廊下でお仕置きペンペンされる話




 不覚だった。
 居眠りをしてしまった。
 その教師は体罰教師として恐れられ、様々な噂が立てられている。
 テニス部を全国大会に導いた人物で、輝かしい実績を持ちながら、角方に顔まで利くらしい。校長がヘコヘコしているところを見たことがある。弁護士や政治家の知り合いがいると自慢したこともある。
 そんな教師の授業で寝てしまうのが、一体どれほど不覚なことか。
 赤城由香はテニス部だ。
 恐るべき教師のしごきを日常的に受けており、何かあるたびに校庭を何周も走らされる。テストの点数が悪い、最近遅刻が多い、練習にやる気が見られない。隙を見せれば、それが口実となって、追加メニューを言い渡されるのはしばしばだ。
 だから気をつけていたはずが、徹夜でゲームをしてしまった。途中で宿題のことを思い出し、慌てて終わらせたのもさらに不覚で、眠いまま乗る通学電車ではうっかり乗り過ごすまいと意識を張り詰めていた。
 ところが、授業になって持たなくなり、いよいよ眠気に耐えきれずに敗北して、気づけばノートにヨダレを垂らしていた。
 目を覚ましたのは、後ろの席の友達が何度もつつき、起こそうとしてくれたおかげである。
「ちょっと、由香っ、やばいよ」
 小さな声で警告をしてくれて、どうにか眠りの沼から這い上がることは出来たのだが、残念ながら遅かった。
「赤城由香。いいご身分だな」
 ご立腹の視線が由香に向けられていた。
「やば……」
 由香は冷や汗を垂れ流した。
 教師の名前は麻生剛一。
 角刈りで筋骨隆々、シャツの上からでも胸板の立派さが見てとれる体格の持ち主で、顔に傷跡でもあれば立派なヤクザに見えそうだ。
 正直、怖い。
 厳つい視線で睨まれれば、自然と萎縮してしまう。
「よく寝てたなぁ?」
「すみません」
「どうしたってんだ」
「勉強で、ちょっと……」
 ゲームをやり過ぎた上での勉強だが、宿題に打ち込んだのは嘘ではない。
「ま、きちんと勉強するのはいいことだな。ちゃんと進んだか?」
「はい、ちゃんと。提出に間に合いましたし」
「なるほどなぁ?」
 剛一は腕を組み、言いたいことがいくらでもありそうな、長々とした説教を始めそうな気配を醸し出す。テニス部所属の女子ならば、この雰囲気は誰もが知っている。このオーラを出している時の剛一は、ここぞとばかりに追加を言い渡したり、説教したり、さらには『名物』を持ち出すこともある。
 他所の学校ならとっくに問題になっていそうで、不思議と騒ぎは起きていない。校長さえも黙認している『名物』の予感に、不安な自分を誤魔化すような半笑いを浮かべていた。
「赤城。確か数学でも寝たことがあるそうだな」
「それはその、催眠効果が強すぎまして……」
「お前、レギュラーだろ? せっかく選んでやったのに、肝心の選手がそれじゃあ示しがつかない」
「すみません……」
 まずい、確実にくる。
 高校二年、かれこれ一年以上もテニス部をやってきて、部員の誰もが必ず1度は『気合い』を入れてもらっている。そして、由香が授業中に寝てしまったのも、気合いの不足と見なされている。
「ちょうど切りもいい。みんなは自習、赤城は廊下に来い」
 そう言って教室を出ていく背中を見て、もう腹を括るしかない状況に、由香はみるみる顔を歪めていく。
「どんまい。生きて帰っておいで」
「……う、うん。死にはしないよ」
 引き攣り笑いを浮かべつつ、由香も席を立ち上がる。
 廊下へと出ていくと、剛一は鞭を手にしていた。何十本ものビラを束ね、クラゲの足のように垂れ下がったその鞭こそが『名物』だ。
 過去何度か、やられたことがある。
 そして、誰も問題にしようとしていない。元メダリストだという剛一は、優れた実力と指導力を兼ねており、地獄のメニューのようでいて、オーバーワークにならないように一人一人の様子を観察している。大会が近づくと、どこからか対戦相手の試合を録画した映像を持ってきて、データの解説や試合前のアドバイスをしてくれる。
 精力的に部に尽くし、みんなを強く育ててくれる先生なのだ。
 部のために必要な人材を、だから誰も告発しない。
「そこに立て」
 窓の景色に向かって背筋を伸ばすと、その瞬間にパン! と、ちょっとした衝撃と共に、尻に手の平が張り付いた。
「これから何をすると思う?」
 これが凄腕の顧問が持つ、負の一面。
「指導です」
 由香は迷いなく答えていた。
 我ながら、上手くコントロールされているのかもしれないが、この人がいてこそテニス部は強い。由香だってレギュラーに選ばれ、全国大会に行けるかもしれない。先輩の話では、大学受験の際にいいところへの推薦も貰えるというので、剛一の行為を問題にはしにくいのだ。
 他の先生に相談した子が、騒いだり噂を広めるのは良くないと、その先生に説得された。校長のところへ行ったが校長は黙認していた。剛一が用意する数々のメリットに乗っかる女子自身でさえ、剛一のことが騒がれないように気を揉んでいる。
 どこかに話を持ち込んだり、相談して解決しようとするのは裏切りだと、そんな空気さえ形成されている。
 部の空気をそのようにコントロールしてのける手腕を前に、だから由香も、自分でも不思議なほどに、全てを諦め受け入れてしまっている。相手が大きく、何を言い出す勇気もなく、我慢あるのみだった。
「今から気合いを叩き込む。いいな?」
「はいっ」
 これは精神鍛練だ。
 心を鍛えるための行為だ。
「スカートを下ろせ」
「……はい」
 由香はスカートのホックを外し、すぐさまジッパーも下げていく。締め付けが緩んだものを手放すと、ばっさりと落ちたスカートが、上履きの回りでリングを成す。ワイシャツの丈だけがかかった水色のショーツに視線を感じ、頬を火照らせていた。
 ……何も考えない、何も考えない。
 廊下でスカートを脱いでいる事実を頭から追い出そうとしていると、あらゆるものが代わりとなって入り込む。窓の向こうにある向かい校舎の、あちら側の廊下の壁に掲示物が貼られている。静かな教室からは理科の解説を行う声が届いてくる。音楽室で行われる合唱も、かすかながらに聞こえていた。
 
 べちん!
 
 そうした中で、鞭が振るわれショーツ越しに打ちのめされた。
 我慢、我慢、我慢……恥ずかしさも、屈辱も、義務のように噛み締める。そんな由香のお尻に鞭のしなりは叩きつけられ、左右の尻たぶは交互に震動していた。
 プルン、プルンと、鞭の勢いに合わせて肉は弾み、ひりっとした痛みが尻肌で余韻となる。
 これくらい……そう思おうとしているが、よりにもよって廊下である。人が通って来はしないか気が気でない。
 大丈夫、授業中だから誰も来ない。
 来ないで欲しかった。
「おやおや剛一先生」
 こんな時に通りかかってきた声に、由香は赤らみを強めた。
「これはどうも校長先生」
「はははっ、ご指導の真っ最中ですかな?」
「そうなんですよ。この子、俺の授業で寝ていたもんで、聞けば前にもぐっすりしてたことがあるそうなんで、ここは指導が必要かなと」
「確かに必要ですなぁ?」
「どうです? 俺の指導ぶり、見学なされては」
 え……。
 由香は綺麗な気をつけのまま、背筋をピンと伸ばしているままに、見学の言葉を聞いて静かに戦慄していた。剛一の前でさえ、こんな格好でお尻を叩かれることを我慢しているのに、好奇心による見学などで、校長までもが由香の下着を見てくるのだ。
「遠慮なく拝見させて頂きますよ?」
 愉快そうな校長の声に、心の何かが蝕まれる。
「ほら、校長先生に何か言ったらどうだ」
「は、はい……。校長先生、どうぞ私の指導を受ける姿をご覧下さい」
 一体、自分はどこまで都合良く調教されているのだろう。情けなくなりながら、それでも真っ直ぐに前を見ていると、窓ガラスの表面にはうっすらと、わずかに由香自身の顔が映っていた。
 唇はぐにゃりと歪み、力んだ頬がプルプルと震えている。
 太陽が雲に隠れ、外が少しばかり暗くなった時、もう少しだけはっきりと浮き出た顔で、由香は自分自身の表情を知ってしまった。
 自覚がなくても、ここまで羞恥にやられているのだ。
 
 べちん! べちん! べちん!
 
 叩かれる尻がじりじり痛む。
「次はパンツも下ろす。いいな」
「……はい」
「声が小さいぞ」
「はい!」
 声を大きくするなり、腰の両側に急に指が入り込み、情け容赦なく一瞬で、水色のショーツは足首にまで下ろされていた。
 衝撃だった。
 瞬間的に真っ白となり、空白に占められた頭の中には、みるみるうちにお尻が丸出しである事実が染み込む。壁際だから見えにくいことだろうが、アソコだって出ているのだ。いつ人が通るかもわからない、現にこうして校長がやって来た廊下で、脳が恥ずかしさの信号を打ち始めた。
 このままでは人数が増えてしまうぞ、教室からクラスメイトが出て来ないかもわからないぞ、前だって向かされるぞ。先の展開を脳が勝手に想像して、そうなる危険を煽るためのシグナルを全身に放ってくる。
「ほおほお、ほんのりとした赤みで、なかなか可愛らしくなっていますなぁ?」
 校長がお尻を品評してきた。
「そうでしょう。それに、ボリュームといいフォルムといい、実にいいものを持っている。レギュラーになれるだけの実力があって、形までいいなんて、素晴らしいもんでしょう」
 剛一は由香の尻をまるで我が物のように自慢していた。
 お尻のことを言われれば言われるだけ、視線が突き刺さるチクチクとした痛みがあるかのように感じられ、脳の信号も勢いを強めていく。
「では校長先生」
 剛一が鞭を構えているのが予感でわかる。
 
 べちん! べちん!
 
 尻肉がブルブル震えた。
「おおっ!? ははははっ、プルプルしてるねぇ?」
 校長の嬉しそうな声に、由香の表情は歪む。
 
 べちん! べちん!
 
 お尻の赤らみが増していく中で、教室移動なのか、向かいの校舎に数人の男子生徒がいた。まさか下半身裸で、ショーツは足首まで下ろしてあるなど、あちらからわかることではない。目が合ったとしても問題はないはずだが、それでもこちらに視線を向けないで欲しい思いでいっぱいになる。
 だが、一人の男子が由香の存在に気づいてしまった。
 
 べちん! べちん!
 
 鞭が続いている中で、名前も知らない男子達の顔が向いてきたそれだけで、頭があらぬ想像をしてしまう。
 
「どうしたんだ? 下半身真っ裸じゃねーか」
「お仕置きされてんのか?」
「アソコが丸見えだぜ?」
 
 誰も言ってもいない、しかし下半身が見えたら言われかねない気がする煽りが浮かび、由香は勝手に羞恥する。
「さぁて、このくらいでいいだろう」
 鞭打ちが終わる。
 終わったはいいが、尻に絡みつく視線の感覚は続いている。校長も剛一も、どんなにいやらしい思いで形をなぞり、ニヤニヤとしているのか。視姦されていることを思っただけで、ヒリヒリとした痛みの残った尻に、さらにムズムズとした感覚が這い回る。
「痛かったなぁ? よく耐えたぞ?」
 打って変わって、剛一は優しい言葉をかけてきた。
 そして、撫でてきた。
「やっ……」
「ほら、もう大丈夫だからな?」
 まるで今までの苦労を労り、癒やしてやっているように、いかにも優しげなタッチで由香のお尻をくすぐった。産毛に触れるか触れないかの刺激によって、敏感になった尻肌は左右にくねり動いてしまう。
 やがて、手の平全体によって産毛を撫で回され、甘い微弱な電気が皮膚を駆け巡る。
「いやぁ! 素晴らしい指導でした!」
「そうでしょう。みんなこうやって心を強くしていくんです」
「確かに、良い鍛錬になりますなぁ?」
 校長はとても良いものを見せてもらったような満足感を浮かべていた。顔など見ずとも、どれほど満足に満ちた表情なのかはよくわかった。
「前を向きなさい」
 非情な指示だった。
 生のお尻を出すのも恥ずかしいのに、この状態で前を向くことの羞恥を思っただけで、脳が熱を上げていく。
「さあ、早くしなさい」
 急かされて、由香は身体を反転させた。
「ほう?」
 関心する校長。
「なるほど、綺麗にしてあるようだな」
 腕を組み、納得を浮かべる剛一。
 由香のアソコは綺麗な縦筋となっており、その上に生える毛は、ハサミによって長すぎず短すぎない三角形に揃えてあった。見栄えを整え、密林にはならないようにしてあるのは、この儀式の際に前を向かされる恐れがあるからだった。
 男二人の視線が性器へと絡みつく。
 じゅわ――と、顔の加熱で頬から蒸気でも上がったかのように、由香は羞恥の熱っぽさを浮かべていた。
「では赤城由香。指導を行った俺に対するきちんとした言葉を言いなさい」
「……はい」
 これは儀式だ。
 全ての女子部員は神聖なる顧問に忠誠を誓い、いついかなる指示にも従う。その心意気を示すため、お尻を叩いた相手に対して言わされる。
 決まった台詞があるわけではない。
 しかし、それ相応に整った綺麗な言葉をその場で考え、言わなくてはならないのだ。

「い、居眠りをしてしまった私に対し、素晴らしい活を入れて頂いて――本当にありがとうございました……。今日の指導を無駄にせず、これからの授業はきちんと取り組んでいきたいと思います……」

 そして、由香は頭を下げる。
 沸き上がる屈辱に表情を歪め、脳の沸騰で頭がどうにかなりそうな由香は、とても人には見せられない変形しきった恥辱の顔を廊下に向ける。そんな歪みきった表情を取り繕い、平静を装えるようになるまで、由香は礼のポーズを維持していた。
 やっとのこと、顔を上げる。
 剛一も、校長も、どちらも満足感に満ちた歪んだ微笑みを浮かべていた。楽しくてたまらない、最高に気持ちがいいような笑みで唇を大きく釣り上げ、これ以上ないほどにニタニタしていた。
 奴隷に面白いことをやらせて楽しむ王様だ。
「ようし、もういいぞ?」
 とても口には出せない、胸の奥にしまっているしかない感想を心に抱き、自分はそんな奴隷なのだと自覚しながら、由香はショーツとスカートを穿き直す許しを得る。
「さあ、戻れ」
 恥辱の余韻を尻にも心にも残したまま、由香は教室へと戻っていく。
 席に着いた時、後ろの席に座る仲間は――同じテニス部の友達は、無事に生きて帰った由香のことを励まし称えてくれた。



 
 
 

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