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  • キラメイグリーン 身体測定

    
    
    
     
    
     出場中だった大会の規約が突如として厳しくなり、裸体での身体測定を実施することとなった理由は、前触れもなく発生した新型ウイルスの流行に対する対策だった。
     ここ一ヶ月のあいだ、急に現れては世間を騒がせ、各国にまで感染を拡大させている新型ウイルスは、不思議と十代から二十代前半までの、若い女性の感染率が非常に高い。逆に男性の感染例は驚くほど低く、女性の肉体とウイルスに何らかの因果関係があるとみるのは自然な流れであった。
     ワクチンの開発が急がれてはいるものの、現状の治療薬は初期症状しか治すことのできない不完全なものであり、重傷化の対処方法は未判明である。
     各地でイベントが中止を発表している。
     無論、一箇所に多数の人間を集めることで、一気に感染が広がることを恐れてのものである。ライブコンサートやアイドルの握手会、コスプレ会場や玩具会社による発表会など、人さえ集まるものなら何でも中止だ。
     スポーツ大会にも中止の手は及んでいき、次々と大会が停止していく。
     そんな中である。
    
     速見瀬奈が出場している大会だけは、とある条件によって予定通りの開催を発表した。
    
     まず、使用する会場の客席には一切観客を入場させない。
     無観客で、ネット配信とテレビ放送のみを行う。
     もう一つの条件は、それでも多数の選手が集まる以上、選手同士やスタッフ同士での感染という恐れはある。関係者並びに選手たちは、必ず所定の検査を受け、さらには身体測定を受けることを命じられた。
     これはデータ収集への協力であり、もしも感染していたら、例えばその感染者の乳房は何カップだったか。おっぱいの大きさによって感染率の違いがあったなら、それは重要な発見となるわけだ。
     身長が高いのと、低いのと、どちらが感染しやすいか。
     筋肉の量は、基礎体温は――そういったデータを集め、万が一にも決まった傾向が判明すれば、それをヒントにウイルスの特性を明らかにしていける。少しでもデータを集めようとする努力のため、こうした協力の要請が行われ、大会運営はそれに応じたわけだった。
     さらにはウイルスの感染は皮膚の炎症という形で現れるケースもあり、医師が裸体を目視で確認する機会を設けたい。それが早期発見に繋がる可能性もあり、初期症状であれば治療薬の効果が出る。つまり、治療可能な患者は出場停止になることはない。
     これらの理由から、パンツ一枚での身体測定は実施されていた。
    
    (だからって、いかにもって感じなんだけど…………)
    
     身長計の列に並んで、自分の順番を待つ速見瀬奈は、キラメイグリーンとして戦うキラメイジャーの戦士でもある。陸上の仲間はもちろん、キラメイジャーの仲間たちにも感染を広げる可能性を考えたら、自分が健康か否かは是非とも知りたいところである。
    
     しかし、身体測定に関わる人間は、全てが男性なのだった。
    
     そればかりか、瀬奈が並んでいる先で、一人一人の身長を見ている男は、下品な笑みで口角を釣り上げて、あからさまにオッパイで喜んでいる。平常心を装う努力もない、興奮しきった男の元に、こんなパンツ一枚の格好で近づくなど、普通ならありえないことだった。
    (うわっ! 触ってる!)
     男は腹に手を置いていた。
     瀬奈より順番の早い女性が、両手を下ろして乳房を晒し、赤らんだ顔で計測を待っていると、男はさも手で押さえてやるとばかりに触ったのだ。腹に手を置き、手の平によってへそを覆い隠しながら、頭の上にバーを下ろして身長を確認した。
     その一連の流れに引き攣って、一人また一人と身長の計測が終わっていく。
     とうとう、瀬奈の番になる。
    (うぅぅぅ……やだぁ………………)
     心の底から嫌だ嫌だと思いつつ。瀬奈は身長計に向かって行く。
     ぴったりと背筋を合わせると、それまで両手で隠していた乳房も晒し、綺麗な気をつけの姿勢でかかとを揃える。視線が乳房を舐めまわしているような気がして、不快感と恥ずかしさに頬を歪めて、瀬奈はじっと静かに待つ。
    
     ぺたっ、
    
     やはり、腹に手を置かれた。
    (うわっ、無理! キモい!)
     大いに顔を顰める瀬奈の頭に、バーがゆっくりと下ろされた。
     あとは数字を見るだけかと思いきや、その目盛りを見るのに顔を近づけ、ねっとりとした温かな吐息が瀬奈の耳にかかってくる。
    (うぅぅぅぅぅ…………!)
     乳房にも視線を感じる。
     下着も確認されている気がする。
    (けど、大事な大会だから、出場停止になんてなるわけには…………)
     そんな思いから堪えていると、原に置かれた手がぐるぐると、徐々に動き出すなり上へと迫り、男は瀬奈の乳房に指を迫られていた。
     まさか、そこまで触るというのか。
     危機感に表情を染め上げていると――
    
     むにっ、
    
     さりげなく、偶然を装わんばかりの手つきで、肌に手をべったりと貼り付けているままに、人差し指の側面で乳房を数ミリだけ持ち上げていた。
     たった数ミリ。
     しかし、確実に触られていた。
    「えーっと?」
     ようやく、身長の数値が読まれ、それが書類に書き込まれる。
    「はーい。もう隠していいよ? 恥ずかしかったねぇ?」
     いかにもニタニタとした表情で、煽る口調で言われては、即座に胸を隠すことは挑発に乗るかのようでどこか悔しい。そう思いながらも、瀬奈の腕は自動的に動いてしまい、改めてクロスの形に固まっていた。
    (ホンット! ありえない! なんでこんな!)
     瀬奈は憤っていた。
     せっかく、ここまで勝ち上がって来た大会で、まさか出場規定の変更が行われ、こんなことになるとは思いもしない。世界の誰もが想像しない、突発的な新型ウイルスの大流行など、どうしようもないのは確かだろうが。
     それにしても、こんなセクハラな男に測定を受けなくてはいけなかった運命に、もちろん男男個人に対しても、強い怒りや屈辱を感じていた。
    (もう! ムカツク!)
     腹の内側を怒らせながら、身長計の台から降りた。
     その時だった。
    
     ぺたっ、
    
     それは瀬奈の白いパンツの上に、手の平がぺたりと置かれるささやかな打音であった。ちょっと手を置いてみただけの、叩いたとは到底言えない、威力など皆無の打撃でも、そんな小さな音は鳴っていた。
     それと同時に、瀬奈の尻たぶに置かれた右手から、瞬くかに不快感が広がっていた。
    
    (ちょ……!?)
    
     全身が総毛立っていた。
     瀬奈はほとんど反射的に、慌てる勢いで後ろ手に振り払い、そのまま素早く振り向いていた。不快感の残るお尻を両手で押さえ、目の前の痴漢を糾弾しようと声を荒げた。
    「ちょっと! お尻触りましたよね?」
     はっきりと、強い物言いで瀬奈は男を責めていた。
    「ああ、すまんすまん。手が当たってしまったか」
     ところが、瀬奈が怒ってみせたところで、反省の態度などありはしない。それどころか、瀬奈の乳房に目をやって、改めてニッタリと表情を歪ませていた。
    「やっ……!?」
     お尻を守る勢いで、胸の守りが解けてしまっていたことに気がついて、瀬奈は咄嗟に乳房を隠し直していた。
    「本当にすまんねぇ? けど、あまり騒がれても困るし、きちんと測定を受けていないと見做して出場停止ってこともありえるから、言いたいことがあってもほどほどにね?」
     まるで瀬奈の方が怒られていた。
    「…………」
     瀬奈はただ、不満を宿した表情で、いかにも気に入らないものを見つめる目で、男に視線を返すことしかできなかった。
    
    
     体重計に足を乗せ、台に上がるとデジタル目盛りの数字が揺れる。
     瀬奈のことを見守るのは、真横から様子を確かめてくる青年と、真正面で書類を片手に、数字が出れば記入を行う中年である。
    (男ばっかり……)
     不満を抱え、特に腕を下げることは言われないので、瀬奈はこのまま乳房に固いガードを施している。
     しかし、真横の青年が位置を変え、斜め後ろに立ってから、心なしかお尻に視線を感じるような気がしていた。
    
    
     スリーサイズを測るため、メジャーを手にした黒縁眼鏡の前に立つ。
     まるでネックレスをかけてやるように、瀬奈の頭に輪を通し、メジャーは背中にぴったりと張り付いた。あとは腕のクロスを解けば、目の前の男は目盛りを合わせ、スリーサイズのうちのバストを測り終えるだろう。
    「………………」
     そこにある少しの躊躇いは、言うまでもなくクロスを解けば乳房が出て、こんな真正面から見られてしまうことになるからだ。
     そうしなければ、この時間は終わらない。
     本当にそれが理由で、瀬奈は自ら腕をどかしていき、バンザイでも何でもなく、軽く上げるだけではあるが、両腕とも邪魔にならない高さに持ち上げていた。
    
     ……じっ、
    
     黒縁眼鏡の視線は乳房に刺さり、レンズの反射で乳首がそこに映し出される。瞳の角度を嫁さえすれば、いかに乳輪をなぞっているかも、瀬奈にはわかったかもしれない。
     メジャーが巻きつき、乳首のあたりに目盛りが合わさる。
    (最悪……)
     黒縁眼鏡の指がメジャー越しに当たっていて、触れられる不快感に身を捩りたくなっていた。
     目盛りを読むと、黒縁眼鏡はそれを隣の男に伝え、そちらの男が書類に書き込む。
     するとまた、今度はウェストにメジャーを巻くが――
    
     じっ、
    
     やはり、乳房に視線を感じた。
     ヘソのあたりに目盛りを合わせているあいだ、黒縁眼鏡は始終瀬奈の乳房を眺め続け、視姦のために顔を熱っぽく赤らめていなければならなかった。
     最後にヒップ。
     黒縁眼鏡は後ろに回り、だから今度は尻に視線を浴びせられ、瀬奈はその視姦に耐えながらも、メジャーが巻かれる感触を感じ取る。下着の尻を目で楽しみ、今さっきまでは真面目な顔を装っても、こうして後ろに回ってしまえば、いやらしい顔をしてもわからない。
     どんなムラムラとした気持ちで尻を眺め、口角を釣り上げていることか。
     尻たぶの上に目盛りが合わさり、だからメジャー越しやその周りに、指がいくらか触れてくることにも耐えていた。
    
     ……最悪だった。
    
     これで身体測定も終わり、採決による陰性だった。
     大会には出場できる。
     しかし、この確かな羞恥の思い出は、速見瀬奈の脳に深く刻まれ、時折思い出してしまうことになる。ふとした瞬間、セクハラの記憶が蘇り、下着一枚で男の前に立った気持ちもフラッシュバックを起こすなり、たまに顔が赤らんでしまうのだった。