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 ここでは定期的に行われるイベントがある。
 九重エリサのポーカーだ。
 勝てば脱出の権利を得るものとして、支配人はたびたびゲームの機会を用意して、そのたびにエリサに辱める。対戦相手として現れるのは、その誰もがイカサマに長けた者であり、エリサはそれを見抜けないのだ。
 マジックハンドに妨害される。
 しかも、男性側が勝つたびに媚薬が噴射され、エリサの身体はゲームの進行につれて敏感になっていく。集中力を欠き、相手の怪しい手癖を見抜けず、最後には敗北に追い込まれ、展示エリアへと戻されるのだ。
 そんな勝負の場に今日も立ち、エリサはカードを握っている。
 ルールは変わりなく、一〇〇〇ゴールド分の金貨をテーブルに置き、賭け金のBETを行いながら手札を出し合う。全てのゴールドを失った方の負けとなるが、エリサは勝負の始まった時点から、既に己の負けを予感していた。
 カジノの中で、エリサの存在はイベント扱い、展示扱い。
 闇の一族の正体が明らかとなり、その身柄をカジノが確保しているというのが、もはや客寄せの要素となっている。
 観客からの声が聞こえた。
「なあ、マジに闇の一族なのか?」
「さあな、設定かもよ?」
 と、みんながみんなそう思ってくれていればまだいいが、イベントに沿った設定とは解釈せず、本当に闇の一族を捕らえたと信じる者は少なくない。
『さあ始まりました! 今宵の九重エリサのポーカーショー! 今度こそ、今度こそ勝利となるのだろうか!』
(勝たせる気などないくせに……)
『ではスタートです!』
 実況役の声が拡声魔法によって響き渡って、テーブルの周囲に広がる数百人の観客全てに行き渡る。
 ゲーム環境は初めて対戦した時と変わらない。
 エリサは透明なマジックハンドに包囲されており、目には見えずとも、手首だけを切り取ったような右手が、左手が、いくつもいくつも浮遊している。エリサの肢体を舐め回し、鑑賞するための撮影魔法もかかっており、つまりエリサの様子は映像に中継されている。
 テーブルの真上には、複数の映像が浮かんでいた。
 魔法によって現実の風景を記録として取り込んで、その記録物に対して再生処理をかけた結果が、浮遊する映像の数々である。大人が両手を広げたよりも、いくらかの大きさを持つ映像達は、ゆったりと漂うように浮かんでいる。

 さわっ、

 尻に手が置かれ、エリサは舌打ちした。
 撫で回す手つきに沿って、尻の上で布がずれ動く。その様子が映像に流れることで、観客達の興奮を煽っていた。
「ひゅー!」
「さっそくサービスしてくれんじゃねーか!」
 エリサはチャイナドレスを着せられていた。
 殺し、盗みの現場において、常に着てきた衣装だが、この場においては侮蔑の対象としてしか見られていない。破廉恥、露出狂といった言葉でエリサのことを辱める。ひいては九重の決闘そのものを侮辱してくる。
 馬鹿にさせるために衣装を表舞台に出すなど、本来なら誇りが許さないが、しかしエリサに選択の権はない。薬や魔法の数々で戦闘能力を封じられ、ただのか弱い女でしかなくされているエリサは、そこらの成人男性にも勝てないのだ。
 逆らいたくても逆らえず、エリサは渋々と従っている状況だった。
 サイズの合わないピチピチな衣装が肌全体にぴったりと沿い合わさる。巨大な乳房は内側から弾け出そうで、プリっとした豊満なヒップは丈を丸く持ち上げている。
 サイズさえ合っていたなら、ただセクシーなだけの普通の衣装だ。
 低身長に合わせたサイズを高身長のエリサが着ているため、大きさの合わないバストを無理に閉じ込めたものが、膨れ気味な谷間となって現れている。丈は短く、少し捲れれば簡単に尻が見える始末だ。
 生まれて初めて着た頃なら、着ることへの羞恥心はあった。
 しかし、一族の使命に誇りを持ち、歴史を重んじる彼女にとって、そんな些末な問題よりも伝統を守ることの方が大事である。恥を堪えて着続けて、いつしか恥ずかしいことではなくなっていた。
 だが、今はどうか。
「お尻がエロいぞー!」
「谷間サイコー!」
 破廉恥な衣装としてしか見てくれない。
 九重の血を持ち、血族の歴史を教わりながら生きてきたエリサと、そんなものは知らない男達では、衣装に対する価値観は決定的に乖離していた。
『さぁて、エッチなお尻をフリフリと、皆を魅惑しながら手札を睨み、エリサちゅわんは戦略思考を巡らせる! うーん、迷ってますねぇ?』
 手札にはフルハウスが揃っていた。
 全くの偶然、幸運によって引き当てた強い役だが、このポーカーではイカサマが使われる。
 具体的に見抜けたことはないが、このカジノはエリサを店の興行材料として扱っている。脱出の権などと甘い言葉を使っているが、本当に逃がす気があるとは思えない。
 最初から勝てない仕組みと考えるべきだ。
 見抜ければいいのだが、ゲーム中に蠢くマジックハンド、負けるたびに噴き出す媚薬のせいで、集中力を発揮できない。
 このフルハウスに賭け、一気に勝負をかけられないか。
 だが、せっかくの偶然で得たフルハウスも、強気のBETに対してフォールドされれば、勝負を一発で決めることはできない。
 それに、初手で全額BETして、それを相手はどう読むか。
「五〇〇ゴールド」
 試しに、半分を出す。
 仮にポーカーで相手を倒し、脱出権が得られたとし、支配人はきっと適当な理由をつけて、エリサのことを店にキープすることだろう。とは思うが、何かの気まぐれに約束を守ってもらえる僅かな可能性に賭け、せっかくだから勝ってはみたい。
「乗りましょう」
 対戦相手は肥満男だ。
 腹の膨れ上がった体格で、くるりとカーブしたヒゲを生やしている。
『さあ、お互いにカードをオープン!』
 実況の合図に合わせ、手札を見せ合う。
「フルハウス」
「ストレートフラッシュ」
「……くっ」
 負けた。
 一気に五〇〇ゴールドを失った。
 もしかしたら、イカサマで強い手札を与え、あえて強気にさせる作戦だったのかもしれない。手札が強ければ高い金額を賭けたくなる。そして、実際に強気に出たエリサに対し、それよりも強いカードを持つ肥満男は、ほくそ笑みながら五〇〇ゴールドを奪ったのだ。

 プシュゥ!

 噴射音。
 この部屋とテーブルには魔法術式が刻まれており、エリサの敗北に応じて媚薬の噴射が機能するようになっている。どこかに貯蔵してあるものを、おそらくは転送魔法で運んできて、それを噴射のようにエリサの顔に噴きつける。
 媚薬効果を持つ気体は、エリサの呼吸器に入り込む。
 喉を通過し、胃袋に入り、瞬く間に血管まで浸透していく。
 体のどこかが発熱したように、じわっとアソコが温まり、早速のように息は荒っぽくなってしまう。連日媚薬をかけられ続け、薬に耐性がつくどころか、逆に効きやすい体質が出来上がっている。
 たった一度の媚薬噴射で、ワレメが水気を帯びていた。
「お? 濡れてるぜぇ!」
「はははは! 今のでか!」
「もう興奮してるって早すぎだろォ!」
 観客がゲラゲラ笑う。
 エリサの内股を映した映像には、皮膚の表面をかすかに濡らし、輝かせている水気があった。頭上に浮かぶ映像など、わざわざ見てなどいないのだが、エリサの触覚は確かに股の愛液を捉えていた。
 今、自分が何を見られているか。
 何を笑われているか。
 それは感覚的にわかってしまう。
「ノーパンなんだってな!」
「やらしー!」
「オマンコ見せてくれよー!」
 飛び交う言葉の全てがエリサに対する辱めだ。
 エリサを応援する者などいない。
 ここに来ている男達は、女を見世物として消費することしか考えていない。エリサなど展示物に過ぎないから、平気で下品な目を向けて、ニヤニヤとヨダレを垂らしながら興奮してくる。

「くっ……んっ、んぅぅ……!」

 その時、マジックハンドが股を攻めてきた。
 チャイナドレスの丈の上から、指先でワレメを探り当て、なぞろうとしてくる手つきを感じ取る。その感覚にエリサは咄嗟に腰を引っ込め、思いっきり大胆なくの字を疲労していた。あまりにも突然だったので、体は自動反射のようにそうなっていた。
 腰をくいっと突き出したわけである。
 それは映像にもはっきり映った。
 エリサは意図せずして、面白い映像を披露したのだ。画面手前に向かって、突如としてお尻をぶつけてくる。直立姿勢の後ろ姿が急に折れ曲がり、画面に迫り、尻が画面いっぱいに丸々と目立ってくる。
「ひゅー!」
「サービスか? え? サービスなのか?」
「くそ、何がサービスだ」
 エリサは歯噛みする。
 こうして上半身を前に倒せば、尻どころか胸まで目立つ。大きな乳房はぷるぷると、重力に従い下へと垂れてよく揺れる。
 こういうものが観客へのアピールになってしまうと、頭ではわかっていながら、体がどうしても反応する。愛撫されれば電流が走り、腰がくねくねと、左右に動いてしまうのだ。
 結果、お尻を突き出すに飽き足らず、振りたくるような真似までしてしまっていた。
「いいねいいねぇ!」
「ケツで誘ってやがる!」
「ぶち犯してェよ!」
 それは大いに興奮を誘っていた。
 好きでしていることではない、反射的にこうなっているだけなのに、男達にそんなことは関係無い。
「くぅぅ…………」
 やっと、愛撫は止まる。
 だが、透明な指は布越しのアソコに置かれたまま、いつまた刺激を与えてくるかわからない。不意打ちで急に喘がせてくるに違いなかった。
「次々、次はいくら賭けるんだい?」
 肥満男は次の勝負に向けてカードを取り、エリサもそれに倣って手札を握る。
「次はそっちだろう」
「そうだった。次はこっちで賭け金を決めないとね」
 そして、肥満男が賭けに出す金額は、なんと五〇〇ゴールドだった。
「なんだと……」
 エリサは強張る。
 残り五〇〇しか持たないエリサは、このターンの勝負を受ければ負けてしまう。あるいはわざと強気の姿勢を見せ、自分は強い手札を持っているとアピールしているのか。そのアピールは真実か、あるいはハッタリか。
 イカサマのことを考えれば、カードなどいくらでも操作していそうだ。
 いいや、それも織り込み済みか。
 エリサが勝手にイカサマを警戒して、慎重になっているから、わざとらしく強気に出ればフォールドするに違いないと、向こうは高を括っている。
(気に入らない)
 フォールドはしなかった。
 ノーペアの強がりと踏み、ここは引き受ける。
 エリサの手札はツーペアだ。
 カードを出そうと思った時、股布の上で指が動いた。

「ひぁ……!」

 喘いでしまう。
 上からグリグリとほじくろうとするような愛撫によって、激しい電流が股から走り、エリサは再び前のめりになってしまう。上半身をテーブルに寝かせようとする勢いで、またしても尻を大胆に突き出していた。
「うおおお!」
「感じてる感じてるぅ!」
「なーに気持ち良くなっちゃってるのー?」
「おいエロ女! 勝負に集中しないとまた負けちゃうぞー?」
 客席からの野次が飛ぶ。
「うっ、ぐぅ……このぉ……!」
 うなだれて、二つ結びの髪をテーブルに垂らしていたエリサは、無造作に真正面を睨みつける。たまたま目についた対戦相手の肥満顔に鋭い視線を送りつけ、呪わんばかりの意思を送りつけるが、それを見つめ返す肥満男は楽しげに笑うばかりだ。
 マジックハンドが後ろ側の丈を捲っていく。
 それは映像にも流れている。
「おおっ、ケツが! ケツが!」
 尻を露出させられただけではない。
 捲れた次には両手が置かれ、指でぐいっと、尻の割れ目を左右に広げられてしまった。
「くぅぅ…………!」
 顔から炎が噴き上がりそうだった。
 アソコが、肛門が、恥ずかしい穴がどちらも画面に映っている。テーブル上に浮かぶ映像は、その全てが順々に切り替わり、一つまた一つと恥部を映していっている。
 しかも、衆目に恥部が晒されただけでは留まらない。

 ぺぇん!

 叩かれたのだ。
 大きな良い音が響き渡ったのだ。

 ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!

 尻が震える。
 透明な手で叩くため、だから手の存在は映らない。映像の中にあるのは、お尻だけが勝手に震えるものだ。平手打ちによって、たった一瞬だけ手の形の通りに潰れるお尻は、浴びた衝撃を帯びながら、その変形を直ちに元の形状へ戻していく。
 戻ろうとする勢いで、プルっと揺れて見えるのだ。

 ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!

 エリサの尻から、それが披露され続けていた。
 そのあいだ、肥満男はカードのすり替えを行っている。裾の内側に隠してあるのだ。フルハウス、ストレートフラッシュ、強い役のセットを事前に仕込み、ここぞとばかりのタイミングでいつでも出せる。

 ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!

 叩かれ続けるエリサは、屈辱に耐えることばかりに夢中になり、それに気づくことができずにいる。
 やっとスパンキングの手が止まり、それでも痴漢めいた手つきが尻の表面を這い回る。姿勢を戻し、元のように直立すれば、今度は乳房まで揉まれ始めて、アソコへの愛撫も止まらず、もう気持ちいいばかりであった。
「あっ、あうぅ……んぅっ、んくぅ……んぁぁ……!」
 気持ち良くて、気持ち良くて、快楽で頭が染まる。
 イカサマを見抜き、負けるはずの勝負を切り抜け、どうにか勝利を掴みたい目的も忘れ、ただ息を荒げることしかできなくなっていた。熱っぽい瞳を浮かべ、熱々の息を吐き出し、目一杯に感じていた。
(駄目だ……飲まれちゃ……駄目だ……)
 しかし、媚薬が強力だ。
 日に日に効きやすくなっている体には、たった一度の噴射でさえも致命的だ。頭が快感に染まり上がって、人目も忘れて愛撫を楽しみそうな自分がいて、エリサはそんな状態で必死に自分を保とうしていた。
(堕ちるな……己を保て、思い通りになるな……)
 乱れきった息遣いで、それでもエリサは手札を広げる。
 エリサのツーペア。
 対する肥満男の手札はファイブカードだった。

 プシュゥゥゥ……!

 再び、噴射。
 媚薬を吸い込んでしまっただけで、効き目が強まるよりもまず先に、条件反射のように股がヨダレを垂らしていた。内股に滴が流れ、つーっと光る筋が伸びていき、それは映像にもしっかりと映されていた。
 そんなエリサの股布にマジックハンドは潜り込む。

「んぁああああああ!」

 いとも簡単に絶頂していた。
 少しクリトリスを擦っただけだが、今のエリサをイカせるなど、絶頂ボタンが存在して、それを押す程度のものに過ぎなかった。
 全身から力が抜ける。
 エリサはその場に膝をつき、テーブルにもたれかかる。
「んっ、んぅ!」
 そんなエリサの乳房に手が貼りつき、今度は乳首を責め立てる。少し弄んだだけで体がビクっと弾み上がり、そのまま横へ倒れていった。
 ぐったりと、伸びていた。
 こうして敗北したエリサの元には、どこからともなく従業員がやってくる。無造作に足を掴み、引っ張って、床を引きずるように他の部屋へと連れていくのだ。
 勝負が終わって数十分後。
『敗北の間』にエリサは飾られる。
 直立不動の全裸となって、客を睨み返すだけの時間が今日も始まる。
「さっきのポーカー」
「すっげぇストレート負けだったな」
「なーんであんなに綺麗に負けたんだ?」
「逆にイカサマか?」
「負けたくて負けたくて仕方なかったか?」
 好き勝手な野次を聞かされる。
 それに対して、エリサにできることといったら、ただ静かに睨み返す程度ののことだった。



 
 
 

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