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  • 研究のための交わり

    
    
    
     トレミア・アカデミーの一室に研究員が訪れて、空き教室を借りている。様々な計器を運び込み、詠使いのデータを取ろうと準備を進める。白衣を纏った大人達は、ほとんどが男であったが、ただ一人だけ女性研究員も混ざっていた。
     しかし、集まるのは研究員だけではない。
     ここが研究現場になるのなら、必ず研究対象が存在する。
     他には一人の女子生徒がいた。
     ……まあ、自分で決めたことだし。
     制服のリボンを指で持ち上げ、何かを躊躇い続けていた一人の生徒は、恥じらう顔つきで脱衣を開始していた。
     ミオ・レンティア。金髪童顔、おだやかな口調が特徴で、実年齢である十六よりは二、三歳幼く見られることが多い女子生徒だ。
    「あ、あんまりジロジロ……あ、でも見せなきゃいけないんだったね……」
     ミオの目の前には幼げな少年がいた。年齢はせいぜい十二、三歳。深い紫色の髪と中性的な面立ちの少年だ。
    「み、ミオさん……」
    「あははっ、ははっ、大丈夫だって。あたしが自分で決めたんだし」
    「でも……」
     申し訳なさそうに、見てはいけないものから目を逸らす。だけど、やっぱり気になって、引力に吸われるように視線が動く。可愛い年下の反応に、胸をくすぐられるけども、他にも何人もの男の人が立っているから、ネイト一人を意識するより恥ずかしい。
     複数の男がジロジロと見ている中で、見世物のように一枚ずつ脱いでいくなんて、軽く頭が沸騰しそうだ。
     上半身がブラジャーのみに、スカートを脱ぐと下着姿に、それからブラジャーのホックを外し始める。
    「ネイトくん。きちんと見るように」
     研究員の一人が注意した。
    「は、はい。すみません」
     ネイトはミオに視線を向け、今度はまじまじと見てきていた。
     ……だいじょうぶ、見ても怒ったりしないから。
     ブラジャーを外した瞬間、頬の熱が上がっていた。いま、どれくらい顔が赤いのか。自分でもわからない。
     この上ショーツまで脱ぐなんて、かなりの抵抗があったけど、ミオはゴムに指を絡めてするすると下げていく。
     ……ああ、全裸か。
     金色のささやかな毛を晒して、お尻まで出したミオは、自分だけが服を抜いている感覚に恥辱を感じる。ネイトの遠慮がちな視線も、他の男達のじっくりと遠慮のない視線もあって、全身が視姦されていた。
    「では準備ができたところで、まずは裸体を眺めた状態での名詠をお願いするわ」
     女性研究員がネイトに黒い絵の具を手渡す。
     すぅ……と、目を閉じて、ネイトは名詠を行った。かなりの集中力……すごっ、ミオが関心している間に、黒いカラスの羽が現れ、ネイトの周りに舞い落ちていた。
    「おおっ」
    「かなりいい反応が出ていますよ」
    「やはり性的興奮状態で行う名詠は研究の余地がありますね」
     研究員達も、計器で良い反応が測定できたようで、一様に喜んでいた。
     ミオとネイトは研究に協力しているのだ。
     先日、ミオとネイトが指定測定診断を受けた後、ネイトはミオの裸を思い出してしまい、性的に興奮したまま名詠を行ったことがあるという。それを女性研究員が偶然にも目撃して、こういう形でのデータ採取を思いついたのだとか。
     性的興奮状態での名詠。
     それに、夜色名詠のことも知られ始めていて、その研究にも費用が下りるようになってきたとか。
     さて、では誰の裸を見せるのか。
     そこで候補に挙がったのが、既にネイトに赤裸々なものを見せたことのあるミオだった。この話を持ちかけられた時は、さすがに断ろうとしたのだが、高額の報酬や今後の授業料免除と聞かされて、つい釣られてしまったのだ。
     といったわけで、ミオは研究協力者として裸になり、乳房もアソコも隠すことなく立っている。ネイトもそうだが、男の研究員達もミオの裸を盗み見たり、作業のあいまの目の保養のようにしてくるのが、辛いというか気になるというか、恥ずかしかった。
     本当は隠したい。
     胸やアソコを手で守っていたい衝動はあるけれど、研究のためなも隠すわけにはいかなかった。
     女性研究員が現場を取り仕切るリーダーのようなので、ネイトは仕方がないとして、他の男の視線については、ちょっとは注意してくれればいいのに……と思う。
    「ではネイトくん。次はミオちゃんのオッパイを揉みながらやってくれるかしら?」
    「え? も、揉みながらって、ミオさんに悪いですし……」
     ネイトは動揺していた。
     ……でも、揉めって言われた瞬間、あたしの胸、一瞬見たよね。
     揉めるとわかった時の男の子としての喜びと、それはさすがに申し訳なくてできない気持ちが入り交じり、ネイトも複雑な様子である。まったく興味を持たれなかったら傷つくけど、いやらしくがっつかれたいかといったら、それも違うから、ネイトぐらいがちょうどいいかな、とは思うミオである。
    「あ、ははっ、本当は良くないけど、研究のためだし……」
     ミオだって、ネイトは良い子だとは思っているが、彼氏というわけじゃない。進んで揉ませるのはどうかと思うが、ここでは研究という名目がある。嫌といえば嫌だけど、露骨な拒否でネイトを傷つけたいわけでもない。
     恋人じゃないから抵抗があるだけで、ネイト自身が嫌なわけでもない。
    「……も、揉んで、いいよ?」
     自分から乳房を差し出す恥じらいに、頬の赤らみの内側で熱が弾けた。
    「でも、ミオさん……」
    「あたしだって、報酬を受け取る約束とかしちゃってるし、断れないかなー? なんて」
     といったところで、すっかり緊張しきったネイトは、なかなか行動に出ることができないようだった。恥ずかしいのか、抵抗があるのか、だけど興味は津々で、心の底では揉んでみたいと思っているのがひしひしと伝わる。
     ……あとで内緒にさえしてくれれば。
     この事がクルーエルやらエイダやらに露見したら、一体どんな事態に発展するか、ちょっと想像したくない。
    「ほらほら、ネイトくん」
     煮えを切らし始めた女性研究員は、ネイトの背中をぺちっと叩く。おろおろと前に出てくるネイトは、非常に遠慮深い手つきで、これから大犯罪にでも手に染めるような緊張ぶりで、乳房に手を近づけていた。
    
     もみっ、
    
     両手が、ミオの乳房を鷲掴みにした。
     ……や、やばっ、ネイトくんに揉まれちゃってる。
     緊張でかいた手汗と、手の平の温度に、指遣い。それらの感触が一気に皮膚に染み込んできて、ミオは強張りつつあった。
    「やわらかい。すごい、僕、初めて――」
     一度揉んでしまえば、すっかり夢中になっているらしい。ネイトは真っ赤になりながら揉みしだき、必死になって指に強弱をつけている。興奮で鼻息を荒げた年下の可愛い顔に、ミオも少しは興奮する。
     ……なんかすごく、いけないことをしている感じが。
     ミオは苦笑気味に引き攣った。
     感じ、なんかではない。
     実際にいけないことをしているのだ。
     ……やだっ、ちょっと気持ちいい。
     ネイトに揉まれているうちに、乳房に血流が集中してくる。乳首がだんだんと固くなり、突起した先端でネイトの手の平を突いてしまう。乳首の興奮はきっとネイトにも伝わって、ミオが興奮した事実にネイトもますます興奮していた。
     そして、そんなミオとネイトの周りでは、研究員達が計器を睨んだり、二人の様子を見ながら書類に書き込みを行っている。
    「では計測の方を」
     なんて言いながら、一人の男の研究員が近づいて来た。
     ……な、なんの計測? なんの数字が出るの?
     左手にはミオの知らない計器を握り、乳揉みに夢中なネイトのところへ近づける。無線機かトランシーバーのような形で、アンテナが真っ直ぐ伸びていて、ネイトの体から出て来るものを計測して、数字として表示しているらしい。
     それだけではなかった。
     ……ひっ!
     男の右手がミオのお尻にぺたりと貼り付いてきたのだ。
     ……え? なんで? なんで?
     ミオはまず困惑する。
     裸になったり、こういうことをするのは、事前に聞いているからわかっていた。メリットに釣られて、わかった上で同意書にサインをして、ミオはここにいるわけだ。
     でも、男の研究員にまで触られるとは聞いていない。
     温かくて大きな右手は、最初はただただ貼り付いているだけだった。それが動き出し、お尻をすりすりと撫で始める。撫で回しているかと思ったら、急にぐにっと指を押し込み、揉んでくることまである。
     ……あ、あの?
     ネイトがすぐそこにいるのに、気づかれたらと思うと怖くて声が出せなかった。ミオは目だけで訴えかけていたが、男はやめる様子もなく触り続けていた。
    「では次の名詠をお願いね?」
    「は、はい!」
     ネイトは新しい触媒を受け取り、次も黒いカラスの羽を撒き散らす。その時の反応が計器に記録されていくことで、研究者達はみんなで嬉しそうな顔をしているのだ。
    「おおっ」
    「噂の夜色名詠を間近で見ること自体が貴重なのに」
    「ここまでのデータが得られるとは」
     一体、何が判明しているのか、ミオにはさっぱりわからない。
     いつの間に男の手は尻から離れ、それはだけは安心したけど。
    「次はあなたね?」
     女性研究員の視線がミオを向く。
    「はい? あたし?」
    「そうよ? 羞恥心を煽られた状態での名詠を試して欲しいわ」
    「羞恥心って……」
     嫌な予感がした。
     前回の指定測定診断の内容を思うと、この予感が的中しないはずはない。
    「あなたには股を開いてもらい、ネイトくんにはアソコやお尻の穴を観察してもらうわ」
    「や、その……」
    「同意してここに来ているわよね?」
    「……はい」
     つまり、断れない。
     ミオはテーブルに腰を置き、M字開脚の披露をすることになった。裸だけでも恥ずかしいのに、ポーズまで取らされて、顔を両手で覆ってしまいたい思いである。
     そして、ご丁寧に椅子まで用意して、女性研究員はネイトをミオの真正面に座らせる。アソコにぐっと顔が近づき、観察が始まったことへの羞恥に顎を歪め、真っ赤に染まった顔から感情をありありと放出させる。
     ……うううっ、恥ずかしいって。
     前回の経験で少しは慣れているかもしれないけど、まだまだ全裸だって、本当はハードルが高い。アソコに集中的な視線が注がれる恥ずかしさに、表情がみるみるうちに歪んでしまう。
     ネイトは本当に熱心に観察していた。
     ……そこまでしっかり見なくていいじゃないかな。
     なんて、言っておきたくなるほどに、ネイトの集中的な視線は熱い。
    「さあ、ネイトくん。触ってもいいのよ?」
     女性研究員の口から許可が出る。
     ……あ、あたしの体なんだけど。
     他人に許可を出されるなんて、自分の意思を無視された気分がする。
    「でも、さすがに……」
    「ネイトくん?」
     女性研究員の声は優しく穏やかなものだけど、駄々をこねる子供に言うことを聞かせるような、ちょっとした圧を感じさせるものがある。これにネイトは屈したのか、やっぱり男の子としては好奇心でいっぱいなのか。
    「……失礼します」
     ネイトは指を近づけて、ミオのワレメをタッチした。
    「んっ」
     たったそれだけで刺激に震える。
    「ミオさん?」
     心配になったみたいで、ネイトはミオの様子を気にかけていた。
    「へへっ、痛いわけじゃないから……」
    「わかりました。その、せめて丁寧にしますので……」
    「うん。お願いね」
     本当に優しいタッチで、ネイトはとても気を遣ってくれている。だけど鼻息は荒いし、目は血走っていて、これでも夢中になっているみたい。
     ……んっ、やばっ、ネイトくんの指、気持ちいいんだけど。
     産毛だけを撫でている手つきで、ワレメを上下にされ続ける。お尻の穴をくにくにと指で突かれて、汚い部分まで刺激されている恥ずかしさに、頬から火が出る思いまでして、ミオはしだいに愛液を分泌させつつあった。
     ……ああっ、だめっ、ただでさえ恥ずかしいのに。
     アソコが湿り気を帯びるところまで見せるだなんて、やっぱりさすがに。
    「ほら、見てごらん?」
     女性研究員が何かの写真を突きつける。
    「や……!」
     アソコの写真だった。
     しかも、きっと指定測定診断で撮影したミオの性器で、中身を開いた桃色の肉ヒダがとても綺麗に映っている。続けて肛門の写真まで見せつけられ、細かい皺までくっきりだ。
    「あなたの写真よ? どちらも」
    「やっ、や……や……や…………」
     羞恥の記録まで見せつけられ、ミオは声を震わせた。
    「さあ、ネイトくんもアソコを開いてみて?」
    「は、はい。失礼します」
     ネイトの指が肉貝に触れ、左右に開かれていく感覚に、ミオの羞恥はますます膨れ上がっていく。自分がどんな表情をしているかもわからなくなってきて、思わず両手で顔を覆い隠してしまっていた。
     そんなミオの周りに計器をかざし、男達は計測を試みる。
    「ミオちゃん? 名詠をお願いね?」
    「こんな状態でですか? そんな、あたし――」
    「やって頂戴?」
     無理にでも触媒を握らされ、まるで集中できずに名詠を唱えてみる。何も起きない結果に終わり、そんなミオのていたらくがボールペンで書き込まれる。
     こんな思いをさせられて、結果も出せないなんてみっともない。
     ……これ、泣いていいかなぁ。
    「こういった刺激は色によって違いが出るのかしら?」
     女性研究員は一人考え込む。
    「よし、いいわ? 次はフェラチオして頂戴」
    「えぇ……?」
     そこまでするの?
     ちょっと、体を触らせるくらいだと思ったのに。
    「あの、やっぱり僕……」
     ミオが引き攣っていると、その様子に気づいたネイトが、辞退を申し出ようとする。
     ……気持ちはありがたいんだけど、あたしもあたしで契約しちゃってるし。
     だから、今更になって、やっぱり無理ですというわけにはいかないけども、フェラチオなんでできるだろうか。しかも相手はネイトである。いや、考えてもみれば、他の知らない男とか、興味のない男子にする方が、もっときついかも……。
     ネイトなら、比較的に良い気もする。
     恋人ではないわけだから、積極的にしたいわけでもない。
     ……うーん、断りたいけど。
     ミオは自分がサインをしてしまった契約書を思い出す。研究に伴う性的な要求を受け入れる、という内容に同意したのだけど、具体的に何をどこまでとは書かれていなかった。それをミオは楽観視してしまったわけだ。
     まあ、どうせセックスまではいかないし、おっぱいを揉ませるくらいかな。
     何も風俗嬢になって稼ぐわけではない。あくまで研究への協力なのであり、良くない稼ぎ方という意識も薄かった。一度指定測定診断を受け、感覚が麻痺していたのもあるかもしれない。
     ……正直、迂闊だったといいますか。
     だが、こうなったら仕方がない。
    「ね、ネイト君? そのぉ、やるしかないかなぁ、なんて……」
    「いいんですか!? だって、いくらなんでも」
    「いいのいいの。それにネイト君だって興味あるでしょ?」
     及び腰なネイトに向かって、少し困ることを言ってやる。
    「それはその、ええっと――」
     素直にして欲しいなんて言えないから、ネイトは困った顔で赤らんで、ミオから顔を逸らしてしまう。
     ……ったく、可愛いんだから。
     だから、ネイトなら、まあいいかな……って、付き合ってるわけでもないのに、本当はよくないんだけどね。
    「ではお互いの了解も済んだということで、さっそく始めてもらえるかしら?」
    「わかりました」
     ミオが返事をしてしまうと、ネイトもアレを出さないわけにはいかなくなる。ミオだって色々と初めてだが、ネイトだって女の子の前でアレを出すのは初めてだろう。
     ネイトがズボンを脱ぐ。
     出て来たものは、大きいのか小さいのか、一般的なものなのか。ミオにはよくわからなかったが、これをまじまじと見るのは初めてで、見ていて赤らんでしまうけど、不思議と視線を逸らせない。
     ……見ちゃったなぁ、ネイト君のも。
     まあ、こっちがアソコを見られたんだから、これで平等といったところ。
    「……やるか」
     これを口に入れるのに、抵抗がないわけじゃない。
     だけど、ミオは咥えた。
    「あむっ」
    「みっ、ミオさん……!」
     ……本当に咥えちゃった。
     ミオは口内に肉棒の熱と硬さを感じ取る。舌をべったり当てながら、初めてながらにとりあえず頭を前後に動かした。
    「んっ、んむぁ……んふじゅぅ……ずぅ…………んっ、んむぅ………………」
     ……あたし、本当にやっちゃってる。
    「う、あぁ……ミオさん……」
    「はじゅぅ……ずぅ……んぅ……んっ、んずっ、ずぅぅ…………」
     不慣れな奉仕だったけど、ネイトの方も簡単に堪えきれなくなってしまい、ミオの口内には青臭い白濁が放出された。
    「あっ、ミオさ――」
    「んんん!?」
     急に口内に出て来たものに、ミオは瞳を震わせた。すぐさま頭を引いて唇を引き締めると、女性研究員がティッシュを差し出してくれたので、その上に吐き出していた。
    「んぺっ、これが精液かー」
    「……すみません」
    「ネイト君は気にしないの」
     ミオがそう笑いかけると、ネイトは非常にホっとした様子であった。人の口に体液を出してしまったから、悪いことをしたと焦っていたのだろう。
     ……気にしないわけじゃないけど、責めてもしょうがないし、ね。
    「まだまだ元気がありそうね。続けてくれる?」
    「え、またですか?」
    「だって、フェラ状態での名詠を試していないもの」
    「うぅー。わかりましたけど」
     だったら、最初から名詠をやらせて欲しかったけど、とにかくミオは改めてネイトの肉棒に手を伸ばして、精液濡れの竿を口に含んだ。
    「あぁ……! み、ミオさん……気持ちいいです…………」
    「はちゅっ、本当? なら、ちょっとはやる甲斐があるかな」
     ミオは不慣れながらも、口内でじゅくじゅくと唾液を増やしていく。それをまぶした肉棒の滑りの良さに合わせてやり、ぎこちなくも頭を前後に動かした。
    「あ、ストップ! いいかしら、咥えたままよ? そのまま、動かないように」
     今度は女性研究員が制止に入り、ミオに咥えさせたままの形で、ネイトに触媒を手渡していた。ミオの口に肉棒が収まった状態で、ネイトに名詠をやらせるつもりだ。
     そして、ネイトは名詠を行う。
     黒い花びらが舞い上がり、その舞い落ちる景色が美しい。芸術的なものを呼び寄せたネイトの名詠は、計器にも良い反応を与えたらしく、またしても研究員達の歓声が広がっていた。
     ……そんなに良い数字出たんだ。
    「やっぱり性的興奮との関連性は見過ごせないわ。ミオちゃん、セックスしてもらえる?」
     女性研究員は検出された結果の方に興奮して、まだまだ欲しいとばかりにミオに要求を突きつけた。
    「え? えっと、あの? いまその、セックスって聞こえたような……」
    「ええ、そう言ったのよ? セックスと」
     だからどうしたと言わんばかりだ。一体なにがおかしいのかもわかっていない。この女性研究員は色々と欠如している。
    「どうしても、ですか?」
    「どうしてもよ?」
     女性研究員は有無を言わさないつもりらしい。
    「あの、でも今までの方法だけじゃ……」
     ネイトも罪悪感から控えめに言い出していた。
    「あら、でもセックスしてみたいでしょ。 勃ってるわよ?」
    「あっ」
     指摘され、ネイトは慌てて両手で隠す。
    「契約だってきちんとしたはずだし、違約金ってわけじゃないけど、指示に従えない場合は約束の支払いができなくなるって風にも書いてあったはずよ?」
    「そ、それは……」
     読書家でもあるミオだ。契約の文面を読み落としてはいない。
    「ね? お願い」
     女性研究員に迫られて、契約のこともあるミオには、サインをしたのも、どうせ胸を揉ませるくらいだと楽観視したのも自分だという負い目がある。それに、ここまでして約束の支払いがなくなっては、色々と損しかしていない。
    「わかりました。やります」
    「ミオさん!?」
    「まあ、ネイト君が嫌がるなら、ちょっと考えたいけど」
     ……嫌だってことはないよね? ネイト君。
     ちょっと困らせてしまったか、嫌なわけではないけれど、堂々としたいたとも言えない、モジモジとしたネイトの様子がいじらしい。
     ……たぶん、あの太さなら、痛すぎることもないだろうし。
     もちろん、まったく抵抗がないわけでもない。付き合ってはいない相手に、本当にここで初めてを迎えていいのか、ミオにも葛藤はある。
     しかし、好奇心もあった。
     ……実はしてみたい、とか思ってるのかな、あたし。
     先ほどの、ネイトの指で濡らされたアソコが疼く。この中に男性器が入ったら、一体どんな感じがするのか。
    「どうかな、ネイト君。嫌?」
    「い、嫌では……」
    「なら、しよっか。ね?」
    「は、はいっ、お願い……します……」
     見るからに緊張しているが、それはミオも同じである。年下の前だから、お姉さんぶってはみているけど、こういうのはクルルの方が柄にあってるかも。
     二人でテーブルに上がり、ミオは恥じらい混じりに仰向けとなって股を開いた。ネイトもその前に腰を置き、女性研究員が用意したコンドームもしっかり装着。準備は整ったけれど、人前でするのが初めてなんて、やっぱりこれでいいのだろうか。
     男性研究員の中には、ミオのお尻を触った男も混ざっている。
     内心、ニヤニヤしているはず。
     ……それは嫌だなぁ。
     いいや、それでもすることになったのだから、今はネイトだけに集中しよう。
    「よろしくね? ネイト君」
     声が上擦った。
    「はいっ、お願いします」
     ネイトの声も震え気味だ。
    「じゃ、じゃあ? えーっと、その、あれだね。入れてみて?」
     もう濡れているから、アソコの準備はできてしまっている。
    「い、い、いきます……ミオさん……」
     ネイトはミオのワレメに肉棒を添え、切っ先で割り開こうとする。ミオも受け入れる準備をして、なるべく力を抜いていた。
     ……ああ、しちゃうんだ。
     ミオも十分に緊張していて、力を抜いたつもりが背中が固い。ネイトの方も、肉棒の元気はあっても、膣口を上手く狙えず手間取っている。
     ……これって、あたしから導いた方がいいの?
     どうしたらいいのか、ミオにだってわからない。お互いに初めてなのだから、どちらがどちらをリードということもない。
     いいや、リードした方がいいのだろうか。
     自分の方が年上なのだから。
    「ね、ネイト君、もうちょっと下……」
    「この辺、ですか?」
     アソコをなぞっていた亀頭の位置が穴に迫った。
    「うんっ、そこかな」
     まるで緊張を誤魔化したいように、ミオは無理に苦笑していた。
    「いきます……」
     ようやく、ネイトのものが入り始める。
    「あっ、んうぅぅ……」
    「ミオさん?」
     痛がって見えたのか、ネイトが進行を止めた。
    「へっ、平気。続けて?」
     まったく痛みがないでもない。それは不安に思ったほどではなくて、ネイトの大きさならミオにはちょうどいいらしい。穴が拡張される苦しさも、ミオ自身が分泌している愛液のおかげで楽になってはいるような気がする。
    「……はい」
     ネイトはそのまま推し進めた。
     お互いの腰がぴったりと密着しあい、根元までがミオに収まる。生まれて初めて異性を受け入れてしまったことに、ますます緊張が膨らんで、表情まで硬くなりそうだ。
     ……こういう感じ、なんだね。
     その手の本も読んだことがあったから、ミオにもそれなりの知識はある。少女向け官能小説でいくらかのプレイを、医学的な本で妊娠や中絶を知っている。
     ……慣れれば気持ちよくなるのかな。
     ネイトの息遣いは荒い。鼻息も凄くて、だいぶ興奮しているけど、まだ動く気配がない。ミオの様子を伺って、動きかねている。ちょっとその、胸を見てもいる気がする。
    「動きます。痛かったら……」
    「……うん」
     腰降りが始まった。
     ……あっ、やばっ、ほんどにしちゃってる。
     ネイトの動きはゆっくりでぎこちない。いかにも不慣れな感じがありありと現れていて、それにミオの様子を気にしている。痛くはないか、苦しくないか、そう思うと怖くて激しくなれない様子だけれど、それだけでもないのかも。
     たぶん、限界が来やすいのだ。
     今までの読書のおかげで、そんな想像がついた。
    「す、すみません。もう……」
     悪いことを謝るように、ネイトは射精してしまった。コンドームが精液の分だけ膨らんで、ゴム越しの生温かい感触が膣に伝わる。
     早いのかもしれないけど、初めてなのだし、仕方がない。
     ミオとしても、これでひとまず終わったかなと、緊張がほぐれていた。初めて体中の固さが抜け、少しでもリラックスできた気までする。
     だけど、一つ忘れていた。
    「あー。そっか、名詠が……」
     射精しただけで、名詠はしていない。
    「そうね。ネイト君はまだまだ元気な年頃だし、いけるわよね?」
     女性研究員はもう次のコンドームを用意していて、二回目をさせる気が満々だ。まだ快感を味わえるとわかってか、ミオの内側で肉棒がピクッと動き、ネイトの欲求が伝わった。
    「いいわね? ミオちゃん」
     まあ、するしかないんだよね。
     コンドームが付け替えられて、二回目の準備が始まると、ネイトは改めて挿入してくる。
    「んうぅぅ……」
     今度は自分で位置を合わせて、ネイトは腰を押し込んだ。アソコに少し力を入れれば、膣でぎゅっと肉棒を抱き締め、硬さが如実に感じられる。
    「さあ、今度はお願いね」
    「は、はいっ」
     ネイトは触媒用の黒い絵の具を受け取ると、挿入状態のままに名詠を開始する。霧が浮かび上がるかのように光が溢れ、一輪の黒い薔薇が現れていた。
    「うん、さすがね。やっぱりいいデータが取れているわ」
     女性研究員は本当に嬉しそうだ。
    「さあ、いいわよ? せっかくなんだから、満足して射精しちゃいなさい」
     ……だから、あたしの体なんですけど。
     まるで自分の所有物のような言い方で許可を出すのが、やっぱりミオには気にかかる。
    「あの、それじゃあ、また動きますので」
    「う、うん。どうぞ」
     もっとも、ネイトには明るい顔をして、ピストンの開始を許した。
    「あっ、んっ、んっ、あっ、んっ、んっ、んあっ、んっ――」
     苦しいような、違うような。
     少なくとも、さっきよりは痛くはないし、ちょっとだけ気持ちいいかも。
    「あっ、んっ、んっ、んあっ、んあっ、んあっ――」
    「ミオさん……! はあっ、あっ、気持ちいい――とってもいいですっ、ミオさん――」
     ……夢中になってる? あたしに?
     男の子が無我夢中で自分を求め、感じている姿は悪くない。むしろ、ミオまで興奮してきそうだ。
    「あっ、んっ! ね、ネイト君! あ、あたしもっ、ちょっとだけ――」
    「ミオさんも……!?」
     本当に少しだけれど、感じてきた事実を伝えると、ネイトは余計に鼻息を荒くしていた。ぎこちなかった腰降りが活発になり、貫き方がだんだんと慣れてきている。ミオのアソコも肉棒の形に慣らされて、穴の形状がネイトに合わせたものになってしまいそうだ。
     ……どうしよう、初めてで感じるんだったら、何回かしたらもっと凄くなるの?
     頭が色めいてきた。
     この先も関係を持ったりしたら、もっともっと楽しめてしまう。ネイトはとてもいい子だし、秘密を守るようにお願いすれば、きっと言わずにいてくれる。
     ……って、あたし何考えて!
     研究の協力のために交わっているはずだ。
     それを、ネイトとこの先もしようだなんて、自分はなんて不埒なこどを。
    「あっ! あぁぁぁ……!」
    「あら、様子が変わったかしら?」
    「あっ! あっ! あっ!」
    「そうね。ミオちゃん、もう一回名詠をお願いできる?」
     緑の触媒を手渡されるけど、こんな声が出ている最中になんて。
    「あうっ、あっ、ネイト――く――」
    「ネイト君? ゆっくり、とてもゆっくりにお願いできる?」
    「はい、やってみます」
     急にリズムが変わった。
     
     ずるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。
     
     腰を引いていくだけで、一体何秒かけるのかもわからないほど、本当にゆっくりと、亀頭は外へ向かっていく。
     
     ずにゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ……。
     
     そして、入ってくるのも、根元がぶつかるまでに長々とかかる緩やかなピストンとなる。かなりのスローモーションでネイトは動き、おかげで気持ちいいながらも喋る余裕はなんとかできた。
     ……名詠に集中するのは、これでも難しそうだけど。
     ミオは名詠を行って、緑色の葉を散らした。まるで生い茂った夏の木の下で、葉が降り続ける中にいるように、葉は舞い散っていた。
     ……で、できた。
    「いいわ! すっごくいい! 性的興奮は夜色以外にも有効なのかしら? その前に夜色はそれ自体がデータ不足ね。ああ、波形も違うみたい! 有効度合いの差はあるのかも? とにかく、もっと調べてみたいわ!」
     女性研究員の興奮ぶりは、下手をすればネイト以上だ。女の子の裸を前にした思春期の男子より、ずっと興奮しているなんて、一体どれだけ貴重なデータになったのだろう。
    「もっと! もっとよ? 二人とも、続く限りやって頂戴!」
    「え、ええ!?」
     続く限り?
     いや、いやいや! それって、一体何回するの!?
    「お願いね! 二人とも!」
     えええええ!?
     ちょうどその時、ネイトが限界に達したようで、コンドームが精液で膨らんだ。
    「その、すみません」
     妙なタイミングで出してしまったことを謝るが、ミオだってそれを怒る気は初めからせず、慰めに頭を撫でてやる。
    「大丈夫だって、気にしない気にしない」
     そのためのゴムなのだし。
     いや、それより、射精が済んだとわかるや否や、女性研究員は三つ目のコンドームを持ってきて、腹の底からニヤニヤが止まらない顔をしていた。
     さあ、やりなさい?
     という声が今にも聞こえてきそうだった。
     
         †
     
    「入れますね。ミオさん」
    「よろしく」
     
     ミオはテーブルの上で両手を突き、四つん這いの姿勢でネイトに尻を向けていた。
     あれから、定期的にデータを取りたいと言われてしまい、さすがに困ったミオだったが、そこまで頻繁にはしない。数ヶ月に一度くらい、と説明され、それならばと同意した。
     ……ネイト君とするのが、よかったせいかな。
     研究員に囲まれながらするなんて、ムードも何もないけども、濡らされたアソコに肉棒が当たってくると、ミオは反射的に膣を差し出していた。ネイトが挿入をしやすいために、このくらいだろうかと角度を調整して、腰を力ませることで自分自身の身体を固定していた。
     そこへ根元まで収められ、ミオの尻にはネイトの腰が触れていた。
    「動きますよ。ミオさん」
    「どうぞ」
     ああ、感じさせられる。
     ……声、いっぱい出ちゃうかな。
     そしてネイトは動き出し、ミオは喘いだ。
     研究のために繋がる関係がどれくらい続くのか、2人にもわからない。
    
    
    


     
     
     

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  • ミオの測定診断 後編

    前の話

    
    
    
    
         3・内科検診
    
     白いショーツの尻を椅子に乗せ、ミオはだらりと腕を垂らした。
     内科の担当は二人いて、特に仕切りで遮ることもせず、ネイトも隣で検診を受け始める。まずは問診から始まって、ネイトの答える内容がいくらでも聞こえてくるので、困った質問が来ないように祈っていた。
     幸い、そういった質問は何もない。名詠の最中や直後に体調が変化したことはあるか、名詠生物との接触で異常を感じたことはあるか、といった話で済まされた。
     もっとも、すぐに医師は聴診器を近づけて、ミオの胸に当ててくる。乳房と乳房のあいだ、中央に触れる金属から、目の前の医師は心音を聴いている。
     指示に合わせて背中を向け、深呼吸の音も聴いてもらい、正面に向き直る。
    「では触診していくのでね」
     医師の手が絡みつき、五指が乳房で蠢き始めた。
     うっ、うぅ……男の手が触れてきている事実に、ミオは目元の筋肉を震わせる。好きでもない、名前すら知らない相手に揉まれる拒否感に、横へ横へと瞳を逸らすと、隣ではネイトも触診を受け、微妙そうな顔をしていた。
     ……あ、ははっ、男の子だって、そりゃ困るよね。
     医師の指先が乳房の色んな部分に押し込まれ、色んな部分を探られている。立派な診察なのかもしれないけど、皮膚の表面をすりすりとやられたり、乳輪をくすぐられたりしているうちに、だんだんと甘い痺れを感じるようになっていく。
    「んっ」
     乳首をつままれた時、ミオは肩を跳ね上げていた。
     やだ、変な声が……快感の声を出してしまったことに、ミオは真っ赤に恥じ入った。俯いていたいところだが、下を向けば自分の胸がもろに見え、どんな風に触れられているかがわかってしまう。
    「えーっと、『少し声が出た』っと……」
     ……え? ちょっと! それ書くの!?
     小さな声のことを記録係の手で記入され、少しでも喘いでしまった事実が記録へと残される。ネイトの耳にも、今の記録係の声は聞こえたはず。ネイトにまで知られたと思うと、ますます頭がおかしくなりそうだ。
     ネイトの存在を意識すると、聞いてしまった様子のネイトがモジモジしていた。ネイトが何を思ったかはわからないけど、何を思われていようと気恥ずかしくて、ミオはネイトとは逆の方向に瞳をずらした。
    「気持ちよさそうだねぇ?」
     そこでは中年がニヤニヤしていた。
    「どうなの? 気持ちいいの?」
     中年の言葉を受け、医師は真顔で尋ねてきた。
    「え、えへへ……そんなこと……んっ、んん……」
     愛想笑いで誤魔化そうとしていると、そのあいだにも声が出てしまい、中年はニヤっとした。
     やだっ、ほんと……視線による辱しめに、ミオはぎゅっと目を瞑る。視界を閉ざすことでしか、気になるものを締め出すことはできなかった。
    「声を我慢しつつ、目を瞑る反応ね」
     淡々とした記録係の声が、ミオの悶えをますます煽った。
    
    「はい、じゃあね。側彎症の検査するから、立ってくれる?」
    
     ミオは医師に背中を向け、綺麗な直立の姿勢を保ちながらも、まぶたは固く閉ざしたままだ。
     側彎症――背骨など骨格の歪みを調べる検査では、尾てい骨から背中にかけてを見る必要があるのを、ミオもきちんと知っている。ショーツを少し下にずらして、見えるようにするのだろう予感もある。それだけにお尻に視線が刺さっている気がしていた。
    「じゃあ、ずらすからね?」
     やだぁ……きっとあのスケベだって見てるのに……ミオは中年のいやらしい表情を頭によぎらせ、余計に恥辱を感じてしまう。
     ……ううぅっ!
     ショーツのゴムに、左右の尻たぶのところに、それぞれ四指が入ってきて、ミオは身震いした。皮でも剥くようにずり下げられ、少しずらすだけだと思っていたのに、お尻を全て丸出しにされてしまった。
     なっ、なっ、なっ……慌てふためくかのような、パニックにも似た頭から、ミオは恥ずかしさの蒸気を噴き出す。前は平気でも、後ろ側がきっちりと下にずらされ、尾てい骨どころか全部が出ている。
     そして、お尻のすぐ後ろに座る医師の存在で、視線が集中しているに違いないと、ミオは強く意識してしまう。
    「うーん。綺麗な背中だね? お尻もなかなか可愛いし、とっても健康的だ」
     体つきへのコメントまで聞かされて、ミオは苦悶を浮かべていた。
    「じゃあ、前に倒れてみてね?」
     側湾症検査では、肩甲骨の高さに左右差がないかを見るために、手の平を合わせて少しばかり前屈する。目の前には中年がいて、ミオにとってはいやらしい男に頭を下げるかのようで屈辱だ。
     しかも、お尻を後ろに突き出すポーズだなんて……堪らない気持ちを抑え、ミオは徐々に上半身を倒していき、直角に近いところまで折り曲げた。
     医師が見ているのは、きっと肩甲骨の高さだけ、左右差のチェックだけ、だから大丈夫だと言い聞かせ、なんとか堪え抜こうとする。
    「やっぱり、可愛いお尻だねぇ?」
    「そ、そんなこと……ないですよ……ははっ…………」
     ミオは誤魔化し笑いを浮かべる。
    「いやいや、いいお尻だよ。プリっとしてて、とってもキュートだ」
     医師はそれでも賞賛を絶やさない。褒めていようと、体つきを指摘してくる言葉は、ミオには辛い。
     ……やっ、やだっ、触らないで。
     しかも、可愛がらんばかりに、医師はにこやかに撫でていた。愛でたくてたまらない、微笑ましいものを見守る表情で、医師はたっぷりとお尻を撫でる。顔だけなら、それは優しいおじいさんが孫を可愛がるかのようだけど、やっているのはお尻を触ることなのだ。
     ミオはそれを堪えていた。
    「あ、あのぉ……早くしてくれると助かるなぁ……なんて…………」
     無理に陽気を演じてみるも、すぐには撫でる手つきは止まらない。
    「そうだねぇ?」
     なんて言いながら、すべすべとした表面を撫で回す。
    「あの……本当に…………」
     もう泣きそうな声だった。
     そんなミオの様子さえ、記録係は淡々と書いているばかりで、止めようとする者は誰もいない。我慢している以外になく、やっとのことで手が離れると、骨格には問題がないことが伝えられた。
     側湾症の有無よりも、やっとやめてもらえたことの方に安心して、ミオは素早くショーツを元の形に穿き直す。
    「ま、あとで脱いでもらうんだけどねぇ?」
     医師の最後の言葉が突き刺さり、ミオの胸から抜けなくなる。
     ……本当に? 本当に全部?
     もう、泣きたい。
     ミオにとって、ここは地獄なのだった。
    
         4・超音波検査
    
     ミオが、ネイトが、二つ並びの診察台にそれぞれ横たわる。
     超音波検査を行うため、皮膚とプローブのあいだに空気が入らないようにするための、専用のジェルを塗るらしく、二人の元にはそれぞれの技師が塗り広げ始めていた。
     ……うっ、ひんやりするし、気持ち悪いよぉ。
     男の技師に胸を触られ、乳房やその周辺にかけてまで、ジェルが塗り伸ばされている。横目でネイトの様子を見ると、やはり男に同じくされていて、とてもとても居心地が悪そうだ。
     ……ネイトくんにも同情するけど、あたしの方がやばいよね、これ。
     なんせ、オッパイをやられているわけだから。
     専用ジェルを塗るまでは、少なくとも医療上必要な行為なんだと、ミオは自分に言い聞かせ、自分で自分を納得させていた。だけど、肩とか肋骨とか、脇の下とか、腹にまで、たっぷりと広がって、それでもなお胸を触ってくる。
     ……絶対、好きで揉んでる。
     ひんやりとしたものが染み込んで、それでもまた塗り足すために、技師は容器の中からジェルを手の平に垂らしている。それをミオの乳房に塗りつけ始め、ヌルヌルとした滑りの良さに合わせて揉まれたり、乳輪をぐるぐると、乳首をくりくりと、指先を使った悪戯までされていた。
    「うん。だいぶエロくなったね」
     ……え、エロって。
     皮膚にジェルが浸透して、もう染み込むことができない上に、なおもジェルを塗ったのだ。もう水を吸えない布に、それでも水を垂らしたようなもので、ミオの乳房はヌルヌルとしたゼリーの層によって、しっかりとコーティングされていた。
    「ジェルでヌルヌルに光ってるオッパイって、とってもエロいよ」
     最後にもう一度だけとばかりに、せっかくだから揉んでおこうみたいな感覚で、人の乳房を気軽に揉んできた。
     ……さ、最悪っ。
     恥辱感を覚えるミオの元に、やっとのことで検査用の器具が登場した。
     プローブはレジ打ちに使うバーコードの読み取り機によく似ていて、それがコードで機材と繋がっている。画面の中に検査から得られたものが映し出されて、そこで臓器に不審な影があるだとか、心臓の波長がおかしいといったことがわかるという。
     そんなプローブがミオの乳房に使われ始めた。
     下乳を持ち上げるようにして、下から上へと、プローブは滑り動く。上までいくと、今度はずり下げんばかりに滑らせて、もう片方の乳房もそうして調べる。
     腹部にも検査が行われた。
     ヘソの周りを何度もなぞり、臓器のスキャンを繰り返し、機材の周りにいる男達は、画面の中に注目していた。
    「健康だな」
    「少年の方はどうだ?」
    「うん、問題なし」
     そういえば、医者の集まりだっけ……と、当たり前のことを今更になって思い出す。仮にも保健機関から派遣されてきた人材だから、きちんとした検査はするだろう。
     そのついでの、おかしなセクハラが許せない。
     ……絶対、おかしいと思うんだけど。
     憤りを抱えていると、超音波検査が終了して、ジェルの拭き取り作業が始まる。先ほどの技師が拭くついでに素手で揉み、どう考えても必要のないタッチをしきりに繰り返していた。
    
         5・性器検査
    
     ネイトがトランクスを脱ぎ、丸出しにしていた。
     ……お、大きくなってる?
     それを横目で見てしまったミオは、慌てて反対側に目を逸らす。あまりジロジロ見てやるのは悪い。
    「さあ、ミオちゃん?」
     それよりも、ミオの正面には中年がニヤニヤと立っている。手招きのようなジェスチャーで、早く脱ぐようにと煽ってくる。そんな目つきのいやらしい中年の前で、隣にはネイトだっている中で、何人も何人もの視線を浴びながら、ミオはショーツのゴムに指を入れた。
     ……やだ、本当に。
     ミオは強く目をつむり、ぎゅっとまぶたに力を入れた。耐え忍んだ表情で、ミオはするするとショーツを下ろし、片手でアソコを覆い隠しておきながら、もう片方の手で手渡した。
    「はい、預かっておくからね」
     それを、中年が受け取る。
     なんでこんなこと、あたしのパンツ……脱ぎたてのものが、目の前で中年の手に渡っている。これみよがしに指にぶら下げ、ひらひらと旗振りのように揺らしてくる。見せびらかした挙げ句に、ピンと両手で伸ばした上、クロッチの部分を裏返した。
    「おや? 綺麗だね? あまり穿いてなかったかな?」
     下着に対する言葉をかけられ、ミオはみるからに引き攣った。
    「そ、それは……わざわざ跡のついたやつなんて…………」
     生理の痕跡を残したものなんて穿いていたら、今まさに声に出して指摘され、「これはおりものの跡かい?」「けっこう履き古しているんだね?」などなど、嫌な言葉をたくさん投げかけられたに違いない。
     それだけはよかったけど、でもよくない。
     人のパンツにあれこれ言ってきて、最悪……。
    「ははっ、なるべく新しいものを穿いてきたわけだ」
    「それはもう……そうです…………」
     丸裸の、靴下とスリッパくらいしか身につけているものがない状態で、ミオ以外の女が一人もいない空間に立たされている。その不安に肩を小さく縮めていき、アソコを覆い隠す手の平も二つに増えていた。
    「ではしっかりと気をつけ、全身を調べてもらうからね?」
    「……はい」
     隣から、ネイトの返事の声が聞こえた。
    「はい」
     なので、ミオも返事を返す。
     気をつけの姿勢によって、隠し続けたアソコを解き放ち、ミオの頬が発熱する。顔から火が出るという例えの通りに、まさしく顔がカァっと熱くなり、頬も額もじわじわと茹で上がっていきそうだ。
     男という男の数々が、二人の身体に群がった。
     ミオの乳房に顔を近づけ、後ろからは背中に息がかかっている。お尻にも吹きかかり、足にもアソコにも、いたるところに視線が迫る。
    「えーっと、お尻のホクロは――」
    「オッパイの周りは……」
    「アソコの付近はねぇ――」
     といった具合に、殺到してくる顔という顔が、口々にホクロの位置を声に出す。記録係は忙しくペンを走らせ、それを素早く書き取っている。ネイトなどは同性に竿まで触られているわけだったが、今のミオには同情の余裕はない。
     ……くぅぅ! 無理! 無理! お願い! 早く終わって!
     脳が煮えていた。
     気がどうにかなりそうになっていて、陰毛を指で触られ、掻き分けられた時などは、もう脳の一部が火花を飛ばしたかのようだった。
     やっと全身検査が終わっても、まだミオに安心は与えられない。
    「はい。もう一度診察台に乗ってね?」
     と、中年はニヤニヤと診察台を指す。
     ミオにとって、もう地獄行きの道を行かされるようなものだ。
     泣く泣く診察台に横たわれば、すぐさまM字開脚の指示が下され、顔から発火しながら開いていった。もう脳の内側で絶えず火花が飛び続けているようなもので、気がどうにかなっている状態で、アソコの観察は開始された。
    「ワレメは綺麗なもんだねぇ?」
     ミオの股に、中年の顔が接近する。
     ……い、いやぁぁぁ!
    「どれ、中身は?」
     指でワレメを開かれて、桃色の肉ヒダさえも中年の視線に晒される。あまりの思いに、ミオは両手で顔を覆い隠していた。誰のどんな力でも、決して仮面が剥がれそうにないほどに、強い力で顔に手の平を貼り付けていた。
    「うん。綺麗な桃色で、ちょっとだけ濡れてるね? 見られただけでも、ある程度は体が反応しちゃったようだ」
     中年はそんな発表を行った。
     ――うっ、うううう!
    「ええっと? 処女だね」
     ――やあっ、ああああ!
    「指を入れてみようか」
     ――いやああああ!
     中年の人差し指が膣口に潜り込み、根元まで埋まる頃には、ミオは完全に発熱していた。首から上だけを熱湯に付け込んで、すっかり火が通ったかのように染まりきり、蒸気が上がっているかのようですらあった。
     ――無理っ、無理っ、無理っ、無理!
    「お? 気持ちいいのかな?」
    「あぁ…………! あっ、やめっ……!」
     中年が指をピストンさせると、ミオはその刺激に反応していた。それを面白がるように、中年はますます活発に刺激を行い、クリトリスへのタッチまで始めると、ミオは髪まで振り乱して声を上げ、しだいに愛液を垂れ流した。
    「あっ! うっ、うう! うん! うあっ、あん!」
     固く貼り付けた両手の平は、ますます強く顔に食い込み、無意識のうちに必死になって表情を覆い隠している。それでも、手の大きさでは覆いきれない顎の下あたりから、顔がいかに真っ赤なのかが見て取れる。
     中年が指遣いを施しているうちに、ピストンしている人差し指は、愛液のぬかるみをすっかり纏い、見え隠れするたびに光沢を放っている。クリトリスを弄っているせいで、脚もビクビクと反応して、足首は上下に動いている。
     やがて、ミオ自身も自覚がないうちに、そもそも自覚の持ちようもなく、全身が高ぶり続けていた。
    
    「あぁぁああああぁぁぁぁあああ――――!!!」
    
     ミオは絶頂した。
     背中を大きく弾み上げ、潮を吹いてしまっていた。
    
         6・ネイトの視線から
    
     ネイトもまた、亀頭やペニスのサイズを測られたり、精液を採取するとかで、射精を強要されるなど、とても散々な目に遭っていた。
     ――い、いっそ死にたい。
     男の子ですら、そんな心境に至るほどの内容だ。
     不幸中の幸いにも、肛門検査にかけてまで手早く済まされ、ミオよりも早く、検査からは解放されていた。いや、正確にいうなら、中年がミオの身体で遊んでいて、大いに楽しんでいるせいで、必要以上の時間がかかっていた。
     診察台で身を起こし、トランクスを返してもらったネイトは見てしまう。
     ――み、ミオさん!
     脚をM字に開いた姿で、中身をじっくり覗き込まれ、中年によって指をピストンされている。絶頂の潮を吹き、それが顔にかかっても、中年は構わず繰り返し、ミオを再び絶頂に連れていく。
     刺激の強すぎる光景に、ネイトはすっかり赤らみながら、目を離せなくなっていた。
     ――ミオさん……い、いや! 見ちゃまずい気が!
     そんなことは頭ではわかっていて、目を逸らそう逸らそうと、理性では思っている。だけど目の前の裸には引力がありすぎて、まぶたを閉じることさえできずにいる。
     中年はノギスまで用意した。
    「はーい。クリトリスは――」
     と、性器の計測を開始する。
     クリトリスは何センチか、大陰唇、小陰唇は何センチか。膣口の直径、アソコから肛門までの距離、肛門の直径までも測っていき、その全ての数字を機器として発表する。聞くべきではないとわかっていても、無意識のうちに耳に神経は集中していた。
     ――ミオさん、こんな……。
    「はーい。撮るからねぇ?」
     カメラまで用意され、一体どんな気持ちでいただろう。
    
     パシャ! パシャ!
    
     アソコに向かって、フラッシュが輝く。
     目を逸らせない魔力があった。
     ミオさんに悪い、見るべきじゃない――いくら頭で思っていても、体はそのように動かない。魔力のあまり、まばたきさえもしなくなり、ネイトはじっとじっと見つめていた。
    「四つん這いになってねー」
     姿勢を変える指示により、ミオが尻を持ち上げると、ネイトの視線はその曲線美に釘付けになっていた。
    「では肛門を観察させて頂きます」
     一体、ミオはどんな気持ちでいるだろう。
     顔を埋め込み、シーツを力強く握った拳が震えている。全身が強張っていて、お尻まで小刻みにプルプルと震えて見える。こんなにも羞恥心を高ぶらせて、頭の中身がどうなってしまっているか、ネイトには想像もつかない。
     中年の顔がぐっと迫って、肛門の観察は始まっていた。
    「可愛いよ? ミオちゃん」
    「大丈夫大丈夫」
    「ネイトくんも見守ってくれてるからね?」
     周りの男達も、嬉しそうに楽しそうに、わざわざそんな言葉をかけている。自分の名前を出されたことで、やっぱり見ていては悪い気持ちが改めて働いて、それなのにやっぱり、最後まで目は逸らせなかった。
     理性よりも、目の前の光景が視線を引きつける力の方が、どうしても強かった。
    
     パシャ! パシャ!
    
     肛門の撮影が行われる。
     どんなに深くミオの心を抉っているか、わかりもしなかった。
    
         7・幕引き
    
     さすがに気まずいなぁ……。
     と、ネイトが思うのも無理はなく、全ての項目が終了して、やっと服を着て廊下に出ると、未だに顔が赤いままのミオが隣を歩く。ネイトの脳裏にも、あらゆる光景がしっかりと焼き付いているわけで、どうしても変な居心地がしてしまう。
    「お願い!」
     ミオは肩を掴んで迫って来た。
    「お願い! みんな忘れて!」
     どうか、一生のお願いです。
     そんな切実さがありありと伝わってくるような、懇願に満ちた目で頼まれると、ネイトも頷かないわけにはいかない。
    「は、はい……」
    「本当に! 本当にお願いね!」
    「はい!」
     ネイトは大きな声で答えていた。
     しかし、本当に忘れられるわけがない。ミオのおっぱい、ミオのお尻、イカされた光景、アソコや肛門の写真を撮られていた光景。
     忘れないと、ミオさんが……そんな意識を持ってはみるも、いかに深く焼き付いた記憶であるか、ネイトはよくよくわかっていた。
     生涯、消えない。
     表向きに、忘れたフリをすることしかできない。
     せめて、そうしようと、ネイトは心に誓っていた。
    
    
    
    


     
     
     

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         0・序
    
     大陸辺境としては異例とも言える、生徒数千人を超える名詠式専修のハイスクール──それがトレミア・アカデミーだ。敷地規模は他の名詠学校のゆうに数倍、その設備・教員の質も他の名門校に劣らないと評される。
    
     ――指定測定診断。
    
     そんなトレミア・アカデミーが実施しているものとして、名詠を使うことで、身体に現れる変化を調べる調査がある。保健機関と契約を結び、毎年必ず何人かの生徒を検査に出し、一般人との違いを探り、詠使い特有の体質を調査する。
     例えば、特定の詠使いに限って身長が高い、胸が大きい、何か変わったアザやホクロがある、といった特別な傾向はあるのだろうか。名詠のために体調不良になることはあるか。様々なデータを得るためにも、基本的な診断は欠かせない。
     名詠式。それが、この学園で生徒が専門的に学んでいる技術である。自分の望む対象を心に描き、それと同色の触媒を携えた上で対象の名を賛美する――一種の物体転送術。
     赤・青・黄・緑・白の五色に分類され、そこで生徒は各自の専攻色を決め、その専攻色と同色の物体を詠びだすことを目標とするわけだ。
     指定測定診断も、それぞれの色から数名ずつ選ばれる。色別のデータを取ることで、色別の何か特別な傾向があるのかどうか、医学的に発見することが目的の一部だ。
     ……別に関係無いけどね。
     授業を受ける教室の中で、一人の少女がちょっとした考え事をしていた。
     ミオ・レンティア。金髪童顔、おだやかな口調が特徴で、実年齢である十六よりは二、 三歳幼く見られることが多い女子生徒だ。
     さっきまでの休み時間、噂話が耳に入ってきた。
     緑の専攻生徒から、既に数名の生徒が選ばれている。担当職員は男ばかりで、男女の区別なく裸にさせられる。十代半ばの思春期の少女には、拷問とすらいえる測定診断は、一部では『試練』とか『修行』とかいった言い方さえされる。
     ……あー、よかった。あたしじゃなくて。
     大勢の生徒から、ピンポイントに自分が選ばれる可能性は低い。最初から心配はしていなかったが、他の誰かが選ばれた話を聞くと、それはそれで安心できる。
     自分じゃなくて良かった。
     ……選ばれちゃった子は災難だけど。
     そんな物思いも、教師が展開する授業の内容に押し流され、思考の彼方へ消えていく。何事もないように、いつも通りに授業が終わった時だった。
    「あー、ミオ・レンティア。ちょっと話があるそうなんで、このあと来て欲しい」
     ……え、なんだろう。
     例えば、窓ガラスを割るだとか、喧嘩をしたとか、問題を起こした覚えはない。だから、呼び出しの上で説教、なんてことはないはず。
     しかし、時間と場所を指定され、来るように言われるのは……。
     ……何かしたっけ?
     不安が湧いてきてしまう。
    「頑張ってね。ミオ」
    「く、クルル……」
    「大丈夫だと思います。ミオさん、何もしてませんし」
    「うん、ありがとね……ネイト君……」
     一体、何の話があるというんだろう。
     どうせ行ってみれば大して不安がることもなかったりする。身に覚えもないのに、深刻になっても仕方がない。
     放課後を迎えた後、ミオは言われた通りの教室へ向かう。
     そこで待っていた教師の話を聞き、ミオはみるみるうちに引き攣っていた。
    
         †
    
     トレミア・アカデミーの敷地中央部で、ドーム状のアーチを描く建物。
    『図書管理棟』――蔵書数百二十万冊を数え、地上五階、地下二階にまで広がりを持つ施設である。学習だけではなく交流・休息といった目的でも用いられ、生徒のみならず教師も頻繁に足を運ぶ、多目的ホールという一面も持っている。
    「なんでなのかな……」
     その二階のテーブル席で、ミオは真っ直ぐ下を向いていた。
    「災難ね」
    「クルルぅ、人ごとだと思ってぇ……」
     あれに選ばれるのはどういうことか、知っているくせに。ミオの隣で、クルーエルは頬を朱色に、何からというわけでもなく、何かから目を背ける。既に先日受けて、それ相応の思いを味わったのを思い出しているのかもしれない。
    「だいたい、ネイト君まで選ばれたんだっけ?」
     ミオは真正面の席に目をやった。
    「そ、そうみたいです……」
     困った顔をしているのは、白い制服に身を包んだ幼げな生徒。深い紫色の髪と、中性的な面立ちの彼は、せいぜい十二、三といった年下のあどけなさがある。
     ネイトは夜色名詠の使い手だ。
     指定測定診断はそれぞれ専攻色の中から数名ずつ選ばれるが、五色のどれにも属さない独自の色は、他に使い手が一人もいない。ネイトしか選ばれようがなく、それもそれで同情ものだ。
    「ま、クルルだって無事に生きて帰って来たし、大丈夫よねぇ」
     無理におどけてみせるが、正直なところ不安だ。
     指定測定診断にあたる職員は男ばかりで、クルーエルの時も女性は一人か二人くらいなものだったという。異性しかいない中を裸で過ごすなど、十代半ばの思春期には、いや、きっと大人にとっても、立派な拷問ではないか。
    「異世界。あれは全部、別世界で起きた夢の出来事と思った方がいいかな」
     クルーエルからの助言とも言えない助言に、ミオとネイトはかえって不安を膨らませる。恥ずかしいのはもっぱら女の子だろうけど、そりゃ男子だって嫌がるに決まってる。
    「まあ、ね。死にに行くわけでもないしね」
    「そう……ですね……」
     ミオも、ネイトも、苦笑気味に引き攣っていた。
    
         1・体重、身長
    
     当日。
    「いや、よりにもよってね」
    「ですね……」
     なんとも気まずい中で、ミオはネイトを伴い廊下を進む。指定の教室に辿り着き、待っていた職員達と挨拶を交わしていく。どの誰もが男という男揃いで、女性なんて気配もない。
     ……しかも、ネイトくんと同時にって。
     見知らぬ人物が、あくまでも検査や測定のためにミオの裸を見ることになる。だけではなく、ネイトの視線まで浴びるかもしれない。ネイトは悪い子ではないけど、立派な男の子だし、裸の女の子が近くにいたら、やっぱり見てしまうはず。
     ちょっとは見ないようにしてくれるだろうけど……ちっとも見ないで終わるなど、そんなことはきっとないわけで。
     すぐに脱衣の指示が出て、まずはパーティションの中で制服を脱ぐ。
     こうして仕切りを立てて、脱衣所を簡単に作ってあるのはいいけども、ここでショーツ一枚になった後、ほとんど裸の状態で、結局は男達の前に出る。そりゃ、ストリップまで披露したくはないから、なけなしの配慮は受け取るけど。
     脱衣カゴの中にスカートを折り畳み、ブラジャーをその下に隠した後、ミオは両腕でみっしりと胸を締め付ける。
     これでショーツ一枚だけ、あとは靴下やスリッパくらい。白い下着はこの日のために選んできたが、それで恥ずかしさを軽減できるかといったら、そこまで出来ている気がしない。
     ……うっ、本当にちょっと。
     このまま脱衣スペースの外に出て、肌という肌中に視線が絡んでくることを思うと、足が震えて動かない。石のように固くなり、前に動いてくれなくなる。
     石化したかのような足を一生懸命になって動かし、辛い思いを抑えて出ていくなんて、なんて悲しい努力だろう。
     ミオがそっと顔を出し、だんだんと出て行くと、体中に視線が這い回った。ミオに視線を向ける男という男の数々が、一様に目線をやり、ミオのどこかを見ているのだった。
     それに、ネイトも。
     ミオの裸を見るなり、赤くなって目を背けていた。ウブなトランクス姿の、同じく裸になった年下の少年は、もっと余裕でもあって、この状況でケロっとしていられるくらいだったら、可愛く思っていられただろう。
     生憎、そこまで余裕はなく、ミオだって顔が赤い。
    「ははっ、すまんねぇ? 本来なら別々にするところ、多忙なもんで時間短縮の措置を執らなくちゃいけないんだ。こっちの都合で悪いけど、我慢してもらえるかな?」
     職員の中でも、この場を取り仕切るリーダーの男は、ヘラヘラと笑っていた。
     ……かな? って、本当は断りたいけど。
     それにリーダーの男は、頬がだらりと垂れ下がり、犬のブルドッグによく似ている。しかも頭は禿げ散らかり、下品な目つきでミオの肢体を舐めてくる。視線だけでゾっと背筋が凍るような中年だった。
    「だっ、大丈夫ですよ。ね? ネイトくん」
    「は、はい! すぐに済ませましょう!」
     ネイトはピンと背筋を伸ばし、素直な気をつけの姿勢でそう言った。
    「では身長、体重、スリーサイズとやっていくので、ネイト君から頼むよ」
    「はい」
     ネイトはすぐさま体重計に足を乗せ、他の記録係を担う職員は、リーダーが読み上げた数字を紙に書き込む。
     次はミオの番だった。
     ネイトと入れ替わり、体重計のひんやりとした鉄の上に両足を乗せ、靴下越しにも冷気を感じる。胸を隠すための腕は、自然と固くなっていき、ミオの中では感情が膨らんでいた。
     乳房だけは隠せても、ショーツの方はどうにもならない。辛うじて全裸でないだけで、ギリギリまで全裸に近い露出度で、背中や太ももは全て丸出し。肌という肌が空気に触れ、四方八方にぽつぽつと立っている男達が、一体どこをジロジロと見ているかもわからない。
    「腕、下ろそうか」
     中年がそう言った。
    「えっ」
     ミオは困惑した。
     だって、体重くらいで、姿勢とか関係ないんじゃ。
    「下ろそうか」
     ……ちょっ、ちょっと、ここで?
     まだ乳房を晒す段階でないと思っていたら、早くも気をつけの姿勢を指示してくる。真正面には何人も何人も、バインダーを手にした男に、何故いるのかわからないオジサンや青年がずらりと並び、中年もにんまりとして立っている。
     こんなの、みんなにオッパイ見せろって言われてるのと変わらないのに……。
     断ることも出来ずに、納得のいかない気持ちで、ミオは腕の力を緩める。だらりと両腕を垂らした途端に、乳房に視線が集まっていた。ミオの前に並んだ全ての瞳が集中して、平坦に見えてしっかりと膨らんだ胸の形を確かめていた。
     み、見過ぎ……殺到する視線が一体どの部位に当たっているか、目を瞑っていてでさえ、皮膚感覚でわかる気がする。
    「なるほどねぇ?」
     特に中年は好奇心たっぷりで、品定めの目を向けてくる。胸の形とか、大きさとか、ふむふむと評価を下していそうな顔をしていて、体つきのことをどう思われているかわからない居心地の悪さがする。
    「ではオッパイの見た目を書いていくので、そのままでお願いね」
     青年の一人が記録係で、腕に抱えたバインダーの中にペンを走らせ、ミオの胸について書き込んでいる。大きさとか、形とか、乳首の色合いとか、色んなことを書かれていく感覚に、ミオは頬を震わせる。
    「うん、体重は――」
     数字が読み上げられる。
     ……やだっ、ネイトくん。お願い聞かないで。
     大きな声で、確実に聞こえてしまっている。重いだとか、思われていないだろうか。
     記録者によって、バインダーに数字が書き込まれる。
    「はい、いいよ」
     合図が出るなり、ミオは即座に胸を隠し直した。本当に反射的に覆った上、ぎゅっと強く締め付けていた。
     やけに肩が持ち上がり、全身が強張った状態で、ミオは体重計の上から降りる。振り向いた先でネイトと目が合い、慌てて目を反らされて、ミオも思わず下を向く。
     ……ずっと、見てた?
     後ろ姿とか、剥き出しの背中とか、パンツとか。たとえ乳房を隠してしても、他にいくらでも見えている部分にネイトの視線が合ったと思うと、頭がじわりと熱くなっていた。
     
     
     身長計で背筋を伸ばすネイトの頭に、バーがすうっと下ろされていく。
     ……どうしよう、あたしも見ないようにした方がいいの?
     男の子だって、恥ずかしがるかもしれないけど、見られて困るオッパイはないわけだし、ネイトだって少しはミオの体を見たはずだ。
     ネイトの計測が済むまで、年下の体を見ていると、やがてミオの番になる。
    「ではネイトくんも、しっかりと見守っているように」
    「え」
    「え」
     二人で同時にそんな声を上げていた。お互いの目を見合せ、急に気まずくなったように逸らしていった。
    「ああ、ここでは男性機能の働き具合なんかも診るからね。内容に沿った指示なので従うように」
     中年はにっこり、楽しげに、優しげに微笑んでいた。
     ……内容通りって、じゃあ見せるの? ネイトくんに?
     ミオは軽く青ざめた。
     ここで顔を合わせたきりになる男達と、これからも顔を合わせるネイトでは、見られることへの気持ちは違う。
     ちょっと、その、これから気まずくなるんだけど……目で訴えるミオだが、中年は身長計を指して促すだけで、許してなどくれそうにはない。
     身長計に足を乗せ、柱に背中を合わせると、気まずく居心地の悪そうな風のネイトと視線が合う。刺激の強いものを見て、ドキドキ強い赤らんでいるネイトに対して、ミオも負けないほどに赤面している。
    「ほら、腕」
     中年は耳に唇が触れそうなほどの距離から囁いてきた。呼気に含まれる湿気と、生暖かい感触が耳の穴にまでまとわりつき、身体中に鳥肌が立った。
     な、なに今の……気持ち悪い……ミオは全身を震わせながら、肌の泡立つ感覚を覚えながら両腕の力を緩める。
     ネイトくん……腕を下ろす気配を見せただけで、ただでさえ緊張しきった様子が、余計に全身を強張らせ、視線はミオに釘付けである。すっかり性に魅了され、もう目を逸らすことなんて考えられない様子であった。
     ……ああもう! 見せるしかない!
     ミオは腕を下ろし、気をつけの姿勢を取った。
     たくさんの視線が乳首に絡み、ネイトにまで見られている。しかもトランクスの中身まで膨らませて、自分が興奮のネタになってしまっていることを実感する。他の男達も、ニヤけた顔ばっかりで、すぐ隣にいる中年も、間近から視姦してくる。
     視線照射によって皮膚を焼かれて、乳房の肌がヒリヒリするような痒いような感覚になっていくのを、ミオは嫌というほど味わっていた。
    
         2・スリーサイズ
    
     見てしまった罪悪感があるわけなのか。
    「……すみません」
     非常に申し訳なさそうに、ネイトは床に顔を落として肩も小さく縮めている。
    「あーもう、しょうがないって」
     本当はしょうがなくないけども、本人がこれでは責められない。だいたい、元はといえば男女の測定を同時に実施する方がおかしい。
     ところでネイトも、勃起が恥ずかしいのか、隠すようにして後ろを向き、身体をくの字にしている。テント張りのトランクスを目にするのは、ミオにとっても恥ずかしいからいいのだけど、絶対にオッパイを見られる女の子の気持ちの方が切実だと思う。
    「さ、次を始めるよ」
     中年はメジャーを手にしていた。
     ……スリーサイズか。
     ってことは、この人なら絶対に大きい声で数字を読んで、ネイトくんにも聞こえるように言っちゃうし。配慮を求めたいところだが、果たして頼んで聞いてくれるものだろうか。ニヤニヤと、ニタニタとした顔を見て、切実に訴えても流されそうな気がしてくる。
    「では今回はミオちゃんから」
     中年の男が迫って来る。
    「ネイトくん。耳を塞いでくれると……」
    「はい! 聞かないようにします!」
     正直な背中がピンと伸び、両手で直ちに耳を塞いでいた。
     まったく、本当に憎めないなぁ――あれだけ乳房を見られているのに、だけどネイトだって好きで見たわけでは、いや、好きで見たんだろうけど、ミオとの同時実施は別にネイトのせいではない。
     しかし、中年は見るからに鼻を伸ばしている。楽しんでいるようにしか見えない、いやらしい気持ちで満載の相手の前で、それでも両腕のクロスを解くのは屈辱だ。
    「さあ、腕を広げて」
     両腕を左右に水平に突き伸ばすと、中年はミオの背中にメジャーをかけるため、真正面から抱きつくかのように迫っていた。密着こそしていなくとも、本当に抱きつかれそうな予感にミオは震えていたのだった。
     無理無理っ、あたしこんなの……中年の頬が、ミオの耳に振れてきそうだ。呼吸の音までよく聞こえ、背中には指が当たっている。
    「ひっ」
     べったりと、手の平全体で触られた時には、ミオの全身がピクリと動いた。
     ……やだっ、気持ち悪い。
    「ミオちゃん? アソコとか、お尻の穴の検査もあるからね?」
     囁かれ、背中に寒気が走っていた。
     貼り付いてきた手を這わせる形で、中年はミオの背中にメジャーをかける。脇の下を通ったものが、中年の両手でピンと伸び、そんなU字の内側に乳房はある。
     目の前で、遠慮もなしにジロジロと、何秒も眺めてようやく乳房に巻きつける。目盛りを合わせ、中年は無遠慮にも大きな声で読み上げた。
    「なるほどねぇ?」
    「そうそう、身長に対してこのくらいだと、だいたいかわいいオッパイなんだよ」
    「それにしても、いい顔しちゃって」
     ミオのバストサイズを知るなり、何人もが口々に語っていた。
     好き勝手に品評して……メジャーはアンダーバストの部分にずらされて、すると何カップかが判明するから話題にされる。ウエストを計測されても、やっぱり話の種扱いで、スタイルがいいの悪いのという声が聞こえてくる。
     そして、ヒップだ。
     お尻にメジャーを巻くために、中年は下半身に抱きつくような、しゃがんだ姿勢で腹に顔を近づける。まるで見えない場所での作業がやりにくくて大変なようにして、わざとらしく手こずっていた。
     ほんと、はやくして……ショーツの真正面に顔があるのは耐え難い。いやらしい目つきを見ていると、中身を透視して視姦されている気がしてきて、ますます嫌だった。
     しかも、まただ。
    「いっ!」
     やだ――ミオは驚く顔でのけ反った。中年は両手で尻に触っていた。丸みを掴み、五指をしっかりと食い込ませてから、やっとメジャーを巻き付けていた。
     クロッチの上から、アソコに目がぐいっと迫る。
     本当に布の中身を透かして覗かれているような気になって、頭がじわじわと熱に侵食されていく。
     そして、ヒップサイズも大声で公表された。
     スリーサイズの全てが男達のネタにされ、これだけ大きな声だったら、耳を塞いでいたってネイトにも聞こえているに決まっていた。
    
    
    
    


     
     
     

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  • クルーエルのパンツ1枚測定・健康診断【後編】

    前編

    
    
    
        四・超音波検査
    
     クルーエルは診察台に横たわる。
     超音波検査を行うため、仰向けになる指示が出て、こうして倒れているのは皿の上に乗せられた料理の気分だ。みんなが集まり、クルーエルの裸を見て、胸やショーツを目で食べる。
     食べられてるみたいな感覚が、凄くする。
     目を使って味わって、モグモグと咀嚼するのは頭の中でやっている。体中が男達のエサにされてしまって泣けてくる。
    「始めていこうか。クルーエルちゃん」
     豚男は手の平にジェルを取り、クルーエルの胸にべったりと塗り始める。ひんやりとした感触にブルっと震え、そのまま塗り伸ばされる感じにゾワゾワと鳥肌を立てる。
     豚男に触れるのが単純に気持ち悪いのもあったけど、ヌルヌルで冷たいものが肌に広がる感覚も、なんだか慣れない。
    「これはね、皮膚とプローブのあいだに空気が入らないようにするためなんだ」
     もっともらしいことを言って、ニヤけている。
     ……絶対、エッチな気持ちで塗ってる。
     クルーエルは大人しく事が過ぎ去るのを待っていた。皮膚の表面に塗り伸ばされ、ヌルヌルとしたコーティングが広がっていく感じに、静かに目を瞑って時を過ごす。
     ジェルにすっかり乳房を包まれ、まわりの皮膚は腹にまで及んでいく。
     お腹の臓器も見るんだったか。
     そこさえ終われば、塗る作業は終わると思ったのに。
    「んっ」
     しかし、胸に手が戻って来て、五本の指で揉み始める。
     とっくにジェルを塗り終わり、もう身体に触れる理由がなくなっても、なおも乳房を揉みしだき、ただの欲望による接触は一分ほど続いていた。
     やっとのことで手が離れる。
    「テカテカしたおっぱいがね。とってもエロく見えるよ? クルーエルちゃん」
     豚男はクルーエルの顔を覗き込み、ニカっと笑い、最後のワンタッチとばかりに、あと一回だけ乳房を揉む。
    「確かに、ああしたテカテカとした感じは、マッサージ系のAVでよく見ますな」
    「あー。それ、わかる」
    「俺も見るぜ? あのテカテカ、まさにそれじゃん?」
     黒髪と茶髪と金髪は、乳房がジェルまみれなことで盛り上がる。
    「はーい」
     若手看護師は元気に機材を運んできた。
     キャスター付きの、超音波の波形を映し出す専用機材で、身体から読み取ったデータを見ながらガンなどを発見する。
     プローブはレジ打ちに使うバーコードの読み取り機に似た形で、あれで身体のしこりや臓器の具合を読み取るのだ。
     豚男はその読み取り部分を乳房に当てて調べ始める。仰向けのクルーエルには見えないが、機材の方の画面には、読み取ったものが映し出されているはずだ。
     下乳を持ち上げるようにして、下から上へと、プローブは滑り動く。上までいくと、今度はずり下げんばかりに滑らせて、もう片方の乳房もそうして調べる。
     腹部にも検査が行われた。
     ヘソの周りを何度もなぞり、臓器のスキャンを繰り返し、若手看護師と中年医師の二人で機材の画面に注目している。
    「このあたりの影って」
    「ああ、それは特に問題ないね」
    「へえ? 健康な臓器っすか」
     今頃になって、ようやく医療関係者としての真面目なやり取りが、そこで展開されているようだった。
    「このあたりで終了かな? じゃあ、拭いてあげるね?」
     超音波検査を済ませると、塗りたくったジェルを拭き取る役目は、当然のように豚男が買って出る。拭くついでにも、拭き終わった胸を素手で触られ、クルーエルは顔を顰めた。
     ここまでは終わった。
     なら、あとはショーツの中身だけである。
    
         五・性器検査
    
     全身から汗が噴き出る。
     ――いま、夏だっけ?
     なんて、おかしなことを考えちゃうのは、それだけ頭が動揺して、本当は冷静なんかじゃないからだ。心臓はバクバクいって、鼓膜の内側は本当に賑やか。
     クルーエルのショーツに豚男の手がかかっていた。
     ゴムに指が入り込み、あとはずるっと引っ張るだけ。
     ――これ、脱がされたら、下の毛とか、アソコとか、みんな見えちゃうわよね。
     だから心も硬くなる。
     今の時点で自分は一体どうなっているか。顔はどれくらい赤いのか。熱は何度になってしまったか。こんな状態で脱がされたら、その恥ずかしさで自分はどうなるか。
    「クルーエルちゃん? これが最後なのよ?」
     女性職員が診察台に近づいてきた。
     もう終わる、あと一息。もうちょっとだけ頑張ろう。
     って、そんな慰め方を、普通なら想像する。
    「最後の試練なの。パンツを脱いで、下の毛をみんなに見てもらって、アソコの中身も全員で拝見するわ。もし疾患があったら、症例のサンプルとして、みんなに勉強させなくちゃ。健康だとしても、ものは経験。みんなで見るわよ?」
     これから起こることを女性職員は伝えてくる。
    「アソコに指を入れるわ。クリトリスも触るわ。器具を挿入した検査方法も行うけど、衛生のためにコンドームを使うのよ? 避妊具よ? 本当はセックスに使うものをあなたにも使うの」
     全てが悪魔の囁きだ。
     避けられない未来を丸ごと伝えられ、クルーエルは今のうちから顔の赤みを増していた。
    「じゃあ、脱いじゃおっか。クルーエルちゃん」
     豚男の両手が、下へと動く。
     ずるっ、と、ショーツが脱げ始めると、まず先に見える陰毛が、彼らの視線に晒される。脱げる瞬間を見よう見ようと、みんなで集まっていた全員が、クルーエルのアソコに注目して、覗き込んでいた。
     ……やだ。
     さらに下へと動くにつれ、陰毛の三角形が端っこだけ、半分だけ、四分の三だけ、だんだんと見える量は増えていく。
     ……見えちゃう。
     今にも泣き出しかねない顔は、トマトのように染まっている。ついつい下を隠そうと手が動くと、女性職員がその手を捕まえ、頭上に押さえ込んでしまう。バンザイに近い形で、クルーエルは両手を封じられてしまった。
     みんなでアソコを視姦してくる中で、クルーエルの秘所は鑑賞され尽くす運命に置かれている。
     陰毛が完全に見え、アソコのワレメが見え始める。
    「お? お? 綺麗な性器!」
     金髪が興奮する。
    「いいですね。アソコの具合も芸術的かつ素晴らしい!」
    「グッド! グッド!」
     人の性器で盛り上がる。
     見世物にされる恥辱で頭がどうにかなりそうだ。
     アソコは完全に見えきって、あとは太ももを通り抜け、膝の向こうへ、ショーツは遠ざかっていく。まるで大切でならないものが離れてしまうみたいで、手を伸ばしたい思いでいっぱいになった。
     ――本当に、全部裸に……っ、もう何も身につけてない……!
     靴下しか残っていない。靴下なんて、体を隠すのには何も関係ない。
     恥ずかしい部分を守る最後の一枚だったのに、豚男なんかの手に渡った。大きな手柄を立てたような顔で本人に見せびらかす。勝ち取った獲物みたいに高く掲げて、指にぶらさげて、ひらひらさせて。
    「うんうん。これは前から穿いてたんだね? 痕跡がしっかりあるよ」
     これみよがしに、クロッチの所を裏返し、生理のおりものがついた部分をまじまじ見たり、指で撫で回す。
     しかも、それをスーツの胸ポケットに入れていた。
     ――そんなっ。
     今まで下腹部を守ってくれていた最後の鎧は、豚男なんかの元に行き、胸ポケットを膨らませている。白い布が少しはみ出て、だらしなくよれていた。
    「では脚を開いて下さい」
     中年医師の命令は、乙女には処刑宣告に近い。
     ……こんな、見せびらかすみたいなポーズって、こんなのっ。
     頭の中身が沸騰しそうで、今の自分の表情がどうなっているのか、いっそ考えないようにしている。
    「……はい」
     クルーエルは自らM字開脚のポーズを取った。
     ――ううううっ! ま、丸見え……!
     裸で、アソコは丸見え。たとえ服を着ていても、このポーズに格好良さの欠片もない。情けなさの固まりだ。
     ――頭、どうにかなりそう……絶対沸騰してる……脳みそ、やば……!
     視線がアソコに集まる。ワレメが視線で撫で回され、毛だってニヤニヤと見られ放題だ。
    「では診ていきますよ? 肛門から」
     中年医師がペンライトを手に取ると、まず確かめるのは肛門だった。
     ――やだっ! お尻の穴? そんな汚いところまで……!
    「えーっと、綺麗ですねぇ? ふむふむ、色合いもいいもんで。特に炎症などはなく、こちらは健康的ですが、一応皆さんも診ておきましょう」
     もう鑑賞会だ。
     中年医師が覗き終わると、今度は黒髪が、茶髪が、金髪が、豚男が、順番になって下腹部に顔を近づけ、肛門は一人一人の目に収まる。クルーエルの両手を押さえる女性まで、豚男と交代しつつ、覗きに動いていた。
     視線を送られることが、一回ずつ針で刺されるみたいに痛くて、ジロジロと見られ尽くした感覚が肛門に残っていた。
     ――お尻の穴……全員にチェックされた……!
     顔から湯気が出ている。それくらい熱い。脳がくつくつと煮立って蒸発して、白い蒸気となっている。
    「性器のチェックを行います」
     指で開かれた。
     ――な、中身……ジロジロっ、無理っ、恥ずかしすぎる……!
     中年医師の視線が注ぎ終わると、やっぱり次々と交代が繰り返された。
    「桃色の美しい色合いです。ずっと見ていたくなりますね」
     と、黒髪。
    「エロいねぇ? あ、濡れてない? ははっ、クルーエルちゃんはみんなにアソコを見られて愛液を出しちゃったか!」
     豚男は満面の笑顔で言っていた。
    「ち、ちがっ、濡れてなんて――」
     もちろん、クルーエルは否定した。
     必死の声を荒げた。
    「いいえ、愛液ね。膣分泌液ね。なるほど? 羞恥心を煽られ、見られることによって濡れることもある。とは知っていたけど、クルーエルちゃんも視線だけで気持ち良くなっているようね」
     人がエッチな体をしているような解説をされ、頭はますます恥辱でどうにかなる。
    「はーい。測定だよ」
     若手看護婦は器具を片手に下腹部へ回っていた。
     ノギスだ。若手看護師はそれを近づけ、クルーエルのワレメの長さを明らかにすると、さらにクリトリスまで挟む。指でくぱっと中身を開き、膣口の直径さえも声に出し、それから全てを書き留める。
    「で、次はこれね」
    「あぁ…………んぅ………………」
     シリンダーが挿入された。
     異物感が収まって、辱めを受けている気持ちがした。
     指よりも細い、負担のない器具だ。目盛りのついた棒状で、一体どこまで入るのか。膣の深さが何センチかまで調べている。こんな風にアソコの情報を調べられ、記録されてしまうだなんて、こんなのもう生きていけない。
    「次は膣圧ね。これを入れたら、アソコにぎゅーって力を入れてね」
     アソコの力まで調査されてしまう。
     性器の情報が何もかも取られていく感覚に、クルーエルの表情はすっかり濡れる。耳なんかとっくに真っ赤だ。
     クルーエルの膣内には、また別のものが入っている感覚がある――膣圧計だ。
     柔らかいゴム製の棒には、何かチューブが繋がっていて、力を入れればチューブの先で目盛りの針が数字を指す。
     ぎゅっと、膣に力を加える。
    「はい、いいよ?」
     膣圧の数字が出ると、器具を抜き取った若手看護師は、それも紙に書き込んでいた。
    「じゃあ、あとは中の触診だね」
     中年医師が下腹部の前につき、ビニール手袋を嵌めた手でワレメをなぞる。アソコを触られる感じに表情は険しくなり、顔の熱さで額に汗が滲み出る。
     にゅっ、と、指が入ってきた。
     ――あうぅ……こ、これさえ終われば……。
     クルーエルは目を瞑り、本当に最後の試練を耐え抜こうと、ぐっと全身に力を入れる。歯を食い縛り、茹で上がった顔を顰め、我慢の準備を整えた。
    「うーん」
     指が動き始める。
     指先を使って、膣壁の色んなところを探る。指の角度を変え、深さを変え、様々な部分をこすって確かめている――すごく、調査されてる感じ。こんなの落ち着かない。
    「温かいですねぇ? 処女膜は見てわかりましたが、未経験のまだ男を知らない閉まり具合が指にまで伝わりますよ」
     アソコへの評価を下す。
    「膣分泌液も増えていらっしゃるね。うん、この感じはあれかな? 何千人ものアソコを診てきてるんで、わかっちゃんですが、オナニーしてるでしょ」
    「――なッ」
    「図星ですね? いやぁ、いいのいいの。当たり前当たり前」
     当たり前とか、そういう問題じゃない。
     面白い情報を知ったものだから、みんなの目つきがギラついた。豚男なんてヨダレを垂らすし、若手看護師は何かムカつく顔をしてくる。
    「あらぁ? するのねぇ?」
     女性職員は微笑ましいものでも見るような目をしてくる。
    「んっ、んぅ………………んぅ………………んぅ……………………」
     それに、探られているうちに変な感じが強まって、歯を食い縛っていなかったら、もっと色んな声が出そう。聞かれたくない。
    「ほほう? さすが、オナニーをしているだけあって、気持ちよさそうなご様子になっておられますなぁ?」
     黒髪がいかにも興味深そうにしてくる。
    「ま、一応確認しましょうか? そのご様子は痛みではないですか? 何かヒリヒリするとかいったことはありませんか?」
     中年医師はやけに勝ち誇っている――むかつく。
     すごく、むかつくけど……わたし、やっぱり良くなっちゃってる……。
    「……感じて、ます」
     駄目だ、脳が蒸発で消えそう。自分で声に出して認めてみたら、カッと熱が上がった感じがして、顔に皮膚は残っているかなんて、おかしな心配までしてしまった。
    「おおっ」
    「やっぱねぇ?」
     茶髪と金髪は盛り上がった顔をする。
    「さて、この感じは子宮が降りてきてますね? こうして奥をやると、ポルチオに触ることができますよ」
     中年医師は根元まで指を埋め切り、コリっとしたものを撫で挙げるみたく、下から上に刺激してくる。そのせいか、下半身に電流が走り、太ももがプルっと震え、腰がモゾモゾとしてしまう。
    「んっ、んぅ……んっ、んっ、んっ………………んっ、んぁ………………んっ、んん、んぅ…………んっ、くっ………………んぅふぁ………………んっ、んぅ………………」
     絶対、声出ちゃう。
     喘いだりしたら、余計に……。
    「ははっ、クルーエルちゃん。その脚がくねくねしてる感じが可愛いね? 足首まで上下に動いちゃったりして、そんなに気持ちいい? すごく我慢してるね? 顎に物凄い力が入っているの、見ていてよーくわかるよ?」
     豚男が実況してきた。
    「あら、まぶたがぎゅって強くなったわね? ふふっ、横なんか向いちゃって、顔も隠したいのね? でも、真っ赤なお耳が見える横顔だけで、十分に可愛いわよ?」
     相変わらず手を押さえ込んでくる女性職員も、いやらしく囁いてくる。両手さえ自由なら、手の平で顔を覆い隠していたいのに、それをさせてくれない。
    「んんんぅ……! んっ、んぅ……んぅ…………!」
     刺激、強い――だんだん、頭が――。
    「ポルチオを集中的にやっていきますよ?」
     指先でくりくりと擦り上げられ、まるで電流を流され続けているように、腰も足もビクビクと反応している。愛液が流れ出し、シーツに染みを広げ始める。
    「あっ、んっ、んっ、んぅ……んあっ、んっ、ん……んぅ……」
     反応は強まっていた。
     顎にどんな力が入り、どれほど歯を食い縛っても、出て来る声はトーンを上げる。
    「んん! んっ、んぁっ、あぁ……! あっ、んっ、んっ、んぅ……!」
     みるみるうちに高まっていた。
     体の芯に蓄積され、大きく膨らんでいくものが、やがて爆発に向かっている。クルーエルはこの未知の感覚を怖がり、必死になって我慢をするが、彼女自身では止められない。
    「ああ、これは前兆ですね」
     中年医師は指を止めない。
     それどころか、むしろ活発化させていた。
    「悪いけど、このままポルチオの感触を確かめさせてもらいます。ま、こっちも仕事ですからね」
     限界が来た。
    「あぁっ、あぁ……! んっ、んぅ……! んっ、んぅ……!」
     快楽の波に押しやられ、もう恥ずかしいだの、なんだといった思考さえ遠くに流れ、ただ喘ぐだけの存在と化し、全身でよがっていた。特に太ももを反応させ、上下左右にピクピクと動かしていた。
    
    「――――――――――――っ!」
    
     クルーエルは絶頂した。
     頭が真っ白に弾け、太ももは限界まで力んで震え、足首は反り返る。背中は反って浮き上がり、首まで沿って頭で身体を持ち上げてしまっている。
     ひとしきり痙攣して、急に糸が切れたように脱力すると、反っていた足首もだらりと下がる。
    「イキましたね」
     中年医師は勝者の顔を浮かべていた。
    「絶頂のご様子、しかと見させて頂きました」
     黒髪がニヤける。
    「ビクビクしてたねぇ?」
    「いい姿だったわ?」
     豚男も、女性職員も、
    「最高」
    「興奮したぜ」
     茶髪も、金髪も、
     みんながみんな、一言なりクルーエルのイった様子に対する感想を告げていた。
    
         六・終幕
    
     はぁっ、はあ……はっ、はあ……。
     完全に肩で息をしてしまっている。ぐったりと疲弊感があって、今まで真っ白になっていた頭に、やっと思考らしいものが帰って来る。そうなると、さっきまでの自分自身の声や様子が蘇り、クルーエルは赤らんだ。
     ――物凄いはしたない姿、全員に見られたんだ……。
     それだけでは済まない。
    「ほら、君の愛液だよ」
     指先にたっぷりと粘液をまとわせて、ポタポタと垂れるほどの量を中年医師が顔に近づけてくる。指と指のあいだに太い糸が引いていて、自分の体液を見せつけられたクルーエルは、反発のように顔を背けた。
     ――見せてこないでよ……。
     自分はこんなに汁を流したのかと思ったら、頬が発熱してしまう。
     しかし、クルーエルのマグマのような赤面は、今までの余韻や愛液の見せつけだけで続いているものではない。
    「もう一本いっておこうか」
     未だM字に広げたままの下半身で、アソコに顔を近づけているのは若手看護師だ。膣内の細胞を採取するため、普通よりも長い、十センチはある医療用の綿棒を挿入してきた。
     細いものが入り込み、子宮にぶつかる場所をくすぐってくる。
    「随分と濡れたね? テカテカでさ、アソコが凄い光ってるよ」
     わざわざ報告してくるのが、ますます羞恥を煽って来る。
     やめて、言わないで……。
    「シーツもびちゃびちゃで、お漏らしじゃん」
     金髪がからかってくる。
    「イっちゃうくらいだもんね? しょうがないね?」
     豚男はヘラヘラ笑う。
     他のみんなも、口々にコメントを飛ばし、濡れたことや感じていた時の様子についてコメントしてくる。一つ一つがクルーエルの表情を歪ませ、真っ赤な顔から火を噴かせんばかりにしていた。
     そして、次の瞬間だ。
    「はい。撮るよ?」
     若手看護師がカメラを近づけていた。
    「え?」
     と、思った時には――パシャ! シャッターの音が鳴り、アソコにぐいっと迫るレンズで、撮られた写真の内容が思い浮かぶなり、みるみるうちに皮膚の発火が広がった。本当には火なんて出ていなくとも、毛穴から火の子が出ると例えたいくらいには、クルーエルの感情は羞恥で燃やされていた。
    「次は指で広げてくれる?」
     指でって、自分で?
     無理! 無理無理! 絶っ対無理!
    「やってくれないと、そのM字開脚のポーズで顔が映るように全身撮るよ?」
    「そんな……」
     脅し文句はさすがに効いた。
     アソコを接写される以上の恐怖に、クルーエルは慌てて指でアソコを広げてみせる。最後は自分自身で中身を公開していると思ったら、頭の中身がマグマに変わっているような気がするほど、ドロドロの熱でいっぱいになっていた。
     クルーエルは絶対に自分の下半身を見ようとしなかった。
     いや、見た――いや! と、見た瞬間に顔を背けた。自分のアソコにカメラレンズが近づいていて、しかもそれに向かって、自分から中身を公開している。それほど羞恥心を刺激してくるものはなかった。
     パシャ!
     シャッターの音で、またしても顔から火の粉が飛んだ。
     それから、撮影が終わるなり、豚男がクルーエルのアソコを拭き始める。
    「いっぱい、お漏らししちゃったからね?」
     嫌な言い方をしながら、クルーエルのアソコには布巾が押し当てられていた。
     ――赤ちゃんの世話みたいなこと……言わないで……。
     オムツの世話が必要な存在として扱われる惨めさを味わい、やっとのことでクルーエルの検査は終了に至っていた。
    
         七・完
    
     診察台から降りる。
     降りた途端、台にかかったシーツの方を向かされた。
    「ほら、これが君のお漏らしだよ。クルーエルちゃん」
     ――人のアソコ弄って、イカせたりしたのは医者の方なのに……。
     まるで小便を漏らしたような言い方で、クルーエルが悪いように言って来る。豚男のヘラヘラとした笑顔が憎い。
    「おっと、これも返さないとね」
     豚男はポケットからショーツを取り出す。
     クルーエルは引ったくるように奪い取り、パーティションで仕切った脱衣スペースへと駆け込んだ。
     生まれてから、仮にも裸で人前を走ったのは、これが最初で最後になるかもしれない。着替えの時にショーツを穿けば、豚男の体温が残っていて、本当に最悪だった。
     地獄は終わった。
     しかし、地獄で味わったものの余韻は、クルーエルの体の芯まで染み込み、何週間、何ヶ月も先まで恥ずかしかった思い出がぶり返す。一人で思い出すたびに赤くなり、学校生活でさえ体調不良と勘違いされる有様で、本当に本当に、最悪の一言に尽きるのだった。
    
    
    
    


     
     
     

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  • クルーエルのパンツ1枚測定・健康診断【前編】

    後編

    
    
    
    
         〇・序
    
     ……はっきり言って、すごく憂鬱よね。
     クルーエル・ソフィネットはテーブルに肘を突き、ため息をつく。
    「わかるわー。あれに選ばれるのって、すごい罰ゲームだもんね」
     モスグリーン色の瞳で彼女が見つめてくる ミオ・レンティア──小柄な背丈と可愛らしい幼顔が特徴の少女だ。自分と同じ十六歳だが、外見の印象とのんびりした口調ゆえそれより一つか二つ幼く見える。
    「ほんとヤだなぁ、なんでわたしなんだか」
    「まったくねー」
     ミオはクルーエルに同調してくれる。
     ……ま、わたしじゃなかったら、他の誰かが選ばれるもんね。
     曇りきった気持ちでため息を繰り返す。
     名詠式の専門学校、トレミア・アカデミー。
     それがクルーエルの通う学校で、学校というものには様々な行事がある。課題に悩むならまだいい。憂鬱の原因は実技でも筆記でもなく、学校に課せられた一つの試練。
    
     指定測定診断。
    
     名詠を使うことで、身体に現れる変化を調べるため、保健機関と契約を結び、毎年必ず何人かの生徒を検査に出す。一般人との違いを探り、詠使い特有の体質の調査を行うとか。
     それだけ聞けば、ただの面倒な課題で済むが、問題は下着一枚での実施という話。うら若き十六歳を裸に剥こうとは、なんたる検査方式だろう。
    「クルル。終わったらジュースでも奢ろっか」
    「……ありがと、ミオ」
     そんな慰めがありがたかった。
    
         一・体重、身長
    
     当日。
     布のパーティションによって仕切られた空間で、人目を遮ってあるとはいえ、クルーエルの手は震える。
     ……ははっ、どうして裸なんだろ。
     一人苦笑しながら引き攣って、自分がどれだけ緊張しているのかを実感する。ただ制服を脱ぐだけの動作に手こずり、上を脱ぐ。テーブルに置かれた脱衣カゴに、脱いだものを畳んでいると、頬のあたりが発熱する。
     ああ、きっとわたし、赤くなってる。
     薄い壁一枚の向こうに人がいるから、上半身がブラジャーだけっていうのも、とても気になってしまう。
     指定測定診断の実施現場に選ばれた学園内の一室。
     つまり、クルーエルがいる今この部屋には、医師と職員が集まっている。脱ぐ時だけは配慮があり、パーティションで簡易脱衣スペースを作っているが、布製の壁が並んだだけだ。
     防音性は絶対ない。
     脱いでいる際の、衣擦れの音は筒抜けだし、白い布だから、光の具合で向こうに影が見えていても不思議はない。たとえシルエットでも、脱衣シーンを見られていたら、ちょっと嫌だと思う。
     パーティションの向こう側には、かれこれ七人も集まっている。
     たった一人だけ女性がいたが、他の六人は全員男。
     ……せめて男女比が逆なら助かるのに。
     心の底から、切実にそう思う。
     スカートの留め金に手をやると、やっぱり少し手こずる。普通のしているつもりでも、緊張してしまっている。まだ誰の視線も浴びないけれど、脱ぎ終わればショーツ一枚で出ていき、男達の前に立つ。脱いだ分だけ、その瞬間は近づくのだ。
     ……嫌だなー。
     スカートを脱ぎ、もう下着姿だ。
     頬の熱が上がった気がした。また少し赤くなったのかも。
     スカートを綺麗に畳む。脱衣スペースに引きこもる時間を稼ぐため。裸で男達の前に出るのが嫌なため、できるだけゆっくりとやる。ずっと、こうしているわけにもいかないけど、クルーエルは時間を引き延ばしてしまっていた。
     せめて、少しでも気持ちを固めて出て行こう。
     心の準備をするためなら、時間を稼いだっていいじゃない。
     ……腹を括らないとね。
     どうせ、きちんと受けて済ませなければ仕方がない。
     クルーエルは背中に両手を回し、ブラジャーのホックを外す。
     ああ、とうとう指定通りの格好だ。
     身につけているものは、白いショーツ、白い靴下、あとはスリッパ。
     両腕でがっしりと、固いクロスで乳房を覆い隠して、クルーエルはパーティションの外へ出ようとする。
     足が震えて、全身が磁石のように反発した。足を進めようにも、見えない反発力に押し返される。
     ……わたし、生きて帰れる?
     緊張のあまり、死にに行くでもないのに、大袈裟なことさえ思い始めた。これではいつまでも足が進まない。進まなければ、ずっと裸でいるだけだ。
     ……本当に、腹を括らないと。
     震える体で脱衣スペースの外へ出る。反発に逆らって進むから足は重い。どうしてこんな、苦労みたいな思いして、こんな格好で人前に出るんだろう。
     クルーエルの裸に全員の視線が向き、男という男の視線の前に晒された。ますます顔は赤らんで、クルーエルはすっかり下を向いていた。
     白衣をまとった中年医師、優しいお兄さんといった印象の看護師。この二人を引き連れて来た職員の豚男は、鼻があまり綺麗に反り返り、頬もぽっちゃりと膨らんでいて、本当に豚に似ていた。
     立ち会い見学という、よくわからない名目の人達が四人もいる。
     保健機関の職員らしく、唯一の女性が三人の男を従える形で並んでいた。
     ……うっ。
     腕のクロスで乳房を守り、より固く抱き締める。だけど腕二本では守りようのない、肌やショーツの露出は、どうしたって視線の餌食だ。心許ないといったらない。
     七人分の視線がある中で、さして暑いわけでもないのに、肌がじりじりと熱に炙られているかのようだ。視線だけで日焼けができそう。
    「準備が済んだようだね」
     豚男は明らかにニヤニヤしていた。
     ……やだ、やらしい、この人。
     露骨な下心が見えて、クルーエルは反射的に後ずさる。ただでさえ、鼻の骨がカーブした豚鼻で、肥満で頬も丸っこい。本当に豚に似ているルックスに、いやらしい不審な目つきは、警戒するなという方が無理だ。
     ……夜道だったら、絶対逃げる。
    「さっ、まずは体重から」
     中年医師が体重計を指していた。
     やはり、顔立ちは悪い上、ニヤっとした目でクルーエルの身体を見ている。脂っこい体質なのか、禿げかかって頭頂部が輝く短髪は、トゲのような形に固まり、表面に埃が付着して清潔感がない。
     ……失礼だけど、汚そう。この人の触診受けるのは、ちょっと。
    「はやくはやく」
     若手看護師は明るいお兄さんっぽく、外見は悪くない。豚男に中年医師と来て、目つきにもいやらしさを感じない。他の男に比べて比較的に印象が良かった。
     ただ、クルーエルが体重計に近寄り、そして足を乗せた瞬間だ。
    「両手は横じゃない?」
     若手看護師は明るく爽やかに注意してきた。
     黒い笑みがあった。
    「横って、体重くらい……」
    「あのね? なんで裸かわかってる? 皮膚の視診も兼ねているし、名詠の影響で何か目立ったアザとかの痕跡が現れないかもチェックする。他にも名詠生物がもたらした感染症なんかが、特に十代の女子にかかりやすいとか。色々と細かな調査を優先してるの。様々な理由が絡んでのことなんだから、言う通りにしてくれる?」
    「でも……」
     いくらなんでも、これは躊躇う。
     女性職員が引き連れる男達の、金髪、茶髪、黒髪の三人組が、横並びになってクルーエルの正面方向に揃っている。体重計の前に陣取り、ひとたび腕を降ろせば胸を見られる。いや、見るために並んでいる。
     若手看護師もクルーエルの前に回り込む。中年医師と豚男は、横から見える位置にいる。
     ……なんでこんな状況で。
     人の乳房で勝手に鑑賞会をやらないで欲しい。本当に、本当にやめて欲しい。最悪の気持ちにクルーエルは肩を強張らせて震えていた。
     ……でも、どうせ最後は全部。
     検査項目はクルーエルの頭の中にも入っている。事前に書類を渡され、目を通し、その時から憂鬱だった。
     性器検査だってある。
     ここで気をおかしくしていたら、この先まずい。
     ……大丈夫、大したことない。大丈夫、大丈夫よね。
     クルーエルは固くなった腕を動かす。本人が下ろそうとしても、筋肉が勝手に拒むかのように動作は固い。関節に錆びがついて、それで可動しにくくなっているみたいな、ぎこちなくてカクカクとした動きになる。
     乳房と腕のあいだに隙間が開くだけでも、横から見えはしないかが気になる。下げ始めれば、この何センチか下げただけの感じで、もう乳首が見えちゃっていないかどうかも気になる。
     気になって気になって、心許なくて仕方がないけど、やっとのことで両手を下げる。みすみす鑑賞会の見世物をやらされるみたいで、本当に嫌だけど、気をつけの姿勢になった。
    「あら、美しいじゃない。乳首の色合いといい、全体の形といい、ここまで整っているなら、むしろ見てもらなわければ損なくらいよ?」
     第一声が、女性職員のものだった。
    「え……」
     衝撃を受けた。
     唯一の同性なのに、味方でもなんでもない――もっとよく見ておきなさい? とでも言わんばかりの目配せを仲間内に送っている。女性職員でさえ、クルーエルに好奇心たっぷりの目を送る一人だった。
    「ふーん? まあまあ」
     にこやかに、爽やかに、若手看護師は乳房への評価を下す。
     ――品評会じゃないのに……。
     しかも、まあまあって。
    「体重……」
    「ああ、そうだね」
     思い出したかのように、若手看護師は体重計に出た数字を読む。白衣の胸ポケットに挿していたボールペンで、書類に書き込みを行った。
     ……もう、いいわよね。
     クルーエルは胸を隠す。視線でじりじりとやられた余韻なのか、火傷した時のヒリヒリみたいな、そんな感覚が残っている気がする。
    「次は身長だよ?」
     豚男が次の試練を言い渡す。
     こうなったら、ただ身長を測るだけの器具が次の品評現場に見えた。
     ――また、言われそうね。腕、降ろせって……。
     身長計に向かって行き、ぴたりと背中を合わせた。背筋は真っ直ぐ、顎も引き、きちんとした姿勢を取れば――ほら、腕。って、やっぱり豚男に注意され、クルーエルは降ろしていく。
     目尻を震わせ、視線という視線の数々を感じながら、気をつけの姿勢を取ると、次の瞬間にクルーエルは目を見開く。
    「えっ」
     ぎょっとした顔を浮かべていた――手が、腹に乗っていた。
     ずれないように、押さえてやるみたく、豚男の手汗がたっぷり滲んだ手は置かれ、全身がぞわついた。
     ――き、気持ち悪っ……!
     鳥肌が立ち、肌中が泡立つ。
     ヌルっと、今にも糸を引きそうな手汗の感触が、手の平の温度と共に皮膚に伝わる。豚男は左手を揉むように動かしながら、明らかに胸に視線をやり、右手でバーを降ろしている。バーが頭に触れても、すぐには読まない。
     ヘソの周りを上下にさすり、だんだんと上の方へと、乳房の付近へ手を迫らせ、今にも触られそうで身が強張る。
     さらにバーから離れた右手は下へと移り、指先でさーっと、産毛だけを狙った触れるか触れないかのタッチを肩に行う。くすぐったい感触に、肩がモゾモゾと動きそうになる。左手はもう乳房の下弦に迫っていて、あと数ミリもすれば触れてしまう。
     ……や、やだ! はやく済ませて!
     とうとう、親指の側面が乳房に触れ、膨らみをかすかに持ち上げる。右手に至っては肩の肉を揉み始め、誰が見てもセクハラだ。それなのに、クルーエルの視界に並ぶ誰もが、女性職員さえも、それを咎めようとしない。
     ……なんで? おかしい――。
     泣きたくなった。
     誰一人味方がいない、猥褻な視線にまみれた中で、クルーエルはただ一人でショーツ一枚の格好をしているのだ。
    「では数字はっと」
     豚男の顔が必要以上に近づき、吐息が耳にかかってくる。
     気持ち悪さに震えていると、やっとのことで数値が読まれ、若手看護師がそれを紙に書き込んでいた。
     豚男の手が離れ、身長計から降りることができても、そこに解放感はない。試練が済んだ安心感もない。クルーエルにあるのは、べたべたと触られ、皮膚の表面に豚男の手汗が残った感触だった。
     身長計を降りたクルーエルは、やはり反射的に胸を隠し直していた。
    
         二・スリーサイズ
    
     ……もうやだ。早く終わって欲しい。
     ショーツ一枚で男に囲まれる自分にとって、この思いは非常に切実だ。身長計から降りたところで、せっかく腕に隠した胸は、またすぐに見せなくてはいけなくなる。
    「はい。腕は上げてねー」
     クルーエルの真正面には、メジャーを持つ豚男が立っていた。
     ニヤニヤとしきった表情で、目つきはいやらしく細められている。閉じた唇から舌が出て来て、じゅるり、と、なめずる音を立てていた。
     ……うっ、やだ。ほんとにやだっ。
     なんでこんなに気持ち悪いの。
     しかも、スリーサイズの測定に移ってから、今度は周りを囲まれている。真正面の豚男は、中年医師と若手看護師をそれぞれ左右に従える形に、真後ろには女性職員と、残る男三人組の囲いの中に閉じ込められ、クルーエルは包囲の中心に立たされていた。
     ショーツの尻に視線を感じて、前からもショーツを見られ、胸にも嫌というほどの視線を注がれる。
     ……いっそ早く測って欲しい。
     豚男はやがてクルーエルに抱きつくかのように、密着直前まで迫っていた。
     ――む、無理……! 無理無理!
     顔中で引き攣り、全身に悪寒が走る。背中にかかった髪の下へとメジャーを通し、巻き付けようとする際に、背筋を指先で撫でられて、身震いのあまり痙攣のように肩を震わせた。
     豚男の着るスーツも、乳房に少しあたってきた。勃起でテント張りになった先端が太ももにぶつかった。息まで耳にかかってきて、その気になればキスできるほどの接近は、十六歳の少女には不快感が強すぎた。
     豚男は両手でメジャーを引っ張り、ピンと張り、クルーエルの乳房を間近で眺める。
     ――そんな近くで……ジロジロ……見ないで……。
     何秒も何秒も、すぐには目盛りを合わせずに、じっくりと眺め、やっとのことで巻き付ける。
     目盛りを合わせるのは乳首の上だった。
     数字を見るために、豚男は顔を接近させ、身体に息が噴きかかる。
    「では発表します!」
     ……ちょっ! そんな大声で?
    「クルーエル・ソフィネットのおっぱいは――――」
     豚男は大声で数値を発表した。
     廊下にまで聞こえはしないか。通行人がいれば、それが知り合いだったりすれば、偶然にも知られてしまわないかと怖いほど、本当に大きな声だった。
    「おっ、予想とぴったりじゃん」
     若手看護師はゲームに勝って嬉しい顔で記入をする。
    「ふむ、僕の美学に相応しい数値です。ほどよい膨らみ具合で形が整っているものこそ、僕の思う至高の乳房なのですよ」
     黒髪の男は、学術的なことを語る顔をしていた。
    「俺はあの乳首の色が好きだね。美乳なのはわかるけど、乳首が台無しだと、美観を損なう気がしない?」
     今度は茶髪。
    「美学とか美観とか、要するに性癖だろ? ま、同感だけどよ?」
     金髪はチャラついていた。
     ……なんなのよ。わたしは展示品じゃないのに。
    「美学にせよ性癖にせよ、綺麗な乳房に違いないわね。あの形を絵画の中に写し取りたいと考える芸術家がいくらでもいるはずよ? 無論、欲望のまま揉んだりしたい男も」
     女性職員さえ乳房にまつわるトークに加わり、人の体つきを話題にした盛り上がりを誰も咎める者がいない。
    「ではウェストの方を」
     豚男がメジャーを緩め、下へと移り始めた時、クルーエルは自然と胸を隠す。もう鑑賞され尽くしている。今更なのはわかっているけど隠していたい。守っている方が、曝け出しているより、まだ落ち着く。
     ショーツ一枚なのに、落ち着くもなにもないけど、少しはマシ……。
    「かわいいねぇ」
     豚男はそれをからかう。
     不快感でクルーエルは顔を顰めた。
    「さて」
     腰に絡んだメジャーが引っ張られ、ピンと真っ直ぐ伸びていた。豚男はそれを巻きついていく。ヘソの近くに目盛りを合わる。
    「では続きまして!」
     と、やはり大きな声で。
     ウェストが発表されるなり、それを耳にした男達は、こぞって予想が当たった外れたの、確かにスタイルがいいといったことを論じ合う。
    「最後はお尻だねぇ? ヒップはいくつかな?」
     豚男は大いに煽り立て、床にしゃがむ。クルーエルのショーツの高さに、豚男の顔の高さが一致していた。
     そして、抱きつくみたいに、またしても後ろ側に手を回す。お尻に手がやって来ているだけでなく、顔までアソコに接近する。ショーツに顔を埋めかねない至近距離で、鼻先が布地に触れそうだ。
     にぎっ――と、手の平で鷲掴みにして、同時にクルーエルの背中が反り返る。
    「いやっ!」
     可愛い悲鳴を上げていた。
     ……やだ、わざとだ。
     メジャーを巻こうとするフリをして、お尻の近くに手がいくのをいいことに、わざわざ触って、揉んでいた。
    「ああ、ごめんごめん」
     まるで悪いとは思っていない、むかつく顔で、豚男はクルーエルの顔を見上げる。こちらは何かを言いたくてたまらない目つきになるけど、豚男の方はヘラヘラした表情を返してくるばっかりで、反省なんてしそうにない。
     ……いつまで揉むのよ。この変態。
     憤りで、拳に力が入る。モミモミと、豚男の指が動いている。何秒もかけて揉んでから、そのまま指を押し込むみたいにメジャーを巻く。指の腹をぐいっと入れ、引っ掻く形で、触りながらメジャーを引っ張っていた。
     目盛りはショーツの手前のところ。
     数字を読むために、また顔は近づく。ジロジロと性器のところを見られていると、ショーツの中を透かされている気がしてくる。
    「ではでは発表しましょうか」
     当然、大声での発表。
     ……最悪すぎる。
     せめて廊下の外で誰かが聞いているなんてことだけでも、絶対にないで欲しい。
    「おおっ、僕の予想とは誤差三センチ以内!」
    「残念、俺はだいぶ外した」
    「いくらなんでも、百センチオーバーってのは大きくいきすぎたんじゃねぇ? そりゃお前は巨尻大好きだからしょーがねーけど?」
     口々に語り合う。
     ……よくも数字を聞いたくらいで、馬鹿みたい。
     悔しくてならないものを誤魔化すように、クルーエルは無理にでも男達を馬鹿にして、見下そうとした。胸を隠したままの両腕の、二つの拳にぎゅっと力がこもり、力んだ手の甲はプルプルと震えていた。
    
         三・内科検診、乳揉み触診
    
     中年医師が聴診器を手にしていた。
     椅子に座り、背筋を伸ばし、両手を垂らしたクルーエルには、胸の中央に聴診器が当たっている。
    「まあ、しかし可愛い形のおっぱいだ」
     聴診しつつ、中年医師は人の乳房を論評することを言い、目つきはニタニタといやらしい。診察しているのか、人の胸を眺めているだけなのか。
     おまけに醜い顔立ちで、脂ぎった髪質なのか、トゲトゲに固まった表面に埃が付着し、不潔感もかなりのものだ。顔が良ければ許すわけでも何でもないけど、余計に不快感は強くなってしまう。
    「乳首の色も可愛いもんで、芸術品という評価も頷けますなぁ」
     こんなことを言う彼も、先ほどまではもっとまともに検診をこなしていた。
     ペンライトでまぶたの裏側を照らし、喉の中身をチェックする。問診では日頃の体調について聞き取り、名詠を行った前後や翌日など、身体に影響が現れた経験がないかもよく聞かれた。
     聴診が始まってから、この調子だ。
    「ずっと見ていられそうだよ。クルーエルちゃん」
     胸の中央から、ひんやりとした金属の感触が離れていくと、今度は左乳房の下側に当たってきた。下弦の膨らみを少しだけ押し潰し、今度こそ耳に意識を集中する。何も言わなくなったと思いきや、数秒後には目つきのいやらしさが蘇り、ニヤニヤと人の乳房を鑑賞していた。
    「じゃあね。目視で左右差のチェックをするから、いくつかポーズをお願いするよ」
     中年医師が指示してくるのは、両手を下げたまま背筋を伸ばすという、先ほどからとっくにとっている姿勢。腰に両手を当てた姿勢。両腕を持ち上げたポーズ。三つのポーズで中年医師は乳房の視診を行う。
     いやらしい視線よりは、真面目な視診の方がマシだけど、マシだといっても嫌なことは変わらない。
    「そろそろ触診に移ろうかねぇ?」
     中年医師の唇は歪んだ笑みの形に吊り上がる。
     ……わたし、この人に揉まれるの?
     信じられない思いに打ちのめされ、追い打ちのようにクルーエルは囲まれている。乳房の様子が見える角度に集まり、触診を鑑賞しようとする視線が、誰も彼もから突き刺さる。
     ……こんなの、ちょっとキツすぎる。
     中年医師のシワを刻んだ手が迫り、クルーエルは逃げたい思いにかられていた。近づく手を払い退け、揉まれることを阻止したい衝動が溢れる。本当にそれをやったら、間違いなく問題になるし、きっと自分が悪者扱いで終わるだろう。
     悔しいけど、ぐっと堪えていた。
     あくまでもだらっと両手を垂らしたまま、迫る両手を受け入れていた。
     ――本当に、揉まれちゃった……。
     乳がんを調べるという目的はわかっているが、手始めに鷲掴みに、五指に強弱をつけるように揉まれ、クルーエルの目尻に力が入る。
    「こうやってね。手の平全体で包んでやることで左右差を確かめて、しこりがないかっていうのも確かめてるからね?」
     揉みしだかれ、そんなクルーエルの有様を全員が好奇に満ちた目で見ている。
     ……んっ、やだ。本当に。
     男の手の平から伝わる温度が皮膚に染み込む。乳房に指が食い込んでは、脱力によって離れていく。脇から乳房にかけての部分に手を移して、やはり丁寧に揉み込むと、今度は四本指を押し込み流すような触診が行われた。
     上弦の部分に四指をぐにりと押し入れて、下へと流す。横から中央にかけて。指腹の指圧で引っ掻くようにする。
    「うん。しこりもリンパの具合も問題なしだね」
     中年医師は鷲掴みの揉み方に戻り、改めて指を動かす。
    「ま、念のためにもうちょっと揉んでおくんだけどね。クルーエルちゃんのおっぱいは、ふわっとした綿みたいに柔らかくてね? 指があっさり入るんだけど、離すとプルって感じでね。振動を帯びながら元の形に戻るわけ」
     ……なっ、なにをそんな詳しく!
    「あとね、乳首が反応してるね。固くなっていてだね、こっちの手の平にツンツンと当たってくる感じがあるわけ」
     自分の乳房について事細かに解説され、男達はお得な情報を知ってニヤける。生理的な反応を指摘されたり、みんなにヒソヒソと話題にされるのも恥ずかしいし、辛くて嫌だ。こんな中年に触られるのも、多少は感じてしまう自分自身のことも悲しい。
     だいたい、もう触診は終わっていて、あとは好きで揉んでいるだけじゃない。
     ヒソヒソとした話し声――おいおい、診察だろ? ――これで感じるなんてエロッ! 少しはしたないようだね。好き勝手な言葉がクルーエル本人の耳に届いてくる。
     言葉による辱めに、クルーエルの唇には強い力が入っていた。口周りの筋肉に力が入ってしまい、唇が波打つような形に歪んでいた。
     ……別に、感じてるってほどじゃないし。
     強がりのように、心の中では言っていた。
    「ちょっぴり反応しているかな? こうして揉んでいるとだね、かすかにだけど肩がモゾつくみたいに動いているね。クルーエルちゃん、君、感じてるでしょ?」
    「そんなことは……」
    「ははっ、正直に言っていいんだよ。自然な反応だからね、何もおかしいことはないの。触診によって性的な快楽を感じている。はい、君もこれ書いておいてね」
     中年医師が目配せを行うと、若手看護師は紙にボールペンを走らせる。
     ……やだっ、本当にっ、感じたって記録まで取られちゃうの?
     こんなところで、こんな形で感じたことが、医者の手できちんと証明されてしまったかのようだ。
     ……わ、わたし、触診で感じたことになるの?
     記録が保健機関に行き、そのようなデータとして扱われる。今ここだけでなく、後から資料を見た人達がクルーエルについて読みながら、ふむふむ、気持ち良くなっちゃったか、などと感想を漏らすのだろうか。
    「では乳首いくからね」
     その時、中年医師は乳首をつまんだ。
    「にゅん!」
    「おや、可愛い声だね。いやいや、面白い声だったけど、ちょっと我慢してね?」
     クルーエルは乳首に刺激を受ける。指腹のあいだに挟まれ、クニクニとした指圧が行われる。
     乳房で感じた。
     甘い電気が流れる感覚に、肩がピクピクと、モゾモゾと動いてしまう。触診で感じた記録を書き取られたばかりで、また書かれてはたまらない。何とか堪えてみせようと、全身に力を込めて反応を抑え込もうとしていた。
     ……もう書かれたくない! か、感じたくない!
     必死に感覚を封じ込め、何も感じまいと努めてみるが、神経が及ぼす作用は念じるばかりではどうにもならない。
    「んっ、んぅ……んぁ…………」
     悲しくも、声が出た。
    「ふむ、確かに感じているようですね。それらしい身じろぎといい、今の可愛らしくもエロティックな声といい」
     黒髪によって反応さえも品評される。
    「今のも記録に書いておいてあげるね?」
     にっこりと爽やかに、あまりにも良い笑顔を浮かべる若手看護師は、かえって悪魔にしか見えない。
    「まあ、これは念のためなんですが、間違いや誤診などあってはいけないので、一応確認しておきましょう。クルーエルさん、ここまで肩がモゾモゾ動いたり、くねったり、可愛い声が出たのは痛みによるものですか? 触ったことで、違和感などありましたか?」
     症状に関する質問だった。
     ……これに嘘は言えない。言うわけにはいかない。最悪。
     本当に、本当に最悪だ。痛かったことにすれば、じゃあ何かの症状って話になって、ややこしくされるに決まってる。
     だけど、事実を伝えるということは、若手看護師が書き取った内容は全て真実だって、本人がお墨付きを与えることになる。
     ……言えない。こんなの、言えないわよ。
     クルーエルは深く俯く。
     言えないけど、言わざるを得ない。
    「どうなんですか? 痛かったんですか? さほど強く触っていないはずなので、今ので痛みがあったとすれば、色々と疑わなくてはいけないのですが」
     中年医師の言葉に追い詰められ、逃げ場を奪われたかのようだ。
     こうなったら、自ら白状するしかなかった。
    
    「感じ…………まし、た……………………」
    
     小さな声で、そう言った。
    「聞こえませんが?」
    「か、感じっ、ました……性的な、刺激でした…………」
     一瞬だけ声を荒げ、直ちに萎れ、クルーエルは細々と下を向いて告白する。まるで悪いことをした自白をさせられているようで、とても惨めだ。
    「ほほう? 認めましたか」
    「可愛い反応だったよな」
    「言えてる言えてる。めっちゃ可愛いでやんの」
     男達はざわめきあって、感じた反応がどうだったとか、声がエロかったとか、そんな話をやり始める。女性職員まで加わって、クルーエルのどこが良かったのなんのと。豚男だってクルーエル本人に感想を伝えてくる。
     ……ううっ、いっそ死にたい。
     透明人間にでもなって、消えてしまえたらどんなにいいかと、この時ばかりは本気で思うクルーエルだった。  
    
    
    


     
     
     

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