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  • 終 渋谷凜の全裸健康診断【前半】

    次の話

    
    
    
     渋谷凛は飛行機の中で悶々とした。
     ……眠れない。
     アソコが欲求を訴えかけ、沈めたくてたまらなかったが、人目を避けてオナニーをする機会が巡ってくることもなく、膣に切なさを抱えて寝付けない時間を長々過ごす。
     日本への到着は本当にやっとだった。
     新型ウイルスに関する貿易上、空港から自宅へ帰る際にも、必ず検査を受けることになる。
    
     もしかしたら……。
    
     凛は期待してしまっていた。
     おかしな性癖が目覚めてしまい、自分を変態だと思うようになったきっかけの、あの全裸健康診断を、また受けることができるかもしれない。出国前の空港では、過去二回ほど現れた肥満男は姿を見せず、女性が手早く済ませてしまったが、日本到着後の入国前なら、また肥満男がいるだろうか。
     彼さえいれば、健康診断は恥辱に満ちたものになる。
     そのことを期待して、検査直前にプロデューサーと別れ、凛は検査室への案内を受けて向かっていく。
    
    「やあ、また会ったね」
    
     肥満男の顔を見るなり、凛はドキリとしてしまった。
    「おや、僕に会えて嬉しい?」
    「なに言ってるんですか」
    「でも変態趣味に目覚めたでしょ?」
     肥満男の言葉を否定できずに、凛は顔を背けて俯いた。
     前回、自分は肛門と性器を検査されて絶頂する変態であると宣言させられ、また同じ目に遭うことを期待さえしてしまった。期待が叶うとわかった喜びで、心が少しでも舞い上がってしまったことで、自分の性癖が歪みをより強く実感した。
    「また、ああいう検査になるんですか?」
     なるべくぶっきらぼうに凛は尋ねる。
    「なるね。楽しみでしょ?」
    「楽しみだなんて……」
     堂々と認めることはできない。
     そんな自分自身の心が見えた時、凛は思った。もしかしたら、自分から変態宣言をするよりも、人にさせられる方がいいのかもしれない。
     だから口先では言っておくことにした。
    「他の人に当たった時は、凄くスムーズでしたけど」
     直接的ではないながら、問題のある検査方法に文句があるようなポーズを取ってみせ、いつでも抗議を吹っかけそうな、睨みがちな目つきさえも装っていた。
     そういえば、肥満男一人だけだ。
     今までは他にも多くの人がいたが、今回はどうしたのか。
    「というか、他の人は」
    「ああ、今回は僕一人でアイドル渋谷凛を独占しようと思ってね」
    「独占って……」
     ストーカーに狙われるのとはまた少し違うだろうが、そのような怖気が走ると同時に、下腹部がきゅっと引き締まる。下品な目論見を持つ男に目を付けられ、それが怖いからこそ嬉しいような、自分のマゾ気質を自覚した。
     体中が期待して、恥辱を楽しみにしてしまっている。
     服を脱がされ、調べられてしまう感覚を想像して、今のうちから下腹部がヒクヒク疼く。
    「さ、まずは問診といこうか。ね? 凛ちゃん。そこに座ろうか」
     椅子に座るように促され、凛は肥満男と向き合いながら腰かける。
     すぐさま、視線の質が変わった。繊維の隙間に入り込み、胸を味わってくるような、皮膚をざわつかせる視姦の眼差しで、頭から足にかけてをジロジロと舐め回す。見れば股間が徐々に膨らみ、もう既に恥辱の時間は始まっているのだと肌でわかった。
     だから、凛は驚かなかった。
    「この前は気持ちよかったねえ?」
     あからまさにニヤけた顔で、ついこの前のよがりようについて触れてきても、こうなると想定通りの質問なのだった。
    「それは、まあ……」
    「今回も期待してる?」
    「……まさか」
    「でも気持ちよかったよね?」
    「それは……」
     否定できなかった。
     肛門を調べられて興奮した。性器を調べられても興奮した。変態宣言をされられても興奮し、凛はそれらの体験をオナニーのネタにすらしてしまっている。肥満男の顔を見た瞬間、嬉しくなりさえしている凛は、今こうして言葉によるセクハラをされることにも興奮しつつある。
    「答えてごらん? 何に興奮したか。どんなのが良かったのか」
    「あの、一応ちゃんとした診断のはず、ですよね」
     新型ウイルスへの対策として、防疫のために行われる検査のはずだ。そこが疎かにされては困ることにふと気づき、だから凛は話を逸らした。
    「なら体調について聞こうかな」
     と、肥満男は食事や食欲、生理による調子の変化について尋ねてきて、まともな問診らしい質問に一つ一つ答えていく。
     だが、それらにひとしきり答えきれば、やはりその手の質問に話は戻る。
    「で、前はどんな検査に興奮したのかな」
    「だから、そういう……」
    「何回絶頂した?」
    「覚えてませんってば」
    「毛は剃った?」
    「脇は……」
    「脇剃った! 脇は剃ったんだね? 他は?」
    「いえ……」
    「じゃあボーボーのままだ」
     デリカシーのない嫌な質問をされ、ボーボーなどと面と向かって言ってこられているのに、そこに興奮してしまう。
    「そうですけど……」
    「なるほどね。じゃあ、僕がいた時の検査で印象に残っているのは何かあるかな?」
    「一応」
    「教えてくれる?」
    「その……。自分で自分の足首を掴む、みたいなポーズの時の肛門検査とか……」
    「それが気持ち良かった」
    「……はい」
    「変態だねぇ?」
    「…………」
     否定できず、凛はただ無言で俯く。
    「お尻の穴に指が入って感じたのかな?」
    「……そうですけど」
    「ははっ、感じちゃったかー。それで、後々オナニーとかしたのかな?」
     どこか小馬鹿にしたような、笑いながらの問いかけは、凛の心にヤスリをかける。
    「お、オナニーって……」
    「必要な質問だから、答えて欲しいな」
     まさか、必要なはずはないだろうが、凛は体を疼かせていた。あれを思い出しながらオナニーしたと白状するのは、変態宣言の一種のようなものである。それをしてもいいという免罪符が与えられ、それに縋って凛は答えた。
     そう、必要な質問だから答えるのだ。
    「少しですけど、しました」
     耳まで染めていきながら、凛はオナニーの事実を伝えた。
    「へぇぇぇ? したんだ? オナニーしたんだ! 検査されたことをネタにして、オナニーいっぱいちゃった!」
    「別にいっぱいじゃ……」
    「じゃあ、どれくらいしたの?」
    「忙しくて時間もありませんでしたし、一回くらいで……」
    「なら、その一回をたっぷり楽しんだのかな?」
    「まあ、それなりに……」
     こんな話を面と向かって行えるはずもなく、始終顔や目を背けながら答えていた。
    「指は入れたのかな」
    「……入れました」
    「へへヘッ、そうかそうかぁ」
     いいことを知って嬉しそうな、本当にニヤニヤとしきった顔を中年は浮かべていた。
    「その、検査されてる想像しながら、裸になって、脚を開いて……」
    「へえ?」
    「中身を開いて観察されたり、指を入れられる想像とかしながらしてました」
    「ほほほう? ぐびっ、いいこと話してくれるねぇ?」
    「……」
     カッと頭が熱くなり、凛は改めて俯く。
    「凄くエッチで変態になったてねぇ?」
    「必要な質問だっていうから、答えただけですけど」
    「うんうん。わかってるわかってる」
     下らない建前だ。
     肥満男はただのセクハラ目的で、凛は変態趣味に目覚めていて、ここにはもうそういうプレイの空気ができあがっていた。新型ウイルスの存在と防疫義務が土台となり、その上に作り上げられた特殊な空気は、検査室ならではのものだった。
    「じゃあ、そろそろ脱いでもらおうかな」
     肥満男がいやらしい目をしながら行う指示に、凛は内心で――来た! と、そう思ってしまっていた。
    
         *
    
     首のリボンをまず取り去る。
     脱衣カゴにリボンを置くと、セーターのボタンを外し始める。私服もいくつか持って来ている凛だったが、その選んだ服の一部に学校用のセーターがあった。それを脱ぎ去ることで、ワイシャツの白い姿を晒し、そしてワイシャツのボタンを外し始めた。
    「あらあら、アイドルが肌を晒しちゃうなんて」
     肥満男は楽しそうだった。
    「今日はどんな下着かな?」
    「青、ですけど」
     しだいにはだけていくワイシャツから、チラチラと青色が覗けて見える。外れたボタンの数が増えるにつれ、だんだんとヘソまで見え、ついにはワイシャツを脱ぎ去った。
     凛の身に付けた青いブラジャーは、黒い薔薇を縫い付けたダークなデザインだっ。影絵のようなイバラが茂り、花びらが散りばめられたカップの中央には、漆黒のリボンがよく目立つ。
     スカートを脱ぎ始めた。
     ホックを外し、チャックを下げると、緩んだスカートはあっさりと凛の足下に輪を広げ、そして凛は下着姿を晒していた。
     ショーツはTバックだった。
     フロントも布が少なく、三角コーンのような形の布の、ちょうど三つの角に黒い柄の縫い付けが施され、両側はヒモで結ぶタイプである。
    「あらあら、やっぱり剃ってないねぇ?」
     肥満男の顔が近づいた。
    「や……」
    「毛がいっぱいはみ出てるよ?」
     指摘された瞬間に、頬に火花が弾けたような熱が走って、凛は素早く顔を背ける。 布面積に対して毛が多いのだ。
     はみ出た毛は布によって踏み倒され、寝かされた毛先という毛先の数々が、様々な縮れ方をしてびっしりと、ブラシのように並んでいる。あるいはムカデ、ゲジゲジと例えても良さそうだった。
    「後ろを向いてごらん?」
     凛が身体の向きを変えれば、鼻先が皮膚に触れてきそうな気配を尻で如実に感じられ、呼吸の熱気も当たって来る。
     言うまでもなくはみ出た毛は、Tバックのヒモに根元を倒されつつ、尻のカーブに剃って毛先を伸ばし、ストレートの中に縮れた歪な形が幾本も混ざっていた。
    「やっぱり毛まみれだ」
     指が触れ、凛はピクっと腰で反応する。
    「アイドルなのにボーボーすぎるね」
     指先が尻肉の下弦をくすぐり、四指で左右の尻たぶをプルプルと持ち上げて、弾ませんばかりに弄ぶ。触られていることで皮膚が疼き、さっそくのように体が反応を示し始める。それに気づいてか、肥満男は悪戯にくすぐり始め、凛は腰をモゾモゾとさせ続けていた。
    「ほら」
     毛をつまみ、軽く引っ張る。
    「うっ」
    「ほれ、ほれ」
     しきりに引っ張る遊びがマゾヒズムを刺激して、凛の興奮度合いを高めていく。
    「ケツ毛ボーボーなんて、ファンが知ったら本当にどう思うかな? 僕だって最初は驚いたんだし、他のファンなら気絶しちゃうかも」
    「そんな……別に、見せることなんてありませんし……」
    「前向いて」
    「……はい」
    「ブラ、外そうか」
     粛々と指示に従い、凛は背中に両手を回す。ホックをぱちりと外したあと、あっさりとブラジャーを手放してみせていた。
     もう十分に脱ぎ慣れて、裸も晒し慣れている。
     せいぜい、パンツを見られた程度の気持ちでしかないのかもしれない。羞恥心を完全には失ってはいないのだが、性器や肛門の検査が始まって、初めて全裸らしい羞恥心がこみ上げてくるのだろう。
    「乳輪デカいねえ?」
     身体の特徴について、ズケズケと声に出してくる。
    「あーあー。何も知らなかった頃の僕は、もっと美しいピンク色を想像していたのに」
     あからさまに残念がった言葉まで聞かされて、凛は屈辱を噛み締めていた。その割に肥満男はニヤついて、乳房を拝むことができて嬉しそうでならない顔をしている。
     喜んでいるくせに、言葉では嫌みを言うのだ。
    「毛がボーボーな上にデカい乳輪か。まったく、なかなかだねえ?」
     言いたいことを言いながら手を伸ばし、乳房に軽いタッチをしてくる。ぷにぷにと、表面に指を押し込む触り方に反応して、乳首に血流が集まった。
    「あれれ? 感じてるのかな?」
     突起してきた乳首を見て、肥満男はますます嬉しそうだった。
    「す、少し……」
    「少し? ははっ、少し感じてるんだね?」
    「本当に、少しですから」
     凛はそう言って目を瞑り、肥満男の手つきに身を浸す。こんな悪戯をされている状況を、建前では嫌がりながらも内心では楽しんでいた。
    「ショーツも脱いで、渡してくれる?」
    「……どうぞ」
     おかしな話かもしれないが、全裸経験を積んでいるおかげで、脱ぐことよりもそれを手渡すことの方に抵抗を感じていた。
     だが、疼く。
     肥満男にショーツを与えることで、相手の変態欲を満たさせることでの興奮を覚えてしまう。
    「うんうん。脱ぎたては体温が残っていていいねえ?」
     肥満男はプレゼントが嬉しいように裏返し、クロッチの部分をあからさまに撫で始める。間接的にアソコを愛撫されている感覚に、凛は指でワレメを撫でられる感触を必要以上にありありと想像していた。
     太い指が表面をさすり、愛液が出れば出るほど滑りが増す。
    「けっこうシミがあるね? オリモノの痕跡がよくわかるよ?」
     匂いでも嗅ぎそうなほどに顔を近づけ、肥満男はシミの観察を行った。
    「アイドルはトイレに行かないみたいな幻想あるらしいけど、だったらこんなシミの付いたパンツもどうなのかな? ファンがショックを受けるんじゃないかな? ほら、僕は医者だからいいけどさぁ」
     肥満男はことあるごとにアイドルという言葉を使い、凛の心をぷつぷつと針で刺していくような、嫌な言い方をしてきている。
    「パンツとか、普通は見せないから、関係ありませんし……」
     反論こそしてみせながら、凛のワレメには既に愛液の気配があった。まだ一度も触られてはいないのに、先ほどの想像や今の言葉で体は反応していまい、しだいしだいに感度が働き始めている。
     眠っていた感度が起きて、性感帯が活発化する感覚が凛にはあった。
    「どうしたの?」
     彼は勘付いたのだろうか。
     もう濡れ始めていることが、バレているのかいないのか。ドキドキとした気持ちの中で、凛が抱く願望は、できればバレていて欲しいというものだった。
    「ど、どうも……」
    「興奮してきた?」
     肥満男に問われた途端、凛はドキリとして顔を背ける。
    「ボーボーでびっしりな毛の中には、もう愛液が出始めていたりして」
     図星を突かれ、心臓が飛び出そうになった。
     本当にバレているのだろうか、それとも今のは冷やかしに過ぎないのか。気づかれていて欲しいような、違うような、どちらとも言い切れない気持ちを抱え、凛はドキドキとしながら固まっていた。
    「そろそろ身体測定しようか」
     しかし、バレていたのか違うのか、はっきりすることもないままに、肥満男は次にステップを進めていった。
    
         *
    
     身長計に足を乗せ、柱に背中を当てて姿勢を正す。
     計測を行うため、凛の真横に立つ肥満男は、ニヤニヤと腹に手を当ててきていた。まるでずれないように押さえてやるためであるように、しかし決して必要のない接触を行っている。凛は何も言わずに受け入れるどころか、こんなセクハラを期待さえしていた。
    (私……本当に変態に……)
     自分の性癖を実感する。
     汗ばんだ手に撫でられ、揉むような動きで皮膚をくにくにとやられている感覚がたまらない。明らかに乳房を目指して上へと動き、そのまま下乳を持ち上げてくるのに興奮する。逆に下へとスライドして、小指で陰毛を絡め取る仕草で感じてしまう。
     頭の上にバーが触れ、数字を読むためとばかりに顔が近づく。
    
     ふー……ふー……。
    
     と、黒髪の狭間に覗けて見える白い耳へと、肥満男の熱い息は吹きかかる。それが耳穴に流れ込み、広がる吐息の感触は頬にさえ触れ、本当ならばもっと怖気に震えるところだ。
     体が喜んでしまう。
    「身長は一六五センチ。変化無しだねぇ?」
     囁く肥満男の唇は、耳に触れる直前にまで迫っていた。
     耳を舐められてしまうのかと、凛はそんな予感に強張ったが、そうはならずに手の平の方が上へと動き、乳首をつつく。
    「んっ」
     首が縮み、反射的に俯いてしまった。
    「へへっ、計り終わった後だからいいけど、動かないようにねぇ?」
    「……はい」
     身長計を降りる。
     その瞬間に凛は尻を掴まれていた。
    「ほら、次はこっちだ」
     まるでエスコートをするように、尻へと手を回したままに、肥満男は凛のことを体重計まで導き始める。凛はそれに従い進んでいき、体重計の台へ上がっていくと、すぐに数値は現れていた。
    「こちらも変化なし。太ったりはしてないんだねぇ?」
    「しませんってば」
    「へえ? カロリーとか色々考えてるのかな?」
    「そりゃ、多少は……」
    「よ! えらい!」
     称えんばかりの言葉をかけながら、ペチ! ペチ! と、その手でお尻を叩いてくる。軽い力で音を鳴らされ、凛はその屈辱感に身を浸す。
    「さぁて、今度はスリーサイズだねぇ?」
     肥満男がメジャーの用意をした瞬間から、乙女のプライベートな数字がまたしても暴かれるのだと、凛は全身を疼かせていた。この短期間で変化などないとは思うが、繰り返し確かめられている感覚が興奮を招くのだ。
    「では腕を左右水平に」
     そう言われ、両手を広げる。
    「お? ほほっ、へぇ?」
     まず肥満男が行ったのは、脇の下を覗き込む行為であった。
    「あ、あの……」
    「いやね。脇毛がはみ出てないもんだから、気になってね? そっかー。なるほどなるほど、剃ったってさっき言ってたもんねぇ?」
     ライブで脇の見える衣装を着るため、その時までは毛の痕跡などわからないツルツルな状態にしてあった。ところが濃い毛は生え始め、一ミリか、二ミリか、触れればジャリジャリとした感触のありそうな太いものが顔を出し、剛毛の気配を漂わせている。
    「うーん。ま、これならアイドル失格ではないかなぁ?」
     失格などと口にしてくる不快感を凛はただ噛み締める。
    「ではバストから」
     まるで抱きつくようにして、肥満男は凛の背中にメジャーを引っかけ、乳房の上に目盛りを合わせてくる。今にも密着されそうな距離感に緊張しきり、ただただ硬直しているばかりの凛は、乳首の先に肥満男の膨らんだ胸が触れてくるのを感じ取る。
     そして、メジャーは巻きついた。
     大きな乳輪の上に目盛りは合わさり、肥満男はその数値を読み取った。
    「八二センチ。今まで通り」
     締め付けが緩むと、メジャーは腰へと移される。
    「今回はお腹引っ込めるとか駄目だよ?」
     以前の発覚したことについて、肥満男は前もって言ってくる。
    「も、もうしませんし」
    「ならいいんだよ? さて、ええっと、こちらも変化無しっと……」
     肥満男はさらにそのままメジャーの位置を変え、お尻に軽く食い込んできた。巻きつく先で目盛りが合わされば、びっしりと生え揃い、伸びきった剛毛の中にメジャーは埋もれる。
    「あらあら」
     あからさまに呆れた声が上がった。
    「毛が長いもんだから、目盛りが見えなくなっちゃった」
    「他の場所で合わせたら……」
     そう口では言ってみるものの、アソコのすぐ近くに指があり、陰毛をネタにされながら弄られていることで、凛は興奮してしまっている。
    「ほれほれ」
     肥満男はメジャー越しにくすぐり始めた。
    「うっ、ちょっと……」
    「ほれほれほれほれ」
    「あっ、くぅぅ……」
     メジャーの上を左右に往復し続ける指先は、その動きによって絶えず陰毛を掻き分けている。長々とした毛先はどくことがなく、元の形に戻ろうとする力によって、すぐさま目盛りを隠してばかりだ。
    「うっ、い……」
     いい、気持ちいいと、つい白状しそうになる。
     しかし、凛はそれをぐっと堪え、自分の変態性は押し隠した。
    「湿っているのがわかるよ? ワレメから出て来た愛液で毛が固まって、さっきからずっと興奮していたのがバレバレだねぇ?」
    「そ、そんな……」
     凛は一気に赤らんだが、願望通りにバレていた興奮も相まって、頭の中で熱が高まる。
    「でも計測を進めないとだし、そろそろ数値を見ようねぇ?」
     と、やっとのことで肥満男は数字を見る。
    「うんうん。こちらも変化無し、と」
     スリーサイズの全てをチェックしたところで、肥満男は今になって書類への書き込みを始めていた。凛の元から離れたかと思ったら、テーブルに置いていた書類にボールペンを走らせ、今までの数値を記入しているのだった。
    「では次に進んでいきましょう」
     アソコが悶々としている中で、肥満男は椅子を指す。
     性器や肛門の検査はまだ先であることに、半ば絶望したような、がっかりとしたような、楽しみが先延ばしにされた思いを抱え、凛は椅子に腰掛けるのだった。
    
    
    
    


     
     
     


  • 続 渋谷凜の全裸健康診断【後編】

    前編

    
    
    
     羞恥を煽ることにより、渋谷凜の頭はかき混ぜられていた。
     全身の観察と共に、毛の生え具合についてコメントを聞かされて、さらには最初の診断での絶頂についてさえ、肥満男によって暴露されたのだ。記憶から消したいような、あらぬ過去を晒されながら、お尻までペチペチとされる屈辱に、かえってアソコが反応する。
    (私、本当に……変態……)
     もう、気持ち良くなってしまっていた。
     このままアソコと肛門の検査をされたら、またしても感じることになり、きっと絶頂の宣言もさせられることになるだろう。恥辱の未来を想像するに、興奮してしまう自分に対する思いに溢れ、変態となった自分をどう捉えていいのかもわからない。
     自分自身の足首を掴んだままに、凜は床ばかりをただ見つめる。
    「そーいえば、薬物の持ち込みとかで、肛門と性器の検査厳しくナッテマス」
     審査官が告げてきた。
    「お尻からクスリが出ちゃった例が最近あったし、厳しくするよう通達があってね」
     肥満男の声があったと思えば、キャスターのタイヤが転がる音で、何かの器具が運ばれてきたことがわかった。
    (薬物なんて……)
    「まずは肛門から調べるからね」
     ビニール手袋をはめる音がして、次の瞬間にはヒヤッとしたジェルが皺の上に乗ってくる。ぐるぐると、ぐにぐにと塗りつけられ、ジェルに呑まれた尻毛も指の動きに合わせて渦を巻く。
    「あぁ……やっ、やばっ、これ……」
     凜は否応なしに自覚してしまった。
     これだ。
     これを求めていたのだ。
    「あぅぅ……んっ、んぁ……!」
     ジェルを丹念に塗り込まれ、そのまま指が突き立てられたかと思えば、ずにゅぅぅぅぅ──と、内側に挿入されていく。内部を探られる快感に喘ぎ、お尻で悶える凜は、脚の筋肉までピクピクとさせているのだった。
    「オヤオヤ? 気持ち良さそうですね」
    「ちが──そんなわけ──」
     口では咄嗟に否定する。
     しかし、漏れ出る声に、お尻の反応。快感を隠し通せるわけがなかった。
    「アソコが濡れているのはわかっているよ」
    「ほほう? タシカニ濡れてマス」
     肥満男が喜んで指摘するなり、審査官はアソコを覗き込んでくる。視線を感じるに、ますます辱しめを受ける感覚は強まり、下腹部は喜びを高めてしまう。
    「はぁぁ……くっ、ん…………」
    「気持ち良さそうだねぇ?」
     煽らんばかりだ。
    「あっ、やぁ…………」
     もはや否定も返せない。
     根本まで指が埋まって、お尻に拳が当たっている。ほじくるような動きに対しては、こんな場所を調べられているのだという感覚が強まり、ピストンされれば陵辱されている気持ちになる。このままでは肛門でイカされそうな予感さえして、無意識のうちに締め付けていた。
     ピストンを肛門括約筋で食い止めたいような、あるいは逆に反応を伝えてイキそうなアピールがしたいのか、凜自身にもわからない。
    「さて、イクのかな?」
    「はっ、くぅ……! だめっ、やば……!」
     愛液は内股にまで流れ出し、凜の感じぶりは誰の目にも明らかになっていた。
    「──っと」
     そんな時に指が抜け、凜はかえって困惑する。
     イケそうだったのに……。
    (い、いや! なに考えてんの!)
     凜は首を横に振り、あらぬ考えを頭から追い出そうとした。そんなことをしても、しっかりとこびりつき、払いようのない気持ちはすっかり奥まで浸透している。
    (やっぱり、私もうおかしいんだ……)
    「うんうん、イカずに済んだみたいだね?」
     そんな声をかけられるに、わざと遊んでいたのだと凜には伝わる。
    「では次は肛門鏡デスネ」
    「はい。お願いします」
     肛門鏡は審査官がやるらしかった。
     最初の時の、肛門に器具が入った感覚を思い出し、改めて下半身が疼いてしまう。体が期待してしまっている。早く欲しい、早く、早くと、お尻から急かす気持ちが放出され、もしも本当に伝わっていれば、男二人でどんな満面の笑みを浮かべていることか。
    「デハデハ」
     審査官の手で、新しくジェルが塗られる。
    「さぁて、イクかな?」
    「一回目の診察と同じことシテ、どのくらいでイクかも見てますからネ?」
     絶頂さえも記録されると伝えられ、全身が甘い快感にぞわぞわした。身体中に期待の信号が行き渡り、アソコが絶頂の準備を始めてしまっていた。
     そして、男の親指ほどある太さ器具が、凜の肛門目掛けて突き立てられ、それはずっぷりと埋まり始める。
     
    「ん! んひぁ──!」
     
     凜はイった。
     アソコから、軽い霧吹きのようにピチャッと、愛液を解き放っていた。
    「挿入だけでイキました!?」
    「凜ちゃーん? 記録しておくね?」
     二人して、嬉々としていた。
     いや、それだけではない。
     忘れがちだが、ここには見学者も並んでいて、凜のイキ姿を見るなりヒソヒソと話し始める。会話の内容まではわからなくとも、絶頂を面白がっている雰囲気だけはよくわかり、頭が熱くなっていく。
    「ところで、今のは本当に絶頂? 痛かったとかじゃなくて?」
     ……わざとだ。
     わかっているくせに、勘違いがあっては誤診に繋がるというそれらしい理由から、本当に絶頂なのかを尋ねてきている。
     屈辱と恥ずかしさで、感嘆には答えられない。
    「言わないと、診断を完了したことにできないよ?」
     そう煽られ、凜は心を決めた。
    (前だって言ったことだし、慣れたし、問題ない……)
     心の中で強がりながら、凜は口を開いていく。こんなポーズのまま、お尻に器具まで入った有り様で、どこまでも惨めな思いで宣言する。
     
    「アイドル渋谷凜は……し、診察で……絶頂します…………」
     
     その瞬間だった。
    「ははははっ! そんな言い方わざわざしなくても、ただ性的な快感だったかどうかだけでよかったのにれ!」
     ペチ、ペチ、ペチ、ペチ、と、肥満男は面白おかしいもので喜びながら、凜のお尻を叩いてきていた。
    「そんな……!」
    「ジャパニーズ・ヘンタイ」
     審査官にまで笑われた。
     惨めだ。
     どうせ入国管理の権限を盾に、いやらしい言い方をさせられると思ったのに、だから一回目のようにきちんとはっきり、自分の名前まで口にしての宣言だった。
     それをコケにされたのだ。
    「ではコノママ」
     審査官は肛門鏡で内部を探る。
    「へえ」
     肥満男はモニターに映る腸壁を見て、好奇心かもわからない感嘆の声を吐く。もちろん病気の類いの有無も、薬物の違法な持ち込みも、必要なチェックはしているが、それ以上に彼の意識は凜の感じる様子にある。
    「あっ、くぅ……! くふっ、あぁ……!」
     肛門鏡が蠢くだけで、良いセックスでもしているように喘いでいた。
    「これ検査ナンデスケドネー」
     審査官はいかにも困った言い方で、診察でよがる凜に対して、おかしなものでも見る目を向ける。そんな視線が突き刺さってくることが、声色から感じ取れていた。
     マゾヒズムが刺激された。
     いやらしい変わり者に対する視線を感じ、どんな顔をされているかを思えば思うほど、チューブをくわえた肛門に快楽が拡散していく。お尻の筋肉にまで甘い感覚が染み渡り、アソコが疼いて全身がビクついた。
    「オーウ。今のでイったのですか?」
     蔑む声。
     凜の視界にあるのは、床と自分自身の髪だけだが、それでも審査官の人を嘲る顔が頭に浮かぶ。
    「……はい」
     悪いことをして、責められ説教をされている気持ちになって、凜は小さな声で答えた。
    「いけないね?」
    「イケマセーン」
     二人して、悪いことのように言ってくる。
    「では悪い子には、分娩台で次の検査を受けて頂きましょう」
     そう聞いただけで、次の検査をアソコが歓迎してしまう。喜びを示さんばかりに愛液が流れ、心の底では嬉しい気持ちで、表面にはそんなものは出さないように、凜は分娩台へと移っていった。
     
         †
     
     あられもない姿である。
     仰向けよりもいくらか角度のついた背もたれに背中を預け、座板にお尻を乗せた凜は、両足を専用の台に固定され、M字開脚を強いられていた。お尻の下に敷いたシートで、下半身の角度はやや上向きに、きっちりと脚の左右に広がった有り様は、無惨とも卑猥とも言えるだろう。
    「うーん。まずは改めて」
     肥満男の顔が迫る。
     今にも貪りついてきそうな至近距離に、すぐそこに男の顔が来ている感覚が堪らない。羞恥で頭が熱くなるほどアソコは疼き、そして濡れたところを見られていると思っただけでも余計に気持ちよくなってくる。
    「ワタシもよろしい?」
    「ええどうぞ」
    「デハデハ」
     審査官と入れ替わり、今度は別の頭が迫った。
    「オーウ。毛はワレメの回りとかにもちょっと来てるんデスネ? 小陰唇はみ出てます。ちょっと大きい」
     性器の見た目を声に出して解説される。
    (やだ……)
    「中身、見ましょう」
    (やっ……)
     ワレメを開かれ、覗き見られて、自分の全てを透かされているような、何も隠し事が出来ないような気になってくる。汁気が溢れ、それがワレメから尻のワレメに流れていけば、尻毛に絡みついてしまう。
    「うーん! クリトリス大きいデスネ? お芽めでてマース!」
     そんなことを明るく言われ、自分では自覚のなかったクリトリスの突起を暴かれたと思うと、みるみるうちに脳が煮たって沸騰する。
    「では所持品検査も兼ね、触診ヤリマス。ワタシも医者ですからネ」
     目の前でビニール手袋をはめ、アソコに指を入れる準備をしてくる。膣内をほじくられることがわかっただけで、子宮がヒクっとした。ご馳走を前にじゅるりとヨダレが流れるように、愛液が改めて滲み出ていた。
    「凜サン。婦人科検診も過去二回やってますネ?」
    「それは、まあ……」
    「イクかやどうか確かめます。急に反応変わったらおかしいからデス」
     もっともらしい理由を付け加え、審査官は指を差し込んできた。
    「うぅ……!」
    「どうです?」
    「アタタカイですねー。あ、いまヒクってしましたヨ」
     肥満男が感触を尋ね、審査官はその実況をする。
    「んっ、あぁ……! くっ、あっ! あっ!」
    「気持ち良さそうデスネー」
    「症状はどうです?」
    「健康問題無しヨ。ただ愛液いっぱいナノネ。くちゅくちゅ音が鳴りマース」
     証拠を示すようにして、審査官は指を活発に出し入れする。
    「あっ! あっ……!」
     すぐにでも決壊が迫り、凜は大いに仰け反った。
     
    「あぁ──!」
     
     潮が審査官の白衣に振りかかり、濡らした染みを作ってしまう。
    「イキましたねー」
    「やぁ……」
     イったことを言葉にされ、凜は恥じらい、目の前の審査官から、自分をイカせた男から目を逸らす。
    「一応カクニン。今のは絶頂でよろしい?」
    「……はい」
     そう答えることも恥ずかしかった。
    「ダブルチェックとして、僕も触診するよ」
     ポジションを入れ替わり、今度は肥満男がくちゅくちゅと、凜のアソコから愛液を掻き出した。活発なピストンはもはや性的な責めに他ならず、数分も経たないうちに凜は絶頂を迎えていた。
    「あぁぁぁ──!」
     仰け反り、ビクつく凜に対して、二人の男が向けてくるのは、面白おかしいものを楽しむ視線に過ぎない。
    「またかぁ」
    「またデスネー」
     呆れんばかりに肩を竦められ、凜はますます情けない気持ちになる。
    「っと、まだまだ」
     次に肥満男が行うのは、アソコと肛門に同士に指を入れる方法だった。ピースの形で上下の穴に狙いを済まし、挿入は行われる。
    「はぁ……! くっ、ん!」
     二ヶ所への異物感が侵入して、凜は喘いだ。
    「ん? アソコもお尻も、キュウキュウ反応してるね?」
     そんなことを言いながら内部を探り、しばらくすればピストンが始まっていく。指の出入りに足首がよがり、喘ぎ続ける凜は、またしても数分以内に絶頂していた。
    「イキましたねー」
     審査官はどうやら紙に書き込み記録している。
    「うんうん、ナカまで震えてるのがよくわかるよ」
     肥満男も満足そうだ。
     凜が腰を痙攣させ、膣肉は肛門までピクピクと震えているのが、肥満男の指にもよく伝わっているようだった。
     さすがに、もう終わる。
     ここまでやれば十分に違いない。
    「次はこれね」
     そう思った凜に対して、クスコを見せびらかしてくる肥満男と、そこ隣に並ぶ審査官は、実に意地の悪い、悪魔が笑うそのものの笑顔を向けていた。
     銀色の、クチバチのような器具が入り込む。
     金属のひんやりとした固い感触を膣に感じて、凜自身の温度が器具の表面を温める。操作によってクチバチが開いていくと、穴の幅は広げられ、膣穴を肉眼で覗きやすい、視診に最適な状態が出来上がる。
     まずは肥満男がペンライトを片手に覗いてきた。
    (普通にアソコ見られるより……やばい……)
     羞恥心で体温でも上がってか、凜は赤らんだ額から汗を浮かべる。
    「血色がいいね? うねうねしてて、ピンク色の表面に細かく血管が走っているのがよくわかるよ」
    (じ、実況……しないで……!)
    「ワタシもチェックしまーす」
    「はい、どうぞ」
     まるで自分のものを譲るように、肥満男はポジションを明け渡し、今度は審査官がペンライトで中身を照らす。子宮の入り口まで見られていそうな、秘密を暴かれている感覚に、凜の頭は沸騰を続けていた。
     脳が煮え立ち、脂汗が額に吹き出す。
    「子宮の口がミエマスね」
     本当に見えていることを教えられ、凜はますます汗を流した。
    「じゃあ、カメラ付きの器具を入れるよ?」
     肥満男は棒状の器具を握っていた。先端にカメラを取り付け、膣内を確かめる。医療用の道具だが、どうしてなのかモニターが凜の目の前まで運ばれてきた。
    「あぅぅぅぅ!」
     挿入され、モニターに映像が現れる。
     まさに肉の壁だった。スーパーに並ぶ生肉の色合いに似て、壁と壁の閉じ合わさった肉穴は、挿入によって割り開かれ、レンズの押し当たった部分がそのまま画面を占めている。器具が前後にピストンすれば、映像もそのまま前後して、遠ざかっては奥へと迫る。
    「どうかな? 自分のアソコを覗く気持ちは」
    「あぁ──くぁっ、ううう──!」
     全身が興奮して、アソコが愛液を垂れ流す。肉壁から分泌されているものが、ちょうどピストンの滑りを良くしてしまい、水音と凜自身の喘ぎは高まっていた。
     
    「あ──────」
     
    「あーあー」
    「一体何回イクんですか?」
     その手でイカせておきながら、二人して凜のことを馬鹿にしてくる。ケラケラとからかう笑いの視線が刺さり、恥辱感でならなかった。
    「あなたのイった回数、記録しましたカラネ?」
    「よかったねー。いっぱいイケて」
     惨めだった。
     こんなにも惨めで、情けのない思いを味わうなど、この人生で想像したこともなかった。
     
         †
     
    「こんなの……見せないで下さい……」
    「こんなのじゃないよ。君の体だよ」
     
     凜は自分の下半身を見せられていた。
     分娩台で開脚をしたままの、アソコばかりか肛門まで映す形でカメラを介し、モニターには凜自身の恥部が大きくアップされている。先程までのジェルが残って、愛液も垂れた尻毛は水分によって束ねられ、皮膚にべったりと張り付いている。
     陰毛も汗と愛液を吸い込んで、肌と密着しているのだった。
     肥満男と審査官で、二人して視姦していたのは、一体どんな光景なのかがはっきりとわかり、凜は画面を直視できずに目を背ける。
    「よーく見なさい。これがアイドル渋谷凜のね、イキまくった下半身なんだから」
     そんな言い方までしながら、凜に直視を強要してくる。
    「ところでデスネ?」
    「形式的な確認なんだけど、さっきも言ったように厳しくやるよう通達が出ていてね?」
    「イキまくったのはわざとですか?」
     審査官が行う質問を凜は理解できなかった。
    「どういうこと、ですか……」
     イクのにわざとも何もない。イッたフリなら演技で行う余地はありそうだが、本当の絶頂をコントロールすることなど凜にはできない。もしできるなら、イカないようにした方が、むしろここでかく恥は減らせる。
     いいや、きっと自分は減らさない。
     一回目の頃ならいざ知らず、今の自分はもう……。
    「違法な物品を誤魔化すため、わざとイキまくったんじゃないか? ってことだよ?」
    「ありえない……」
     つい反射的な言葉で、凜は即座にそうこぼした。
     だいたい、仮に何かしら隠し持っていたところで、ここまで調べて出て来ないわけがない。なおも疑うつもりなら、レントゲンか何かで胃袋を調べるべきだ。
    「形式的なカクニンでーす」
    「診察でイク変態なのか、そうじゃないのか。口頭で確認が取れればいいってわけ」
     もう理由などなんでもいいらしい。
     凜に屈辱的な台詞さえ言わせれば、きっと何だっていいのだ。
    「変態って、認めるから……イッた……から……」
     モニターから瞳を逸らしつつ、男二人とも視線が合わないように、恥を堪えて小さな声で宣言する。たったこれだけのことで体は疼き、凜はどうしようもなく知ってしまう。こんな風に扱われ、性的に喜んでしまう性癖は、もう完全に芽生えてしまったのだ。
    「せっかくだから、さっきみたいに『アイドル渋谷凜は』って、きちんとした宣言にしてみない?」
    「いいデスネー」
     盗撮されていることを、この部屋がカメラにまみれていることを凜は知らない。
     知ってさえいれば、まだしも拒んだことだろう。
     しかし……。
     
    「アイドル渋谷凜は……性器と肛門を検査されて、それでイッちゃう変態です……認める……認めるから……」
     
     宣言を済ませた時、凜を見下ろしながら、二人の男は邪悪に歪んだ顔立ちで勝ち誇っていた。アイドルを完全に屈伏させ、征服を果たしたかのような喜びに歪んでいるあまり、本当は人間のフリをした本物の悪魔が存在して、その魔法で従わされていたのではないかと、妄想じみたことさえ考えてしまった。
     
         †
     
     ライブは成功した。
    (あんな思いまでして入国して、それで失敗なんて! 絶対にありえない!)
     それが全てであった。
     人生最大の屈辱に耐え、羞恥を乗り切り、変態宣言までさせられながら、それでもライブの準備を進めて開催したのだ。あんな思いまでして行うライブとは何なのだろうと、疑問さえ抱いた凜だったが、会場を盛り上げた熱気をそのまま肌に感じると、初めてのライブで覚えた高揚感を思い出していた。
    (まだ体が熱い……)
     ライブ後は観光の休暇で数日間滞在して、帰国予定を迎えて空港を訪れる。
     やはり、出国前にも検査はあり──
     
    (駄目だ……。やっぱり、楽しみになっちゃってる。変態とか言われても、もう否定できないんだ……)
     
     変わってしまった自分を思い、検査室への案内を受ける。
     ところが、そこにいた面々は、あの時の審査官とは別人で、肥満男さえおらず、そもそも担当者は気遣いと申し訳なさに満ちた女性であった。
    「ごめんなさいね。仕事なの。こちらからは断れなくて……」
     いかにも仕方がなさそうに、罪の意識さえ抱えながらも取り組んでいた。
     基本的な項目は一回目や二回目と変わらない。全裸となり、全身の視診を行い、アソコや肛門さえも覗かれたが、羞恥や屈辱を煽る言葉はかけてこない。指をアソコに入れたついでにピストンしてイカせようとしてこない。
     だから当然、隠しカメラも存在しない。
     あまりにも手早く済まされ、かえって驚いてしまった凜は、悶々としたものを抱えて飛行機に乗る。
    (いや、まだだよね)
     日本到着後、空港でも検査はある。
     大丈夫、まだチャンスはある。
     そうまで残念がる自分に気づき、凜は座席で目を伏せた。
     
     もう、本当に……。
     ……私、変態だ。
     
    
    
    


     
     
     


  • 続 渋谷凜の全裸健康診断【前編】

    後編

    
    
    
     出国前。
     あの恥辱の検査を思い出しながら、空港の別室で衣服を脱ぎ、渋谷凜は丸裸で丸椅子に尻を置いていた。胸には聴診器が当たってきて、目の前の医師は静かに耳に意識をやっている。
     日本を出る前にも、到着後の入国前にも、数日前に受けた健康診断と同様のものを受けなくてはいけないらしい。
     その日本空港での診断だった。
     わざわざ脱いでの診察で、心臓や肺の音を確かめ終わると、医師は直立を指示してくる。
     立ち上がった途端に始まるのは、全身の皮膚を観察する視診であった。肩回りから乳房にかけ、腹や太ももにアソコから、足の裏側さえチェックしてくる内容には、本当に全身がむずかゆくなっていた。
    「前回から毛は剃った?」
    「……いえ」
     できれば剃っておきたかった。
     しかし、毛の具合が変わると何か都合が良くないらしく、入出国前には剃らないで欲しいとの通達があった。剃っていいのは入国後のライブの準備に入る期間で、それまで整えてはならない。
    「よろしい。あちらの空港に到着するまで、引き続きそのままにしておくように」
     裸を観察されるだけでも恥ずかしいのに、見栄えまで悪い状態では、余計に羞恥を煽られる。
     アソコや肛門の検査を受けるのも、やはり毛むくじゃらの状態で、どんなに汚く見えているかが気になってしょうがない。
     それらの検査が済まされて、服を着て安心したところで、入国前にも同一の検査を受けるための同意書が手渡される。ここにサインをしなければ、防疫の厳しくなったその国には入国できない。
    (また、受けられる……)
     ペンを握って文面に目を通し、記入を行う凜は、心のどこかで期待していた。
    (受けられるって、なに。これじゃあ私、ただの変態じゃ……)
     何をおかしくなっているのかと、期待する自分の気持ちを抑え込み、全ての受付を済ませた凜はプロデューサーと合流する。飛行機の席に付き、ファーストクラスの座り心地に気を緩め、長いフライト時間をやり過ごすためにも眠りについた。
     
         †
     
     飛行機が着陸した。
     空港では健康診断の列が出来上がり、男女別に並んでいた。あんな検査を受けてでも入国しなくてはならない用事こ持ち主がこんなにもいることに軽く驚き、ここにいる全員が同じ目を見るのだろうかと、関心とも驚愕ともつかない思いにかられる。性別も国籍も異なり、肌の色さえ豊富な列を見ていると、新型ウイルスがどれほど恐れられているかの実感も沸く。
     ファーストクラスに搭乗していた客には特別室があり、順番が早いらしい。
     一般席だったプロデューサーと別れ、一足先に健康診断を受けることになる凜は、職員の案内に従い部屋へ行く。
     ブルーの床と、染み一つない薄水色の壁から清潔感が漂う検査部屋には、身長計や体重計がひとしきり揃えられ、純白のシーツがかかった診察台が置かれている。デスクの設置、薬品を並べた棚、あらゆるものが揃った室内で、凜は見覚えのある顔を見てぎょっとしていた。
     
    「やあ、また渋谷凜ちゃんに会えるだなんて光栄だよ」
     
     あの時、大使館での診断の場にいた肥満男だ。
    「……ど、どうも」
     幸福でならなさそうな、いっそ天使が浮かべるような微笑みさえ垣間見せる肥満男は、ニヤニヤと鼻息を荒げて凜の肢体に目を向ける。厚着越しの胸に露骨な視線を注ぎ込まれ、スカートから見える太ももにも視姦は及ぶ。
     凜にとって、重大な弱点を知る男が現れてしまったようなものである。以前の絶頂と、イキましたと宣言をさせられた屈辱は、ある種の弱みだ。秘密を握られた気持ちになり、凜はどことなく肥満男を警戒する。
    「いやぁ、よかったよかった。追いかけて来たはいいけど、実際に会える保証はなかったからね」
    「追いかけたんですか? わざわざ……」
     ストーキングをされたかのようで、表情には出さないが、凜はぞっとしていた。人の裸が見たくて情熱を燃やし、可能性に賭けてきたのだろうか。そんな男の前で再び全裸になることへの抵抗から、内心では身構えてしまう。
    (だけど、ここまで来て入国できなかったら、ライブができなくなるんだ。今までは積み重ねたレッスン、絶体に無駄にはしたくない!)
     もう既に二度も全裸で検査を受けた。
     三回目にもなれば慣れている。
    「はぁい。では? 入国審査官のワタシと? ジャパニーズの彼で検査やりまーす。ベンキョーのため見学に来てる方もいらっしゃるけど、ご了承クダサイマセ」
     現地人と思わしき審査官は、妙にペラペラとした、とはいえ不思議な発音や訛りも混じった日本語を操っていた。
     審査官の言う通り、壁際には同じく現地の関係者が、おそらくは医療職にあたる白衣の男達が並んでいる。
    「よろしくお願いします」
     衆人環視の中での脱衣。
     その瞬間が迫っただけで、凜は下腹部を熱っぽく疼かせて、早く露出したい願望にかられてしまう。変態ではないか、どうかしているとは思いながらも、足元に脱衣カゴが置かれ、暗にここで脱げと言われた時には体が歓喜してしまう。
     凜は羽織っているものを脱ぎ始める。
     冬の季節に合わせたコーディネートで、長袖の暖かな服を着た上に、着合わせに一枚を羽織っていた。それを脱衣カゴの中に畳むと、さほど抵抗なく次の一枚をたくし上げ、内側のヒートテックの、真っ黒な生地をあらわにした。
     ブラジャーがヒートテックを丸く押し上げ、乳房の形をありありと浮かべている。生地と生地の密着で、凝視さえすれば刺繍の浮き出た具合が見えなくもない。腰のくびれにぴったり寄り添い、体格を明らかにしたヒートテックをたくし上げると、そこに見えるブラジャーもまた黒だった。
     漆黒に銀の刺繍を走らせて、薔薇模様を刻んだゴシック調の下着は、広告では大人な格好良さを謳っていたものだ。
     スカートを脱いだ中身は黒のストッキングだ。
     ふくらはぎや太ももの部分では、肌色を薄らかに透かせているが、ショーツの部分では黒と黒が重なって、そこだけがより濃い色となっている。そんな三角形からも銀の刺繍は輝いて、ストッキングの中から煌めいていた。
     ストッキングを脱げば、銀糸のキラキラとした光の反射はより明らかに、黒みがかっていた太ももは白く眩しく輝いた。
     これで下着姿だ。
     しかし、全裸経験を積んだおかげか、まだ何も問題を感じていない。いくら男の視線が集中しても、凜は毅然としていられた。必要な検査のため、例えば医者に血液を採らせたり、薬を打ってもらうことと変わらない気持ちで全裸を目指すことができていた。
     ブラジャーをあっさり外し、乳房を出せば、さすがに少し赤らんだ。
     羞恥は込み上げてくるものの、凜はショーツもあっさり下ろし、靴下まで脱いだ丸裸を披露していた。
    (大丈夫。もう慣れた)
     これで毛さえ剃ってあったなら、見栄えもしていたことだろう。脇から黒い毛がはみ出て、陰毛も伸び放題のまま、尻毛のために、お尻の割れ目を見てさえ茂みの存在がわかってしまう。どう考えても、全裸としては身だしなみがなっていない。できることなら綺麗に整えたいものが、凜の全身には伸びているのだ。
     だが、剃るなという指示だから剃っていない。
    (これは仕方ない、よね……)
     そう思っていないと、やっていられない。
    (というか、やっぱり……)
     慣れたといっても、完全に平気なわけでもない。乳房を視姦されれば顔は赤らみ、アソコに視線が刺さればより一層のこと恥ずかしい。背筋にも、尻にも視線を感じて、四方から見られている感覚に頭が熱っぽくなってくる。
    「ハイ渋谷凜さん。入国管理厳しいので、ここで所持品検査も兼ねマス。特に変なものなければ大丈夫です」
     審査官は脱衣カゴを持ち上げて、テーブルの上に乗せては衣服を調べ始める。
    (ってことは、下着も?)
     点検作業であるように、肥満男もブラジャーを持ち上げて、紐の部分やカップの中身を指でまさぐる。脱いだばかりのものを目の前で調べられ、ただでさえいい気がしないところを、下着まで触られている。
     肥満男は凜のファンだと言っていた。
    「へへっ、渋谷凜のブラジャー……」
     ファンにとっては信じられない体験だろう。
     アイドルの下着を、しかも体温の残った脱ぎたてを触るなど、普通ではあり得ない。実に幸せそうに、きっと頬擦りまでして味わいたいであろう男を前に裸でいるなど、何と言ったらいいものか。
    「パンツもまだ温かいね?」
     そんな言葉をかけてきながら、肥満男は本当に嬉しそうにショーツを広げ、クロッチを裏返して調べ始める。
    「お?」
     何かに注目して、肥満男はぐっと顔を近づける。アソコを直接見られているわけではないが、間接的な視姦を受けるかのようで、ワレメの部分に意識がいく。
    「生理の痕跡があるね?」
     嬉しい発見をした明るい顔を向けられて、凜はそれから目を背ける。
    「あと、お尻の部分ね。うーっすらだけど、茶色いよ?」
    「──っ!?」
     さすがに動揺に目を揺らし、顔の赤みを一気に強めた。
     確かに、フライト中にトイレに行き、凜はトイレットペーパーを使っている。しっかりと拭いたとは思っていたのに、まさか拭き残しの痕跡があった上、人に発見されて声に出してまで指摘されるとは、目を合わせられなくなってしまった。
    「おーう。まあ問題はアリマセン」
     とは言いつつ、審査官は明らかに微妙な顔をしていた。
    「そうですねぇ? ただ僕、彼女のファンでしてね。こういうの見ると、ちょっと驚いちゃうんです」
     最初に受けた診断でも、この肥満男は尻毛に反応してきたり、処女膜の有無を気にして一喜一憂していた。ショックを受けた言い方をしながらも、目は完全に笑っている。
    (最悪……!)
    「まーとりあえず衣類は問題アリマセンね」
    「へへっ、次は身体測定しようか」
     ご馳走を前にヨダレを流さんばかりになって、肥満男は楽しみで仕方のなさそうな顔をしている。気づけば白衣の下に隠れた股間のところは、勃起によって大きく膨らんでいた。審査官も同じく股間を膨らませ、見学者も全員男という、襲われればどうにもならない空間の中で、一人裸でいることの恐怖を抱く。
     自分のショーツを興奮のネタにされた感覚に凜は震え、思わず我が身を抱き締めそうになっていた。
     
         †
     
     身体測定が開始され、凜は身長計で背筋を伸ばす。
     審査官が記入用紙を持つ傍らで、肥満男がバーを持ち、それを凜の頭に触れさせる。耳に顔が迫ってきて、息が吹きかかると同時に、いかにもさりげなく、肥満男は凜の二の腕に触れていた。
     指先でくすぐるように、はみ出た脇毛を触っていた。
    (毛なんて……何が面白いの……)
     アイドルとして、本当なら見せられないものを弄ばれ、しかも横乳めがけて指先をかすかに当ててくるのだった。
    「身長は前と同じだけど、脇毛はちょっと長くなった?」
    「それは……わかんないですけど……」
     毛のことまで指摘され、凜は俯きそうになる。しかし頭に乗ったバーをずらすわけにもいかず、しっかりと顎を引いたまま、前を見据えたまま、顔を背けることなどできなかった。
    「さて、身長は一六五センチ」
    「はーい。プロフィール通りですねー」
     肥満男が数字を言うと、審査官がそれを書き込む。
    
     体重計に移った。
     足のマークが付いた部分に両足を乗せ、デジタル表示によって数字は現れる。数秒のうちに体重は明らかになり、読み上げて書き込むだけのはずだが、肥満男と審査官は、しばしのあいだ凜の裸を眺めていた。
    「あ、五三キロになってる! 一キロ減ったんだねぇ?」
     やっと読み上げたかと思えば、肥満男はそんな事を言う。
    「おーう! プロフィールとちがいますネェ?」
    「ああ、実はサバ読みだったんですよ」
     体重の事を話題にされ、スタイルについて言われているようで良い気がしない。
    「アイドル大変ですねぇ」
    「いやぁ、僕も最初は驚いたもんで」
     人の体重を種に広がる話題など聞かされ、本当に良い気がしない。
    「あの、早く次を」
     つい、凜は言ってしまう。
    「へへっ、次はスリーサイズ……」
     しかし、やる事がやる事で、楽しみそうに舌なめずりをする肥満男に、凜は改めてぞっとしたものを感じていた。
    
     肥満男がメジャーを手にして、凜の胸にかけるため、ゆっくりと伸ばしていく。
    「じゃあ測るからね?」
     獲物を狙うかのような目つきに、これから食されてしまうかのような、エサか慰み者の立場になった気持ちで、凜は腕を水平に伸ばしていく。
     抱きつかんばかりに腕を回し、背中にメジャーをかけてくる動作に、肥満男の腹や白衣が当たってきた。脇下にも袖が擦れて、長く真っ直ぐ、メジャーはピンと伸ばされる。
     ごく軽い力により、背中の皮膚にたった一ミリかその程度、メジャーは食い込んでいる。そうして伸びきったメジャーは、ゆっくりと乳房に巻きつき、乳首の上を通って目盛りは合わさる。さりげなく乳房に触れるため、乳首の近くに合わせてくるやり方に、少しばかり感じてしまう自分がいて凜は堪えた。
    (やっぱり、私は……)
     こういうことで喜んでしまう自分がいるのだろうかと、凜はひしひしと感じていた。
    (こんな自分……見つける必要なかったのに……)
     手こずってみせるフリをして、肥満男は何度も目盛りを合わせ直し、そうやって乳首が擦られている。その刺激に凜は小さく身悶えして、平静を装い隠そうとはしているが、かすかな感じた素振りを見え隠れさせていた。
    「八二センチ! 変わりないねぇ?」
     乳房のことを目の前で言われ、満面の笑みから凜は顔を背ける。
    「次はウェストだね」
     メジャーが移る。
     腰に巻きつき、ヘソの近くに目盛りが合わさり、そこに顔を近づけた肥満男は、怪訝そうに首を傾げていた。
    「おや? 六二センチ?」
     数字の変化を不思議そうにしていた。
    「前回までのデータとチガイマスね。どうしてデショウ?」
     審査官も肩を竦めた。
    「ねえ? 短期間で随分と変わった気がするんだけど」
     太ったことを追究されているかのようで、食べ過ぎや運動不足だと思われてやいないか、気恥ずかしくなってくる。
     しかし、そういうことではない。
     何かを勘づいたのか、何なのか、瞳を覗き込むようにしてくる肥満男は、不意にニタって笑みをこぼした。
    「お腹、縮めてた?」
    「いえ、その……」
     凜は目を逸らす。
     その瞬間だった。
    「それはそれはいけませんよ? 正確なデータ欲しいデス! 統計取ってます! 病気出た時、傾向とか調べマス! 誤魔化されたらコマリマス!」
    「まあまあ、いいじゃないですか」
     審査官はやや真面目に、肥満男の方は愉快そうに、凜のことを責め立てる。
     凜は全裸なのだ。
     誰もがきちんと服を着ている中で、まるで犯罪者の厳しい検査のような扱いで、まだまだ診察も残っている。身分を低められた心地で心は弱まり、強気な言葉を返す覇気など持つことはできない。
    「あの、すみません……」
     凜は軽い会釈めいて頭を下げ、謝罪していた。
    「少し、お腹引っ込めてたので……」
    「そっかそっか。なるほど? 一センチでも細く見せたかったんだねぇ?」
     うんうんと、納得しきったようにしきりに頷き、肥満男はいいことを知って満足そうな顔をしていた。
    「こういうこと! ないようにお願いシマス!」
     やはり、審査官の方は真面目に腹を立てているらしい。
    「……すみません」
     凜は改めて謝った。
     情けない、みっともない。気恥ずかしい事が発覚した思いから、凜は自然と肩を萎縮させ、できることなら消えてしまいたくなってくる。
    「訂正くらいなんとかなるし、大丈夫大丈夫。次はお尻測ろうね?」
    「……はい」
     ヒップの測定に移る。
     肥満男は下半身に腕を回し、指先でかすかにお尻を撫でながら、メジャーを巻き付けていく。アソコの近くに、陰毛のびっしりと生えた部分に目盛りは重なり、それでなくともアソコをまじまじと見られている羞恥は、顔の接近によって強まっていた。
    (やっぱ、恥ずかしい……けど、どうして……)
     甘い電流が走っているように、視姦されるとウズウズと、アソコが蜜を分泌しようと準備を始める。いつ愛液が出るとも知れない不安の中で、濡れたことを指摘され辱しめられてみたいような、真っ平であるような、どちらともつかない思いにかられていた。
    「八五・三センチ! お? 三ミリだけど、あの時よりも良い尻になったみたいだね?」
     お尻のサイズを茶化されて、辱しめを受けた感覚にアソコが酔い、余計にウズウズとしたものが芽生えていた。
     
         †
     
     内科検診のため、凜を椅子につかせた肥満男は、ニヤニヤと聴診器を当てていた。さりげなく、さも偶然のように乳房に指を掠めさせ、そのたびに瞳が揺れる反応を大いに楽しむ。
     全裸になることは、もう慣れてしまったらしい。
     だが、完全に慣れているかといえば、男達の視線を気にしたり、言葉をかければ恥じらいを見せてくる。そんな顔が赤らむ瞬間や、指が当たることを気にした挙動が実に可愛く、肥満男はすっかり楽しんでいた。
     好きなアイドルの裸を見て、楽しくないわけがない。
     こんな絶好のチャンスを逃さないため、肥満男はたまにさりげなく、本当に何でもない風を装いながら、胸ポケットのペンを気にしていた。
     盗撮しているのだ。
     ペン型カメラに裸を収め、奇跡の映像を記録している。アイドルの裸体を拝む機会なのだ。検査の時間だけで終わらせるのは勿体ない。この時間が終わっても、その後も楽しむための極上のお土産が欲しい。
     肥満男だけでなく、審査官に、見学者に並ぶ男達と、複数のカメラが複数の確度から撮影を行っている。それぞれがバッチやペンに見せかけたカメラを使い、さらには棚や机にも、物の隙間に隠れる小型カメラがある。モバイルバッテリーに見せかけたものがある。ファイルケースに穴があり、そこからカメラレンズが覗けて見えもする。
     凜は気づいていなくとも、この検査部屋はこれだけカメラまみれなのだ。
    「では背中を向けてね?」
     指示した途端、凜は一瞬だけ躊躇うが、そんなものは気のせいだったように、あっさりと反対側に身体を向けていた。多少の慣れからすぐに動いてくれてはいるが、見学者の横並びの列に向け、乳房を見せびらかすことになるのは、やはり恥ずかしさがあったのだろう。
     背中に聴診器を当て、深呼吸の指示を出す。
     吸い込む音、吐き出す音、肺から聞こえる音に不審な雑音が混じったなら、こんな肥満男でも医者である。症状の存在に直ちに気づき、病気の特定をしようとするだろう。
     もっとも、心音も呼吸も良好で、凜の身体に異常はない。
    「はい。ではね、全身の皮膚を観察して、炎症や骨格の具合を見ていくので、こちらを向いて立って下さい」
     凜はだらりと腕を垂らし、直立不動を保っていた。
    (うんうん、やっぱり凄いなぁ? あの渋谷凜! ファンやってて、その人の裸を生で拝む機会が二度も手に入るなんで、こんな人生、僕以外の誰が歩んでるんだろう)
     肥満男は悦に浸り、バインダー留めの書類上を片手に、その内容と比較しながら乳房を見る。乳輪が大きめで、焦げ茶色をした乳首の見た目は、写真と同一のものだった。
     あの最初の診断でも、盗撮は行われいた。
     高画質の、毛穴まで拡大可能な映像から切り取って、直立不動の全裸は手元にもある。プリントした画像で見ると、この時の方が赤らみは強く、目の前の本人は薄い赤面しかしていない。
    「乳輪が大きいね?」
     顔を近づけ、じっくりと近くで観察しながら、そんな声をかけてみる。
     すぐさま、画像と同じ色合いにまで赤面した。
    「えっ! いや、その……」
     凜は一瞬ぎょっとして、いかにも胸を隠したそうに、いじらしくも近くまで手を運んでいた。反射的にそうしていたが、結局は隠すことなく、だらっと腕を落としていた。
    「おやぁ? コンプレックスなのですか?」
     嬉しい発見をしたように、審査官は肥満男の隣で問う。
    「まあ、色とか、あまり可愛くないので……」
    「いえいえカワイイですよ?」
     体つきの、気にしている部分についての言葉をかけられるのは、果たしてどんな気持ちがするものか。決して嬉しくはないであろう凜からは、何かやめて欲しそうな、勘弁して欲しいという信号が届いた気がした。
    「ま、どんどんいこうか」
     肥満男は宝物を愛でる気持ちで乳房をじっくりと視姦して、肩や二の腕、肋骨回りや腹部の皮膚も観察する。
     いずれも、異常なし。
     体毛も、指示通りそのままだ。
    「バンザイみたく腕を上げて? 脇やその回りも見るからね?」
     そう言って、肥満男は脇毛に満ちた黒い部位に顔をやり、その伸び放題となった有り様を見るにニヤける。普通は──というより、衣装を着たり、雑誌か何かの撮影があれば、露出に合わせて処理をしているはずの部分だ。
     濃い繁みは、気をつけの姿勢の時からはみ出ていたが、こうして見ると物凄い。根本の奥まで観察しようと顔を近づけ、すると匂いが漂った。風呂には毎日入っているのだろうが、それでも消えきらない香りがあった。
     真横からの眺めは、確度もあってか、毛先が邪魔して乳房が見えにくくもあった。
    「うん。ボーボーだ」
    「──っ!」
     言ってみるなり、凜の顔は歪んでいた。
    「そ、剃るなって言うから……なんですけど……」
    「わかってるよ? だから、ちゃんとボーボーだなって」
     悪びれることもなく、楽しげな表情だけを返していると、凜の赤らみは強まっていた。裸への慣れがあるせいか、ただ脱いで立っているより、何か言葉をかけた時の方がよほど恥じらいが現れていた。
    「アソコはどうかな?」
     書類上の陰毛と、目の前の陰毛を見比べる。
     楕円形の黒い図形から、さらにその回りにも薄い灰色の草原を広げた毛の地帯は、やはり画像の中より僅かに濃い。本当に少しだけだが、楕円形の面積は広がっており、その生え方はススキを倒したかのようだ。
     左右から中央へと、お互いの先端を絡め合わせた形となっている。生え方のクセなのか、毛穴に確度がついているのか、三角屋根に藁を被せたような陰毛と言えた。
    「うんうん、いいジャングルだ」
    「ソウネー。これ、アマゾンです」
     二人してコメントするなり、肥満男は凜の顔を見上げてみた。
     カッと、赤みが増していた。
    「後ろを向いてね?」
     凜に背中を向かせると、豊満な尻が目立った。
    「おおっ、ほほほ。やっぱり、お尻のあいだから毛が見えてるね?」
    「オーたしかに」
     言葉を投げかけ、凜は肩をぴくっと震わせていた。
    「じゃあ皮膚のチェック、と」
     鼻が触れそうで触れない距離から、皮膚の視診で視線を這わせる。髪をどかしてやりながら、肩甲骨の回りを見て、さらに背骨に沿っていく。そのまま尻にたどり着き、はみ出た尻毛にふっと息を吹きかけた。
     お尻の肉がピクっとした反応を示す。
    「うん。なるほどね?」
     肥満男はやはり書類と比較した。
     ぷりっとした丸い肉から、画像の方でも毛は少しはみ出ているが、今の凜には少し目立つ毛があった。一本だけ長く伸びているのかと思ったら、抜けたものがたまたま皮膚にくっついているらしい。
     指を近づけ、取ってやる。
    (ふひっ、これが本物だってわかったら、高く売れちゃいそう)
     なんてことを考える。
    「ではね。肛門調べるから、前屈して足首を掴むポーズお願いね」
     尻が高らかになった。
     尻たぶは姿勢のために割れ目を開き、放射状の皺をあらわにする。毛を生やした肛門から、下へと視線を移してやれば、ビラをはみ出したアソコまで見えてしまう。羞恥心を最大に煽る二つの部位が、同時に視姦できるのだった。
     やはり画像と見比べる。
     皺の周りを囲んで円形状となった一帯から、縮れた毛は外側に向かって倒れている。現在の方が、毛量であったり、長さが伸びているのは、どの箇所も同じらしい。
     このアングルでのアソコを見れば、ワレメの向こう側に陰毛はあるのだった。
    「ところで、思い出してる?」
     肥満男は問いかけた。
    「えっ!? あの、思い出すって、何のことで……」
     凜は一瞬、ドキリとしつつ、どうやら誤魔化そうとしている。
     だが、アソコの湿り気はしだいに目立ち、だんだんと光沢を帯び始めている。まだ手を触れてはいないのに、全裸にさせ、観察しているだけで愛液を分泌したのだ。
     きっと思い出している。
     前回の診断で、アソコを診察によって弄られながら絶頂したこと。
    
     ――あ、アイドル渋谷凛は……診察で絶頂しました…………。
    
     と、そう宣言させられたこと。
     普通は二度としたくない体験として、トラウマになったり、必死に忘れようとしたり、そんな女性が多いものだが、時として新しい性癖に目覚めることもある。
     こんな風に濡れているなら、凜はきっとそうなのだ。
     目覚めている。
    「ほら、宣言したよね?」
     楽しくてたまらない気持ちで、肥満男は肛門に指をやる。皺の窄まる中心を、ツンっと軽くつついた途端、キュっと締まって腰全体もぴくりと動いていた。
    「宣言? なんのことデショウ?」
    「ああ、僕は日本でも渋谷凜の診断に立ち会ったんですがね。診察中に感じまくって、絶頂までしましてね」
     本人を前に、あのことをバラす。
     知られたくないであろうことを嬉々として話してやることの、そうやって虐めてやっている快感に酔い、肥満男は本当に楽しく語っていた。
    「オーウ。感じまくりましたか」
    「で、病気が原因だったらまずいでしょう? 症状のせいでビクビク反応していたら、きちんと発見しなきゃいけないわけですし、性的な絶頂なのか違うのか、本人によく確認するべきなので、きちんと宣言させました」
    「つまり『ワタシは診察で絶頂シマシタ』言わせたのです?」
    「そうなんです!」
     聳えた尻を横目に、肥満男は暴露してやった。
    「はははっ、イケナイ子ですねェ」
    「そうそう。いけない子なんです」
     仕方のない子でも扱うように、ぺちぺちと叩きつつ、尻に手を乗せ撫でてやる。
     ああ、どんな気持ちだろう。
     アイドルをこんな風にしてやることへの快感に、肥満男はのめり込んでいた。
    
    
    
    


     
     
     


  • 渋谷凜の全裸健康診断

    
    
    
     海外での仕事が来た。
     結構、大きいライブ。絶対に成功させたい。
    
     都内某所、大使館。
     プロデューサーがビザの発行など書類関係の手続きをしているあいだ、渋谷凛は医務室へと通されていた。
     最近、新種のウイルスが確認されたらしい。
     防疫の観点から、旅行などの前には健康診断を受けることが推奨され、行き先によっては未感染を示す証明書がないと入国さえ許されない。
     きっと、厳しいのだろう。
    (内科でも、胸を出す可能性ってなくもないし)
     学校で受けた検診では、聴診器を当てるのは体操着の上であったり、病院でもシャツの上であった。普通より詳しく診るにせよ、あって胸を出すくらいか。
    (我慢、するしかないか)
     積極的に胸を出したいわけなどないが、何とかなるだろう。さっさとやり過ごしてしまえばいいくらいに、彼女は考えていた。
     しかし、嫌な予感がしてきたのは問診が始まってのこと。
     白衣を纏った担当医を前に、まずは日頃の調子や病歴について聞かれ、そのうち新型ウイルスとやらの説明が行われる。ウイルスのせいで防疫が厳いのだから、そこに話が及ぶのは当然だと思ったが、聞いているうちに不安が募る。
     現状では医療機材による測定が出来ない。脳や内臓をスキャンする様々な方法がありながら、それらでは発見不能なことを告げ、だから人の手でやるしかないとしつこく語る。
     ではどうやって確かめるか。
     感染者には特徴的な肌の炎症やアザなど、様々な傾向が見られることから、皮膚を視診しつつ確かめていく必要があるとされ、凛は不安を浮かべていた。
     胸を出す羽目になるだろうか、というのが凛にとっては最大の懸念だったが、そんなものでは済みそうにない。
    
    「衣服を全て脱いで下さい」
    
     担当医の口から最終的に出て来た言葉に、凛は青くなっていた。
    「脱ぐって、脱ぐんですか?」
    「そ、脱ぐの」
     それが当然、何がおかしいとばかりの態度で、早くしろと言わんばかりだ。
    「いやぁ、全部って……」
    「できないの?」
    (なんなの? この人)
     感じが良いとは言えない担当医に、凛も気分を損ねている。
     だいたい、他にも補助なのか何なのかで、何人かの男が入っていて、女性など姿もない。男に囲まれた状態で脱げと言われて、易々と脱げるわけがない。躊躇って当然なのに、脱げない凛への嫌味な眼差しが突き刺さる。
    「悪いけど、このやり方を決めたのは俺達じゃない。君が行こうとしてる国の方ね。もう説明は聞いてると思うけど、診断証明ができないと入国できないよ」
    「それは、そうなんでしょうけど……」
     凛にとって、入国できるか否かはイベントに関わっている。旅行ならば行き先を変えられるが、既に話の進んだイベントではそうもいかない。
    「こっちとしては、君が入国できてもできなくても関係ない。条件に納得できず辞退しました、でもいいんだよ」
    「待って!」
     このままではライブ自体が出来ない危機に、凛は思わず声を上げていた。
    「なら、脱ぐ?」
     担当医はもう既に飽き飽きしているような態度であった。
    (初めてプロデューサーに声かけられた時は、アイドルなんて興味なかったけど──)
     人生初のライブを行い、レッスンで培った全てを出し尽くした後の、イベントが終わってもなお身体中に熱が残った感覚を凛はよく覚えている。
    (──あれから、あの頃には信じられないくらい有名になって、大きなライブもこなして、次のライブはもっと大きいイベントになる。絶対、成功させたい)
     アイドルとしてのプロ意識で、凛の中で何かが切り替わる。これもイベントに関わる準備の一つで、開催すらできなければ成功も何もない。裸が恥ずかしいなんて理由では、絶対に台無しにはできない。
    「脱ぐから、お願いします」
     凛はスクール用のセーターを脱ぎ始めた。手早くボタンを外していき、ネクタイもほどいた凛は、そのままワイシャツのボタンも外す。上からしだいに裸が覗けて見えるにつれ、頬が桃色に染まっていく。
    (大勢の前に出て、歌って、踊って、それを何度もやってきた。今の私なら、裸になる度胸くらい、ある)
     ワイシャツの袖から腕を引き抜き、凛の上半身はブラジャーのみとなった。
    (早く、脱いじゃおう)
     頬がしだいに熱せられ、顔の温度が上がっている感覚を覚えつつ、スカートのホックを外して脱いでいく。ブラジャーのホックも外し、肩紐を一本ずつ下ろしていく。
     最後にはショーツを脱いだ。
     男という男の視線を浴び、さすがに赤面を自覚して、今の自分はどれほど赤いだろうかと思いながらも、凛は全裸となっていた。
     乳房を晒し、ワレメや陰毛も隠しはしない。
    (毛とか、剃っとくんだった)
     こうなるとわかっていれば、体毛の処理はしてきていた。
     単純に裸でいることの恥ずかしさが一番だが、加えて毛のことが気にかかる。イベントの開催日まで、実際にはまだ数日ほど時間があり、ファンの前に顔を出す予定もなかった今、脇毛が生えてしまっている。陰毛も伸びており、あまり綺麗には見えないだろう。
     どこをどう見られているかわからない。
    「まずは身体測定だ」
     担当医は身長計を指す。
     凛は木製の柱に背中をつけ、ピンと真っ直ぐな姿勢を取る。
     何人もの白衣の視線が正面から殺到し、胸やアソコが男達の目に焼き付けられる。
    (やっぱり、どうにかなりそう……)
     視線を意識すればするほど、胸の奥から感情が込み上げる。
    「んじゃ、いくつだ?」
     担当医が真横に立つ。
    (ちょっ!?)
     その瞬間に凛が動揺したのは、担当医が腹に手を当ててきたからだった。何のつもりなのか、必要もないのに押さえてやっているつもりか。手の平は下へと動き、ショーツのゴムにかすかに触れかけていた。
    (な、やなんだけど……)
     凛の頭にバーが触れ、数字を読むためなのか、担当医の顔が耳に近づく。
    「君、アイドルの渋谷凛だろ?」
     囁く声の吐息が耳に当たって、凛は不快感に強張った。
    「……そう、ですけど。それが何か」
    「知り合いがファンで、やたら語ってくるから、俺は興味なかったのに、そいつのせいで色々覚えちまった。身長はプロフィールの通りなんだな」
    「それは、まあ」
     目で頷く。
    「一六五センチ!」
    (え、声! 大きいんだけど!)
     途端、身長を大きな声で発表され、凛はぎょっとしていた。
     担当医が読み上げたと同時に、男達の一人が紙に書き込みを行っていた。
    (待って、それじゃあ――)
     体重やスリーサイズではどうなるのか。
     次は体重計を指され、凛はそちらへ移動する。金属の板に足を乗せ、デジタル式の数字が出るなり、担当医は恐れた通りに大声での発表を読み上げた。
    「五四キロ! あれ? プロフィールより重いなァ」
    「声、大きいんだけど……」
     大声での読み上げにぼっそりと文句を言いつつ、暴かれてしまったことに羞恥する。プロフィールと異なる数字を知られ、しかも重いともなれば、ただでさえ全裸な中で、ますます苦悶に胸を締め付けられる。
    「次は僕がやるからね?」
     部下なのか同僚なのか知らないが、肥満気味の男がメジャーを手に凛に迫って、この人に測定されるのかと思うにゾっとしていた。
     鼻の下が伸びきって、息も荒く、興奮がありありと伝わって来る。
     発情した男の前で裸でいることの、あまりにも心許ない感覚に、それでも凛には姿勢よく腕を広げる指示が来る。胸囲測定がしやすいため、両腕とも水平に、左右に真っ直ぐに伸ばすように言われての、決して胸を隠せない十字架のポーズを取った。
    「……うっ」
     まるで抱きつくようにして、正面からメジャーを巻こうとしてくる肥満男に、凛は険しい顔で引き攣る。
     しかも、顔が近づいた瞬間だ。
    「僕はちゃんとファンだよ?」
     そう囁いてきた。
    「……ど、どうも」
     こんな状況で、愛想も何も良くできず、そんな反応しか凛にはできない。
     背中を指先でくすぐられ、ぴくっと背筋を強張らせる。メジャーは手前へと引っ張られ、ピンとU字のように伸ばされて、ほどなくして乳房に巻かれる。
    「八二センチ! プロフィールより大きいねぇ?」
    「あの、だからそんな大声で……」
    「はいはい。ウェストは?」
     聞く様子もなく、肥満男はメジャーの位置を変え、腹に巻き付けヘソの近くに目盛りを合わせる。そのついでのように、下から見上げんばかりに乳房を拝んできた。
    「脇毛、生えてるね? 体毛も今は剃ってないんだ?」
     毛のことを指摘され、凛はぷいっと顔を背ける。
    「言わないで欲しい」
    「ごめんねえ? ウエストは? へえ、五八センチ! こっちも二センチ伸びてるんだぁ!」
     良いことを知って嬉しいように、肥満男は楽しそうに指摘する。
    (だから、そういう……)
     腰が太くなったことを言ってくるデリカシーのなさに苛まれ、このままヒップの数字まで声に出されるのかと思うとたまらない。
     目の前で、肥満男はしゃがんだ。
     全裸の凛に対して、これではアソコのすぐ正面に顔がくる。陰毛とワレメをまじまじと観察してくる視線に、頬が加熱されるかのようである。視姦ばかりか、メジャーを巻き直すため、またしても抱きつかんばかりに腕を回され凛は震えた。
    (無理っ、こんなの……!)
     アソコと顔の距離は縮まり、ますます視姦の圧を凛は感じる。
    (いいっ!?)
     生尻に触られた。
     当の肥満男は、何も知らない顔でメジャーを巻き付け、アソコの上に目盛りを合わせてくる。数字を読むために顔が近づき、鼻先が触れそうな距離からの視線に、顔全体の温度が上がっていく。
    (み、見てないで、早く終わって……!)
     視姦に耐え難くなり、腰が力んで震え始めてようやくだ。
    「おっ! 八五! 四センチも大きいんだねぇ!」
     明るく大きな声で、お尻の大きさが発表された。
    「やだ……」
     顔がしわくちゃになったとさえ言えるほど、凛は表情を歪めて俯いた。まぶたはぎゅっと、頬も固く、羞恥がありありと浮かんでいた。
     
         †
     
     やっと身体測定が済んだにすぎない。
     もうやめて欲しい、勘弁して欲しい思いでいっぱいの凛なのだが、担当医によって次の検査が言い渡させる。
    「肛門検査だ」
    「うそ……」
     凛は青ざめた。
     お尻の穴を観察されるだろうことは、想像するまでもなかった。
     しかも、凛に指示されたポーズは、足を大きく開きつつ、自分の足首を掴むというものだ。前屈のように尻が高らかになり、よく目立つ。お尻の割れ目も姿勢に伴い開くので、ポーズ一つで肛門まで丸見えだった。
    (この体勢っ、恥ずかしすぎる……!)
     長い髪を床に垂らして、逆さになった周囲の眺めを見ていると、何人もの白衣の足で尻の回りに何人もが集まっているのがわかる。おびただしい数の視線を感じて、凛は羞恥に震えきっていた。
    「うわぁっ、尻毛だぁ」
    (いや――さいあく――――!)
     先程の、ファンだと言ってきた肥満男は、いかにもショックを受けてみせている。
    「お前、別にアイドルはトイレ行かないとか思ってないだろ?」
    「そりゃそうだけど、これは驚きだなって」
    「なら剃ってやったらどうだ?」
    「あー。剃ってあげたいねぇ」
     人の肛門を話題にしてくるばかりか、剃る剃らないとまで言ってくる。
    「ま、いいから早く調べろ」
     担当医のそんな言葉が出た途端だ。
    (やっ!)
     肥満男の手が尻たぶに乗せられていた。
    「へへっ、渋谷凛のお尻かあ。僕が調べてあげるからね?」
     アイドルのお尻に触れて光栄であるような、ファンとして嬉しい思いが如実に伝わる。二度とないチャンスを活かし、肥満男は凛の裸をしっかりと頭に焼きつけるはずだ。
     いやらしい気持ちで触れてくる、そんな男に肛門を診察されるなど、凛は恥辱感に震え始める。
    (本当に? 本当に、お尻の穴なんて……)
     ビニール手袋を嵌める音が聞こえる。
     そして、ジェルを乗せた指がきて、まずはひんやりとしたものが当たって、お尻がぴくりと反応する。
    「おっ、かわいい」
    (やあ……!)
    「はーい。入るよー」
     突き立てた指が押し込まれ、ジェルの滑りですんなりと、一本の指が穴の中へと収まっていく。
    (うっ、うう……! やだっ、本当に入って……!)
     それでなくとも赤面していた凛は、ますます頭に熱を溜め込んだ。意識するまいと、無心でやり過ごそうと思ってみても、出入りしてくる指の存在感に意識を取られ、頭の中から追い出してなどいられない。
    「どうだ?」
    「なんかあるか?」
     他に控えていた男まで、肥満男に声をかけだす。
    「うんうん、健康なもんだと思うよ?」
     穴に指が入ってまで、なおも肛門を話題にされ続ける感覚に、恥辱感で頭がどうにかなりそうだった。いつかは脳の蒸発が始まりそうなほどまでに、熱は大きく上がっていた。
     
     にゅぷ、つぷ、ちゅぷ、
     
     指の出入りによって、ジェル状の音が立つ。
     
     ずにゅっ、ちゅぷ、
     
     ゼリーの内側で細やかな泡が弾ける音を立て、ビニールにカバーされた指は見え隠れを繰り返す。ピストンを感じているうち、だんだんと下腹部が引き締まり、きゅっと力が入っていく。
    (~~~~っ!!!)
     地獄の羞恥に苛まれ、もはや頭が壊れそうでさえあった。
    「はーい。おしまーい」
     実際には数分間の出来事でも、凛にとってはもう何時間も肛門をやれ続けていた感覚だった。長いあいだ指と穴が一体化していたせいで、何も入っていないことに、たった一瞬でも違和感を覚えてしまった。
     それでも、指は抜けたのだ。
     少しでも終わりに近づいたことに安心しようとていると、続けて次の何かの機材が運ばはる気配を感じ、はっと強張る。キャスターのタイヤの音、どこからか道具を手に取り近づいてくる感じは、まだ肛門検査は続くことを暗示していた。
    「肛門鏡で、中をより詳しく診るから」
     担当医の声だった。
     さらには肥満男からも触診しての感じを聞き出し、診察に関わるなにかのやり取りを交わしていた。真面目に診察していたのかという、かえっておかしな感想さえ、凛は抱いているのだった。
    「じゃあ、入れるからねえ?」
     きっと、何かカメラの付いた器具を挿入し、映像で確かめるということだ。
     今度は指よりも遥かに太い、棒状の何かが放射状の皺を押し広げる。穴を拡張される苦しさに呻き、歯を食い縛っている一方で、男達はモニターを見ていた。
     凛自身には見えない、羞恥に悶えるばかりで見ようともしていないモニターは、挿入用の器具に映った映像をリアルタイムに流している。肥満男が器具をピストンさせたり、角度を変えてやることで、映像の中身もアングルが前後する。
     内臓の内側にレンズを押し付けてあるような、赤やピンクの色合いがライトに照らされ、医師としての眼差しがそれを診る。症状さえあれば発見するわけなのだが、ないともなれば、ただの雑談が行われる。
    「ところで、君はアイドルなんだって?」
    「いやぁ、ファンにバレたら殺されちゃうかなあ?」
    「僕がファンだけどね」
     人が屈辱的なポーズを取り、肛門にも器具が入ったままなのに、乙女を気遣う様子など何もなく、楽しげに会話など繰り広げる。
    「しっかしまあ、まさに外部には出せない光景ってわけだ」
     担当医の気配が迫り──
     
     ぺちん!
     
    (え?)
     叩かれた。
     
     ぺちっ、ぺちっ、
     
     理由も意味もないのだろう。ただそこに高らかな尻があるから、何気なく手を伸ばして叩いてみる。やる側にとってはスイッチがあったから押してみる程度のものでも、やられる凛にはたまったものではない。
    「あ、あの……!」
     さすがに声を上げようとした時だ。
    「君、濡れたわけ」
     担当医に言われ、すぐさま凛は自覚した。
     
     濡れていた。
     
    「ちっ、ちがうから!」
     反射的に否定しながら、それでも凛のワレメはぬらぬらとした光沢をまとい、部屋の明かりを反射して輝いている。それは決して、肛門のジェルが垂れたものではなく、確かに渋谷凛の愛液なのだった。
    「特有の香りだな。ったく、興奮することないだろ」
     担当医自身の態度は、馬鹿馬鹿しいものを見て呆れるものに他ならない。ため息まで吐かれては、プライドが潰れそうだ。
    「おお? 僕の手で凛ちゃんが感じてくれたかと思うと、物凄く徳した気分だよ」
     肥満男が喜んでいた。
    「おお? よかったねぇ?」
    「日本中のファンの中でも、こんなことしたの君だけだよ」
     武勇伝を讃える声さえ上がった。
    (なんで? どうなってるのここ)
     泣きたくなった。
     悔しさで震えそうだった。
     どうしてこんなことに耐えなくてはいけないのか、わからなくなっていた。
     
     こんなことされて、疼くなんて……。
     
     そんな事実にさえ、凛は打ちのめされていた。
     
         †
     
     凛は分娩台に乗らされていた。
    (本当に……あとどれくらい……)
     ゆったりとした角度の背もたれに背中を預け、脚乗せ用の台に脚をやる。M字に股を開いた凛は、ベルトによって両足を固定されてていた。
    「あと一息だ。まっ、頑張りな」
     担当医はそう告げて、カーテンを閉めてしまう。
     婦人科用の、上半身と下半身を仕切るためのカーテンで、凛の視界からは自分のアソコが遮られた。
    「この検診は俺がやる」
     カーテン越しの正面から、担当医の声がして、凛は強張った。もう散々な目に遭ったが、今度は性器の中身を開いたり、膣に指を入れたりするのだ。
    「…………」
     凛は静かに、緊張に満ちた面持ちで固まっているしかない。
     だから、気づく余地などなかった。
     ただただ、M字の股を曝している恥ずかしさばかりに耐える。この静かな時間は、きっとビニール手袋を嵌めるなりの準備をしているのだろうと、凛は疑いもなくそう信じていた。
    
     本当はカメラが向けられていることなど、凛にはわからなかった。
    
     凛の視界にあるのはカーテンと、カーテンでは遮断しきれないポジションに立つ男の存在だけである。担当医がカメラを構え、レンズをアソコに近づけて、その下にある肛門さえ納めようとしていることなど、気づきようがなかった。
     シャッターが押され、その音も出ない。
     無音のカメラに何枚も何枚も、執拗に記録され、無断で写真データを撮られているのは、本人も知らない方が幸せだろう。
    「じゃあ、いくぞ」 
     指がぐにっと押し込まれ、凛の性器が開帳される。
    (ううぅ……やだ……中身…………)
     カーテンの向こうでの出来事が、指の感触を手がかりにありあり浮かぶ。まるで透けて見えてるかのように、担当医の体勢や顔の位置まで無意識に想像してしまう。カーテンによる遮断は、かえって想像力を刺激されているのだった。
     どんな風に触れられ、どんな風に観察されているのか。
     脚に触れてくる両手の感覚と、指でワレメを広げられている感じに、アソコに接近する顔の気配が、いかに至近距離から性器の観察が行われているかを如実に伝える。
     視診なのだから、実に注意深い視線がきっと注ぎ込まれている違いなかった。
    「ほーう? 改めて見ても、やっぱり愛液だなぁ?」
     担当医が断定した。
    「はっはっは、そうだよねぇ?」
    「仕方ない仕方ない」
    「いやでも、これでエッチな気分とかなる?」
     男達の声を聞けば聞くほど、脳が焼かれていくようだ。
    (早く――早く終わって……! 早く……!)
     苦しみ、悩まされんばかりの顔を浮かべて、凛は視線に悶えていた。
     その時だった。
    「ひあっ、んぅ…………!」
     クリトリスの部分に指が掠めた。
    「おっと失礼?」
     担当医は手を離し、ワレメの中身も閉ざされる。まさか、これで終わったなどとは凛も思わず、まだ苦難は続くはずだと予感していた。予感通りに再びアソコに指が来て、今度は片手でワレメを開きつつ、もう片方の指を挿入してきていた。
    「んぅ…………んぅぅぅ………………」
     あたかも苦しんでいるような声が出る。
    「触診してくからな」
     指が入ってからの一言だった。
     すぐに担当医は探り初め、凛の内部に何かを探る。不審な感触がなければそれでいい、健康か否かの確認作業に、凛は全身を石のように固めていた。
    「ひあっ……!」
     まただった。
     また、クリトリスに指が掠めた。
    「ごめんなー」
     軽々しい、気のない謝罪の声が来る。こんな謝り方で納得するかといえば、凛は微妙な気持ちを抱いていた。
    「んっ、くぅ――」
     しばし、指のピストンが行われる。出入りによって、クチュリ、クチュリ、と、粘液をかき混ぜるねっとりとした水音が凛自身にもよく聞こえる。アソコの感じもますます高まり、自分がいかに濡れていて、愛液の量も増えているのかとを実感するに、いつしか凛は自分の顔を両手で覆い隠していた。
     誰に表情を見られているわけでもないのに、せめて隠すことを許される場所だけでも、これ以上ないほどに歪んでいるだろう顔だけでも隠したい、切実な思いで両手が顔面に貼りついていた。
    「はーい。これは一旦終わって、と」
     指が抜けていく際に――ツン、と、またしても、クリトリスを指でつつかれ、腰がピクっと反応してしまった。
    (……わざと? そんなこと、ないよね?)
     ここまで配慮に欠け、遠慮もない相手だ。
     クリトリスにも触診があるのなら、もっとあからさまにしてくるはずだ。
    「ところでファンにはがっかりな情報があるんだけど、聞くか?」
     カーテンの向こうでビニールの音。手袋を外しているのだと凛にも伝わる。ならば終わってくれるだろうか、もう解放して欲しいと、神にさえ祈りたい願いがふつふつ湧く。
    「なになに?」
     肥満男が担当医の言葉に食いついていた。
    「処女膜がなかった」
    「え!?」
    (ちょ――――!)
     どんなぎょっとした表情か、声だけでありありと伝わる肥満男の驚きに、それ以上の驚愕を浮かべる凛。
    「あーほら、激しい運動で破れることもある。ダンスとか色々あるだろ? そうと決まったわけじゃないが、可能性はゼロじゃないよな」
     勝手に処女膜のことを話した上、担当医は気遣いも何もなく、デリカシーなど考えず、経験済みの可能性を示唆していた。
    「は、はは……いや、いいんだ……僕はアイドルに彼氏がいてもね、ちゃんと応援していくつもりだし……」
     明らかにショックを受けた様子が、声を聞くだけでも十分にわかった。
     それだけではない。
     ここまで膣に指が入ったり、クリトリスに掠めてきたり、散々に性感が高まり続けているおかげで、凛にはとある予兆があった。
     危ういところまで高まって、そんな時にである。
    「あーあー。ま、検査の仕上げだ」
     担当医が行うのは、膣と肛門の両方に指を入れるという方法だった。ピースの形を取った二本の指を突き立てて、それを容赦なく埋め込んでいく。
    (や、やだ! 二本!? 両方? なんで、こんな――――)
     決壊寸前まで追い込まれていた凛である。
     そんな状態で、上下の穴に指が埋まって、異物感がすっぽりと収まった時である。さらにはもう片方の手が動き、またしてもクリトリスを掠めた時だった。
    
    「あっ! あぁぁぁぁ――――――!」
    
     凛は絶頂した。
     背中を浮き上げ、潮を吹き、脚をピクピクと震わせながら、愛液を撒き散らして盛大なまでにイっていた。
    「あーあーあーあー」
     あからさまに呆れる担当医。
    「え? すご!」
     嬉しそうに驚く肥満男。
    「これはこれは」
    「よっぽどスケベな体だったんだな」
    「ってことは、やっぱ経験済み?」
    「じゃないの?」
     口々に交わされる言葉。
    「あ、あ……あ……あ…………」
     凛は震えていた。
     取り返しのつかないことをしてしまった。そんな思いに打ちひしがれ、起きてしまった現実が信じられない。だが、イった時の感覚で、潮を担当医の顔に引っかけたであろうことは、カーテン越しでも悟っていた。
     カーテンが開く。
     担当医の顔と白衣には、思った通りの痕跡が残っていた。
    「や……その…………」
     頭が反射的に言い訳を探していた。
     怒られると思っていた。
     冷静でなどいられない凛には、ただただ自分がイってしまったこと、人の顔に体液をかけてしまったショックでいっぱいだった。
    「今の、何かな? 痛かった? 痙攣したように見えたけど」
     しかし、予想に反して、担当医は病気や症状について気にしてきた。
    「……え?」
     一瞬、ポカンとする。
    「ほら、病気が原因となる反応だったらまずいでしょ? 見落としがないように、途中で痛みを感じたり、おかしな感覚はなかったか、詳しく話して欲しいんだけど?」
     妙にニヤっとしながら症状について聞き出そうとしてくる顔を見て、凛は悟った。
     ……わざとだ。
    (この人、わざと…………)
    「ほら、頼むよ」
     凛は担当医の言葉に追い詰められる。
     心理的に、精神的に、後のない状況に追い込まれている。ここで健康を証明し、書類の発行ができなければ、飛行機に乗っても入国できない。イベントの開催がかかっているのに、自分は異常なしと証明するには、真実を言わなくてはいけないのだ。
    「ち、ちがい……ます…………私は…………その、気持ち良く…………」
     血の気の引いた顔で、凛は小さな小さな声で答える。
    「気持ち良く、なに?」
    「そ、その……私……イってしまって……」
    「行く? どこに行くの?」
    「そ、そうじゃなくて! 絶頂……しました……」
    「声が小さいね。もっと大きな声で頼むよ」
     サディスティックな悪魔の顔がそこにはあった。
     周りに並ぶ男達さえ、サディストの笑顔を浮かべていた。
    「そうだね。絶頂っていうなら、『アイドル渋谷凛は診察で絶頂しました』って、きちんと宣言して欲しいな」
     そうしなければ許されない、さもなくば書類の発行もさせてもらえない、そんな恐れに縛られて、凛はますます白くなっていた。
     言うしか、なかった。
     それしかないのだ。
    
    「あ、アイドル渋谷凛は……診察で絶頂しました…………」
    
     涙ながらに宣言した。
    「おおおおおおおおおお!」
     一体何のつもりなのか、肥満男は聞くに拍手を始めていた。担当医は実に満足そうな顔をして、他の面々からも勝ち誇ったものが浮かんでいた。
    
     惨めだった。
     人生で一番惨めな思いを味わっていた。
    
         ***
    
     ……プロデューサー……気づいてないよね?
    
     その晩、凛は彼と交わした言葉を思い出す。
    「どうだった? 大丈夫だった?」
     まさか、何も知らずにいたというのか。なら、どうして把握していないのか。あらゆる疑問が一気に吹き荒れ、その場でプロデューサーを責めたい衝動に駆られながら、ついさっきまでの出来事を思い出すに赤面した。
    「どうした? 調子悪いのか?」
     聞かれるに、凛は反射的に心を隠す。
    「い、いや! 全然? 問題なかった。証明書、貰えるはずだから」
     上手く、平然と出来ただろうか。
     少しは様子がおかしく見えたかもしれないが、凛は精一杯に装った。
    
     そして――
    
     なにしてんだか。
     私……。
    
     あれから、肛門と膣に指を同時に入れる方法で、たっぷりと診察された余韻が、穴の中には未だに残り続けている。皮膚が情報を手放したくないかのように、触角が得た感じがこびりつき、しぶとく残留している。
     そんな凛は自らショーツを下げ、秘所に手を伸ばしていた。
    
     あんな惨めな思いして、本当に情けなかったのに……。
     悔しかったのに、恥ずかしかったのに、それでオナニーするなんて……。
    
     本当に、本当にどうかしている。
     自分でもわかっていながら、疼くアソコがどうにもならずに、凛は指を挿入していた。激しく掻き毟らんばかりの勢いで、活発な出し入れを行い快楽を貪って、この晩は多量の愛液を放出していた。
     長い長い時間をかけ、やっとの思いで満足して凛は思う。
    
     私、これからもこのネタでオナニーするんだ。
     あんな……最悪だったのに……。
    
     運命が決まってしまったかのように、凛は未来を悟っていた。
     そうなる自分を予感して、どこか諦めてしまっていた。