く見てーなー)
(ミーシャのって、意外とオシャレ?)
(サーシャのは派手だったりして!)
 下着は一人ずつ順番に、隣の席へ隣の席へと回されて、順々に触られることになっている。順番の回った男子の、ドキドキしながら弄り回してくる声は言うまでもなく、順番待ちの心に浮かぶ期待の声さえも届いてくるのだ。
 サーシャのショーツは赤いフロントリボン付きの純白だ。
 それが隣の席へ回されて、サーシャの見ている前で次の男子が受け取ると、その男子はまず真っ先に裏返した。
(おっ、生理の痕跡!)
「……っ!」
(にしても、意外と清純なパンツじゃん? てっきり、紐状でケツ丸出しとかだと思ったのに!)
(穿かないわよ! Tバックなんて!)
(あ、でも、どっちがどっちかなんてわかんないか。実はこっちがサーシャで、もう一つの方がミーシャかも)
 男子達には、どちらがどちらの下着かは伝えられていない。
 ルールはこうだ。
 男子全員が順番に下着を触り、観察する。みんなで検分し終わった後、一体どちらがどちらの下着であるかをみんなで当てる。正解人数が多ければ男子の勝ち、不正解の人数が多ければ指輪の勝ち。
 男子が勝てばポイントがたんまりと、負ければ少ししか入らないことになる。
(勝っては欲しいけど、欲しいんだけど……)
 心中複雑だ。
 せめで、どちらがどちらの下着であるか、最後まで不明である方が多少はマシだ。答えが明らかになってしまえば、プライベートな情報が男子に渡り、そして男子達は後でそれを妄想ネタの材料に出来るというわけだ。
 そう考えると薄ら寒い。
 かといって、こうまで心を削っているのに、引き換えに得られるポイントが少なければ、それはそれで悲しくなる。
(綺麗だなぁ)
 聞こえる声はショーツの感想だけではない。
 その後ろの席では、ブラジャーが触られていた。
(ふむ、これでネクロン姉妹のオッパイサイズがわかるというもの)
(ちょ……!)
(では目測ながら、サイズを計測してみよう!)
(よ、よしなさいよ!)
 とんだ辱めだった。
 こうして自分の下着が触られて、その様子をただ見ているしかない状況さえ、まるで拷問の一種のように思えてくる。痛みの代わりに恥ずかしさを与え、羞恥によって観念させようとしてくる行為に感じられ、心が徐々に締め付けられる。
 同じ辱めをミーシャの方も受けているのだ。
(へえ、派手じゃん? これってサーシャの?)
 ミーシャのショーツの方が、サーシャよりもいささか刺激的らしい。
 しかし、触っている本人は、派手めという理由でサーシャのショーツと思い込んでいるようだった。
 色は同じ純白で、赤いフロントリボンも共通だが、ミーシャの場合は両サイドがリボン結びになっている。紐を引っ張れば脱げてしまうタイプの上、後ろ側の布がやや少ない。Tバックには程遠く、お尻の露出量が少しだけ増える程度ではあるが、サーシャよりも派手といえば派手なのだった。
(ぜってーサーシャだよなァ! ミーシャの方が清純っぽいの穿くよなァ!)
(くっ! どういうイメージよ!)
(でも、地味なの穿いてそうな子がこれっていうのも、ちょっと興奮するかも!)
(しなくていい!)
 その男子がミーシャの下着に抱く感想は、その都度サーシャの心に憤りを溜め込んだ。
 これをミーシャも聞いている。
「やだ…………」
 ミーシャが俯いていた。
 耳まで赤く染めながら、赤い顔で床だけを見始めていた。
 決して穏やかな気持ちではないだろう。
 ショーツの派手さに言及する声が毎回聞こえ、派手という理由でサーシャの可能性が高いと決めつけられる。男子にとって、ミーシャのイメージとは異なるらしく、逆にサーシャの方がミーシャのものだと思われがちだ。
 それらの声を聞き取らされ、胸が絶えず締め付けられる。
 羞恥で苦悶の顔が浮かんで、頬が硬く強張っていく。

 チラ、チラ、

 と、視線も感じた。
(見ないでってば……)
 下着の回ってきている男子は、もっぱらそちらに夢中になる。視線が向けられることはなくなるが、他の残りの男子は二人の裸体を盗み見る。
 腕で胸は隠している。左手でアソコも隠している。
 だからといって、そんな方法でしか恥部を守れていない、心許ない姿を見られるのは惨めでならない。
(これじゃあ見世物じゃない……)
 こんな教卓を背にした形で立たされて、鑑賞物の扱い以外の何でもない。
 あからさまに見るのは気まずいと思ってか、なるべく盗み見るようにしているのは、サーシャにははっきりと感じ取れていた。
(もうっ、最低よ)
 人の惨めな姿を見て、そんなに面白いのか。
 男子への恨めしさがふつふつと湧いてきた時、不意に指輪の<思念通信>の声が聞こえた。
『終わったようだな』
 これで全ての男子が一回ずつ、サーシャとミーシャの下着に触ってしまったらしい。
 あの下着には、もう男子全員分の手垢が付いている。それを返してもらっても、もう着用する気にはなれないだろう。
『では集計と行こう』
 そして、この<思念通信>は全ての男子も対象に含めていた。
『方法は簡単だ。派手な方と清純な方、どちらがサーシャのパンツで、どちらをミーシャのパンツだと思うか。心の中で回答すれば、私がそれを全て読み取る』
 いよいよだった。
 しかし、これまで聞かされた男子の声では、派手な方をサーシャと思い込んでいるものが多かった。
『答えるのだ。派手な方はどちらだ?』
 その瞬間だ。

 サーシャ! サーシャだろ!
 サーシャの方がエロいの穿いてそう!
 俺はミーシャに賭けるね!

 比率はこの通りだった。
 半数以上がサーシャと答え、一部だけがミーシャと答える。
 そして、ミーシャと回答した男子の声は、ミーシャが実は派手だった方が興奮するといった旨のものだった。
 予想通りの展開そのままだった。
 これで多めのポイントは逃し、契約解除には少ししか近づかないことになる。
『派手な方がミーシャ、清純な方がサーシャだ』
 しかも、指輪が答えを伝えてしまった。
(マジか!)
(あっちが!?)
(そっか。サーシャの方が染みが濃かったなぁ!)
 最悪の声が聞こえてくる。
 オリモノの染みは当然のようにチェックされていて、それに関する心の声がいくらでも届いて来る。それら数々の声に苛まれ、サーシャどころかミーシャにも、苦悶の表情は浮かんでいた。
(最悪! 最悪! 最悪!)
 これでは辱めが終わらない。
 ポイントが足りない以上、また次の羞恥プレイに移らなくてはならないのだ。

     *

 みんなに下着を弄らせて、その心の声まで聞かされて、そんな辱めを受けてまで稼いだのは、たったの三ポイントだけらしい。
 気が遠くなる。
 同じことをあと三十回繰り返しても、このままではまだ足りない。
『さて、これではポイントが足りない。そして、お前達も早く契約解除がしたいだろう』
「そうだけど……」
 ミーシャが不安そうにしていた。
 当然だろう。
 契約解除をしたいのは当然だが、そのために通らなくてはならない道のりは、今回以上に恥ずかしいものになりかねない。
『そこで気を利かせ、私の提案メニューを強制的に受けてもらう』
「はあ!?」
『どうしたサーシャ、ずっと裸であり続けたいなら構わないが。そうでないなら、今以上にポイントを稼げるメニューに挑まざるを得ないはずだ』
「そんなこと言ったって、さっきので三ポイントってどういうことよ! どんな計算してるのよ!」
『羞恥心の数値化を設定したのは私ではなく、私の制作者だ。私の内部には設定の論拠までは記されていないため、どんな計算なのかについては、私では説明できない』
 いちいち腹立たしい。
「……そう。なら一体どうするっていうの? 今度はどんな最低な思いつきがあるわけ?」
 サーシャは敵意剥き出しに、自身の指輪に向かって尋ねていた。
 すると、次の瞬間である。

 体が勝手に動き始めた。

 手足に見えない芯を通されて、内側から直接力をかけられているように、指先さえもが勝手に動く。サーシャの意思に反して、ミーシャの意思にも反して、今まで隠していた胸が男子達の前に解放されようとしていた。
「ちょっ、ちょっと!」
 サーシャは抗う。
「やめて!」
 ミーシャも引き攣りながら嫌がっていた。
 二人揃って、自分自身の勝手に動く体に逆らい、逆の力をかけようとしていた。乳房から腕が離れようとする動きに対して、必死になって隠そうとする力を込める。アソコもそれと同様に、今にも姿勢が変わろうとするのに逆らって、魔力まで駆使するが、二人は悲しいほどに無力であった。
「まずいんだぞ……」
 エレオノールが後ろの席から身を乗り出し、何とかしようと飛び出しかけるが、椅子から腰を浮かせただけで一向にやって来ない。指輪をどうにかできるわけでもなく、結局は無力感を噛み締めながら、彼女は座り直してしまっていた。
「や、やだ……やめて……」
 ミーシャが隣で懇願している。
『それはできない相談だ』
 指輪は容赦してくれない。
 抵抗虚しく、二人はやがて気をつけの姿勢を取らされて、乳房を隠すことができなくなった。アソコにも視線は集まり、頭は急速に熱されていく。
(は、恥ずかしい……!)
 サーシャは羞恥で悶絶を浮かべていた。
「やぁ……!」
 ミーシャからも、小さな悲鳴が上がっている。
 こんな形で見世物となり、惨めなところをエレオノールやファンユニオンにまで見られている。複雑な表情を浮かべる女子達の、かといって指輪の絶対的な制約を前に、下手に止めるわけにもいかず、仕方なくじっとしている様子はひしひしと伝わってきた。
『男子諸君。正解者から順番に前に出て、一人一分まで近くで観察する権利を与えよう』
「何言ってるのよ……」
 青ざめる思いがした。
 しかし、いくら凍りついた気持ちになっても、赤面しきった顔は決して青くなることはなく、心だけに不安が膨らんでいた。
『拒否した場合、ペナルティが発生する対象はこの二人だ。契約解除に必要なポイントは、誰か一人でも拒否するたびに一〇ポイント。妨害に入る者が現れても一〇ポイントずつ加算されるものとする』
 わざわざ拒めない理由まで与えることで、男子達が二人の裸を堂々と視姦しやすいようにするつもりだ。
 しかも、女子への牽制にもなっている。
 エレオノールやファンユニオン達の、できることなら何とかしたい思いが顔いっぱいに現れた表情は、その<思念通信>が届くと同時に萎縮したものへと変わっていた。
『では一人ずつ順番に来てもらおう』
 指輪は男子の指名を始める。
 そして、一人ずつ席を立ち、二人の前までやって来て、一分という持ち時間を駆使した至近距離での視姦が始まった。
 一人目の男子はミーシャを中心に視姦する。
 乳房に顔を近づけて、乳首をじっくりと観察した上、横や下から覗き込もうとするかのように視姦する。乳房の細かな形状や膨らみ具合までチェックして、記憶に刻み込むつもりに違いなかった。
 それにミーシャは必死に耐える。
 身体に顔が近づき、皮膚の表面を這ってくる状況に、まるで苦痛にでも耐えるような表情で堪えていた。
 ほどなくして一分経つ。
 一人目はミーシャを見ているだけで時間を使い切り、次の二人目はサーシャを見に来た。
「わ、悪い……」
「謝られても、しょうがないじゃない……」
 サーシャはその男子から顔を背け、すっと目を瞑ることで耐え忍ぶ。
 まぶたの裏側だけを見ていれば、少しは恥ずかしさを軽減できるかと思ったが、その瞬間に思い出すのが羞恥心にまつわるルールである。恥じらい度合いを数値化して、それをポイントに換算する仕組み上、軽減させれば解除が遠のく予感がした。
(本当に……最低な仕組みね……)
 思い直して、サーシャは仕方なく目を開ける。
 すると、真っ先に目につくのは、胸元にぐっと迫って、至近距離から毛穴でも覗かんばかりにしてくる頭であった。少し視線を下げれば、視姦してくる頭頂部が目に入る。ミーシャがされていた視姦と同じく、サーシャの乳首もじっくり見られ、乳房の形状をチェックするため、下や横からの角度でも観察される。
 さらに今回の場合、乳房を早めに切り上げて、アソコの目の前にまでしゃがんできた。
「な……!」
 余計に恥ずかしくなってきた。
 こんな近くから、陰毛やワレメの部分まで観察されるのだ。
(早く……まだ一分経たないの……)
 せめて、この最悪な時間に一秒でも早く過ぎ去って欲しい。
『おしまいだ』
 願望を抱いた頃に時間が経ちきり、二人目となった男子は名残惜しそうな背中を見せるが、すぐに三人目がやって来る。その三人目の視線を耐えても、四人目が、五人目がやって来る。
 それぞれ、思い思いの方法で視姦を行った。
 サーシャに行くか、ミーシャに行くかは人それぞれ、胸の視姦に使う時間もまちまちで、後ろに回って尻を観察してくる男子もいた。三十秒ずつ半々に、両方の視姦をしてくる男子もいた。
 そんな順番ごとの視姦が最後まで終わっても、まだポイントは溜まりきらない。
『ようやく一〇ポイントを超えたか』
「少ない……」
 ミーシャの悲しい声に、サーシャも同じだけ悲しくなった。
 いつまでこの地獄は続くのか、想像もつかなかった。



 
 
 

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