第5話「触手ラビリンス」

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 ゴールとなる魔法陣はクリアと共に出現して、踏めば衣装が新しいものへと好感される。
 次の衣装は学校の制服だったが、スカートが極端に短くされていた。ここまで短くしている女子は確かにいるが、階段では気を使う。強風でも見えやすいはずの守りの弱さは、それだけで不安を煽られる。
 石造りの階段で二階に上がり、ステージ内容は平均台を渡りきるというものだった。
 三回の失敗でゲームオーバーとなるルールで、平均台の周りには三脚という三脚の数々が並んでいた。
「こんなところを渡るなんて……」
 三脚の背は低く、平均台をゆらゆらと渡ろうとするスカートが狙いなのは明らかだ。下から覗き込もうとする角度のカメラが大量に並ぶ上を通るなど、わざわざ見せびらかすことと同じである。
 当然、手で押さえながら渡った。
 前も後ろも見せまいと力を込め、震え混じりに進んでいると、足元が意外にふらつく。決して細すぎる足場ということはないのに、高さがついているだけで、不思議とバランス感覚が問われて身体が揺れ、今にもショーツを映されそうな恐怖と戦いながら渡りきる。
 
 テニスのステージがあった。
 魔法で動く木彫り人形を相手に試合をして、勝てばいいという内容だが、春菜の衣装はやはりスカートの短いスポーツウェアだ。アンダースコートなどありはせず、走ったりショットを打てば、簡単にお尻が見える格好で、しかも春菜の背後にはまたしても三脚カメラが並んでいた。
「おおっと! 白だ!」
「また見えた! ナイスショット!」
「パンツ丸見えの素晴らしいサーブ!」
 宇宙人もそんな実況の声をいちいち届けてくる。
 スカートが気になって集中できない試合を続け、途中からはショーツを見せながらタタカウしかなくなっていた。ゲームオーバーよりはマシ、リトを救えないよりは良いと自分に言い聞かせ、羞恥を堪えながら点を取り、それでも余裕さえあれば隠そうとする気持ちが最後の最後まで残っていた。
 もし弱めに設定されていなければ、とても勝ち目はなかっただろう。
 
「いよいよ最終ステージだ!」
 
 屋内放送のようにして、宇宙人の声だけが相変わらず届いてくる。
「さあ、心してかかるんだな」
 テニスでの恥ずかしさを余韻に引きずり、魔法陣の中へと入っていく。
 最後はメイド服だった。
 黒いスカートはやはり短く、頭にはカチューシャがかけられている。こんなコスプレを宇宙人の趣味でさせられて、屈辱に思いながら階段を上がった時、春菜はぞくっと青ざめていた。
「やっ、なに……これ……」
 触手部屋だった。
 赤桃色の肉壁は、まるで生肉を隙間なく張り付けたかのようで、それでいて生きたように蠢いている。凹凸の隙間から、壁から、床から、天井からも触手が伸びて、それが何本も何十本もうねうねとしている光景は、見るだけで凍りつくものだった。
 しかも、部屋のすぐ正面が壁となり、曲がり道となっている。
「そこは迷路だ。一時間以内に突破すればクリア。タイムオーバーでゲームオーバー」
 春菜の目前に、改めて浮游する映像が開かれる。今までの画面よりも大きくなって、下敷きを四枚は並べたほどのサイズの中で、四つの映像が同時に流れる。
 一つ、後ろからスカートを覗き込もうとする映像。
 二つ、前から覗こうとする映像。
 三つ、春菜の顔と胸を真正面から映しているもの。
 四つ、天井から見下ろすもの。
 そして、これら四つが流れる右下には、残り時間の表示がされていた。
「部屋に一歩でも入ればカウントが始まり、ゼロになればゲームオーバー。準備ができたら入るんだ」
 そう言われても、入りたくなかった。
 生理的な拒否反応で足がすくんで動かなかった。
「どうした? 今頃になって諦めるか?」
 そう言われた途端、十字架にかかったリトの姿が頭の中に蘇り、やり遂げなければならない使命感が心に膨らむ。
 不快感、嫌悪感。
 春菜が触手部屋に抱く感情は、ゴキブリやナメクジになど触りたくない気持ちに似ていたが、堪えんばかりの気持ちで春菜は進む。
『1:00:00』
  と、そんな表示の右下の数字がカウントを開始した。
「待っててね。結城くん」
 リトの運命が自分の手にかかっている思いから、肉の床を踏んで進むが、にじゅり──と、嫌な水音が聞こえてくる。柔らかいものを潰している感触が足の裏から伝わって、ぞくぞくとした不快感で爪先から腰にかけて毛が逆立ち、触手の存在にも寒気が走る。
 不意に触手が顔に近づき、
「ひっ!」
 べろりと舐めるかのように、粘液をたっぷりとまとった千段に頬を撫でられ、春菜はハゲシク引き攣っていた。頬に残ったヌルヌルとした感触に、引き攣る表情が直らない。今すぐに拭い去りたくても、拭き取るためのタオルもハンカチも手元にない。
 トロっと、天井からも粘液が垂れてくる。
 それが触手からなのか、肉の天井から染み出たものなのか。まるでヨダレを垂らしたような汚液が糸を引き、それがメイド服の肩にかかると、シュゥゥゥゥ――と、炭酸ジュースにも似た音を立てながら、布が蒸発して消え始めた。
「やだッ、またなの!?」
 春菜は焦った。
「おおっと、大丈夫だ。今回の敗北条件はあくまでもタイムオーバー。つまり、全裸になっても問題ない」
 ルールはそうでも、春菜にとっては大問題だ。
「変態っ」
 小さな声で悪態をつき、春菜はたまらず駆け出した。
 道のりはわからず、部屋の広さすらも不明であったが、動いてみなければゴールにはたどり着けない。
 分かれ道に行き当たり、右か左か迷いあぐねる。ヒントもないから勘で決め、進んだ先にはまた分かれ道が待っていた。そのたびに勘で選んでみるしかなく、一向にゴールが見えず、同じ場所をぐるぐると回っているような気にさえなってくる。
 行き止まりにぶつかった。
 引き返して別の道を行ってみるが、またその先で行き止まり、分かれ道、行き止まり、自分がどこにいるかもわからない。
 もう十分は経過していた。
 そのあいだ、上下左右の触手がしてきたことは、たまに触ろうとしてきたり、頭上からポタポタと垂らしてきたことだけである。服を溶かす液体に繊維を薄められ、黒い衣装にかかった白いエプロンには、ところどころ穴が空き始めていた。
 二十分経過、二十五分経過。
 そこまで大きなことは起きずに、それは唐突だった。

「キャァ!」

 壁の触手が左右から襲いかかって、春菜の腕に巻きついた。螺旋のように手首から肩にかけ、ぐるぐると這って絡みつき、腕を引っ張る。両腕が強制的に、左右に真っ直ぐに突き出され、春菜は身動きが取れなくなった。
「おやおや、時間ロスだぁ」
「そ、そんな! 離して! ダメ!」
 激しく身を捩って抵抗するが、足にまで巻きつく触手に封じられ、春菜はそこから一歩たりとも動けなくなってしまう。それどころか、動けないのをいいことに、前後に触手が近づいて、スカート捲りをやり始めた。
「やぁああ! やめて! そんなことしないで!」
 前後でリズムを取るように、ただただ繰り返し捲り続けるだけだった。激しい勢いを伴って、ばっと持ち上げた勢いで、若干の滞空と共に元の形へと戻っていくスカートは、その瞬間にまた捲り直され続けていた。
 そうやって見えるのは白いショーツだ。
 純白の布地にグレーの糸を縫い込んで、線のカーブが花やその茎を表す模様を作る。浮遊する映像を見せつけられる春菜は、自分のパンチラを延々と拝まされ、画面から必死に目を背けているのだった。
「へへっ、もっとも捕まえっぱなしだとクリア不能になるからな。何分かすれば自動的に解放する仕組みだが、よーく場所を覚えておかないと、ポイント毎に触手の妨害が入り、時間を奪い去っていく。同じポイントを通るたびに似たようなことが起きるから気をつけろ?」
 宇宙人の言う通り、触手はやがて引いていく。
 しかし、捲られ続けたスカートには、触手から移った粘液が染み込んで、その溶解の作用が繊維を薄れさせていた。袖の黒い布まで薄れ、少なくなった繊維の隙間から、肌色が透けて見えていた。
 それから五分も進めばまた捕まり、同じように両腕が封じられると、何本もの触手が胸に近づき、一様に粘液を垂らしてきた。ヨダレにまみれたようにだらだらと、水鉄砲のようにぴちゃぴちゃと、春菜の胸を濡らしていく。
 繊維はみるみるうちに蒸発して、白いエプロンが消えた下から黒い胸が現れる。さらに黒布さえ溶かされて、徐々に白いブラジャーが見えていた。ショーツと同じく、白い上に刺繍の糸を走らせて、線で模様を描いた柄が丸出しになったところで解放され、春菜は直ちに胸を覆い隠していた。
 両腕のクロスを固めて歩き、もう襲われるポイントを踏まずに済むように祈りながら、迷路を彷徨う。
 今度は触手という触手の数々が、無数の群れが四方八方を包囲した。頭上も、足元にも、触手の固まりはおびただしく蠢いて、一斉に粘液を放出する。
 
「イヤァァァァァ──!」
 
 腕が、背中が、スカートが、袖や靴下さえも粘液を吸い込んで、これまでになく衣服が溶けて消えていく。
「だめ! だめ!」
 行っては駄目とばかりに手で押さえ、身体中の至るところを掴んで逃がすまいとしてみても、それが溶解を止めるわけもない。握り締めた布さえも、容赦なく気体へと変わっていき、メイド服がいとも簡単に消え去った。
 春菜は無惨な下着姿となった。
 ブラジャーは肩紐が取れかけに、ショーツも前後の布が薄れて今にも内側が見えそうで、さらには裸足にまでさせられて、素足で肉の床を踏み歩く羽目になってしまう。とろりとした粘膜をたっぷりとまとい、歩くたびに糸が引くような、ヌルヌルとした生肉の感触にも全身が寒気に震えた。
 青ざめてもおかしくないところだが、今の春菜は赤面していた。青くなるより、それ以上の羞恥が顔の色を上書きして、いかにも熱っぽい赤色を広げていた。
「やだ……これ以上溶かされたら……」
 しかし、脳裏にリトの姿が浮かぶ。
「クリアしなきゃ……」
 リトの命運がかかっている。
 その思いで足を動かし、春菜は進んだ。隠すべきところはなるべく隠し、かといって腕が二本では下着姿を覆いきることなど不可能で、嫌でも羞恥を堪えるしかないままに、気持ち悪い肉床を踏み歩く不快感にも耐えながらゴールを目指す。
 残り十五分を切っていた。
 焦りで足が早まって、ゴール、ゴール、と気持ちばかりが出口に向かい、道のりがわかったわけでもないのに突き進む。立っていてもゴールは見つからない。わからなくても進んでみるしか、ゴールの可能性などなかった。
 偶然だった。
 肉の道のりが途切れ、久しい石畳の床が行く先に見えるなり、ゴールと確信して春菜は駆ける。一刻も早くここから抜け出したい、少しでも早くリトを救いたい。逸る思いで突き進み、春菜は最後の触手ポイントにかかっていた。
 
「やあああ! だめ! おねがい!」
 
 触手の群れが絡みつき、春菜の腕に手錠のように巻き付いては、天井に吊し上げる。足首にも巻き付いて、両足を上げることも開くこともできなくなる。
「やだ! やめて!」
 何をされるか、どうなってしまうかの恐れに震える。
 そして、触手の先端はお尻のところに、尾てい骨のあたりにぴたりとあたる。
「ひっ!」
 仰け反ると同時に、背中のホックや肩紐の部分にも触手が触れる。
「だめ……だめ……」
 このままではどうなるのか、予感はあった。だから必死に身をよじり、腕を動かそうともがいているが、すると巻き付く量が増え、ますます動けなくなってしまう。
 ブラジャーが溶かされていた。
「お、おねがい! やめて!」
 必死に叫ぶ。
 しかし、春菜の思いなどまるで無視して、肩紐が溶解によって断たれてしまう。ホックも溶かし外されて、緩むだけ緩んだブラジャーは、はらりと落ちてしまうのだった。
「やぁぁぁぁ! やっ、やあ!」
 乳房があらわとなった。
 それは言うまでもなく映像に流れ、目を逸らすか閉じていなければ、自分自身の露出を拝むことになる。
 続けてショーツがずり下ろされる。
 こちらは徐々に、焦らさんばかりに、まずは少しだけゴムの部分を下げてから、やけにゆっくり脱がし始めて、しだいに尻が見えたところで一気に奪う。
 
「やだ! やだ!」
 
 春菜はいよいよ全裸であった。
 両手両足を封じられ、隠すこともできずに、映像の中には春菜の肢体がいいように流される。宇宙人はもちろん、リトにも見られているかもしれない可能性が頭を掠め、余計に赤らんでいた。
 胸が、アソコが、お尻も全て見えている。
「映像はきっちり保存してるぞ?」
「やっ、うそ! おねがい消して!」
「誰が消すか。ほら、そろそろ離してくれるんじゃないか」
 触手が緩み、引いていく。
 手足が自由になった途端、まず行うのは胸とアソコを覆い隠すことだった。手の平をぴったりと性器に張りつけ、胸を見せまいとした格好で、春菜は迷路の外へと進む。
 残り時間は実に二分をきっていた。
 一つでも多く触手ポイントを踏んでいれば、間違いなくゲームオーバーだった。




 
 
 

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