最終話「性器の確認、そして・・・」

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「ふむふむ」
 アソコに老年医師の顔が近づいている。
(ああもう、本当に……)
 ライザの胸に沸き立つ羞恥心は、脳を蒸発させんばかりに熱を上げ、じわじわと胸を焼き尽くしていた。
「処女膜がないのう?」
「え、いやその――」
 ライザは動揺して目を逸らす。
「経験済みかのう?」
「経験というか、そのお……」
 アソコに異物を入れたため、などとは言い出せない。
「道具を使ったオナニーかの?」
「えっ!? いえまさか! ははっ、そんなことしませんよぉ!」
 図星を突かれ、ギクっとしたライザは、慌てて誤魔化しにかかっていた。
「そうか? 違うのなら違うでええが、ちょいと指を入れるぞい?」
 老年医師の指が入り込み、膣穴まで探られる感覚にライザは顔を歪めていく。
(入ってる……指が、あたしの中を探って……やだぁ……)
「指を増やすぞい?」
「え……」
「何本入るかも、データに取るでの」
 そんなことを言いながら、老年医師は指の本数を二本に増やす、その分だけライザの穴は幅を広げるが、まだ余裕があると見てなのか、老年医師は三本目の指まで入れ、なんと前後に動かし始めた。
「ふーむ。なるほどなるほど」
「んぅ……んっ、あっ、あの……なるほどって……」
「ああ、医学書に書くための内容をチェックしているからの。健康的な性器の感触を解説用のサンプルにするため、まあチェックしているわけじゃよ」
「あっ、んんぅ……は、はやく……してくださいね…………」
 ライザは内心焦っていた。
 老年医師の指が入ってから、ライザのアソコは濡れ始め、しかもピストンまでされてしまっては、ますます感度が上がってしまう。興奮のスイッチが入り、しだいに息が乱れ始めるライザの目には、かすかな欲情が浮かびつつあった。
「やはり何か挿入の経験があるのう?」
「そ、そんなこと……」
「ええかの? これもデータのためじゃ。正直に答えて欲しいんじゃが、経験済みかの? それとも、異物の挿入かの?」
 医学書のためという目的の下に、あくまで聞き出そうとしてくる老年医師に、ライザは観念するかのように答えてしまう。
「……異物、です」
「なるほど、ではオナニーなんじゃのう」
 はっきりと言葉にされ、ライザは老年医師から顔を逸らした。
「お、オナ……」
「……するんだ」
 短髪少年と長髪少年も、真実を知った衝撃に目を丸め、何かに憑かれたようにライザのことを視姦していた。
「では肛門も」
 アソコから指が抜けると、老年医師はビニール手袋を嵌め、今度は肛門に指を突き立てる。
「んぐ……」
 尻に、異物感。
 まずは一本目があっさりと埋まってきて、老年医師は続けて二本目、三本目までを挿入してしまう。
「やはり、こちらにも何か入れた経験があるのう」
「それは……その…………」
「あるじゃろう?」
「……はい」
 もう頭がどうにかなってしまう。羞恥心で脳が蒸発して、気が変になる。
「オナニーかな?」
「……そう、です」
 罪を暴かれ、自白させられたかのような気持ちで、ライザは小さく答えていた。知られた瞬間の思いに胸を締め付けられ、羞恥に苦しくなっていた。
「尻でもか……」
「アナル好きなんだ」
 少年二人はまじまじとライザの顔を見つめ、一体どんな風に思っているだろう。肛門でもオナニーする卑猥な子だと思っているのだろうか。
「改めて、性器の方を」
 ビニール手袋を取り替えて、再び性器に三本の指が来る。今度の指はピストンのように動いてきて、探るために動いていた先ほどとは何かが違う。
(何か、ヒヤっとしたような……何か塗ったのかな……)
 老年医師の指遣いが、だんだんとペースを上げていく。

 くちゅっ、くちゅり、ぐちゅ、ちゅぐぅ――

「あっ、あっ、あぁ……! あふっ、んぅ……!」
 ライザは見るからに感じ始めていた。
「おや? どうしたかのう?」
「あっ、あのっ、これ以上――んっ、んっ、んっ、んぅ――――」
 指遣いが駆使されて、刺激が続いていくにつれ、ライザの瞳には色欲が浮かび、唇の端からヨダレの筋が伸び始める。しだいに卑猥な表情が浮かんでしまい、まだ理性の残っているうちは、そんな自分のいやらしい顔つきを制しようと、まともな顔をしていようと意識し続けていたものの、やがてはそんな余裕も失われていく。
「あぁ……だめっ、あっ、気持ちいい…………」
 いつしか、ライザは堕ち始めていた。
「ふーむ。これなら、媚薬ジェルの効果は十分のようじゃのう?」
「あっ、んぅ……えっ、媚薬って…………」
「大丈夫じゃよ。気にせず、感じているがよい」
「はっ、はい……んっ、んふぁ…………!」
 ライザはしだいに身悶えを激しくして、足首をくねくねと、太ももをもぞもぞと、全身に気持ち良さが現れ始める。
 そして――

「あぁ――――――――」

 ライザは絶頂していた。
 分娩台のシートに愛液を広げ、ちょっとした潮吹きで老年医師の白衣に何滴かが付着して、ライザは完全にやられていた。
 イってしまった余韻に飲み込まれ、放心したような顔つきのライザを見下ろし、老年医師はほくそ笑む。
「医学書には媚薬のページを載せるんでのう。ま、すまんがもう少し付き合ってもらうぞい?」
 老年医師が目配せすると、少年が交代で触診を始め、今度は短髪少年がライザのことを喘がせ始めた。
「あぁっ、あっ、あぁ――あっ、あぁ――――」
 指の出入りする膣口から、クチュクチュと水音が鳴り響く。
「ほれ、どんな様子に見えるか言うてみい」
「ええっと、その。快楽に流されていて、理性的な反応ができなくなっていると思います。こういうのは聞いていないとか、さすがに変だとか、そういうことを言われる気がしません」
「じゃろうて。よく観察するんじゃぞい?」
「はい」
「ではしばらく続けたところで、交代じゃ」
 老年医師が指示すると、今度は長髪少年が指を入れ、それまで高まっていたライザのアソコは、ピストンが始まってから数分ほどで潮を吹く。急に飛沫が来たことで、驚き身を竦ませた長髪少年は、頬に愛液の粒を感じていた。
「ワシの塗った媚薬はのう? 短時間で理性を奪う効果があるのじゃよ。さて、美術の道を目指しておるのはわかっておるが、せっかくなんじゃ。『医学』に触れた経験を手に入れて、芸術に活かすがよい」
 それが老年医師の動機であった。
 課題のため、医学書のため、それに嘘偽りなどないのだが、ただ媚薬を使ってみての反応を観察し、その記録を本のテーマの一部にしようとしているのは、彼としてはライザには伏せていた。
 アソコに触るチャンスが来るまで待ち続け、ようやく巡って来た機会を利用して、媚薬ジェルを塗り込んだというわけだ。
「あぁ……! あ、アソコが……あ、あたし……やっ、こんなところで…………!」
 ライザはなんと、自らの指を挿入して、三人が見ている前でオナニーまで開始した。
「す、すご……」
「やばい……」
 少年二人は目の前の光景に心奪われ、食い入るように見てしまう。
「あぁあ……! だめなの! 我慢できない……!」
 ライザは激しく出し入れして、愛液を活発に掻き出していた。やればやるほど、指に泡立ったものが付着して、さらに分泌される愛液がシートに広がる。水音がよく聞こえ、腰もクネクネとくねり動いて、見るからに気持ちよさそうだった。

「あぁ………………!」

 ビクっと全身を弾ませて、ライザは再び絶頂していた。
 そして、疲れてしまってか、放心しきった顔でよだれをだらし、だらしなくぐったりと脱力しきった姿に、少年二人は衝撃を受ける。
 媚薬一つで、ここまで人格ある一人の女性の様子を変えてしまうのだ。
「さて、せっかくじゃ。乱れ果てた女の子の姿。是非とも絵にしてはどうかのう?」
「は、はい!」
「書きます!」
 二人揃って、意欲を持ってキャンバスを立て、乱れ果てた末に堕ちてしまった有様を紙の上に描き込んでいく。表情が性格に表現され、尻の下に広がる愛液の、水の滴る様子でさえも鉛筆のみで描ききっていく。
 やがて完成した二枚の絵は、まったく同一のようでいて、強いて言うなら雰囲気に微妙な違いがあった。鏡に映すかのような正確な模写で、個性の出る余地などあまりないかのようでいて、見る人が観ればわかる程度の本当に微妙な差異が、ただただ雰囲気として現れていた。
 ライザは途中から頭が真っ白で、半ば何も覚えていない。
 何か急に気分が変わり、おかしくなったような気がするだけで、しだいに意識がはっきりした後で思い出すのは、老年医師の指が妙に気持ちが良かったことくらいだ。

 直立不動の全身図。胸、尻、アソコの拡大図。
 肛門、性器の中身。
 それから、膣に指を入れた感触と、陰核の大きさや媚薬の効果が出てからの様子など、あらゆるものが医学書の中に記載され、絶頂後のだらけきった情けのない姿までもが、ライザ本人の知らないうちに掲載され、印刷技術によって何冊もの本にすられることとなっていく。
 だが、ライザ自身は気づかない。

 ……観ても恥ずかしいだけだし、ね。

 医学書のタイトルは聞いていたが、読んだところで自分の裸や恥部を目の当たりに、恥ずかしい思いをするだけだとわかっている。
 進んで読む気にはなれず、ライザ自身はその医学書には触れなかった。

     *

 数ヶ月後。
「こ、これは……!」
 パトリツィアは驚愕していた。
「これは驚きです。まさか、こんなことが…………」
 彼女は新しく出版された医学書を手に取って、気まぐれに買ってみたのだが、家でそれを開いてみれば、女性の裸体をスケッチしたものが解説用に掲載されていた。乳房や性器に至るまで、まるで実物そのもののように描かれたデッサンは、つまりモデルを使った本物ということなのだろう。
 しかし、医学であれば、人間の身体について解説するのはおかしくない。
 本当に問題なのはモデルだ。
「顔を平気で載せているなんて恐ろしいです」
 パトリツィアは青ざめていた。
「しかも、この人は間違いなく…………」
 直立不動を正面から描いた絵の、真っ直ぐに前を見つめる顔は、他ならぬライザリン・シュタウトそのものだった。
「い、依頼でも……受けたのでしょうか……」
 パトリツィアは動揺していた。
 どうして、ライザが裸になってしまったのか。ライザの裸が載ったこんなものを、知り合いである自分が持っていてもいいのか。万が一にも、タオや他の男達の目に触れたら、一体どうなってしまうのか。
「わかりません! これは、本当にどうしたものか!」
 パン!
 と、パトリツィアは力強く本を閉じ、とにかく今は本棚に仕舞い込む。

 実のところ、本の制作過程において手違いが発生して、ライザの顔にぼかしも何もない状態で、そのまま載ってしまったのだ。さらには出版までされてしまい、世の中に行き渡り、気づいた後から回収の依頼を出してはみるも、全ての回収など不可能だ。
 ライザの顔がはっきりと載った初版は、既にあらゆる人々の手に収まり、その持ち主達は特別に手放そうとは考えていない。中にはレア本として取引して、殊更に欲しがるマニアまで現れるくらいであった。
 改訂版には顔に黒塗りが入っており、ライザだとはわからない。
 しかし、出回ってしまった初版によって、本人の知らないところでライザの裸は出回っている。
 ひょっとしたら、町中でライザを見かけた誰かが、医学書に載っていたその子だと、気づくこともあるのかもしれないのだ。

 



 
 
 

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