第2話「尻叩きセクハラスライム」

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 西連寺春菜が立っていたのは、どこまでも草原の広がる緑の世界であった。育ち盛りの草が陽光に照らされて、輝きを帯びている。晴れ渡った空は青く清々しい。こんな状況でさえなければ、この綺麗な自然をじっくりと満喫していたいくらいである。
 足元を見れば、踏み固められた土道が長々と続いている。大地の微妙な凹凸に沿って、ちょっとしたカーブはありつつも一本道だ。
 道は森林の中へと続いていた。
 遠目に眺める木々の連なりは、地平線に合わせた緑色のラインを引いてあるように、森林を境界線に、景色を青空と草原に切り分けている。そんな青空には、森林の線から生えるおぼろげな塔が聳えているらしい。
 近づけば大きいだろうが、ここからでは小さく見える。
 
『ゲーム内容を設備しよう!
 といっても、ルールはさっきのメールの通り!
 エリアごとに試練が用意されていて、そこから見える塔の頂上までいけばクリアだ』
 
『まずは第一ステージ!
 草原を抜け、森に入れ!』
 
 それだけなのだろうか。
 ただ道を歩くだけの内容で、本当に済むといいのだが、途中で何かが出ては来ないかと不安になり、警戒しながら歩き始める。
「電波、通じてるのかな」
 軽い疑問と不思議を抱え、しだいしだいに森へ近づくにつれ、遠かった景色は少しずつ明らかになっていく。ぼんやりとしか見えなかった塔の形がだんだんと見えてくる。緑色の線にしか見えなかった森が、葉の繁った固まりに見えてくる。
 そして、その時だった。
 
 春菜の前に大きな影がかかってきた。
 
 太陽を背に歩き、自分自身の影を見ながら進んでいた春菜は、突如として背後からかかった丸い影の形にゾッとして、恐怖に足を止めてしまった。
「な、なに……?」
 背後に何かが迫っていて、その影なのだ。ならば、足を止めている方が、かえってその何かの接近を許すことになるのだが、怯えて硬直した頭では、とても冷静な判断はできなかった。
 それどころか、春菜は恐る恐ると、恐怖の正体を確認しようと振り向いてしまう。
 
「イヤァァァァァ──!」
 
 春菜は絶叫した。
 巨大な青いスライムだったのだ。表面だけが透き通り、内部の青みは色濃いブルースライムは、さながら二本の腕でのように触手を伸ばす。
「来ないで!」
 逃げ出そうとした春菜は、前に進むことなく、危うく顔を地面にぶつけそうな前のめりな転び方をしてしまった。
 気づけば、よく冷えた金属のようにひんやりと、感触としては固いゼリーかコンニャクに似たものが、春菜の両足に巻きついていた。

「第一ステージ!」

 空からの声だった。
 どこに声の主がいるのか姿は見えず、放送用のスピーカーが天空にでもあるように声は聞こえた。
「クリア条件は森への到達! しかしブルースライムがそれを妨害! もっとも、命を奪ったり、怪我をさせてくる心配がない品種だから、そこは安心していいぞ?」
 そして、今度は春菜の眼前に映像が現れた。
 何もなかった空中にスクリーンが開いたかのように、パネルを浮游させているように表示される映像は、春菜の股下を撮ったものだった。うつ伏せの脚のあいだにカメラを置いたアングルで、幸いにもスカート丈が地面にかかって中身までは見えないが、ワンピース越しのお尻を真下から見上げた映像に春菜は顔を赤らめた。
「やっ!」
 目の前から目を背けた。
「ブルースライムの体内にはカメラがあるんだ。これはその映像だぞ? 手加減してくれるから、女の子の力でも抵抗できるよ? ただし、クリアするまで付きまとい、エッチなイタズラをやり続けるぞ?」
 聞くなり春菜は足を暴れさせ、拘束を外そうと苦心する。どうにか下に手を伸ばし、引っ張ろうともしてみるが、ただただのたうち回ることにしかならず、何分もかけての試みを春菜はとうとう諦める。
 もう這ってでも進むしかなく、匍匐前進をしてみると、意外にもスライムごと体は進む。あまりにも滑りが良く、ヌルっとずれてくれる上、踏ん張る抵抗はしてこない。あるいはスライムの方が春菜に合わせて進んでくれているのだろうか。
 綺麗だったワンピースが土まみれになることへの嘆きに、春菜は内心泣きたくなるが、目の前の映像にそんなことを悲しむ余裕もなくなった。
 この浮游している映像は、春菜の移動に合わせて動くらしい。
 前を向いている限り、自分自身の股下を見ながら進むことになる春菜は、映像の中に映り込んでくる二本の触手に総毛立つ。
 例えるなら、寝込んだ少女のお尻を揉みしだこうとしているように、両手が迫らんばかりに触手は近づき、なんとスカートを捲ってきた。
「やめて!」
 叫びながら、反射的にスカートを戻す。
 スパッツのおかげで下着は見えずに済むものの、お尻は丸見えになっていて、本来ならもろに映っているはずだった。
「どうかな! この素晴らしいゲームは!」
「変態……」
 こんなおかしな趣味趣向に付き合わされ、辱しめを受ける屈辱に、春菜はぐっと歯を食い縛る。
 だが、進むしかなかった。
 這って進むためにも両手を前に、四つん這いの方が進みやすいと気づいて姿勢を変えると、それに合わせてカメラアングルも調整される。犬の散歩ごっこのような、お尻が左右にフリフリと動く映像を見ていられず、春菜は目を背けながら進んでいく。
 数分か、あるいは数十秒ごとに、お尻に二本の触手は迫る。
 何度もスカート捲りをされ、スパッツとはいえカメラに映され、こうなっては映像から顔を背けているわけにもいかない。しっかりと見ていなければ、触手を手で払いのけることができない。
 後ろに手をやりさえすれば、適当に払おうとするだけで触手は引く。
 だが、今度は別の行為が行われた。
 
 ぺん!
 
「ひゃ!」
 人を痛めつける力などない、せいぜいコンニャクで叩いた程度の威力であったが、お尻を叩かれた春菜は目を見開く。
 
 ぺん! ぺん! ぺん!
 
「や、やだ! やめて!」
 屈辱的だった。
 触手の鞭がしなりを利かせ、二本がかりで左右の尻たぶを交互に打つ。
「おやおや! まるでお馬さん! 馬の尻を叩いて走らせるかのようだ! これではスライムの方が春菜ちゃんをペットにして、お散歩をさせて見えるぞ?」
 嫌な実況までされて、耳を塞ぎたくなってくる。
 腕が二本しかないことが呪わしい。両手で耳を塞いで進むなどできるはずがなく、お尻を守りながら進むにも腕が足りない。四本は欲しい気持ちでいっぱいになり、かといって願えば生えるはずもなく、春菜は尻打ちを受けながら進んでいった。
 
 ぺん! ぺん! ぺん!
 
 きっと、ステージクリアになるまで延々と叩き続けてくるつもりだ。鞭打たれながら走る馬になりきらされ、スライムなんかに歩かされているかのようだった。
「やだ……なんでこんな……」
 耐えがたい辱めだった。
 しかも、たまに思い出したように行うスカート捲りだ。
「やっ! やめて!」
 見えるのはスパッツだけでも、まるで下着を撮られる危機のようにして、春菜は捲られるたびに後ろに手を回していた。
 そんな風に叩かれながら、捲られながら、春菜はようやく森に迫っていた。
 太い樹木の並びと枝の数々に、生い茂る草が自然の壁を成している。人が入り込む場所などなさそうでいて、春菜の歩くこの道が森に入り口を空けている。そこだけが枝も葉も繁っていない、人の出入りに適した獣道がとなっていた。
 そして、そこには魔法陣があった。
 円形の中に様々な記号や文字が書き込まれ、まるでインク自体が光の固まりであるように、青白い輝きを放っている。
「ほーら! あれがゴールだ! あの中に入ればステージクリア! スライムは消滅するぞ?」
 春菜はすぐにペースを上げた。
 
 ぺん! ぺん! ぺん!
 
 こうしている今にも叩かれ続け、少しでも早く屈辱から解放されたい春菜は、すぐにでも魔法陣に入ろうと焦っていた。
 目が映像を見ていない。
 こっそりと迫り、スカートを少しだけ持ち上げながら潜り込み、スパッツを目指す触手の動きに、夢中なあまりに気づいていない。
 だから春菜にとっては突然だった。
「え……」
 ゴールを目前に、スパッツのゴムの近くにひんやりとした触手を感じて、まずはそんな小さな声だけが漏れていた。
「やだ! やめて! いや!」
 次の瞬間には慌てた。
 ゴムに触手が潜り込み、スパッツを脱がしてくる。ずり下ろされる危機に、本当に慌てて後ろに手を、触手を掴むなりスパッツを押さえるなり、なんでもいいから食い止めようとしたものの、それ以上に早く膝まで下がってしまっていた。
 さらには今まで足首に巻きついていた二本が標的を変え、四本もの触手がスパッツを奪いにかかることになり、春菜は足をじたばたさせて抵抗する。手で払おうとしたり、押さえたり、必死になったが、多少の時間を稼いだだけで、結局はスパッツを奪い取られた。
「返して!」
 肩越しに振り向き叫ぶ。
 返してもらえるわけもなく、さも何かを勝ち取ったかのように、ブルースライムはスパッツを高らかに掲げていた。
 最悪だった。
 確かにショーツよりはいいだろうが、だからとって下腹部に身につけていたものには違いない。今の今まで春菜の体温を取り込んで、触れれば温度が残っているであろうスパッツを奪われたのは、やはり下着を取られたほどのショックに値していた。
 心もとない。
 これでもう、スカートが捲れれば、いつでも下着は見られてしまう。
「やだ……ぜったい……」
 春菜は右手で後ろを押さえ、片手だけを突いて先へ進んだ。
 これ以上は嫌だ。もう二度と見せたくない。
 だが、スライムの触手は無情にも春菜の手首に巻きついた。スカートを押さえる手をどかし、必死に守ろうとした丈は、いとも簡単に捲られていた。
「やぁぁぁ!」
 目の前の画面に、自分自身のショーツが映る。
 ワンピースの色に合わせた水色の、お尻側は無地なショーツが大胆なアップとなる。尻肉への食い込み、フロント側には白い刺繍で模様が縫い付けられている。線でハートを描いているようでいて、よく見れば花びらを成した花の刺繍だ。
 ぎゅっと目を瞑り、顔まで背けていた。
 捲れ上がったものがとっく戻り、下着がスカートに隠れても、なおも画面を直視できずに、顔を真横に逸らし続けていた。
 何分もそうして、やっと改めて進みだし、ゴールの魔法陣に入っていく。
 光が四散するようにして、ブルースライムは消滅した。
 自分をここまで辱しめたモンスターがいなくなり、そこだけは安心していたところで、今度は春菜の衣服も発光する。もしや今のスライムのように四散して、裸にさせられるのではないかと焦った春菜は、無駄だとわかっていても、反射的な行動で自分の衣服を掴んで手放すまいとしていた。
「……あれ?」
 いざ光が四散して、怖れた事とは違う事が起こっていた。
 
 服装がセーラー服に変わっていた。
 
 短めなスカートに、白いセーラー服には赤いスカーフが通っている。宇宙人が用意していた衣装に着替えさせられたことがわかって、今度はまるで着せ替え人形のように扱われた屈辱感が込み上げていた。



 
 
 

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