羞恥!サリーの精密検査 パート2

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 マイトガインのパイロットは世間に正体を隠している。
 よって、マイトウイングの中で苦しむ旋風寺舞人の回収と、その救急搬送も含め、全ては秘密を知る人間のみで行われた。
 防護服に身を包み、移されないように守りを固めた男達の手でキャノピを開き、操縦席から運び出すまでの一連の流れを見守り、それから吉永サリーも病院へ連れていかれた。
 あの紅蓮機体が噴出した紫の煙はウイルスらしい。
 ウイルス兵器の散布によって、コックピットにいたはずの舞人は感染して、急速に進む症状に彼は苦しみもがいたのだ。高熱とだるさ、体中の痛み、発汗。目の焦点が合わず、意識も朦朧とするといった症状の中で、マイトウイングを胴体着陸させただけでも奇跡のようなものらしい。
 本当ならビルにでも突っ込んで、亡くなっていたかもわからない事実にゾッとする。
 そして、サリーもしばらくは防護服の人間達に囲まれながら、隔離室での採血や唾液の採取を通して検査を受け、何故か感染していなかった。
 衣服への付着はあるらしく、変わりのものが用意され、それに着替えたのだが。
 隔離室の扉の中に、舞人は眠っている。
 サリーはそこに入ることもできず、浜田やいずみ、青木でさえも廊下に佇み、暗い面持ちで俯いていた。
「まさか、こんなことになるなんて……」
 浜田が悔しげに拳を震わせていた。
「舞人さん……」
 いずみの声も薄暗い。
 どんよりと重い空気が漂う中で、青木がいつものようなダジャレを言うこともなく、誰もが下を向いている。
「しかし、何故また気密性の高い操縦席に」
 ここで初めて、青木は疑問を口にした。
「それなんだけど、どうやらあのロボットがばらまいたウイルスは特別に強化されていて、密閉空間にも侵入することが可能なんだ。ガラスや扉のような場所に付着した後、隙間付近にいたものは、どんなに密閉力が高くても内側に侵入する。再び空気中に出て、結果、感染してしまうんだ」
 浜田の言葉はさらに続く。
「国や町をパニックに陥れるだけでなく、ロボット同士の戦いでも、武装の一つとして採用することが可能となるんだ」
「それでマイトウイングの中で感染したのね」
 と、いずみ。
「そうだよ、いずみさん。超AIのボンバーズやダイバーズなら、感染の心配なく活動ができるんだけど……」
 暗に肝心のマイトガインは出動できないとする言葉に、改めて暗い空気が漂った。
「表面に付着したウイルスを除去しないと、整備を行うこともできません。検査の手間がかかる分、メンテナンスの時間も増える。非常にやっかいですな」
 たとえ感染しなくとも、他に脅威の一面があることを青木は口にした。
 舞人達は戦っていたのだ。
 正義のため、人々に元の日常を取り戻すため、この事態を引き起こした黒幕を相手に、サリーの知らないところで奔走していた。
 だが、これでは……。
 暗くなるばかりのサリーの心に、ふとよぎる。
 そういえば――。
「あの、どうしてわたしは感染しなかったんでしょう」
 サリーもあの場で煙を吸い、コックピットの中にいた舞人よりも、よほど危険な中に立っていたはずなのだ。確かに個人差はあるだろう。症状が軽いケースがあるにはあれど、あの濃い煙を舞人以上に吸い込んでいるはずである。
「そうか! そうだよ!」
 浜田の顔が明るくなった。
「抗体だ! 世界がこんな状況になっても、ほんの一握りの人間は感染者多数を出した現場に居合わせながら感染していないとデータがあったんだ。しかも、サリーちゃんほどの抗体は、世界でもまだ前例がない! 抗体を調べれば治療薬ができるかも! きっと舞人も良くなるよ!」
 浜田の言葉に、サリーの顔も明るくなった。
 舞人が治るかもしれない。
 その期待を胸に大きく膨らませた。
「わたし! 協力します!」
 サリーは迷いなく申し出ていた。
 日常を取り戻そうと戦う舞人のため、何か役に立てることがあるならやってみたい。
 しかし、そこでいずみが言うのだった。
「待って! 研究のために体を提供するのは負担が大きいわ! 特に女の子には」
「そ、そっか……」
 水を差されてしまった浜田は、明るくなったばかりの表情を元の暗い色へと染め直す。
「あの場所は確か、提示された条件に同意がないと、協力の申し出を突っぱねちゃうもんね」
 個人の体質を調べ、そこからワクチンなりを作り出す研究になる。やはり、そこには何か負担の大きいやり方があるのだろうか。漫画アニメであるような、悲惨な人体実験とまではいかないだろうが。
「あの、いずみさん。負担って……」
 恐る恐る、サリーは尋ねた。
「ここでは言えないけど、その……隅々まで調べるのよ……」
「隅々って、もしかして……」
 サリーはあのバイトのチラシを思い出す。
「抗体の持ち主はね。今までにも研究者の人達が調べているんだけど、とても珍しい体質だそうだから、まだサンプルが足りないのよ。それで、その人達がどんな方法で研究に協力していたかというと、あまり良くない方法なの――別に、危険って意味ではないんだけどね。その、人権というか、個人の尊厳的に……」
 つまり、そういうことだ。
 あのチラシを思い出せば、裸体の要求があることは察しがついた。
 だから、 サリーは躊躇った。
 愛してもいない相手に、下着の一つも見せたくはない。唇も大切にしている乙女には、脱衣を伴う方法での協力は辛いものがある。嫌だと思う気持ちが沸き起こり、できることなら何でもやりたいと思ったはずの心は萎えていく。
 しかし、舞人やガイン達の戦いを思い出す。
 あんな風に命を賭け、危険を冒してでも戦う舞人が今、まさに苦しんでいる時なのだ。舞人だけではない、大勢の人々も苦しんでいる。日本の、世界の平和がかかった状況に、一度は萎えた気持ちは再び膨らむ。
 躊躇いを押し込んで、サリーはいよいよ決心した。

「わたし、それでも協力します」

 舞人のため、世の平和のため。
 吉永サリーは羞恥の精密検査を受けることとなる。

     ***

 サリーが見たチラシには学用患者とあったものの、実際には『患者』の募集とは限らず、研究の実験協力、治験協力などに同意してくれる人間を、高い給与と引き換えに募集している。
 そして、条件に同意できるか否かは、研究所にとっては重要な問題らしかった。
 たとえサリーほどの抗体があり、旋風寺コンツェルンからの推薦があったとしても、面接などの審査を経て、直接説明を行った上で同意書にハンコを得なければ、協力を募集しつつも受け入れる基準は厳しいらしい。
 だから、翌日。
「――ですから、是非とも協力したいと思っています」
 サリーは面接のテーブルについていた。
 テーブルを挟んで向こう側の、中年男性と向かい合い、志望動機についてひとしきり語ったサリーは、そんな風に言葉を締め括る。
 いくつものバイトをこなしたサリーである。
 面接でしっかりと喋り、きちんと働いてみせることをアピールするのは、もちろん慣れたものだった。
 ただ、今回ばかりは不安が大きい。

 ニタァァァ――――。

 テーブルの向こうに座り、頭頂部がつるりと輝く中年過ぎの、どことなく目つきがいやらしい彼は、豚井太彦というらしい。妙に垂れ下がった目尻の具合で、卑猥な視線を浮かべて見えるばかりか、鼻の下さえ伸ばしている。
「吉永サリーちゃんか。可愛いねぇ?」
 豚井はサリーが持参した履歴書を片手に、ニタニタと不気味に口角を釣り上げながら、鼻息を鳴らしながらチラチラと、制服のサリーに視線を寄越す。
 不安の曇りが差し掛かり、胸の内側が灰色に染まっていく。
 そのうちに、豚井はサリーの胸を主に視姦しているのだと、いやらしいことを考えていそうな顔つきの、わかりやすい目つきでさすがにわかった。
「色んなバイトをしているみたいだけど、働いた先はだいたい潰れてるんだねぇ? 主に犯罪ロボットのせいで」
「……はい。日雇いの時もありますけど」
「飲食店の接客、配達、男がやるような力仕事まで、すぐに潰れているとはいえ、色んな経験があるってわけだ。定着しないで職を何度も変えるのは、別に本人のせいじゃないし、何度も採用されてるっていうのも、まあ信頼ポイントの一つだよね」
「い、いえ……わたしなんて……」
 何かをひけらかすことのできない、むしろそうした部分は控え目な性格で、サリーは謙虚にも縮こまる。
「ただね? わかっているとは思うけど、研究や診察に当たる医師とか科学スタッフのみんなは、男だろうと女だろうと、男女関係なく脱衣の指示をしたりする。その際、恥ずかしい部分を開示するように要求してくることもある」
「………………はい。わかってます」
 想像するだけで、顔が赤らむ。
 乙女として、辛いものもある。
「承知の上ってことかな」
「はい。世の中の役に立ちたくて、それに――――」
 ――舞人さん、と。
 彼の名前は、心の中に留めておく。
「うんうん。わかるよ? 使命感にかられる気持ち」
 何故だか豚井はニッタリと、妙に悪巧みめいた笑みを浮かべている。サリーのことを品定めしている視線を寄越し、じゅるりと、舌なめずりの唾液の音さえ立ててくる。
 妙に怖い。
 サリーは緊張に身を固め、密かに警戒心を抱きつつある。
 けれど、それ以上にサリーは思う。
「わたしはみんなを助けたいんです。だからお願いします」
 どんな悲劇が広がっても、この一連の事態が巨大な悪な仕業でも、最後には正義が勝たなければ、そうでなければ世の中の平和はどうなるのか。舞人はそのために一生懸命戦っていて、自分にもできることがあるなら、サリーも何かの役に立ちたい。
 その思いを、祈るように込めていた。

「じゃあ、一回脱いでくれる?」
「……………………………………………………」

 サリーは沈黙していた。
 言葉が通じないかのように、それどころか時間が止まってしまったように、サリーは今の一言で固まっていた。

 …………………………え?

 と、かなりの時間差をもって、やっとのことで当然の困惑が浮かんでいた。
「え? あの、なんて言いました?」
 そして、今のは聞き間違いにすぎないことを期待するかのように、サリーは引き攣りながら尋ねていた。
「ああ、脱いでって言ったんだよ」
 何か勝ち誇ったかのように豚井は言う。
「そんなっ、ここでですか?」
 それがサリーには信じられなかった。
 医療、研究の場でこそ、脱衣の指示が出るのだと、サリーはそう思っていた。
 今この場でなど、想像さえしていなかった。
「だから、言ってるでしょう? 脱衣を伴うことになるんだから、後になってね? やっぱり無理です! 恥ずかしい! ってんじゃ困るわけ。実際、事前に話はしたし、同意を得たにもかかわらず、急にそんなことを言い出す困った子がいたりしてね。そのせいもあってか、必ずこういうテストをするように、俺も常々言われてるってわけ」
 いやらしい顔で目つきを細め、鼻の下を伸ばしつつある豚井は、どことなくそれらしいような、過去あったトラブルのせいで、そういう手順が導入されてしまったかのような具合に事情を語っていた。
「でも………………」
「世の中の役に立ちたいんでしょ? できることがやりたいんじゃないの?」
 先ほどの言質を元に、追い詰められ、行き詰まったかのようになるサリーは、返す言葉もなく俯いていく。
「でも…………」
 同じ言葉を繰り返すことしかできない。
 獲物を追い詰める野獣の瞳で、にったりと笑う豚井は、急に優しい顔を浮かべた。いかにも人の良さそうな、朗らかで温かな表情を突如浮かべた。
「ほら、スカートをたくし上げるだけでもいいから」
 そんな妥協。
 しかし、躊躇うばかりのサリー。
 豚井はサリーに向け、ありとあらゆる言葉を尽くし始めた。事前にテストを行う流れがいかにして導入され、いかに仕方なく行っているか。直前で騒ぎ出し、やっぱり無理だと言い出した女性により、どれほど困らされたのか。
 その話をより詳細に行いながら、だから脱ぐべきだと演説する。
「世のため人のため! 君は世間に貢献しようという気はないのかね!」
 何故か責め立てるような論調さえ唱え始める。
 サリーは弱らされていく一方だった。俯いたまま、精神的にもみるみるうちに頭が下がり、まともに上を向けなくなり、もはや断ろうだの、抗議の意志を表明しようといった力はそぎ落とされ、震えながらスカートに手を伸ばす。
「す、スカートだけで……いいんですか………………」
 せめて、それだけで済んで欲しい。
 そう祈る目で、サリーは豚井を見上げていた。
「もちろんだとも! それだけでも十分に立派だ! それだけのことができない女の子はたくさんいる! しかし君は立派だ!」
 今度は逆に、必要以上に褒め称え、持ち上げる。
 これで気を良くして、気分良く露出を行う性格など、サリーは決してしていない。自慢のボディを見せびらかし、視線を集めたがる気質を持っていない。痴女でも露出狂でもない、控え目な乙女であった。
 だが、サリーは自分のスカート丈を掴んでいた。
 拳が震える。
 少しでもたくし上げようとして、たった一センチでもスカートが上がった途端、むわっと、急な湿気と暑さの不快感に肌中が包まれたような心地がした。

 ニタァァァァァァァ……………………。

 おぞましい、いやらしい笑みがそこに浮かんでいた。
(い、いやッ……!)
 身の危険を感じて、サリーはぶるりと肩を震わせた。
(こんな人の前でなんて………………)
 見せたくない。
 やっぱり、嫌だ。やっぱり、無理だ。
 そう感じる気持ちはみるみるうちに膨らむ。
 拳に込めたはずの握力も弱まっていた。
「ほら、ね?」
 それを読み取ったかのように豚井は笑う。どこか勝ち誇り、まさしく自分の言った通りではないかと大きな顔をして愉悦に浸る。
 ほら、お前には無理だ。
 と、そう言わんばかりだった。
 何の力にもなれない、役になんて立てるものかと言わんばかりだった。
(だめ……まけちゃ――――――)
 だから、サリーは言う。
「いえ………………」
 やらなければ、舞人はどうなる。
 世の中はどうなる。
 そんな使命を背負ったように、だからこそ、そうしなければならない悲しい運命を背負ってしまったかのように、サリーは小さく口にする。
「…………いえ、やります」
 改めて、スカート丈を握る拳に力を加える。
 それをしだいに持ち上げ始めた。しだいしだいに、一ミリずつ、一センチずつ、太ももの露出面積を広げていく。面積の拡大につれ、豚井の眼差しは期待の光を宿していた。じっくりと眺めようと前のめりに、鼻息を荒げていた。
 面積の拡大に合わせて興奮していることがサリーに伝わり、まるで獣に餌を与えようとするかのようで不安が膨らむ。
(見えちゃう…………)
 太ももを半分以上は出したところで、もう下着が見えるまで、あと何センチもなくなると、サリーの中で緊張感は強まっていた。心が強張り、肩も強張り、全身が固くなる。表情もどことなく力んでいる。
 しかし、ここでパンツを見せることができなければ、採用はされないのだ。
(やるしか……………………)
 そうしなくてはならない宿命を背負わされ、抗うことなど許されていないかのような、悲しさしかない表情で目を瞑り、サリーは最後までスカートを持ち上げた。
 胸の高さを超えるまで、サリーはスカート丈を持ち上げていた。

 白い下着があらわとなった。

 お金持ちなどではない、バイト生活のサリーが穿くのは、決して高級なものではない。なるべく安い、簡素で無地の、凝ったレースや刺繍もない白である。フロントリボンも付いていない、装飾が何一つない綿の生地だ。
 当然のように視線は突き刺さり、サリーのそんな下着はまじまじと観察される。
 こんなにも安っぽい、オシャレでもない下着を穿いているのも、とても恥ずかしいことのように思えてきた。見栄えなどしない、安さで選んだパンツである。下着を見られる純粋な恥ずかしさに加えての、例えるなら人目など気にしない、ダサい格好を見せてしまった気持ちが、加算のように折り重なる。
 サリー自身にはわからない。
 貧乏だから節約しての、そんな選び方で穿いている下着が、サリーという女の子の属性を表している。それが興奮のエッセンスであることなど、サリー自身はわからずにいる。
「白だねぇ?」
 豚井は下着の色を声に出す。
 それが、サリーの頬を染め上げた。
「他の色はないのかな?」
 他にはどんな下着を持っているのか、聞きだそうとしてくる問いに、サリーは拒絶の意思を示せない。せっかく、というべきかはわからないが、恥ずかしい思いをして、報われることなく不採用にされてはたまらなかった。
「白しか……」
 オシャレな下着など持っていない。
 ただプライベートな情報を吐かされる気持ちだけでなく、まともな洋服を持っていませんと宣言させられるかのような、なにか惨めな気にさえなってくる。
「父親が入院中だとか言ってたね。下着も節約かな?」
 面接の受け答えだ。
 サリーは履歴書を出しての最初の受け答えで、志望動機を語る際に父親の入院についても話している。お金が必要な事情を語り、だから働きたいのだという気持ちを表明するため、家庭のこともいくらか話をしているのだ。
 そうした受け答えが、このタイミングで再開されたのだとサリーは感じた。
 こんな風にパンツを見せながら、きっと許しが出るまでスカートを下げてはいけない中で、視姦されながらの受け答えである。
「はい。ただでさえ生活費もかかりますから、節約できるところは節約して、下着も少し安いものを……」
「そうかそうか。僕が見ているのは、そんな切実な事情の籠もったパンティなんだね」
(うぅ……!)
 パンティなどという言葉の響きが、サリーをより一層の羞恥に苛む。いかにも満足そうな、関心したような表情を浮かべる豚井は、自分の見ているパンツにはエピソードがあり、家庭の事情を背景として身につけられた一品なのだという事実を知り、大きな特をした気にさえなっているのだ。
「ちなみに毛は生えているのかな」
「毛って…………」
「アソコも見るかもしれないからね。気になるようなら、事前に剃るなりしておいた方がいいね」
「そ、そうですねっ」
 表面では親切な指摘を受け止めたかのように、ぎこちない愛想を浮かべるサリーは、陰毛の話をされて明らかに引き攣っていた。
「他にはお尻を突き出すポーズなんかもあると思うから、今のうちに訓練しておこうか」
 豚井の提案は不安を煽る。
「……お尻ですか?」
 勘弁して欲しくてたまらない、悲痛の訴えがサリーの眼差しに浮かんでいる。お願いします、もう許して下さいと、声にこそ出ていなくとも、表情さえ見れば誰もがそんな懇願をされている気になるだろう。
「大丈夫大丈夫。何度も言うけど、ただ採用テストをやってるだけだからね。下着まで脱ぐ必要はないし、どうせ前から見るか後ろから見るかの違いだけなんだから、ポーズくらいは変えてもらうよ」
 豚井がサリーに指示するのは、椅子に両手を突きながら、腰を高らかにしてお尻を強調する姿勢である。
 もちろん、スカートは全て捲り上げ、白いパンツの尻は丸出しだ。
 だからサリーにとって、たくし上げたスカートを元に戻すことができるのは、ものの数秒間の気休めである。椅子と向き合い、身体を前に倒して、言われた通りのポーズと共に、サリーは改めて下着を丸見えにしているのだった。
 今度は相手の姿が見えない体勢で、それでもお尻を見られている。
 無防備に尻を晒し、視線によって炙られる思いをするサリーは、何かじりじりとしたものを尻肌に感じている。それは細胞の一つ一つが熱に揺らされ、痺れのような、熱さのような、そんな何かが表皮に広がっている感覚だ。
 視姦されている感覚である。
 豚井の視点からすれば、当然のように目の前に尻があり、頭の中ではバックからの挿入さえ想像しやすい。手で触れて、好きなだけ撫で回したい衝動にすらかられている。そうした男の欲望の気配がサリーにはわかる。
 豚井の心までは読んでいないが、少女としての警戒心が薄らと感じ取り、何か想像を膨らませていることだけは察知していた。
 そもそも、男と二人きり、密室でいる。
 サリーが今、切実に抱えている緊張感は、もしも豚井が暴力に走り、この場で性犯罪を行おうとしたら、どうにもできずにたちまち強姦されてしまうかもしれない恐怖だ。そこまではいかなくとも、サリーは既に十分な言葉のセクハラを受けている。
「うーん。可愛いお尻だ」
 そしてまた、豚井はサリーの身体についてを声に上げ、ニヤニヤと品評する方は楽しい分、される側にとってはたまらない。
「どれどれ?」
 味見のように、試しのように、豚井はサリーの尻に手を乗せた。
「いやっ!」
 当然の悲鳴が上がる。
「おっと、これもね? 途中で手を触れられたり、色々とするからね? このくらいは我慢できないとっていうテストのうちだよ」
 それがもう、サリーの心を縛ってしまう。
 サリーのことを採用するか、不採用にするか、その権限を握る男に対して、必要以上に嫌がることができなかった。それどころか、嫌がっている素振りを見せて、不採用の可能性が上がることさえ恐れていた。
(が……まん…………しないと……………………)
 たとえどんなセクハラの意志を持っていようと、豚井に決定権がある限り、豚井に逆らうことは得策ではない。だから豚井も強気になっているかもしれない、この実態こそがサリーに痴漢を受け入れさせていた。
 手の平が乗っている。
 綿の生地を介した男の手には、サリーのお尻を温めようとする温度がある。撫で回される恥辱に目を瞑り、眉間に皺を寄せながら、懸命な思いでサリーは耐える。
「あとは上も脱いで、下着姿になってみようか」
「そんな…………」
 手足が運命に絡め取られているように、サリーはそうせざるを得なかった。手がお尻から離れた安心感など感じている暇もなく、サリーはセーラー服を脱ぎ始める。脱いでいるところを見るのが面白いのか、その間、豚井の視線は始終サリーを舐め回す。
 完全に下着のみ。
 ブラジャーと、パンツと、強いて言うなら靴や靴下を残したのみの姿となり、サリーは全身を不安で包む。脱いだ枚数とは裏腹に、むしろ不安が身体を包んだ膜は厚くなり、頬に浮かんだ羞恥の色合いも増していた。
 サリーはただ、立ち尽くす。
 せめて腕で隠していたい気持ちの表れが、ヘソのあたりで無意味に両手を彷徨わせ、指がモジモジと絡み合う。視線を浴びることが辛いかのように、顔を背けているサリーは、視姦されるがままの恥辱に沈んでいた。
「いいねぇ?」
 と、豚井はサリーの下着姿を評価する。
「胸も意外と大きい。なかなかだ。君ならいい仕事ができるよ」
「そんな…………こと………………」
 いかにも悲しげな声が出るのは、まるでこれから風俗で働くかのような、体を売るためのような言い方をされた気になったからだった。体を褒められ、胸を褒められ、その上での、いい仕事ができるなど、そんな意味に聞こえてしまった。
「ま、テストは合格だね」
「本当ですか?」
 サリーの顔は、ここで初めて少しでも明るくなるが、今まで暗い緊張と恥辱にまみれた上で、申し訳程度の明るさである。曇りが薄まっただけに過ぎない。採用された先にある恥辱が脳裏に浮かび上がるなり、すぐにでも明るさは立ち消えて、より濃い暗雲が顔にかかった。
 これから、どんな羞恥にも耐えなくてはいけない。
「明日から、さっそく協力してもらうよ。かなりの抗体があるかも、っていうのは聞いているしね」
 ワクチンが出来上がるかもしれない、その可能性が生まれたことだけについては、サリーはひとまず安心する。もちろん、本当に出来上がるとは決まっていないが、自分の協力が舞人を救う可能性は確かにあるのだ。
「採用、決定」
「ありがとうございます」
 これだけの恥ずかしい思いして、豚井は特をしていた今までの時間。どうして自分がお礼を言うのか、そんな気持ちがさすがのサリーの中にもあったが、サリーは素直にお礼を述べているのだった。
「ま、そうなると、今度は明日に備えて色々と準備がある。君についてのデータを色々と揃えておきたいから、ちょっとした質問とか、唾液や血液の採取とか、今のうちにできることを早速やって、その上で明日からだね」
 今まで、いやらしい笑みを浮かべてニタニタとしていた豚井が、ここに来て仕事に取り組む真面目な面持ちを浮かべていた。
「はい」
「質問っていうのは、要は体調とか、昨日食べた食事とか、病歴とか。主に健康に関係のある内容。ま、病院の問診で聞いたりする内容だね。それから――――」
 しかし、真面目になったはずの表情が、みるみるうちに豹変していた。立ち消えになっていたはずのいやらしさが蘇り、ニッタリと微笑む不気味なほどの口角の吊り上がりが、サリーの不安をこれでもかというほど煽っていた。

「身体測定」

 何故、その言葉で豚井は舌なめずりを行ったのか。
 じゅるりと、唾液の音を立て、欲望の表情を浮かべていたのか。
 この時点ではまだ、サリーにはわからなかった。

 



 
 
 

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