第14話「悲しい痛み」

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 そこにあるのは肉体の痛みではない。
 オナニーをやらされて、屈辱的なお願いを強要され、どこまで人を辱めればいいのかもわからない、最低の先生を相手にして、ただじっと挿入を受け入れなくてはいけない運命を呪いたかった。
 ワレメに塗りつけるかのように、切っ先が上下に動く。
 ベッドシーツに頭を沈め、見上げてみれば、大きな栄光でも掴んだような満足感に満ち溢れた表情がそこにはあった。

 ……馬鹿みたい。

 心の中で見下すと、少しは感情を保てる気がした。
 しかし、切っ先がワレメを押し開き、そして膣口への進行が始まると、俊樹と付き合った記憶が走馬灯のように駆け巡る。小学五年の時の、初めて助けてもらった時の思い出、デートをするようになった思い出。
 アメリカに行く前の別れと、再会の感動。
 転校初日から今日にかけての、ありとあらゆる思い出の数々が濁流のように押し寄せる。
「俊樹くん…………」
 無意識に、小さな声で、彼氏の名を口にしていた。

「俊樹じゃないぞ? 先生だぞ?」

 そして、邪悪な笑顔が夢音を見下ろしていた。

 ずにゅぅうぅぅぅぅぅぅ――――――――。

 ついに肉棒が収まったのだ。
 自分自身の指で慣らしてあり、普通よりも広がっていた初体験の穴には、恐れていたほどの痛みはない。
 それは肉体の痛みがないだけだ。
 たとえ誰を好きになり、どんな恋をしても、処女は処置員に捧げる悲劇的な運命が実現して、胸の痛みこそが強かった。
「ははっ、プレミア女子一〇〇人目だ」
 そんなことを嬉しそうに言ってくるような人間と、アソコで繋がってしまっている。
 ……ひどい。
 人助けなどと言って、この男は制度を利用して楽しんでいる。
 だから、苦しい。
 肉穴の幅より少しは大きいものが入ってるせいで、押し広げられている感覚がアソコにある。腹の内側を空かしたら、ヘソの近くに届いていそうな長さを収められ、そのまま腰が股に触れてくる感触がおぞましい。
 ……こんな時代じゃなかったら。
 心の中には激しい嘆きがあった。
 二人一緒にミイラ症の存在しない時代に生まれていれば、初めてこの感覚を味わうのは、きちんと俊樹との性交だったに違いない。自分の意思で心を許し、迎え入れたペニスであれば、どんなに幸せだっただろう。
 こともあろうに、先生は三脚台のカメラだけでは飽き足らず、しきりにハンドカメラを向けてくる。
「うーん。これはいい。使い心地も。マンコもプレミアだな」
「使い心地って……」
 最低だった。
 人を物と見做した発言ができるだなんて、それを心の中だけに留めることさえせず、繋がった本人に聞かせるなんて、一体どこまで酷い先生だというのか。
 悪辣な人格が剥き出しになればなるほど、自分の中に収まるペニスへの不快感は増幅する。こんな男と繋がるために、どうして夢音自身がオナニーを見せびらかし、自ら準備をしなくてはいけなかったのか。お願いの台詞まで強要され、屈辱を強いられなければいけなかったのか。
 ……なんなの!?
 心は叫ぶ。
 ……私っ、悪いことしたの!? 前世で何かしたの!?
 嘆きのあまり、涙の筋まで流れ出し、その雫は髪の中へと消えていく。
 制度を承知で恋愛に燃えたのも、自分なりの考え方を持っていたのも、そこまでは夢音自身の問題だ。お互いに傷つくことはわかっていて、それでも熱々に過ごしてみたい気持ちを優先させた。
 だが、その相手がこんなに酷い先生だというのは、何か罰でも当たったのか。
 制度さえなければ、生涯決して結合することのなかった人格の持ち主が、こうして腹に収まっているのだ。
 先生は一度ハンドカメラを置き、両手で夢音の全身を撫で回す。
 ……気持ち悪い。
 まるで体中に虫が這うのを我慢する思いで、肩や腰を撫で、胸まで揉んでくる先生の手の平に耐え忍ぶ。
「お前の友達だがな。桜野よりも、お前の方がでかいぞ?」
 人と比べるような品評まで始めていた。
「マンコの感触も、桜野の場合は締め付けが強すぎて、一回目の時はこっちが痛いくらいだったが、二度目はさすがに楽しめたな。ところが梓川、お前の中はいきなり気持ちいい。名器ってやつだ」
 ついにはペニスが動き始める。
 ゆったりとした出入りによって、ニタニタと夢音のことを味わって、うっとりとしたものを目に浮かべる。
「お? 動くとますますわかる。亀頭に擦れてくるヒダの感じがいいんだ」
 ぎし、ぎし、ぎし、ぎし。
 ピストン運動のペースが変わるにつれ、ベッドの骨組みまで揺らされて、軋んだ音が聞こえてくる。
 ……お願い、せめて一回きりにして欲しい。
 受精すれば、女の子は免疫を獲得できる。
 できなかった場合、中出しした精液から得られる免疫は一時的なもので、数週間以内に効果はなくなる。
「こんなことってあるか? 記念すべき一〇〇人目だぞ? それがここまで名器だなんて、こんな出来過ぎた偶然があるか? 神様は俺の味方か?」
 ……ああ、そっか。
 と、神様と聞いた瞬間に夢音は思う。
 運命の神様など、もちろん物の例えとしか思っていないが、もしも存在したら、神様は夢音の気持ちなど考えていない。夢音よりも、目の前にいるゲスな先生を優遇している。そうとでも思わなければ、自分がこんな目に遭う理由を説明できない。
「ほら、お前も感じていいんだぞ?」
 ……やだ、感じたくない!
 たとえ気持ち良かったとしても、こんな先生なんかに、感じている声や顔など与えたくない。気の小さい夢音にできるのは、せめて快楽を抑え込み、感じまいとすることで、先生が楽しむ要素を少しでも小さくしたかった。
「……んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ」
 だが、ペースが速まっていくにつれ、夢音のぴったりと閉ざされた唇から、何かを堪えた声が漏れ始める。
 ……エッチな顔とか、声とか、あげるのは俊樹くんだから!
 先生なんかに、先生なんかに。
 そんな気持ちを胸にして耐え忍ぶ。地獄が過ぎ去るのを待つために、天井や壁の模様を眺め、それで時間を潰してやろうと必死であった。膣内で動く肉棒から意識を逸らしたくてたまらなかった。
 喘ぎ声や表情は、俊樹だけのものにしたい。
 それなのに……。
「あっ、あぁぁ……あっ、んんぅ…………! んあっ、あぁぁ…………!」
 だんだん、声を抑えられなくなってくる。
 慌てた夢音は、両手で必死に口元を押さえ始めるが、それを見た先生はニヤっと喜んでいた。
「もうそこまでしないと声が出るか? お前、エロいぞ?」
「んぅ…………んっ、んぅ………………」
 両手の下で、ぴったりと閉じているはずの唇からは、手の平に向かって呻き声を吐いてしまっている。
 夢音は首を横に振りたくった。
 自分がエッチな子になるのは、俊樹のことを考えたり、俊樹の性欲を肌で感じた時だけだ。心を許した相手からの、いつかは繋がっても構わない恋人から向けられた気持ちにこそ、夢音は答えてやりたいのだ。
 ……エッチじゃない、エッチじゃないもん!
「他の子は一回目は感じないことの方が多い。それがこの様子だ。プレミアマンコな上に、本人も感度が高いとあれば、もう完全にこれはプレミアボディだな」
 先生の揺さぶりは激しくなる。
 嵐のようなピストンの中で、それでも声を抑え続けた夢音だったが、いつしか両手とも力ずくで横へどかされ、唇の力だけで喘ぎを封じるようになっていた。
「あ! あん! あぁっ、やだ! やだやだ! ああん!」
 それさえ、いつかはできなくなり、気づけば心の中まで嵐の激しさに巻き込まれ、途中からは自分の喘ぎ声など自覚すらできずにいた。
 その激しさが不意に落ち着き、全身から力が抜けて、まともな思考が帰ってくるのは、膣内に射精されたことに気づいてからだ。
「ほら、赤ちゃんの素だぞ?」
 気持ち悪いことを言いながら、先生は夢音の内側で肉棒を脈打たせ、子宮に向けて放出してくる。精の熱気を内側に感じた夢音は、これで子供が生まれるのだろうかと、そんな感傷に浸っていた。
 ……生まれるんだ。
 こんな人との子供が、国家施設が引き取るとはいえ。
 夢音自身には責任も愛情も持つことができない、これから命へと変化していくものが、子宮の中に出来上がっている。
 肉棒が引き抜かれると、ワレメと切っ先のあいだには、長い白濁の糸が引いていた。
 何十分ものあいだ棒が収まっていた内側から、急に抜き取られて得られるのは、やっとこの男との時間が終わったという、安心ともいえない安心だった。
「さて、次はお礼をしてもらおうか」
「まだ……するんですか……」
 もう嫌だ。
 もう、先生となんて……。