5:審査名目の本番

前の話 目次




 絶望に震え、泣きたい思いにかられる芹沢綾は、脚を始終M字にしたまま、自分の前に聳える醜い容貌を見上げていた。
 多田に向かって勝ち誇り、獲物にありつこうとしてくる蛙屋は、今に服を脱ぎ捨てる。目の前に裸の男がいることで、芹沢はより強く自分の運命を実感していた。
(多田くん……)
 せめて多田がよかった。
 願いが叶うこともなく、芹沢の初めてを奪うのは蛙屋に決まってしまった。蛙屋に目を向ければ、元から醜い顔が邪悪に歪み、美味しいご馳走を前に垂らすヨダレが本当に流れている。唇の端から伝った唾液が顎にまで筋を作っていた。
 さらにその下に目をやれば、肥満なせいで膨らむ胸が垂れ下がり、決して清潔には見えない胸毛が密林を成している。腹の脂肪で二重にも三重にも浮き輪ができあがり、下腹部にまで続く縮れた腹毛が不潔感を強めている。
 何よりもアソコの上では、ワレメの近くには、長大な一物がそそり立ち、むわりとした淫気が既に性器の肌にまとわりつく。
(私……多田くんの前で……)
 嘆きたい思いを堪え、芹沢は受け入れる覚悟を決める。
(学校代表として来ているんだから……もうするしか……)
「ところで」
「っ!」
 切っ先がワレメにあたり、芹沢はぐっと緊張感を高めた。
「始める前に、挨拶はきちんとしようか」
 蛙屋の歪んだ顔が迫ってきた。
 身体が覆い被さり、丸く膨らんでいる腹があたってくる。腹毛や胸毛の毛先に皮膚がくすぐられ、肌が重なることで感じたくもない体温が伝わっていた。
「……は、はい。先ほどはお騒がせして、どうも申し訳ありませんでした」
「うんうん」
「学校代表として、精一杯頑張りたいと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします」
 元がしっかりとした生徒であるだけに、受け答えもそつなくこなす。
 しかし、芹沢は心底から思っていた。
(どうして私が謝ってるの……? これからセックスするのに、私の方がお願いする立場みたいに……こんなの……嫌すぎる……)
「ちなみに、避妊は事後の錠剤で行うから、コンドームは無し」
(そんな……!)
 目が震えた。
 だが、心の中でどんなに拒否感があっても、芹沢は審査を受ける側の生徒にすぎない。
「わかり……ました……お願い……します……」
「では頂くよ? 君の処女」
 欲望に満ちた目が芹沢に向かって見開くと、次の瞬間には肉棒が入り始める。
 
 ――ずにっ、じゅにぃぃぃぃ……。
 
「うっ! ぐぅっ、あっ……!」
 切っ先の侵入でワレメは広がり、穴の大きさよりも太いものが潜り込む。幅が太さによって広げられ、それが奥へ奥へと進んでくる。
「うっ、あうぅぅ……!」
 芹沢は苦しげな声を上げていた。
「お? はははっ、気持ちいいよ? すっごく」
 見上げた目前、キスをしようと思えば簡単にできる距離に、蛙屋のニタニタとした顔がある。
 動きが止まり、ようやく全て収まっていた。
(くっ、くるし……本当にこの人のが入って……)
 苦しさと動揺で瞳が揺れる。
「えー。僕の太さよりも幅が狭いので、少しばかりきついかな? でもね、きゅーって吸われて、抜けなくなるような感じがあるね。うん、狭いと思ったけど、ちょうどいいフィット感だ。ああ、もちろん僕のペニスも加味して記録してね?」
 蛙屋は挿入した心地について発表し、周囲の職員はボールペンで紙を引っ掻く。
「ところで」
 カエル顔の唇が耳元に迫り、密着度合いが増した分だけ、脂肪の浮き輪も芦沢の身体に押し潰される。体重がかかってくる苦しさも加算され、ますます辛い芹沢に対して、蛙屋は面白おかしく囁き始める。
「しっかし、多田くんは滑稽だったねぇ?」
「え……」
 小さな囁き声は、芹沢にしか聞こえやしないだろう。
「だって見ただろう? あんなに必死になってチンポしごいて、勃たなくてチャンスを逃すだなんて、あー可哀想に」
 それは多田への中傷だった。
(なんなの……この人……!)
「まあ君も残念だね? あ、でも写真選びでは僕のチンポが一番って言ってたから、僕とヤれてよかったんじゃない? あーんな、大したことなさそうなチンポよりね」
 ペニスのことで多田をこき下ろし、ニヤニヤとした顔で悪口を囁いてくる。あまつさえ、そんな自分とセックスできて良かっただろうなど、一体どんな神経をしていたらできるのか、理解できない発言だった。
(な、なんて、処女を奪われた上に、多田くんのことまで悪く言われなきゃいけないの?)
 悪夢のような体験だった。
 こんな男のものが動き始めて、竿が膣壁にこすれてくる。
「僕の立派なチンポで存分に楽しむといいよ」
 ぞっとするような邪悪さを隠しもしない、達成感に満ちた蛙屋の顔にゾっとする。こんな男が自分の体を楽しんで、味わい、快楽を得ているのかと、たまらなく悔しくなる。
(楽しむなんて……できるわけ……!)
「ほーら」
「あぁ…………くぅ…………んんぅ………………くっ、うぅ………………」
 太いものが出入りする。
 穴よりも太い分だけ、竿と膣壁の密着度は増している。それでも腰が遠のくにつれて肉棒は引いていき、また根元まで埋まってくる。愛液が滑りを良くし、摩擦をなくしてヌルヌルと出入りを容易いものにしていた。
(お願い、せめて……早く終わって……)
 芹沢にとって、それほど切実な願いはないのだった。

     *

 多田は万力で胸を締め上げられるような痛みを感じていた。
(くそっ! なんだよあれは! くそ!)
 折れそうなほどに顎が力んで、多田は歯ぎしりをしていた。
 先ほど、勢いよく椅子を立ち上がったせいなのか、多田が今にも駆け出さないかを監視するため、鋭い目をした職員が脇に二人もついている。何もできない、したとしても止められる。芹沢を助けることはできず、問題を起こしたと学校にも報告される未来しか見えはしない。
(芹沢っ、芹沢……!)
 二人は岩のように一つに固まっていた。
 覆い被さった醜い身体が、芹沢のスレンダーな体格に向かって、ゆっくりと腰を前後に振りたくる。軽やかなピストンでも痛いのか、苦しいのか、とても感じているとは思えない声が聞こえてくる。
 蛙屋は身体を密着させ、全身で芹沢を味わっている。
「んんぅ……! んぁっ、くぅっ、んぐぅぅ…………!」
 腰と腰の部分だけが、ピストンのために小刻みに隙間を作り、肉杭が貫くごとに芹沢の苦しげな声が届いてくる。
 アダルトビデオのセックスなら、どんなに興奮できたことだろう。エロ本の裸でも、テレビのお色気シーンでも、多田はよく鼻の下を伸ばしてしまう。
 しかし、目の前で行われるセックスは苦痛だった。
「ぐぅっ、あぁ……!」
 芹沢の姿を、味わっている蛙屋の姿を見ていられない。直視を嫌って目を伏せても、芹沢の声だけは聞こえてくる。さらには体位の変更を命じる蛙屋の声までして、恐る恐る見てみれば、芹沢は四つん這いに変わっていた。
「んぅぅぅ……! あぐっ、んんぅあ……!」
 突いた両手はシーツを握り、首でよがって髪を乱し続けている。蛙屋の腰振りに尻を打たれ、身体が前後に揺らされている。姿勢のために垂れ下がった乳房も、揺れに合わせてプルプルと動いていた。
「ほら、自分で動いてみて?」
 蛙屋は急に動きを止め、そんなことを言い出した。
 芹沢は後ろに向かって、柱のように動かない蛙屋に尻をぶつける動きを始めるが、ゆっくりとした動作に勢いはない。
 
 ぱつ、ぱつ、
 
 小さく聞こえてくる打音は、本当に軽いものだった。
「ほらほら、しっかりやる!」
 ペチン!
 と、不真面目な子供を叩くかのように、蛙屋は尻に平手をかましていた。
(こいつ……!)
 蛙屋は芹沢に何の敬意も払っていない。自分が気持ちよければ何でもいいのだ。多田に対して時折向ける表情も、自慢の玩具を見せびらかすものだった。
「なるほど」
「てっきり、初めてで感じるタイプかと思ったけど」
「まあ平均的の反応かな」
 考察を語り、ボールペンでの書き込みをそれでも続ける職員達は、もう何を記録しているのかがわからない。
「では先ほども伝えたように、事後避妊薬の用意があるので、ナカにたっぷりと注がせてもらうねぇ?」
 蛙屋は嬉々として腰を押し込み、逃がさないように両手でくびれを掴んで密着させ、間違いなく射精していた。中に放出しきった後、すっきりとした顔で引き抜くと、芹沢はぐったりと上半身を寝かせていた。
 もう気力も何もなくなって、起きる気もせずに、芹沢は自分のポーズも意識してなどいないだろう。尻だけが高らかな姿勢のいやらしさは、こんな状況でさえなければ勃起は確実なはずだった。
「芹沢さん。多田くんにお尻を向けなさい」
 四つん這いのアソコが向けられると、ワレメの中からこぼれ落ちる白濁と、内股のあたりにある血の痕跡にゾッとした。いくら避妊薬を出すとはいえ、躊躇いもなく膣内に注いだ証拠を魔の当たりに、多田は打ちのめされていた。
 とろりと糸を引きながら、白い雫の固まりがゆっくりと、ゆっくりと垂れ下がり、不意にぷちんと千切れてシーツに染み込む。
「芹……沢……」
 芹沢が自分のものではなくなった。芹沢が傷つけられた。芹沢が穢された。痛かっただろう、辛かっただろう、どんな言葉をかければいいのかも、まるで思いつきはしない。
 多田は呆然としきっていた。
 強烈な光景に心を刻まれ、ただただ絶望を浮かべた眼差しを浮かべることしかできなかった。
「ここまでの反応ってことは」
「好きだったのか? 気の毒な話だ」
「ま、どうせ記憶は消えるんだし」
「そうだな。俺達が気にすることじゃない」
 職員にとっては多田の反応さえも観察対象で、ショックで放心している様子についても書き込みが行われていた。
 頭が急にくらくらした。
 思考がぼやけ、何故だか何も考えられない。見えない力に脳をかき混ぜられているように、首から上が揺れてしまう。
(何だ……この感覚…………)
「ああ、効いてきたみたいだね」
 最後に聞いた蛙屋の声。
 そして、記憶は暗闇の中へと沈んでいった。
 
     *
 
「なんか、最後に書いたっけな。感想文? 論文? 文章苦手だから、苦戦した気がするなぁ」
 不意にそれだけは思い出す。
「まともな文章が書けないのも仕方がないね。多田くんだし」
「な! どういう意味だよ!」
「本の一冊も読めなさそう」
「あのなぁ、俺だって読むぞ? 漫画くらいは」
「読書って言わないから――それより、あっち見てみない?」
「洋服か?」
 審査が終了した後、二人は寄り道をしていた。
 付近の商店街を歩いていると、気になる洋服屋が目に留まったらしく、芹沢は小走りで駆けていく。多田はその後を追いながら、不思議な感覚にもう何度か頭を捻った。
(本当に何も思い出せないな。なにか書かされたとか、面談形式の審査があったとか、ちょっとした記憶だけはあるのに)
 それは作文に例えるなら、原稿用紙に文章を書いたことだけは覚えているが、何のテーマで、どんなことを書いたのか、詳細な記憶が一切出て来ない状態だった。
 前回が前回であり、だから今回も脱衣の指示はあったのだが、記憶はそこで止まっている。いつ、どのタイミングで裸になったのだったか。面談の時は服を着ていただろうか、それとも既に脱いでいただろうか。
 辛うじて残っている記憶でさえ、そんな残骸も同然の形でしかないのだった。


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