終 渋谷凜の全裸健康診断【後編】

前の話




 内科検診が始まっていた。
 凛の胸には聴診器が当たっていて、肥満男は心音を聴き取っている。それから背中を向ける指示が出て、髪をどかして背中にも聴診を受けたあと、前に向き直っては始まるのが触診だった。
「では触診を」
 もう、その言葉を聞いただけでもドキリとした期待が湧き、両手が胸に近づく時には、生唾さえ飲んで楽しみに迎え入れ、凛は甘んじて胸を揉まれ始めていた。
(あぁ……いっ、いい……でも…………)
 自分が変態であることへの思いに、やはり凛は苛まれる。
 ごつごつとした手の平から、肥満男の手汗と温度が伝わって来る。触診として触っていたのは最初だけで、少しばかり調べたあとは、ただ好きなように揉んでいるのが丸わかりで、凛はそれを黙認していた。
 ただの検査、診察の一環。
 心のどこかでは自分にそう言い聞かせ、何もおかしいことはされていない、そういうつもりになりきって、凛はどうにか都合良く楽しんでいる。
「どうかな?」
「き、いえ……。その、なんともないです」
 一瞬、気持ちいいと答えそうになり、凛はすぐさま体調の話に切り替える。
「それはそれは」
 肥満男の指遣いが乳首に集中し始めた。
「んぅ……」
「どうしたのかな?」
「いえ、その……」
「ほら、言ってもいいんだよ? 体の正常な反応なら問題ないし、それにこっちも誤診しかねないから、情報は正確だと助かるんだよね」
 両手でつまんだ乳首はぐにぐにと、くにくにと、指圧による強弱で揉み込まれ、さらには指先で上下左右に転がされ、乳輪もぐるぐるとなぞられる。触られれば触られるほど、乳首に血流は集中して、敏感に突起していた。
「あっ、あふ……んっ、んあっ、あふぁ…………」
 甘い痺れが弾け続けて、凛は肩をしきりにくねらせる。
「あらら、感じちゃってる?」
「それは……その……んぅ…………」
「感じてるんでしょ?」
「…………はい」
「ははははっ、感じてるか。そうかそうか、気持ちいいんだねぇ?」
 肥満男は実ににこやかになっていた。その手で凛のことを感じさせ、しかも快楽を白状させてやったことの達成感が、彼の顔にはありありと浮かび上がっていた。
「では立ってみようか?」
 言われ、凛は立つ。
 すぐさま肥満男は前屈みに、凛の下腹部に顔を迫らせ、陰毛を観察してきた。両手で腰を掴んでジロジロと、穴の空くほどじっと見つめて、そんな至近距離からの視姦に凛はアソコを疼かせる。
(すごい見てる……)
 先ほど、愛液で毛が少し濡れていると言われた。水分で固まって、トゲのような形になった部分が、いくらかあるというのだろうか。
「ちょっと失礼?」
「――んっ!」
 凛は肩をビクっと弾ませた。
 急にアソコのワレメに指を当てられ、たったそれだけで全身に電気が走った凛は、思わぬ快感に目を丸め、瞳を動揺させていた。
(嘘、私……こんなに期待して……)
「へへへっ、すごーく糸が引くね?」
 触れた指が遠のくと共に、肥満男はそんなことを言ってきて、きっとそれだけ指とアソコのあいだに糸は伸びているのだろう。
 そんな愛液を塗り広げていくかのように、ぬりぬりと、肥満男は凛のアソコを触り始めた。
「あぁ……んっ、んぁ…………」
 快感に脚がモゾモゾと、膝もくねくねと、体が快楽に反応して動いてしまう。
「触れば触るほど毛が水分を吸い込むねぇ?」
 肥満男の言うように、蜜が溢れれば溢れるほど、水気は陰毛に広がっていく。下腹部に広く及んだ剛毛に愛液を塗り伸ばし、肥満男の指によってまんべんなく濡れきっていた。
「指、入れて欲しい?」
「…………」
 凛は答えない。
 自分から言えるわけがない。自ら望むなどという一種の変態宣言など、おいそれとできることではない。
 やるなら黙ってやってくれた方が、凛にとってはありがたいのだ。
「どうなのかな? 検査、して欲しいのかな?」
 それをしきりに尋ねてきて、肥満男は凛自身に望みを言わせようとしてきている。
「……」
 ……言えない。
「答えて欲しいな」
「す、すみません。検査はして欲しいですけど……」
「指は入れない方がいい?」
「その……」
 一体、なんと言ったら願望通りに指を入れてもらえるのか、頭の中ではそんな画策さえ始めつつある凛は、また改めて自分の変態性を思って俯く。
「あっ、くぁぁ…………」
 ワレメを撫でる指先の活発さで、刺激によって腰が震えた。
「うーん。では今の状態を聞こう。医学的にいって正確な情報が必要なので答えて下さい。あなたは今、感じていますか?」
「言わせるなんて……感じて、ますけど……んぅっ、んぅ…………」
「では気持ちいいと」
「は、はいぃぃ…………んくぅ…………」
「わかりました。ところで、指を挿入するとより正確に検査できますが、あなたは指の挿入を望みますか? 望みませんか?」
「それは…………」
 一体どうしたらいいのか。
 感じながら、甘い声を吐きながら、凛は悩んだ。
「さあ、どうする?」
 ニヤニヤとした肥満男の目論見はわかっている。凛自身に指を欲しがる台詞を言わせ、それで喜ぼうという魂胆だ。
 乗っても、いいのかな……。
 と、自分の中にあるマゾヒズムが、魂胆に乗ろうという考えを浮かべるものの、理性ではそれを否定する。
 違う、自分はあくまで検査のために服を脱ぎ、セクハラな医師のやり方にも従っているのだと、そんなことを言い聞かせる。
 どうする、どうする、どうしたら――。
 悩みに悩み、答えを出せない凛に向け、肥満男の言葉は繰り返される。
「どうする?」
 どうしよう。
 指、指、指……入れて欲しい。
 検査と称して指を入れ、きちんと触診をするのは少しだけで、あとはただ遊ぶためだけの指の出し入れとなっていく。だけど、それも診察かもしれないのだから、下手な抗議ができずに何も言えず、じっと押し黙ってばかりとなる。
 そう、そんな自分を想像して、凛はさらに興奮する。
「検査のため、ですよね」
 凛は確認の言葉を出した。
「もちろん」
「検査のためなら、指を入れても、今までを思うと今更ですし」
 遠回しな言い方だけで済ませようとした。
「では入れて欲しいということかな?」
 だというのに、肥満男はあくまで正しく確認しようとしてくるのだ。
 もう、こうなったら……。
「わ、わかりました。入れて……欲しいです……検査のために…………」
 最後に一言を付け加え、凛は条件付きで言葉で認めた。
 あくまでも検査のために、正しい診察結果を求めて、指を入れて欲しいのだ。決して悪戯されたい気持ちからではないことを、表向きには伝えようとしているのだった。
「もっと正直になったら?」
「正直って、だって検査……」
「もうちょっとこのまま調べてみるかなぁ」
「んっ、んぅ……んぅぅ…………んっ、んっ、んぁ…………」
 一向に指を挿入することはなく、延々と表面だけを弄り回す。陰毛に染み込む愛液の量は増え、時間が経てば立つほどヌルヌルになりながら、しかしこれ以上の刺激はない。もっと欲しいところを、ここまでしかしてもらえない切なさに、凛は唇を噛み締めていた、
 このまま、入れてもらえなかったら……。
「……わかった。わかりました。指、入れて欲しいです」
 観念したように凛は認める。
「へえ?」
 認めたのに、肥満男は入れようとしてこない。
「あの……」
「君はせっかくマゾなんだし、入れて欲しいんだったら、もっといいお願いの仕方をしてみて欲しいなぁ」
「なんですかそれ。いいから早く――」
「全裸土下座」
「は……」
 何を言っているのか。
 いくらなんでも、するわけがない。
 元々、こうして全裸になることさえ、新型ウイルスという背景が生み出した極めて特殊な状況だ。だからこそ、おかしな性癖の芽生えを凛は自覚することになったのだが、本当にそこまでして辱めを受けたいものだろうか。
 さすがに……。
 と、凛は思う。
「指、あげないよ?」
「そんな、ちょっと――」
 何かを言いかけ、凛は即座に口をつぐむ。
 指を入れてもらえないことが、まるでそんなに困ることのように言うなど、我ながらどうかしている。
 そこまで変態にはなれない。
 全裸土下座などという、とても正気とは思えない案に乗り、尊厳も何もかも投げ打つなど、できるはずがない。
「ふむ、じゃあ少し待っててね」
 肥満男は急に凛への愛撫を――いや、触診をやめ、軽く手を拭くなり検査室の外へと出てしまう。こんな裸で置いていかれて、凛は脱衣カゴに畳んだ自分の衣服に目を向けるが、まだ途中なのに着るわけにもいかず、大人しく待っていた。
 やがて、肥満男は戻ってきた。

 ――とある一人の男を引き連れて。

 凛は戦慄していた。
 いや、まさか、どうして――。

「やあ凛ちゃん」

 肥満男が連れてきたその男は、いかにも上等なスーツを着て、オールバックをワックスで固めたガタイの良いハンサムな男だ。
 だが、見た目や体格など問題ではない。
 彼は、彼は……。
「僕も是非、見てみたいな。君の全裸土下座」
「そ、そんな! 何を!」
「いいだろう? 僕の趣味に付き合っておくれよ」
 ハンサム男はニヤっと笑い、唇の隙間から真っ白な歯を輝かせる。

 ……枕営業の相手なのだ。

 凛が処女ではない理由。
 初めて全裸健康診断を受けた時、肥満男は凛に処女膜がないことを残念がっていたが、その理由である男を、一体いつどこでどうやって突き止めたのか。凛にはさっぱり想像がつかない。
「彼の趣味で毛をびっしりにしているそうだねぇ?」
 肥満男は言ってくる。
「彼と関係を結ぶ前は、きちんと剃ったりしていたのかな? 脱毛だって考えてたりして。でも、彼の交渉力に乗せられて体を許すようになった後は、剃ってはいけないと言われているんだよね?」
「そう、ですけど……」
「さぁて、そんな彼の命令だよ?」
 既に勝利を掴んだような、勝ち誇った笑みを肥満男は浮かべていた。
「やっ、でも……土下座って……」
「いいだろう? 僕のお願いだ」
 ハンサム男までもが凛のことを追い詰める。
 こうなっては後がなかった。
 一糸纏わぬ姿をして、男の方は服を着ている。こんな身分差でもつけられたような、衣服の有無によって格差のついた状態では、精神的にも男の方が優位である。医師としての立場を持つ肥満男と、凛と肉体関係のあるハンサム男とあっては、どんどん反発の心が萎えていく。
 強い者には意見が言えないかのように、凛の心は萎れているのだ。
 そうやって、心が崖っぷちに立たされて、もう後がない心境に陥る凛は、いよいよ観念するしかなくなっていた。
「わ、わかった! わかりましたから! します。すればいいんでしょう?」
 とうとう凛は承諾した。
「へへっ、やったぁ」
 表情が下品な肥満男。
「さあ、見せておくれ」
 顔つきだけは品を保つも、人の全裸土下座を楽しみそうにしているハンサム男。

 ――さすがに、泣きそう……。

 二人の前で膝をつき、いよいよ土下座をしようとして、凛の目尻に涙が浮かぶ。
「検査のお願いと、変態宣言を聞かせてね?」
 もはや肥満男に検査の建前はないというのか。
(なんで私、ドキドキしてるの?)
 その事実にも泣きたくなる。
 正座の姿勢に近づいて、座った分だけ視界も下がると、そんな凛のことを見下ろす二人の位置は相対的に高くなる。それはそのまま、格差の広がるであるかのように感じられ、自分がどんどん惨めになった。
(なんで私……興奮してるの……)
 ごくりと、息を呑む。
 喜んでしまっている自分がいる。
 床に両手を置いた途端、胸の奥から何かが込み上げ、下腹部さえも熱くなる。しかし、尊厳を投げ打つようで、涙目の粒は大きく育ち、凛は今にも泣き出しそうになっていた。
 上半身を傾けて、しだいしだいに頭を床に近づける。
 ついに凛は土下座した。
「私は、私は……変態です……」
 ヤスリで削るかのように心が磨り減る。
「どうか指を……」
 額をつけて、凛は涙をこぼし始めた。
「指をどうして欲しいんだい?」
 ハンサム男は尋ねてくる。
 曖昧な言葉は許さず、よりはっきりと言わせるつもりなのだ。
「ゆ、指で……私のアソコとお尻の穴を調べて下さい……」
 凛は泣き出した。
 こんな懇願をさせられて、心をすり減らすどころでなく、かつて経験したことのない惨めさに胸が強く締めつけられた。
「あーあーあー。僕さ、本当にファンだったのに。ショックだなー。信じられないなー」
 最初に全裸土下座を言い出したのは自分だというのに、肥満男はショックだなんだと凛のことを嘲っている。いかに楽しそうに人を見下し、娯楽のように蔑んでいるかなど、直接顔を見るまでもなくよくわかった。
 感情が膨らみ、全身が震えた。
 大粒の涙が溢れ出し、額が床に触れての、顔と床との隙間には、ポタポタと雫が落ち始める。
「みっともないな」
「みっともないみっともない」
「ありえるかな? こんなアイドル」
「ファンやめようかなー」
 ナイフを突き刺し、肉をえぐり出すかのような言葉をかけられ、もはやそちらの方が全裸よりも辛いほどだ。
 凛は泣きじゃくった。
 惨めさと悲しさで、声を上げて涙を流し、しかしそんな凛をハンサム男はニヤニヤと眺めていた。後ろ側に回り込み、土下座のために折り畳まれた腰つきと、丸い尻の形を目で楽しみ、そして尻の割れ目に見える毛を視姦していた。

     *

 しばらくの時間を置いて、泣き止んだ凛の目の周りは、未だ涙に腫れて赤いままだった。
「ではこちらへ」
 凛は診察台に導かれる。
 さすがに泣き止むまでは待ってもらえたが、本来ならば立派な仕事だ。肥満男が欲望を現場に持ち込んでいるだけで、普通は速やかに効率的に済ませたいところだろう。肥満男がいなかった時の検査は、実際にスムーズなものだった。
「仰向けで、アソコと肛門が見えるようにお願いね」
 肥満男が診察台を指すと、純白のシーツがかかったそこには枕があった。薄い枕を腰に敷き、角度を調整して、見えやすくするためらしい。
(はぁ、私ってもう……)
 あれだけ泣いた後なのに、恥ずかしいポーズを取って、視姦されることを楽しみにしている自分がいる。そんな歪みきった自分の性癖を自覚して、もう笑うか呆れるかしかなくなっていた。
 どの道、こんな場でもなければ、変態欲を満たすことはできない。
 凛は診察台に横たわると、言われるままにM字開脚を行った。自分で自分の膝を抱えるようにしながらも、しっかりと左右に広げ、腰の下にある枕で肛門の角度も上がっている。向こうからすれば、胸、性器、肛門の、全ての恥部を同時に視姦できるというわけだ。
 肛門の穴を囲んだ尻毛の濃さと、愛液を吸い込んだ陰毛は、よく見ればうっすらと繋がっている。肛門と性器のあいだにも、いくらかの毛を生やした道のりが続き、二カ所の草原は接続されていた。
「ああ、凛ちゃん。君はこんな検査を受けていたんだね?」
 まるで演劇の役者が身振り手振りを交えて嘆くかのようだったが、顔ではチラチラと凛の裸を眺めてニヤついていた。
「では始めていくよ?」
 肥満男は凛の下半身に顔を近づけ、医療用のビニール手袋を嵌めた手で、性器を左右にくぱっと開く。中身を見られる恥ずかしさは、もちろん慣れたものではあっても、あっけからんとはしていられない。
(今の私って、どれくらい赤いんだろう)
 凛は静かに思う。
(そこまで真っ赤じゃないと思うけど……)
 全ての恥部を見せるポーズ自体、何をされてもおかしくないような、本当に無防備に弱点を晒している感覚になる。心許ない状態で性器を見られ、中身の『視診』を受ける感覚は、やはり人前で堂々とは認めたくないが、興奮してしまうのだ。
(全裸土下座の後だし、もう認めてもいいのかな……)
 と、凛は悩む。
(……いや、いやいや)
 あれはやらされたのだ。
 好きでやったことではない。変態宣言も言わされただけだ。自分から進んでやってみせたわけではないから、つまり堂々と表立って認める必要はない。
(そう。私はノーマル)
 そんな変態趣味はない。
 それなのにこういう目に遭うのがいいのであって、だから自分は変態ではないと、普通の人間だと、自分で自分を騙している必要がある。
「クリトリスが元気だね?」
 肥満男が肉芽をくすぐる。
「ひゃん!」
 腰の中で電流が弾けた。
「あらま、感じちゃってますか」
 肥満男はクリトリスを刺激して、凛はその気持ちよさによく喘ぐ。
「いい顔だねえ?」
 ハンサム男も実にご機嫌そうに凛の顔を眺めている。
「あっ、あぁ……あぁぁぁ…………!」
 苦悶しているような、悩ましげな顔をして、凛は愛液を溢れさせていく。シーツが水分を吸い込んで、シミがしだいに広がっていた。
「では念願の指でも入れようか」
 肥満男の指が挿入され、今こそ期待の叶う喜びが凛には浮かんだ。嬉しそうに染まった表情は、直ちに気持ちよさそうな乱れたものに立ち戻り、唇の端からヨダレが垂れる。
「あっ、うぅ…………!」
 一本、指が入っている。
 凛はその指を力強く咥え込み、決して離したくないかのように締めつけるが、愛液のよる滑りの良さで、あまりにもあっさりとピストン運動は行われた。指の出入りに凛は首でもよがり始めて、脂汗の浮かんだ頬には髪が貼りつきさえしていた。
「あっ、あっ、あぁぁぁ……あぁぁぁ…………!」
「おや? イキそうだね? 凛ちゃん」
 ハンサム男が予兆を読み取った瞬間に、まるで予告通りのように凛の身体は痙攣した。小刻みに上下に震え、イキ果てた疲弊の息遣いで肩も上下させていた。
「はあっ、はぁ……はぁ……」
「気持ち良さった」
 肥満男の問い。
「……はい」
 凛は素直に答えてしまう。
 その直後、ハンサム男はチャンスとばかりにひどくにやけた。唇がU字に変形しそうな勢いで顔立ちを豹変させ、ここぞとばかりに意地の悪い言葉の数々を浴びせ始める。
「おいおい、凛ちゃん? これは検査であってセックスではないはずだ。いくら変態イズムが刺激されたからといって、アイドルがそんなことでいいのかい?」
 アイドルが、アイドルなのに、そのような言い回しは喉を絞められるように苦しく、聞くに窒息しそうでありながら、しかし興奮してしまう。
「次は両方に入れるからね?」
 そして、肥満男は指をピースの形にして、上下の穴の両方に挿入した。
「くぁぁぁ……あっ……あっ…………」
「ライブはどうだった?」
「あっ……ら、ライブって……」
 こんな状態で行われる質問に凛は戸惑う。
「実は僕もチケットを取っていてね。だから、向こうの空港に回り込んだんだけど、あんな検査を受けたとは思えないくらい、しっかりとイベントをこなしていて、さすがはプロだなーって思ったもんだよ」
 肥満男はライブの感想を述べてくる。
「ほんと、最初はアイドルには興味なかったけど、たまたまハマった渋谷凛に、こうして指間でハメているんだ」
 まるで世界でも手にしたような満足そうな面持ちで、肥満男は指を出し入れしてみせる。
「あっ、やぁ……」
「どうだったの? ライブ」
 肥満男は繰り返し尋ねてくる。
「あっ、んぅ……ら、ライブは上手くいったと思います。ちゃんと力を出して歌えて……んぅぅ……」
「上手くいったと自分でも思うわけね?」
「あぁぁっ、んっ、一応……」
「なら、イこうか」
 肥満男の指がここぞとばさりに活発になり、凛は呆気なくイカされた。
「あ! あぁぁ!」
 全身がビクビクと、アソコからは潮も吹き出し、喘ぎと共に凛は滑稽な表情まで晒していた。膝を抱えているために、ヨダレの垂れたみっともない顔を隠すこともできず、二人の男は大喜びで無様な顔を鑑賞した。
「凛ちゃーん。そういう顔、初めて見たなあ?」
「へへへへっ、またイッたね? あーあー凄い顔だ」
 指がゆっくり抜かれていく。
 もう済んだのかと思いきや、肥満男は新しくビニール手袋を嵌め直し、今度は肛門だけに指を入れてきた。
「あぁぁぁぁ……」
 二本だった。
 肥満男の太い指が、それも二本も入った分だけ、凛の肛門は拡張されている。口を半開きにみっともなく感じる顔は、当然のように鑑賞対象となったまま、そして肛門へのピストンは開始されだ。
「ところでセックスはするんだよね?」
 好奇心に満ちた目で、肥満男は尋ねてくる。
「あっ、んんんんっ、それは……」
「するでしょう?」
「します……けど……んぅぅ……」
「滞在中もしたの?」
「は、はいぃぁ……」
 性生活に関わる具体的な質問までされながら、指のピストンは止まらない。
「自分からも話しましょう。凛ちゃんはですね」
 と、ハンサム男は実に楽しげに語り始めた。滞在中は何回セックスして、ベッドの上ではどんな風に乱れていたか。どんな体位で悦んだか。凛のことを抱いていた張本人の口から次から次へと暴露され、フェラはしたのか、バックからはどれだけしたか、包み隠さず語ってしまうせいで、凛自身が話を伏せておきたくても、次々に夜の内容は流れていく。
「アナル開発もしたことがあってね」
 ハンサム男が自慢げにした時だ。
「確かに、よく広がるものねえ?」
 肥満男は一瞬だけ指を抜き、三本に増やして入れ直した。
「おあぁぁ……おっ、んおっ、あぁぁ……」
 怨霊が呻くようなおかしな喘ぎが出て、凛は口を両手で塞ぎたくなってくる。膝さえ抱えていなければ、きっと反射的にそうしていたが、凛は生真面目にも指定のポーズを守っていた。
「ま、とりあえず今回も異常はないね。すぐイクみたいだけど」
 肥満男は笑いながら指を動かし、そのピストンによって凛はよがった。
「あっ! あぁぁぁぁ――――!」
 背中を浮き上げ、またしても凛はイク。
「検査は終了しているのですか?」
「ええ、まあ」
「ではせっかくです。あと何回かイカせてあげて下さい。凛ちゃん、喜んでるみたいなので」
 ハンサム男の提案に全身がゾクゾクした。
 まだ遊んでもらえることに、辱めを続けてもらえることに、鼻息を荒げて興奮してしまっといた。

     *

 数日後だ。
 事務所の中でヒソヒソと、何か凛のことを噂にしているような、妙な空気を感じたが、プロデューサーや他のアイドルの仲間達は、特別に接し方を変えてきているわけではない。まるでいつも通りなのだが、何ら変化のない裏に、凛の知らない何かが隠れているような、そんな気がしてならなかった。
 その正体を悟ったのは、とある動画の存在を偶然にも知ってしまったからだ。

『渋谷凛、激似!』

 SNSで話題になっていたせいか、ふとした拍子にネット上に流れる噂に気づき、凛は恐る恐るの検索で、何度かキーワードを変えながらも、その大本に辿り着いた。
 アダルト動画サイトだった。
 まさか、そんなはずは……。
 あるはずはない、流出などするものか。
 そうは思ってみたところで、自分そっくりの動画サムネイルを目にした途端、凛はいよいよ心臓を早鐘のように打ち鳴らし、緊張の冷や汗を噴き出していた。
 怖い、見たくない。
 もしも本当に流出動画が出ていたらという恐怖を強く抱くが、だからこそ確かめずにはいられなかった。真実を知ることが怖いのに、何かに憑かれたように動画を再生しようとしてしまっていた。
 そうせずにはいられない心理が働いていた。
「…………」
 震える指で、恐怖と共に再生する。

「――――っ!?」

 凛は戦慄した。
 黒い線で目隠しが行われているものの、十分な画質の映像で、黒髪ロングの少女が丸裸で身体測定を受けている。身長計で背筋を伸ばし、アソコにはびっしりと毛を生やした女の子の特長は、否定のしようがないほどに凛に似ていた。
 本人からすれば、陰毛の具合や乳輪など、自分だと判別できてしまう部分が多かった。
 しかも肥満体格の男がいるとあっては確定だ。

 全裸検査の内容が流出している。

 しかも、他の動画を再生すれば、凛そっくりな声で喘いでイキ散らし、何度も全身をビクビクとさせていた。

「うそ…………」

 凛が抱える絶望は計り知れない。
 だというのに……。

 さらに数日後、差出人不明の郵送物が届いていた。
 それは肥満男がいた際の、過去三回分の盗撮を編集したもので、目線による目隠しや性器のモザイクもなく、全てがくっきりと写り込んでいた。

「んっ、あぁぁ……」

 そして、凛はオナニーをしていた。
 全裸となり、ベッドで脚を開きながらの、先ほどまで再生していた動画を思い出しながらの、恥辱まみれの記憶に頼ったオナニーだった。
「あぁぁ――!」
 イッた。
 腰がピクピクと震えた直後、潮吹きの雫が舞い上がり、ベッドシーツや床へと散る。

 私、本当に、本当に変態なんだ……。

 盗撮され、それを流出されたり、送りつけられてさえ興奮する自分にショックを受け、凛は打ちのめされていた。