2:裸の面談調査

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 当日、審査会場。
 各県から集まった代表が揃った中に、多田と芦沢はいた。。
「来ちまったな……」
「う、うん」
 予感の通り、全国に進んでしまった。
 既に受け付けも済ませ、体育館に集合している面々は、指示に従い整列を済ませている。二人も列の中に混ざって姿勢を正し、ほどなくして大人による挨拶が始まった。開会式の言葉が長々と紡ぎ出されて、その末に都道府県ごとに指定の教室へ移動するように指示が出る。
 それぞれの行き先へ散らばり廊下に出て、多田と芦沢もまた進んで行く。
 芦沢はドアをノックして入室するなり、大きな声で挨拶を行った。
「はじめまして、幸町第四の芹沢と多田と申します。本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
 お手本のような角度で腰を折り曲げ、礼を行う芹沢の隣で、多田も同じく頭を下げて挨拶を行った。
「元気な挨拶だね。いいよいいよ?」
 二人の審査を担当するのは、言っては悪いがカエルのような男であった。
「僕は蛙屋平吉といいます。どうもよろしく」
(本当にカエルっていうのか)
 失礼なことを思ってしまう多田なのだが、蛙屋は本当に両生類の顔つきで、やけに唇の長さがある。おにぎりに近い三角形の頭の形は、肥満で頬や首が膨らんでいるせいか。肌中にイボが盛り上がり、目つきもギョロっとしているところが、まさしくカエルそのものだ。
 白衣を羽織った蛙屋は、何人もの職員を引き連れていて、その全員が男だった。
 芦沢にはまた辛い時間になるだろう。
「では早速ですが、お二人には服を脱いで頂きましょう」
 やっぱりか、というのが多田の感想だった。
 脱いだものはこの中に、とばかりに二人の元に袋が渡され、しばらくは衣服とお別れになる覚悟をした。前回の審査でも、途中で衣類は没収され、終了まで返却はされなかった。
 男の多田はまだしも臆せず脱ぎ始めるが、芹沢の方は少しばかり躊躇している様子があった。
「こっち見ないでよ?」
「お、おう」
 お互いに背中を向けて脱いでいくが、多田は背後から届く衣擦れの音を大いに意識した。また芹沢の裸を見ることができる。あの引き締まった肉体を目に焼き付け、乳房を眺めるチャンスがきっと来る。
 いやらしい期待にニヤけつつ、多田は下着を残すのみとなる。
「おっと、パンツはまだ穿いていていいからね?」
 いきなりフルチンにならなくていいらしい。
 しかし、制服を詰めた袋が職員によって持ち去られ、次の瞬間には後ろから、芹沢の小さな声が聞こえてきた。「あっ」と、遠くへ行ってしまう自分の衣服に、今にも手を伸ばして追いかけたいかのような気持ちが伝わってきた。
(もう、裸なんだよな? パンツしか穿いてなくて――)
 芹沢には悪いが、早く後ろを向きたい。
「さて、脱いだところで、あれを用意しもらえるかな?」
 蛙屋は職員に指示を出す。
 すぐさま、一人の男が盆に紙コップを乗せて運んできて、多田と芹沢にそれぞれ手渡す。飲めということらしいので飲んでみるが、妙な苦みのある味は、何かの薬なのだろうか。
「医療検査用の薬品でね。効果が出るまで時間がかかるから、そのあいだにまずは面談から初めていこう」
 蛙屋を中心に、テーブルに男が並ぶ。
 さらに周りにも職員は並び立ち、前から、横から、後ろから、全ての角度から裸を見られている状態で、多田と芹沢も並んでいた。
「では面談を開始する」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
 芦沢が真っ先に声を出し、多田もそれに続いていた。
 まさか、人前で芦沢を視姦するわけにもいかない。顔は真っ直ぐ前を向き、瞳だけを動かし芦沢の裸を見ようにも見えにくい。(くそっ、他の人達はみんな堂々と見てるのに)
 多田は悶々としていた。
 どうも面白くない。ここに集まる大人達は、あくまでも審査のために見ているだけだ。何も問題はないはずなのに、どうしてもそわそわする。
「多田仁志くんだったね」
「はい」
「前回、君は面談の際に床オナをしたと答えており、正しい自慰行為を教わっているとか」
「その通りです」
 隣に芦沢がいるのに自慰行為について聞かれるのは、何とも落ち着かないものがある。
「どうかな? その後は教わった方法で励んでいるかね」
「そうですね。膣内射精障害になるかも、とか言われてしまって、きちんとしないとまずいなと思っているので」
「なるほどね」
 多田の受け答えに、蛙屋をはじめとした面々はしきりに紙にペンを走らせ、書き込みを行っている。
 蛙屋が聞いてくるのは、まずはこうしてオナニーについてが中心だった。他には前回の審査はどうだったか、今回全国に進んでどう感じているか、様々な質問が行われた。
「では芦沢綾さん」
「はい」
「あなたも前回の面談では、角オナ――いわゆる角にアソコを押しつけるという、一般的ではない方法でオナニーをしていると答えているね。その後は教わった通りのオナニーをしているかね」
「……はい。して、います」
 かなりの躊躇いを感じたが、芦沢はそう答えた。
(芦沢のオナニー……)
 つい想像してしまう。
 芦沢でも下着を脱ぎ、アソコを弄ることがあると思うとゾクゾクする。クリトリスも触るのか、穴に指を入れるのか、是非とも知りたいと耳に意識を集中する。
「現在、週にどれくらいしているかね」
「二、三回ほど……」
「ほう? きちんとしているようだね? なら普段はどんな風にしているのかな?」
 正式な調査で聞いているのだ。
 秘密にしたくてたまらないであろうことを白状し、職員はそれを書き留める。そんなデータを取られる芦沢の気持ちを思うと、顔がどんなに赤いだろうかと好奇心がくすぐられる。
(くっ、見たい……!)
 そして、多田が見たいものを蛙屋は拝んでいるかと思うと腹が立つ。
「……はい。普段、始めは下着の上から触ることが多く、しだいに興奮してきたところでクリトリスを触ります。膣分泌液が出そうだと思ったところで下着を脱ぎ、クリトリスをはじめとしてワレメの部分を直接触り、指に液が絡んできたら膣口への挿入を行います」
 生々しい情報を多田は耳に焼きつける。
 すらすらと答えているようでいて、声が震えているのも無理はない。何しろ、多田に全てを聞かれている。多田だって自分のオナニーを話すことには躊躇いがあったのに、女の子なら尚更だ。
「日頃、絶頂は?」
「いえ、しないです」
「膣口とクリトリス、どちらが好き?」
「それは……どちらとも……」
「道具を使った経験。例えば物を入れたり、ブラシで擦るなどの経験は?」
「それも……ないです……」
 何をしていて、何をしていないのか、芦沢のオナニーが少しずつ正確になっていく。
「どんな体勢が多いかな?」
「……仰向け、だと思います」
「その際、脚は開いていますか?」
 ごくりと、多田は生唾を飲む。
(ど、どうなんだ? エロいポーズとかでするのか?)
 耳への集中力が増していき、もはや一語たりとも聞き逃さない。
「あ、脚は……最初は閉じていて……気持ちよくなくと、だんだん……」
 聞いていて、多田も興奮した。
 芹沢が裸で寝そべり、下着を脱いで、だんだんと足が広がり、ついにはM字となる光景をありありと浮かべ、顔がにやつきそうだった。
「多田くん。想像したかね?」
「うぐっ」
 なんていやらしい質問だろう。
 しかし、答えなければならないのか。
「どうなのかね? 多田くん」
 蛙屋のねっとりした目付きの一方で、芹沢の怒った顔も想像できる。
「た、多少は……」
 苦しい思いで多田は答える。
「多田くん……」
 横から、小さな声で、怒りと羞恥のどちらで震えたかもわからない声が届いた。
(しょうがないだろ! 俺は聞かれたことに答えただけだ!)
「思春期の少年らしくて大変よろしい」
 蛙屋はとても満足そうな顔を浮かべていた。
(よろしくないだろうな、芹沢的には)
 今のやり取りさえも書き取られ、多田にもよろしくない気持ちはあったが、芹沢の大胆な秘密を知ることができて最高だ。
 最高なのだが、やはり……。
(俺以外が芹沢の裸見てるの、やっぱなんかな……)
 悶々とした思いは止まらない。
 どうしてこうも、気になるのか。
「では面談形式はこのくらいにして、次の審査に移りましょう。少々準備がありますので、五分後に指定の教室へ向かって下さい」
(まさか……)
 このパターンには覚えがある。
「あのー。服は……」
 覚えがありながら、わかっていながら、多田は恐る恐る訪ねてみる。
「ああ、服は終了後に返却するから、そのままでよろしく」
 あっけからんとした顔で、蛙屋は答えるのだった。

     †

「――久しぶりね。これ」
「お、おう」
「別に懐かしむ気なんてないけど」
「そりゃそうだよな」

 二人は廊下を歩んでいた。
 途中、同じように下着一枚の姿で歩く、他校の男女ペアを見かけたり、すれ違ったりしていきながら、多田と芦沢のペアも指定の教室に到着する。
 まだ数分ほど準備に時間がかかるというので、仕方なくベンチソファに腰をかけ、呼ばれるまで待つことにした。
「多田くんは内心嬉しいんじゃない? 女の子の裸が見られて」
「うっ、どうかな……」
 図星を突かれ、多田は隣の芦沢から目を逸らす。
 芦沢は腕でがっしりと胸を隠し、見えないように守っているが、二本の腕では下着まではカバーできない。そもそも、胸やお尻が隠れたところで、全裸に限りない露出度で肌が見えているのなら、もう十分に興奮ものだ。
「さっきだって、私の方をチラチラと気にしていたでしょ」
「うぐっ」
「わかるんだからね?」
「わ、悪いか! 男はそういうものだ!」
「そうね。そういうものね」
 見下すような冷たい視線を感じてみれば、芹沢の視線は多田の下着に向いていた。中身が大きく膨らんで、当分は元の大きさになど戻りようのない股間に対し、芹沢はいかにも呆れた顔を浮かべていた。
「……仕方ないだろ?」
 本気で軽蔑してはいないだろうか。
「大丈夫よ。わかってるから、心配しないの」
「そ、そっか……」
 ひと安心する多田は、何をここまでホッとしているんだろうと、我ながら思っていた。女の子に嫌われるのは確かにショックが大きいが、自分はどうも、他ならぬ芦沢に嫌われることを恐れている。
「ねえ、多田くん」
「なんだよ」
「終わったら、寄り道でもする?」
 芹沢の急な誘い。
「おやおや、真面目なクラス委員長からそんな提案が出るとはな」
 口先では煽らんばかりに言っていながら、多田は正直に言ってドキドキしていた。思わぬ誘いに舞い上がってしまいそうな自分を抑え、努めて冷静な男を演じていた。
「だって、電車で遠出なんて、あんまりしないでしょ? 別に帰り時間を決められているわけじゃないし、予定通りに終われば十分に余裕りそうじゃない」
「確かに、寄り道の時間はできるだろうな」
「どう? さしあたって問題のない提案だと思うんだけど」
「乗った。一緒に色々と見てまわろう」
 負けじとばかりに――自分でも何を競っているかはわからないが、多田の方からも、誘うような言葉を使ってみる。
「そ、そうね」
 芹沢の頬が、少し赤らんでいた。
(ん? いや、こんな格好だしな)
 ジロジロ見ていたら悪いだろうか。
 見たくて見たくてたまらない思いに相反して、ジロジロ見ては嫌がるのではないかという恐れも沸いて来る。前回だったら、例えば身長計で身長を測った際、胸を晒すように仕向けさえしていたのに、今の自分にあの時と同じことができるだろうか。
「ねえ、ところでさっき、何してたっけ」
 不意に芹沢は尋ねてきた。
「は? なにって、面談形式の審査だろ?」
「それはそうなんだけど、何を聞かれたっけ? って聞いてるの」
「ああ、そっか。ええっと、確か変な薬を飲んで、それから…………」
 あれ? おかしいな?
 と、多田は首を傾げた。

「さて、そろそろ準備が済んだ頃だ」

 疑問を抱きかけた時、蛙屋は二人の前に現れた。
「部屋に入ろうか」
 蛙屋が先を行き、ドアを開いて入って行く。
「い、行くわよ。多田くん」
 芹沢はすぐさま立ち上がり、多田もそれに続いて入室した。

     *

 ようやく、堂々と芦沢の乳房を拝む機会が訪れた。
 次に始まる審査の内容で、まず指示が告げられて、芦沢は室内に用意されていた白いベッドに横たわる。多田はそのすぐ隣に座らされ、まるで病人のお見舞いに来たかのような形である。

 多田くん……ジロジロ見すぎ…………。

 そんな声が聞こえて来そうな、何かを言いたげな目つきが多田を向くが、多田はニヤっとした表情で返してやる。すると芦沢はむっくり膨れ、わざとらしく瞳を背けた。
 やはり、いい胸だ。
 スレンダーな体格で、ふんわりとほどよいものが聳え立ち、自重で潰れるかのような変形も控え目だ。
 芹沢の心境は今、どんなものだろう。
 多田に蛙屋に、何人もいる職員達にも囲まれて、みんなの視線が乳房やパンツを行き来している。展示品にでもなった気分だろうか。
「さて、これから行うのは、性機能についての審査だ」
 多田の向こう側で、蛙屋が芹沢の腹に手を置いていた。
(くそっ、こいつ……羨ましいぞ……)
 触り心地を味わって、いやらしい手つきでヘソの周りを撫でている。ぐるぐるとした手つきでゆっくりと、ゆっくりと、時間をかけて回っている。
「では始めに、芹沢さん。あなたは今、どんな気持ちかな?」
「それは……大勢の人に囲まれていて……全員が男の人なので……とても恥ずかしく、緊張もしています…………」
「男性器。つまり、ペニスに対する好奇心はあるかな?」
「なっ、なにを――」
 おかしな質問に芹沢はぎょっとして、多田も目を丸めていた。
「これは性に対する心理調査も兼ねているんだ。正直に答えるように」
「……はい。では答えます。男性器に対する興味は、あると思います」
 芹沢が答えた途端、多田の隣に立つ男は、バインダー留めの紙にボールペンを走らせる。
「あるんだね?」
「性に対する好奇心はありまりますので……ただ、性器の挿入は……初めては痛いんじゃないかという不安があり、それに女の身ですから、こうした何でもない時でも、性暴力への恐怖も無意識のうちにあると思います。だから、私の男性器に対する気持ちは、興味があるような、怖いような、というものだと思っています」
 芦沢が行うしっかりとした受け答えに対しても、記入に夢中な男は素早くペンを走らせ続け、紙を引っ掻く音が多田の耳にはせわしなく届き続けていた。
「では次に男性器の写真を貼ったパネルを用意して、どのペニスが一番良いと思ったり、興味をそそられたか。逆に怖いなーと感じたか。そういうことを答えて欲しい。どのペニスにも番号を振ってあるので、番号で答えてくれて構わないからね」
 蛙屋がそう言うと、職員が何枚かのパネルを脇に抱えて運んでくる。そこにずらりと、生の男性器が写されているというわけだ。それを目の前に見せつけられ、芹沢はカッと赤くなり、反射的に顔を背けていた。
「しっかり見るように」
「は、はいっ、すみません」
 芦沢は視線を向け直す。
「いいかな? 怖いでも、そそられるでも、何でもいい。目を引かれたり、気持ちを揺さぶられたりするものを最低でも三つ答えて欲しい」
 職員が見せつけているパネルは何枚かが重ねられ、それは紙芝居のように一枚ずつ順番にスライドしている。
 二枚、三枚、四枚――十秒は置きつつ入れ替えて、最後の一枚まで見せきった時だった。
「一番何かを感じた順から、順番に三つ答えて欲しい」
 蛙屋がニッタリ笑う。
「三十番、五十一番、四番の順に、それぞれ思ったことがあります」
「では四番のペニスから」
 男性器に対する感想を言わされる気持ちは、一体どんなものなのだろう。
「はい。特に理由はないのですが、他の写真に比べて歳が近そうというか、何となく同世代のもののように見えました。なので親近感みたいなものが湧いた気がします」
 すらすらと答えながらも、どことなく目が何かを訴えている。

 ――何? 何なの? この質問!

 多田からすれば、芹沢の顔からそんな声が聞こえて来そうだ。
「五十一番のペニスはどうだった?」
「どの写真も、その……ぼ、勃起……していたので、一番大きい状態のものを撮っているのだと思います。そうした中で、五十一番は他に比べて小さくて、細くて、本人には失礼ですが、情けない感じがしました」
「いいよ? そういう感想も正直に聞きたい。そういう心理調査だからね」
 まとめると、今のところ四番のペニスには良い感想が、五十一番のペニスには悪い感想がついたことになる。
 すると、三十番はどうなのだろう。
 そもそも、ペニスの写真を多田は見せてもらっていない。職員は芹沢にだけ見せていた。芹沢が何を答えても、写真の中身がわからないから残念だが、そこは想像で補うのだ。
(芹沢。お前の感想、みんな頭に叩き込むからな)
 多田が脳を可動させていると、蛙屋は最後の質問を開始した。
「一番何かを感じたのは三十番のペニスだね?」
「はい」
「では答えて下さい」
「どの写真も血管が浮き出たり、太かったりしましたが、三十番は特に血管がよく目立って、太さも際立っていた気がします。筋肉が詰まっていそうで、一番逞しい男性器のように思えました」
 こうして、芹沢による順位付けは済まされた。
 もっとも、五十一番は情けないという評価なので、実質四番が二番手で、三十番が一番手ということか。
「種を明かすと、四番は多田くんの写真なんだ」
 蛙屋は急にペニスの持ち主を明かしてきた。
「な……!」
 驚愕の多田。
「えっ、多田くん!?」
 芹沢も目をぱちくりさせ、多田に視線を合わせていた。
 確かに、前回の審査で写真撮影はあった。審査会に関わる人間なら、多田のペニスを持ち出すことも可能だろう。
「そして、三十番の逞しくて立派なペニスは、恥ずかしながら僕の写真」
「そう……なんですか……?」
 今度は蛙屋に対する驚きの瞳を浮かべ、芹沢は気まずいような居心地の悪いような、妙な感覚がしてならない顔つきになっていた。
「そうなんです。ねえ? 多田くん。凄い偶然だけど、ペニスの評価は僕が勝ったねぇ?」
 プライドを傷つけてくる言葉に、多田はぐっと歯を噛み締める。
 物凄い偶然だ。
 何十枚もあった写真から、この場にいる人物のものを当ててしまった強運は、宝くじに当たったようなものである。数の多い職員ならまだしも、多田と蛙屋だけをピンポイントに拾い上げたのは、奇跡としか言いようがない。
(なんなんだよ……この悔しい感じ……)
「どうかな? せっかくなので君の心理も調査しよう。僕のペニスに評価が負けて、どういった気分かな?」
「……そ、その……身内というか、クラスメイトというか。芹沢から貰った評価なんで、自分が勝ちたかった、みたいな気持ちはありますね」
 答えるなり、やはり多田の心境さえも、バインダーの中に書かれている。
「現在、多田くんは勃起していますか?」
 その質問は、遠回しに芹沢の裸に興奮しているか聞くようなものだ。
 正直に答えるしかない。
 こういう審査の場で、嘘はまずい。
「……しています」
「僕もしています。みんなはどうかな? 勃起している人間は、一度挙手をして欲しい」
 全員の手が上がった。

 ――うそっ。

 と、そう呟くかのように、ぞっとした芹沢が唇を動かしていた。
 自分を囲む全ての男が興奮しているのだ。事務的な表情で、職務をまっとうしているだけとはいえ、腹の底では芹沢をどうにかしたい、触ったり挿入したりしてみたい、欲望の数々が渦巻いている。
 芹沢にしてみれば、不安を強く煽られるはずだ。
「芹沢さん。それだけ、あなたの裸は魅力的なようだ」
 蛙屋が言い聞かせるなり、ますます芹沢の表情は歪んでいく。聞きたくないかのような、しかし審査の場で耳を塞ぐわけにもいかない中で、その顔は恥辱に濡れていた。



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