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  • トゥーサッツ星人の逆襲 ~エロステージへの挑戦~

    第1話「トゥーサッツ星人 再び」
    第2話「尻叩きセクハラスライム」
    第3話「かまいたちの森」
    第4話「スライムを叩け!」
    第5話「触手ラビリンス」
    最終話「バッドエンド」

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  • 第4話「スライムを叩け!」

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     春菜の格好は体操着とブルマであった。
     消えてくれることのないスクリーンがお尻を映し、割れ目に布がしっかりと埋もれた色気漂う絵を流す。ゴムの部分から尻肉がぷにりとはみ出て、ショーツの白まで見えているのだ。
     はみ出たショーツはレースであった。
     ゴムに沿わせた脚穴の口には、レースによる飾り付けが施され、そのレースがブルマの布から出ているのだ。
    「やぁ……」
     小さく悲鳴を上げ、春菜はすぐさま布に指を突っ込み直してやる。
     しかし、いくら下着は隠せても、そもそも布の量が足りない。脚とお尻の境目の、尻山のラインまでは布が届かず、どう伸ばしてみたところで、尻肉がはみ出ているのは直らない。
    「こんな……恥ずかしい……」
     春菜は頬を朱色に染めて俯いた。
    「さあ、塔の中に入ったら第三ステージが開始になる。今度はモンスター退治だ」
    「も、モンスター!?」
     凶悪な爪や牙を想像して、春菜はぶるっと恐怖に震える。
    「そんな顔をしなくてもいい。か弱い女の子でもクリア可能になるように調整してある。部屋には武器が用意してあるから、一発当てれば一ダメージ。合計三ダメージ当てればクリアとなり、ゴールの魔法陣が出現する――ただし、今度も全裸になったらゲームオーバーってルールだから、どんな風に服が消えるか、楽しみにしておくんだな」
     不安しかないルールを言われ、赤らみが引いた代わりに青ざめる。全裸にさせられるかもしれない予感に深刻に悩み、内心では震えが止まらなかったが、春菜は塔の入り口へと進んで行った。
     砂色の石畳によって作られた広々とした部屋は、テニスコートほどはあるだろうか。
     そんな部屋の中心に、ぽつりと石のテーブルが置かれている。宇宙人の言っていた武器を目にして近づくが、春菜はそれを困惑気味に持ち上げた。
    「ピコピコハンマーって……」
     こんなものでモンスターと戦えというのか。
    「競技ルールみたいなもんだ。そんな武器でも、当てれば必ず一ダメージってことになる」
     補足の言葉が届いてきた。
     一体、それではどんなモンスターが出て来るのか。凶悪なものではないように、怖い相手ではありませんようにと祈っていると、不意にそれは降って来た。
     白いスライムだった。
     まるで始めから天井に張りついていたかのように、急にスライムは降って来て、丸い形がぷにりと自重で潰れている。両手を広げて抱えきれるかどうかのスライムは、ぷるっとした見た目だけなら強そうではない。
     だが、触手でも出してきたら、それに身体が絡め取られたらどうなるか。
     不安感を膨らませ、それでも攻撃しないわけにはいかず、春菜はピコピコハンマーを抱えて恐る恐る近づいていく。
     徐々に距離を縮めていった時だった。
     
     ピュッ!
     
     スライムは白い粘液を飛ばしてきた。
    「きゃ!」
     木工ボンドのような固まりは、春菜の顔にかかって頬や額に付着する。ヌルヌルと気持ちの悪い感触に寒気が走り、今すぐにでも顔を洗いたくなってくる。
     スライムは飛んだ。
     自分自身の身体を潰していき、薄く平べったく広がって、弾力の利用のように軽々と頭上を飛び越える。後ろへ回り込むついでに、空中で粘液を飛ばしてか、背中にひんやりとしたぬかるみが染み込んで、ある意味本当に背筋に寒気が走る。
    「やだ……」
     心の底からの声が出る。
    「でも、やんなきゃ」
     春菜はスライムを追った。
     自在に跳び跳ね、自分の身体を壁にも天井にもバウンドさせるスライムは、妙に素早く捉えにくい。ナメクジのように這って進む移動でさえ、人間の小走りほどの速さを出す。そんなスライムを追い回し、近づくたびに粘液を飛ばされる。
     しだいに体操着が透けていた。
    「ひゃ! うそ!」
     液が染み込み、ただ濡れただけではない。服だけを溶かす粘液が繊維を薄め、糸の太さや量が減り、実に透けやすくなっている。春菜の着けた下着のピンク色がはっきりと浮かび上がって、柄までくっきりとするのは時間の問題だった。
     背中の肌色がよく見える。ブルマも色が透け始め、紺色と中身のピンクが重なった混色になりつつある。
     
     ぴちゃ!
     
    「ひゃん!」
     粘液の冷たさがうなじに当たり、ひやっとした感触にも悲鳴を上げる。
     不思議と毛には効果がなく、髪に当たった白濁は、女を精で汚した飾りつけそのものと化している。
    「もう! お願い逃げないで!」
     やっと追いつき、ピコピコハンマーを振り下ろす。
     その瞬間──
     
    「──きゃあああああ!」
     
     まるでバケツの水をかけてくるかのような、多量の粘液が跳ね返り、春菜の体操着にはとうとう穴まで空き始める。溶けることで広がる穴は、粘液を多く吸った部位ほど大きくなり、かからずに済んでいる場所は濡れてもおらず、透け具合と穴の具合はまばらであった。
     しかし、真正面から浴びた以上、ブラジャーの胸は丸出しとなり、そのピンク色にも水分か染み込んで、繊維を蒸発させていた。
    「見ないで!」
     我が身を抱き締め、春菜は座り込んでしまう。
    「おっと! ゲームオーバーになりたいのか?」
     宇宙人が煽るなり、スライムが接近して粘液を飛ばしてくる。髪に、顔に、胸を覆い隠す腕にも付着して、春菜はますます白濁にまみれていった。
    「や! やめて!」
    「やめさせるにはあと二回叩くしかないぞ?」
    「うっ、ぐぅ……」
     ゲームオーバーになれば、性奴隷にさせられる。
     ここで服を溶かされる以上の恐怖がチラつくことで、春菜は嫌でもピコピコハンマーを握り締め、再びスライムを叩こうと追い回す。
     片腕で胸を隠し、右手だけで握ってようやく追い詰め、また粘液の逆襲が来ないかという躊躇いと抵抗で鈍った動きながらも二回目の攻撃を当てる。
    「やあああ!」
     またしても、多量の白濁はかけられた。
     いよいよ上半身はブラジャーのみで、そのブラジャーも肩紐が溶け切れている。後ろ側のホック回りも生地が薄れ、腹や背中の体表を流れ落ちたものがブルマに染みもした。
    「やだ……これじゃあ……」
     叩けば必ず粘液でお返しされる。
     あと一発でクリアだが、これ以上露出度を上げられることへの躊躇いで、余計に動きが鈍っていた。追いかける足はおぼつかず、振り下ろす腕は弱々しい。
     スライムのスピードは変わっていない。
     翻弄こそしてくるが、人間の頑張りしだいで追いつける。高すぎず低すぎない、スポーツが苦手でもクリア不能というわけではない難易度だが、肝心の春菜が鈍っているのだ。
     追いつけず、粘液をかけらる一方では、いつかは全裸になってしまう。
     肌の露出が増えるほど、布に命中する確率が減ることだけが、春菜にとって唯一の幸いである。
     ブルマの生地が薄れれば薄れるほど、春菜の中でゲームオーバーの危機感は膨らんでいく。まずは下着姿にさせられて、全裸にされ、そして性奴隷という恐怖が具体的に迫って来るようで、さすがの春菜もこの調子では駄目だとわかっていた。
    「やらなきゃ……」
     春菜は賢明なまでに躊躇いを押し込め、ぐっと歯を噛み締め駆けていく。やはり左腕で胸を隠すことはやめられないまま、それでも今までの鈍さが抜け、跳ね回るスライムを追い回す。
     壁際に追い詰めるタイミングが訪れた。
    「えい!」
     やっと、三発目の打撃が決まり、案の定の反撃が放たれた。
     
    「え? いや! キャァアアアア!」
     
     春菜は悲鳴を上げた。
     スライムは己の全身を粘液にかえ、自分の存在と引き換えにしてでも春菜を白濁まみれにした。精液をバケツいっぱいに溜め込んで、それを頭から被せたような有り様で、たとえ腕で守っていても、液体はスキマに染み込む。
     ブラジャーは蒸発して消え去った。
     ブルマさえも失われ、ピンク色のショーツも生地が薄れ、肌が透けてしまっている。極限まで全裸に近い姿となって、春菜は顔中を赤らめていた。
    
    
    
    


     
     
     


  • 第2話「尻叩きセクハラスライム」

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     西連寺春菜が立っていたのは、どこまでも草原の広がる緑の世界であった。育ち盛りの草が陽光に照らされて、輝きを帯びている。晴れ渡った空は青く清々しい。こんな状況でさえなければ、この綺麗な自然をじっくりと満喫していたいくらいである。
     足元を見れば、踏み固められた土道が長々と続いている。大地の微妙な凹凸に沿って、ちょっとしたカーブはありつつも一本道だ。
     道は森林の中へと続いていた。
     遠目に眺める木々の連なりは、地平線に合わせた緑色のラインを引いてあるように、森林を境界線に、景色を青空と草原に切り分けている。そんな青空には、森林の線から生えるおぼろげな塔が聳えているらしい。
     近づけば大きいだろうが、ここからでは小さく見える。
     
    『ゲーム内容を設備しよう!
     といっても、ルールはさっきのメールの通り!
     エリアごとに試練が用意されていて、そこから見える塔の頂上までいけばクリアだ』
     
    『まずは第一ステージ!
     草原を抜け、森に入れ!』
     
     それだけなのだろうか。
     ただ道を歩くだけの内容で、本当に済むといいのだが、途中で何かが出ては来ないかと不安になり、警戒しながら歩き始める。
    「電波、通じてるのかな」
     軽い疑問と不思議を抱え、しだいしだいに森へ近づくにつれ、遠かった景色は少しずつ明らかになっていく。ぼんやりとしか見えなかった塔の形がだんだんと見えてくる。緑色の線にしか見えなかった森が、葉の繁った固まりに見えてくる。
     そして、その時だった。
     
     春菜の前に大きな影がかかってきた。
     
     太陽を背に歩き、自分自身の影を見ながら進んでいた春菜は、突如として背後からかかった丸い影の形にゾッとして、恐怖に足を止めてしまった。
    「な、なに……?」
     背後に何かが迫っていて、その影なのだ。ならば、足を止めている方が、かえってその何かの接近を許すことになるのだが、怯えて硬直した頭では、とても冷静な判断はできなかった。
     それどころか、春菜は恐る恐ると、恐怖の正体を確認しようと振り向いてしまう。
     
    「イヤァァァァァ──!」
     
     春菜は絶叫した。
     巨大な青いスライムだったのだ。表面だけが透き通り、内部の青みは色濃いブルースライムは、さながら二本の腕でのように触手を伸ばす。
    「来ないで!」
     逃げ出そうとした春菜は、前に進むことなく、危うく顔を地面にぶつけそうな前のめりな転び方をしてしまった。
     気づけば、よく冷えた金属のようにひんやりと、感触としては固いゼリーかコンニャクに似たものが、春菜の両足に巻きついていた。
    
    「第一ステージ!」
    
     空からの声だった。
     どこに声の主がいるのか姿は見えず、放送用のスピーカーが天空にでもあるように声は聞こえた。
    「クリア条件は森への到達! しかしブルースライムがそれを妨害! もっとも、命を奪ったり、怪我をさせてくる心配がない品種だから、そこは安心していいぞ?」
     そして、今度は春菜の眼前に映像が現れた。
     何もなかった空中にスクリーンが開いたかのように、パネルを浮游させているように表示される映像は、春菜の股下を撮ったものだった。うつ伏せの脚のあいだにカメラを置いたアングルで、幸いにもスカート丈が地面にかかって中身までは見えないが、ワンピース越しのお尻を真下から見上げた映像に春菜は顔を赤らめた。
    「やっ!」
     目の前から目を背けた。
    「ブルースライムの体内にはカメラがあるんだ。これはその映像だぞ? 手加減してくれるから、女の子の力でも抵抗できるよ? ただし、クリアするまで付きまとい、エッチなイタズラをやり続けるぞ?」
     聞くなり春菜は足を暴れさせ、拘束を外そうと苦心する。どうにか下に手を伸ばし、引っ張ろうともしてみるが、ただただのたうち回ることにしかならず、何分もかけての試みを春菜はとうとう諦める。
     もう這ってでも進むしかなく、匍匐前進をしてみると、意外にもスライムごと体は進む。あまりにも滑りが良く、ヌルっとずれてくれる上、踏ん張る抵抗はしてこない。あるいはスライムの方が春菜に合わせて進んでくれているのだろうか。
     綺麗だったワンピースが土まみれになることへの嘆きに、春菜は内心泣きたくなるが、目の前の映像にそんなことを悲しむ余裕もなくなった。
     この浮游している映像は、春菜の移動に合わせて動くらしい。
     前を向いている限り、自分自身の股下を見ながら進むことになる春菜は、映像の中に映り込んでくる二本の触手に総毛立つ。
     例えるなら、寝込んだ少女のお尻を揉みしだこうとしているように、両手が迫らんばかりに触手は近づき、なんとスカートを捲ってきた。
    「やめて!」
     叫びながら、反射的にスカートを戻す。
     スパッツのおかげで下着は見えずに済むものの、お尻は丸見えになっていて、本来ならもろに映っているはずだった。
    「どうかな! この素晴らしいゲームは!」
    「変態……」
     こんなおかしな趣味趣向に付き合わされ、辱しめを受ける屈辱に、春菜はぐっと歯を食い縛る。
     だが、進むしかなかった。
     這って進むためにも両手を前に、四つん這いの方が進みやすいと気づいて姿勢を変えると、それに合わせてカメラアングルも調整される。犬の散歩ごっこのような、お尻が左右にフリフリと動く映像を見ていられず、春菜は目を背けながら進んでいく。
     数分か、あるいは数十秒ごとに、お尻に二本の触手は迫る。
     何度もスカート捲りをされ、スパッツとはいえカメラに映され、こうなっては映像から顔を背けているわけにもいかない。しっかりと見ていなければ、触手を手で払いのけることができない。
     後ろに手をやりさえすれば、適当に払おうとするだけで触手は引く。
     だが、今度は別の行為が行われた。
     
     ぺん!
     
    「ひゃ!」
     人を痛めつける力などない、せいぜいコンニャクで叩いた程度の威力であったが、お尻を叩かれた春菜は目を見開く。
     
     ぺん! ぺん! ぺん!
     
    「や、やだ! やめて!」
     屈辱的だった。
     触手の鞭がしなりを利かせ、二本がかりで左右の尻たぶを交互に打つ。
    「おやおや! まるでお馬さん! 馬の尻を叩いて走らせるかのようだ! これではスライムの方が春菜ちゃんをペットにして、お散歩をさせて見えるぞ?」
     嫌な実況までされて、耳を塞ぎたくなってくる。
     腕が二本しかないことが呪わしい。両手で耳を塞いで進むなどできるはずがなく、お尻を守りながら進むにも腕が足りない。四本は欲しい気持ちでいっぱいになり、かといって願えば生えるはずもなく、春菜は尻打ちを受けながら進んでいった。
     
     ぺん! ぺん! ぺん!
     
     きっと、ステージクリアになるまで延々と叩き続けてくるつもりだ。鞭打たれながら走る馬になりきらされ、スライムなんかに歩かされているかのようだった。
    「やだ……なんでこんな……」
     耐えがたい辱めだった。
     しかも、たまに思い出したように行うスカート捲りだ。
    「やっ! やめて!」
     見えるのはスパッツだけでも、まるで下着を撮られる危機のようにして、春菜は捲られるたびに後ろに手を回していた。
     そんな風に叩かれながら、捲られながら、春菜はようやく森に迫っていた。
     太い樹木の並びと枝の数々に、生い茂る草が自然の壁を成している。人が入り込む場所などなさそうでいて、春菜の歩くこの道が森に入り口を空けている。そこだけが枝も葉も繁っていない、人の出入りに適した獣道がとなっていた。
     そして、そこには魔法陣があった。
     円形の中に様々な記号や文字が書き込まれ、まるでインク自体が光の固まりであるように、青白い輝きを放っている。
    「ほーら! あれがゴールだ! あの中に入ればステージクリア! スライムは消滅するぞ?」
     春菜はすぐにペースを上げた。
     
     ぺん! ぺん! ぺん!
     
     こうしている今にも叩かれ続け、少しでも早く屈辱から解放されたい春菜は、すぐにでも魔法陣に入ろうと焦っていた。
     目が映像を見ていない。
     こっそりと迫り、スカートを少しだけ持ち上げながら潜り込み、スパッツを目指す触手の動きに、夢中なあまりに気づいていない。
     だから春菜にとっては突然だった。
    「え……」
     ゴールを目前に、スパッツのゴムの近くにひんやりとした触手を感じて、まずはそんな小さな声だけが漏れていた。
    「やだ! やめて! いや!」
     次の瞬間には慌てた。
     ゴムに触手が潜り込み、スパッツを脱がしてくる。ずり下ろされる危機に、本当に慌てて後ろに手を、触手を掴むなりスパッツを押さえるなり、なんでもいいから食い止めようとしたものの、それ以上に早く膝まで下がってしまっていた。
     さらには今まで足首に巻きついていた二本が標的を変え、四本もの触手がスパッツを奪いにかかることになり、春菜は足をじたばたさせて抵抗する。手で払おうとしたり、押さえたり、必死になったが、多少の時間を稼いだだけで、結局はスパッツを奪い取られた。
    「返して!」
     肩越しに振り向き叫ぶ。
     返してもらえるわけもなく、さも何かを勝ち取ったかのように、ブルースライムはスパッツを高らかに掲げていた。
     最悪だった。
     確かにショーツよりはいいだろうが、だからとって下腹部に身につけていたものには違いない。今の今まで春菜の体温を取り込んで、触れれば温度が残っているであろうスパッツを奪われたのは、やはり下着を取られたほどのショックに値していた。
     心もとない。
     これでもう、スカートが捲れれば、いつでも下着は見られてしまう。
    「やだ……ぜったい……」
     春菜は右手で後ろを押さえ、片手だけを突いて先へ進んだ。
     これ以上は嫌だ。もう二度と見せたくない。
     だが、スライムの触手は無情にも春菜の手首に巻きついた。スカートを押さえる手をどかし、必死に守ろうとした丈は、いとも簡単に捲られていた。
    「やぁぁぁ!」
     目の前の画面に、自分自身のショーツが映る。
     ワンピースの色に合わせた水色の、お尻側は無地なショーツが大胆なアップとなる。尻肉への食い込み、フロント側には白い刺繍で模様が縫い付けられている。線でハートを描いているようでいて、よく見れば花びらを成した花の刺繍だ。
     ぎゅっと目を瞑り、顔まで背けていた。
     捲れ上がったものがとっく戻り、下着がスカートに隠れても、なおも画面を直視できずに、顔を真横に逸らし続けていた。
     何分もそうして、やっと改めて進みだし、ゴールの魔法陣に入っていく。
     光が四散するようにして、ブルースライムは消滅した。
     自分をここまで辱しめたモンスターがいなくなり、そこだけは安心していたところで、今度は春菜の衣服も発光する。もしや今のスライムのように四散して、裸にさせられるのではないかと焦った春菜は、無駄だとわかっていても、反射的な行動で自分の衣服を掴んで手放すまいとしていた。
    「……あれ?」
     いざ光が四散して、怖れた事とは違う事が起こっていた。
     
     服装がセーラー服に変わっていた。
     
     短めなスカートに、白いセーラー服には赤いスカーフが通っている。宇宙人が用意していた衣装に着替えさせられたことがわかって、今度はまるで着せ替え人形のように扱われた屈辱感が込み上げていた。
    
    
    


     
     
     


  • 第3話「かまいたちの森」

    の話 目次 次の話

    
    
    
    「さぁて! 第二ステージの前に、ちょーっと見てもらおう」
     春菜の周囲に浮かぶ電子スクリーンは、春菜が歩いたり、立ったりしゃがんだりすれば、それに合わせて動いてくる。
     その画面が宇宙人の映像に切り替わると、白い肌の男の後ろには、十字架にかかったリトの姿が映っていた。
    「結城くん!」
    「春菜ちゃん! こんな奴の言うことなんか聞かなくていい! ララ達を呼んでくれ!」
     リトの叫びが届いてくる。
    「おおっと、ここは別次元だ。単なる遠い星じゃないんだぞ? 連絡方法なんてありはしないし、あったとしても人質の命はない」
    「そんな……」
     春菜は絶望した。
     別次元というのが本当なら、ララ達にこの場所を見つけ出すことができるのだろうか。助けが来る可能性が一気に薄らぎ、希望を抱く気持ちも萎れていく。いずれは自分達の行方不明に気づき、見つけてもらえることに期待をしていたが、不安な気持ちの方がより大きく膨らんでいた。
    「第一ステージはどうだった? ま、最初はサービスで失敗条件は無しにしてあった。難しくはなかっただろう?」
    「…………」
     ただ森まで移動するだけで、難しさも何もなかったのは確かだが、低い難易度以上にお尻を叩かれる屈辱が辛かった。
    「ここは魔法が存在する世界だ。毎回のステージごとにゴールとなる魔法陣をセットしてある。そのたびに古い衣装から新しい衣装にチェンジしていくが、じゃあ消えた服はどこへ行ったと思う?」
     問われて春菜はゾっとしていた。
    「まさか……!」
    「じゃんじゃじゃーん!」
     宇宙人は実に楽しげにショーツを取り上げ、両端を指で詰まんで見せびらかす。画面いっぱいに映り込む下着は、まさしく春菜が先程まで穿いていたものだった。
     水色の布地に、白い線を縫い込むことで花の形を作っている。白い丸を作った周囲に五枚の花びらを生やし、そうやって描かれた花が詰め込まれていた。
    「か、かえして!」
    「どうしようかなぁ?」
     これみよがしに裏返し、アソコと触れ合う部分をやけに優しく撫で回す。感触が繋がっているわけなどないのだが、身体にもおぞましいタッチをされた気分になり、全身をゾクゾクと震わせた。
    「変態……」
     春菜は小さくそうこぼす。
    「さぁて、第二ステージの内容だが、クリア条件は同じく簡単。ただ森を抜けるだけ。道だって一本だ。迷うようなところじゃないが、第一ステージと違って、今回からは失敗すればゲームオーバーになってしまうぜ?」
     宇宙人は嬉々として説明する。
    「ゲームオーバーになったら、性奴隷になってもらう」
     欲望の眼差しを画面越しに向けられて、全身に寒気が走る。
    「よく聞いておけ? お前がこれから入るのは、かまいたちの森。衣服を切り裂く風の刃が飛び交うんだ。そのセーラー服はだんだんと裂けていき、そして全裸になったらゲームオーバー。パンツ一枚、靴下一枚でも残してゴールに着けばクリアだ」
     聞けば聞くほど春菜は青ざめ、こんなセッティングまでして、ゲームと称して人を辱しめる邪悪に震える。
    「言っておくが、人間の体は切れないようにしてある。せっかくの女の子が血まみれになったら楽しめないからな?」
    「…………最低」
     本当に春菜の安全を考えているわけなどない。ただ自分が楽しむのに支障が出るから、あくまで宇宙人自身のために、春菜に怪我をさせたくない。身勝手な理由でしかない安全の保障など、本当の意味で安心できるものではない。
    「さあ、第二ステージに挑戦しな? それとも、人質を見殺しにするんだったら、辞退してもいいんだぜ?」
     鋭い爪を見せびらかし、言外に殺害を匂わせてくる脅しに怯え、春菜は不安に満ちたぎこちない足取りで森の中へ入っていく。
    
         †
    
     第二ステージは始まった。
     天井を作り上げる枝という枝の絡みと、無数に繁る葉の重なりで、森は薄暗くなってはいるが、木漏れ日がところどころを照らしている。まばらな隙間から光の柱が降り注ぎ、そこかしこがピンポイントに明るく照らされている。
     人の往来なのかはわからないが、しっかりと踏み固められている道のりは、たびたびカーブしていたり、樹木の壁で直角に部分があるだけで、分かれ道を見かけない。迷う要素のない一本道であることだけは、不幸中の幸いとは少し違うがありがたい。
     しかし、春菜が歩けば相変わらず画面も一緒に動く。
     どこにどんなカメラがあってのことなのか、そのアングルはいかにもスカートの中身を覗きたがるものだった。振り向いても何もなく、どうやって撮っているのか、想像もつかなかった。
     目には見えないカメラが浮遊しながら着いてきているのだろうかと、宇宙人の持つテクノロジーを思って半ば本気で想像しつつあった。
    「あっ、気をつけないと……」
     つまずきかけ、春菜は足元に気を配る。
     大きな樹木の根が張って、地面から盛り上がって出てきたものが、そのまま足場に凹凸を作っている。気をつけなければ、慌てて走りでもすれば、すぐに転んでしまいそうだ。
    
     ひゅう、
    
     と、風の音が聞こえた時、春菜はすぐにお尻に両手をやり、スカートを押さえていた。風に対して敏感になっていて、どんなに緩やかなものでも手で守らずにはいられなかった。
     だが、次の瞬間に起こったのは、スカートが捲れる事とは次元の違う出来事だった。
     そう、宇宙人は言っていた。
     
     ──かまいたちの森。
     
     まるで透明な刃物を振り抜いたかのように、突如としてセーラー服のスカーフが切断され、その下の胸元の部分にも、綺麗な切り込みが出来ていた。
    「う、うそ! こんなの!」
     驚愕しているあいだにも、また風の音が聞こえてくる。実にささやかで、本当なら気持ち良くすらある風が肌を撫でると、今度は腹部に切り込みが出来ていた。スカートにスリットが入り、右の太ももがチラつく露出が出来上がった。
    「なにこれ! 無理!」
     目には見えない刃など、どうやって避ければいいのか。
     すぐにでも森を抜けないと、どこまで服をやられるかわからない。最後の最後には全裸になることを怖れて、春菜は小走りになっていた、
    「あっ!」
     その瞬間にスカートが揺れ、丈が短いせいで少しの捲れで中身が見えそうな、危うい映像に足を緩める。両手を後ろに回し、早歩きに変えた春菜だが、ほどなくして吹く風は、正面から前髪を揺らしてくるものだった。
     半袖の袖口が切れ、布の破片が森の彼方へ消えていく。
     今度は左からの風が吹き、左脚にもスリットができてしまう。
     太ももの中心までしか丈のないスカートだ。布の少ないスカートが切れてしまえば、下着など簡単に見えやすくやってしまう。
    「……見えちゃう」
     早歩きのペースを早め、少しのあいだは風の音を聞かなくなった。このまま、もう吹かないで欲しいと祈って道のりを行き、脱出を焦っていると、やがて再び正面からの風が吹く。
    「えっ? ダメ!」
     一瞬、本当に一瞬だけ困惑して、直ちに春菜は悲鳴を上げた。
     セーラー服の胸が綺麗に切り取られ、ブラジャーが丸出しになったのだ。
     それは白い布地に水色の飾り付けを施したものだった。リボンと小花を散りばめたような、糸の縫い込みによって形成された柄は、遠目なら純白の中に溶け込みそうな淡さがある。
     そんなブラジャーを映すため、映像が急に切り替わり、胸がアップにされていた。突然の露出に驚愕して、映されていることに恐慌して、春菜は勢いよく両腕で胸を覆い隠した。
    「ダメぇ! 見ないで!」
     反射的に胸を守り、隠したいあまりに肩を内側に縮め、腰までくの字に折り曲げる。
     まるで狙い済ましたかのような強風が葉を揺らし、森全体をざわめかせ、足元では落ち葉さえ舞い上がる。それが一度だけスカートを持ち上げ、間違いなく瞬間的に、わずかながらに丸見えになっていたはずだった。
    「……み、見えちゃったの?」
     どこにどんな都合のいいカメラがあるかもわからず、画面の映像は胸を狙ったものでも、今のお尻を映したものが他にはないかと、恐れと警戒の気持ちが膨らむ。
     画面が切り替わった。
    「え…………」
     唖然として、困惑した表情のまま春菜は固まっていた。
     スカートの後ろ側が切り取られ、後ろの部分の丈が丸ごと失われ、ショーツの純白が包んだお尻はしっかりと丸出しになっていた。さらに思い出したようにして、前や横にも切れ込みが及んでいたらしいスカートは、いくつもの端切れとなってはらはらと、降り注ぐ落ち葉のように足元に散らばっていた。
     
     春菜はスカートを丸々と失ったのだ。
     
    「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
     青ざめていた顔が、みるみるうちに赤面へと変化していた。
     セーラー服の丈を必死になって下に引っ張り、届くはずのないショーツを隠そうとしながら座り込む。見せまいと、映させまいと、賢明な思いでカメラから逃れたがる春菜だが、とても隠しきれるわけがない。
     人間の持つたった二本の腕をどう使おうと、手の平がお尻やアソコを覆いきれるはずもなく、どう足掻いてもカメラはショーツを捉えていた。
    「どうするどうする? 座り込んでると全裸になっちゃうぞ?」
     脅すような言葉が届く。
    「ぜ、全裸……!?」
     今以上の目に遭う恐怖に、座り込んでいる場合ではないと感じて、泣きたい思いで立ち上がっては進み始める。
     両手を使い、ショーツの前と後ろを覆っていた。手の平の大きさでは隠しきれない、どう足掻いても見える下着を隠しつつ、肩も内側に丸めている。ブラジャーも見せたくない思いで懸命に、隠そう隠そうとしながらも、映像にはしっかりと映り込んでいた。
    
     ビュゥ――
    
     風の音はもはや恐怖さえ煽ってくる。
    「もうやだ!」
     聞くなり春菜は足を速め、かまいたちから逃れようとしたのだが、お構いなしにブラジャーに切れ込みが入っていた。カップが綺麗に切り取られ、はらりと落ちようとする瞬間、春菜は慌てて腕で覆い隠した。
     反射的に両腕を使っていたが、ほどなくして春菜は右手をアソコに移す。ショーツを押さえる手がなければ、いつ切り取られ、布が風にさらわれるかがわからない。その恐怖から、両腕とも胸に使うことはできなかった。
     森の出口が見えてきた。
     守りたい場所を手で押さえ、必死に隠そうとしている状態での、いかにも滑稽な走り方をして、春菜は一心不乱に足を回して飛び出した。
     魔方陣を見て、飛び込んだ。
     その瞬間に衣服の全てが光に変わり、四散した内側からは、どこからか転送された新しい衣装が現れていた。
    
    
    


     
     
     


  • 第5話「触手ラビリンス」

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     ゴールとなる魔法陣はクリアと共に出現して、踏めば衣装が新しいものへと好感される。
     次の衣装は学校の制服だったが、スカートが極端に短くされていた。ここまで短くしている女子は確かにいるが、階段では気を使う。強風でも見えやすいはずの守りの弱さは、それだけで不安を煽られる。
     石造りの階段で二階に上がり、ステージ内容は平均台を渡りきるというものだった。
     三回の失敗でゲームオーバーとなるルールで、平均台の周りには三脚という三脚の数々が並んでいた。
    「こんなところを渡るなんて……」
     三脚の背は低く、平均台をゆらゆらと渡ろうとするスカートが狙いなのは明らかだ。下から覗き込もうとする角度のカメラが大量に並ぶ上を通るなど、わざわざ見せびらかすことと同じである。
     当然、手で押さえながら渡った。
     前も後ろも見せまいと力を込め、震え混じりに進んでいると、足元が意外にふらつく。決して細すぎる足場ということはないのに、高さがついているだけで、不思議とバランス感覚が問われて身体が揺れ、今にもショーツを映されそうな恐怖と戦いながら渡りきる。
     
     テニスのステージがあった。
     魔法で動く木彫り人形を相手に試合をして、勝てばいいという内容だが、春菜の衣装はやはりスカートの短いスポーツウェアだ。アンダースコートなどありはせず、走ったりショットを打てば、簡単にお尻が見える格好で、しかも春菜の背後にはまたしても三脚カメラが並んでいた。
    「おおっと! 白だ!」
    「また見えた! ナイスショット!」
    「パンツ丸見えの素晴らしいサーブ!」
     宇宙人もそんな実況の声をいちいち届けてくる。
     スカートが気になって集中できない試合を続け、途中からはショーツを見せながらタタカウしかなくなっていた。ゲームオーバーよりはマシ、リトを救えないよりは良いと自分に言い聞かせ、羞恥を堪えながら点を取り、それでも余裕さえあれば隠そうとする気持ちが最後の最後まで残っていた。
     もし弱めに設定されていなければ、とても勝ち目はなかっただろう。
     
    「いよいよ最終ステージだ!」
     
     屋内放送のようにして、宇宙人の声だけが相変わらず届いてくる。
    「さあ、心してかかるんだな」
     テニスでの恥ずかしさを余韻に引きずり、魔法陣の中へと入っていく。
     最後はメイド服だった。
     黒いスカートはやはり短く、頭にはカチューシャがかけられている。こんなコスプレを宇宙人の趣味でさせられて、屈辱に思いながら階段を上がった時、春菜はぞくっと青ざめていた。
    「やっ、なに……これ……」
     触手部屋だった。
     赤桃色の肉壁は、まるで生肉を隙間なく張り付けたかのようで、それでいて生きたように蠢いている。凹凸の隙間から、壁から、床から、天井からも触手が伸びて、それが何本も何十本もうねうねとしている光景は、見るだけで凍りつくものだった。
     しかも、部屋のすぐ正面が壁となり、曲がり道となっている。
    「そこは迷路だ。一時間以内に突破すればクリア。タイムオーバーでゲームオーバー」
     春菜の目前に、改めて浮游する映像が開かれる。今までの画面よりも大きくなって、下敷きを四枚は並べたほどのサイズの中で、四つの映像が同時に流れる。
     一つ、後ろからスカートを覗き込もうとする映像。
     二つ、前から覗こうとする映像。
     三つ、春菜の顔と胸を真正面から映しているもの。
     四つ、天井から見下ろすもの。
     そして、これら四つが流れる右下には、残り時間の表示がされていた。
    「部屋に一歩でも入ればカウントが始まり、ゼロになればゲームオーバー。準備ができたら入るんだ」
     そう言われても、入りたくなかった。
     生理的な拒否反応で足がすくんで動かなかった。
    「どうした? 今頃になって諦めるか?」
     そう言われた途端、十字架にかかったリトの姿が頭の中に蘇り、やり遂げなければならない使命感が心に膨らむ。
     不快感、嫌悪感。
     春菜が触手部屋に抱く感情は、ゴキブリやナメクジになど触りたくない気持ちに似ていたが、堪えんばかりの気持ちで春菜は進む。
    『1:00:00』
      と、そんな表示の右下の数字がカウントを開始した。
    「待っててね。結城くん」
     リトの運命が自分の手にかかっている思いから、肉の床を踏んで進むが、にじゅり──と、嫌な水音が聞こえてくる。柔らかいものを潰している感触が足の裏から伝わって、ぞくぞくとした不快感で爪先から腰にかけて毛が逆立ち、触手の存在にも寒気が走る。
     不意に触手が顔に近づき、
    「ひっ!」
     べろりと舐めるかのように、粘液をたっぷりとまとった千段に頬を撫でられ、春菜はハゲシク引き攣っていた。頬に残ったヌルヌルとした感触に、引き攣る表情が直らない。今すぐに拭い去りたくても、拭き取るためのタオルもハンカチも手元にない。
     トロっと、天井からも粘液が垂れてくる。
     それが触手からなのか、肉の天井から染み出たものなのか。まるでヨダレを垂らしたような汚液が糸を引き、それがメイド服の肩にかかると、シュゥゥゥゥ――と、炭酸ジュースにも似た音を立てながら、布が蒸発して消え始めた。
    「やだッ、またなの!?」
     春菜は焦った。
    「おおっと、大丈夫だ。今回の敗北条件はあくまでもタイムオーバー。つまり、全裸になっても問題ない」
     ルールはそうでも、春菜にとっては大問題だ。
    「変態っ」
     小さな声で悪態をつき、春菜はたまらず駆け出した。
     道のりはわからず、部屋の広さすらも不明であったが、動いてみなければゴールにはたどり着けない。
     分かれ道に行き当たり、右か左か迷いあぐねる。ヒントもないから勘で決め、進んだ先にはまた分かれ道が待っていた。そのたびに勘で選んでみるしかなく、一向にゴールが見えず、同じ場所をぐるぐると回っているような気にさえなってくる。
     行き止まりにぶつかった。
     引き返して別の道を行ってみるが、またその先で行き止まり、分かれ道、行き止まり、自分がどこにいるかもわからない。
     もう十分は経過していた。
     そのあいだ、上下左右の触手がしてきたことは、たまに触ろうとしてきたり、頭上からポタポタと垂らしてきたことだけである。服を溶かす液体に繊維を薄められ、黒い衣装にかかった白いエプロンには、ところどころ穴が空き始めていた。
     二十分経過、二十五分経過。
     そこまで大きなことは起きずに、それは唐突だった。
    
    「キャァ!」
    
     壁の触手が左右から襲いかかって、春菜の腕に巻きついた。螺旋のように手首から肩にかけ、ぐるぐると這って絡みつき、腕を引っ張る。両腕が強制的に、左右に真っ直ぐに突き出され、春菜は身動きが取れなくなった。
    「おやおや、時間ロスだぁ」
    「そ、そんな! 離して! ダメ!」
     激しく身を捩って抵抗するが、足にまで巻きつく触手に封じられ、春菜はそこから一歩たりとも動けなくなってしまう。それどころか、動けないのをいいことに、前後に触手が近づいて、スカート捲りをやり始めた。
    「やぁああ! やめて! そんなことしないで!」
     前後でリズムを取るように、ただただ繰り返し捲り続けるだけだった。激しい勢いを伴って、ばっと持ち上げた勢いで、若干の滞空と共に元の形へと戻っていくスカートは、その瞬間にまた捲り直され続けていた。
     そうやって見えるのは白いショーツだ。
     純白の布地にグレーの糸を縫い込んで、線のカーブが花やその茎を表す模様を作る。浮遊する映像を見せつけられる春菜は、自分のパンチラを延々と拝まされ、画面から必死に目を背けているのだった。
    「へへっ、もっとも捕まえっぱなしだとクリア不能になるからな。何分かすれば自動的に解放する仕組みだが、よーく場所を覚えておかないと、ポイント毎に触手の妨害が入り、時間を奪い去っていく。同じポイントを通るたびに似たようなことが起きるから気をつけろ?」
     宇宙人の言う通り、触手はやがて引いていく。
     しかし、捲られ続けたスカートには、触手から移った粘液が染み込んで、その溶解の作用が繊維を薄れさせていた。袖の黒い布まで薄れ、少なくなった繊維の隙間から、肌色が透けて見えていた。
     それから五分も進めばまた捕まり、同じように両腕が封じられると、何本もの触手が胸に近づき、一様に粘液を垂らしてきた。ヨダレにまみれたようにだらだらと、水鉄砲のようにぴちゃぴちゃと、春菜の胸を濡らしていく。
     繊維はみるみるうちに蒸発して、白いエプロンが消えた下から黒い胸が現れる。さらに黒布さえ溶かされて、徐々に白いブラジャーが見えていた。ショーツと同じく、白い上に刺繍の糸を走らせて、線で模様を描いた柄が丸出しになったところで解放され、春菜は直ちに胸を覆い隠していた。
     両腕のクロスを固めて歩き、もう襲われるポイントを踏まずに済むように祈りながら、迷路を彷徨う。
     今度は触手という触手の数々が、無数の群れが四方八方を包囲した。頭上も、足元にも、触手の固まりはおびただしく蠢いて、一斉に粘液を放出する。
     
    「イヤァァァァァ──!」
     
     腕が、背中が、スカートが、袖や靴下さえも粘液を吸い込んで、これまでになく衣服が溶けて消えていく。
    「だめ! だめ!」
     行っては駄目とばかりに手で押さえ、身体中の至るところを掴んで逃がすまいとしてみても、それが溶解を止めるわけもない。握り締めた布さえも、容赦なく気体へと変わっていき、メイド服がいとも簡単に消え去った。
     春菜は無惨な下着姿となった。
     ブラジャーは肩紐が取れかけに、ショーツも前後の布が薄れて今にも内側が見えそうで、さらには裸足にまでさせられて、素足で肉の床を踏み歩く羽目になってしまう。とろりとした粘膜をたっぷりとまとい、歩くたびに糸が引くような、ヌルヌルとした生肉の感触にも全身が寒気に震えた。
     青ざめてもおかしくないところだが、今の春菜は赤面していた。青くなるより、それ以上の羞恥が顔の色を上書きして、いかにも熱っぽい赤色を広げていた。
    「やだ……これ以上溶かされたら……」
     しかし、脳裏にリトの姿が浮かぶ。
    「クリアしなきゃ……」
     リトの命運がかかっている。
     その思いで足を動かし、春菜は進んだ。隠すべきところはなるべく隠し、かといって腕が二本では下着姿を覆いきることなど不可能で、嫌でも羞恥を堪えるしかないままに、気持ち悪い肉床を踏み歩く不快感にも耐えながらゴールを目指す。
     残り十五分を切っていた。
     焦りで足が早まって、ゴール、ゴール、と気持ちばかりが出口に向かい、道のりがわかったわけでもないのに突き進む。立っていてもゴールは見つからない。わからなくても進んでみるしか、ゴールの可能性などなかった。
     偶然だった。
     肉の道のりが途切れ、久しい石畳の床が行く先に見えるなり、ゴールと確信して春菜は駆ける。一刻も早くここから抜け出したい、少しでも早くリトを救いたい。逸る思いで突き進み、春菜は最後の触手ポイントにかかっていた。
     
    「やあああ! だめ! おねがい!」
     
     触手の群れが絡みつき、春菜の腕に手錠のように巻き付いては、天井に吊し上げる。足首にも巻き付いて、両足を上げることも開くこともできなくなる。
    「やだ! やめて!」
     何をされるか、どうなってしまうかの恐れに震える。
     そして、触手の先端はお尻のところに、尾てい骨のあたりにぴたりとあたる。
    「ひっ!」
     仰け反ると同時に、背中のホックや肩紐の部分にも触手が触れる。
    「だめ……だめ……」
     このままではどうなるのか、予感はあった。だから必死に身をよじり、腕を動かそうともがいているが、すると巻き付く量が増え、ますます動けなくなってしまう。
     ブラジャーが溶かされていた。
    「お、おねがい! やめて!」
     必死に叫ぶ。
     しかし、春菜の思いなどまるで無視して、肩紐が溶解によって断たれてしまう。ホックも溶かし外されて、緩むだけ緩んだブラジャーは、はらりと落ちてしまうのだった。
    「やぁぁぁぁ! やっ、やあ!」
     乳房があらわとなった。
     それは言うまでもなく映像に流れ、目を逸らすか閉じていなければ、自分自身の露出を拝むことになる。
     続けてショーツがずり下ろされる。
     こちらは徐々に、焦らさんばかりに、まずは少しだけゴムの部分を下げてから、やけにゆっくり脱がし始めて、しだいに尻が見えたところで一気に奪う。
     
    「やだ! やだ!」
     
     春菜はいよいよ全裸であった。
     両手両足を封じられ、隠すこともできずに、映像の中には春菜の肢体がいいように流される。宇宙人はもちろん、リトにも見られているかもしれない可能性が頭を掠め、余計に赤らんでいた。
     胸が、アソコが、お尻も全て見えている。
    「映像はきっちり保存してるぞ?」
    「やっ、うそ! おねがい消して!」
    「誰が消すか。ほら、そろそろ離してくれるんじゃないか」
     触手が緩み、引いていく。
     手足が自由になった途端、まず行うのは胸とアソコを覆い隠すことだった。手の平をぴったりと性器に張りつけ、胸を見せまいとした格好で、春菜は迷路の外へと進む。
     残り時間は実に二分をきっていた。
     一つでも多く触手ポイントを踏んでいれば、間違いなくゲームオーバーだった。