第1話「風チラ狙いのシャッターチャンス」

目次 次の話




 さぁて、久々の地球だ。
 楽しませてもらうぜ。
 クックック……。

 宇宙船の中、モニターに映る青い星を眺めるのは、トゥーサッツ星人という名の宇宙人だ。特別な性癖を持つ彼は、数いる知的生命体の中でも、地球人の女を好んでおり、暇さえあれば物色に訪れる。
 彼にとって、今日は久々の地球だ。
 ある程度まで宇宙船を接近させると、トゥーサッツ星人はワープ装置で地球に降り立つ。この星は慣れたもので、宇宙人の姿で歩けば目立つことから、ちょっとした文化や常識に至るまで、あらゆる情報を吸収している。
 彼は中年男性の姿に化けていた。
「お? 風が強いな。そういえば台風が近かったか」
 手持ちの携帯端末の画面を見ると、地球時間に合わせた設定が朝の八時過ぎを示す。学校の登校時間であり、通学路には制服を着た男女を数多い。制服姿が何人もちらほらと、学校を目指して同じ方向へと歩いていた。
 誰もが傘を持っている。
 予報では、夕方には降るらしい。
「さぁて、誰にしようか」
 トゥーサッツ星人はSNSでも見ている風を装いながら、電柱に背中を預け、チラチラと町の景色に視線をやる。目の前を通り過ぎる女子生徒を見送り続け、好みにあった少女を待ち侘びる。
 外見が好みに合えば誰でもいい。
「よし」
 ようやく、見つけた。
 トゥーサッツ星人が目を付けたのは、黒髪を綺麗に切り揃え、前髪はヘアピンで留めた大人しそうな女子だった。夏用のワイシャツにベストを着て、スクールバックを肩にかけている。信号機の様子を見るに、そちらの方が早いと思ってか、少女は歩道橋の階段を上がり始めた。
 しめたものだ。
 いかにもさりげなく、決まった行き先に向かうつもりになりきり、少女の後ろについていく。スカートの短さがいい。下から覗けば見えそうな、けれど揺れる丈から本当には見えない絶妙な調整が逆に興奮を煽ってくる。
 ポケットに手を突っ込み、トゥーサッツ星人はとある発明品を解き放つ。
 ハエ型カメラ――携帯を操作するフリをしながら、タッチ画面で操ることが可能な機械のハエだ。スカートの中身を撮ることなどいかにも容易く、外見も地球の種類に合わせてある。万が一見つかっても、本当のハエだと思うだろう。
 それをスカートの中に潜り込ませ、トゥーサッツ星人は執拗なまでに写真を撮る。
「ちっ」
 小さく、舌打ちした。
 残念ながら、彼女は重ね穿きをしていた。映ったものは体操着の短パンだ。体操着そのものは好きなのだが、今ここで撮りたかったのはパンツなのだ。盗撮で下着の写真を手に入れることがしたかった。
 まあいい、まだチャンスはある。
 トゥーサッツ星人は少女から距離を置き、なるべく遠くからの尾行を行う。学校を突き止めて、さも始めから用事などなかった振る舞いで、興味すらなく校門前の道を通り過ぎてみせながら、再びハエ型カメラを放つ。
 狙いの少女のバッグに潜り込ませ、行動を探ってみようと考えたのだ。
 映像の撮影から、盗聴機能まで兼ね備え、相手の素性を探ることは実に容易い。授業中の声や友達との会話を聞くに、名前は西連寺春菜らしい。休み時間の会話から、何度か「ララ」と聞こえたが、まさかデビルーク星の王女だろうか。
「さて、どうすっか」
 あの短パンはおそらく体育の授業用で、朝のうちに穿いておいたものだ。体育さえ終われば、短パンの重ね穿きがなくなっている可能性は十分ある。
 狙うなら放課後、帰りの時だ。
 道ばたを歩く少女のパンチラを撮りたい。
 性癖から、強いこだわりを持つトゥーサッツ星人は、今はまだ下着も裸も狙わない。西連寺春菜にまつわる情報収集だけに努め、あとは静かに放課後を待っていた。
 長い時間をやり過ごすため、ワープ装置で宇宙船に戻り、大気圏外からの超遠距離操作でハエを操り、授業中の様子や休み時間のお喋りの内容を収集していく。
 テニス部に所属しているようで、学校が終わってもまだしばらく時間はかかる。地上では雨が降り始め、屋外での運動はできないだろうが、筋トレや廊下を使った走り込みなど、屋内練習ということもある。
 部活もいつしか終わりを迎え、更衣室に入っていく女子達の背中を映像で確認する。
「そろそろ行くか」
 トゥーサッツ星人は改めて地球に降り立つ。
 雨が強かった。
 中年の姿をして、人間の風習に合わせてビニール傘を差してはいるが、強く勢いのある雨粒が無数にぶつかり、頭上で弾け続ける音が実にうるさい。濡れた路面には、晴れていた時にはわからなかった凹凸が水たまりによって明らかになり、下手にあるけば靴下までびしょ濡れだ。
 降り方にも角度がついて、いくら頭を守ったところで足下が濡れてくる。
 この調子なら、水たまりを踏まずとも、やはり靴下まで濡れか。
 さらには風も強いため、傘が持っていかれそうになる。風のたびに雨粒の角度は真横に近づき、腹のあたりまでパラパラ濡れる。
 そんな土砂降りの中で、さりげないつもりで校門の付近に控え、春菜の姿を見つけ出す。
 最初はなるべく距離を取り、遠くから尾行した。歩いているうちに友達と別れ、一人になったところで、トゥーサッツ星人はいよいよ接近を開始した。
 実に静かな住宅地の、雨と風だけがうるさい中を、春菜は一人歩いている。
 激しい雨が、きっと気配をかき消している。
 そう判断したトゥーサッツ星人は、実に大胆なまでに距離を詰め、半袖のワイシャツが濡れてぴったりと張りくところに目をやった。白い生地の下から肌色が透け、ベストさえなければ下着がありありと浮かんでいるだろう濡れ具合に興奮する。
 今のトゥーサッツ星人は人間に化けているが、本来の姿であっても、地球人類同様に股間のペニスが勃起する。ズボンが徐々に大きく膨らみ、綺麗なピラミッドが出来上がる。
 ハエ型カメラなど使わず、この手でやりたい。
 そう考え、トゥーサッツ星人は春菜の歩調に合わせて背後に張りつき、後ろの気配に気づきもしない春菜のスカートへと、カメラを差し入れて撮影した――撮れた。すぐさま確認すると、見事な逆さ撮りの白が手に入った。
 まず一枚。
 収穫を得た満足感に浸っていると――。
 その時、強風が吹き抜ける。
「やっ!」
 悲鳴を上げる春菜は、片手だけでお尻を押さえる。傘を片手に反射的に背中を反らし、下着を守ろうとする可愛らしさといったらない。誰かに見られやしなかったかとキョロキョロと、不安そうに慌てたように周りを確認して、ふと振り向く。
 目が合った。
 後ろの中年に見られたことを悟る春菜と、わずか一瞬の白を肉眼で捉えたトゥーサッツ星人の視線が重なる。
「白だったねぇ?」
 声をかけてやった。
 すると、頬が瞬く間に染まっていき、春菜はいかにも恥ずかしそうに、素早く前を振り向き直す。あからさまな早足となり、前へ前へと、一刻も早く家に着こうと突き進む。
 その後ろを、トゥーサッツ星人は着いていく。
 運が良ければ、また見えるだろう。
 トゥーサッツ星人は宇宙製のカメラを構えてチャンスを狙う。ハエ型は気づかれずに撮ることに特化しているが、あえてこちらを使って楽しむのも悪くない。
 そして、運は良かった。
「いやっ、またっ!」
 再び風が、先ほど以上の猛烈な勢いでスカート丈を巻き上げた。綺麗に捲り上がったスカートが激しくはためき、ぴっちりと張りついたショーツのお尻が丸出しとなっていた。
 すぐにシャッターボタンを押していた。
 丸見えのショーツがくっきりと映り込む。濡れているせいか、歩いているうちにずり込んでか、お尻の割れ目に布が食い込み、丸い形がしっかりと現れている。白い生地だからか透けていて、純白の向こうに見える肌色の、尻山の狭間さえも見てとれた。
 ゴムが柔らかな膨らみに食い込んで、お尻はぷにっとはみ出ている。素晴らしいハミ肉が画像となった一方で、春菜は先ほどのように後ろを手で押さえていた。
「ありがとう。また見せてもらったよ」
 中年の顔でニっと笑い、土砂降りに負けない大きな声を投げかけると、春菜はビクっと振り向き赤くなる。両手に抱えるカメラを見て、戦慄さえ浮かべながら、ますます赤みを増していく表情が実にいい。
 重なり合った視線を引き千切らんばかりに、春菜は勢いよく前に向き直り、必要以上の早足で進み出す。
 トゥーサッツ星人はそれに着いて歩いていく。
 春菜はどんな気持ちでいるだろう。
 スカートを常に押さえながら歩くわけにもいかない。両手で握っていなければ、今度は傘が暴れ出す。かといって、ふとした強風に反応して、どんなに早く隠しても、一瞬だけは見えてしまう。
 大胆に捲るほどの強風は散発的でも、スカートを揺らす程度の風ならしきりに吹く。ショーツが見えるには勢いの足りない風であっても――。
「やっ……」
 雨の音にかき消され、人間の聴力なら聞こえない程度の声も、トゥーサッツ星人には聞き取れていた。少しでも風が吹くたび、スカートが捲れることを警戒していた。
 チラっと、三角形の先端くらいは何度も見える。
 そんな風でも、春菜はやはり手を後ろに回してお尻を気にかけ、おそらくは前にも注意を払っている。
「次は前から」
 トゥーサッツ星人は一旦春菜を追い抜いていく。
 まるでもう用事はないかのように、興味を失った自分を演じて背中を見せる。その実、背後の気配に気を配り、足音からきちんと同じ道を歩いていることを確かめている。
 来いよ? 風、来いよ?
 期待を込め、心の中で祈って待ち侘びる。
 やがて、予感がした。
「やっ!」
 来た!
 トゥーサッツ星人は早撃ちガンマンの勢いで振り向き、獲物を逃がさず思いっきり、バレることなど構いもせずにカメラを向け、連射機能で短い間に大量の画像を作り出す。強風が捲り上げ、持ち上がっていくスカートから、フロントリボンの付いたショーツが一瞬でも見えた時、カメラばかりか肉眼にも下着を納めていた。
「やめて!」
 悲鳴を上げ、春菜は思いっきり、力強くスカートを押さえ、身体をくの字に折り曲げてまで中身を守る。それを嘲笑うかのようにして、今度は逆方向からの風が吹き、お尻の方が丸出しとなっていた。
「いやぁぁぁ!」
 誰もいない空間に、それでもショーツの尻を突き出すポーズを取ってしまった形である。今度は逆に背中を反らし、手を後ろに回していた。トゥーサッツ星人が正面にいる以上、後ろから見えたり、撮られる心配はないというのに、春菜は全力で隠していた。
 それに合わせて、またしても風向きが真逆に変わる。
「やっ! なんで……!」
 もはや自然に弄ばれていた。
「やぁぁ……!」
 スカートが大胆に盛り上がり、強風によってはためく音がバサバサと聞こえてくる。あまりのことに反応が遅れてか、先ほどよりも数秒は長く丸見えに、春菜はいくらか遅れて手で押さえた。
 当然、連射は行っていた。
 風がスカートを捲り始めて、徐々に見えてくるまでの一連の流れが、何百枚ものコマ続きとなってカメラに収まったはずである。
「――いや!」
 春菜は走った。
 目の前の不審者から、下着の写真を撮る怪しい中年から、必死になって駆け出していた。水たまりを蹴り抜く飛沫を散らし、春菜は勢いよくトゥーサッツ星人の真横を駆け抜け、遠くへと去って行く。
 その背中を振り向きながら、トゥーサッツ星人はニヤついていた。
「逃がすわけないだろ?」
 トゥーサッツ星人は腕輪の装置のボタンを押す。
 それこそがワープ装置だ。銀色のリング状の、手首に巻き付けた装置によって、トゥーサッツ星人は即座に春菜の進行方向へと、走っていく先へと回り込む。
「やっ、なんで……」
 春菜まるで目の前に壁があったかのように立ち止まり、怯えた視線を向けていた。春菜からすれば、振り切ったはずの男がすぐまた目の前に立っていたのだ。不可思議に対する動揺と、不審者に対する恐怖に震え、子犬のように後ずさる。
 その瞬間に、またしても風がスカートを持ち上げて――トゥーサッツ星人はすかさず撮る。撮られた春菜は、もう遅いにも関わらず、勢いよく手で押さえ、隠したままスカートを離そうとしなかった。
「君、西連寺春菜ちゃんだよね?」
 トゥーサッツ星人は楽しげに名前を呼び、一歩前に突き進む。
「ひっ!」
 恐怖した春菜は、その一歩に合わせて後ずさる。
「お友達のララちゃんって、宇宙人なんだねぇ? やっぱり、デビルーク星の女王様かな? あのララ・サタリン・デビルークかな? 学校は彩南高校で、好きな男子の名前は結城リトっていうんだよね?」
「やっ、いや……来ないで…………」
 わざとらしくプライベートな情報を口にして、言えば言うほど春菜は震えた。見知らぬ男に素性を知られ、目の前でペラペラと述べられて、恐怖を感じないわけがなく、春菜はひどく青ざめていた。
「来ないで!」
 春菜はたまらず背中を向けて駆け出した。
「いいぞ? 逃げろ逃げろ」
 ご馳走を前にヨダレが垂れんばかりに歯を剥き出し、ニッと笑うトゥーサッツ星人は、まるで追いつく気のない小走りで追いかける。
 わざと追いつかないようにして、逃げる獲物の狩りを楽しみながら、走りながらもトゥーサッツ星人はカメラを向ける。走ることで捲れるスカートさえも逃さずカメラに捉え、収穫を増やしていた。
 そして、ワープ装置を駆使して、特定のポイントに追い込む動きを取り始めた。行って欲しい方向に走るあいだはそのまま走らせ、道が変わった途端にワープを使う。目の前に立ち塞がれば、春菜は回れ右して方向を変えて逃げていく。
 さながら、マップ上にその都度壁を設置していく感覚で、春菜が走るルートをコントロールしているのだった。
 万が一肉眼で見失っても、春菜の衣服にはハエ型カメラが潜んでいる。発信器の機能を搭載しており、居場所の確認など容易いのだ。



 
 
 

0