四・超音波検査
クルーエルは診察台に横たわる。
超音波検査を行うため、仰向けになる指示が出て、こうして倒れているのは皿の上に乗せられた料理の気分だ。みんなが集まり、クルーエルの裸を見て、胸やショーツを目で食べる。
食べられてるみたいな感覚が、凄くする。
目を使って味わって、モグモグと咀嚼するのは頭の中でやっている。体中が男達のエサにされてしまって泣けてくる。
「始めていこうか。クルーエルちゃん」
豚男は手の平にジェルを取り、クルーエルの胸にべったりと塗り始める。ひんやりとした感触にブルっと震え、そのまま塗り伸ばされる感じにゾワゾワと鳥肌を立てる。
豚男に触れるのが単純に気持ち悪いのもあったけど、ヌルヌルで冷たいものが肌に広がる感覚も、なんだか慣れない。
「これはね、皮膚とプローブのあいだに空気が入らないようにするためなんだ」
もっともらしいことを言って、ニヤけている。
……絶対、エッチな気持ちで塗ってる。
クルーエルは大人しく事が過ぎ去るのを待っていた。皮膚の表面に塗り伸ばされ、ヌルヌルとしたコーティングが広がっていく感じに、静かに目を瞑って時を過ごす。
ジェルにすっかり乳房を包まれ、まわりの皮膚は腹にまで及んでいく。
お腹の臓器も見るんだったか。
そこさえ終われば、塗る作業は終わると思ったのに。
「んっ」
しかし、胸に手が戻って来て、五本の指で揉み始める。
とっくにジェルを塗り終わり、もう身体に触れる理由がなくなっても、なおも乳房を揉みしだき、ただの欲望による接触は一分ほど続いていた。
やっとのことで手が離れる。
「テカテカしたおっぱいがね。とってもエロく見えるよ? クルーエルちゃん」
豚男はクルーエルの顔を覗き込み、ニカっと笑い、最後のワンタッチとばかりに、あと一回だけ乳房を揉む。
「確かに、ああしたテカテカとした感じは、マッサージ系のAVでよく見ますな」
「あー。それ、わかる」
「俺も見るぜ? あのテカテカ、まさにそれじゃん?」
黒髪と茶髪と金髪は、乳房がジェルまみれなことで盛り上がる。
「はーい」
若手看護師は元気に機材を運んできた。
キャスター付きの、超音波の波形を映し出す専用機材で、身体から読み取ったデータを見ながらガンなどを発見する。
プローブはレジ打ちに使うバーコードの読み取り機に似た形で、あれで身体のしこりや臓器の具合を読み取るのだ。
豚男はその読み取り部分を乳房に当てて調べ始める。仰向けのクルーエルには見えないが、機材の方の画面には、読み取ったものが映し出されているはずだ。
下乳を持ち上げるようにして、下から上へと、プローブは滑り動く。上までいくと、今度はずり下げんばかりに滑らせて、もう片方の乳房もそうして調べる。
腹部にも検査が行われた。
ヘソの周りを何度もなぞり、臓器のスキャンを繰り返し、若手看護師と中年医師の二人で機材の画面に注目している。
「このあたりの影って」
「ああ、それは特に問題ないね」
「へえ? 健康な臓器っすか」
今頃になって、ようやく医療関係者としての真面目なやり取りが、そこで展開されているようだった。
「このあたりで終了かな? じゃあ、拭いてあげるね?」
超音波検査を済ませると、塗りたくったジェルを拭き取る役目は、当然のように豚男が買って出る。拭くついでにも、拭き終わった胸を素手で触られ、クルーエルは顔を顰めた。
ここまでは終わった。
なら、あとはショーツの中身だけである。
五・性器検査
全身から汗が噴き出る。
――いま、夏だっけ?
なんて、おかしなことを考えちゃうのは、それだけ頭が動揺して、本当は冷静なんかじゃないからだ。心臓はバクバクいって、鼓膜の内側は本当に賑やか。
クルーエルのショーツに豚男の手がかかっていた。
ゴムに指が入り込み、あとはずるっと引っ張るだけ。
――これ、脱がされたら、下の毛とか、アソコとか、みんな見えちゃうわよね。
だから心も硬くなる。
今の時点で自分は一体どうなっているか。顔はどれくらい赤いのか。熱は何度になってしまったか。こんな状態で脱がされたら、その恥ずかしさで自分はどうなるか。
「クルーエルちゃん? これが最後なのよ?」
女性職員が診察台に近づいてきた。
もう終わる、あと一息。もうちょっとだけ頑張ろう。
って、そんな慰め方を、普通なら想像する。
「最後の試練なの。パンツを脱いで、下の毛をみんなに見てもらって、アソコの中身も全員で拝見するわ。もし疾患があったら、症例のサンプルとして、みんなに勉強させなくちゃ。健康だとしても、ものは経験。みんなで見るわよ?」
これから起こることを女性職員は伝えてくる。
「アソコに指を入れるわ。クリトリスも触るわ。器具を挿入した検査方法も行うけど、衛生のためにコンドームを使うのよ? 避妊具よ? 本当はセックスに使うものをあなたにも使うの」
全てが悪魔の囁きだ。
避けられない未来を丸ごと伝えられ、クルーエルは今のうちから顔の赤みを増していた。
「じゃあ、脱いじゃおっか。クルーエルちゃん」
豚男の両手が、下へと動く。
ずるっ、と、ショーツが脱げ始めると、まず先に見える陰毛が、彼らの視線に晒される。脱げる瞬間を見よう見ようと、みんなで集まっていた全員が、クルーエルのアソコに注目して、覗き込んでいた。
……やだ。
さらに下へと動くにつれ、陰毛の三角形が端っこだけ、半分だけ、四分の三だけ、だんだんと見える量は増えていく。
……見えちゃう。
今にも泣き出しかねない顔は、トマトのように染まっている。ついつい下を隠そうと手が動くと、女性職員がその手を捕まえ、頭上に押さえ込んでしまう。バンザイに近い形で、クルーエルは両手を封じられてしまった。
みんなでアソコを視姦してくる中で、クルーエルの秘所は鑑賞され尽くす運命に置かれている。
陰毛が完全に見え、アソコのワレメが見え始める。
「お? お? 綺麗な性器!」
金髪が興奮する。
「いいですね。アソコの具合も芸術的かつ素晴らしい!」
「グッド! グッド!」
人の性器で盛り上がる。
見世物にされる恥辱で頭がどうにかなりそうだ。
アソコは完全に見えきって、あとは太ももを通り抜け、膝の向こうへ、ショーツは遠ざかっていく。まるで大切でならないものが離れてしまうみたいで、手を伸ばしたい思いでいっぱいになった。
――本当に、全部裸に……っ、もう何も身につけてない……!
靴下しか残っていない。靴下なんて、体を隠すのには何も関係ない。
恥ずかしい部分を守る最後の一枚だったのに、豚男なんかの手に渡った。大きな手柄を立てたような顔で本人に見せびらかす。勝ち取った獲物みたいに高く掲げて、指にぶらさげて、ひらひらさせて。
「うんうん。これは前から穿いてたんだね? 痕跡がしっかりあるよ」
これみよがしに、クロッチの所を裏返し、生理のおりものがついた部分をまじまじ見たり、指で撫で回す。
しかも、それをスーツの胸ポケットに入れていた。
――そんなっ。
今まで下腹部を守ってくれていた最後の鎧は、豚男なんかの元に行き、胸ポケットを膨らませている。白い布が少しはみ出て、だらしなくよれていた。
「では脚を開いて下さい」
中年医師の命令は、乙女には処刑宣告に近い。
……こんな、見せびらかすみたいなポーズって、こんなのっ。
頭の中身が沸騰しそうで、今の自分の表情がどうなっているのか、いっそ考えないようにしている。
「……はい」
クルーエルは自らM字開脚のポーズを取った。
――ううううっ! ま、丸見え……!
裸で、アソコは丸見え。たとえ服を着ていても、このポーズに格好良さの欠片もない。情けなさの固まりだ。
――頭、どうにかなりそう……絶対沸騰してる……脳みそ、やば……!
視線がアソコに集まる。ワレメが視線で撫で回され、毛だってニヤニヤと見られ放題だ。
「では診ていきますよ? 肛門から」
中年医師がペンライトを手に取ると、まず確かめるのは肛門だった。
――やだっ! お尻の穴? そんな汚いところまで……!
「えーっと、綺麗ですねぇ? ふむふむ、色合いもいいもんで。特に炎症などはなく、こちらは健康的ですが、一応皆さんも診ておきましょう」
もう鑑賞会だ。
中年医師が覗き終わると、今度は黒髪が、茶髪が、金髪が、豚男が、順番になって下腹部に顔を近づけ、肛門は一人一人の目に収まる。クルーエルの両手を押さえる女性まで、豚男と交代しつつ、覗きに動いていた。
視線を送られることが、一回ずつ針で刺されるみたいに痛くて、ジロジロと見られ尽くした感覚が肛門に残っていた。
――お尻の穴……全員にチェックされた……!
顔から湯気が出ている。それくらい熱い。脳がくつくつと煮立って蒸発して、白い蒸気となっている。
「性器のチェックを行います」
指で開かれた。
――な、中身……ジロジロっ、無理っ、恥ずかしすぎる……!
中年医師の視線が注ぎ終わると、やっぱり次々と交代が繰り返された。
「桃色の美しい色合いです。ずっと見ていたくなりますね」
と、黒髪。
「エロいねぇ? あ、濡れてない? ははっ、クルーエルちゃんはみんなにアソコを見られて愛液を出しちゃったか!」
豚男は満面の笑顔で言っていた。
「ち、ちがっ、濡れてなんて――」
もちろん、クルーエルは否定した。
必死の声を荒げた。
「いいえ、愛液ね。膣分泌液ね。なるほど? 羞恥心を煽られ、見られることによって濡れることもある。とは知っていたけど、クルーエルちゃんも視線だけで気持ち良くなっているようね」
人がエッチな体をしているような解説をされ、頭はますます恥辱でどうにかなる。
「はーい。測定だよ」
若手看護婦は器具を片手に下腹部へ回っていた。
ノギスだ。若手看護師はそれを近づけ、クルーエルのワレメの長さを明らかにすると、さらにクリトリスまで挟む。指でくぱっと中身を開き、膣口の直径さえも声に出し、それから全てを書き留める。
「で、次はこれね」
「あぁ…………んぅ………………」
シリンダーが挿入された。
異物感が収まって、辱めを受けている気持ちがした。
指よりも細い、負担のない器具だ。目盛りのついた棒状で、一体どこまで入るのか。膣の深さが何センチかまで調べている。こんな風にアソコの情報を調べられ、記録されてしまうだなんて、こんなのもう生きていけない。
「次は膣圧ね。これを入れたら、アソコにぎゅーって力を入れてね」
アソコの力まで調査されてしまう。
性器の情報が何もかも取られていく感覚に、クルーエルの表情はすっかり濡れる。耳なんかとっくに真っ赤だ。
クルーエルの膣内には、また別のものが入っている感覚がある――膣圧計だ。
柔らかいゴム製の棒には、何かチューブが繋がっていて、力を入れればチューブの先で目盛りの針が数字を指す。
ぎゅっと、膣に力を加える。
「はい、いいよ?」
膣圧の数字が出ると、器具を抜き取った若手看護師は、それも紙に書き込んでいた。
「じゃあ、あとは中の触診だね」
中年医師が下腹部の前につき、ビニール手袋を嵌めた手でワレメをなぞる。アソコを触られる感じに表情は険しくなり、顔の熱さで額に汗が滲み出る。
にゅっ、と、指が入ってきた。
――あうぅ……こ、これさえ終われば……。
クルーエルは目を瞑り、本当に最後の試練を耐え抜こうと、ぐっと全身に力を入れる。歯を食い縛り、茹で上がった顔を顰め、我慢の準備を整えた。
「うーん」
指が動き始める。
指先を使って、膣壁の色んなところを探る。指の角度を変え、深さを変え、様々な部分をこすって確かめている――すごく、調査されてる感じ。こんなの落ち着かない。
「温かいですねぇ? 処女膜は見てわかりましたが、未経験のまだ男を知らない閉まり具合が指にまで伝わりますよ」
アソコへの評価を下す。
「膣分泌液も増えていらっしゃるね。うん、この感じはあれかな? 何千人ものアソコを診てきてるんで、わかっちゃんですが、オナニーしてるでしょ」
「――なッ」
「図星ですね? いやぁ、いいのいいの。当たり前当たり前」
当たり前とか、そういう問題じゃない。
面白い情報を知ったものだから、みんなの目つきがギラついた。豚男なんてヨダレを垂らすし、若手看護師は何かムカつく顔をしてくる。
「あらぁ? するのねぇ?」
女性職員は微笑ましいものでも見るような目をしてくる。
「んっ、んぅ………………んぅ………………んぅ……………………」
それに、探られているうちに変な感じが強まって、歯を食い縛っていなかったら、もっと色んな声が出そう。聞かれたくない。
「ほほう? さすが、オナニーをしているだけあって、気持ちよさそうなご様子になっておられますなぁ?」
黒髪がいかにも興味深そうにしてくる。
「ま、一応確認しましょうか? そのご様子は痛みではないですか? 何かヒリヒリするとかいったことはありませんか?」
中年医師はやけに勝ち誇っている――むかつく。
すごく、むかつくけど……わたし、やっぱり良くなっちゃってる……。
「……感じて、ます」
駄目だ、脳が蒸発で消えそう。自分で声に出して認めてみたら、カッと熱が上がった感じがして、顔に皮膚は残っているかなんて、おかしな心配までしてしまった。
「おおっ」
「やっぱねぇ?」
茶髪と金髪は盛り上がった顔をする。
「さて、この感じは子宮が降りてきてますね? こうして奥をやると、ポルチオに触ることができますよ」
中年医師は根元まで指を埋め切り、コリっとしたものを撫で挙げるみたく、下から上に刺激してくる。そのせいか、下半身に電流が走り、太ももがプルっと震え、腰がモゾモゾとしてしまう。
「んっ、んぅ……んっ、んっ、んっ………………んっ、んぁ………………んっ、んん、んぅ…………んっ、くっ………………んぅふぁ………………んっ、んぅ………………」
絶対、声出ちゃう。
喘いだりしたら、余計に……。
「ははっ、クルーエルちゃん。その脚がくねくねしてる感じが可愛いね? 足首まで上下に動いちゃったりして、そんなに気持ちいい? すごく我慢してるね? 顎に物凄い力が入っているの、見ていてよーくわかるよ?」
豚男が実況してきた。
「あら、まぶたがぎゅって強くなったわね? ふふっ、横なんか向いちゃって、顔も隠したいのね? でも、真っ赤なお耳が見える横顔だけで、十分に可愛いわよ?」
相変わらず手を押さえ込んでくる女性職員も、いやらしく囁いてくる。両手さえ自由なら、手の平で顔を覆い隠していたいのに、それをさせてくれない。
「んんんぅ……! んっ、んぅ……んぅ…………!」
刺激、強い――だんだん、頭が――。
「ポルチオを集中的にやっていきますよ?」
指先でくりくりと擦り上げられ、まるで電流を流され続けているように、腰も足もビクビクと反応している。愛液が流れ出し、シーツに染みを広げ始める。
「あっ、んっ、んっ、んぅ……んあっ、んっ、ん……んぅ……」
反応は強まっていた。
顎にどんな力が入り、どれほど歯を食い縛っても、出て来る声はトーンを上げる。
「んん! んっ、んぁっ、あぁ……! あっ、んっ、んっ、んぅ……!」
みるみるうちに高まっていた。
体の芯に蓄積され、大きく膨らんでいくものが、やがて爆発に向かっている。クルーエルはこの未知の感覚を怖がり、必死になって我慢をするが、彼女自身では止められない。
「ああ、これは前兆ですね」
中年医師は指を止めない。
それどころか、むしろ活発化させていた。
「悪いけど、このままポルチオの感触を確かめさせてもらいます。ま、こっちも仕事ですからね」
限界が来た。
「あぁっ、あぁ……! んっ、んぅ……! んっ、んぅ……!」
快楽の波に押しやられ、もう恥ずかしいだの、なんだといった思考さえ遠くに流れ、ただ喘ぐだけの存在と化し、全身でよがっていた。特に太ももを反応させ、上下左右にピクピクと動かしていた。
「――――――――――――っ!」
クルーエルは絶頂した。
頭が真っ白に弾け、太ももは限界まで力んで震え、足首は反り返る。背中は反って浮き上がり、首まで沿って頭で身体を持ち上げてしまっている。
ひとしきり痙攣して、急に糸が切れたように脱力すると、反っていた足首もだらりと下がる。
「イキましたね」
中年医師は勝者の顔を浮かべていた。
「絶頂のご様子、しかと見させて頂きました」
黒髪がニヤける。
「ビクビクしてたねぇ?」
「いい姿だったわ?」
豚男も、女性職員も、
「最高」
「興奮したぜ」
茶髪も、金髪も、
みんながみんな、一言なりクルーエルのイった様子に対する感想を告げていた。
六・終幕
はぁっ、はあ……はっ、はあ……。
完全に肩で息をしてしまっている。ぐったりと疲弊感があって、今まで真っ白になっていた頭に、やっと思考らしいものが帰って来る。そうなると、さっきまでの自分自身の声や様子が蘇り、クルーエルは赤らんだ。
――物凄いはしたない姿、全員に見られたんだ……。
それだけでは済まない。
「ほら、君の愛液だよ」
指先にたっぷりと粘液をまとわせて、ポタポタと垂れるほどの量を中年医師が顔に近づけてくる。指と指のあいだに太い糸が引いていて、自分の体液を見せつけられたクルーエルは、反発のように顔を背けた。
――見せてこないでよ……。
自分はこんなに汁を流したのかと思ったら、頬が発熱してしまう。
しかし、クルーエルのマグマのような赤面は、今までの余韻や愛液の見せつけだけで続いているものではない。
「もう一本いっておこうか」
未だM字に広げたままの下半身で、アソコに顔を近づけているのは若手看護師だ。膣内の細胞を採取するため、普通よりも長い、十センチはある医療用の綿棒を挿入してきた。
細いものが入り込み、子宮にぶつかる場所をくすぐってくる。
「随分と濡れたね? テカテカでさ、アソコが凄い光ってるよ」
わざわざ報告してくるのが、ますます羞恥を煽って来る。
やめて、言わないで……。
「シーツもびちゃびちゃで、お漏らしじゃん」
金髪がからかってくる。
「イっちゃうくらいだもんね? しょうがないね?」
豚男はヘラヘラ笑う。
他のみんなも、口々にコメントを飛ばし、濡れたことや感じていた時の様子についてコメントしてくる。一つ一つがクルーエルの表情を歪ませ、真っ赤な顔から火を噴かせんばかりにしていた。
そして、次の瞬間だ。
「はい。撮るよ?」
若手看護師がカメラを近づけていた。
「え?」
と、思った時には――パシャ! シャッターの音が鳴り、アソコにぐいっと迫るレンズで、撮られた写真の内容が思い浮かぶなり、みるみるうちに皮膚の発火が広がった。本当には火なんて出ていなくとも、毛穴から火の子が出ると例えたいくらいには、クルーエルの感情は羞恥で燃やされていた。
「次は指で広げてくれる?」
指でって、自分で?
無理! 無理無理! 絶っ対無理!
「やってくれないと、そのM字開脚のポーズで顔が映るように全身撮るよ?」
「そんな……」
脅し文句はさすがに効いた。
アソコを接写される以上の恐怖に、クルーエルは慌てて指でアソコを広げてみせる。最後は自分自身で中身を公開していると思ったら、頭の中身がマグマに変わっているような気がするほど、ドロドロの熱でいっぱいになっていた。
クルーエルは絶対に自分の下半身を見ようとしなかった。
いや、見た――いや! と、見た瞬間に顔を背けた。自分のアソコにカメラレンズが近づいていて、しかもそれに向かって、自分から中身を公開している。それほど羞恥心を刺激してくるものはなかった。
パシャ!
シャッターの音で、またしても顔から火の粉が飛んだ。
それから、撮影が終わるなり、豚男がクルーエルのアソコを拭き始める。
「いっぱい、お漏らししちゃったからね?」
嫌な言い方をしながら、クルーエルのアソコには布巾が押し当てられていた。
――赤ちゃんの世話みたいなこと……言わないで……。
オムツの世話が必要な存在として扱われる惨めさを味わい、やっとのことでクルーエルの検査は終了に至っていた。
七・完
診察台から降りる。
降りた途端、台にかかったシーツの方を向かされた。
「ほら、これが君のお漏らしだよ。クルーエルちゃん」
――人のアソコ弄って、イカせたりしたのは医者の方なのに……。
まるで小便を漏らしたような言い方で、クルーエルが悪いように言って来る。豚男のヘラヘラとした笑顔が憎い。
「おっと、これも返さないとね」
豚男はポケットからショーツを取り出す。
クルーエルは引ったくるように奪い取り、パーティションで仕切った脱衣スペースへと駆け込んだ。
生まれてから、仮にも裸で人前を走ったのは、これが最初で最後になるかもしれない。着替えの時にショーツを穿けば、豚男の体温が残っていて、本当に最悪だった。
地獄は終わった。
しかし、地獄で味わったものの余韻は、クルーエルの体の芯まで染み込み、何週間、何ヶ月も先まで恥ずかしかった思い出がぶり返す。一人で思い出すたびに赤くなり、学校生活でさえ体調不良と勘違いされる有様で、本当に本当に、最悪の一言に尽きるのだった。
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