マルティナのエロマッサージ




 グロッタの町の中。
 替えの衣類を調達するため、下着売場を訪れるマルティナは、意外な顔と鉢合わせて目を丸めた。
「あなた達は」
 マルティナの視線の先には二人の女がいた。
「あらぁ? マルティナね?」
「勝ち進んでるみたいじゃない?」
 ビビアンとサイデリアだった。
 仮面武闘会に出場している美人ペアで、まだこの二人とは当たっていないが、油断ならない腕の持ち主だ。
「そうね。いずれ決勝で会えるかも。お二人が勝ち上がって来られればの話だけど」
 いつ当たるとも知れないライバルに、マルティナは挑発的な言葉をかける。
「言うわねぇ?」
「でも、今は楽しいお買い物」
 ふと二人が手に持つ下着に目をやると、揃って派手な金色を選んでいた。
「……派手ね」
 ただ一言、そのままの感想をマルティナはこぼす。
「装備効果が狙いなのよ?」
「セクシーかつ強くあれるブラ。案外普通よ?」
「そうなの?」
 二人の言葉にマルティナは首を傾げるが、ビビアンとサイデリアはそれぞれ何か可愛いものを見るかのような、人のがことが微笑ましいような目を向けてくる。
「どんな下着だって、理由があるものよ?」
「見えないオシャレを楽しんだり」
「Tの方が締め付けがなくてラクだと感じたり」
「装備効果もね」
 そんな風に言われると、変わった下着だからと奇異の目を向けた自分が間違っていたような気になってくる。
「あなたにもオススメがあるわ」
 と、ビビアン。
 どうやら二人は、せっかくだからマルティナに良い装備を紹介しようというわけらしい。敵に塩を送っていいものかと気になったが、どうせならと誘いに付き合い、二人の案内のままに見本を見に行った。
 マネキンに着せられた下着はパープルだった。
 やけに布が少なく、ブラジャーの三角形は十センチもない。ショーツもアソコの布が剣のように細く、尻の側に至っては単なる紐だ。
 ブラジャーのカップとカップを結ぶ中心には、鮮やかな模様を輝かせた漆黒の蝶が添えられている。ショーツの後ろ側、T字の交点にあたる部分も、同じような蝶が輝き、しかも紐で結ぶタイプである。
 こうした下着を身につけたことがない。
「これはどういう装備になるのかしら」
 マルティナは尋ねてみる。
「攻撃力!」
「そして魅力!」
 答えを聞き、マルティナは品定めを行った。
 攻撃力については、近くにあった商品説明の札にもある。値段を見ても、特に躊躇うほどの価格はしていない。
「そうね。次の試合の役に立つでしょうし、気に入ったわ」
 案外普通だというのなら、買いやすい価格で装備効果にも魅力のある下着は欲しくなる。
「あら? 試合だけじゃなくてよ?」
「例のマッサージを受けるなら、刺激的なものでないと」
 マッサージ?
 そういえば、腕のいいマッサージ師の話を聞いた覚えがある。
 武闘会に出場する猛者の疲労をたちどころに回復させ、次の試合を万全の状態で戦える。それどころか調子が伸びて、いつも以上に動けるという。単なる回復は薬草でも行えるが、筋肉や骨の調整なら、専門家の施術を受けた方が良いわけだ。
「あれは気持ち良かったわぁ」
「ええ、本当に」
 ビビアンとサイデリアは、妙に顔が火照っているというべきか、目がとろけて、ただマッサージが気持ち良かったにしては色香を醸し出している。
 よほどの上手、ということだろうか。
「そんな凄いのかしら」
 マルティナはマッサージに興味を持った。
「もう最高」
「病みつきかもぉ」
 やたらに腰をくねくねと動かして、身を抱きしめてみせる仕草は何なのか。気になるところはあるのだが、そこまで薦めるのなら、行ってみてもいいかもしれない。
「是非楽しむといいわ」
「下着もそれがいいと思うわ。良い時間を」
 二人はそんな言葉を残し、マルティナの前から去って行く。
 楽しむ? 良い時間?
 いくらマッサージが気持ち良くても、体をほぐしてもらうのに、楽しい、つまらないということがあるのだろうか。
 首を傾げながらも、翌朝には店に向かい、施術を受けてみることにした。

     *

 マッサージ屋の看板を見つけ、受付でゴールドを支払うと、まもなく施術室に案内される。
 施術用ベッドを中心に、その周りの壁際には観葉植物のプランターが並んでいる。棚を見れば、薬液の入った小瓶が並んでいる。
「ようこそマルティナさん。お噂はかねがね聞いております」
 施術を行うのは中年の男らしい。
「私もこの店の評判を聞いて来たわ」
「ありがとうございます。参考までに、どなたかからのオススメを聞いてきたりはしていますか?」
「ビビアンとサイデリアよ」
 答えた瞬間、中年はニヤっと口角を釣り上げていた。その表情がなんなのか、マルティナには図りかねたが、二人が絶賛していた店はここに間違いない。
「ああ、あのお二人ですか。彼女達はとても素晴らしいお客様で、いつも大変に気持ち良さそうにしてくれますよ? 本当にね」
「なら楽しみね。よろしくお願いするわ」
 マルティナは既に先ほどの表情など気にも留めず、単に良い接客態度だとしか思っていない。
「お任せ下さい。精一杯の施術をさせて頂きます」
 中年は優しげでにこやかだ。人の良さそうな柔らかい空気が客を安心させる。
 しかし、本当は思う。
 全身を触らせることになるのだから、できれば女性の施術師がいれば良かった。もっとも、受付で聞いてみるに、基本的には中年一人で施術を受け持つというから仕方がない。
「ところで、手で触れた感触で筋肉や骨を確かめるわけですが、衣服が妨げになりやすいのです。とはいえ、慣れない方に全部というわけにもいきません。腰のものを一枚だけでいいので外して頂けますか?」
「ええ、いいけど」
 マルティナはまるで腰に巻き付けるマントのようにして、緑色の布をかけている。そのベルト状になった部分の金具を外し、言われた通りに一枚を手放すと、その後はグローブや前腕の布も取るようにと告げられて、それらも取り外した最後には、ブーツを脱いでベッドの上に横たわる。
 仰向けとなったマルティナは、天井の模様を真正面に捉え、何気なく見つめていた。
「では施術に入ります。お体に触れていきますので、不快感の強いところがありましたら、どうぞ遠慮なく仰って下さい」
 中年は頭上に回り込み、仰向けの姿勢からすれば真上から、両肩に指を置いてくる。黒いタンクトップのかかった部位を指圧でさすり、鎖骨の様子も探る中年は、実に穏やかな調子で言う。
「女性ですと、当たり前ですが、手がバストに近づくのを嫌がる方も多いです」
 肩の関節を調べるためか、タンクトップの布が及んでいない、剥き出しの部分が手の平に包まれた。
「一方で、施術ならばと考える方もいらっしゃいます。際どいところに触れる時は、こちらからも尋ねていきますので、繰り返しになりますが、ご不快な場合は遠慮なくどうぞ」
 受付で男しかいないと知った時、微妙な思いをしたのが正直なところだが、実際に施術が始まってみれば、なかなかに物腰丁寧である。
「そうね。覚えておくわ」
 これなら、安心して身を任せられるだろう。
 マルティナの中で警戒心が和らいで、身体を探られることへの不快感も薄らいだ。
「ではまず、お体の具合を調べていきます。最初は肩から指先にかけて、次に足の指先から太ももにかけて調べていきます。太ももは不快感が強いでしょうから、我慢が無理だった場合は申し出て下さい」
 中年は二の腕を両手に包み、上から下へだんだんと移動しながら揉んでいき、さらには指の一本一本にかけても細かく探る。両腕ともに揉み終わると、今度は足の指や裏側が始まり、アキレス腱や膝にかけてを手の平で圧する。骨や関節に沿って指圧する。
 両足の膝まで済むと、いよいよ太ももに手が置かれた。
「どうです? 問題ありませんか?」
「平気よ。思っていたほど不快感じゃないわ」
 欠片も不快でないとまではいかないが、これだけ丁寧な確認だ。あくまで施術なのだから、多少の不快感よりも身体の調整の方が大切だ。
「わかりました。では一旦、香を焚かせて頂きます」
 すぐに太ももへの施術がくるかと思いきや、中年は一度マルティナの傍から離れ、香の準備を始めていた。ほどなくして香りが漂い、思わずうっとりとするような、このまま眠ってしまいたくなる甘く華やかなものが鼻腔に流れ込む。
 一瞬、頭がくらっとした。
「いい香りね」
 気のせいだろうか。
「でしょう?」
 にこやかな中年は、改めてベッドへ近づき、右の太ももに手を置いた。肌を優しくさするタッチに始まり、すぐに指圧混じりの揉み方になり、若干痛いほどに親指が深く食い込む。
「マッサージ効果を高めるための香でしてね」
 中年の手は緑色のホットパンツまで及ぶ。
「マルティナさん。良い鍛え方をしているのがよくわかりますよ? どれくらい力があるか、どれくらい筋肉にストレスが溜まっているかも」
 中年はベッドの左側に回り込み、左の太ももにも指圧と手圧を施し始める。
「どんな状態かしら」
「やはり関節と筋肉が疲れてますね。本人は元気なつもりでも、無意識のうちに蓄積していく疲れがありますから」
「なるほどね」
「もう少し詳しく調べますので、うつ伏せになって頂けますか?」
「こうかしら」
 身体の向きを変え、今度は枕に顔を埋め、自分自身の体重でバストを潰す。
 背中に手圧が行われ、指先が肩甲骨を探り始める。体重をかけんばかりに肋骨に圧力をかけ、さらには背骨に沿った指圧も、うなじから骨盤にかけて行われ、ぐいぐいと押し込まれる痛みを感じ続けた。
「だいたい把握してきましたよ」
 手が骨盤に沿い始めた。
「疲労の蓄積ポイントを見極めたので、一つずつケアしてこうかと思いますが」
 腰骨のラインに合わせ、まるでピアノを弾くかのような両店四指の置き方で、探るために撫でられる。やはり、ぐいぐいと指圧もされ、さらにもう少しだけ、数センチだけ下へとずれ、指は尻へと近づいた。
「脚の動きにはお尻の筋肉も大きく関わっていまして、確かめてもよろしいでしょうか」
「お、お尻?」
「もちろん、お嫌でしたらやめておきますが、お体の調子を整える意味では、なるべくやった方がよろしいかと」
 しばし迷う。
 施術のためとはいえ、みだりに触らせていいものか。
「わかったわ。お願いしようかしら」
 迷いつつも、マルティナは尻への接触を許す。
 緑のホットパンツへと、中年の両手は置かれた。ぐにぐにと筋肉を潰そうとするような手圧が行われ、痛いほどに指が食い込む手つきには、いやらしさを感じない。純粋に体の状態を知ろうとするタッチをマルティナは信用していた。
 不快感はないでもないが、我慢しよう。
「なるほどぉ」
 何かに納得しながら、中年はひとしきり撫で回した。
「マルティナさん。できれば専用のオイルを使いたいのですが、そうしますとお洋服を汚してしまうわけで、つまり脱いで頂くことは可能でしょうか」
 丁寧な腰の低さで、しかし中年が求めてくるのは脱衣であった。
「脱ぐって……。どこまでかしら」
「下着までで構いません。もちろん無理にとは言いませんが、まずは理由を聞いて頂いて、それからの判断でも遅くはないかと思います」
「まあ、そうね。聞かせてもらうわ」
 マルティナがそう返すと、中年は説明を開始した。
 一体、マルティナの身体から、どんな具合の疲労を見つけ、それはどういった症状であるのか。そのケアにはいかに専用オイルが重要であり、魔法効果が宿ったオイルなら、たちどころに癒やしてみせるか。身振り手振りを交えて語ってみせ、マルティナはその話術に飲み込まれていた。
 接客営業の中年は、長年の経験で話術に長け、客に自分の話を信じ込ませることに慣れているのだ。
 マルティナは納得してしまっていた。
「わ、わかったけど……。下着までよ?」
「ええ、それで構いません」
「脱いでいるあいだだけでも、向こうを向いてもらえるかしら」
 脱衣を飲み込んだとはいえ、異性に肌を見せたことのないマルティナには、下着姿を晒すことさえ恥ずかしい。
「承知しました」
 中年の背中が向いたところで、マルティナは脱ぎ始めた。
 まずは胸にかかった緑色を、その下にある黒いタンクトップをたくし上げ、上半身はブラジャーのみとなっていく。ホットパンツの留め具を外し、チャックを下げ、脱いでいき、完全な下着姿となったマルティナは恥じらいに頬を染め変えた。
「……脱いだわ」
 椅子に座るかのように足を下ろして、マルティナもまた中年に背中を向けていた。
「では仰向けでお願いします」
 そう言われ、横たわる。
 紫色の下着は布が少なく、ブラジャーの方には乳輪よりも数センチ大きいだけの三角形がかかっている。ショーツの方も、普通よりは三角形の形が細く、両サイドをリボン結びで留めるヒモタイプだ。
(少し、変かしら……)
 しかし、案外普通――らしい、はず。
 戦いの旅の中で生きてきたマルティナは、性的な事情には疎い部分があり、装備効果で選んだこの下着は、だからそうおかしくはない――はずと信じていた。。
「おや、とてもセクシーですね」
 ところが中年そう言われ、頬が一気に熱くなる。
「そ、そうかしら……」
「ええ、なかなかいらっしゃいませんよ? こういう下着の方は」
「なかなかって……」
 羞恥が込み上げながら、さらには不安の感情もせり上がる。ではマルティナの今の下着は、よほど特殊だというのか。
「とても素晴らしい。よく似合っていらっしゃる」
 中年は特に嫌味もなく、明るく褒め称えてみせながら、手の平にはトロリとしたオイルを垂らし始める。
「ひやっとしますよ?」
 手の平に溜めたオイルを腹に乗せ、ねっとりとした手つきで広げ始めた。へその周りをぐるぐると回り続けるタッチでしだいに円を広げていき、腰のくびれも掴んで上下に撫でる。中年の手によって、まずは皮膚がしっとりとしたところで、さらにオイルが足されて広げられ、ヌルヌルとした光沢によって腹とくびれはコーティングされていく。
 つま先から太ももにかけても塗り伸ばされた。指先から肩にかけても塗り伸ばされた。施術が進めば進ほど、ぬかるみによる皮膚のパックは広がっていた。
「うつ伏せでお願いします」
 背中を向け、その瞬間だ。
「いやはや、Tバックですか」
 中年が感嘆していた。
 まるで物珍しいものを見たかのようだ。
「意外と、普通だと思ったのだけど……」
「はははっ、普通ですかね」
「おかしい、かしら……」
 ヒモでしかないものが、大きな尻の割れ目に飲み込まれ、丸出しと変わらないことになっている。それをまじまじと見られているだろう感覚に、マルティナはしだいに耳を桃色に変え、羞恥の気配を強めていた。
「ところで、お背中にはなるべく全体的に塗っていきたいので、ホックを外しても構いませんか?」
「えっ」
「もちろん前を見せろとは言いません」
「外すだけよ? 本当に……」
 うつ伏せでいる限り、乳房が見える心配はないのだろうが、背中に触れる指がホックを弄り、外しにかかってくる感覚は、完全な丸裸に近づく気がして落ち着かない。外れたホックは左右にどかされ、ついでのように肩紐も少しずらされ、マルティナの背中は剥き出しとなっていた。
「このオイルは、先ほどから香っている香との相性が良くてですね。しだいに体が火照るような感じがしてくるかと思います」
 中年に言われてみれば、自分の体温が上がっていることにマルティナは気づく。
「では伸ばしていきます」
 瓶から直接垂らされて、マルティナの背骨の溝にオイルが溜まる。まるでコップの水が溢れそうで溢れない時のようにして、表面張力のようにぷっくりとした丸みが円を広げ、粘性ある水溜まりが出来上がる。
 そして、手の平が触れ、中年によってオイルは伸ばされる。
「背中もこうしてまんべんなく、ヌルヌルにしていきますからね?」
 滑りよくスムーズに這い回る手は、肩甲骨や脇の下にまで塗り込んで、皮膚の表面はオイルという名の粘膜に覆われていく。
 ひとしきり塗り伸ばし、マルティナは自分の背中がオイルの光沢にまみれたことを実感する。
「では背中も済んだところで――」
「っ!?」
 今度は尻にオイルを垂らされ、マルティナはぎょっとしていた。
 瓶から尻たぶの山頂へと、透明なオイルが円を広げる。大きな大きな膨らみの、山の角度にそってゆっくりと、ナメクジのようにのろのろと、表面を流れていく。
「お尻の許可は頂いていますからね」
 もう片方の尻たぶにもオイルは垂らされ広がっていく。
「でも、直接なんて……」
「大丈夫ですよ。マルティナさんなら」
 中年は優しそうな穏やかな声で言いながら、Tバックの尻に両手を置き、大胆に撫で回してオイルを塗る。尻肉に指を食い込ませ、揉みもする手つきに、マルティナは動揺めいて瞳を揺らす。
「あの、ちょっと……」
「大丈夫ですよ」
 何が大丈夫なのかがわからない。
 驚いているあいだにも、尻の表面をくすぐるタッチは続く。流れ落ちたオイルは割れ目に沈み、肛門にまで染みていく。さらに割れ目からも流れ伝い、アソコの布にも吸い込まれた。
「お尻の筋肉って、太ももに繋がってるでしょう? その先には膝があって、足があります。一カ所が悪くなると、連動しと他の部分も悪くなる。マルティナさんの場合はお尻の筋肉を癒やしてやることがとても重要なんですね」
 解説をしながら、中年は指先で皮膚の表面をくすぐるように何やら探り、ここだというポイントを見つけるたびに深く押し込む。ツボ押しによって刺激を与え、痛んだ部分には癒やし魔法をかけていく。
「た、確かに、良くなっているみたいね……」
 鍛錬によって己の体を把握して、調子の良し悪しを器用に感じ取れるマルティナである。皮膚の向こうに隠れた筋肉繊維の、目視ではわからない疲労を手で見つけ、その都度癒やす中年の技巧を実感していた。
(やっぱり、ちゃんとした施術にすぎないの? だったら、我慢した方がいいじゃない……)
 疑う余地がないあまり、何も言えずにマルティナは受け入れる。最初に繰り返された、不快なら申し出て良いという言葉を思い出すが、お尻を触られている気持ちと、この機会にしっかりとケアした方が良いのだろう点で、二つを天秤にかけているあいだにも、お尻はまさぐられ、膨らみのあらゆる角度へ指圧は行われた。
 それは太ももや膝の位置まで及んでいき、お尻へのタッチが過ぎ去ったことへの安心に、マルティナはホッとした息をつく。
 足の裏側まで丁寧に揉み込んで、ツボ押しを行う中年により、砂粒のように細やかな疲労が一つずつ除去されていた。
(足が軽くなってきたわ)
 しかし、下着姿を見られ、お尻も触られた。
 損なのか特なのか、正直なところわからない。
 そして、だからマルティナは気づいていない。

 ――へへっ、何も疑っちゃいないんだなぁ?

 うつ伏せで枕に顔を置いているマルティナは、一体どんな邪悪な欲望に満ちた眼差しを向けられているのか、気づく由もない。
 中年の邪悪を知らず、マルティナとしては、どうせここまでされたのだから、いっそ最後の最後まで、全てケアしてもらおうと考え始める。
「ではちょっとね。次は全身の体重をかけながら、お尻から背中にかけてやっていきます」
(またお尻……)
「この際、器具を使用するので、お尻に何か当たっても驚かないようにお願いします」
「わかったわ」
 しかし、器具とは何だろう。
 中年がベッドに上がり、太ももに馬乗りにかるかのようにして、マルティナの上に座ってくる。次の瞬間には硬い何か尻に乗せられ、器具の正体がわからずにマルティナは頭の中に疑問を浮かべる。
「どんな器具なのかしら」
 硬い感触なのだが、マルティナはそれに加えて熱っぽい温度を感じる。それも何か皮のようなものに包まれた物体は、果たしてどういうものなのか。
「魔法道具の一種ですね。マルティナさんのお体は、お香とオイルで施術用の魔力が通りやすくなっていますから、これを擦り付けることで、ますます流れを良くします」
「まあ、まかせるわ」
「はい。ではやっていきますね」
 中年が始めた行為は、両手で尻たぶを寄せ上げて、棒を割れ目に挟もうとする行為であった。

 ……ぎしっ、

 ベッドが揺れる。
 腰を動かす中年の前後運動に伴い、棒の器具もまた前後に動く。

 ……ぎしっ、ぎしっ、

(何を、しているの?)
 マルティナには中年の行為がわからない。
 どうもそれは腰の動きに連動して前後している。両手で尻たぶを触っているから、器具を手で持った状態でもないはずだ。
「これはですね。ベルトに棒状の器具を取り付けていまして、気になるようでしたら後でお見せしましょうか」
「別にいいわよ。そんな」
「そうですか?」
 急に器具が離れていき、同時に中年の腰も浮く。太ももに座られていた圧迫感が消え去ると、今度はお尻に何かが降りかかった。
「また、何かオイルを? 温かいようだけど」
 熱っぽい粘液の固まりがかかっている。左右の尻たぶに感触は散らばって、温度が皮膚に染み込んでくる。
「そうですよ? オイルです。オイル」
 中年はそう言って、マルティナの尻に『オイル』を塗り伸ばし、肌に浸透させていく。
「んっ、んんぅ……」
 マルティナはまだ自覚していない。
「どうしました?」
「いえ、なんでもないわ」
 疼きを、自覚していない。
「では続けていきますよ」
 中年も何も知らないように、膝立ち気味の姿勢で体重を使い、背中に圧をかけていく。手の平が押し込まれ、指が埋まり、痛みや圧迫を感じて過ごすばかりの時間がひたすらに流れていく。
 それからだ。
「ブラジャーを取って頂けますか?」
「ブラって、ちょっと……」
 さすがにそれはと、マルティナは拒否をしかける。
「ああ、もちろん胸は見えないように配慮しますよ?」
「それなら……」
 マルティナはそう答えてしまう。
「では一度起きて頂いて――」
 中年の指示に従うと、身体を起こして足だけを下ろし、ベッドを椅子代わりに座った姿勢を取ることとなり、その真後ろに中年はつく。まるで背もたれに背中を預けるように、マルティナは中年の肉体に密着しなければならなかった。
「さて、やっていきますよ」
 こうして、背後からの乳揉みが始まった。
「あっ、んんっ、んぁ……ふぁ…………」
「どうしました?」
「いえ、なんでも……」
 頭がぼんやりとしてくる。どうしてこんなことになっているのだろう。
 判断力の低下をマルティナは自覚していない。
 本当なら許さなかったかもしれない乳揉みにより、乳房は自由に揉みしだかれ、中年の指遣いによって変形している。
「くひぃ……!」
 乳首への刺激にいたっては、明らかにおかしな声まで出てしまった。
「大丈夫ですか?」
「だ、だいじょ――んんぅ……んぁ……あっ、んぅぅぅ…………」
「乳房もね。肩の筋肉と距離が近いし、胸筋が土台になりますから、戦う体ならケアは重要なんですよ」
 中年は乳首をつまみ、軽やかな加減で転がしていく。
「あぁぁっ、だっ、めぇ……」
「だいぶ効いてきましたかねえ?」
「効いたって……」
「ああ、もちろんマッサージですよ。終わる頃には肩がいつも以上に軽いですよ?」
「はふぁっ、あっ、あぁぁぁ……」
 背中が中年に密着して、仰け反りようなどないマルティナは、なおも体を反らそうとしてしまっている。密着の度合いを増し、首まで反らして頭を中年の肩に乗せてしまう。天井に向かった顔から喘ぎを上げ、マルティナ自身の肩はどこかピクピクとしていた。
「ではまた器具を使います」
 中年の身体が離れていく。
「あっ、熱い……」
 何か棒状のものがあたってきた。先ほど尻に当てられたものと同じ感触だが、それが一体何なのか、マルティナにはわからない。
 ただ違和感はあった。
 背中に押し当てられ、擦るようにしてくる動きが、まるで腰をくっつけてくるかのようなのだ。身体をゆさゆさと押してくる重心がわかる。ベルトに括り付けた棒状の器具だとは言っていたが、そんなものがあるのだろうか。
 ぷにりとした先端がうなじの近くをくすぐって、肩甲骨をなぞってくる。
「またオイルを足しますよ」
 棒が離れて、ピュッと、何か温かいものが背中にかかる。それは手の平によって擦り込まれ、肌に染み込んでいくのだった。
 さらにはまたポーズを変えさせられ、マルティナは四つん這いになっていた。それも頭は下にして、顔を枕に埋めながら、猫の背伸びにも似た姿勢を取らされ、お尻をよく目立たせているに違いない自分の有り様に羞恥心が込み上げた。
「よーく濡れてますねぇ?」
 下腹部を覗き込む中年の視線が気配でわかる。
「オイルは付いているでしょうけど……」
 ショーツのアソコなだ、あまり見ないで欲しい。
「いえいえ、もっと別の――ああいえ、なんでもありません。続けましょうか」
 またしても中年はベッドに上がり、お尻の割れ目に棒を当ててきた。それも先端でくにくにとやるような押し付け方で、肛門を攻めてくるのだ。
「あっ、やぁ……」
 さらには棒の側面を使って尻たぶを撫で回す。
「はい、かけますよ」
 ピュッ、ピュッと、尻たぶに何かがかかる。マルティナはその正体もわからずに、ただオイルと信じて受け入れている。中年の手ですきなだけ尻を触られ、撫で回されても、何の口答えもしなかった。
(私、どうして何も言わないのかしら……頭もずっとクラクラして……)
「仰向けになって下さい」
「ええ……」
 乳房が見えることを嫌がっていたはずが、とっくにブラジャーはなくなっているのにマルティナは従った。
「では少し、タオルをかけさせて頂きます」
 中年が用意したタオルは、折り畳まれて顔へとかけられ、マルティナの視界は暗闇に包まれる。何も見えない、ただ音で気配を感じるのみとなり、そんなマルティナの上に中年は跨がってきた。
「また器具を使いますのでね」
 乳房のあいだに棒が置かれ、中年は挟み始めた。
「え……」
「大丈夫ですよ?」
 安心させるような言葉をかけられると、何故だかすんなり納得して、浮かびかけていた疑惑が沈んでしまう。中年の両手に乳房を掴まれ、そして胸を使って棒をしごいていることに、本当は違和感がないでもない。
 だが、マルティナは違和感さえも飲み込んで、ただ身を任せるままにしているのだ。
 跨がる中年の両脚に挟み込まれて、マルティナは腕が動かせない。体重で身動きを封じられながらの腰振りで、オイルの滑りもあって棒はスムーズに前後する。
「ではまたオイルを」
 ピュッ、ピュッ、と、乳房にも振り撒かれ、手で塗り伸ばされている。
「んっ、んぁぁぁ……あっ、あぁぁぁ…………」
「脚を開いて下さい?」
 中年の腰がマルティナを離れる。
「んっ、こうかしら……」
 マルティナは開脚していた。
 M字の股は中年に弄くられ、すぐにでも布をずらした剥き出しの性器をなぞられる。その刺激にマルティナは悶え、より色気ある声を吐き散らした。

「では器具を挿入します」

 アソコに棒の先端が触れ、マルティナは全身を緊張で固めていく。
(挿入ってまさか……)
 おかしいのでは、もうマッサージではないのでは。
 ……いや。
 あれだけ丁寧に気を使い、不快感があれば申し出ていいとも繰り返した。そんな中年がおかしなことをするはずはない。
 ならば、これもマッサージの一貫だ。
 そうだ、そうに違いない。

 ずにゅぅぅぅぅぅ――

 棒がワレメの中に押し込まれ、みるみるうちにマルティナの内側へと収まっていく。中年の腰がぶつかり、お互いの下腹部が密着し合ったとわかったところで、急にタオルがとりさられ、マルティナは驚愕していた。
「え――――――」
 器具などではない。
 挿入されたのは他ならぬ男のペニスだ。
「え? そ、そんな――あなた何を――――」
「大丈夫ですよ? こうして内側をほぐし、ツボを突こうとしているだけですから」
「で、でもこれって……!」
「はーい。動きますよ?」
 お構いなしに、さもマッサージの一種であるように言いながら、中年はゆっくりと腰を動かし始める。
「んぁぁぁぁぁ…………」
 マルティナは悶えた。
 中年はのろのろと腰を引き、前進するにも時間をかける。ピストンの一回一回が長々と、それだけにじっくりと味わい尽くされている感覚に全身が疼いてしまう。
「あっ、あうっ、ふっ、んぅぅ……」
 マルティナはうなされるかのように、しかし快楽に飲まれた顔で悩ましく頭をもぞつかせ、亀頭が奥に届くたび、ピクッと脚や腹を弾ませる。
「オイルとお香でね? 今のマルティナさんはとても感じやすくなっています。内側から刺激を与え、全身を癒やしますので、是非とも快楽に浸って下さい」
「そんな……これはっ、あっ、あぁぁ……やぁぁ……」
「ほら、これもマッサージですから」
 中年の腰使いが少しばかり活発になると、ちゅくり、ちゅくりと、小さな水音が聞こえてくる。

 ずるぅぅぅぅぅぅ……

 ゆっくりゆっくり、いかにも時間をかけて亀頭が子宮から遠ざかる。
 そして――

 ずん!

「あぁっ!」
 勢いよく貫かれ、マルティナは背中を弾ませ喘ぎ散らした。
「あぁぁ……あふぅ……あっ、あっ、あぁぁぁ……」
「ああ、いいですよ? マルティナさん、わたしもとてもいい気持ちです」
「んんんっ、んぁぁ……ああっ、あぁぁぁ……あん、あっ、あぁぁ……」
 マルティナも浸ってしまっていた。
 挿入には目を丸め、抵抗するはずだったのに、中年を押しのけようとする気持ちが本人さえ知らないうちに消えていた。
「あぁぁ……なにか……! わ、わたし……!」
「おや、来そうですか? では同時に果てましょう」
「来るって、なに……あぁぁ……!」
 マルティナは言葉の意味もわからず、ただただ下腹部に何かが集まり、今にも弾け飛びそうな予感だけに見舞われていた。

「あぁぁ――――」

 そして、弾けた。
 全身を震わせた勢いでベッドががたりと揺れた後、マルティナの膣内には温かな精液が広がっていた。瞬く間に子宮が満たされ、入りきらない白濁は膣壁と肉棒の隙間を通って、ワレメの外に零れてしまう。
 マルティナは危険日だった。
 しかし、遠慮なく奥に出されたことと、絶頂を味わっての余韻に浸ってぐったりと、マルティナは手足をだらけさせていた。

     *

 私、どうしてあんな……。
 思い返せば、途中からは明らかにおかしくなって、そして最後には挿入されてしまったわけだ。判断力が低下して、マッサージだと言い切られれば何も言えず、違和感だけは感じながらも施術を受け続けた。
 しかし、不快感があれば申し出て良いと、何度も言ってきたことも事実で、受け入れてしまったのは自分の方ではないかとさえマルティナは悩む。
 だが、何よりの悩みは……。
「できて、ないかしら」
 腹に出された熱い精。
 戦いの旅は続くというのに、命を宿してしまってはいないかの不安は、マルティナにとって深刻なものだった。



 
 
 

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