続 渋谷凜の全裸健康診断【前編】

後編




 出国前。
 あの恥辱の検査を思い出しながら、空港の別室で衣服を脱ぎ、渋谷凜は丸裸で丸椅子に尻を置いていた。胸には聴診器が当たってきて、目の前の医師は静かに耳に意識をやっている。
 日本を出る前にも、到着後の入国前にも、数日前に受けた健康診断と同様のものを受けなくてはいけないらしい。
 その日本空港での診断だった。
 わざわざ脱いでの診察で、心臓や肺の音を確かめ終わると、医師は直立を指示してくる。
 立ち上がった途端に始まるのは、全身の皮膚を観察する視診であった。肩回りから乳房にかけ、腹や太ももにアソコから、足の裏側さえチェックしてくる内容には、本当に全身がむずかゆくなっていた。
「前回から毛は剃った?」
「……いえ」
 できれば剃っておきたかった。
 しかし、毛の具合が変わると何か都合が良くないらしく、入出国前には剃らないで欲しいとの通達があった。剃っていいのは入国後のライブの準備に入る期間で、それまで整えてはならない。
「よろしい。あちらの空港に到着するまで、引き続きそのままにしておくように」
 裸を観察されるだけでも恥ずかしいのに、見栄えまで悪い状態では、余計に羞恥を煽られる。
 アソコや肛門の検査を受けるのも、やはり毛むくじゃらの状態で、どんなに汚く見えているかが気になってしょうがない。
 それらの検査が済まされて、服を着て安心したところで、入国前にも同一の検査を受けるための同意書が手渡される。ここにサインをしなければ、防疫の厳しくなったその国には入国できない。
(また、受けられる……)
 ペンを握って文面に目を通し、記入を行う凜は、心のどこかで期待していた。
(受けられるって、なに。これじゃあ私、ただの変態じゃ……)
 何をおかしくなっているのかと、期待する自分の気持ちを抑え込み、全ての受付を済ませた凜はプロデューサーと合流する。飛行機の席に付き、ファーストクラスの座り心地に気を緩め、長いフライト時間をやり過ごすためにも眠りについた。
 
     †
 
 飛行機が着陸した。
 空港では健康診断の列が出来上がり、男女別に並んでいた。あんな検査を受けてでも入国しなくてはならない用事こ持ち主がこんなにもいることに軽く驚き、ここにいる全員が同じ目を見るのだろうかと、関心とも驚愕ともつかない思いにかられる。性別も国籍も異なり、肌の色さえ豊富な列を見ていると、新型ウイルスがどれほど恐れられているかの実感も沸く。
 ファーストクラスに搭乗していた客には特別室があり、順番が早いらしい。
 一般席だったプロデューサーと別れ、一足先に健康診断を受けることになる凜は、職員の案内に従い部屋へ行く。
 ブルーの床と、染み一つない薄水色の壁から清潔感が漂う検査部屋には、身長計や体重計がひとしきり揃えられ、純白のシーツがかかった診察台が置かれている。デスクの設置、薬品を並べた棚、あらゆるものが揃った室内で、凜は見覚えのある顔を見てぎょっとしていた。
 
「やあ、また渋谷凜ちゃんに会えるだなんて光栄だよ」
 
 あの時、大使館での診断の場にいた肥満男だ。
「……ど、どうも」
 幸福でならなさそうな、いっそ天使が浮かべるような微笑みさえ垣間見せる肥満男は、ニヤニヤと鼻息を荒げて凜の肢体に目を向ける。厚着越しの胸に露骨な視線を注ぎ込まれ、スカートから見える太ももにも視姦は及ぶ。
 凜にとって、重大な弱点を知る男が現れてしまったようなものである。以前の絶頂と、イキましたと宣言をさせられた屈辱は、ある種の弱みだ。秘密を握られた気持ちになり、凜はどことなく肥満男を警戒する。
「いやぁ、よかったよかった。追いかけて来たはいいけど、実際に会える保証はなかったからね」
「追いかけたんですか? わざわざ……」
 ストーキングをされたかのようで、表情には出さないが、凜はぞっとしていた。人の裸が見たくて情熱を燃やし、可能性に賭けてきたのだろうか。そんな男の前で再び全裸になることへの抵抗から、内心では身構えてしまう。
(だけど、ここまで来て入国できなかったら、ライブができなくなるんだ。今までは積み重ねたレッスン、絶体に無駄にはしたくない!)
 もう既に二度も全裸で検査を受けた。
 三回目にもなれば慣れている。
「はぁい。では? 入国審査官のワタシと? ジャパニーズの彼で検査やりまーす。ベンキョーのため見学に来てる方もいらっしゃるけど、ご了承クダサイマセ」
 現地人と思わしき審査官は、妙にペラペラとした、とはいえ不思議な発音や訛りも混じった日本語を操っていた。
 審査官の言う通り、壁際には同じく現地の関係者が、おそらくは医療職にあたる白衣の男達が並んでいる。
「よろしくお願いします」
 衆人環視の中での脱衣。
 その瞬間が迫っただけで、凜は下腹部を熱っぽく疼かせて、早く露出したい願望にかられてしまう。変態ではないか、どうかしているとは思いながらも、足元に脱衣カゴが置かれ、暗にここで脱げと言われた時には体が歓喜してしまう。
 凜は羽織っているものを脱ぎ始める。
 冬の季節に合わせたコーディネートで、長袖の暖かな服を着た上に、着合わせに一枚を羽織っていた。それを脱衣カゴの中に畳むと、さほど抵抗なく次の一枚をたくし上げ、内側のヒートテックの、真っ黒な生地をあらわにした。
 ブラジャーがヒートテックを丸く押し上げ、乳房の形をありありと浮かべている。生地と生地の密着で、凝視さえすれば刺繍の浮き出た具合が見えなくもない。腰のくびれにぴったり寄り添い、体格を明らかにしたヒートテックをたくし上げると、そこに見えるブラジャーもまた黒だった。
 漆黒に銀の刺繍を走らせて、薔薇模様を刻んだゴシック調の下着は、広告では大人な格好良さを謳っていたものだ。
 スカートを脱いだ中身は黒のストッキングだ。
 ふくらはぎや太ももの部分では、肌色を薄らかに透かせているが、ショーツの部分では黒と黒が重なって、そこだけがより濃い色となっている。そんな三角形からも銀の刺繍は輝いて、ストッキングの中から煌めいていた。
 ストッキングを脱げば、銀糸のキラキラとした光の反射はより明らかに、黒みがかっていた太ももは白く眩しく輝いた。
 これで下着姿だ。
 しかし、全裸経験を積んだおかげか、まだ何も問題を感じていない。いくら男の視線が集中しても、凜は毅然としていられた。必要な検査のため、例えば医者に血液を採らせたり、薬を打ってもらうことと変わらない気持ちで全裸を目指すことができていた。
 ブラジャーをあっさり外し、乳房を出せば、さすがに少し赤らんだ。
 羞恥は込み上げてくるものの、凜はショーツもあっさり下ろし、靴下まで脱いだ丸裸を披露していた。
(大丈夫。もう慣れた)
 これで毛さえ剃ってあったなら、見栄えもしていたことだろう。脇から黒い毛がはみ出て、陰毛も伸び放題のまま、尻毛のために、お尻の割れ目を見てさえ茂みの存在がわかってしまう。どう考えても、全裸としては身だしなみがなっていない。できることなら綺麗に整えたいものが、凜の全身には伸びているのだ。
 だが、剃るなという指示だから剃っていない。
(これは仕方ない、よね……)
 そう思っていないと、やっていられない。
(というか、やっぱり……)
 慣れたといっても、完全に平気なわけでもない。乳房を視姦されれば顔は赤らみ、アソコに視線が刺さればより一層のこと恥ずかしい。背筋にも、尻にも視線を感じて、四方から見られている感覚に頭が熱っぽくなってくる。
「ハイ渋谷凜さん。入国管理厳しいので、ここで所持品検査も兼ねマス。特に変なものなければ大丈夫です」
 審査官は脱衣カゴを持ち上げて、テーブルの上に乗せては衣服を調べ始める。
(ってことは、下着も?)
 点検作業であるように、肥満男もブラジャーを持ち上げて、紐の部分やカップの中身を指でまさぐる。脱いだばかりのものを目の前で調べられ、ただでさえいい気がしないところを、下着まで触られている。
 肥満男は凜のファンだと言っていた。
「へへっ、渋谷凜のブラジャー……」
 ファンにとっては信じられない体験だろう。
 アイドルの下着を、しかも体温の残った脱ぎたてを触るなど、普通ではあり得ない。実に幸せそうに、きっと頬擦りまでして味わいたいであろう男を前に裸でいるなど、何と言ったらいいものか。
「パンツもまだ温かいね?」
 そんな言葉をかけてきながら、肥満男は本当に嬉しそうにショーツを広げ、クロッチを裏返して調べ始める。
「お?」
 何かに注目して、肥満男はぐっと顔を近づける。アソコを直接見られているわけではないが、間接的な視姦を受けるかのようで、ワレメの部分に意識がいく。
「生理の痕跡があるね?」
 嬉しい発見をした明るい顔を向けられて、凜はそれから目を背ける。
「あと、お尻の部分ね。うーっすらだけど、茶色いよ?」
「──っ!?」
 さすがに動揺に目を揺らし、顔の赤みを一気に強めた。
 確かに、フライト中にトイレに行き、凜はトイレットペーパーを使っている。しっかりと拭いたとは思っていたのに、まさか拭き残しの痕跡があった上、人に発見されて声に出してまで指摘されるとは、目を合わせられなくなってしまった。
「おーう。まあ問題はアリマセン」
 とは言いつつ、審査官は明らかに微妙な顔をしていた。
「そうですねぇ? ただ僕、彼女のファンでしてね。こういうの見ると、ちょっと驚いちゃうんです」
 最初に受けた診断でも、この肥満男は尻毛に反応してきたり、処女膜の有無を気にして一喜一憂していた。ショックを受けた言い方をしながらも、目は完全に笑っている。
(最悪……!)
「まーとりあえず衣類は問題アリマセンね」
「へへっ、次は身体測定しようか」
 ご馳走を前にヨダレを流さんばかりになって、肥満男は楽しみで仕方のなさそうな顔をしている。気づけば白衣の下に隠れた股間のところは、勃起によって大きく膨らんでいた。審査官も同じく股間を膨らませ、見学者も全員男という、襲われればどうにもならない空間の中で、一人裸でいることの恐怖を抱く。
 自分のショーツを興奮のネタにされた感覚に凜は震え、思わず我が身を抱き締めそうになっていた。
 
     †
 
 身体測定が開始され、凜は身長計で背筋を伸ばす。
 審査官が記入用紙を持つ傍らで、肥満男がバーを持ち、それを凜の頭に触れさせる。耳に顔が迫ってきて、息が吹きかかると同時に、いかにもさりげなく、肥満男は凜の二の腕に触れていた。
 指先でくすぐるように、はみ出た脇毛を触っていた。
(毛なんて……何が面白いの……)
 アイドルとして、本当なら見せられないものを弄ばれ、しかも横乳めがけて指先をかすかに当ててくるのだった。
「身長は前と同じだけど、脇毛はちょっと長くなった?」
「それは……わかんないですけど……」
 毛のことまで指摘され、凜は俯きそうになる。しかし頭に乗ったバーをずらすわけにもいかず、しっかりと顎を引いたまま、前を見据えたまま、顔を背けることなどできなかった。
「さて、身長は一六五センチ」
「はーい。プロフィール通りですねー」
 肥満男が数字を言うと、審査官がそれを書き込む。

 体重計に移った。
 足のマークが付いた部分に両足を乗せ、デジタル表示によって数字は現れる。数秒のうちに体重は明らかになり、読み上げて書き込むだけのはずだが、肥満男と審査官は、しばしのあいだ凜の裸を眺めていた。
「あ、五三キロになってる! 一キロ減ったんだねぇ?」
 やっと読み上げたかと思えば、肥満男はそんな事を言う。
「おーう! プロフィールとちがいますネェ?」
「ああ、実はサバ読みだったんですよ」
 体重の事を話題にされ、スタイルについて言われているようで良い気がしない。
「アイドル大変ですねぇ」
「いやぁ、僕も最初は驚いたもんで」
 人の体重を種に広がる話題など聞かされ、本当に良い気がしない。
「あの、早く次を」
 つい、凜は言ってしまう。
「へへっ、次はスリーサイズ……」
 しかし、やる事がやる事で、楽しみそうに舌なめずりをする肥満男に、凜は改めてぞっとしたものを感じていた。

 肥満男がメジャーを手にして、凜の胸にかけるため、ゆっくりと伸ばしていく。
「じゃあ測るからね?」
 獲物を狙うかのような目つきに、これから食されてしまうかのような、エサか慰み者の立場になった気持ちで、凜は腕を水平に伸ばしていく。
 抱きつかんばかりに腕を回し、背中にメジャーをかけてくる動作に、肥満男の腹や白衣が当たってきた。脇下にも袖が擦れて、長く真っ直ぐ、メジャーはピンと伸ばされる。
 ごく軽い力により、背中の皮膚にたった一ミリかその程度、メジャーは食い込んでいる。そうして伸びきったメジャーは、ゆっくりと乳房に巻きつき、乳首の上を通って目盛りは合わさる。さりげなく乳房に触れるため、乳首の近くに合わせてくるやり方に、少しばかり感じてしまう自分がいて凜は堪えた。
(やっぱり、私は……)
 こういうことで喜んでしまう自分がいるのだろうかと、凜はひしひしと感じていた。
(こんな自分……見つける必要なかったのに……)
 手こずってみせるフリをして、肥満男は何度も目盛りを合わせ直し、そうやって乳首が擦られている。その刺激に凜は小さく身悶えして、平静を装い隠そうとはしているが、かすかな感じた素振りを見え隠れさせていた。
「八二センチ! 変わりないねぇ?」
 乳房のことを目の前で言われ、満面の笑みから凜は顔を背ける。
「次はウェストだね」
 メジャーが移る。
 腰に巻きつき、ヘソの近くに目盛りが合わさり、そこに顔を近づけた肥満男は、怪訝そうに首を傾げていた。
「おや? 六二センチ?」
 数字の変化を不思議そうにしていた。
「前回までのデータとチガイマスね。どうしてデショウ?」
 審査官も肩を竦めた。
「ねえ? 短期間で随分と変わった気がするんだけど」
 太ったことを追究されているかのようで、食べ過ぎや運動不足だと思われてやいないか、気恥ずかしくなってくる。
 しかし、そういうことではない。
 何かを勘づいたのか、何なのか、瞳を覗き込むようにしてくる肥満男は、不意にニタって笑みをこぼした。
「お腹、縮めてた?」
「いえ、その……」
 凜は目を逸らす。
 その瞬間だった。
「それはそれはいけませんよ? 正確なデータ欲しいデス! 統計取ってます! 病気出た時、傾向とか調べマス! 誤魔化されたらコマリマス!」
「まあまあ、いいじゃないですか」
 審査官はやや真面目に、肥満男の方は愉快そうに、凜のことを責め立てる。
 凜は全裸なのだ。
 誰もがきちんと服を着ている中で、まるで犯罪者の厳しい検査のような扱いで、まだまだ診察も残っている。身分を低められた心地で心は弱まり、強気な言葉を返す覇気など持つことはできない。
「あの、すみません……」
 凜は軽い会釈めいて頭を下げ、謝罪していた。
「少し、お腹引っ込めてたので……」
「そっかそっか。なるほど? 一センチでも細く見せたかったんだねぇ?」
 うんうんと、納得しきったようにしきりに頷き、肥満男はいいことを知って満足そうな顔をしていた。
「こういうこと! ないようにお願いシマス!」
 やはり、審査官の方は真面目に腹を立てているらしい。
「……すみません」
 凜は改めて謝った。
 情けない、みっともない。気恥ずかしい事が発覚した思いから、凜は自然と肩を萎縮させ、できることなら消えてしまいたくなってくる。
「訂正くらいなんとかなるし、大丈夫大丈夫。次はお尻測ろうね?」
「……はい」
 ヒップの測定に移る。
 肥満男は下半身に腕を回し、指先でかすかにお尻を撫でながら、メジャーを巻き付けていく。アソコの近くに、陰毛のびっしりと生えた部分に目盛りは重なり、それでなくともアソコをまじまじと見られている羞恥は、顔の接近によって強まっていた。
(やっぱ、恥ずかしい……けど、どうして……)
 甘い電流が走っているように、視姦されるとウズウズと、アソコが蜜を分泌しようと準備を始める。いつ愛液が出るとも知れない不安の中で、濡れたことを指摘され辱しめられてみたいような、真っ平であるような、どちらともつかない思いにかられていた。
「八五・三センチ! お? 三ミリだけど、あの時よりも良い尻になったみたいだね?」
 お尻のサイズを茶化されて、辱しめを受けた感覚にアソコが酔い、余計にウズウズとしたものが芽生えていた。
 
     †
 
 内科検診のため、凜を椅子につかせた肥満男は、ニヤニヤと聴診器を当てていた。さりげなく、さも偶然のように乳房に指を掠めさせ、そのたびに瞳が揺れる反応を大いに楽しむ。
 全裸になることは、もう慣れてしまったらしい。
 だが、完全に慣れているかといえば、男達の視線を気にしたり、言葉をかければ恥じらいを見せてくる。そんな顔が赤らむ瞬間や、指が当たることを気にした挙動が実に可愛く、肥満男はすっかり楽しんでいた。
 好きなアイドルの裸を見て、楽しくないわけがない。
 こんな絶好のチャンスを逃さないため、肥満男はたまにさりげなく、本当に何でもない風を装いながら、胸ポケットのペンを気にしていた。
 盗撮しているのだ。
 ペン型カメラに裸を収め、奇跡の映像を記録している。アイドルの裸体を拝む機会なのだ。検査の時間だけで終わらせるのは勿体ない。この時間が終わっても、その後も楽しむための極上のお土産が欲しい。
 肥満男だけでなく、審査官に、見学者に並ぶ男達と、複数のカメラが複数の確度から撮影を行っている。それぞれがバッチやペンに見せかけたカメラを使い、さらには棚や机にも、物の隙間に隠れる小型カメラがある。モバイルバッテリーに見せかけたものがある。ファイルケースに穴があり、そこからカメラレンズが覗けて見えもする。
 凜は気づいていなくとも、この検査部屋はこれだけカメラまみれなのだ。
「では背中を向けてね?」
 指示した途端、凜は一瞬だけ躊躇うが、そんなものは気のせいだったように、あっさりと反対側に身体を向けていた。多少の慣れからすぐに動いてくれてはいるが、見学者の横並びの列に向け、乳房を見せびらかすことになるのは、やはり恥ずかしさがあったのだろう。
 背中に聴診器を当て、深呼吸の指示を出す。
 吸い込む音、吐き出す音、肺から聞こえる音に不審な雑音が混じったなら、こんな肥満男でも医者である。症状の存在に直ちに気づき、病気の特定をしようとするだろう。
 もっとも、心音も呼吸も良好で、凜の身体に異常はない。
「はい。ではね、全身の皮膚を観察して、炎症や骨格の具合を見ていくので、こちらを向いて立って下さい」
 凜はだらりと腕を垂らし、直立不動を保っていた。
(うんうん、やっぱり凄いなぁ? あの渋谷凜! ファンやってて、その人の裸を生で拝む機会が二度も手に入るなんで、こんな人生、僕以外の誰が歩んでるんだろう)
 肥満男は悦に浸り、バインダー留めの書類上を片手に、その内容と比較しながら乳房を見る。乳輪が大きめで、焦げ茶色をした乳首の見た目は、写真と同一のものだった。
 あの最初の診断でも、盗撮は行われいた。
 高画質の、毛穴まで拡大可能な映像から切り取って、直立不動の全裸は手元にもある。プリントした画像で見ると、この時の方が赤らみは強く、目の前の本人は薄い赤面しかしていない。
「乳輪が大きいね?」
 顔を近づけ、じっくりと近くで観察しながら、そんな声をかけてみる。
 すぐさま、画像と同じ色合いにまで赤面した。
「えっ! いや、その……」
 凜は一瞬ぎょっとして、いかにも胸を隠したそうに、いじらしくも近くまで手を運んでいた。反射的にそうしていたが、結局は隠すことなく、だらっと腕を落としていた。
「おやぁ? コンプレックスなのですか?」
 嬉しい発見をしたように、審査官は肥満男の隣で問う。
「まあ、色とか、あまり可愛くないので……」
「いえいえカワイイですよ?」
 体つきの、気にしている部分についての言葉をかけられるのは、果たしてどんな気持ちがするものか。決して嬉しくはないであろう凜からは、何かやめて欲しそうな、勘弁して欲しいという信号が届いた気がした。
「ま、どんどんいこうか」
 肥満男は宝物を愛でる気持ちで乳房をじっくりと視姦して、肩や二の腕、肋骨回りや腹部の皮膚も観察する。
 いずれも、異常なし。
 体毛も、指示通りそのままだ。
「バンザイみたく腕を上げて? 脇やその回りも見るからね?」
 そう言って、肥満男は脇毛に満ちた黒い部位に顔をやり、その伸び放題となった有り様を見るにニヤける。普通は──というより、衣装を着たり、雑誌か何かの撮影があれば、露出に合わせて処理をしているはずの部分だ。
 濃い繁みは、気をつけの姿勢の時からはみ出ていたが、こうして見ると物凄い。根本の奥まで観察しようと顔を近づけ、すると匂いが漂った。風呂には毎日入っているのだろうが、それでも消えきらない香りがあった。
 真横からの眺めは、確度もあってか、毛先が邪魔して乳房が見えにくくもあった。
「うん。ボーボーだ」
「──っ!」
 言ってみるなり、凜の顔は歪んでいた。
「そ、剃るなって言うから……なんですけど……」
「わかってるよ? だから、ちゃんとボーボーだなって」
 悪びれることもなく、楽しげな表情だけを返していると、凜の赤らみは強まっていた。裸への慣れがあるせいか、ただ脱いで立っているより、何か言葉をかけた時の方がよほど恥じらいが現れていた。
「アソコはどうかな?」
 書類上の陰毛と、目の前の陰毛を見比べる。
 楕円形の黒い図形から、さらにその回りにも薄い灰色の草原を広げた毛の地帯は、やはり画像の中より僅かに濃い。本当に少しだけだが、楕円形の面積は広がっており、その生え方はススキを倒したかのようだ。
 左右から中央へと、お互いの先端を絡め合わせた形となっている。生え方のクセなのか、毛穴に確度がついているのか、三角屋根に藁を被せたような陰毛と言えた。
「うんうん、いいジャングルだ」
「ソウネー。これ、アマゾンです」
 二人してコメントするなり、肥満男は凜の顔を見上げてみた。
 カッと、赤みが増していた。
「後ろを向いてね?」
 凜に背中を向かせると、豊満な尻が目立った。
「おおっ、ほほほ。やっぱり、お尻のあいだから毛が見えてるね?」
「オーたしかに」
 言葉を投げかけ、凜は肩をぴくっと震わせていた。
「じゃあ皮膚のチェック、と」
 鼻が触れそうで触れない距離から、皮膚の視診で視線を這わせる。髪をどかしてやりながら、肩甲骨の回りを見て、さらに背骨に沿っていく。そのまま尻にたどり着き、はみ出た尻毛にふっと息を吹きかけた。
 お尻の肉がピクっとした反応を示す。
「うん。なるほどね?」
 肥満男はやはり書類と比較した。
 ぷりっとした丸い肉から、画像の方でも毛は少しはみ出ているが、今の凜には少し目立つ毛があった。一本だけ長く伸びているのかと思ったら、抜けたものがたまたま皮膚にくっついているらしい。
 指を近づけ、取ってやる。
(ふひっ、これが本物だってわかったら、高く売れちゃいそう)
 なんてことを考える。
「ではね。肛門調べるから、前屈して足首を掴むポーズお願いね」
 尻が高らかになった。
 尻たぶは姿勢のために割れ目を開き、放射状の皺をあらわにする。毛を生やした肛門から、下へと視線を移してやれば、ビラをはみ出したアソコまで見えてしまう。羞恥心を最大に煽る二つの部位が、同時に視姦できるのだった。
 やはり画像と見比べる。
 皺の周りを囲んで円形状となった一帯から、縮れた毛は外側に向かって倒れている。現在の方が、毛量であったり、長さが伸びているのは、どの箇所も同じらしい。
 このアングルでのアソコを見れば、ワレメの向こう側に陰毛はあるのだった。
「ところで、思い出してる?」
 肥満男は問いかけた。
「えっ!? あの、思い出すって、何のことで……」
 凜は一瞬、ドキリとしつつ、どうやら誤魔化そうとしている。
 だが、アソコの湿り気はしだいに目立ち、だんだんと光沢を帯び始めている。まだ手を触れてはいないのに、全裸にさせ、観察しているだけで愛液を分泌したのだ。
 きっと思い出している。
 前回の診断で、アソコを診察によって弄られながら絶頂したこと。

 ――あ、アイドル渋谷凛は……診察で絶頂しました…………。

 と、そう宣言させられたこと。
 普通は二度としたくない体験として、トラウマになったり、必死に忘れようとしたり、そんな女性が多いものだが、時として新しい性癖に目覚めることもある。
 こんな風に濡れているなら、凜はきっとそうなのだ。
 目覚めている。
「ほら、宣言したよね?」
 楽しくてたまらない気持ちで、肥満男は肛門に指をやる。皺の窄まる中心を、ツンっと軽くつついた途端、キュっと締まって腰全体もぴくりと動いていた。
「宣言? なんのことデショウ?」
「ああ、僕は日本でも渋谷凜の診断に立ち会ったんですがね。診察中に感じまくって、絶頂までしましてね」
 本人を前に、あのことをバラす。
 知られたくないであろうことを嬉々として話してやることの、そうやって虐めてやっている快感に酔い、肥満男は本当に楽しく語っていた。
「オーウ。感じまくりましたか」
「で、病気が原因だったらまずいでしょう? 症状のせいでビクビク反応していたら、きちんと発見しなきゃいけないわけですし、性的な絶頂なのか違うのか、本人によく確認するべきなので、きちんと宣言させました」
「つまり『ワタシは診察で絶頂シマシタ』言わせたのです?」
「そうなんです!」
 聳えた尻を横目に、肥満男は暴露してやった。
「はははっ、イケナイ子ですねェ」
「そうそう。いけない子なんです」
 仕方のない子でも扱うように、ぺちぺちと叩きつつ、尻に手を乗せ撫でてやる。
 ああ、どんな気持ちだろう。
 アイドルをこんな風にしてやることへの快感に、肥満男はのめり込んでいた。