渋谷凜の全裸健康診断




 海外での仕事が来た。
 結構、大きいライブ。絶対に成功させたい。

 都内某所、大使館。
 プロデューサーがビザの発行など書類関係の手続きをしているあいだ、渋谷凜は医務室へと通されていた。
 最近、新種のウイルスが確認されたらしい。
 防疫の観点から、旅行などの前には健康診断を受けることが推奨され、行き先によっては未感染を示す証明書がないと入国さえ許されない。
 きっと、厳しいのだろう。
(内科でも、胸を出す可能性ってなくもないし)
 学校で受けた検診では、聴診器を当てるのは体操着の上であったり、病院でもシャツの上であった。普通より詳しく診るにせよ、あって胸を出すくらいか。
(我慢、するしかないか)
 積極的に胸を出したいわけなどないが、何とかなるだろう。さっさとやり過ごしてしまえばいいくらいに、彼女は考えていた。
 しかし、嫌な予感がしてきたのは問診が始まってのこと。
 白衣を纏った担当医を前に、まずは日頃の調子や病歴について聞かれ、そのうち新型ウイルスとやらの説明が行われる。ウイルスのせいで防疫が厳いのだから、そこに話が及ぶのは当然だと思ったが、聞いているうちに不安が募る。
 現状では医療機材による測定が出来ない。脳や内臓をスキャンする様々な方法がありながら、それらでは発見不能なことを告げ、だから人の手でやるしかないとしつこく語る。
 ではどうやって確かめるか。
 感染者には特徴的な肌の炎症やアザなど、様々な傾向が見られることから、皮膚を視診しつつ確かめていく必要があるとされ、凜は不安を浮かべていた。
 胸を出す羽目になるだろうか、というのが凜にとっては最大の懸念だったが、そんなものでは済みそうにない。

「衣服を全て脱いで下さい」

 担当医の口から最終的に出て来た言葉に、凜は青くなっていた。
「脱ぐって、脱ぐんですか?」
「そ、脱ぐの」
 それが当然、何がおかしいとばかりの態度で、早くしろと言わんばかりだ。
「いやぁ、全部って……」
「できないの?」
(なんなの? この人)
 感じが良いとは言えない担当医に、凛も気分を損ねている。
 だいたい、他にも補助なのか何なのかで、何人かの男が入っていて、女性など姿もない。男に囲まれた状態で脱げと言われて、易々と脱げるわけがない。躊躇って当然なのに、脱げない凛への嫌味な眼差しが突き刺さる。
「悪いけど、このやり方を決めたのは俺達じゃない。君が行こうとしてる国の方ね。もう説明は聞いてると思うけど、診断証明ができないと入国できないよ」
「それは、そうなんでしょうけど……」
 凛にとって、入国できるか否かはイベントに関わっている。旅行ならば行き先を変えられるが、既に話の進んだイベントではそうもいかない。
「こっちとしては、君が入国できてもできなくても関係ない。条件に納得できず辞退しました、でもいいんだよ」
「待って!」
 このままではライブ自体が出来ない危機に、凛は思わず声を上げていた。
「なら、脱ぐ?」
 担当医はもう既に飽き飽きしているような態度であった。
(初めてプロデューサーに声かけられた時は、アイドルなんて興味なかったけど──)
 人生初のライブを行い、レッスンで培った全てを出し尽くした後の、イベントが終わってもなお身体中に熱が残った感覚を凛はよく覚えている。
(──あれから、あの頃には信じられないくらい有名になって、大きなライブもこなして、次のライブはもっと大きいイベントになる。絶対、成功させたい)
 アイドルとしてのプロ意識で、凛の中で何かが切り替わる。これもイベントに関わる準備の一つで、開催すらできなければ成功も何もない。裸が恥ずかしいなんて理由では、絶対に台無しにはできない。
「脱ぐから、お願いします」
 凛はスクール用のセーターを脱ぎ始めた。手早くボタンを外していき、ネクタイもほどいた凛は、そのままワイシャツのボタンも外す。上からしだいに裸が覗けて見えるにつれ、頬が桃色に染まっていく。
(大勢の前に出て、歌って、踊って、それを何度もやってきた。今の私なら、裸になる度胸くらい、ある)
 ワイシャツの袖から腕を引き抜き、凛の上半身はブラジャーのみとなった。
(早く、脱いじゃおう)
 頬がしだいに熱せられ、顔の温度が上がっている感覚を覚えつつ、スカートのホックを外して脱いでいく。ブラジャーのホックも外し、肩紐を一本ずつ下ろしていく。
 最後にはショーツを脱いだ。
 男という男の視線を浴び、さすがに赤面を自覚して、今の自分はどれほど赤いだろうかと思いながらも、凛は全裸となっていた。
 乳房を晒し、ワレメや陰毛も隠しはしない。
(毛とか、剃っとくんだった)
 こうなるとわかっていれば、体毛の処理はしてきていた。
 単純に裸でいることの恥ずかしさが一番だが、加えて毛のことが気にかかる。イベントの開催日まで、実際にはまだ数日ほど時間があり、ファンの前に顔を出す予定もなかった今、脇毛が生えてしまっている。陰毛も伸びており、あまり綺麗には見えないだろう。
 どこをどう見られているかわからない。
「まずは身体測定だ」
 担当医は身長計を指す。
 凛は木製の柱に背中をつけ、ピンと真っ直ぐな姿勢を取る。
 何人もの白衣の視線が正面から殺到し、胸やアソコが男達の目に焼き付けられる。
(やっぱり、どうにかなりそう……)
 視線を意識すればするほど、胸の奥から感情が込み上げる。
「んじゃ、いくつだ?」
 担当医が真横に立つ。
(ちょっ!?)
 その瞬間に凛が動揺したのは、担当医が腹に手を当ててきたからだった。何のつもりなのか、必要もないのに押さえてやっているつもりか。手の平は下へと動き、ショーツのゴムにかすかに触れかけていた。
(な、やなんだけど……)
 凛の頭にバーが触れ、数字を読むためなのか、担当医の顔が耳に近づく。
「君、アイドルの渋谷凛だろ?」
 囁く声の吐息が耳に当たって、凛は不快感に強張った。
「……そう、ですけど。それが何か」
「知り合いがファンで、やたら語ってくるから、俺は興味なかったのに、そいつのせいで色々覚えちまった。身長はプロフィールの通りなんだな」
「それは、まあ」
 目で頷く。
「一六五センチ!」
(え、声! 大きいんだけど!)
 途端、身長を大きな声で発表され、凛はぎょっとしていた。
 担当医が読み上げたと同時に、男達の一人が紙に書き込みを行っていた。
(待って、それじゃあ――)
 体重やスリーサイズではどうなるのか。
 次は体重計を指され、凜はそちらへ移動する。金属の板に足を乗せ、デジタル式の数字が出るなり、担当医は恐れた通りに大声での発表を読み上げた。
「五四キロ! あれ? プロフィールより重いなァ」
「声、大きいんだけど……」
 大声での読み上げにぼっそりと文句を言いつつ、暴かれてしまったことに羞恥する。プロフィールと異なる数字を知られ、しかも重いともなれば、ただでさえ全裸な中で、ますます苦悶に胸を締め付けられる。
「次は僕がやるからね?」
 部下なのか同僚なのか知らないが、肥満気味の男がメジャーを手に凜に迫って、この人に測定されるのかと思うにゾっとしていた。
 鼻の下が伸びきって、息も荒く、興奮がありありと伝わって来る。
 発情した男の前で裸でいることの、あまりにも心許ない感覚に、それでも凜には姿勢よく腕を広げる指示が来る。胸囲測定がしやすいため、両腕とも水平に、左右に真っ直ぐに伸ばすように言われての、決して胸を隠せない十字架のポーズを取った。
「……うっ」
 まるで抱きつくようにして、正面からメジャーを巻こうとしてくる肥満男に、凜は険しい顔で引き攣る。
 しかも、顔が近づいた瞬間だ。
「僕はちゃんとファンだよ?」
 そう囁いてきた。
「……ど、どうも」
 こんな状況で、愛想も何も良くできず、そんな反応しか凜にはできない。
 背中を指先でくすぐられ、ぴくっと背筋を強張らせる。メジャーは手前へと引っ張られ、ピンとU字のように伸ばされて、ほどなくして乳房に巻かれる。
「八二センチ! プロフィールより大きいねぇ?」
「あの、だからそんな大声で……」
「はいはい。ウェストは?」
 聞く様子もなく、肥満男はメジャーの位置を変え、腹に巻き付けヘソの近くに目盛りを合わせる。そのついでのように、下から見上げんばかりに乳房を拝んできた。
「脇毛、生えてるね? 体毛も今は剃ってないんだ?」
 毛のことを指摘され、凜はぷいっと顔を背ける。
「言わないで欲しい」
「ごめんねえ? ウエストは? へえ、五八センチ! こっちも二センチ伸びてるんだぁ!」
 良いことを知って嬉しいように、肥満男は楽しそうに指摘する。
(だから、そういう……)
 腰が太くなったことを言ってくるデリカシーのなさに苛まれ、このままヒップの数字まで声に出されるのかと思うとたまらない。
 目の前で、肥満男はしゃがんだ。
 全裸の凛に対して、これではアソコのすぐ正面に顔がくる。陰毛とワレメをまじまじと観察してくる視線に、頬が加熱されるかのようである。視姦ばかりか、メジャーを巻き直すため、またしても抱きつかんばかりに腕を回され凛は震えた。
(無理っ、こんなの……!)
 アソコと顔の距離は縮まり、ますます視姦の圧を凛は感じる。
(いいっ!?)
 生尻に触られた。
 当の肥満男は、何も知らない顔でメジャーを巻き付け、アソコの上に目盛りを合わせてくる。数字を読むために顔が近づき、鼻先が触れそうな距離からの視線に、顔全体の温度が上がっていく。
(み、見てないで、早く終わって……!)
 視姦に耐え難くなり、腰が力んで震え始めてようやくだ。
「おっ! 八五! 四センチも大きいんだねぇ!」
 明るく大きな声で、お尻の大きさが発表された。
「やだ……」
 顔がしわくちゃになったとさえ言えるほど、凛は表情を歪めて俯いた。まぶたはぎゅっと、頬も固く、羞恥がありありと浮かんでいた。
 
     †
 
 やっと身体測定が済んだにすぎない。
 もうやめて欲しい、勘弁して欲しい思いでいっぱいの凛なのだが、担当医によって次の検査が言い渡させる。
「肛門検査だ」
「うそ……」
 凛は青ざめた。
 お尻の穴を観察されるだろうことは、想像するまでもなかった。
 しかも、凛に指示されたポーズは、足を大きく開きつつ、自分の足首を掴むというものだ。前屈のように尻が高らかになり、よく目立つ。お尻の割れ目も姿勢に伴い開くので、ポーズ一つで肛門まで丸見えだった。
(この体勢っ、恥ずかしすぎる……!)
 長い髪を床に垂らして、逆さになった周囲の眺めを見ていると、何人もの白衣の足で尻の回りに何人もが集まっているのがわかる。おびただしい数の視線を感じて、凛は羞恥に震えきっていた。
「うわぁっ、尻毛だぁ」
(いや――さいあく――――!)
 先程の、ファンだと言ってきた肥満男は、いかにもショックを受けてみせている。
「お前、別にアイドルはトイレ行かないとか思ってないだろ?」
「そりゃそうだけど、これは驚きだなって」
「なら剃ってやったらどうだ?」
「あー。剃ってあげたいねぇ」
 人の肛門を話題にしてくるばかりか、剃る剃らないとまで言ってくる。
「ま、いいから早く調べろ」
 担当医のそんな言葉が出た途端だ。
(やっ!)
 肥満男の手が尻たぶに乗せられていた。
「へへっ、渋谷凛のお尻かあ。僕が調べてあげるからね?」
 アイドルのお尻に触れて光栄であるような、ファンとして嬉しい思いが如実に伝わる。二度とないチャンスを活かし、肥満男は凛の裸をしっかりと頭に焼きつけるはずだ。
 いやらしい気持ちで触れてくる、そんな男に肛門を診察されるなど、凛は恥辱感に震え始める。
(本当に? 本当に、お尻の穴なんて……)
 ビニール手袋を嵌める音が聞こえる。
 そして、ジェルを乗せた指がきて、まずはひんやりとしたものが当たって、お尻がぴくりと反応する。
「おっ、かわいい」
(やあ……!)
「はーい。入るよー」
 突き立てた指が押し込まれ、ジェルの滑りですんなりと、一本の指が穴の中へと収まっていく。
(うっ、うう……! やだっ、本当に入って……!)
 それでなくとも赤面していた凛は、ますます頭に熱を溜め込んだ。意識するまいと、無心でやり過ごそうと思ってみても、出入りしてくる指の存在感に意識を取られ、頭の中から追い出してなどいられない。
「どうだ?」
「なんかあるか?」
 他に控えていた男まで、肥満男に声をかけだす。
「うんうん、健康なもんだと思うよ?」
 穴に指が入ってまで、なおも肛門を話題にされ続ける感覚に、恥辱感で頭がどうにかなりそうだった。いつかは脳の蒸発が始まりそうなほどまでに、熱は大きく上がっていた。
 
 にゅぷ、つぷ、ちゅぷ、
 
 指の出入りによって、ジェル状の音が立つ。
 
 ずにゅっ、ちゅぷ、
 
 ゼリーの内側で細やかな泡が弾ける音を立て、ビニールにカバーされた指は見え隠れを繰り返す。ピストンを感じているうち、だんだんと下腹部が引き締まり、きゅっと力が入っていく。
(~~~~っ!!!)
 地獄の羞恥に苛まれ、もはや頭が壊れそうでさえあった。
「はーい。おしまーい」
 実際には数分間の出来事でも、凛にとってはもう何時間も肛門をやれ続けていた感覚だった。長いあいだ指と穴が一体化していたせいで、何も入っていないことに、たった一瞬でも違和感を覚えてしまった。
 それでも、指は抜けたのだ。
 少しでも終わりに近づいたことに安心しようとていると、続けて次の何かの機材が運ばはる気配を感じ、はっと強張る。キャスターのタイヤの音、どこからか道具を手に取り近づいてくる感じは、まだ肛門検査は続くことを暗示していた。
「肛門鏡で、中をより詳しく診るから」
 担当医の声だった。
 さらには肥満男からも触診しての感じを聞き出し、診察に関わるなにかのやり取りを交わしていた。真面目に診察していたのかという、かえっておかしな感想さえ、凛は抱いているのだった。
「じゃあ、入れるからねえ?」
 きっと、何かカメラの付いた器具を挿入し、映像で確かめるということだ。
 今度は指よりも遥かに太い、棒状の何かが放射状の皺を押し広げる。穴を拡張される苦しさに呻き、歯を食い縛っている一方で、男達はモニターを見ていた。
 凛自身には見えない、羞恥に悶えるばかりで見ようともしていないモニターは、挿入用の器具に映った映像をリアルタイムに流している。肥満男が器具をピストンさせたり、角度を変えてやることで、映像の中身もアングルが前後する。
 内臓の内側にレンズを押し付けてあるような、赤やピンクの色合いがライトに照らされ、医師としての眼差しがそれを診る。症状さえあれば発見するわけなのだが、ないともなれば、ただの雑談が行われる。
「ところで、君はアイドルなんだって?」
「いやぁ、ファンにバレたら殺されちゃうかなあ?」
「僕がファンだけどね」
 人が屈辱的なポーズを取り、肛門にも器具が入ったままなのに、乙女を気遣う様子など何もなく、楽しげに会話など繰り広げる。
「しっかしまあ、まさに外部には出せない光景ってわけだ」
 担当医の気配が迫り──
 
 ぺちん!
 
(え?)
 叩かれた。
 
 ぺちっ、ぺちっ、
 
 理由も意味もないのだろう。ただそこに高らかな尻があるから、何気なく手を伸ばして叩いてみる。やる側にとってはスイッチがあったから押してみる程度のものでも、やられる凛にはたまったものではない。
「あ、あの……!」
 さすがに声を上げようとした時だ。
「君、濡れたわけ」
 担当医に言われ、すぐさま凛は自覚した。
 
 濡れていた。
 
「ちっ、ちがうから!」
 反射的に否定しながら、それでも凛のワレメはぬらぬらとした光沢をまとい、部屋の明かりを反射して輝いている。それは決して、肛門のジェルが垂れたものではなく、確かに渋谷凛の愛液なのだった。
「特有の香りだな。ったく、興奮することないだろ」
 担当医自身の態度は、馬鹿馬鹿しいものを見て呆れるものに他ならない。ため息まで吐かれては、プライドが潰れそうだ。
「おお? 僕の手で凛ちゃんが感じてくれたかと思うと、物凄く徳した気分だよ」
 肥満男が喜んでいた。
「おお? よかったねぇ?」
「日本中のファンの中でも、こんなことしたの君だけだよ」
 武勇伝を讃える声さえ上がった。
(なんで? どうなってるのここ)
 泣きたくなった。
 悔しさで震えそうだった。
 どうしてこんなことに耐えなくてはいけないのか、わからなくなっていた。
 
 こんなことされて、疼くなんて……。
 
 そんな事実にさえ、凛は打ちのめされていた。
 
     †
 
 凛は分娩台に乗らされていた。
(本当に……あとどれくらい……)
 ゆったりとした角度の背もたれに背中を預け、脚乗せ用の台に脚をやる。M字に股を開いた凛は、ベルトによって両足を固定されてていた。
「あと一息だ。まっ、頑張りな」
 担当医はそう告げて、カーテンを閉めてしまう。
 婦人科用の、上半身と下半身を仕切るためのカーテンで、凛の視界からは自分のアソコが遮られた。
「この検診は俺がやる」
 カーテン越しの正面から、担当医の声がして、凛は強張った。もう散々な目に遭ったが、今度は性器の中身を開いたり、膣に指を入れたりするのだ。
「…………」
 凜は静かに、緊張に満ちた面持ちで固まっているしかない。
 だから、気づく余地などなかった。
 ただただ、M字の股を曝している恥ずかしさばかりに耐える。この静かな時間は、きっとビニール手袋を嵌めるなりの準備をしているのだろうと、凜は疑いもなくそう信じていた。

 本当はカメラが向けられていることなど、凜にはわからなかった。

 凜の視界にあるのはカーテンと、カーテンでは遮断しきれないポジションに立つ男の存在だけである。担当医がカメラを構え、レンズをアソコに近づけて、その下にある肛門さえ納めようとしていることなど、気づきようがなかった。
 シャッターが押され、その音も出ない。
 無音のカメラに何枚も何枚も、執拗に記録され、無断で写真データを撮られているのは、本人も知らない方が幸せだろう。
「じゃあ、いくぞ」 
 指がぐにっと押し込まれ、凜の性器が開帳される。
(ううぅ……やだ……中身…………)
 カーテンの向こうでの出来事が、指の感触を手がかりにありあり浮かぶ。まるで透けて見えてるかのように、担当医の体勢や顔の位置まで無意識に想像してしまう。カーテンによる遮断は、かえって想像力を刺激されているのだった。
 どんな風に触れられ、どんな風に観察されているのか。
 脚に触れてくる両手の感覚と、指でワレメを広げられている感じに、アソコに接近する顔の気配が、いかに至近距離から性器の観察が行われているかを如実に伝える。
 視診なのだから、実に注意深い視線がきっと注ぎ込まれている違いなかった。
「ほーう? 改めて見ても、やっぱり愛液だなぁ?」
 担当医が断定した。
「はっはっは、そうだよねぇ?」
「仕方ない仕方ない」
「いやでも、これでエッチな気分とかなる?」
 男達の声を聞けば聞くほど、脳が焼かれていくようだ。
(早く――早く終わって……! 早く……!)
 苦しみ、悩まされんばかりの顔を浮かべて、凜は視線に悶えていた。
 その時だった。
「ひあっ、んぅ…………!」
 クリトリスの部分に指が掠めた。
「おっと失礼?」
 担当医は手を離し、ワレメの中身も閉ざされる。まさか、これで終わったなどとは凜も思わず、まだ苦難は続くはずだと予感していた。予感通りに再びアソコに指が来て、今度は片手でワレメを開きつつ、もう片方の指を挿入してきていた。
「んぅ…………んぅぅぅ………………」
 あたかも苦しんでいるような声が出る。
「触診してくからな」
 指が入ってからの一言だった。
 すぐに担当医は探り初め、凜の内部に何かを探る。不審な感触がなければそれでいい、健康か否かの確認作業に、凜は全身を石のように固めていた。
「ひあっ……!」
 まただった。
 また、クリトリスに指が掠めた。
「ごめんなー」
 軽々しい、気のない謝罪の声が来る。こんな謝り方で納得するかといえば、凜は微妙な気持ちを抱いていた。
「んっ、くぅ――」
 しばし、指のピストンが行われる。出入りによって、クチュリ、クチュリ、と、粘液をかき混ぜるねっとりとした水音が凜自身にもよく聞こえる。アソコの感じもますます高まり、自分がいかに濡れていて、愛液の量も増えているのかとを実感するに、いつしか凜は自分の顔を両手で覆い隠していた。
 誰に表情を見られているわけでもないのに、せめて隠すことを許される場所だけでも、これ以上ないほどに歪んでいるだろう顔だけでも隠したい、切実な思いで両手が顔面に貼りついていた。
「はーい。これは一旦終わって、と」
 指が抜けていく際に――ツン、と、またしても、クリトリスを指でつつかれ、腰がピクっと反応してしまった。
(……わざと? そんなこと、ないよね?)
 ここまで配慮に欠け、遠慮もない相手だ。
 クリトリスにも触診があるのなら、もっとあからさまにしてくるはずだ。
「ところでファンにはがっかりな情報があるんだけど、聞くか?」
 カーテンの向こうでビニールの音。手袋を外しているのだと凜にも伝わる。ならば終わってくれるだろうか、もう解放して欲しいと、神にさえ祈りたい願いがふつふつ湧く。
「なになに?」
 肥満男が担当医の言葉に食いついていた。
「処女膜がなかった」
「え!?」
(ちょ――――!)
 どんなぎょっとした表情か、声だけでありありと伝わる肥満男の驚きに、それ以上の驚愕を浮かべる凜。
「あーほら、激しい運動で破れることもある。ダンスとか色々あるだろ? そうと決まったわけじゃないが、可能性はゼロじゃないよな」
 勝手に処女膜のことを話した上、担当医は気遣いも何もなく、デリカシーなど考えず、経験済みの可能性を示唆していた。
「は、はは……いや、いいんだ……僕はアイドルに彼氏がいてもね、ちゃんと応援していくつもりだし……」
 明らかにショックを受けた様子が、声を聞くだけでも十分にわかった。
 それだけではない。
 ここまで膣に指が入ったり、クリトリスに掠めてきたり、散々に性感が高まり続けているおかげで、凜にはとある予兆があった。
 危ういところまで高まって、そんな時にである。
「あーあー。ま、検査の仕上げだ」
 担当医が行うのは、膣と肛門の両方に指を入れるという方法だった。ピースの形を取った二本の指を突き立てて、それを容赦なく埋め込んでいく。
(や、やだ! 二本!? 両方? なんで、こんな――――)
 決壊寸前まで追い込まれていた凜である。
 そんな状態で、上下の穴に指が埋まって、異物感がすっぽりと収まった時である。さらにはもう片方の手が動き、またしてもクリトリスを掠めた時だった。

「あっ! あぁぁぁぁ――――――!」

 凜は絶頂した。
 背中を浮き上げ、潮を吹き、脚をピクピクと震わせながら、愛液を撒き散らして盛大なまでにイっていた。
「あーあーあーあー」
 あからさまに呆れる担当医。
「え? すご!」
 嬉しそうに驚く肥満男。
「これはこれは」
「よっぽどスケベな体だったんだな」
「ってことは、やっぱ経験済み?」
「じゃないの?」
 口々に交わされる言葉。
「あ、あ……あ……あ…………」
 凜は震えていた。
 取り返しのつかないことをしてしまった。そんな思いに打ちひしがれ、起きてしまった現実が信じられない。だが、イった時の感覚で、潮を担当医の顔に引っかけたであろうことは、カーテン越しでも悟っていた。
 カーテンが開く。
 担当医の顔と白衣には、思った通りの痕跡が残っていた。
「や……その…………」
 頭が反射的に言い訳を探していた。
 怒られると思っていた。
 冷静でなどいられない凜には、ただただ自分がイってしまったこと、人の顔に体液をかけてしまったショックでいっぱいだった。
「今の、何かな? 痛かった? 痙攣したように見えたけど」
 しかし、予想に反して、担当医は病気や症状について気にしてきた。
「……え?」
 一瞬、ポカンとする。
「ほら、病気が原因となる反応だったらまずいでしょ? 見落としがないように、途中で痛みを感じたり、おかしな感覚はなかったか、詳しく話して欲しいんだけど?」
 妙にニヤっとしながら症状について聞き出そうとしてくる顔を見て、凜は悟った。
 ……わざとだ。
(この人、わざと…………)
「ほら、頼むよ」
 凜は担当医の言葉に追い詰められる。
 心理的に、精神的に、後のない状況に追い込まれている。ここで健康を証明し、書類の発行ができなければ、飛行機に乗っても入国できない。イベントの開催がかかっているのに、自分は異常なしと証明するには、真実を言わなくてはいけないのだ。
「ち、ちがい……ます…………私は…………その、気持ち良く…………」
 血の気の引いた顔で、凜は小さな小さな声で答える。
「気持ち良く、なに?」
「そ、その……私……イってしまって……」
「行く? どこに行くの?」
「そ、そうじゃなくて! 絶頂……しました……」
「声が小さいね。もっと大きな声で頼むよ」
 サディスティックな悪魔の顔がそこにはあった。
 周りに並ぶ男達さえ、サディストの笑顔を浮かべていた。
「そうだね。絶頂っていうなら、『アイドル渋谷凛は診察で絶頂しました』って、きちんと宣言して欲しいな」
 そうしなければ許されない、さもなくば書類の発行もさせてもらえない、そんな恐れに縛られて、凜はますます白くなっていた。
 言うしか、なかった。
 それしかないのだ。

「あ、アイドル渋谷凛は……診察で絶頂しました…………」

 涙ながらに宣言した。
「おおおおおおおおおお!」
 一体何のつもりなのか、肥満男は聞くに拍手を始めていた。担当医は実に満足そうな顔をして、他の面々からも勝ち誇ったものが浮かんでいた。

 惨めだった。
 人生で一番惨めな思いを味わっていた。

     ***

 ……プロデューサー……気づいてないよね?

 その晩、凜は彼と交わした言葉を思い出す。
「どうだった? 大丈夫だった?」
 まさか、何も知らずにいたというのか。なら、どうして把握していないのか。あらゆる疑問が一気に吹き荒れ、その場でプロデューサーを責めたい衝動に駆られながら、ついさっきまでの出来事を思い出すに赤面した。
「どうした? 調子悪いのか?」
 聞かれるに、凜は反射的に心を隠す。
「い、いや! 全然? 問題なかった。証明書、貰えるはずだから」
 上手く、平然と出来ただろうか。
 少しは様子がおかしく見えたかもしれないが、凜は精一杯に装った。

 そして――

 なにしてんだか。
 私……。

 あれから、肛門と膣に指を同時に入れる方法で、たっぷりと診察された余韻が、穴の中には未だに残り続けている。皮膚が情報を手放したくないかのように、触角が得た感じがこびりつき、しぶとく残留している。
 そんな凜は自らショーツを下げ、秘所に手を伸ばしていた。

 あんな惨めな思いして、本当に情けなかったのに……。
 悔しかったのに、恥ずかしかったのに、それでオナニーするなんて……。

 本当に、本当にどうかしている。
 自分でもわかっていながら、疼くアソコがどうにもならずに、凜は指を挿入していた。激しく掻き毟らんばかりの勢いで、活発な出し入れを行い快楽を貪って、この晩は多量の愛液を放出していた。
 長い長い時間をかけ、やっとの思いで満足して凜は思う。

 私、これからもこのネタでオナニーするんだ。
 あんな……最悪だったのに……。

 運命が決まってしまったかのように、凜は未来を悟っていた。
 そうなる自分を予感して、どこか諦めてしまっていた。  



 
 
 

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渋谷凜の全裸健康診断への1件のコメント

  1. 通りすがり コメント投稿者

    非情に素晴らしい設定ですね。
    検査が厳しい国では入国後2週間隔離され発症しないか検査となり
    毎日こんなことをされる羽目になったりとか
    激務により医療関係者が足りず、雑用係のバイト君なんかにも見られたりとか
    妄想が加速しますw

    +1