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  • クルーエルのパンツ1枚測定・健康診断【後編】

    前編

    
    
    
        四・超音波検査
    
     クルーエルは診察台に横たわる。
     超音波検査を行うため、仰向けになる指示が出て、こうして倒れているのは皿の上に乗せられた料理の気分だ。みんなが集まり、クルーエルの裸を見て、胸やショーツを目で食べる。
     食べられてるみたいな感覚が、凄くする。
     目を使って味わって、モグモグと咀嚼するのは頭の中でやっている。体中が男達のエサにされてしまって泣けてくる。
    「始めていこうか。クルーエルちゃん」
     豚男は手の平にジェルを取り、クルーエルの胸にべったりと塗り始める。ひんやりとした感触にブルっと震え、そのまま塗り伸ばされる感じにゾワゾワと鳥肌を立てる。
     豚男に触れるのが単純に気持ち悪いのもあったけど、ヌルヌルで冷たいものが肌に広がる感覚も、なんだか慣れない。
    「これはね、皮膚とプローブのあいだに空気が入らないようにするためなんだ」
     もっともらしいことを言って、ニヤけている。
     ……絶対、エッチな気持ちで塗ってる。
     クルーエルは大人しく事が過ぎ去るのを待っていた。皮膚の表面に塗り伸ばされ、ヌルヌルとしたコーティングが広がっていく感じに、静かに目を瞑って時を過ごす。
     ジェルにすっかり乳房を包まれ、まわりの皮膚は腹にまで及んでいく。
     お腹の臓器も見るんだったか。
     そこさえ終われば、塗る作業は終わると思ったのに。
    「んっ」
     しかし、胸に手が戻って来て、五本の指で揉み始める。
     とっくにジェルを塗り終わり、もう身体に触れる理由がなくなっても、なおも乳房を揉みしだき、ただの欲望による接触は一分ほど続いていた。
     やっとのことで手が離れる。
    「テカテカしたおっぱいがね。とってもエロく見えるよ? クルーエルちゃん」
     豚男はクルーエルの顔を覗き込み、ニカっと笑い、最後のワンタッチとばかりに、あと一回だけ乳房を揉む。
    「確かに、ああしたテカテカとした感じは、マッサージ系のAVでよく見ますな」
    「あー。それ、わかる」
    「俺も見るぜ? あのテカテカ、まさにそれじゃん?」
     黒髪と茶髪と金髪は、乳房がジェルまみれなことで盛り上がる。
    「はーい」
     若手看護師は元気に機材を運んできた。
     キャスター付きの、超音波の波形を映し出す専用機材で、身体から読み取ったデータを見ながらガンなどを発見する。
     プローブはレジ打ちに使うバーコードの読み取り機に似た形で、あれで身体のしこりや臓器の具合を読み取るのだ。
     豚男はその読み取り部分を乳房に当てて調べ始める。仰向けのクルーエルには見えないが、機材の方の画面には、読み取ったものが映し出されているはずだ。
     下乳を持ち上げるようにして、下から上へと、プローブは滑り動く。上までいくと、今度はずり下げんばかりに滑らせて、もう片方の乳房もそうして調べる。
     腹部にも検査が行われた。
     ヘソの周りを何度もなぞり、臓器のスキャンを繰り返し、若手看護師と中年医師の二人で機材の画面に注目している。
    「このあたりの影って」
    「ああ、それは特に問題ないね」
    「へえ? 健康な臓器っすか」
     今頃になって、ようやく医療関係者としての真面目なやり取りが、そこで展開されているようだった。
    「このあたりで終了かな? じゃあ、拭いてあげるね?」
     超音波検査を済ませると、塗りたくったジェルを拭き取る役目は、当然のように豚男が買って出る。拭くついでにも、拭き終わった胸を素手で触られ、クルーエルは顔を顰めた。
     ここまでは終わった。
     なら、あとはショーツの中身だけである。
    
         五・性器検査
    
     全身から汗が噴き出る。
     ――いま、夏だっけ?
     なんて、おかしなことを考えちゃうのは、それだけ頭が動揺して、本当は冷静なんかじゃないからだ。心臓はバクバクいって、鼓膜の内側は本当に賑やか。
     クルーエルのショーツに豚男の手がかかっていた。
     ゴムに指が入り込み、あとはずるっと引っ張るだけ。
     ――これ、脱がされたら、下の毛とか、アソコとか、みんな見えちゃうわよね。
     だから心も硬くなる。
     今の時点で自分は一体どうなっているか。顔はどれくらい赤いのか。熱は何度になってしまったか。こんな状態で脱がされたら、その恥ずかしさで自分はどうなるか。
    「クルーエルちゃん? これが最後なのよ?」
     女性職員が診察台に近づいてきた。
     もう終わる、あと一息。もうちょっとだけ頑張ろう。
     って、そんな慰め方を、普通なら想像する。
    「最後の試練なの。パンツを脱いで、下の毛をみんなに見てもらって、アソコの中身も全員で拝見するわ。もし疾患があったら、症例のサンプルとして、みんなに勉強させなくちゃ。健康だとしても、ものは経験。みんなで見るわよ?」
     これから起こることを女性職員は伝えてくる。
    「アソコに指を入れるわ。クリトリスも触るわ。器具を挿入した検査方法も行うけど、衛生のためにコンドームを使うのよ? 避妊具よ? 本当はセックスに使うものをあなたにも使うの」
     全てが悪魔の囁きだ。
     避けられない未来を丸ごと伝えられ、クルーエルは今のうちから顔の赤みを増していた。
    「じゃあ、脱いじゃおっか。クルーエルちゃん」
     豚男の両手が、下へと動く。
     ずるっ、と、ショーツが脱げ始めると、まず先に見える陰毛が、彼らの視線に晒される。脱げる瞬間を見よう見ようと、みんなで集まっていた全員が、クルーエルのアソコに注目して、覗き込んでいた。
     ……やだ。
     さらに下へと動くにつれ、陰毛の三角形が端っこだけ、半分だけ、四分の三だけ、だんだんと見える量は増えていく。
     ……見えちゃう。
     今にも泣き出しかねない顔は、トマトのように染まっている。ついつい下を隠そうと手が動くと、女性職員がその手を捕まえ、頭上に押さえ込んでしまう。バンザイに近い形で、クルーエルは両手を封じられてしまった。
     みんなでアソコを視姦してくる中で、クルーエルの秘所は鑑賞され尽くす運命に置かれている。
     陰毛が完全に見え、アソコのワレメが見え始める。
    「お? お? 綺麗な性器!」
     金髪が興奮する。
    「いいですね。アソコの具合も芸術的かつ素晴らしい!」
    「グッド! グッド!」
     人の性器で盛り上がる。
     見世物にされる恥辱で頭がどうにかなりそうだ。
     アソコは完全に見えきって、あとは太ももを通り抜け、膝の向こうへ、ショーツは遠ざかっていく。まるで大切でならないものが離れてしまうみたいで、手を伸ばしたい思いでいっぱいになった。
     ――本当に、全部裸に……っ、もう何も身につけてない……!
     靴下しか残っていない。靴下なんて、体を隠すのには何も関係ない。
     恥ずかしい部分を守る最後の一枚だったのに、豚男なんかの手に渡った。大きな手柄を立てたような顔で本人に見せびらかす。勝ち取った獲物みたいに高く掲げて、指にぶらさげて、ひらひらさせて。
    「うんうん。これは前から穿いてたんだね? 痕跡がしっかりあるよ」
     これみよがしに、クロッチの所を裏返し、生理のおりものがついた部分をまじまじ見たり、指で撫で回す。
     しかも、それをスーツの胸ポケットに入れていた。
     ――そんなっ。
     今まで下腹部を守ってくれていた最後の鎧は、豚男なんかの元に行き、胸ポケットを膨らませている。白い布が少しはみ出て、だらしなくよれていた。
    「では脚を開いて下さい」
     中年医師の命令は、乙女には処刑宣告に近い。
     ……こんな、見せびらかすみたいなポーズって、こんなのっ。
     頭の中身が沸騰しそうで、今の自分の表情がどうなっているのか、いっそ考えないようにしている。
    「……はい」
     クルーエルは自らM字開脚のポーズを取った。
     ――ううううっ! ま、丸見え……!
     裸で、アソコは丸見え。たとえ服を着ていても、このポーズに格好良さの欠片もない。情けなさの固まりだ。
     ――頭、どうにかなりそう……絶対沸騰してる……脳みそ、やば……!
     視線がアソコに集まる。ワレメが視線で撫で回され、毛だってニヤニヤと見られ放題だ。
    「では診ていきますよ? 肛門から」
     中年医師がペンライトを手に取ると、まず確かめるのは肛門だった。
     ――やだっ! お尻の穴? そんな汚いところまで……!
    「えーっと、綺麗ですねぇ? ふむふむ、色合いもいいもんで。特に炎症などはなく、こちらは健康的ですが、一応皆さんも診ておきましょう」
     もう鑑賞会だ。
     中年医師が覗き終わると、今度は黒髪が、茶髪が、金髪が、豚男が、順番になって下腹部に顔を近づけ、肛門は一人一人の目に収まる。クルーエルの両手を押さえる女性まで、豚男と交代しつつ、覗きに動いていた。
     視線を送られることが、一回ずつ針で刺されるみたいに痛くて、ジロジロと見られ尽くした感覚が肛門に残っていた。
     ――お尻の穴……全員にチェックされた……!
     顔から湯気が出ている。それくらい熱い。脳がくつくつと煮立って蒸発して、白い蒸気となっている。
    「性器のチェックを行います」
     指で開かれた。
     ――な、中身……ジロジロっ、無理っ、恥ずかしすぎる……!
     中年医師の視線が注ぎ終わると、やっぱり次々と交代が繰り返された。
    「桃色の美しい色合いです。ずっと見ていたくなりますね」
     と、黒髪。
    「エロいねぇ? あ、濡れてない? ははっ、クルーエルちゃんはみんなにアソコを見られて愛液を出しちゃったか!」
     豚男は満面の笑顔で言っていた。
    「ち、ちがっ、濡れてなんて――」
     もちろん、クルーエルは否定した。
     必死の声を荒げた。
    「いいえ、愛液ね。膣分泌液ね。なるほど? 羞恥心を煽られ、見られることによって濡れることもある。とは知っていたけど、クルーエルちゃんも視線だけで気持ち良くなっているようね」
     人がエッチな体をしているような解説をされ、頭はますます恥辱でどうにかなる。
    「はーい。測定だよ」
     若手看護婦は器具を片手に下腹部へ回っていた。
     ノギスだ。若手看護師はそれを近づけ、クルーエルのワレメの長さを明らかにすると、さらにクリトリスまで挟む。指でくぱっと中身を開き、膣口の直径さえも声に出し、それから全てを書き留める。
    「で、次はこれね」
    「あぁ…………んぅ………………」
     シリンダーが挿入された。
     異物感が収まって、辱めを受けている気持ちがした。
     指よりも細い、負担のない器具だ。目盛りのついた棒状で、一体どこまで入るのか。膣の深さが何センチかまで調べている。こんな風にアソコの情報を調べられ、記録されてしまうだなんて、こんなのもう生きていけない。
    「次は膣圧ね。これを入れたら、アソコにぎゅーって力を入れてね」
     アソコの力まで調査されてしまう。
     性器の情報が何もかも取られていく感覚に、クルーエルの表情はすっかり濡れる。耳なんかとっくに真っ赤だ。
     クルーエルの膣内には、また別のものが入っている感覚がある――膣圧計だ。
     柔らかいゴム製の棒には、何かチューブが繋がっていて、力を入れればチューブの先で目盛りの針が数字を指す。
     ぎゅっと、膣に力を加える。
    「はい、いいよ?」
     膣圧の数字が出ると、器具を抜き取った若手看護師は、それも紙に書き込んでいた。
    「じゃあ、あとは中の触診だね」
     中年医師が下腹部の前につき、ビニール手袋を嵌めた手でワレメをなぞる。アソコを触られる感じに表情は険しくなり、顔の熱さで額に汗が滲み出る。
     にゅっ、と、指が入ってきた。
     ――あうぅ……こ、これさえ終われば……。
     クルーエルは目を瞑り、本当に最後の試練を耐え抜こうと、ぐっと全身に力を入れる。歯を食い縛り、茹で上がった顔を顰め、我慢の準備を整えた。
    「うーん」
     指が動き始める。
     指先を使って、膣壁の色んなところを探る。指の角度を変え、深さを変え、様々な部分をこすって確かめている――すごく、調査されてる感じ。こんなの落ち着かない。
    「温かいですねぇ? 処女膜は見てわかりましたが、未経験のまだ男を知らない閉まり具合が指にまで伝わりますよ」
     アソコへの評価を下す。
    「膣分泌液も増えていらっしゃるね。うん、この感じはあれかな? 何千人ものアソコを診てきてるんで、わかっちゃんですが、オナニーしてるでしょ」
    「――なッ」
    「図星ですね? いやぁ、いいのいいの。当たり前当たり前」
     当たり前とか、そういう問題じゃない。
     面白い情報を知ったものだから、みんなの目つきがギラついた。豚男なんてヨダレを垂らすし、若手看護師は何かムカつく顔をしてくる。
    「あらぁ? するのねぇ?」
     女性職員は微笑ましいものでも見るような目をしてくる。
    「んっ、んぅ………………んぅ………………んぅ……………………」
     それに、探られているうちに変な感じが強まって、歯を食い縛っていなかったら、もっと色んな声が出そう。聞かれたくない。
    「ほほう? さすが、オナニーをしているだけあって、気持ちよさそうなご様子になっておられますなぁ?」
     黒髪がいかにも興味深そうにしてくる。
    「ま、一応確認しましょうか? そのご様子は痛みではないですか? 何かヒリヒリするとかいったことはありませんか?」
     中年医師はやけに勝ち誇っている――むかつく。
     すごく、むかつくけど……わたし、やっぱり良くなっちゃってる……。
    「……感じて、ます」
     駄目だ、脳が蒸発で消えそう。自分で声に出して認めてみたら、カッと熱が上がった感じがして、顔に皮膚は残っているかなんて、おかしな心配までしてしまった。
    「おおっ」
    「やっぱねぇ?」
     茶髪と金髪は盛り上がった顔をする。
    「さて、この感じは子宮が降りてきてますね? こうして奥をやると、ポルチオに触ることができますよ」
     中年医師は根元まで指を埋め切り、コリっとしたものを撫で挙げるみたく、下から上に刺激してくる。そのせいか、下半身に電流が走り、太ももがプルっと震え、腰がモゾモゾとしてしまう。
    「んっ、んぅ……んっ、んっ、んっ………………んっ、んぁ………………んっ、んん、んぅ…………んっ、くっ………………んぅふぁ………………んっ、んぅ………………」
     絶対、声出ちゃう。
     喘いだりしたら、余計に……。
    「ははっ、クルーエルちゃん。その脚がくねくねしてる感じが可愛いね? 足首まで上下に動いちゃったりして、そんなに気持ちいい? すごく我慢してるね? 顎に物凄い力が入っているの、見ていてよーくわかるよ?」
     豚男が実況してきた。
    「あら、まぶたがぎゅって強くなったわね? ふふっ、横なんか向いちゃって、顔も隠したいのね? でも、真っ赤なお耳が見える横顔だけで、十分に可愛いわよ?」
     相変わらず手を押さえ込んでくる女性職員も、いやらしく囁いてくる。両手さえ自由なら、手の平で顔を覆い隠していたいのに、それをさせてくれない。
    「んんんぅ……! んっ、んぅ……んぅ…………!」
     刺激、強い――だんだん、頭が――。
    「ポルチオを集中的にやっていきますよ?」
     指先でくりくりと擦り上げられ、まるで電流を流され続けているように、腰も足もビクビクと反応している。愛液が流れ出し、シーツに染みを広げ始める。
    「あっ、んっ、んっ、んぅ……んあっ、んっ、ん……んぅ……」
     反応は強まっていた。
     顎にどんな力が入り、どれほど歯を食い縛っても、出て来る声はトーンを上げる。
    「んん! んっ、んぁっ、あぁ……! あっ、んっ、んっ、んぅ……!」
     みるみるうちに高まっていた。
     体の芯に蓄積され、大きく膨らんでいくものが、やがて爆発に向かっている。クルーエルはこの未知の感覚を怖がり、必死になって我慢をするが、彼女自身では止められない。
    「ああ、これは前兆ですね」
     中年医師は指を止めない。
     それどころか、むしろ活発化させていた。
    「悪いけど、このままポルチオの感触を確かめさせてもらいます。ま、こっちも仕事ですからね」
     限界が来た。
    「あぁっ、あぁ……! んっ、んぅ……! んっ、んぅ……!」
     快楽の波に押しやられ、もう恥ずかしいだの、なんだといった思考さえ遠くに流れ、ただ喘ぐだけの存在と化し、全身でよがっていた。特に太ももを反応させ、上下左右にピクピクと動かしていた。
    
    「――――――――――――っ!」
    
     クルーエルは絶頂した。
     頭が真っ白に弾け、太ももは限界まで力んで震え、足首は反り返る。背中は反って浮き上がり、首まで沿って頭で身体を持ち上げてしまっている。
     ひとしきり痙攣して、急に糸が切れたように脱力すると、反っていた足首もだらりと下がる。
    「イキましたね」
     中年医師は勝者の顔を浮かべていた。
    「絶頂のご様子、しかと見させて頂きました」
     黒髪がニヤける。
    「ビクビクしてたねぇ?」
    「いい姿だったわ?」
     豚男も、女性職員も、
    「最高」
    「興奮したぜ」
     茶髪も、金髪も、
     みんながみんな、一言なりクルーエルのイった様子に対する感想を告げていた。
    
         六・終幕
    
     はぁっ、はあ……はっ、はあ……。
     完全に肩で息をしてしまっている。ぐったりと疲弊感があって、今まで真っ白になっていた頭に、やっと思考らしいものが帰って来る。そうなると、さっきまでの自分自身の声や様子が蘇り、クルーエルは赤らんだ。
     ――物凄いはしたない姿、全員に見られたんだ……。
     それだけでは済まない。
    「ほら、君の愛液だよ」
     指先にたっぷりと粘液をまとわせて、ポタポタと垂れるほどの量を中年医師が顔に近づけてくる。指と指のあいだに太い糸が引いていて、自分の体液を見せつけられたクルーエルは、反発のように顔を背けた。
     ――見せてこないでよ……。
     自分はこんなに汁を流したのかと思ったら、頬が発熱してしまう。
     しかし、クルーエルのマグマのような赤面は、今までの余韻や愛液の見せつけだけで続いているものではない。
    「もう一本いっておこうか」
     未だM字に広げたままの下半身で、アソコに顔を近づけているのは若手看護師だ。膣内の細胞を採取するため、普通よりも長い、十センチはある医療用の綿棒を挿入してきた。
     細いものが入り込み、子宮にぶつかる場所をくすぐってくる。
    「随分と濡れたね? テカテカでさ、アソコが凄い光ってるよ」
     わざわざ報告してくるのが、ますます羞恥を煽って来る。
     やめて、言わないで……。
    「シーツもびちゃびちゃで、お漏らしじゃん」
     金髪がからかってくる。
    「イっちゃうくらいだもんね? しょうがないね?」
     豚男はヘラヘラ笑う。
     他のみんなも、口々にコメントを飛ばし、濡れたことや感じていた時の様子についてコメントしてくる。一つ一つがクルーエルの表情を歪ませ、真っ赤な顔から火を噴かせんばかりにしていた。
     そして、次の瞬間だ。
    「はい。撮るよ?」
     若手看護師がカメラを近づけていた。
    「え?」
     と、思った時には――パシャ! シャッターの音が鳴り、アソコにぐいっと迫るレンズで、撮られた写真の内容が思い浮かぶなり、みるみるうちに皮膚の発火が広がった。本当には火なんて出ていなくとも、毛穴から火の子が出ると例えたいくらいには、クルーエルの感情は羞恥で燃やされていた。
    「次は指で広げてくれる?」
     指でって、自分で?
     無理! 無理無理! 絶っ対無理!
    「やってくれないと、そのM字開脚のポーズで顔が映るように全身撮るよ?」
    「そんな……」
     脅し文句はさすがに効いた。
     アソコを接写される以上の恐怖に、クルーエルは慌てて指でアソコを広げてみせる。最後は自分自身で中身を公開していると思ったら、頭の中身がマグマに変わっているような気がするほど、ドロドロの熱でいっぱいになっていた。
     クルーエルは絶対に自分の下半身を見ようとしなかった。
     いや、見た――いや! と、見た瞬間に顔を背けた。自分のアソコにカメラレンズが近づいていて、しかもそれに向かって、自分から中身を公開している。それほど羞恥心を刺激してくるものはなかった。
     パシャ!
     シャッターの音で、またしても顔から火の粉が飛んだ。
     それから、撮影が終わるなり、豚男がクルーエルのアソコを拭き始める。
    「いっぱい、お漏らししちゃったからね?」
     嫌な言い方をしながら、クルーエルのアソコには布巾が押し当てられていた。
     ――赤ちゃんの世話みたいなこと……言わないで……。
     オムツの世話が必要な存在として扱われる惨めさを味わい、やっとのことでクルーエルの検査は終了に至っていた。
    
         七・完
    
     診察台から降りる。
     降りた途端、台にかかったシーツの方を向かされた。
    「ほら、これが君のお漏らしだよ。クルーエルちゃん」
     ――人のアソコ弄って、イカせたりしたのは医者の方なのに……。
     まるで小便を漏らしたような言い方で、クルーエルが悪いように言って来る。豚男のヘラヘラとした笑顔が憎い。
    「おっと、これも返さないとね」
     豚男はポケットからショーツを取り出す。
     クルーエルは引ったくるように奪い取り、パーティションで仕切った脱衣スペースへと駆け込んだ。
     生まれてから、仮にも裸で人前を走ったのは、これが最初で最後になるかもしれない。着替えの時にショーツを穿けば、豚男の体温が残っていて、本当に最悪だった。
     地獄は終わった。
     しかし、地獄で味わったものの余韻は、クルーエルの体の芯まで染み込み、何週間、何ヶ月も先まで恥ずかしかった思い出がぶり返す。一人で思い出すたびに赤くなり、学校生活でさえ体調不良と勘違いされる有様で、本当に本当に、最悪の一言に尽きるのだった。
    
    
    
    


     
     
     

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  • クルーエルのパンツ1枚測定・健康診断【前編】

    後編

    
    
    
    
         〇・序
    
     ……はっきり言って、すごく憂鬱よね。
     クルーエル・ソフィネットはテーブルに肘を突き、ため息をつく。
    「わかるわー。あれに選ばれるのって、すごい罰ゲームだもんね」
     モスグリーン色の瞳で彼女が見つめてくる ミオ・レンティア──小柄な背丈と可愛らしい幼顔が特徴の少女だ。自分と同じ十六歳だが、外見の印象とのんびりした口調ゆえそれより一つか二つ幼く見える。
    「ほんとヤだなぁ、なんでわたしなんだか」
    「まったくねー」
     ミオはクルーエルに同調してくれる。
     ……ま、わたしじゃなかったら、他の誰かが選ばれるもんね。
     曇りきった気持ちでため息を繰り返す。
     名詠式の専門学校、トレミア・アカデミー。
     それがクルーエルの通う学校で、学校というものには様々な行事がある。課題に悩むならまだいい。憂鬱の原因は実技でも筆記でもなく、学校に課せられた一つの試練。
    
     指定測定診断。
    
     名詠を使うことで、身体に現れる変化を調べるため、保健機関と契約を結び、毎年必ず何人かの生徒を検査に出す。一般人との違いを探り、詠使い特有の体質の調査を行うとか。
     それだけ聞けば、ただの面倒な課題で済むが、問題は下着一枚での実施という話。うら若き十六歳を裸に剥こうとは、なんたる検査方式だろう。
    「クルル。終わったらジュースでも奢ろっか」
    「……ありがと、ミオ」
     そんな慰めがありがたかった。
    
         一・体重、身長
    
     当日。
     布のパーティションによって仕切られた空間で、人目を遮ってあるとはいえ、クルーエルの手は震える。
     ……ははっ、どうして裸なんだろ。
     一人苦笑しながら引き攣って、自分がどれだけ緊張しているのかを実感する。ただ制服を脱ぐだけの動作に手こずり、上を脱ぐ。テーブルに置かれた脱衣カゴに、脱いだものを畳んでいると、頬のあたりが発熱する。
     ああ、きっとわたし、赤くなってる。
     薄い壁一枚の向こうに人がいるから、上半身がブラジャーだけっていうのも、とても気になってしまう。
     指定測定診断の実施現場に選ばれた学園内の一室。
     つまり、クルーエルがいる今この部屋には、医師と職員が集まっている。脱ぐ時だけは配慮があり、パーティションで簡易脱衣スペースを作っているが、布製の壁が並んだだけだ。
     防音性は絶対ない。
     脱いでいる際の、衣擦れの音は筒抜けだし、白い布だから、光の具合で向こうに影が見えていても不思議はない。たとえシルエットでも、脱衣シーンを見られていたら、ちょっと嫌だと思う。
     パーティションの向こう側には、かれこれ七人も集まっている。
     たった一人だけ女性がいたが、他の六人は全員男。
     ……せめて男女比が逆なら助かるのに。
     心の底から、切実にそう思う。
     スカートの留め金に手をやると、やっぱり少し手こずる。普通のしているつもりでも、緊張してしまっている。まだ誰の視線も浴びないけれど、脱ぎ終わればショーツ一枚で出ていき、男達の前に立つ。脱いだ分だけ、その瞬間は近づくのだ。
     ……嫌だなー。
     スカートを脱ぎ、もう下着姿だ。
     頬の熱が上がった気がした。また少し赤くなったのかも。
     スカートを綺麗に畳む。脱衣スペースに引きこもる時間を稼ぐため。裸で男達の前に出るのが嫌なため、できるだけゆっくりとやる。ずっと、こうしているわけにもいかないけど、クルーエルは時間を引き延ばしてしまっていた。
     せめて、少しでも気持ちを固めて出て行こう。
     心の準備をするためなら、時間を稼いだっていいじゃない。
     ……腹を括らないとね。
     どうせ、きちんと受けて済ませなければ仕方がない。
     クルーエルは背中に両手を回し、ブラジャーのホックを外す。
     ああ、とうとう指定通りの格好だ。
     身につけているものは、白いショーツ、白い靴下、あとはスリッパ。
     両腕でがっしりと、固いクロスで乳房を覆い隠して、クルーエルはパーティションの外へ出ようとする。
     足が震えて、全身が磁石のように反発した。足を進めようにも、見えない反発力に押し返される。
     ……わたし、生きて帰れる?
     緊張のあまり、死にに行くでもないのに、大袈裟なことさえ思い始めた。これではいつまでも足が進まない。進まなければ、ずっと裸でいるだけだ。
     ……本当に、腹を括らないと。
     震える体で脱衣スペースの外へ出る。反発に逆らって進むから足は重い。どうしてこんな、苦労みたいな思いして、こんな格好で人前に出るんだろう。
     クルーエルの裸に全員の視線が向き、男という男の視線の前に晒された。ますます顔は赤らんで、クルーエルはすっかり下を向いていた。
     白衣をまとった中年医師、優しいお兄さんといった印象の看護師。この二人を引き連れて来た職員の豚男は、鼻があまり綺麗に反り返り、頬もぽっちゃりと膨らんでいて、本当に豚に似ていた。
     立ち会い見学という、よくわからない名目の人達が四人もいる。
     保健機関の職員らしく、唯一の女性が三人の男を従える形で並んでいた。
     ……うっ。
     腕のクロスで乳房を守り、より固く抱き締める。だけど腕二本では守りようのない、肌やショーツの露出は、どうしたって視線の餌食だ。心許ないといったらない。
     七人分の視線がある中で、さして暑いわけでもないのに、肌がじりじりと熱に炙られているかのようだ。視線だけで日焼けができそう。
    「準備が済んだようだね」
     豚男は明らかにニヤニヤしていた。
     ……やだ、やらしい、この人。
     露骨な下心が見えて、クルーエルは反射的に後ずさる。ただでさえ、鼻の骨がカーブした豚鼻で、肥満で頬も丸っこい。本当に豚に似ているルックスに、いやらしい不審な目つきは、警戒するなという方が無理だ。
     ……夜道だったら、絶対逃げる。
    「さっ、まずは体重から」
     中年医師が体重計を指していた。
     やはり、顔立ちは悪い上、ニヤっとした目でクルーエルの身体を見ている。脂っこい体質なのか、禿げかかって頭頂部が輝く短髪は、トゲのような形に固まり、表面に埃が付着して清潔感がない。
     ……失礼だけど、汚そう。この人の触診受けるのは、ちょっと。
    「はやくはやく」
     若手看護師は明るいお兄さんっぽく、外見は悪くない。豚男に中年医師と来て、目つきにもいやらしさを感じない。他の男に比べて比較的に印象が良かった。
     ただ、クルーエルが体重計に近寄り、そして足を乗せた瞬間だ。
    「両手は横じゃない?」
     若手看護師は明るく爽やかに注意してきた。
     黒い笑みがあった。
    「横って、体重くらい……」
    「あのね? なんで裸かわかってる? 皮膚の視診も兼ねているし、名詠の影響で何か目立ったアザとかの痕跡が現れないかもチェックする。他にも名詠生物がもたらした感染症なんかが、特に十代の女子にかかりやすいとか。色々と細かな調査を優先してるの。様々な理由が絡んでのことなんだから、言う通りにしてくれる?」
    「でも……」
     いくらなんでも、これは躊躇う。
     女性職員が引き連れる男達の、金髪、茶髪、黒髪の三人組が、横並びになってクルーエルの正面方向に揃っている。体重計の前に陣取り、ひとたび腕を降ろせば胸を見られる。いや、見るために並んでいる。
     若手看護師もクルーエルの前に回り込む。中年医師と豚男は、横から見える位置にいる。
     ……なんでこんな状況で。
     人の乳房で勝手に鑑賞会をやらないで欲しい。本当に、本当にやめて欲しい。最悪の気持ちにクルーエルは肩を強張らせて震えていた。
     ……でも、どうせ最後は全部。
     検査項目はクルーエルの頭の中にも入っている。事前に書類を渡され、目を通し、その時から憂鬱だった。
     性器検査だってある。
     ここで気をおかしくしていたら、この先まずい。
     ……大丈夫、大したことない。大丈夫、大丈夫よね。
     クルーエルは固くなった腕を動かす。本人が下ろそうとしても、筋肉が勝手に拒むかのように動作は固い。関節に錆びがついて、それで可動しにくくなっているみたいな、ぎこちなくてカクカクとした動きになる。
     乳房と腕のあいだに隙間が開くだけでも、横から見えはしないかが気になる。下げ始めれば、この何センチか下げただけの感じで、もう乳首が見えちゃっていないかどうかも気になる。
     気になって気になって、心許なくて仕方がないけど、やっとのことで両手を下げる。みすみす鑑賞会の見世物をやらされるみたいで、本当に嫌だけど、気をつけの姿勢になった。
    「あら、美しいじゃない。乳首の色合いといい、全体の形といい、ここまで整っているなら、むしろ見てもらなわければ損なくらいよ?」
     第一声が、女性職員のものだった。
    「え……」
     衝撃を受けた。
     唯一の同性なのに、味方でもなんでもない――もっとよく見ておきなさい? とでも言わんばかりの目配せを仲間内に送っている。女性職員でさえ、クルーエルに好奇心たっぷりの目を送る一人だった。
    「ふーん? まあまあ」
     にこやかに、爽やかに、若手看護師は乳房への評価を下す。
     ――品評会じゃないのに……。
     しかも、まあまあって。
    「体重……」
    「ああ、そうだね」
     思い出したかのように、若手看護師は体重計に出た数字を読む。白衣の胸ポケットに挿していたボールペンで、書類に書き込みを行った。
     ……もう、いいわよね。
     クルーエルは胸を隠す。視線でじりじりとやられた余韻なのか、火傷した時のヒリヒリみたいな、そんな感覚が残っている気がする。
    「次は身長だよ?」
     豚男が次の試練を言い渡す。
     こうなったら、ただ身長を測るだけの器具が次の品評現場に見えた。
     ――また、言われそうね。腕、降ろせって……。
     身長計に向かって行き、ぴたりと背中を合わせた。背筋は真っ直ぐ、顎も引き、きちんとした姿勢を取れば――ほら、腕。って、やっぱり豚男に注意され、クルーエルは降ろしていく。
     目尻を震わせ、視線という視線の数々を感じながら、気をつけの姿勢を取ると、次の瞬間にクルーエルは目を見開く。
    「えっ」
     ぎょっとした顔を浮かべていた――手が、腹に乗っていた。
     ずれないように、押さえてやるみたく、豚男の手汗がたっぷり滲んだ手は置かれ、全身がぞわついた。
     ――き、気持ち悪っ……!
     鳥肌が立ち、肌中が泡立つ。
     ヌルっと、今にも糸を引きそうな手汗の感触が、手の平の温度と共に皮膚に伝わる。豚男は左手を揉むように動かしながら、明らかに胸に視線をやり、右手でバーを降ろしている。バーが頭に触れても、すぐには読まない。
     ヘソの周りを上下にさすり、だんだんと上の方へと、乳房の付近へ手を迫らせ、今にも触られそうで身が強張る。
     さらにバーから離れた右手は下へと移り、指先でさーっと、産毛だけを狙った触れるか触れないかのタッチを肩に行う。くすぐったい感触に、肩がモゾモゾと動きそうになる。左手はもう乳房の下弦に迫っていて、あと数ミリもすれば触れてしまう。
     ……や、やだ! はやく済ませて!
     とうとう、親指の側面が乳房に触れ、膨らみをかすかに持ち上げる。右手に至っては肩の肉を揉み始め、誰が見てもセクハラだ。それなのに、クルーエルの視界に並ぶ誰もが、女性職員さえも、それを咎めようとしない。
     ……なんで? おかしい――。
     泣きたくなった。
     誰一人味方がいない、猥褻な視線にまみれた中で、クルーエルはただ一人でショーツ一枚の格好をしているのだ。
    「では数字はっと」
     豚男の顔が必要以上に近づき、吐息が耳にかかってくる。
     気持ち悪さに震えていると、やっとのことで数値が読まれ、若手看護師がそれを紙に書き込んでいた。
     豚男の手が離れ、身長計から降りることができても、そこに解放感はない。試練が済んだ安心感もない。クルーエルにあるのは、べたべたと触られ、皮膚の表面に豚男の手汗が残った感触だった。
     身長計を降りたクルーエルは、やはり反射的に胸を隠し直していた。
    
         二・スリーサイズ
    
     ……もうやだ。早く終わって欲しい。
     ショーツ一枚で男に囲まれる自分にとって、この思いは非常に切実だ。身長計から降りたところで、せっかく腕に隠した胸は、またすぐに見せなくてはいけなくなる。
    「はい。腕は上げてねー」
     クルーエルの真正面には、メジャーを持つ豚男が立っていた。
     ニヤニヤとしきった表情で、目つきはいやらしく細められている。閉じた唇から舌が出て来て、じゅるり、と、なめずる音を立てていた。
     ……うっ、やだ。ほんとにやだっ。
     なんでこんなに気持ち悪いの。
     しかも、スリーサイズの測定に移ってから、今度は周りを囲まれている。真正面の豚男は、中年医師と若手看護師をそれぞれ左右に従える形に、真後ろには女性職員と、残る男三人組の囲いの中に閉じ込められ、クルーエルは包囲の中心に立たされていた。
     ショーツの尻に視線を感じて、前からもショーツを見られ、胸にも嫌というほどの視線を注がれる。
     ……いっそ早く測って欲しい。
     豚男はやがてクルーエルに抱きつくかのように、密着直前まで迫っていた。
     ――む、無理……! 無理無理!
     顔中で引き攣り、全身に悪寒が走る。背中にかかった髪の下へとメジャーを通し、巻き付けようとする際に、背筋を指先で撫でられて、身震いのあまり痙攣のように肩を震わせた。
     豚男の着るスーツも、乳房に少しあたってきた。勃起でテント張りになった先端が太ももにぶつかった。息まで耳にかかってきて、その気になればキスできるほどの接近は、十六歳の少女には不快感が強すぎた。
     豚男は両手でメジャーを引っ張り、ピンと張り、クルーエルの乳房を間近で眺める。
     ――そんな近くで……ジロジロ……見ないで……。
     何秒も何秒も、すぐには目盛りを合わせずに、じっくりと眺め、やっとのことで巻き付ける。
     目盛りを合わせるのは乳首の上だった。
     数字を見るために、豚男は顔を接近させ、身体に息が噴きかかる。
    「では発表します!」
     ……ちょっ! そんな大声で?
    「クルーエル・ソフィネットのおっぱいは――――」
     豚男は大声で数値を発表した。
     廊下にまで聞こえはしないか。通行人がいれば、それが知り合いだったりすれば、偶然にも知られてしまわないかと怖いほど、本当に大きな声だった。
    「おっ、予想とぴったりじゃん」
     若手看護師はゲームに勝って嬉しい顔で記入をする。
    「ふむ、僕の美学に相応しい数値です。ほどよい膨らみ具合で形が整っているものこそ、僕の思う至高の乳房なのですよ」
     黒髪の男は、学術的なことを語る顔をしていた。
    「俺はあの乳首の色が好きだね。美乳なのはわかるけど、乳首が台無しだと、美観を損なう気がしない?」
     今度は茶髪。
    「美学とか美観とか、要するに性癖だろ? ま、同感だけどよ?」
     金髪はチャラついていた。
     ……なんなのよ。わたしは展示品じゃないのに。
    「美学にせよ性癖にせよ、綺麗な乳房に違いないわね。あの形を絵画の中に写し取りたいと考える芸術家がいくらでもいるはずよ? 無論、欲望のまま揉んだりしたい男も」
     女性職員さえ乳房にまつわるトークに加わり、人の体つきを話題にした盛り上がりを誰も咎める者がいない。
    「ではウェストの方を」
     豚男がメジャーを緩め、下へと移り始めた時、クルーエルは自然と胸を隠す。もう鑑賞され尽くしている。今更なのはわかっているけど隠していたい。守っている方が、曝け出しているより、まだ落ち着く。
     ショーツ一枚なのに、落ち着くもなにもないけど、少しはマシ……。
    「かわいいねぇ」
     豚男はそれをからかう。
     不快感でクルーエルは顔を顰めた。
    「さて」
     腰に絡んだメジャーが引っ張られ、ピンと真っ直ぐ伸びていた。豚男はそれを巻きついていく。ヘソの近くに目盛りを合わる。
    「では続きまして!」
     と、やはり大きな声で。
     ウェストが発表されるなり、それを耳にした男達は、こぞって予想が当たった外れたの、確かにスタイルがいいといったことを論じ合う。
    「最後はお尻だねぇ? ヒップはいくつかな?」
     豚男は大いに煽り立て、床にしゃがむ。クルーエルのショーツの高さに、豚男の顔の高さが一致していた。
     そして、抱きつくみたいに、またしても後ろ側に手を回す。お尻に手がやって来ているだけでなく、顔までアソコに接近する。ショーツに顔を埋めかねない至近距離で、鼻先が布地に触れそうだ。
     にぎっ――と、手の平で鷲掴みにして、同時にクルーエルの背中が反り返る。
    「いやっ!」
     可愛い悲鳴を上げていた。
     ……やだ、わざとだ。
     メジャーを巻こうとするフリをして、お尻の近くに手がいくのをいいことに、わざわざ触って、揉んでいた。
    「ああ、ごめんごめん」
     まるで悪いとは思っていない、むかつく顔で、豚男はクルーエルの顔を見上げる。こちらは何かを言いたくてたまらない目つきになるけど、豚男の方はヘラヘラした表情を返してくるばっかりで、反省なんてしそうにない。
     ……いつまで揉むのよ。この変態。
     憤りで、拳に力が入る。モミモミと、豚男の指が動いている。何秒もかけて揉んでから、そのまま指を押し込むみたいにメジャーを巻く。指の腹をぐいっと入れ、引っ掻く形で、触りながらメジャーを引っ張っていた。
     目盛りはショーツの手前のところ。
     数字を読むために、また顔は近づく。ジロジロと性器のところを見られていると、ショーツの中を透かされている気がしてくる。
    「ではでは発表しましょうか」
     当然、大声での発表。
     ……最悪すぎる。
     せめて廊下の外で誰かが聞いているなんてことだけでも、絶対にないで欲しい。
    「おおっ、僕の予想とは誤差三センチ以内!」
    「残念、俺はだいぶ外した」
    「いくらなんでも、百センチオーバーってのは大きくいきすぎたんじゃねぇ? そりゃお前は巨尻大好きだからしょーがねーけど?」
     口々に語り合う。
     ……よくも数字を聞いたくらいで、馬鹿みたい。
     悔しくてならないものを誤魔化すように、クルーエルは無理にでも男達を馬鹿にして、見下そうとした。胸を隠したままの両腕の、二つの拳にぎゅっと力がこもり、力んだ手の甲はプルプルと震えていた。
    
         三・内科検診、乳揉み触診
    
     中年医師が聴診器を手にしていた。
     椅子に座り、背筋を伸ばし、両手を垂らしたクルーエルには、胸の中央に聴診器が当たっている。
    「まあ、しかし可愛い形のおっぱいだ」
     聴診しつつ、中年医師は人の乳房を論評することを言い、目つきはニタニタといやらしい。診察しているのか、人の胸を眺めているだけなのか。
     おまけに醜い顔立ちで、脂ぎった髪質なのか、トゲトゲに固まった表面に埃が付着し、不潔感もかなりのものだ。顔が良ければ許すわけでも何でもないけど、余計に不快感は強くなってしまう。
    「乳首の色も可愛いもんで、芸術品という評価も頷けますなぁ」
     こんなことを言う彼も、先ほどまではもっとまともに検診をこなしていた。
     ペンライトでまぶたの裏側を照らし、喉の中身をチェックする。問診では日頃の体調について聞き取り、名詠を行った前後や翌日など、身体に影響が現れた経験がないかもよく聞かれた。
     聴診が始まってから、この調子だ。
    「ずっと見ていられそうだよ。クルーエルちゃん」
     胸の中央から、ひんやりとした金属の感触が離れていくと、今度は左乳房の下側に当たってきた。下弦の膨らみを少しだけ押し潰し、今度こそ耳に意識を集中する。何も言わなくなったと思いきや、数秒後には目つきのいやらしさが蘇り、ニヤニヤと人の乳房を鑑賞していた。
    「じゃあね。目視で左右差のチェックをするから、いくつかポーズをお願いするよ」
     中年医師が指示してくるのは、両手を下げたまま背筋を伸ばすという、先ほどからとっくにとっている姿勢。腰に両手を当てた姿勢。両腕を持ち上げたポーズ。三つのポーズで中年医師は乳房の視診を行う。
     いやらしい視線よりは、真面目な視診の方がマシだけど、マシだといっても嫌なことは変わらない。
    「そろそろ触診に移ろうかねぇ?」
     中年医師の唇は歪んだ笑みの形に吊り上がる。
     ……わたし、この人に揉まれるの?
     信じられない思いに打ちのめされ、追い打ちのようにクルーエルは囲まれている。乳房の様子が見える角度に集まり、触診を鑑賞しようとする視線が、誰も彼もから突き刺さる。
     ……こんなの、ちょっとキツすぎる。
     中年医師のシワを刻んだ手が迫り、クルーエルは逃げたい思いにかられていた。近づく手を払い退け、揉まれることを阻止したい衝動が溢れる。本当にそれをやったら、間違いなく問題になるし、きっと自分が悪者扱いで終わるだろう。
     悔しいけど、ぐっと堪えていた。
     あくまでもだらっと両手を垂らしたまま、迫る両手を受け入れていた。
     ――本当に、揉まれちゃった……。
     乳がんを調べるという目的はわかっているが、手始めに鷲掴みに、五指に強弱をつけるように揉まれ、クルーエルの目尻に力が入る。
    「こうやってね。手の平全体で包んでやることで左右差を確かめて、しこりがないかっていうのも確かめてるからね?」
     揉みしだかれ、そんなクルーエルの有様を全員が好奇に満ちた目で見ている。
     ……んっ、やだ。本当に。
     男の手の平から伝わる温度が皮膚に染み込む。乳房に指が食い込んでは、脱力によって離れていく。脇から乳房にかけての部分に手を移して、やはり丁寧に揉み込むと、今度は四本指を押し込み流すような触診が行われた。
     上弦の部分に四指をぐにりと押し入れて、下へと流す。横から中央にかけて。指腹の指圧で引っ掻くようにする。
    「うん。しこりもリンパの具合も問題なしだね」
     中年医師は鷲掴みの揉み方に戻り、改めて指を動かす。
    「ま、念のためにもうちょっと揉んでおくんだけどね。クルーエルちゃんのおっぱいは、ふわっとした綿みたいに柔らかくてね? 指があっさり入るんだけど、離すとプルって感じでね。振動を帯びながら元の形に戻るわけ」
     ……なっ、なにをそんな詳しく!
    「あとね、乳首が反応してるね。固くなっていてだね、こっちの手の平にツンツンと当たってくる感じがあるわけ」
     自分の乳房について事細かに解説され、男達はお得な情報を知ってニヤける。生理的な反応を指摘されたり、みんなにヒソヒソと話題にされるのも恥ずかしいし、辛くて嫌だ。こんな中年に触られるのも、多少は感じてしまう自分自身のことも悲しい。
     だいたい、もう触診は終わっていて、あとは好きで揉んでいるだけじゃない。
     ヒソヒソとした話し声――おいおい、診察だろ? ――これで感じるなんてエロッ! 少しはしたないようだね。好き勝手な言葉がクルーエル本人の耳に届いてくる。
     言葉による辱めに、クルーエルの唇には強い力が入っていた。口周りの筋肉に力が入ってしまい、唇が波打つような形に歪んでいた。
     ……別に、感じてるってほどじゃないし。
     強がりのように、心の中では言っていた。
    「ちょっぴり反応しているかな? こうして揉んでいるとだね、かすかにだけど肩がモゾつくみたいに動いているね。クルーエルちゃん、君、感じてるでしょ?」
    「そんなことは……」
    「ははっ、正直に言っていいんだよ。自然な反応だからね、何もおかしいことはないの。触診によって性的な快楽を感じている。はい、君もこれ書いておいてね」
     中年医師が目配せを行うと、若手看護師は紙にボールペンを走らせる。
     ……やだっ、本当にっ、感じたって記録まで取られちゃうの?
     こんなところで、こんな形で感じたことが、医者の手できちんと証明されてしまったかのようだ。
     ……わ、わたし、触診で感じたことになるの?
     記録が保健機関に行き、そのようなデータとして扱われる。今ここだけでなく、後から資料を見た人達がクルーエルについて読みながら、ふむふむ、気持ち良くなっちゃったか、などと感想を漏らすのだろうか。
    「では乳首いくからね」
     その時、中年医師は乳首をつまんだ。
    「にゅん!」
    「おや、可愛い声だね。いやいや、面白い声だったけど、ちょっと我慢してね?」
     クルーエルは乳首に刺激を受ける。指腹のあいだに挟まれ、クニクニとした指圧が行われる。
     乳房で感じた。
     甘い電気が流れる感覚に、肩がピクピクと、モゾモゾと動いてしまう。触診で感じた記録を書き取られたばかりで、また書かれてはたまらない。何とか堪えてみせようと、全身に力を込めて反応を抑え込もうとしていた。
     ……もう書かれたくない! か、感じたくない!
     必死に感覚を封じ込め、何も感じまいと努めてみるが、神経が及ぼす作用は念じるばかりではどうにもならない。
    「んっ、んぅ……んぁ…………」
     悲しくも、声が出た。
    「ふむ、確かに感じているようですね。それらしい身じろぎといい、今の可愛らしくもエロティックな声といい」
     黒髪によって反応さえも品評される。
    「今のも記録に書いておいてあげるね?」
     にっこりと爽やかに、あまりにも良い笑顔を浮かべる若手看護師は、かえって悪魔にしか見えない。
    「まあ、これは念のためなんですが、間違いや誤診などあってはいけないので、一応確認しておきましょう。クルーエルさん、ここまで肩がモゾモゾ動いたり、くねったり、可愛い声が出たのは痛みによるものですか? 触ったことで、違和感などありましたか?」
     症状に関する質問だった。
     ……これに嘘は言えない。言うわけにはいかない。最悪。
     本当に、本当に最悪だ。痛かったことにすれば、じゃあ何かの症状って話になって、ややこしくされるに決まってる。
     だけど、事実を伝えるということは、若手看護師が書き取った内容は全て真実だって、本人がお墨付きを与えることになる。
     ……言えない。こんなの、言えないわよ。
     クルーエルは深く俯く。
     言えないけど、言わざるを得ない。
    「どうなんですか? 痛かったんですか? さほど強く触っていないはずなので、今ので痛みがあったとすれば、色々と疑わなくてはいけないのですが」
     中年医師の言葉に追い詰められ、逃げ場を奪われたかのようだ。
     こうなったら、自ら白状するしかなかった。
    
    「感じ…………まし、た……………………」
    
     小さな声で、そう言った。
    「聞こえませんが?」
    「か、感じっ、ました……性的な、刺激でした…………」
     一瞬だけ声を荒げ、直ちに萎れ、クルーエルは細々と下を向いて告白する。まるで悪いことをした自白をさせられているようで、とても惨めだ。
    「ほほう? 認めましたか」
    「可愛い反応だったよな」
    「言えてる言えてる。めっちゃ可愛いでやんの」
     男達はざわめきあって、感じた反応がどうだったとか、声がエロかったとか、そんな話をやり始める。女性職員まで加わって、クルーエルのどこが良かったのなんのと。豚男だってクルーエル本人に感想を伝えてくる。
     ……ううっ、いっそ死にたい。
     透明人間にでもなって、消えてしまえたらどんなにいいかと、この時ばかりは本気で思うクルーエルだった。  
    
    
    


     
     
     

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