3:蛙屋による感度調査

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 内容は次の審査に移っていった。
 あれから、質問形式の調査はさらに行われ、多田にも数多くの質問が振られた。それを書き留める紙も一枚や二枚ではないだろう。ほとんどが性にまつわるもので、多田の場合は主に勃起について、オナニーについてのものだった。
 芹沢にもオナニーの質問は行われ、どういった時に自慰行為の気分になるか、そんなことをひとしきり言わされていた。
 それらが済み、審査内容が移ってのことだ。
「では多田くんの方を向く形で、ベッドから足を下ろし、座った姿勢になって下さい」
 そうなると、多田と芹沢は正面から向かい合う。
 ベッドをベンチ代わりにした座り方で、芹沢はきちんと背筋を伸ばし、両腕を横に垂らしている。審査の場で指示のない行為をしたり、流れを妨げることはできないから、乳房を隠すことはできないのだ。
「これから性的刺激にまつわる調査を行っていく」
 蛙屋もベッドに上がった。
「…………っ!」
 ベッドに上がるだけでも驚くのに、多田が戦慄を浮かべるのは、蛙屋が芹沢に密着したからだった。背中に身体をくっつけて、肩や二の腕をさすり回して、その手つきはどう見てもセクハラだ。
 しかも、蛙屋の顔まで多田を向く。
「にひぃ」
 笑っていた。
 玩具が自慢でならないような、勝ち誇った表情を多田に投げかけ、そんな蛙屋を前に多田は歯を食い縛る。何か大事なものを取られている感覚に陥って、眩暈がしてきそうだった。
「多田……くん………………」
 芦沢は助けを求めたいかのような目をしていた。
 本当に求めるわけにもいかず、押し黙って俯く芹沢を見ていると、多田は衝動にかられてしまう。どうにかしてやらなければ、守ってやらなければ、何故だかそんな気持ちが湧き、かといって相手は公の人間だ。
 問題を起こすわけにもいかず、多田は膝に拳を握り締める。
「芹沢さん。現在、乳首は突起しているかな?」
 耳に顎をぶつけんばかりの位置に、頬ずりでもするように蛙屋の顔はある。イボの多い頬が当たって、芹沢は大いに引き攣りかけていたが、懸命になって平静を装い、何も言わずに耐えている。
「突起は……していないです…………」
「了解。では君、ストップウォッチ。それから多田くんは、もっとオッパイに顔を近づけて、乳首の状態を観察するように」
 蛙屋は職員の一人と多田に指示を出す。
「は、はい」
 多田は前のめりになり、芹沢の胸に顔を接近させた。
「では乳首が突起するまでの時間を計測するので、芹沢さんは動かないように、多田くんは乳首が大きくなったら『ストップ』と声を出すように」
 乳首の突起? 計測?
 多田に確認をさせるということは、愛撫をする役目は蛙屋か。
(ペアは俺じゃないのかよ……)
 どこか納得がいっていない。
「では開始」
 すぐに蛙屋の手は乳房へ動き、背後からの愛撫が横乳をくすぐり始める。
「うっ、うぅ………………」
 ぞっとした顔になる芹沢は、産毛を辛うじてくすぐるタッチに身じろぎする。快楽よりもくすぐったさの方がありそうだ。
(なんだよ……これ……)
 審査ためとはいえ、性的に感じさせ、乳首を固くする目的で触っているのだ。しかも多田はその手つきを間近で観察させられる。横乳をくすぐるだけのタッチだが、芹沢の胸が他の男に触られている光景は辛かった。
(本当は……俺が揉みたいのかよ……)
 何かを自覚してきた多田は、ひたすら強く歯を食い縛っていた。
「す、ストップ」
 乳首が成長してきたところを見て、多田は小さく口にした。
 しかし、蛙屋の手は止まらない。
「あの、ストップって……」
 止まるどころか、蛙屋は乳房を鷲掴みに揉み始め、その手つきに芹沢も震えていた。見るからに目が驚き、瞳に動揺が浮かんでいた。それでも耐える義務があるかのように、芹沢はきちんと堪え、何も言わずに受け入れている。
「ストップウォッチは止めたでしょ? で、何秒?」
「五十二秒です」
 蛙屋の問いに、職員の声が答える。
 すぐさま書き込みの音が聞こえてきた。
「では乳房の感度について尋ねるので、全て正直に答えるように」
「はい」
「現在、この揉み方に快楽はありますか?」
「少しだけ、痛いような……」
「へえ? なら、これでどう?」
 蛙屋の手つきそのものは変わらないが、加減が緩む。
「これなら、少し……感じます…………」
 気持ちいいと伝える恥ずかしさか、消え入りそうな声で芹沢は答えていた。
「乳首にいこうか」
 今度は乳首を上下に転がす指遣いで、左右の人差し指が振り子のように弾き続ける。芹沢は肩で身じろぎをしながら息も荒げ、何かを我慢したような色気ある表情に染まっていく。
「か、感じます……」
「これは?」
 触り方が変わり、つまんで指圧に強弱をつける。
「……感じます」
「これはどう?」
「感じ、ます」
「これは?」
「……はい。気持ちいいです」
 乳輪をなぞるやり方、下乳を掬い上げるような揉み方、くすぐるタッチ、がっちりと揉みしだく手つき、様々な方法で触りながら、蛙屋はその都度尋ね、芹沢は答えていく。そのたびに書き込みも行われた。
「多田くん。揉んでみたいかね?」
 ご馳走を分けてやっても構わないかのように蛙屋は尋ねてきた。
 その瞬間、芹沢と視線が重なる。
 何とも答えにくい質問だったが、審査の場なのだと言い聞かせ、迷った挙げ句に多田はきちんと回答した。
「……はい。男なので、目の前におっぱいがあったら、それは」
 なるべく無難な答え方に納めていた。
「へえ?」
(な? なんだよ、へえって)
 そこに浮かんだ蛙屋の表情は、いかにも意地悪く笑ったものだった。下品で邪悪で、人を見下してやまない優越感に浸りきったものだった。自慢の玩具をお前に貸すわけがないだろうと言いたげな、勝ち誇った態度を前に、多田は歯ぎしりしていた。
「次は性器の感度を調べるので、多田くんは芹沢さんのパンツを脱がせてあげて下さい」
 ――え?
 と、そんな顔を芹沢は浮かべ、次にはもう目を伏せている。
(くそっ、なんかおこぼれ貰ってるみたいだ……)
 多田は歯ぎしりしたい思いで、それでもパンツに手を伸ばせばドキドキする。温かい下着の感触に思いを馳せ、ゴムに指を潜らせ引き下ろす。脱ぎたてを手に入れると、さっそくのように蛙屋は次の指示を出していた。
「足を思いっきり、大きく、M字に開いてね」
 一体、芹沢はどんな思いでいるだろう。
 後ろから抱きつかれ、こうしている今でさえ乳揉みの手が動いている。好きなように触られながら、脚まで開くように命じられ、多田に見せびらかす形になるのだ。
(っていうか、おかしくないか?)
 先ほどまでは、感度についての質問も行われ、調査の一環なのはわかっていた。
 だが、今はもう揉んでいる必要がない。不必要に乳房を掴み、指を動かし続けているのは、いくらなんでも欲望のためにしか思えない。
(そんなこと……ないよな……)
 不安を募らせる多田の目前で、芹沢は開脚していた。
(うおっ)
 思わず魅入ってしまう。
 脚がM字になることで、丸見えとなる綺麗なワレメは、目を逸らそうにも逸らせない。視線を寄せ付ける凄まじい吸引力で、多田の瞳を釘付けにする。
「アソコを開いて見せてあげるように」
「……っ! は、はい」
 ただでさえ真っ赤な顔が、余計に染まり上がったかのようだ。
 芹沢は震えた手をアソコにやり、ワレメを左右に開いていく。桃色の肉ヒダが開帳され、芹沢の顔つきが見るからに羞恥に染まる。もうこれ以上は赤くなりようがないほどの赤面に、それでも赤色が継ぎ足され、密度が増したかのようだった。
「多田くんはアソコに顔を近づけて、君はまたストップウォッチね? クリトリスが突起するまでの時間を計測するよ」
 蛙屋の手がアソコへ移る。
(こっちまでやるのかよ……)
 多田は言われるままに顔を近づけ、生々しい性器の有様に目を引かれる。こんな風になっているのかという関心と、ここにペニスを入れるのかという想像と、クリトリスを包む包皮の部分にも目がいった。
 蛙屋は包皮のまわりを人差し指で愛撫して、その刺激のせいか芹沢は腰をモゾモゾとさせ始める。指の腹が触れるか触れないのタッチのようで、皮に包まれていた小さな芽は、少しずつ姿を現していた。
「す、ストップ」
 先ほどに同じく、多田は静止の言葉をかける。
 やはり、蛙屋の指は止まらない。
「十二秒です」
 職員が計測した声により、ストップウォッチだけが停止した。
「早いねぇ?」
 蛙屋は耳に息を吹き込むように囁いた。
「そ、そうでしょうか……あっ……」
 芹沢は震えていた。
 蛙屋は卑猥な感情がありありと伝わる醜い顔で、舌なめずりまで行っていた。自らの唇を端から端までじゅるりと舐め、左手は未だに乳房を掴み、右手はクリトリスを攻め続け、芹沢は見るからに嫌がっていた。
 ――いやっ、むり……。
 顔が悲鳴を上げていた。
(止めた方がいいのか?)
 そんな考えがよぎったものの、ここで問題を起こすということは、学校の名に傷をつけるということだ。
「みんな同じ方法でやっているけど、毎年もう何十秒かかかるのが普通かな? 感じにくい子だと何分もかかったり、緊張でまったく突起しないなんてこともあるけど、君の身体にはスケベの素質があるみたいだね」
 恥辱的な言葉を囁かれ、芹沢は責め苦を受ける面持ちになっていた。
「ありがとう……ござ……います……」
 一体、どんな気持ちだろう。
 審査のために貴重な時間を割いて頂き、仮にも褒めて下さる大人に対して、芹沢の立場ではきちんとお礼を言わなくてはならない。こうした態度も評価対象になるからだ。
「では続けて全身のあらゆる部位に対する感度調査を行っていくので、一度仰向けになるように」
 やっとのことで蛙屋は離れていくが、次の内容に移るに過ぎない。
 芹沢が横たわり、蛙屋もベッドを下りる。
 次はいたるところに触り始めた。
「ここは?」
 耳に触れ、揉み始める。
「感じます」
「ここは?」
「感じます」
 そんな形で、手の平に触れ、肩に触れ、腹や腰のくびれを撫でる。太ももに触り、膝や足首まで、性感帯になりそうな場所から、そうでもなさそうな部分まで、くまなく触って確かめる。
「特に、感じません」
 膝だの、かかとだの、固い部分ではそう答えていた。
「うつ伏せになってね」
「はい」
 芹沢の身体が裏返る。
 髪のかかった白い背中と、ボールのようなカーブを成した尻に目がいく。
 今度はマッサージでも始めるように、背中をまんべんなく触り始めた。
「どうかな?」
「感じます」
 芦沢が答えると、蛙屋の手はうなじに移る。
 そこをくすぐり始めた途端、肩がもぞりと動いて見えた。
「うなじは?」
「感じます」
(そこもか……)
 芹沢の性感帯が明らかになっていくのは面白く、耳が無意識のうちに鋭くなる。脳が活発に情報を取り込もうとしているが、それをやっているのは蛙屋だ。
 この手で暴いているなら、もっともっと良かったのに。
「さてさて、次はお尻だね」
 蛙屋は楽しそうに尻たぶに両手を近づけ、指先でくすぐる刺激を開始した。
「……あっ」
 小さく喘ぎ、腰がぴくっと、一瞬だけ浮き上がる。
「ははっ、可愛い反応だ。感じたかな?」
「……はい」
「ならこれは?」
「それは、ちょっと力が……」
「このくらいなら」
「それなら、気持ちいいです……」
 お尻の肉をぐにぐにと、存分に揉みしだく指で捏ねられるのは、加減が柔らかい方が気持ちいいらしい。
「次は四つん這いになってもらえるかな?」
 芦沢のポーズが変わり、尻が持ち上がっていく。
 多田の位置から見れば、両手を突いた芹沢の乳房が垂れ下がり、下向きに生える形になる。耳の真っ赤な様子がわかり、芹沢が一体どれだけ恥じらっているかが伝わった。
「さて、なるほどね。これがあなたのお尻の穴だ」 
 蛙屋は腰の真後ろに回り込み、尻たぶに両手を置いて覗き込む。多田もかつては見たことのある排泄器官は、今このポジションから見えることはなく、蛙屋の顔が尻に接近している光景だけが多田の目前にはあるのだった。
「~~~っ!!!」
 歯を深く食い縛り、顎の震えた横顔が、垂れ下がった髪の隙間に見えていた。
「うんうん、清潔だね? では遠慮なく」
 蛙屋は良い子を褒めてやるように言いながら、人差し指でツンツンと穴をつく。
「くぅ…………うぅ………………」
 赤面しきった顔から、熱気まで伝わってきそうな勢いだ。ストーブで温まるかのように両手をあてたら、真冬の冷えも取れたりしないかと、あり得ないことを考えてしまう。
「感じるかな?」
「はっ、はいぃ……」
 ツンツンとやる指に対して。
「これは気持ちいい?」
「……はい」
 グニグニと指を押し込む様子は、きっと皺の回りを揉んでいた。
「はい、芹沢綾はアナルでも感じる素質があるね。きちんと記録しておくように」
 本当に、本当にどんな気持ちだろう。
 公の記録に性感帯のことを書き込まれ、肛門が気持ちいいことまで明らかにされてしまう。誰もが秘密にしていたいはずのものを暴いて、どこか本人の知らないところで資料にされたり、誰かがそれを読んだりする。
 その物凄さを思うに、しかし多田は感じていた。
(芹沢の裸を見られるのはラッキーだけど……)
 前回の終了後にも思ったが、こんなことになるのなら、優勝なんてしない方がよかったではないか。多田の気持ち以上に、芹沢はもっと切実にそんなことを思っているはずだ。

     *

 芹沢綾はよく自覚していた。
 自分達は学校の名を背負ってきているのであり、きちんとこなせば内申点は有利になるが、逆に問題を起こせばどうなるか。
(そうよ……前の時は放尿させられたり……た、多田くんに……お尻の穴にガラス棒を入れられたり、その時よりはまだいいじゃない……よくないけど……)
 今度は再び仰向けに、またしてもM字開脚のポーズを指示されていた。
 先ほどは多田に見せびらかす形で、今回は蛙屋に晒け出すように、芹沢は言われた通りの脚を開き、しっかりとアソコを出していた。
 自ら無防備なポーズを取り、弱点を丸晒しにしている心許なさ。裸で過ごすだけでも恥ずかしいのに、胸も性器も隠すことを許されない羞恥感。何よりも蛙屋という男は、芹沢のことをいやらしい目で見ていや。
 事務的な感覚で、仕事だからそうしているに過ぎない分には、よくはないがまだマシだ。
 しかし、見るからにニヤニヤして、必要を超えて触ってくる男が相手では、嫌なものが余計に嫌になってくる。先ほどの感度調査も、乳首の突起を測定したのに、突起にかかる時間が判明してもなお揉み続けてきた。
 欲望を満たす目的を仕事に持ち込み、楽しんでいる気がしてならない。そんな相手の前で取るM字開脚のポーズは、調査や診察のために晒け出すより不安が大きい。
 そもそも、たとえ卑猥な意識を切り離してもらえても、ベッドを囲む職員達で、一体何人に見られているか。
 様々な感情に締め上げられ、胸の中身が圧迫されている。
(とにかく、恥ずかしがってる場合じゃない……!)
 審査を最後まで受けきらなければ、この恥ずかしさから抜け出すことはできない。
「次はアソコを中心にしていくからね」
(また……多田くんの前で感じさせられる……)
 性器のすぐ手前まで、カエルによく似た顔立ちが迫る。仰向けから少しでも首を上げれば、そこに迫ったいやらしい顔が見えてしまう。
(こんな近くで……凄くジロジロ……)
 見ないようにしていても、静かな部屋の中では耳さえ澄ませば呼吸の音が聞こえてくる。そこに顔があり、いかに至近距離からの視線が突き刺さっているかが実感できる。
「ではまず、これはどうかな?」
 二本の指で、Vラインをなぞってきた。
 性器には直接触れない、脚の付け根にあたるラインは、ちょうど陰部と脚の境界線だ。性器に触られるまで、あと何ミリかしかない部分をさーっとなぞられ、甘い刺激がほとばしる。
「き、気持ちいい……です……」
 苦しげに答えるのは、もちろん快感を口にする恥ずかしさもあった。蛙屋の手や指が気持ちいいと認めるのは恥辱でならないが、苦しい理由は他にもある。
(多田くんに知られる……私の感じるところ……)
 すぐ傍らに座る多田の視線も、当然のように芹沢の身体中を舐め回し、人の感じる姿も拝んでくる。
(どうせ、ちゃっかり集中して記憶してるんでしょ? 多田くんのスケベ)
 心の中で文句を言う。
 本人に届くはずもなく、視線はひたすら注がれ続ける。
「ワレメをなぞっていくよ」
「あっ、うぅ……ん……」
 抑えなければ声が出そうで、芹沢は唇を固く結んだ。しかし、指がワレメを上下往復する刺激に、脚がかすかな反応を示してしまう。
「気持ちいい?」
「……はい」
 恥辱を塗りつけられる思いで芹沢は答える。
 ふと、横目に多田を見てみると、不満なような悔しいような、歯を食い縛って堪える様子が伺えた。
(た、多田くん……)
 まさか、辛いのだろうか。
 この身体が他の男に触られて、感じさせられていることで、多田の心は痛んでいる。
(多田くん……私のこと…………)
「指、入るよー」
 無慈悲な異物感が膣口に潜り込み、芹沢の中で出入りを始める。既に愛液が出ているのか、ピストンは滑りよくスムーズで、ヌルっとした抜き差しが刺激となって、内股全体に甘い痺れを走らせる。
 指が根元まで埋まってくると、そのまま股に拳があたる。
「気持ちいいかな?」
 蛙屋はピストンながらに訪ねてきた。
「……は、はい」
 気をつけて返事をしなければ、喘ぎ声まで一緒に出そうだ。
「自分でオナニーするのと、どちらが気持ちいい?」
「なっ! それは――そのっ、こ、こちらの……方が……」
 答えにくくてならない質問に、心底消えたい思いで答え、芹沢は恥じ入った。

 ニタァァァァ――
 
 と、大きな手柄が嬉しくてたまらない、顔が緩んで仕方のない表情がそこにはあった。
 やはり、欲望を持ち込んでいるのだ。
(こんな……いやらしい人なんかに……)
 まるで痴漢に快感を与えられ、痴漢相手に気持ちよさを認めなくてはならないような屈辱が込み上げる。
 そして、ボールペンが紙を走っている音に、自分の今の情報が記録されているのだと実感する。
 指が抜かれた。
 ひとまず、これだけは終わったのだろうかと、うっすと期待した芹沢は、次の瞬間にゾッとして青ざめていた。
「あの……それは……」
 震えた声だった。
「ご存知ない? ピンクローターっていうんだけど」
 蛙屋はにんまりと、その手にピンク色の器具をぶら下げていた。小さな卵形の、大きさは親指程度の物体から伸びたコードを蛙屋はつまみ、見せびらかしているのだった。
「い、入れるんですか……?」
 芹沢は恐れていた。
 以前、オナニー指導を受けるまでは、自分の指を入れることさえ考えたことはなかったのだ。あれから正しい自慰は覚えたものの、器具を入れるというのはまだまだ未知の体験だ。
「そうだよ?」
「どうしても……ですか……?」
「おや、嫌なのかい?」
 蛙屋の目に、嫌味なものが浮かび上がった。
「それは……その……」
 痛くはないのか、本当に問題はないのか。
 不安が底から沸き上がった。
「あの……」
(多田くん!?)
「それ、痛かったりとかするんじゃ……」
 いかにも恐る恐るなものだったが、多田が自分を守ろうとする言葉をかけてくれている。
(多田くん……見直したけど……)
「大丈夫。痛かったら、すぐにやめるから」
 審査内容を押し退けることなど、できはしない。
 あまり無理を言いすぎれば、減点される恐れもあるのだ。
「けど……」
 食い下がろうとする多田。
「多田くん?」
 しかし、むしろ蛙屋こそが多田を諫めた。多田も減点の恐れをわかってか、それ以上はなにも言えずに引き下がる。
「では失礼して」
 蛙屋の手で、ローターが押し込まれた。
「んくっ、んぅ……」
 痛くは――ない。
 少しばかり安心したが、卵形の異物感が気にかかる。器具の挿入ということに抵抗があったのだが、ひとまずは平気だと思った途端、蛙屋がスイッチを入れた。
「――いっ! ぎぃっ」
 おかしな声が出た。
「芹沢……!」
 多田も身を乗り出していた。
 突如として、ローターがブルブルと振動を始めたのだ。激しい振幅が膣壁に衝撃を与えてくる。内側で電流が弾けるような痛みに涙して、すぐさまスイッチは切られていた。
「いっ、痛かったです……!」
 芹沢は訴えていた。
「はい、最大は痛かった。では『中』レベルなら」
 蛙屋は気にも留めずにスイッチを入れ直し、先ほどよりは弱い振動が膣壁を震わせる。先ほどの打ちつけられるような感じと違い、表面を震わされる感じに近かった。
「ま、まだ……少し…………」
「では『小』に変更」
 勢いがより落ちて、微弱な振動は完全に表面だけを震わせる。ローターに与えられた振幅で膣内は小刻みに揺れ続け、ようやく痛みもなくなっていた。
「大丈夫です……すみませんでした……」
「いいのいいの。で、気持ちいい?」
「……はい」
「僕の指、オナニーでの指、そしてローター。比べてみてどうかな?」
「一番は……か、蛙屋さんの指で……二番がオナニーで、ローターは三番目です…………」
「こうした器具との相性は悪そうだ。角オナの経験者なら、もっとこういうので喜ぶと思ったんだけど、当てが外れたらしいね」
(ま、まるで実験動物扱いされたみたい……)
 こんなM字のアソコが丸見えの格好で、器具まで使われ惨めだった。
 ローターが引き抜かれ、穴がラクになったことにはホッとするが、同時に蛙屋は「そのままポーズを崩さないように」と指示を出す。
(格好だけでも、普通の仰向けに戻りたいのに……)
 せめてもの願いを叶えてもらえない、芹沢はそんな悲しさに暮れていた。
「では多田くん」
「はい」
 蛙屋は多田に話を振る。
「今まで僕が行って来た刺激の中で、どんな芹沢さんの姿が興奮したと思う?」
(それって、私が気持ち良くなった姿の品評ってこと!?)
 今のままでも、自分の顔がどこまで赤くなっているのか、芹沢自身には想像もつかない。数々の刺激を試され、この触り方はどうか、この部分はどうかと聞かれ続けただけでも恥ずかしかった。
 全ての回答が記録され、多田にも聞かれていたのだ。
 どんどん秘密を握られていく感覚に、胸が締め上げられるようだった。
「それは急に聞かれても……。どれもエロくて、よくわからないです。選べないというか」
「はっはっはっ、それはわかるよ? じゃあ、こうしよう。何か一つでも感想を思いついたりしないかな? これも性的好奇心にまつわる心理調査で、立派な資料になるんだ」
「はい、ええっと――指を入れている時とか、ローターが弱になった時もそうなんですけど、ムズムズするのを我慢しているみたいな、そんな姿を見てると、感じてるんだなーってことがわかって燃える気がします」
(~~~~っ!)
 自分の示していた反応が具体的な言葉にされ、評価まで下される恥辱感に、芹沢は表情で悶えていた。



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