第3話「かまいたちの森」

の話 目次 次の話




「さぁて! 第二ステージの前に、ちょーっと見てもらおう」
 春菜の周囲に浮かぶ電子スクリーンは、春菜が歩いたり、立ったりしゃがんだりすれば、それに合わせて動いてくる。
 その画面が宇宙人の映像に切り替わると、白い肌の男の後ろには、十字架にかかったリトの姿が映っていた。
「結城くん!」
「春菜ちゃん! こんな奴の言うことなんか聞かなくていい! ララ達を呼んでくれ!」
 リトの叫びが届いてくる。
「おおっと、ここは別次元だ。単なる遠い星じゃないんだぞ? 連絡方法なんてありはしないし、あったとしても人質の命はない」
「そんな……」
 春菜は絶望した。
 別次元というのが本当なら、ララ達にこの場所を見つけ出すことができるのだろうか。助けが来る可能性が一気に薄らぎ、希望を抱く気持ちも萎れていく。いずれは自分達の行方不明に気づき、見つけてもらえることに期待をしていたが、不安な気持ちの方がより大きく膨らんでいた。
「第一ステージはどうだった? ま、最初はサービスで失敗条件は無しにしてあった。難しくはなかっただろう?」
「…………」
 ただ森まで移動するだけで、難しさも何もなかったのは確かだが、低い難易度以上にお尻を叩かれる屈辱が辛かった。
「ここは魔法が存在する世界だ。毎回のステージごとにゴールとなる魔法陣をセットしてある。そのたびに古い衣装から新しい衣装にチェンジしていくが、じゃあ消えた服はどこへ行ったと思う?」
 問われて春菜はゾっとしていた。
「まさか……!」
「じゃんじゃじゃーん!」
 宇宙人は実に楽しげにショーツを取り上げ、両端を指で詰まんで見せびらかす。画面いっぱいに映り込む下着は、まさしく春菜が先程まで穿いていたものだった。
 水色の布地に、白い線を縫い込むことで花の形を作っている。白い丸を作った周囲に五枚の花びらを生やし、そうやって描かれた花が詰め込まれていた。
「か、かえして!」
「どうしようかなぁ?」
 これみよがしに裏返し、アソコと触れ合う部分をやけに優しく撫で回す。感触が繋がっているわけなどないのだが、身体にもおぞましいタッチをされた気分になり、全身をゾクゾクと震わせた。
「変態……」
 春菜は小さくそうこぼす。
「さぁて、第二ステージの内容だが、クリア条件は同じく簡単。ただ森を抜けるだけ。道だって一本だ。迷うようなところじゃないが、第一ステージと違って、今回からは失敗すればゲームオーバーになってしまうぜ?」
 宇宙人は嬉々として説明する。
「ゲームオーバーになったら、性奴隷になってもらう」
 欲望の眼差しを画面越しに向けられて、全身に寒気が走る。
「よく聞いておけ? お前がこれから入るのは、かまいたちの森。衣服を切り裂く風の刃が飛び交うんだ。そのセーラー服はだんだんと裂けていき、そして全裸になったらゲームオーバー。パンツ一枚、靴下一枚でも残してゴールに着けばクリアだ」
 聞けば聞くほど春菜は青ざめ、こんなセッティングまでして、ゲームと称して人を辱しめる邪悪に震える。
「言っておくが、人間の体は切れないようにしてある。せっかくの女の子が血まみれになったら楽しめないからな?」
「…………最低」
 本当に春菜の安全を考えているわけなどない。ただ自分が楽しむのに支障が出るから、あくまで宇宙人自身のために、春菜に怪我をさせたくない。身勝手な理由でしかない安全の保障など、本当の意味で安心できるものではない。
「さあ、第二ステージに挑戦しな? それとも、人質を見殺しにするんだったら、辞退してもいいんだぜ?」
 鋭い爪を見せびらかし、言外に殺害を匂わせてくる脅しに怯え、春菜は不安に満ちたぎこちない足取りで森の中へ入っていく。

     †

 第二ステージは始まった。
 天井を作り上げる枝という枝の絡みと、無数に繁る葉の重なりで、森は薄暗くなってはいるが、木漏れ日がところどころを照らしている。まばらな隙間から光の柱が降り注ぎ、そこかしこがピンポイントに明るく照らされている。
 人の往来なのかはわからないが、しっかりと踏み固められている道のりは、たびたびカーブしていたり、樹木の壁で直角に部分があるだけで、分かれ道を見かけない。迷う要素のない一本道であることだけは、不幸中の幸いとは少し違うがありがたい。
 しかし、春菜が歩けば相変わらず画面も一緒に動く。
 どこにどんなカメラがあってのことなのか、そのアングルはいかにもスカートの中身を覗きたがるものだった。振り向いても何もなく、どうやって撮っているのか、想像もつかなかった。
 目には見えないカメラが浮遊しながら着いてきているのだろうかと、宇宙人の持つテクノロジーを思って半ば本気で想像しつつあった。
「あっ、気をつけないと……」
 つまずきかけ、春菜は足元に気を配る。
 大きな樹木の根が張って、地面から盛り上がって出てきたものが、そのまま足場に凹凸を作っている。気をつけなければ、慌てて走りでもすれば、すぐに転んでしまいそうだ。

 ひゅう、

 と、風の音が聞こえた時、春菜はすぐにお尻に両手をやり、スカートを押さえていた。風に対して敏感になっていて、どんなに緩やかなものでも手で守らずにはいられなかった。
 だが、次の瞬間に起こったのは、スカートが捲れる事とは次元の違う出来事だった。
 そう、宇宙人は言っていた。
 
 ──かまいたちの森。
 
 まるで透明な刃物を振り抜いたかのように、突如としてセーラー服のスカーフが切断され、その下の胸元の部分にも、綺麗な切り込みが出来ていた。
「う、うそ! こんなの!」
 驚愕しているあいだにも、また風の音が聞こえてくる。実にささやかで、本当なら気持ち良くすらある風が肌を撫でると、今度は腹部に切り込みが出来ていた。スカートにスリットが入り、右の太ももがチラつく露出が出来上がった。
「なにこれ! 無理!」
 目には見えない刃など、どうやって避ければいいのか。
 すぐにでも森を抜けないと、どこまで服をやられるかわからない。最後の最後には全裸になることを怖れて、春菜は小走りになっていた、
「あっ!」
 その瞬間にスカートが揺れ、丈が短いせいで少しの捲れで中身が見えそうな、危うい映像に足を緩める。両手を後ろに回し、早歩きに変えた春菜だが、ほどなくして吹く風は、正面から前髪を揺らしてくるものだった。
 半袖の袖口が切れ、布の破片が森の彼方へ消えていく。
 今度は左からの風が吹き、左脚にもスリットができてしまう。
 太ももの中心までしか丈のないスカートだ。布の少ないスカートが切れてしまえば、下着など簡単に見えやすくやってしまう。
「……見えちゃう」
 早歩きのペースを早め、少しのあいだは風の音を聞かなくなった。このまま、もう吹かないで欲しいと祈って道のりを行き、脱出を焦っていると、やがて再び正面からの風が吹く。
「えっ? ダメ!」
 一瞬、本当に一瞬だけ困惑して、直ちに春菜は悲鳴を上げた。
 セーラー服の胸が綺麗に切り取られ、ブラジャーが丸出しになったのだ。
 それは白い布地に水色の飾り付けを施したものだった。リボンと小花を散りばめたような、糸の縫い込みによって形成された柄は、遠目なら純白の中に溶け込みそうな淡さがある。
 そんなブラジャーを映すため、映像が急に切り替わり、胸がアップにされていた。突然の露出に驚愕して、映されていることに恐慌して、春菜は勢いよく両腕で胸を覆い隠した。
「ダメぇ! 見ないで!」
 反射的に胸を守り、隠したいあまりに肩を内側に縮め、腰までくの字に折り曲げる。
 まるで狙い済ましたかのような強風が葉を揺らし、森全体をざわめかせ、足元では落ち葉さえ舞い上がる。それが一度だけスカートを持ち上げ、間違いなく瞬間的に、わずかながらに丸見えになっていたはずだった。
「……み、見えちゃったの?」
 どこにどんな都合のいいカメラがあるかもわからず、画面の映像は胸を狙ったものでも、今のお尻を映したものが他にはないかと、恐れと警戒の気持ちが膨らむ。
 画面が切り替わった。
「え…………」
 唖然として、困惑した表情のまま春菜は固まっていた。
 スカートの後ろ側が切り取られ、後ろの部分の丈が丸ごと失われ、ショーツの純白が包んだお尻はしっかりと丸出しになっていた。さらに思い出したようにして、前や横にも切れ込みが及んでいたらしいスカートは、いくつもの端切れとなってはらはらと、降り注ぐ落ち葉のように足元に散らばっていた。
 
 春菜はスカートを丸々と失ったのだ。
 
「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 青ざめていた顔が、みるみるうちに赤面へと変化していた。
 セーラー服の丈を必死になって下に引っ張り、届くはずのないショーツを隠そうとしながら座り込む。見せまいと、映させまいと、賢明な思いでカメラから逃れたがる春菜だが、とても隠しきれるわけがない。
 人間の持つたった二本の腕をどう使おうと、手の平がお尻やアソコを覆いきれるはずもなく、どう足掻いてもカメラはショーツを捉えていた。
「どうするどうする? 座り込んでると全裸になっちゃうぞ?」
 脅すような言葉が届く。
「ぜ、全裸……!?」
 今以上の目に遭う恐怖に、座り込んでいる場合ではないと感じて、泣きたい思いで立ち上がっては進み始める。
 両手を使い、ショーツの前と後ろを覆っていた。手の平の大きさでは隠しきれない、どう足掻いても見える下着を隠しつつ、肩も内側に丸めている。ブラジャーも見せたくない思いで懸命に、隠そう隠そうとしながらも、映像にはしっかりと映り込んでいた。

 ビュゥ――

 風の音はもはや恐怖さえ煽ってくる。
「もうやだ!」
 聞くなり春菜は足を速め、かまいたちから逃れようとしたのだが、お構いなしにブラジャーに切れ込みが入っていた。カップが綺麗に切り取られ、はらりと落ちようとする瞬間、春菜は慌てて腕で覆い隠した。
 反射的に両腕を使っていたが、ほどなくして春菜は右手をアソコに移す。ショーツを押さえる手がなければ、いつ切り取られ、布が風にさらわれるかがわからない。その恐怖から、両腕とも胸に使うことはできなかった。
 森の出口が見えてきた。
 守りたい場所を手で押さえ、必死に隠そうとしている状態での、いかにも滑稽な走り方をして、春菜は一心不乱に足を回して飛び出した。
 魔方陣を見て、飛び込んだ。
 その瞬間に衣服の全てが光に変わり、四散した内側からは、どこからか転送された新しい衣装が現れていた。



 
 
 

0