アセイラム姫の身体検査

   




「殿下を疑うなど失礼千万! やはり地球人は姫様の尊いお気持ちを理解できていないのです」
 と、エデルリッゾ。
「仕方ありません。そもそも、私が地球を訪れたことが火種となり、この戦争は起こってしまったのですから……」
 アセイラム姫は、憂うばかりだ。


 種子島で発見した、アルドノアドライブ搭載の飛行戦艦での航行で、アセイラム姫は晴れて地球連合本部へ到着した。
 停戦と和平を求める演説を行うことになるのだが、そう容易く全ての人間から信用されたわけではない。中には未だ陰謀を疑う者や、彼女を人質にして、火星に対して有利に立ち回ってしまえばいいとする、過激な提案をする者さえいる。
 彼らの意見を抑えるためには、信用を勝ち取るためのいくばくかの手順が必要だった。
 身柄をどのように保護して、どのような待遇で扱うか。
 どこで、誰が責任者となるべきか。
 姫を信じない層を納得させるため、あるいは姫の扱いに関する理不尽な提案に反対するため、彼女を味方にするべきとする派閥はあらゆる意見を飛ばしていた。
 そして、会議の中で出された提案の一つ。

 ――身体検査。

 地球の不利になるような、何かやましい持ち物など持ってはいないか。そうした検査を姫自らが受けることで、地球への敵意はないと証明する。いわばパフォーマンス的意味合いだ。
 しかし、その方法は女性の尊厳を著しく害するものだった。
 検査時は全裸となること。
 姫に対して懐疑的な人間を立ち合わせ、恥を忍んだ姿を見せて信頼をアピールすること。
 そんな条件が出されたのだ。
 マグバレッジ艦長は言った。
「理不尽な提案です。検査そのものを拒否しても構いませんし、話し合いによって、方法を譲歩させることも可能でしょう」
 強制的な執行はされないらしいが、アセイラム姫はこの時既に決心していた。
「いいえ、受けようと思います」
「殿下!」
 エデルリッゾは反対したが、どのような形であれ、敵意がないことをはっきりと証明することには、必ず意義があるとアセイラム姫は考えたのだ。
「いいのですね?」
「構いません。それで皆の信頼が得られるのでしたら、私の体はどのようにでも調べて下さい」
「では、そのように話を進めますので……」

 かくして、身体検査は始まった。

 検査用の一室。
 男達が立ち合いに並ぶその前へ、一糸纏わぬ姿となったアセイラム姫は足を踏み出す。
「アセイラム・ヴァース・アリューシアです」
 秘所と乳房を手で隠した、赤面しきった表情で、アセイラム姫はそれでも毅然と振舞っている。
「本来なら、このような扱いを受けることには納得しません。ですが、私が地球を訪問したことで、結局は争いが引き起こされたのもまた事実」
 声が、少し震えていた。
 こんな姿で、複数の男の視線に晒されているのだ。
 いくら人前に立つことに慣れた姫の身でも、衣服がなければ、たちまち緊張に縛られる。
「今回の場合におきましては、そちらの主張にも正当性があるものと理解します。信頼を勝ち得る努力の一環として、この身体検査で身の潔白を証明させて頂きます」
 そうして、アセイラム姫はゆっくりと手を下ろす。
 初々しく膨らむ乳房を晒し、薄く輝く金色の毛の秘所さえ隠さずに気をつけの姿勢を取る。
 身分を落とされた心地がした。
 これから、彼らの目の前で体中を調べ尽くされ、その痴態を見られることを思うと、まるで姫の称号を剥奪されて地の底まで落ちたような気持ちになる。自らの決意とはいえ、このような扱いはかつて想像したこともなかったものだ。
 正直、悲しい。
 地球を訪れたりしなければ、この争いは起きていない。
 そして、起きてしまった争いを鎮めるにも、まずはこのような恥を甘んじて受け入れることになる。
 だが、そうすれば平和に一歩近づく。
「どうぞ、お調べ下さい」
 戦争に比べれば安いものだと心を決め、アセイラム姫は決意した顔で言う。
「では検査を開始します」
 検査官の手が触れた。
「……………………っ!」
 異性に肌を触れられている事実に全身が強張って、肩が硬く持ち上がり、アセイラム姫はまるで、ガチガチに緊張した舞台の本番前のような状態になっていた。

 さわっ、さわっ。

 検査官は背後から、腰を両手で掴んで上下に撫でる。くびれの形に合わせるように、脇腹の肉をじっくり確かめ、その手はやがて脇の下へと上って行く。
 そして、姫がそうされている光景を、男達は眺めていた。
「ほうほう」
「あれが姫殿下のお体ですか」
 男達は、品定めするような目でアセイラム姫の体つきを品評して、視姦していた。
(まさかこのようなことになるなんて……)
 突き刺さる視線が痛く思えて、姫は俯く。
(けれど、自分で決めた事。これを耐え忍ぶことにも、立派な意義があります)
 アセイラム姫は自分の心に言い聞かせ、肌をまさぐる検査官の手つきをぐっと堪えた。

 さわっ、さわっ。

 背中全体から肩にかけてをさーっと撫で、腕をまんべんなく揉みながら移動する。
 こうして、皮下に仕込まれた何かがないか、検査官は淡々と確かめていた。
 そう、淡々と。
 検査官は単純に仕事をしている。
 ただそれを、本来いないはずの男達が眺めている。体を触られ、皮膚を調べられる全裸の女の光景を、開始から終わりまで全て見られる事に決まっている。
 恥ずかしいのは、それかもしれない。
 立ち合いとなった男達の視線こそ、アセイラム姫の羞恥心を最もくすぐり、必要以上に恥らわせていた。

 モミ。

(……むっ、胸!?)

 モミ、モミ、モミ、モミ。

 検査官はアセイラム姫の乳房を手で覆い、じっくりと真顔で揉み始めた。

 モミ、モミ、モミ――。

(耐えないと……。恥ずかしいのは当たり前です!)
 初めて胸に触れられた動揺で、軽くパニック気味になるアセイラム姫だが、平和への使命感で持ち直す。戦争と、人の死に比べれば、これしきの苦痛は比べるべくもないものだ。
 だから、心を強く保った。

 モミモミモミモミ……。

 どんなの胸を揉みほぐされても、姫は極力、赤面以上の過剰な反応は抑えている。頬がすっかり赤い以外、表情は無心に保たれ、強い心で耐え忍んでいるのがよくわかった。
 そして、男達はニヤけている。
 その視線のいやらしさを、アセイラム姫は敏感に察知していた。
 こうした検査は皮下に埋め込まれた所持品の有無を確かめるためなのだが、実際に女がそうされている姿を見れば、単に乳房を揉みしだかれているだけの絵にも映る。
 次に乳首が摘まれた。
(やっ……)
 五本の指が、突起した乳首を包囲するかのように摘み上げ、検査官はその触感を確かめた。
「乳房は正常ですね」
 検査官は次の指示を口にする。
「自分の足首を手で掴み、お尻を突き出して下さい」
 要するに、全てが見えてしまう姿勢だ。
 こんなにも異性の視線がある中で、ただでさえ屈辱でしかない場所を見られる。尊厳の剥奪に他ならない行為を、何も言わずに受けなくてはならないのだ。
 アセイラム姫はまさに恥を忍んでポーズを取った。
 アソコも、肛門も丸見えであろう姿勢を。

 さわっ、

(くすぐったい……)
 そっと撫でてやるような、やけに優しい触り方で、指がお尻をスライドする。触れるか触れないかの微妙なタッチは、産毛を撫でるような軽やかさで、くすぐったいあまりにお尻に意識が集中する。
 お尻ばかりにどんどん意識が引っ張られ、神経が集中して、これ以上ないほど触覚が鋭くなっていく。
 そして、十分に鋭敏化したところでだ。

 ――ツン

 肛門に、人差し指が乗せられた。
(――――――っ!)
 大きく首が仰け反った。
 育て上げられた触覚の鋭さが、押し付けられた指の腹の形状を読み取って、男の指が如実なまでに伝わった。肛門などという場所を見られ、弄られている事実が、深く深く実感として突き刺さり、覚悟してきたにも関わらず今すぐ泣き喚いてしまいたい衝動さえ生まれていた。

 ぐり、ぐり……

 肛門を、揉まれている。
 耐え難い屈辱に顔が焼けそうなほどに赤らみ、歯が砕けそうなほどにアセイラム姫は食いしばる。

 ぐり、ぐり……

 黙って涙を呑むしかない。
 自分で決めたことへの後悔と、これでいいのだという諦めの念に挟まれ、アセイラム姫は静かに瞳を閉ざしていく。

 ……つぷっ

 指が、性器に挿入された。
 全身が強張った。
 乙女にとっての大切な部分の中へ、ただ検査という理由だけで男の指が入り込む。
 その事実に、アセイラム姫は顔中まで強張った。
 検査官の太い指が、膣壁のぴったりと閉じ合わさった狭間を押し進み、根元までを挿入する。
 ぐりぐりと指を回転させるようにして、膣壁を調べ始めた。

(もうすぐ終わります…………)

 ただ、最後まで耐え忍んだ。
 恐ろしいまでの赤面で顔中を熱くして、ようやく指が抜かれてもすぐには安心できないまま、夜もまともに眠れなかった。

 検査官の指に体中を調べつくされる感触が、全身にべっとりとまとわりついて――

 いくら時間が経っても、その感触を肌が如実に覚えていて、夢にまで出てきてしまった。