その港町には噂がある。
付近の海では漁船が多くの魚を集め、また海の向こうとやり取りを行うため、交易船の行き来もある。観光船が停まるのもこの町の港だ。旅人、政治、商売、あらゆる人の出入りにおいて、この港町こそが窓口だ。
しかし、奴隷商売で人を海の向こうに出荷しているとの噂もある。
特にとある大きなカジノは、海を背にして建てられている。秘密の出入り口を作り、そこから人を外に出しているのでは、といった噂はまことしやかに語られている。
悪の噂を追って日夜奔走しているのは、何も闇の一族だけではない。取り締まりを行う役人達も真実を知りたがり、調査員の派遣をたびたび行っていた。
そして、とある調査員が行き着いた真実は、カジノにまつわる噂はフェイクだったというものだ。ありもしない黒い噂をわざわざ流し、疑いの目を向けさせ、痛くもない腹を探らせても、普通は何のメリットもない。
普通はそうだ。
だが、偽の噂を釣り餌に使い、人を罠にかけることが目的だったならどうだろう。
「こういうことだったなんて……」
その調査員は呆然としていた。
展示、されていた。
奴隷商売の真実は存在しないと、そう判明している一方で、目の前にいる彼女だけは、この九重エリサという名の女性だけは見世物として展示されていた。
確かに、出荷こそしていない。
なのだが、別の悪事がそこにはあった。
美術館に飾るような扱いで、生きた人間が展示物となり、金を取って客まで集める。これが悪行でなければ何であろうか。
『敗北の間』
それが今、調査員のいる場所の名前である。
この空間そのものは、建物の中に以前から存在しており、時代によって様々な用途に使われていた。実際に美術品の展示コーナーとなっており、飾り物をそのままギャンブルの景品としていたこともあるという。
それが今では、これだ。
部屋の中央にぽつりと箱を置く形で、九重エリサという一人の女が展示物となっている。彼女は四肢を拘束され、直立不動にさせられていた。魔法に気づかずに見ていれば、単に裸で立って思えるが、拘束魔法によって身動きは封じられ、歩くことも腕を上げることもできはしない。
「ほう? これが闇の一族の正体とは」
「なかなかの美人だが、こんなにもけしからんオッパイとは」
「色仕掛けもやっていたのかな?」
「そうに違いない。あの素晴らしい巨乳でパイズリをやってきたのさ」
身なりの良い男達がエリサを囲み、それぞれの角度から鑑賞している。
調査員の彼もまた、貴族の一人に成りきって、表面的には彼女のことを見世物として捉えている。
(話では知っていた。闇の一族、性別すら不明だった闇の執行人)
彼は政治貴族の裏を調べて、取り締まりを行う調査機関の一人である。公的な組織に属している故、法で定められた範囲でしか動くことは出来ず、それ故に法の抜け道を通ったり、あるいは証拠品の一切を隠滅され、立証不可能になった罪の数々を見て来ている。
自分達では裁けない悪が、闇の一族によって裁かれてきた。
彼には少なからず、それを痛快に思う気持ちがあり、だったら自分達の持つ情報を一族に横流しして、自分達では裁けないものを裁いてもらおうと考える者がいたとしても、決して不思議な話ではない。
機会こそなかったが、彼自身も闇の一族に協力したい気持ちの持ち主だった。
(救出、したくはあるけど……)
焦り、憤りを表にすべきではない。
調査員であることが発覚すれば、自分自身の命が危うくなる。
「いやあ、しかし闇の一族も大したことがありませんなー」
「なんたって、こんな風に捕まるんだから」
「ねえ? エリサちゃーん?」
男達は揃ってエリサを侮辱している。
「貴様ら……」
エリサは睨み返していた。
それも、滑稽なだけだ。
全裸の彼女に威厳などありはしない。
「ああ、そういえばあの飾ってある衣装って、代々受け継いでるらしいね」
「いやらしいねぇ?」
「なーんで、あんな破廉恥なものを着ているんだい?」
今度は衣装を侮辱する。
それがエリサの逆鱗に触れたらしい。
「黙れ! 黙れ黙れ!」
声を荒げた。
その瞬間だった。
ぺちん!
警戒な打音が鳴り響く。
目には見えない、透明なマジックハンドがそこにはある。エリサの周囲を取り囲み、魔法が生み出す手という手が、いつでもエリサの尻を叩いたり、体を愛撫して虐めることができるように構えている。
ぺちん! ぺちん!
まるで教育だ。
お客様に対して、生意気な口を利いてはならない。
まして、怒鳴るなど以ての外。
そのお仕置きであるように、エリサの尻からしきりに打音は聞こえて来る。叩かれたエリサは悔しげに歯を食い縛り、頬のぷるぷると強張る震えた顔で、ただただ周りを睨むことしかできなくなっていた。
展示はエリサだけではない。
部屋の中心をエリサとしつつ、周囲にも様々な展示がある。
まず、衣装だ。
スパンキングを見ていられず、調査員の男は壁の方へと突き進む。そこに絵画のように飾られているのは、彼女が先祖代々から受け継いだというチャイナドレスだ。白い生地をベースとして、そこに赤いラインを走らせたデザインの、背の低い体格に合わせたサイズは、どう見てもエリサの身長には合っていない。
母親や祖母が低身長で、エリサがたまたま高身長になってしまったため、形式的に受け継いだ衣装がピチピチになったのでは、と調査員としては考えるが、そこに書かれている解説文では、別の事柄が語られている。
衣装の隣に設置してあるパネルには、このように書かれていた。
【エリサの破廉恥衣装】
九重エリサの一族――通称『闇の一族』が代々受け継ぎ、何代もかけて着回している衣装であるが、見ての通り丈は短く、スリットから太ももが丸出しになる。胸の谷間を露出する構造にもなっており、セックスアピールをしたいがためのデザイン性は言うまでもない。
このような破廉恥衣装を一族の慣例として着ていたのなら、もちろん裏ではエッチなことをしていたのだろう。
悪に裁きを下すにも情報がいる。
情報を集めるには、色仕掛けで誰かをベッドに引きずり込み、アンアンと喘ぎながら口を軽くさせるのが一番だ。
夜の衣装としても活躍していのは間違いない。
もっとも、本人は否定している。
本人にとっては一族の血を誇る象徴的な衣装らしい。
それをこんな風に書かれては、さぞかし屈辱に決まっている。
展示はまだある。
九重の血筋について記したパネル、家系図のパネルなど、パネル展示の数々は、エリサ本人から聞き出した情報だろうか。そうでもなければ、歴史上一度も性別すら判明したことのなかった一族についてなど、ここまで詳しく書けるはずがない。
これを本人が素直に喋るとも思えない。
何らかの方法で喋らせたのだ。
ああして反抗の意思を残しているなら、拷問で心を折ったとは考えられない。自白を強要する魔法か、そうでなくとも情報を引き出す術があるのだろう。
(ポーカーか……)
一つ一つの展示を見ていくうち、次に差し掛かったのは映像だった。
魔法の石版を壁に飾り、そこに記録を再生する。現実の光景がまるでそのまま流れるように、勝負の内容やその際の声に至るまで、一連の流れを鑑賞することができるらしい。調査員はそれを試しに眺めるが、勝負の最中にも透明なマジックハンドは使われており、そのせいでイカサマを見抜けなかったのでは、と思う。
映像の最後では、イキ果てて倒れた体を床に引きずり、どこか別の部屋へと運ばれている。
そして、あの有様というわけだ。
(プロフィールまで……)
コの字に沿って歩いていき、その最後にある展示は全裸直立写真である。張本人を飾ってあるのに、わざわざ写真を見る必要はないのだが、きっとその隣に個人情報を並べてあるのが、この展示の趣向というわけだ。
【九重エリサ/二五歳】
身長:一七五センチ
体重:六二キロ
バスト:一〇一センチ
ウエスト:六四センチ
ヒップ:九八
こうした体格の数値に加え、趣味や出身地に誕生日まで書かれているが、その内容でさえエリサを辱めるものとなっている。
趣味:オナニー
初めてオナニーした年齢は一二歳。
仕事の前後で欲求が膨らみやすく、悪人を殺す前や殺した後などにアソコを掻き毟り、指でぐちょぐちょと愛液を慣らして盛大に絶頂する。
この内容が嘘か本当か、正直なところわからない。
いくら魔法で真実の情報を引き出せても、客向けに面白おかしく書き散らしている可能性も否定できない。どこまで本気で受け止めて良いものか、尊厳を傷つける内容については慎重に考えた方がいいだろう。
それら展示を見終わって、調査員はエリサの目の前まで戻っていく。
「ぬっ! ぬあっ、くぁあ!」
エリサは髪を振り乱していた。
直立不動の身体は、反射的に動こうとしているものの、固定の力で大きくは動けない。
頭のてっぺんから尻にかけ、上から串刺しにするようなイメージで、固定の力は通っている。そんな一本の芯から放出される魔力が手足に流れ、指先一つの動きでさえも阻害しているわけなのだが、だから反応してビクビクと動こうにも、その場にどうにか留まりながら、痙攣だけを披露するようになっていた。
マジックハンドで愛撫されているのだ。
いくら透明でも、内股に滴る愛液を見て、その香りを嗅いだなら、今のエリサが受けているのはどんな愛撫かわかってしまう。指一本分の大きさに広がる穴から、クチュクチュと水音が聞こえていた。
「あぁっ、くぁああ!」
エリサは喘ぐ。
「ほらほらエロエロだ!」
「そんなエッチだから捕まったんだねぇ?」
見物人はエリサを煽る。
「だ、黙れ……うっ、くぁ……! あぁ……! それ以上、言うなぁぁ……!」
投げかけられる言葉の数々に対して、エリサは必死に言い返そうとしていた。
「君だけなんでしょ?」
「歴代は誰も捕まらなかった」
「一族に泥を塗っているのは君だよぉ?」
「君さえ捕まらなきゃ、性別だって不明のままだったのに」
「あーんなドエロな衣装だってバレちゃったね?」
エリサに向かって言葉をかけ、煽り辱める一人一人が楽しそうだ。尊厳を踏みにじられ、悔しそうに震えるエリサの姿が面白くてたまらないようだった。
「黙れ……! 黙れ! だま――あぁ……!」
マジックハンドによる指ピストンが激しくなり、エリサ自身の喘ぎ声が言葉を封じる。
それに男達は大笑いした。
「あっはははははは!」
「黙れ黙れって言ってる本人が騙されちゃったよ!」
「ま、黙るどころかアンアン喘いでうるさいけどねぇ!?」
面白おかしい光景を楽しんで笑い合う。
この人が見世物である場面を見てしまえば、このカジノにはまだ表沙汰にはなっていない何かがありそうに思えてくる。市井に流した奴隷商売の噂が嘘で、そんな事実はないとしても、ならば別の闇を元から抱えているはずだ。
何の闇も抱えたことがないのに、こんなことをしようとは思えまい。
きっと、まだ何かある。
あるに違いないのだ。
「あぁあああああああ――――――!」
調査員の見ている前で、エリサは立ったまま絶頂していた。直立不動の身体を左右にぶるぶると震わせて、内股には愛液がだらりと流れる。皮膚を伝って流れ落ち、それは床にまで到達していた。
第1話 とある調査員の見たもの
とある義賊の恥辱譚2 第2話 勝てないポーカー
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