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  • ペニスを撮影した話 フォト

    
    
    
     オレの名前はソウ。モトラドだ。
     小型車のトランクに積んで持ち運べるように設計された、ちょっと特殊なモトラドだ。もともと車体が小さいが、ハンドルやシートを折り畳むと、さらにコンパクトになる。まあ、速度は出ないけどな。
     オレの乗り主の名はフォト。性別は女。年齢は十七。黒い髪は背中まで長い。
     いろいろあって今いる国にたどり着いたオレ達は、ここで生活を始めた。いろいろあってフォトはお金持ちになったが――、写真好きが高じて、依頼があれば写真を撮る仕事をしている。
     フォトは、そこから付いた通り名だ。彼女に、過去の名前はない。
    
    
     白衣の男がやって来た。中年くらいで、白髪交じりのオールバック。眼鏡をかけた知性的な顔立ちだ。
    「いらしゃいませ、こんにちは! 私はフォト。この写真館の店主です」
     フォトが元気よく挨拶する。
    「ふむ、女の子か。失礼だが男性のカメラマンはいないのかね」
     白衣の男は、何故か困った表情でそう言った。
    「いいえ、私だけですが」
    「噂通りか。だったら女の子に頼むことになってしまうが、実は撮影して欲しいものがある」
     仕方なくフォトを依頼相手に決めた様子だ。
    「はい。なんでもお受けしますよ?」
    「その撮って欲しいものが問題なんだが、医学に使う資料写真が必要になる。人の体のある部分に症状が出て、その状態を記録として保存したいんだ」
     オレには想像がついた。女の子に頼むのは躊躇って、だけどフォトしかいないから、仕方なく依頼を持ち込む。そりゃもうアノ部分しかないだろう。
    「はい。どういった部分でしょう」
     しかし、フォトは直接聞いてしまう。
    「ペニスだ」
    「ぺに……」
     フォトは接客笑顔のまま固まって、完全にフリーズしていた。
    「陰部、男性器。呼び方は色々あるが、まあアソコの写真がいる。だから女の子に頼むのはどうかと思って、男性カメラマンがいればいいと思ったんだが……」
    「分かりました!」
     凍り付いていたはずのフォトは、恐ろしい早さで答えていた。
    「いや、いいのかね。自分で話を持ち込んでいうのもなんだが……」
    「医学としての資料ですよね。症状を記録に残すということは、他の多くのお医者さんが、同じような病気を相手にするのに役に立ちます。多くのお医者さんの役に立てれば、多くの患者さんの役に立つことにもなります。写真であれば任せて下さい!」
     その依頼にどんな意義があるのか。一瞬にして見い出すとは、コイツもプロの職業カメラマンらしくなったというべきか。
    
    
     詳しい話を聞いた。
     この国では初めてみる症状らしく、旅人からの感染か、持ち込んだ食事か何かから、どうにかして入り込んだのではないかと予想されている。まだ患者は一握りだが、もし増えるようなことがあっては一大事らしい。
     症状は精子が増えまくること。
     睾丸の中で、溜まるべきものが異常に溜まり、増えすぎるあまりに破裂する。まるで風船が割れるみたいに、玉の袋が壊れるのは、なかなかグロテスクな末路だ。モトラドのオレには関係ないが、もしオレが人間の男だったら、絶対にゴメンだ。
    「寄生虫ということまでは判明している」
    「寄生虫、ですか?」
    「まず、睾丸に寄生する。そこで物質を分泌して、精子の異常増殖を促す。卵を産んで、増えた精液を幼虫のエサにするといった具合で、実際に破裂してしまった患者から、寄生虫の実物が見つかったことで判明したんだ」
    「それじゃあ、既に被害に遭われた方が……」
     フォトは話を深刻に受け止めていた。
     普通にエグイことだ。ギャグなんかでは済まされない。
    「射精によって追い出せる可能性もあるのだが、寄生虫も馬鹿じゃない。せっかく棲みついた場所から出されないため、寄生した男性を勃起障害にしてしまう」
    「絶対に勃起しなくなるのか?」
     オレから聞いた。フォトの口からは聞きにくいだろう。
    「絶対ではないが非常に勃起しにくい。自分の手で勃たせるのはまず無理だ。女性の手を借りれば可能性が高まることは判明しているが、女医や看護婦だから頼めることだな。医療上の措置だからやってくれるが、女性は数が足りていない」
    「フォトにやらせようとは思うなよ?」
    「ソウ!」
    「いや、いい。言葉が悪かった。妙な捉え方をされても仕方がないが、フォトさんには写真しか頼まない。医者でも看護師でもないからな。それは病院側の仕事だ」
     別にそこまで白衣の男を疑ってはいないが、フォトが妙な善意を起こしてもして、性接触をした患者が、フォトに対してまた妙な勘違いをする。なんてことになっては困るからな。
    「とにかく、撮影は引き受けます。仕事は急ぎでしょうか」
    「日が経ってしまうと、記録に残すべき状態ではなくなってしまう。明日には病院に来てもらえると助かるよ」
    「では明日。時間は――」
     日程を取り決めると、白衣の男は疲れた顔をして、やけに早足で出て行った。
     よっぽど忙しくて、疲労を溜め込んでいるみたいだな。
    
    
     撮影相手となる患者は、五十歳くらいだろうか。
     ルックスはお世辞にも良いとはいえない。髪は脂っこくて硬そうで、しかも円形ハゲで顔立ちも悪い。別に普通の表情をしているだけだろうに、いやらしい視線をして見える。肌にも脂汗が滲んでいて、腹はぶよぶよで太っていて、女が生理的拒否反応を示しそうな全ての要素を詰め込んでいた。
     そんな患者がズボンを脱いで、下半身を曝け出し、診察用のベッドに横たわっていた。
    「…………」
     フォトは、カメラを両手に抱えてじーっと見ていた。
     色んな感情があることだろう。
     被写体に選ばれて、自分のペニスを撮らせるために脱いだのに、カメラマンに嫌な顔をされては相手が傷つく。だけど乙女としては肉棒なんて直視できない。しかし、きちんと正面から見なければ、撮影の仕事にならない。
     エスパーってわけでもないが、フォトの浮かべる視線には、そんな感情がありありと出ているわけだ。
     瞳がきょろきょろと、色んなところに泳ぎそうでいて、実際には泳いでいない。泳ぎそうに見えるだけで、ペニスをきちんと直視している。
     まずは非勃起状態を取るので、さっさと照準を合わせてシャッターを押す。裏側や玉の部分も撮るというので、女医の手で角度を変えてもらったり、患者に脚を開いてもらい、少しばかり時間をかけたが、ひとしきり必要な写真は揃っただろう。
     あとは勃起状態の撮影だ。
    「では勃たせますねー」
     女医は患者に呼びかけ、ペニスを握ってしごき始めた。
     十分美人だ。胸も大きい。こんな女にシてもらえて、嬉しくない男がいるものか。いないはずだと思うのだが、何分経っても、十分以上が経過しても、未だに勃起しないのは、白衣の男の言葉通りだ。
    「もう彼女では勃ちませんか」
     白衣の男が問いかける。
    「ああ、勃たんね」
    「では別の看護婦を……」
    「いいや、その子でどうだ?」
     どこかせせ笑っているような、全てを嘲っているような、実に性格の悪い笑みを浮かべて、患者はフォトに目を向けた。
     途端、白衣の男は厳しい表情になる。
    「彼女はカメラマンです。医療上の措置には協力させないつもりです」
     きっぱりと断った。当然だ。そうでなくては困る。
    「だがねぇ? 他の看護婦も、女医も、もうオレは興奮せんよ。飽きたんだよ」
     患者は大げさなまでに肩を竦める。
    「だが、しかし……」
    「アンタが自分で言ったんだぞ? 勃起障害を踏み倒して、勃起に持ち込める可能性は、興奮率と関係がある。アンタ自身の研究成果だ。だったら、それなりの女を用意するのが、病院の責任ってもんじゃあねえのか!」
    「カメラマンには要求するなと、事前にお話したはずだ! 勝手な主張は許されない!」
    「けど時間がないんだろ?」
    「……」
     白衣の男は黙った。
    「時間がないというのは」
     フォトが尋ねると、
    「お嬢ちゃん。オレのチンポは――、いや、タマタマは、もうすぐ破裂するんだよ」
     老獪な笑みを浮かべてそう答えた。
    「そうなんですか?」
     フォトは、白衣の男や女医に目を向けて確かめた。
    「ああ、その通りだ」
     白衣の男が認めると、
    「最初はオレ以外にも患者がいた! 症状には個人差があるからな! オレよりも若い男が、恋人にしてもらって、なんとか症状を抑えていたが、射精で寄生虫が抜ける可能性は限られている! そいつは助からなかった! やがて同じ女では抜けなくなって、だけど恋人以外の女は拒み続けた末に死んだ! 出血か? ショック死だったのかな! ひひひ!」
     完全に目がイっていた。
     狂人がおかしなことを口走って聞こえるが、一応事実なんだろうな。
    「会社員をやっていた男が死んだ! オレより後から患者になったくせに、進行が早くて破裂しちまった! 政治家も弁護士も死んだ! 今度はオレもそうなる! あんな死に方はしたくない! だがロクに治療法も見つかっていない! アンタらにできることは、そうやって写真なんかで記録を取って、研究資料を積み上げることだけだ! 協力してやろうってだけで、オレってすごく良心的だな! 治せるようになるのは何年後だ? オレが死んだあとか! はははははははは! そいつは傑作だ! 傑作じゃねえか! もし死ななかったらどうする? 確かに歳かもしれねえが、こんなジジイになってから女にでも生まれ変わるか?」
     睾丸破裂の運命が決まっていたら、狂っちまうのも当然か。
     白衣の男は静かに頭を抱えていた。
    「……申し訳ない。フォトさん。お金は約束通り払う。今回は帰ってくれ」
     そりゃそうだ。気のおかしくなった患者の相手は、カメラマンの仕事ではない。これはもう帰るべきだ。
    「帰りません」
     オレは絶句したね。ここで帰らないっていうのは、そういうことだぞ?
    「まだ引き受けた仕事が終わってません。私にはやるべきことが残っています!」
    「そうそう。お嬢ちゃんの手でオレのチンポを……」
    「これからも、患者は出るかもしれないんですよね? 治療法もわからなくて、どういう結末になるかだけがわかっていて、そんな怖い病気にかかっていたら、誰だって! そんな人達を少しでも多く救えたら、いつか治療法か見つかったら! だけど私はお医者さんではありません! 写真しかないんです!」
     ああ、もう駄目だ。こうなったらフォトが帰ることはない。
    「し、しかし……」
     白衣の男は困るばかりか。
    「他の女医さんも、看護婦さんも、みんなもう一度はしたんですか?」
    「ああ、そうだ」
    「だったら、こうしましょう。私の手で何も出来なければ、確かに撮影できるものがないので帰らせて頂きます。ですが、もし私が彼を勃起させたら、撮影は続行できます」
    「しかし、病院としては……」
    「私はやります! やるべきだと思っています!」
     フォトは瞳に、強い意志を宿していた。
    
    
         *
    
    
     患者はフォトと二人きりを要求した。
     フォト自身がそれを飲み、口うるさい医師も、女医も、モトラドのソウとかいうやつも押しのけて、患者と二人だけになっていた。
    「偉いねぇぇぇ? お嬢ちゃん」
     患者は起き上がり、フォトの胸を揉む。両手でがっしり掴んで、服の上からじっくりと、揉み心地をよく確かめてやる。
    「……」
     こんなオジサンに揉まれたら嫌なはずだが、フォトは少し驚くだけで、すぐに先ほどの、強い決意の篭った目つきに戻り、何も言わずに患者のことを見つめ返している。
    「勃起しますか?」
    「おん?」
    「私の胸を触れば勃起しますか?」
     カメラマンとして来ているんだ。よっぽど仕事を無下にできない性格なんだろうな。
    「そりゃ、お嬢ちゃんの努力しだいだ。お嬢ちゃんほど可愛ければ必ず勃起する。もし勃起しなければ、お前さんの努力が足りないってことだ」
    「わかりました。手で握って、上下にすればいいんですか?」
    「ひひっ、初めてか?」
    「はい」
    「歳はいくつだい」
    「十七歳です」
     これは凄い話だ。五十歳のオレが十七歳にしてもらう。もし患者が結婚して、子供でも作っていれば、そのくらいの娘がいてもおかしくなかった。
    「十七歳か。十七歳とは、生きてみるもんだなぁ? さっそく握ってくれ」
     患者は仰向けに寝そべった。
     すると、いつも女医や看護婦が『医療措置』を施すときみたく、患者の目をきちんと見て、相手の様子を伺いながら、右手に患者の一物を収めていく。初めて触るフォトの手つきは、まじ一瞬だけ引っ込んで、真っ赤な顔でそーっと、恐る恐るといった具合に指を巻きつけ、握り込むから、その可愛らしさだけで興奮した。
     本当なら、胸を揉んだだけで勃起していないと話はおかしい。
     寄生虫のせいだ。寄生虫がいなければ、とっくに限界まで勃起している。
    「これで、いいのでしょうか」
     フォトの手が上下に動き始めた。
    「おおっ、いいよいいよ?」
     萎れていた患者の一物は、徐々に大きく育っていく。しかし、半勃ちよりも柔らかい、勃起というよりは硬くなり始めの段階で、それ以上は育たない。
     黙々と五分ほど続けても、それ以上の硬さにはならなかった。
    「お嬢ちゃん。ちゃんとやる気出してるか」
     患者は説教じみた厳しい顔つきになる。
    「やっています」
    「だがな。努力が足りていないんだ。だからこの程度しか勃たないんだ。ここまで勃ったんだから、必ずちゃんと勃起するはずなんだがなぁ?」
    「他にどうすれば……」
     エッチの知識が少ないフォトは、本当にどうすればいいのかわからない。
    「口だ。口を使え」
    「舐めたり、咥えたりすればいいんですか?」
    「そうだ。やってみなさい」
     患者は起き上がり、ベッドの横から両足を下ろして、背筋を伸ばして座る姿勢になる。フォトはその股ぐらで、姿勢を低めて、肉棒に顔を近づけた。
    「……」
     フォトは躊躇った。
     口という場所は、食べ物を食べるための場所であって、男が用を足すためにある汚い部分を咥えるのは、手で触るよりもずっとずっと抵抗がある。
    「やっぱり、醜いオジサンは嫌かい?」
    「そんなことは……」
    「そうなんだろう? こんな顔だし、ハゲだもんねぇ? 汚いし、勝手だもんねぇ?」
    「そんなことはありません!」
     フォトは思い切って口をつけ、先っぽの部分から、ペロペロと舐め始めた。
    「おお……!」
     患者は感激する。
    「――ちゅっ」
     フォトは亀頭に唇を押し付け、そのまま手コキを行った。軽やかに上下にしごき、先端から少しずつ口に含んで、亀頭の約半分を唇の内側に収めたフォトは、ペロリペロリと舌を使って刺激を与えた。
     さらにもう少しだけ、患者の肉棒は膨らんでいく。
     しかし、それ以上は何分かけても硬くならない。
    「じゅむぅ……じゅるっ、ちゅっ、んむぅぅ……」
     きちんと奥まで飲み込んで、頭を前後させるようにしてみても、それ以上大きくならない。時間をかけるにつれて慣れてきて、テクニックが身につきつつあっても、ある段階まで育った肉棒は、決してそれ以上にはならなかった。
    「何でもやります。他に方法はありませんか?」
     今度はフォトの方から尋ねていた。
    「いいのかね。お嬢さん」
    「今回の撮影は、とても大事なことだと思っています。何としてもやり遂げたいんです!」
     フォトの眼差しは真剣そのものだ。
    「ようし、心意気はよくわかった。ならばオジサンが次なる奥義を伝授しちゃおう」
     そう言って、患者がフォトに教えたのはパイズリだった。
     乳房に挟んで刺激する方法があるのだと、そう教わったフォトは服を脱ぎ、ブラジャーを外して上半身裸になり、肉棒を抱き込んだ。
     一生懸命、乳房を使ってペニスをしごく。
     左右からグニっと、プレスをかけて、上下に動かし、乳肌の中でムクムクと育ってくるのを感じ取る。途中でパイフェラまで学んだフォトは、自分の谷間に口を近づけ、舐めながら胸を使うことまで行った。
     しかし、途中まで大きくなると、またそれ以上成長しなくなる。
    「お嬢ちゃん。こうなったら、セックスしかないねぇ?」
    「はい。セックスとは?」
    「男と女が、赤ちゃんを作るときにやる行為だよ」
    「あ、赤ちゃん……!?」
     フォトはみるみる赤らんだ。
    「だけど、望まないのに子供が出来たら大変だろう? 避妊の方法があるから、セックスっていうのは妊娠を防止しながらやるんだよ。ああ、もちろん子供を生みたいときは別だけどね」
    「……は、はい。それで、どうやるのでしょう」
    「おちんちんをお嬢さんのアソコの穴に挿入するんだ」
    「それって……」
     口で咥えるよりも、胸に挟むよりも抵抗があって、やはりフォトは躊躇った。
    「やっぱり、嫌かね? 心意気は嘘だったのかねぇ? お嬢ちゃんはその程度かい」
    「いいえ! やります!」
    「ひひひひっ、それじゃあオジサンとセックスだ。丸裸になってごらん?」
    「わかりました」
     フォトはズボンもショーツも脱いで、診察用ベッドの上に仰向けに横たわる。コンドームが装着できる程度には勃っているので、患者はコンドームを付けた。
    「いきなり挿れたら痛いからね。まずはこうやって、濡れらしてやるんだ」
     患者はフォトのアソコに触って、ねっとりとした愛撫を行う。
    「んっ、くぅ……!」
    「気持ちいいかい?」
    「は、はい……少しだけ……」
    「うんうん。もう少し濡らしたら、挿れるからね?」
     しばらく、患者はフォトの秘所に刺激を与えた。割れ目をなぞり、肉貝を揉むようにしていると、だんだん愛液が出て、指の滑りが良くなって、ますます活発な愛撫になる。突起した肉芽を見つけて、患者はそこを集中的に刺激して、フォトはだんだん喘いでいた。
    「っあ! あぁ……!」
     フォトの乱れる姿に興奮するので、肉棒の育ち具合は維持されている。
    「よーし、よしよし。それじゃあ挿れるからね? 脚を開いてね?」
    「ひゃっ、はいぃぃ……!」
     フォトは仰向けのままM字開脚を行う。
    「さあ、入るよ? オジサン、お嬢さんの初マンコ頂いちゃうよぉぉ?」
     患者はフォトに挿入した。
    「あうぅ……! んっ、んぐっ、あぁぁ……!」
     初めての感覚に、フォトは大きな声を上げていた。
    「どうだい? お嬢ちゃん。これがセックスだ」
     患者が腰を動かし始める。
    「あっ、あぁ……! お、大きく……!」
     自分の膣内を出入りして、奥を貫いてくる感覚が、内側で膨らんでいくのをフォトは感じた。
    「そうだねぇ? お嬢ちゃんとエッチができたからだ」
    「あうっ、んんん! さ、撮影を……!」
    「撮影? オジサンとのセックスが優先に決まっている」
     患者はフォトの胸を鷲掴みにして、揉みながら腰を振り、小刻みに打ちつけることでフォトの身体を揺らし続ける。
    「あぁっ! うっ、うぁぁ……! あぁ……! と、撮ったら……! 続き――してもっ、構いませんから――写真を――写真を――」
     喘ぎながらも、フォトは仕事を忘れない。
    「またお嬢さんが勃たせてくれればいいだけだろう? ほら、もっと締め付けて!」
    「駄目です! ちゃんと写真を撮らせて下さい!」
    「君ねぇ……!」
     黙らせてやろうとばかりに、患者は肉棒を使いこなし、指先で乳首まで刺激する。喘ぎ声しか出させないため、大いに感じさせようとするのだが、
    「写真をぉ……! とっ、おぁ……! らせて――――」
     フォトは決して、仕事を放棄したがらない。
    「しょうがない。撮ったら、ちゃんと続きをするんだぞ」
     いつのまにか、セックスの続きは『ちゃんと』やらなければいけないものと化し、根負けした患者は一旦肉棒を引き抜く。
    「はぁ……はぁ……」
     息を荒くして、フォトはカメラを手に取った。
     患者には一度寝てもらい、レンズ越しにペニスを見て、立派にそそり勃つものにシャッターを押し、また別の角度からもピントを合わせ、シャッターを落としていく。
     撮影は滞りなく進んだ。
     お互いに全裸なこと、撮影対象がペニスであることを除けば、フォトの表情は情熱をもって仕事に取り組む職業マンのものでしかない。
     ただ、途中で尻を揉まれていた。
     亀頭のアップや裏面からのアングルなど、複数のショットが必要なため、上から見下ろすようなアングルでも一枚撮りたい。被写体の場所を考えると、患者の腹部にカメラを置き、寝そべるような姿勢で撮るのがやりやすい。
     つまり、仰向けになった患者の顔に、フォトは自分の体を乗せることになる。その時に患者は手を伸ばし、尻を撫で、揉み込んだのだ。
    「…………」
     シャッターを切るまで、フォトは絶対にレンズから目を離さなかった。集中力の限りを尽くして、撮影だけに専念していた。
    
    
     そして、患者は続きを要求した。フォトは応じた。
     精液増加による睾丸破裂は、患者を射精に導いてやれる誰かでなければ延命できない。同じ女性で射精を繰り返すと、やがて出なくなる。フォトは患者の新しい相手となった。
    「……」
     フォトは四つん這い。両手でシーツを少し握り、お尻は患者の方へ向け、これから挿入される直前にいる。
    「よーし、今日も挿れちゃうぞ?」
     患者はウキウキとしながら、ずっぷりとペニスを挿し込んだ。
    「……ん! んっ、んぅっ、んあん!」
     尻に腰をぶつけるようにして、ゆさゆさとピストン運動を行うと、フォトの身体も衝撃で前後に揺れる。柔らかく丸いお尻は、ぶるかるたびにプルンプルンと、瑞々しく振動していた。
    「お嬢ちゃん。本当は嫌なんだろう? こんな汚いオジサンと」
     醜いルックスの患者は、円形ハゲの頭頂部がつるりと輝き、その周囲に残っている髪は脂質でゴワゴワしている。顔立ちも完全に崩れていて、普通の表情をしていても、いやらしいことを考える目つきに見える。しかも歯は黄ばんでいて、口臭があって、ぶよぶよに太った腹の脂肪もだらしない。
     女の子がムリだと感じる要素が、たっぷり詰め込まれた男である。
    「いいえ……」
     しかし、フォトはそう言った。
    「おや、どうしてだい」
    「お医者さんが教えて下さったお話は真実です。誰かが射精させないと、あなたの睾丸は、だからこれは、人を救うことです」
     きっぱりと答えると、
    「うっひひひひ! えひ! いひひひひひ!」
     患者は醜く笑った。
    「……んぁ――あぁ……! あふぁっ、あっ、――んくぁ――ひあっ、ひっ、はぁん!」
     腰振りが激しくなって、フォトはより喘いだ。
    「こんな病気にかかれてラッキーだよ! おかげでオジサン、こんなに若くて可愛い子とヤれるんだ! 面白ォ! 最高ォ!」
    「あぁぁ……! ひっ、ふぅぅぁ――はぁぁ……! あぁっ、んひぁ……!」
     じきに射精のときになり、コンドーム越しに広がる熱い白濁をフォトは感じた。もしかしたら、寄生虫が運良く精液と一緒に出ている可能性があるので、使用したゴムや精液は必ず病院に提出する。
     看護師を呼んで持っていかせて、後始末が済むと、まだ勃たせる元気を残した患者は、今度は対面座位を要求した。フォトは応じた。
     あぐらをかいた患者と、正面から抱き締め合うような形で、アソコの穴にはぴったりと肉棒を収めたフォトは、下腹部に力を入れて締め付けたり、上下に動いて、患者に快楽を与えてあげていた。
     そして、患者はお尻に手をまわし、揉んだり撫でたり、好きなように楽しんでいた。
    「お嬢ちゃん。オジサンが嫌いになったでしょう」
    「……どうして、ですか?」
    「オジサンはね。もう、お嬢ちゃんとセックスがしたいだけなんだよ?」
    「不幸だったんですね」
    「え?」
    「だから、きっと神様が、プレゼントをくれたんです。病気は一時のもの。きっと治ります。きっと、きっと――」
    「…………」
     患者は何も言わなくなった。
     ただ気まずそうに、それでもセックスだけは楽しんだ。
    
    
         *
    
    
     
     オレの名前はソウ。モトラドだ。
     オレの乗り主の名はフォト。性別は女。年齢は十七。黒い髪は背中まで長い。
     例の寄生虫を除去する方法や、病気が出てきた原因が突き止められ、新聞でそのニュースを読んだフォトは、まるで我が幸せのように舞い上がっていたが、病院から帰ると暗くて悲しそうな顔をしていた。
    「あのおじいさん。亡くなったって……」
    「ああ、残念だな」
     オレにはそれしか言えなかった。
     フォトから聞いた死亡時刻と、新聞にある治療法の発表時期を見比べると、ちょうどあのジジイが死んだ翌日に、約一名の完治に成功している。そのタイミングなら、クソジジイを救うことも出来たはずだが、さては病院の連中……。
     あの白衣の男、あのジジイを嫌っている様子だったし、決してありえない話じゃない。
     しかし、あの勝手な爺さんが死んだところで、オレはちっとも悲しくない。
    「あと、一日早ければ……」
     だからオレは、余計に何も言えなかった。
     ただ、一言だけ言わせてもらおう。
    「フォト。お前は女神だよ」
    「ソウ。何言ってるの?」
    「いいや、やっぱり忘れてくれ」
     それ以外、あとは何も言わなかった。
    
    
    


  • フォトの診察と盗撮

    
    
    
     オレの名前はソウ。モトラドだ。
     小型車のトランクに積んで持ち運べるように設計された、ちょっと特殊なモトラドだ。もともと車体が小さいが、ハンドルやシートを折り畳むと、さらにコンパクトになる。まあ、速度は出ないけどな。
     オレの乗り主の名はフォト。性別は女。年齢は十七。黒い髪は背中まで長い。
     どうも風邪でも引いたらしい。フォトは今朝から、くしゅんと可愛いくしゃみを連発して、熱っぽいだるそうな表情を浮かべている。今日は寝ていた方がいいと思うのだが、そうオレが告げれば、仕事をサボるわけにはいかないと言い出すもんで、説得するのも一苦労だ。
     無理は禁物だ。無理をしたせいで体力が低下して、病気が長引いたり悪化すれば、仕事のパフォーマンスが落ちて、いい写真なんて撮れなくなっていくに決まっている。
     そんなことは考えるまでもないんだが、フォトのなかでは本当にサボりは悪ってものらしい。
     病人の無理がいかに危険で、仕事の効率が落ちたり、元も子もなくなることなのか。言葉を尽くして説明して、やっとわかってもらったことで、オレは病院へと出かけるフォトの背中を見送った。どうして医者に行かせるだけで、オレがこんなに疲れなければいけないのか。
     つっても、所詮は風邪だ。
     薬を飲んで一日寝れば、まあすぐに治るだろう。
    
    
     俺は旅人だ。決まった名前はない。
     ジョンだったり、マイケルだったり、ジョージだったり、気分によって色々名乗る。
     俺は色んな国を渡り歩いたが、なかにはパソコンや動画技術の発達したところもあった。ビデオカメラやデータ記録媒体の存在について知ったとき、一つの商売が頭をよぎり、俺はそれまで貯めた金を投資ってものに注ぎ込んだのだ。
     アダルト動画ってやつだ。
     女の映像を記録して、動画技術のある国へ行くたびに、焼き込んだデータを売り捌く。
     あまり旅先の運に賭けすぎると、科学技術のない国なんてザラにある。そんな国では動画なんぞに価値はないから、なるべく売れる国に通い詰めることになる。やがて俺は動画専門の旅商人のようになっていた。
     いつしか、俺はアダルトビデオの意を汲んで、AV売りの男と呼ばれるようになっていた。
     そして、今回の国では病院に目をつけた。
     そう、盗撮だ。
     医者に大金を渡して、撮影を頼んで女を撮る。マニアックな需要を狙って、診察のために服を脱ぐ女を映像に収めたい。
     協力者を増やすのは、神経を使うし勇気がいる。
     おたくの病院にうちのカメラを置かせて下さい。盗撮をさせて下さいなんて、まともな医師ならまず引き受けることはないだろうし、その場で通報される恐れもある。悪い話に乗ってくれるかどうかの見極めは大切だ。
     結論から言うと、いけると踏んだ。
     まずは何度か診察を受ける名目で医者に会い、旅先で変な病気にでもかかっていないか、検査をしてもらいつつ、なるべく世間話めいたものを振って観察する。結果として金が手に入るのなら何でもやる。悪くてセコい医者になる素質があるとわかったのだ。
     話を持ちかけると、医師はもちろん驚いたが、協力費として大金を見せびらかすと、目の色を変えてきた。
     これで交渉成立だ。
     あとは動画を手に入れて、編集して、売れる形にして売るだけだ。
    
    
     私はこの国の医師だ。金には目がない。
     大金を落としてくれる金持ちの病人には、なるべく長く入院して欲しいし、金にならない患者は切り捨てたい。まあ、そんな腹黒い考えが知れ渡れば、一応客商売である病院の評判にも響くわけだし、たまに思い出したように貧乏人の味方をしたり、他所の病院にでも客を取られないための工夫は欠かさない。
     そんな私の元に面白い話が来た。
     この病院にカメラを仕掛け、盗撮した映像を販売する。その協力費用として、私に大金を約束するという。
     迷いはあった。もしバレれば評判はガタ落ちだ。
     けれど、その旅人はプロの観点からカメラの仕掛け場所について詳しく語り、小型やペン型など色んな種類のカメラがあることも教えてくれた。バレにくいものを複数仕掛け、あらゆるアングルから撮影すれば、良い編集が出来て売れる作品になると力説した。
     私自身、スリルを楽しみたい気持ちがある。
     女の裸だなんて、医者をやっていれば見る機会はいくらでもある。そのたびに興奮して、いやらしい気持ちになっていたら仕事にならない。医療の現場にはそういう気持ちを持ち込まないのがプロの医師だが、どうしてもカメラは持ち込んでみたくなったのだ。
     実に口の上手い奴だった。
     悪いことに興味があり、犯罪めいたことをしてみたい。そんな心の素質を見抜き、悪魔のように忍び寄っては、興味を掻き立てる言葉の数々を囁いて、上手いこと私を乗せてしまった。
    
    
     僕はAVマニアだ。アダルト動画には目がない。
     パソコンや動画技術の発達しているこの国に生まれ、初めてその旅人と出会ってから、僕は何度もAVを見た。AVにはまった。今度のAVは医療羞恥というジャンルで、実際に病院にカメラを仕掛け、本物の映像を撮ってきたのだと豪語していた。
     しかし、僕に言わせればこれはヤラセだ。
    「フォトさん。どうぞー」
     パソコンを起動して、いざ動画を再生してみれば、白衣の医師がさっそくフォトと呼ばれる少女を招き入れ、風邪を引いたのだと打ち明ける。
     ここまでは普通だ。
     昨日は何を食べたとか、何時に寝た、熱はあったのか。問診で色々なことを聞き出すシーンは、僕が風邪を引いた時の対応と変わらない。つまり、実際に有り得ることだとわかる。ペンライトで口を照らして、喉の腫れを確かめる方法も、僕は体験したことがあった。
     ところが、次の瞬間だ。
    「では聴診を行いますので、上半身は裸になって下さい」
     馬鹿な。裸だと?
     聴診なんて下着の上からでも出来ると聞いたことがある。僕の友達だったか誰だったか、どこかでそう聞いたことがあるから間違いない。
    「え、脱ぐんですか?」
    「はい。その方が正確に音を聞けますから」
     こんなことで騙される女がいるものだろうか。
    「そうですよね。わかりました」
     おかしい。さすがにおかしいぞ。
     まあ、アングルは悪くない。
     シャツを掴んでたくし上げ、脱いでいく姿がありありと映っているのは見応えありで、顔の赤みが恥ずかしさのせいなのか、風邪の熱で染まっているのか、微妙にわかりにくいあたりも演技が細かい。
     だが、僕は思う。
     このフォトという少女は、十中八九AV女優だ。
     きっと、お金を出して雇った女を使っているのだ。
     何人も何人も、口説いて寝たり、見つけた女をレイプしたり、本物の映像を集めることには限界がある。病院だって盗撮カメラの設置を受け入れるわけがないだろう。しかし、合意済みの女性を用意して、撮影のためだといって場所だけを借りるなら、本物の診察映像を撮るよりも現実的だ。
     医者自身が出演して、いつもっぽく対応すれば、よりリアリティは増すだろう。
     そうでなければ……。
     ああ、ブラジャーまで外している!
     両腕を背中に回してホックを外し、緩んだ胸元からブラジャーがどかされると、瑞々しい乳房が画面中央に君臨する。
     僕は右手でアレを握りながら、食い入るようにおっぱいを見つめた。
     女優は可愛い。素直でいじらしくて、ひょっとして未成年か。
     医者とはいえ、おっぱいを出すだなんて恥ずかしいだろうに、せっかく病気を診てくれるんだから、我慢しなくちゃ! とでも思っていそうな、健気な表情が朱色に染まる。聴診器がぴたりと当たると、胸に男の指が近づくから、ちょっとだけ気にする素振りを見せて、嫌がったり文句を言ったら失礼だから我慢する。細かい演技がなっている。
     なんて演技力だ! 本当に女優を雇ったのか?
     フォトといったが、彼女の国にも映像撮影の技術があって、映画で主演をやったり、アイドル活動をしている女の子なのかもしれない。それくらい顔は可愛いし、演技力もあって、こんな優れた逸材をAVに使うだなんて、なんてイケナイことなんだ。
    「背中を向けて下さい」
    「はい」
     ああ、確かに実際の病院でも、背中側も聴診する。
     どうせヤラセのクセに、どうでもいいところで細かいな。深呼吸の指示までして、心臓や肺の音について、診断書にペンを走らせる。妙に医者がそれっぽいのは、きっと医師らしい振る舞いの演技にまで拘ったか、本物の医者をAVに雇うことに成功したかのどちらかだ。
    「ところで、病院に来たことはあまりないって言いましたね」
     ああ、さっきの問診では初診だとか言っていたな。
     どうでもいいけど。
    「はい。初めてです」
    「だったら、うちの病院では初診の患者さんのデータを詳しく取りたい。今回は風邪ということだけど、また別の病気にかかったときなんかに役に立つからね」
    「わかりました。どうすればいいんですか?」
    「ズボンを脱いで下さい」
    「ズボン……! わ、わかりました!」
     おい、脱ぐのかよ!
     脱いでと言われた途端に表情を変えて、まさに「え? どうして?」「そんな必要あるんですか?」と、疑問のありそうな顔を少しはしたくせに、一瞬だけ浮かんだ顔つきなんて、まるで嘘だったみたいに、素直で大きな返事までして、さっそくベルトを外し始める。
     ジーパンを脱ぐシーンは複数のアングルから取られていた。
     まずは壁の高い位置にカメラを仕掛け、斜め上から見下ろすような構図で、腰をくの字にして脱ぐ。
     脱ぎ終わったと思えば、脱ぐ直前に戻って別アングルだ。
     立派な編集センスというわけだろう。
     次のアングルでは正面から、ジーパンのチャックが下りることにより、ショーツのクロッチ部分が見えてくる。
     また次のアングルは後ろからで、ズボン類を脱ぐ際の動きでは、腰がくの字になるわけだから、画面に向かってお尻が迫る。アップになると迫力のあるジーパン尻から、ずるりとジーパンが下がってショーツ尻へと変化する。
     そして、ショーツ一枚だけの女優がそこにはいた。
     心もとない格好にさせられて、困ったような恥ずかしそうな顔をして、腕で胸を隠すようで隠さない。恥ずかしいから隠したいけど、診察の妨げになっては迷惑かな、なんていう気持ちまでもが、そのちょっとした仕草から見え隠れする。
     文句無しの名演技だね。
     まあ、ちょっと過剰すぎる部分もあるけど。おっぱいは形が可愛いし、スタイルも良くて脚のラインも整っている。
    「じゃあ座って?」
    「はい」
     脱がせておいて座らせるのか。
    「えーっと、自慰行為の経験は?」
    「自慰行為って、なんでしょうか」
     おいおい、フォトさん。いくらなんでもあざといよ。自慰行為を知らない年頃の女の子がいるものかね。
    「つまり、オナニー。マスターベーション。自分で自分のアソコを触って、性的に気持ちよくなるということだが」
     医師も馬鹿真面目に解説する。
    「……あ、あります」
     ものすごーく小さな声で、今まで以上に顔を赤くして女優は答えた。
    「ある? なるほどねぇ」
     そして、医師は真面目な顔で診断用紙にそれを書き込む。
     婦人科で性交経験の有無を知らせる必要があるっていうのは、どこだったかの知識で知っているけど、オナニー経験だって? 馬鹿じゃないのか。必要なわけないだろう。全くヤラセも甚だしい。
     オナニーだけでも馬鹿馬鹿しいのに、やれ初潮だの、陰毛の生え始めた時期だの、胸が大きくなり始めた時期まで尋ねて、もう何が何だかわからない。僕に知識がないだけで、そういう情報も本当は必要なのか?
     だけどフォトは評価するね。
     オナニーという言葉さえ知らずに、純粋無垢で素直な子という演技をやり抜き、恥じらうべきところでは、いちいち恥ずかしそうな仕草をしたり、顔の赤みが変化したり、俯く頭の角度を変えていたり、本当の本当に細かい。
     だから、初潮の年齢を答えるのも、胸の膨らみや陰毛の時期を答えるのも、どれもこれもがいちいち可愛い。
     人が演技のために涙を流せることは知っているが、もしかして一流は、自分の赤面具合でさえもコントロールできるのか?
     何よりも凄いのは、このフォトという少女は、この意味不明な医師の言葉を全て頭から信じきっているに違いないと、思わず錯覚させてしまう部分にある。
     だって、さすがにおかしいじゃないか。
     問診なんて最初に済ませるべきだし、脱がせてからやる理由がない。わざわざショーツ一枚にさせてから、裸で恥ずかしい受け答えをさせるだなんで、羞恥を煽るための演出意図はわかるのだが、本物の診察映像を謡う割にはリアリティに欠けている。
     ま、リアルすぎたらやることが少ないだろうし、仕方ないっちゃ仕方ないか。
    
    
     フォトは思った。自分は試されているのだ。
     病気を見つけるのはとても大変なことで、立派なお医者さんでなければ難しい。そのお医者さんですら、本当に完璧なわけではない。だからデータは必要だし、早く病気を治したければ脱ぐしかなかった。
     上半身裸と言われたときは、恥ずかしくて嫌だなと思ったが、ここで言うことを聞けないようでは、きっと診察を受ける資格はない。
     フォトは恥ずかしさを我慢して、上半身裸になった。
     ジーパンを脱げと言われたときも、恥ずかしくて嫌だと思ったが、ここで言うことを聞けないようでは、お医者さんを困らせてしまう。
     フォトは恥ずかしさを我慢して、ショーツ一枚だけの格好になった。
     嘘をつくのは悪いことだ。だからオナニーをしたことも、初潮も陰毛の時期も、聞かれたことには全て答えた。
    「身長を測りたいと思います。そこで背筋を伸ばして両足も揃えて下さいね」
     身長計に乗ると、お腹の上に手を浮かれた。
     セクハラだろうかと、ほんの少しだけ思ったが、フォトは自分の考えを振り払った。
     人を疑うのは悪だ。自分で病院にやって来て、せっかく体を診てもらっているのに、そんな気持ちを抱くのは失礼なことだ。セクハラだと思ってはいけない。疑ってはいけない。きっと正確に測りたいから、手で押さえてくれているだけなのだ。
     フォトはきちんと両手を下ろし、背筋を伸ばし、両足を揃えて顎を引く。
     お腹に置かれた医師の手が、だんだん乳房に近づいて、微妙に下から持ち上げても、フォトは絶対に気にしなかった。
    「体重を測るから、体重計に乗って下さいね」
    「わかりました」
     すると、尻に手を置かれた。
     挨拶をしたり、誰かを励ましたり、声をかけるとき、相手の肩をポンと叩くことがある。それと同じだ。微妙に指に力が入り、揉むように動いたり、撫で回しても、フォトは絶対に気にしなかった。
    「触診するから、もう一度座って下さいね」
     胸を揉まれても、フォトは医師を信じ続けた。
     丹念に指を動かして、乳首への刺激が行われても、指先で乳輪をぐるぐるとなぞったり、摘むようなことをされても、フォトはそれをおかしいことだとは思わない。きちんと我慢しなければ相手に悪いということばかりを考えていた。
     けれども、さすがに辛かった。
    「アソコを見るから、横になって下さいね」
     診察台で仰向けになり、脚をM字のように開く姿勢だなんて恥ずかしい。
     けれど、きっと必要なことなのだ。
     フォトは医師の言葉を信じて、くぱっと中身が開かれてしまうことにも、サーモンピンクの肉ヒダをまじまじと観察されてしまうことにも、一生懸命耐えていた。
     
     
     俺が動画編集の際に迷ったことは色々ある。
     どのアングルからのシーンを、何分何秒ほど収録するか。それとも画面を分割して、二箇所同時に加えてみるか。迷いに迷って編集を進めていた。
     座薬を挿入する部分もそうだ。
     俺のパソコン画面には、お尻がでかでかと丸映しとなっている。
     当然、フォトの尻だ。
     四つん這いの体勢で腰を高く掲げれば、割れ目の中身も見えるから、画面中央にはちょうど放射状の皺の集まりが映っている。薄っすらとしたチョコレート色のヒクつきへと、医療用のビニール手袋を嵌めた指が近づき、そこへ座薬を挿入する。
     突き立てて、指でねじ込み、指の腹が肛門をぐにっと押すまでなると、医師はそのままマッサージでも施すように肛門を弄り倒す。
     この肛門に薬が入り込むシーンは必須だが、となると表情も必須だろうか。
     複数のカメラを仕掛けたわけだから、四つん這いの顔の部分の動画もある。そこには真っ赤に染まり上がった顔があり、この世で最も恥ずかしそうにしている勢いの表情が、実によく撮れていてたまらない。
     いい、実にいい。
     やはり、ここは収録するべきか。
     だとしたら、他のシーンは――
     
     
    「ただいまー」
     フォトは病院から帰ってきた。
    「おう。おかえり、どうだった」
    「お薬を入れてもらって……」
     妙だな。家を出たときよりも、さらに顔が真っ赤じゃないか。
    「入れてもらった?」
    「な、なんでもないよ! ものすごーく熱心に調べてくれて、いいお医者さんだったと思う!」
    「……そうか」
     そんなに声を荒げるからには、よっぽど良い医者だったんだろうが、どこか必死に言い訳をしているような慌てっぷりが気にかかる。
    「とにかく、治ると思うから!」
    「ちゃんと布団かけて寝ろよ? 悪化させるな?」
    「わかってるって、じゃあ寝るから!」
     フォトは逃げるような小走りで、部屋の奥まで行ってしまった。
     一体どうした。
     様子がおかしいことは間違いないが、病院で何かあったか? あったとしたら、一体何があるっていうんだ?
     しかし、翌朝になるとフォトは元気を取り戻した。
     きちんと熱を計らせたが、元が風邪だし、病院まで行って長引く理由もない。
     おかげで仕事も再開できるんだから、まあ良かったってことにしておこう。
     結局、様子がおかしかった理由を知る機会なんて、オレにはなかった。
    
    
    


  • スパイ容疑 フォトの身体検査

    
    
    
    
     *第二十巻「夫婦の話」のあと
    
    
         ***
    
    
     オレの名前はソウ。モトラドだ。
     小型車のトランクに積んで持ち運べるように設計された、ちょっと特殊なモトラドだ。もともと車体が小さいが、ハンドルやシートを折り畳むと、さらにコンパクトになる。まあ、速度は出ないけどな。
     オレの乗り主の名はフォト。性別は女。年齢は十七。黒い髪は背中まで長い。
     つい先日、とある夫婦からの仕事を引き受けた。記念写真が欲しいらしかったが、カラー写真の現像が終わる前に、夫の方は亡くなってしまった。依頼主が亡くなるだけでも驚きなのに、実は夫はスパイだったとかで警察が捜査にやって来た。
     そして、奥さんまでもがスパイだった。お互いがお互いに、スパイだと気づかないまま社会的身分を保つために結婚して、スパイ同士で夫婦生活を営んでいたのだ。
     さて、大事なのはここからだ。
     奥さんが逃亡したあと、フォトの鞄からいつの間にか、試し撮りした白黒写真だけがなくなっていた。代わりに鞄のポケットには、何故か大金入りの封筒が入っていた。わざわざ説明するのも野暮な話だが、まあ何だかんだで記念写真は欲しかったのだろう。
     この先が問題だ。
     そう、捜査は終わったはずだった。
     何もかも、めでたしめでたし。
     良い話だったなーと、締め括られたはずだったのに、どういうわけかフォトの体に、再び捜査の魔の手が伸びてきたのだ。
    
    
     あれから、数日後のことだ。
    「フォトさん。ちょっとお話いいでしょうか」
     店の前に一台の車が止まり、チャイムが鳴らされ、フォトが玄関を開けると偉そうな警察がずかずかと踏み込んできた。
     背後に二人。若い部下を引き連れた偉そうな警察は、顔立ちが醜いので醜男とでもしておこうか。
     こいつらは普通の警察ではない。もっとヤバイ連中だ。
     巨大な犯罪や、重大な事件――、それこそ、国家を揺るがすような事件を取り扱う連中。この国ではなんと呼ばれているかは知らないが、いわゆる公安警察だ。
    「あなたから奥さんのもとへ、何かが渡っていることが判明しました」
     白黒写真がバレたわけではないのか?
     いや、もしかしたら、わかっているが余計な真実は伏せているのかもしれない。
     ――え、あの写真が?
     なんて、うっかり口にしようものなら、
     ――おかしいですね。写真、とは一言も言ってはいませんが。
     といった具合だろう。
    「ええっと、ですね。あなたがスパイと断定されたわけではありません。あくまでも容疑の段階ですが、つきましては――」
     醜男はつらつらと用件を述べる。
     つまりはこうだ。
     フォトから奥さんへと、『何か』が渡ったことが判明したので、実はフォトもスパイで、グルだったのではという疑いがかかっている。我々はあなたを疑っていますと、わざわざ伝えに来るなんて、どうぞ警戒して下さいというようなものだ。もしも本当にフォトがスパイで、しかも今から逮捕されるわけでも、軟禁されるわけですらないのなら、逃亡の猶予が出来るというわけだ。
     まあ、本当に逃げるかどうか試そうって腹なのだろうが。
     さらに話を聞いてみれば、どうもそういう目論みではなさそうだった。
    「疑いがかかっているわけですが、確認さえ済めば容疑が晴れるか、もしくは確定します」
     まとめるとこうだった。
     逃げた奥さんを追って情報収集をしていると、この国には過去にもスパイがいたことが明らかとなり、その特徴はフォトとよく似た容姿の少女だったとか。一度は捕らえて、身体検査によって隅々まで調べたが、どうも逃げられてしまったらしい。
     そして、見た目の特徴が似ているフォトがここにいる。
     そりゃあ、調べないわけにはいかない。
     服を脱がせて、以前捕らえた過去のスパイと同じ特徴はないか。つまり、同じ場所にホクロがあったり、そういったことを誤魔化すための整形手術の痕跡があればアウトってわけだ。
     フォトの生い立ちから考えれば、どこにもスパイをやる暇なんざない。
     別に逮捕とはならないだろうが、容疑を晴らす方法が問題だ。
     身体検査。
     全裸にして、隅々まで観察して、穴の奥まで特徴を確かめる。恥じらいある乙女ってものをある意味では殺しにかかっている。
    「おい。違法じゃないのか?」
     と、オレは言った。
    「裁判所から既に令状も出ています」
     ってことは、無理に逆らえばこっちが違法扱いか。
    「わかりました! その検査。受けます!」
     おい、いいのか?
     もちろん、良くないとは言っても、令状には逆らえないが。
    「どうぞ調べて下さい。自分の無実を証明したいです!」
     なんて馬鹿正直な。
     フォトの生まれた国では、『人類皆仲良し』とか、『愛は世界を救う』とか、現実離れした用地な戒律がたくさんあって、おおむね皆がそれを信じていた。
     だからフォトも、真面目に人を神事、人を疑わず、人を騙さず、人を傷つけず、全ての隣人を愛していれば、素敵な人生になるとしんじていたのだ。
     他意のない誠実な身体検査だと信じているのだろう。
     そりゃ、公安のやることだ。屑が素直な人間を騙して、いいようにしてやろうとしているわけではないが、もしも女の裸を見たいだけの屑が公安の中にいたとしても、フォトはその人を信用してしまうだろう。
    
    
     フォトが連れていかれた施設の部屋は、シミ一つない真っ白な壁に床に天井が広がって、いるだけでぼーっと心が病みそうだ。
    「では身体検査を開始します」
     醜男が言う。
    「はい!」
     フォトは素直に返事をしている。
    「ここで全裸になって下さい」
    「わかりました」
     茶色のチノパンに、薄手のセーターを、フォトは何の疑いもなく、だけど恥ずかしそうに脱ぎ始めた。
     醜男以外にいるのは、検査に関わる白衣の男が数人だ。
     醜男はここに立ち会うだけで、女の裸を医学的な意味で観察できるのは、白衣の男達だけなのだろう。
     セーターを脱ぐと、ブラジャー付きの上半身が現れる。チノパンを脱げば、白いショーツの尻が現れる。
    「いひ」
     醜男の奴、嬉しそうに顔色を変えやがった。
    「…………」
    「…………」
     対して白衣の連中は、実に事務的な真面目人間の表情で、フォトの裸を見ても欠片も興奮していない。
     ブラジャーを外して乳房を出すと、パンツ一枚の格好に。
     パンツも脱ぐと、いよいよ一糸纏わぬ姿だ。
     せめて大事な部分は手で隠していたいのが人情だろうに、フォトはバカ正直な気をつけの姿勢で全てを晒している。胸は丸見え、アソコの毛まで見られ放題。白衣どもは真面目だが、醜男の顔つきは、だんだんと言い訳の聞かないいやらしさになっていた。
    「うーむ。いいオッパイだ」
     ぐっと顔を近づけて、醜男はフォトの乳房を品評する。
     隠す気もないとは恐れいるが、フォトもフォトで、それが職務上の必要行為だとでも信じているのか。顔を真っ赤に染め上げて、恥ずかしいのも我慢しながら、どうぞご覧下さいとばかりに背中を反らし、胸を突き出している有様だ。
     どうしたものかとオレは迷ったが、醜男の下心など知らない方が幸せだろうか。
     しかし、こんな奴が公安警察で権力を持っているなんて、スパイが紛れ込んでいるよりも恐ろしい真実じゃないか?
     ポチっと。
     ボタンでも押すみたいに、醜男は人差し指をフォトの乳首に押し込んだ。
    「……ん」
     何やら我慢の声を漏らしたフォトは、醜男のご立派な職務行為を真摯に受け入れ、好きなように乳首を触らせている。
    「さて、調べろ」
     権限は醜男にあるわけだ。
     指示が出てから、初めて白衣の男達は動き出し、今度こそ『仕事』のためにフォトの裸を観察する。ほとんど点検だ。機械整備の人間がメンテナンスを行ったり、出荷前の商品チェックで破損がないかを確かめたり、そういう光景と変わらない。
     いたるところを触られていた。
     うなじに指を当て、肩の肉を掴み、背中を撫で回す。あらゆる部位に顔を近づけ、至近距離から観察する。
    「ホクロの一致は」
     その隣で一人だけ、書類を片手に突っ立っている男がいた。
    「背中、腕、いずれも一致無し」
    「手術の痕跡無し」
     検査を行う面子がそう言うと、そいつは書面にペンを走らせた。
    「乳房を確認します」
     そう言って、白衣の一人が両胸を鷲掴みにして揉みしだいた。
     実によーく確かめていやがる。細やかな指使いで、もっとじっくりいくかと思えば、用など一瞬で済んだとばかりに、すぐに揉むのをやめてしまった。
    「どうですか」
    「豊胸などによる胸ではありません」
    「触感の一致は」
    「書面にあったスパイの乳房の感触と酷似して、もっちりとした弾力にあたるものの、乳首の色合いが異なります」
    「では脚をお願いします」
    「了解」
     どれだけ事務的なやり取りだ。
     それはそれで嫌なものだと思うのだが、フォトは真面目な顔であり続けている。この光景を眺める醜男だけが、楽しいものを見て喜ぶ表情でおいでなわけだ。
     太もも、膝、ふくらはぎ、足の甲から裏側まで、くまなく観察と触診を行うが、スパイとのホクロやアザの一致とやらはいずれも無し。
     しかし、どこまでフォトは正直なんだ。
     だんだんと、体全体が硬直して、表情も見るからにこわばって、まるで痙攣してるみたいに震え始めた。顔の染まりっぷりも、いつの間にか耳まで及んで、もうジュワっと顔から蒸気が噴き出ておかしくない勢いだ。
     それでも、フォトは素直に耐えている。
     真っ直ぐに姿勢を保って、検査を妨げないように背筋もピンと伸ばしている。恥ずかしがったり、手で隠したり、身じろぎすれば、検査がやりにくいはずだと思っているからだ。
    「下腹部に移ります。自分の足首を掴んで下さい」
     本当に配慮がないな。
     フォトがどんな気持ちかわかっているのか。ひょっとして、こいつらは本当に商品か何かの点検と同じつもりでやってるのか。真面目さが勢い余って、恥じらいだとか、人の尊厳といったものを忘れてはいないか。
     しかも、ポーズもまずい。
     全裸の女が自分の足首を掴むってことは、体を前屈状態に折り畳んで、丸出しの尻を高らかに掲げることになってしまう。
    「わかりました」
     言うまでもなく、フォトは素直に従うだけだ。
     尻の割れ目が左右に開ける姿勢だから、フォトの肛門が視線に曝け出されている。醜男はわざわざポジションを移動して、好みのアングルから眺め始める。
    「肛門の皺の数は」
     書類片手の男が尋ねる。
    「確認します」
     と、白衣の一人が尻の穴に顔を接近させた。
     さすがにフォトもやばいだろう。
     あれだけ至近距離に顔があったら、呼吸の息もかかってくるし、じっくりと観察してくる視線の気配も如実に違いない。
     一本、二本などと声に出し、本数をカウントして数えている。
    「本数不一致。色合いも一致しません」
     カウントした本数に対して、書類持ちの男はデータを確認しながら答えた。
    「性器を開きます」
    「サーモンピンクと一致しますか」
    「一致しますが、膣口の形状が異なります」
    「スパイの膣口は数センチ程度の極小の穴でしたが、サイズが違うと」
    「はい。それよりは広く、指が二本以上入ると思われます」
    「了解した」
     とはいえ、これで終わったか?
     顔の目や鼻から始まって、手足の指の一本ずつから、穴の中まで確かめたんだ。しかも不一致が多いのなら、もう十分なはずだろう。
     オレはそう思ったが、
    「待て」
     醜男が余計な思いつきを顔に浮かべた。
    「私がそれを確かめよう」
     なんと、醜男の奴。
     本当に指が二本以上入るかどうか。確かめるために挿入しやがった。
    「んくぅ……!」
     準備無しでの挿入だ。
     フォトは苦しそうな声を上げた。
    「なるほど、まずは一本目」
     醜男はご丁寧に左手を尻に置き、丹念に撫で回しながら、右手の中指を出し入れする。それが済んだら一度引き抜き、人差し指と中指を同時に挿れ、ピストンを行いやがった。
    「あっ、くぅ……!」
     畜生、フォトが嫌がっている。
     もう耐えることはないんだぞ?
     もう我慢しなくていいんだぞ?
    「ほうほう。これはいけない穴ですなぁ?」
     ほれみろ、醜男は下心を隠してもいない。
    「ま、まだ……私の無実は……」
    「ああ、もうちょっとで晴れるよ」
    「あっ、あぁ……ありがとう……ございます……んんぅ……!」
     ありがとうじゃないだろう。
     そいつがやっているのは、もうただの手マンじゃないか。尻をナデナデと可愛がっていやがる左手の動きも、おかしいとは思わないのか。
    「おい!」
     たまらずオレは声を上げた。
    「なんだね?」
    「何もかも不一致。指も入った。別人だってわかっただろう」
    「ま、それもそうだ」
     醜男は不満そうに切り上げて、フォトの膣内から指を抜く。
    「おめでとう。これで君の無実は晴れたよ」
     何がおめでとうだ。
     最後まで偉そうなやつめ。
    「よかった。私、スパイじゃないって!」
     そんなこと、オレは初めからわかっているが。
     最後までフォトは誰一人疑わず、本当に容疑が晴れたことを喜ぶ顔で、この場所から去ることとなったのだ。
     ったく、なんであんな男が公安に?
     この前の連中は、もう少し良心的だったはずなんだが。
     案外、あいつもスパイか?
     というより、組織を内側から腐らせるガンかもしれないな。本当に味方な分だけタチが悪い。いっそ敵か何かの方がマシだろう。
    
    
    


  • 強すぎる男がいた話(キノレイプ)

    
    
    
     そのテントの中で夜。
     キノは全裸でシーツに寝そべり、男の両手で体中をまさぐられていた。
     指先が触れるか触れないかのフェザータッチで、腰や腹を撫で回し、男はほとんど平べったい乳房を揉む。だいぶ控えめな膨らみなので、べったりと這わせるように包み込み、手の平全体に強弱をつける揉み方をしていた。
    「アンタも筋は悪くなかった。その腕なら、そこらの野党にも山賊にも、なんなら軍人にだって負けることはないんじゃないか?」
    「それはどうも」
     キノは淡々とした口調だが、頬は赤く染まっている。胸を揉まれることで身をよじり、少しだけ表情を歪めていた。
    「どうだい? 俺の女にならないか」
    「できれば、遠慮したいです」
     キノは男の誘いをきっぱり断る。
    「ま、無理にとは言わないけどな。今夜は相手をしてもらうぜ?」
     男は特に残念がることはなく、ただ目の前の裸に夢中になった。胸を散々に揉みしだいたあげく乳首をつまみ、指先で転がすように苛め抜く。キノはその刺激に息を荒げ、だんだんと淫らな吐息を吐き始めていた。
    「でもよかったじゃない」
     モトラドが喋る。
    「よくないよ。エルメス」
    「だって、普通は殺されてるよ? それを殺さずに、用が済んだらお金も食料も奪わないで逃がしてくれるっていうんだから、こんな親切な襲撃者は探しても見つからない」
    「親切どころか。辱めを受けているんだけど……」
     キノは諦めきっていた。
     それほどまでに男が強かった上、勝ち目のない相手の口から、用が済んだら逃がしてやると言ってきたのだ。命あっての物種で、そうそう死にたいとも思わないキノは、非常に仕方なく男と一晩を共にすることとなったのだ。
    「しっかし、強かったよな? お前さん」
    「あなたこそ。最初に後ろに立たれていたのに、気配に全く気づきませんでした」
     乳首で感じながらキノは言う。
    「俺だって素人じゃないからな」
    「あなたが射程距離に入った時は、さすがにすぐに抜いたはずなんですが、ボクが撃つより先に、ボクのパースエイダーが手から弾き飛ばされていました」
     キノが口にするのは何時間も前の出来事だ。
    「アンタは十分早かったよ」
    「そうですか?」
    「俺はガンマン同士が争う国に行ったことがあるんだが、そこの早抜きチャンピオンは目にも止まらぬ速さでリボルバーを抜き、一瞬にして相手を打ち抜く。これがまあ本当に早かったわけなんだが、アンタはそのチャンピオンの二倍か三倍くらいは強い。俺はさらにその上を行く早さだったわけだがな」
    「うん! キノより速い人なんて初めてみた!」
    「――んふっ――んっ、あぁぁ…………」
    「キノのこんな声も初めて聞いた!」
    「えっ、えるめす……あまり聞かないで……んん……!」
     男の巧みな指技で、キノの乳首は硬く突起している。それをつまんだり弾いたり、転がすようにしてくるので、キノはすっかり感じていた。
    「しっかし、ナイフ型の銃が出てきた時は驚いた」
    「んふぁ……! あっ、うん……弾をかわされたボクの方が……驚きましたが……」
    「ひょっとして、前にも服を脱がされたことがあるのか? よかったら聞かせてくれ」
    「そうですね。前に奴隷商人に騙されて、パースエイダーを突きつけられました。武器を捨てる要求をされたので、そのために何枚かの服を脱いで、途中で弾入りのナイフで撃ってその時はしのぎました」
    「俺と同じだな。まあ、俺は弾に気づいて避けたんだが」
    「あれは……。驚きました」
    「そうか?」
    「あなたが奴隷商人じゃないことは不幸中の幸いです。少し、我慢するだけですから――――んんっ――んぁ…………」
     キノは軽く髪を振り乱した。
    「感じてきたか?」
    「そういうわけでは……」
    「ははーん。こういう経験は初めてだな?」
     男が勝ち誇ったように言うと、
    「…………はい」
     キノは目を伏せながら頷いた。
    「キスも、デートも、何もか?」
    「……何も、です」
    「そいつはいい。ファーストキスはもらうぜ?」
    「……どうぞ」
     キノは悔しそうに答えた。
     男は両手でキノの顔を掴んで、自分の方を向かせてから、遠慮なく唇を重ねる。最初は押し付けるだけのキスだったが、男が舌を差し込もうとしてくるので、キノは仕方なく口を開いて受け入れる。
    「んっ、んちゅっ、くちゅ――――」
     舌を絡め合うような激しいキスを行う。男が顔を引き離すと、二人の舌先のあいだからは、細い唾液の糸が引いていた。
     男は下の方へ手をやって、秘所の愛撫を開始する。
    「――――――あふぅっ!」
     キノは喘いだ。
    「どうだい?」
     男は上下にワレメを撫で、突起したクリトリスを刺激する。そのたびに声を上げ、髪を振り乱すキノを見て、男はだんだん楽しくなっていた。
    「――んっ、んふぁっ」
     中指を挿入して出し入れすると、キノの膣口からは愛液が流れてくる。
    
     くちゅっ、くちゅっ、くちゅっ――。
    
     初めは一本の指だけのピストン運動。
     しばらく慣らして、男は人差し指と中指を束ねた二本を挿入する。その出し入れにキノはよがって、喘ぎ声を漏らし続けた。
    「あっ、あふぁ――ううっ、うぁぁ――はふぁぁっ、んあっ、あんっ――――」
    「気持ち良くなったか?」
     男は勝ち誇った笑みを浮かべる。
    「そんなことは……」
     キノはその表情から目を背けた。
    「もうチンコ入れてもいいか?」
    「……嫌ですけど」
    「拒否権はない」
    「それは残念です」
     男はキノの膣内に肉棒を挿入する。初めて受け入れたキノは、破瓜の痛みで顔を歪めて、脂汗をかきながら首でよがった。
    「どうだ?」
     根元まで沈めた男は尋ねる。
    「痛いです」
     キノはきっぱりと答えた。
    「あーあ、キノの処女が……」
    「初めてなら、まあ仕方がないか。我慢してくれ」
     そう言って、男は腰を動かし始めた。
    
     じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ――。
    
     ピストン運動で水音が鳴る。
    「んっ、んんぅ…………」
     キノは自分の人差し指を折り曲げて、口に咥え、それを噛みながら堪えている。ギュッと締め付けるような刺激が、男にとっては快感で、男はじっくりと堪能していた。
    「いい具合だ。これだから強い女は飽きないんだ」
    「――あっ、あぁ……あなたは……いつもこういうことを?」
     喘ぎながらキノは尋ねた。
    「ああ、俺は強い女とするのが好きだ。普通の女の子を口説いたり、親睦を深めて、お互いに愛情を育てていくより、戦う強い女を倒してものにする方が俺の趣味でね。手に入れた、征服したという達成感が一層強くなる」
    「へえ! すごい趣味だ!」
     男が語ると、エルメスが感嘆の声を上げた。
    「でも、ことが済んだら逃がすと言いましたよね」
    「ああ、言ったとも」
    「レイプされた恨みを晴らすため、ボクはあなたを追いかけて、なんとしても殺そうとするかもしれません」
    「そうそう! もしかしたら、キノが今の百倍強くなって、怒りのあまりめちゃくちゃ残酷に殺しちゃうかもよ!」
    「ところが、それこそが狙いなんだ」
    「つ、っあぁ……つまり……?」
     こうしているあいだにも、キノの膣内に肉棒は出入りして、初めての痛みにとても顔を顰めている。男は気持ち良さそうに微笑んでいる。勝者と敗者の図式がそこにはあった。
    「つまりだ。強くて、戦うことが出来て、しかも器量の良い女っていうのは、普通に探して見つかるもんでもない。レア中のレアだ。そう簡単に逃す手はないだろう?」
    「そうですね」
    「だから、勿体ないから殺しはしない。レア度の高い女を減らさない意味もあるし、中にはいつまでも恨みを抱えて、その手で俺を殺しにくる奴もいるはずだ。そうなったら、コッチのもので、もう一度そいつに買ってレイプする。悔しくてまた挑んでくる。レイプするっていう繰り返しさ」
    「それは……あぁ……! うまく、いっているのですか?」
    「上手くいったこともあるし、いかなかったこともある。なんたって、強いわけだから、こっちだって油断できない。しかも楽しむためには、体に余計な傷を残すのもまずい。対して向こうは俺をどんな風に殺しても構わないわけだから、不利ってもんじゃないよな」
    「そこまでするぅ?」
     と、エルメスは尋ねる。
    「当たり前だろ? 男っていうのはそういうもんだ。エロいことには命を賭ける。俺はそのために必死になって腕を磨いて、修羅場も潜った。人生最初にヤろうとした女は、この手で間違えて殺してしまった。二人目の女は怪我をさせちまって、血まみれの体ではとてもでないが勃つもんが勃たなかった。三人目からやっと願いは叶ったが、四人目がまた失敗。そうやって繰り返すうちに、やっとの思いで上手くヤれるようになってきた」
    「上手い! 上手く戦った意味の『やれる』と、違う意味の『ヤれる』がかかっている!」
    「エルメス。それは褒めなくていい……」
     キノはピストン運動によって揺らされている。
    「ま、そういうわけで、今回はキノさんとセックスできた」
    「大成功ってわけだね!」
    「というわけで、五回は抜かせてもらう」
    「うわー。大変だ。それでさ。どうしてそんな性癖になっちゃったのさ」
     もう、男と応対しているのはエルメスだけだ。
     肉棒の出入りが激しくなり、やがて快感もこみ上げて、乱れに乱れたキノには受け答えの余裕がない。
    「――あぁ! あん! あっ、あふぁ! あ! はぁん!」
     キノらしからぬ声を上げているばかりである。
    「小さい頃、すげー強い女を見た。町を襲った盗賊がいてな。町長が大金叩いて雇った凄腕なんだが、やたらハンサムな男と一緒にいたそいつは、俺の度肝を抜いちまった。俺は将来、こんな女とヤりたいと思うようになっていた。気がついたら今の性癖さ」
    「へえ、それってもしかして……」
    「なんだ? 知ってるのか?」
    「いや、知らなーい!」
     この日、二人の性向は朝まで続いた。
    
    
    「やっと終わったね。キノ」
    「あぁ……腰が痛い……股が痛い……休む……」
    「で、どうするの? 復讐する?」
    「しない。二度と会いたくない」
    「ま、その方がレイプ魔の目論見を満たさなくて済むものね」
    
    
    
    


  • 宝探しのあとで(弟子×師匠)

    
    
    
    
     *二十巻「宝探しの話」より
    
    
    
     荒野の一本道を、一台の車が走っていました。
     温かい晴れやかな空の下に広がるのは、人の大きさほどの岩が転がるだけの不毛な大地でしたが、進めば進むほど緑の気配が芽吹いています。遠くには森まで見えてきました。寒い寒い地域を抜け、だんだんと植物の育つ場所まで来ている証拠です。
    「いやー。しかしまだまだ右腕が痛む」
     運転席でハンドルを握るハンサムな男が、わざとらしく言いました。
    「根に持っているのですか」
     助手席には妙齢の女性がいます。
    「まさか。別に気にしちゃいませんけど、なんせ右腕ですからね。右腕!」
     男はやけに右腕であることを強調します。
    「右腕だと何が困るのです?」
    「だって右ですよ? 右」
    「あなたは左利きではありませんか」
    「それはそうなんですけどねぇ」
     長袖の服の上からではわかりませんが、男の右肘の先のあたりは横一文字にすっぱりと断ち切られています。袖を捲くれば、巻いてある包帯がすっかり赤く染まっているのがわかるはずです。
     そして、それをやったのは彼女なのです。
     かくかくしかじか、訳あって女性は、男の右腕に切り傷をつけたのですが、悪びれたり申し訳なさそうな顔をするでもなく、とても涼しい表情で窓から風を浴びています。
    「そもそも、あなたは私に何を求めているんです?」
    「いえね。せっかくの二人旅ですから、何とか誘ってみようと思ったんですが、殺されそうなんでやめておきましょう」
    「なるほど、そういう話ですか」
    「はい。そういう話でした」
     少しのあいだ沈黙しました。
     要するに性交渉を仕掛けようとしたわけですから、二人の仲は微妙に気まずくなります。このところ一人で抜くことをしていなかったので、溜まってしまって、ついつい女性にそういう話を求めてしまいましたが、こんな空気になってしまったので男は内心後悔します。
    「ところで、あの国に行く前に私が言ったことを覚えていますか?」
     しかし、女性が沈黙を破ります。
    「ええ。確か『あなたが運転手意外にも使えるということを、そろそろ証明してみなさい』でしたよね」
     男は女性の喋り方を真似ました。
    「もし駄目だったら、帰り道は私が一人で運転をすることになるとも言いました」
    「そうでしたね。置いていかれなくて良かったですよ」
    「使える以上は労いも必要でしょうか」
     女性は窓の向こうの景色を見ながら、男と目を合わせることをしないまま淡々と言いました。
    「つまり?」
    「つまりどういうことかは、あなたの出方しだいになりますが、一緒にはやっていけない男性はどこかに置いていくことになるでしょう」
    「ところで、この辺で休憩しても構いませんかね?」
    「ええ、どうぞ」
     車を止めた男は、少しばかり女性の顔色を伺いました。
    「……」
     女性は静かに目を瞑り、ただ何かが来るのを待ってばかりいる様子です。
    「何もないのですか?」
     静かな時間が長いので、再び女性が沈黙を破ります。
    「何もありますよ。色々と」
     男は女性の正面に移動して、女性の体を触り始めます。
     車内の限られたスペースで身動きを取っているので、微妙に狭くて動きにくいのが難点ですが、男はドキドキワクワクとまさぐって、太ももを撫で回し、シャツ越しの胸を揉みしだいていきました。
     とても触り方が上手です。
     女性の息がフーフーと荒くなり、いつものクールな女性らしからぬ頬の赤さで、だんだんと瞳もとろけていきます。熱っぽい視線を浮かべて、柄にもなく発情した乙女そのものです。
    「あ……!」
     手首を掴んで股間の元へ導くと、女性は少し驚いた表情になりました。
     しかし、静かに目を細めて、ズボン越しの膨らみを撫でたり揉んだり、肉棒の硬さをよく確かめました。
    「初めてですか? 師匠」
    「……あなたには教えません」
     ぷいっと、女性は顔を背けました。
    「おや、師匠が可愛い」
    「車を降りたいですか?」
    「冗談です。死ぬほど光栄で幸せに思っています。師匠に感謝しています」
    「……まあ、いいでしょう」
     男はそんな女性に顔を近づけ、すると女性も目を瞑ります。
     唇が重なりました。
     長いキスが続いているその下では、男の両手がボタンを外し、女性のシャツをだんだんと開いています。黒いブラジャーが見えるまでそう時間はかかりません。やがて全てのボタンが外れると、男は女性のベルトも外し、チャックも下げ、上も下も半裸にしました。
    「黒って師匠らしいですよね」
    「そ、そうですか?」
    「とっても興奮しちゃいます」
     男はブラジャーの上から、丁寧に丁寧に乳房を撫でます。指の腹でそーっと、優しく可愛がるような愛撫です。
    「んぁぁ……」
     それが気持ちよくてか、女性の口から甘い声が漏れていました。
    「外しますね」
     男の腕が、女性の背中へまわります。ブラジャーのホックを外すためです。ぱちりと緩んだ黒い下着が持ち上がると、真っ白な肌の美乳があらわとなり、男はますます興奮して、女性はますます赤らみました。
     男がじーっと見つめていると、女性は言います。
    「……あまり、見ないで下さい」
    「おっ、師匠の口からそんな言葉が」
    「車を降りたいですか?」
    「冗談です。死ぬほど光栄で幸せに思っています。師匠に感謝しています」
     そう言って男は生乳を揉み始めました。
     ほどよい肌の柔らかさに指を沈めて、揉み心地を堪能する男は、やがて女性の乳首が突起していることに気づいて摘みます。
    「あぁ……」
     小さな喘ぎ声を聞き、嬉しそうにまた刺激します。
    「あっ、ふぁ……んぁぁ…………」
    「下の具合はどうですか?」
     左手を秘所に伸ばして、まずは下着越しに刺激します。高まっている女性の体は、すぐに愛液を出して、黒いショーツを湿らせます。そのねっとりとした感触が、男の指にじわじわと染み付きました。
    「んぅぅ……!」
    「出来上がってますね。師匠、挿れちゃいますよ?」
     男は自分のベルトを外して、ズボンの中から肉棒を出しました。
    「……どうぞ」
    「では遠慮なく」
     本当に先端を押し当てると、男はすぐに腰を沈めます。亀頭が、カリ首が、肉竿が少しずつ埋まっていき、根元までぴったりと収まりました。
    「んっ、つぅ……!」
     女性は少しばかり痛そうな顔をしました。
    「おや、やっぱり初めてで」
     男にとって処女を貰うのは嬉しいことです。男はとても喜んだ顔を浮かべて、満足そうに腰を振り始めます。
    「きょっ、興味が……少しはありましたので……」
    「俺も師匠の初めてが貰えて光栄ですよ」
     よく鍛えられている体ですから、女性の膣内はとても締まりがいいものです。処女というだけでも、穴の幅が小さくて、肉棒を圧迫してくるというのに、女性自身の股が力んで、余計に締め付けているのです。
     こんなに気持ちよくてはたまりません。
     最初は一秒でも長く快感を味わおうとしていましたが、時間が経つにつれて射精欲求は堪えきれないものとなります。もうイキそうです。すぐ根元まで精がこみ上げ、神経がピクピクと脈打って、それが膣壁にも伝わるので、女性も異変に気づいていました。
    「……射精というものを、するのでしょうか」
     と、女性は尋ねます。
    「はい。ちゃんと外に出しますからね」
    「そうですね」
     旅の最中に妊娠は困ります。当然、中に出すつもりはありません。
    「じゃあ、かけますね」
     引き抜いた男は、女性の胸に目掛けて射精しました。
     ポンプから噴き出るように飛び散る精液は、ねっとりとした白濁の塊となって、女性の乳房に次々と付着していきます。
    「んっ……!」
     女性は驚いた顔をして、それから自分の胸元を確かめます。思わず指で掬い取り、知識的には知っていても、実物を見るのは初めな精液です。女性はまじまじと眺めました。
    「ふぅ、とても気持ちよかったです。師匠」
    「ところで、次からはどこに出すか言ってからにして下さい。服が汚れては困ります。それに……」
    「それに?」
    「もし服を台無しにしたら、そのときは私一人で運転をすることになるでしょう」
    「師匠とできてとても光栄に思っています。ささ、拭いてあげましょう。じっとしていて下さいね」
    「まったく、仕方がありませんね」
     女性は少しだけ微笑んで、半脱ぎだった衣服を元に戻していきました。