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  • 最終話「契約の儀式」

    前の話 目次

    
    
    
     しかし、討魔剣士として生きるということは、パートナーとなる男と性を交える運命を意味していた。決められた男に純潔を捧げ、戦うたびにその人から回復の儀式を受けなくてはならない。
     そのパートナーは大人達によって決められる。
     女側に選ぶ権利があるとは限らない。
     討魔剣士は十五歳の誕生日を迎える際、その日に男を紹介され、処女を捧げる契約の儀を執り行う掟がある。
     凛菜はそれを両親から聞いて知っていて、それ自体には覚悟があった。
     気に入らないのは確かだし、何が悲しくてそんな回復方法しかないのかはわからない。他に方法があればいいのだが、それしか確立されていないのなら、そういうものとして受け入れる以外に道はない。
     それが嫌なら、家を出て行く宣言でもするしかない。
     しかし、あれ以来から使命感を抱くようになり、復讐心さえ燃やしている凛菜にとって、家を出る選択肢はありえない。あの時の無念を晴らし、同じような被害者を出さないためにも、誰かが戦うべきなのだ。その義務感を背負った凛菜は、例え誰に抱かれようとも戦う決意を固めていた。
     自分は普通の女ではない。平凡な日常には属すことなく、戦いの世界に身を置く以上、ごくありふれた恋愛なんかに憧れることは出来ない。そういう家に生まれ、そう教えられて育った影響もあり、運命は運命として受け入れていた。
     だが、その上で絶句した。
     それは男の紹介の際。
     初めて顔合わせを行うため、畳部屋の中で相手が現われるのを待っていた時である。時間が訪れ、やがて襖を開くと同時に少年が顔を出し、自己紹介をしながら歩んでくる姿を見て、凛菜は言葉を出せなくなった。
    
    「やあ? 初めまして。僕は新谷織田彦だよ」
    
     あまりにも恐ろしいルックスの悪さに全身が総毛立ち、こんな男に抱かれるのかと正直寒気が走ったのだ。
     もちろん、顔なんかを期待したわけではない。
     ごく人並みの人格があって、ごく人並みの身なりさえしていれば、誰が来ようと構わないと考えていた凛菜だが、その凛菜が青ざめるほどの醜悪な容姿を織田彦がしていたのだ。
     まず、目つきがいやらしい。
     まるで視線で嘗め回してくるような、胸だの尻だの、そういう場所ばかりを見ていそうな卑猥な瞳には、色欲ばかりが宿っていそうで、その目つきだけでも十分にゾッとする。
     その上、顔のパーツが悪い。
     まず鼻が潰れていて、ブタに似て穴が前を向いているのだ。頬にはふっくらと肉がつき、両側に垂れているのはブルドッグを彷彿させるし、腹も出ていて体格が悪い。おまけに全身が脂っこくて、夏でもないのに皮膚に汗っぽい何か粘液のようなものが出ていて、触れとネバネバしているように思えて、心底最悪だと思った。
     醜悪すぎる顔、体格。
     いや、見た目で判断してはいけない。
     どんな外見をしていようと、人並み程度の人格であれば、別にそれでいい。
    「は、初めまして。私は如月凛菜」
    「凛菜ちゃんか。可愛いねぇ?」
     鼓膜にネバついてくるような、ねっとりとした声で、初対面からいきなり下の名前でちゃん付けをされ、全身に寒気が走った。
     しかも織田彦は、テーブルを挟んだ向こうに座布団が置いてあるにも関わらず、わざわざ凛菜の隣へ回って座り込む。早速女に触れ、味わってみたいかのような、既に待ちきれないかのような興奮の息遣いで、ギラギラとした視線でねっとりと凛菜を見る。視線は明らかに胸や太ももへ集中していた。
     決まりだ。織田彦は気持ち悪い。
     男としてはハズレの相手だ。
     だが、女を回復させてやれる男というのも、基本的に限られている。嫌だから拒否するとはいかない世界なので、生半可な言い訳ではパートナーを拒めない。如月家や他の家系でも、そのように決まっている。
    「私の回復役になるって、聞いているわ。アンタなんだね」
    「うん。そうだよ?」
    「まずはそうね。心意気でも聞こうかしら。私のパートナーになるからには、アンタも決して戦いと無関係ってわけじゃない。覚悟はあるわけ?」
    「もちろん」
    「どんな覚悟があるのか。聞かせてくれる?」
    「それはセックスだよ」
    「――っ!」
     凛菜は一瞬にして顔を引き攣らせた。
    「ずーっと稽古を頑張ったんだ。可愛い女の子を抱けるんだから、やる気が出るのも当然のことだよね? いつか、いっぱいセックスするのを夢見て、それはもう死に物狂いで頑張ってきたってわけ」
    「ふざけないで!」
    「へ? どうして?」
     織田彦はきょとんとする。
    「あのねぇ? こっちは命懸けなのよ? もし戦いに負けて、妖力がゼロになるまで吸われてしまえば私は死ぬ。アンタだって、妖力の高い男は見つかり次第命を狙われる。それをふざけた理由で――。信じられない!」
     凛菜は激高していた。
     こちらは親友を殺され、その無念を胸に抱いて今日までやってきた。あの時何も出来なかった自分が許せなかったし、同じ被害者を増やしたくない。れっきとした思いを抱いた凛菜の前に現われるのが、よりにもよってセックスがしたいだけの理由の男だ。しかも、恥を知らずにいけしゃあしゃあとそれを自慢げに口にしたのだ。
     本人はそれを怒られたことできょとんとしている。自分が何を悪い事を言ったのか。自覚できていない顔だった。
     頭がおかしい。顔で判断してはと思ったが、織田彦の顔には人間性がそのまま現れているに違いない。
    「僕ってこんな顔でしょ? 他にモテる方法なんてないし、いつ命を狙われるかはわからなくても、確実に誰かとセックスできる世界にいた方がいいと思ったんだ」
    「馬っ鹿みたい! アンタ馬鹿でしょ!」
    「うーん。情熱的って言って欲しいな。男はセックスのために命懸けになれるんだよ?」
    「ああもう、完全にふざけているわね。アンタ。自覚が足りないっていうか……」
     覚悟と使命感を抱く凛菜に対して、完全にどうかしている織田彦。
    「けど、掟はわかっているよねぇ?」
     じゅるり、と。
     欲望にまみれたケダモノの舌なめずりで、汚らしいヨダレの音を立てながら、既に興奮している荒い息遣いで迫ってくる。熱くて臭い息がかかるほど、顔を近づけられ、正座の太ももへ手の平を置いてくる。
    「お、掟ね。わかっているけど……」
    「だったら、受け入れないと駄目だよ?」
     ふぅーっと、粘り気を帯びたような息が、耳の穴に吹きかけられ、凛菜はゾッと身震いした。
     掟において、男の欲望を拒んではならない。
     回復の儀を執り行うには、男女が同じ場に揃った状態で精力を発散するわけだが、男側が満足しなければ、儀式が不発に終わる可能性がある。たとえ男にとって満足のいく性交でも、両思いの愛情に満ちたセックスであっても、確率のランダム性という理由で、数百年の歴史においても回復失敗の記録は多かった。
     そこで、成功率を高めるための措置が研究され、決められたパートナーと契約を結ぶ術法が生み出された。
     契約という見えない繋がりを男女のあいだに作り出すことで、不発に終わる可能性は限りなくゼロに近づく。
     ただし、男の欲望発散が儀式行為の手順なので、基本的に相手の趣向を満たさなければ回復の儀は成立しない。フェラチオといわれれば咥えなくてはならないし、体位に関する欲があるなら、それも満たしてやらなくてはいけなくなる。
     回復の術者は男であり、満足したり、欲望が発散できて楽しい『感情』を術法の手順のうちに含んでいるため、それを阻害すると簡単に不発になる。決して阻害せず、契約まで結ぶことにより、初めて絶対的確率で回復に成功するのだ。
     女は相手を受け入れるべしというのは、そのため掟の一部とされている。
     拒むことが許されるのは、刃物で生体を傷つけるような加虐的な趣味であったり、排泄物を飲食させる人体に有毒な行為など、目に見えて過激な趣味趣向の場合に限られる。
     そして、女の怪我や病気に関わる性癖の持ち主など普通はいない。あるとしても、コスプレだとか体位だとか。風呂場でしたい、外でしたいなど。肉体的な怪我や健康被害の危険がない限り、大半のプレイ方法が許されている。
     男を拒める掟など、事実上無いのと同じだ。
    「稽古は厳しかったよ。妖力を高めるために滝に打たれて、穴に落とされて、色々と過酷な目に遭ってきたけど、それでも僕は頑張れたんだ」
    「……へ、へえ?」
     織田彦は肩へ手を回し、スカート越しの太ももを撫でている。明らかなセクハラに凛菜は顔を引き攣らせ、冷や汗ばかりを流した表情を浮かべていた。
    「ずっと前から、君の写真を見せてもらっていたからね」
    「――っ!」
    「こんなに可愛い子とセックスできるって運命が決まっていたから、僕はそのためだけに修行をしたんだ」
     織田彦の手が、セーラー服の腹へと移動する。服の内側へ潜り込み、ヘソ回りの肌を直に手で確かめ始め、脂っこい、気持ち悪い手の平の感触に全身が総毛立つ。
    「アンタ最低ね。私としては掟は守るけど、もっとマシな自覚は持てないわけ?」
    「まあまあ。セックスへの欲望だって、命を賭ける理由になるよ? 人間の三大欲求。とても気持ちいいことだから、たとえ淫魔妖怪に狙われるかもしれなくても、リスクがあっても構わない覚悟はあるよ?」
     腹の肉を撫でていた手が、セーラー服の内側で上へとスライド。ブラジャー越しの乳房を揉み始め、初めてそんな目に遭った凛菜は、さすがのさすがに耐えかねてしまった。
    「やめろ!」
     突き飛ばした。
    「ぐへぇ!」
     片手一本で押しのけられた織田彦は、情けなく畳に倒れる。
    「今は回復の儀の最中でも何でもない! アンタみたいのがパートナーなのはこの際仕方ないにしても、私に触れることになるからには、その最低な根性を叩き直して貰わないと困るわ」
    「だ、だって……」
     まるで小さい事もが言い訳を始めるような、幼稚で情けのない口調の声を出す。
    「だって何?」
    「だって、討魔剣士は性処理道具だって習ったよ?」
    「――なっ!」
    「満足いく『感情』が回復の儀の手順の一部だから、性奴隷とかペットとか、そんな風に考えるのがコツだって教えられたよ?」
     なるほど、術の行使にあたっては、それはコツなのだろう。
     しかし、そんな風に思われて、それを堂々と公言までされ、実際にセクハラまでしてくる相手をだ。はい、そうですかと、快く認めて受け入れるほど、凛菜の心は広くない。
     掟だから、仕方は無いが……。
     もしも掟が存在せず、そんな回復方法が必要なければ、こんな男には絶対に触れもしないし、視界にだって入れたくない。最低の人種に間違いなかった。
    「契約を結ぼうよ。凛菜ちゃーん」
     織田彦は笑いながら、よだれを垂らした欲望まみれの卑猥な顔で立ち上がる。
     十五歳の誕生日、討魔剣士は契約を結ばなくてはならない掟である。
     受け入れるしかなかった。
    
         ***
    
     真夜中。
     畳を敷き詰めた障子の部屋の中央には、契約の儀を執り行うための、魔法陣によく似た円形状の図形が描き込まれていた。もちろん、日本製の術式なので、西洋のものと違って、図形の内側に並んだ文字は全て漢字か東洋の記号である。
     円周のラインに沿ってロウソクが並べられ、小さな火の数々だけが灯りとなって、暗闇をぼんやり明るく照らしていた。
    「さあ、始めようか」
    「……ええ」
     魔法陣のさらに中央に置かれた布団の上で、お互いに膝を向き合わせ、これから行う情事に対して、織田彦とと凛菜はそれぞれの感情を抱いていた。
     二人の衣装は白く薄い着物である。
     契約の儀に合わせ、事前に身体を清めてあるため、この内側には何一つ着ていない。儀式の手順として、下着類は着用しないため、お互いに布一枚だけを纏っている。
     まず、織田彦が言葉を放つ。
    「これより、我に結ばれる者として、その素肌を晒されよ」
     儀式上の言葉。
     それに従い、凛菜は着物の紐を解き、布団の上に脱ぎ落とす。男の性感情を満たすための存在になるために、これからの関係を明らかにするために、女は自らの手で裸体を見せてやらなくてはならないのだ。
     凛菜の肉体は鍛え込まれている。
     そのため、腰は引き締まり、脚のラインもすらっとしている。丸く育った乳房は垂れることを知らずに前へ突っ張り、その下にあるヘソ周りには、薄っすらと腹筋の肉が見える。下腹部の恥毛は手入れがされ、逆三角形の形に綺麗に短く切り揃えてあった。
     凛菜はそれら全てを見せるため、直立不動のまま手は横に下ろしていた。
    
     恥ずかしい……。
    
     当然、恋を知らずに生きてきたため、男に肌を見せるのは初めてだ。覚悟はあるにせよ、羞恥心の強い年頃なので、裸になれば顔も赤く染まっていく。恋愛にまつわる願望はほぼ捨てている凛菜だが、恥じらいという意味では、やはり立派な乙女であった。
     癪だった。嫌だった。
     最低としか思えない人種の男が、醜い顔で満足そうな表情を浮かべている。胸やアソコを舐めるように見て回し、ニヤけているのが、本当に気に喰わない。
    「我に従う者として、その秘密を明かされよ」
     赤面しきっていた凛菜の表情が、さらに歪んだ。
     次の手順では乙女の秘密を口にして、その情報を相手に与えなくてはならないのだ。
     相手の顔を見ないため、筋力の許す限り、強くまぶたを閉ざしながら、凛菜は震えた声で言葉を放つ。
    「……あ、明かします。この胸の膨らむのは十の頃、冬の時。この毛が生えしは十一の頃、春の時。女の血を流したのもまた、十一の頃、春の時」
     乳房の時期、陰毛の時期。初潮の時期さえ口にした。
     こんな情報を口にするのは、例えるなら、秘密にしていた日記を読まれるのが可愛いほどに恐ろしく気まずい。とても顔など合わせられず、視線をどこかへ逸らしたり、唇を丸め込んだり、恥ずかしくて気まずい気持ちが、表情にありありと浮かんでいた。
    「従う心を、その身によって示されよ」
     次は肛門を見せなくてはならない。
     身を捧げゆく象徴として、ただ裸になるだけでなく、さらに恥ずかしい部位を相手の視線に晒さなくてはならないのだ。
     背中を向けると、織田彦の視線が尻に集中するのがよくわかった。
     戦いの修行を重ねた凛菜にとって、相手の視線を察することは容易い。例え視界を隠していても、気配によって背後のものを感じ取れる領域に達しているため、織田彦がいかに凛菜のお尻をよく見ているのか、必要以上によくわかった。
     凛菜の尻はプリっと膨らんでいる。ハート型のように丸々と肉を盛り上げ、艶やかな肌質の表面にロウソクの火を反射した光沢を敷いている。淡いオレンジの光が影を作る分、割れ目の溝がより深く見えていた。
    
     これから、お尻の穴を……。
    
     凛菜は悲しく俯く。
     下手をすればアソコよりも恥ずかしい、汚い排泄のための穴なんかを、織田彦の視線へ晒さなくてはいけないのだ。
     だが、自分で決めた道でもある。
     淫魔妖怪は許さない。容赦無く斬り捨てる。
     凛菜はそのために、自らの尻たぶを両手に掴み、影に隠されていた割れ目の中身を広げて織田彦へと見せつけた。
     汚れ一つ無い、綺麗な桃色の雛菊皺。
     織田彦の視線はそこに集中的に突き刺さり、凛菜は顔から湯気が出るほどの熱い赤面に見舞われ、傍から見れば何ともいえない構図が完成していた。直立した少女が指を尻たぶに沈めて割れ目を開き、正座で姿勢を正した少年が、じーっと穴を眺めている。
    
     くっ、こんな奴に……!
     これって、何秒やるのよ!
     屈辱すぎる……。
    
     人の視線をほぼ皮膚触覚で感知できる凛菜にとって、一点に視線が集中するということは、存在しない透明な指をピタリと置かれているようなものだ。両側へと皺の伸びた肛門を、まさにツンツンつつかれて、もみこまれているような気持ちが、凛菜の心を締め上げていた。
     熱にうなされてもおかしくないほど、凛菜の赤面した顔の温度は上昇していた。
     目元は潤み、今にも涙がこぼれ落ちそうになっていた。
     どんなに戦う覚悟があっても、この儀式に対して腹を括った気持ちがあっても、体を見られて恥ずかしいことだけに関しては、立派な十五歳の少女に過ぎない。
     むしろ、そのせいで男子の目線を意識したオシャレを試したり、スカート丈を短くしてみる挑戦をしてみた経験が皆無なのだ。日常を捨てる決意をした分、修行の成果で戦う力を身につけたという自信もつき、自分は戦士なのだという自覚を持っている。人知れず平和を守る存在としてのプライド意識さえ芽生えていた。
     それだけに、恋に恋する平凡な少女の方が、よっぽど男の視線を浴び慣れているといってもいい。
     プライド意識がある分、こんな格好悪い真似をしている情けなさにも泣けてくる。
    
     ま、まだなの? いつまで見てる気よ!
     こっちは死にそうなのに……。
    
     織田彦は正座の姿勢のまま足を歩ませ、もっと肛門をよく見ようと接近する。前のめりになってまで覗き込むのが、凛菜にはよくわかった。
     まるで一点に直線レーザーが照射されていて、顔が近づいてきたせいで、その出力が強まったように感じた。
    
     絶対に一分以上経ってる!
     もういいでしょ?
     早く、早く! 早く終わりにしなさいよ!
    
    「ふぅー……」
    「――!」
     息を吹きかけられ、あまりにもギョッとした凛菜は、仰け反るかのように顔を天井の真上へ向け、そのまま強くまぶたを閉ざした。顔の筋力のある限り、限界まで頬肉が強張り、唇は強く結ばれ、クシャクシャと形容してもいいほど、凛菜の表情は歪み切った。
     目が皺の本数を数えることさえ、皮膚の感覚で察知できる。上から時計回りに一本ずつ、放射状のラインをなぞって、織田彦は肛門の皺を数えている。
    
     人を恥ずかしさで殺す気なの? コイツは!
     いい加減にしてよ! いい加減に……。
    
     あまりのことに涙が出て、まぶたの閉じた左右の目から、それぞれ一滴ずつだけ、頬を伝って流れていった。
    
         ***
    
     実際、何分間肛門を視姦されたのかはわからない。数分以上だったのは間違いないし、いっそ一時間近くにさえ感じられたが、そんな長い長い時間を経ることで、凛菜はやっとのことで視姦から解放された。
     恥ずかしかった余韻が抜けない。染まりきった顔の赤みはすぐには引かず、耳もせいぜい色が薄まっているに過ぎない。織田彦を睨み付けなければ気が済まない、本当は殴りつけさえしたいような、惨めな屈辱を味わった表情を凛菜はしている。
     儀式は次の手順へ移る。
     それは同時に本番が近づくということでもあった。
     もう、かなり近い。
     凛菜の処女は織田彦のものとなる。
    「よいしょ」
     織田彦が立ち上がる。
     次に凛菜が行う作業は、織田彦の着物を脱がせてあげるという作業である。契約の儀式は女が男の性癖に従う義務を明らかにする意味合いを兼ねているので、相手を脱がせることさえ、凛菜の方からしてあげるのだ。
     腰のあたりの紐を解き、裾を下へとひっぱると、白い着物は脱げ落ちる。
     これでお互いに全裸になった。
     そして、さらに次へ移っていく。
    「この唇を捧げます」
     凛菜は自ら、織田彦の胸へ縋りつくようにして、瞳を閉じた顔を向けることで、言葉通りに唇を捧げるポーズを取る。
     織田彦の汗っぽい肌は、密着するとその粘り気が自分の肌に粘着してくるかのようで、ぞっとするほど気持ち悪い。そんな嫌な男の腕が、背中へと回され、抱き締められ、自分の体がこんな男のものになっていくのが悲しく思えた。
     唇が重ねられ、全身が総毛立つ。本来なら反射的に身が引っ込み、思わず相手を突き飛ばしかねないほどの悪寒に満ちていたが、こうなることが初めから決まっていたおかげで、凛菜は強い気持ちで耐え忍んでいる。
     ぼってりとした厚い唇の感触が、ぐいぐいと凛菜の唇に押し付けられ、ネバっこいかのような鼻息がフウフウと吹きかかる。
    「――んっ!」
     織田彦の唇の狭間から、舌がぬぅっと伸びてきて、それが凛菜の唇に触れたことで、凛菜は反射的に身を震わせた。やはり、思わず自動的に頭を引っ込めかねないほど、それは気持ち悪い感触に思えたが、凛菜は辛抱強く耐えていた。
    「ちゅぶぅっ、れるぅ――」
     舌が絡み合い、貪るように口内を蹂躙される。蠢くように凛菜の口内を冒険し、歯の裏側や頬の内肉をまさぐっていく。唾液が流し込まれ、舌にその味が広がり、自分の口腔が腐食に犯されていくような、おぞましい心地を覚えていた。
     やがて口を離すと、唾液の糸が引いていた。
    「この胸を捧げます」
     凛菜は儀式の言葉を呟く。
     織田彦は乳房を掴み、両手で丹念に揉み始めた。撫でるように触感を確かめつつ、指に強弱をつけて揉み、指で乳輪に触れて乳首を摘む。
    「この尻を捧げます」
     織田彦は再び抱きつき、背中に巻きつけた腕を下へやる。尻たぶを包み、撫で回し、存分に触り心地を確認してから揉み始める。
     次でいよいよだ。
    
    「私の処女を捧げます」
    
     そんな声を絞り出した。
     そして、凛菜は布団に体を寝かせ、両足の膝を立てる。開脚することで股の手前に織田彦を招き入れ、本番直前の緊張した気持ちに心臓が大きく弾む。
     この男が、凛菜の処女を破るのだ。
     超え太ったせいで皮膚はたるんで、顔の造形も醜悪に崩れている。ブルドッグのように頬肉が垂れ、ブタのように鼻が上向きになった容姿は、本当に気持ち悪いとしか形容できない。顔だけではなく、人間としての中身も同じようにゾッとする。欲望に満ちた下半身だけでものを考える奴なのだ。
    「えへっ、えひひひひっ、イヒヒヒヒ」
     息を荒げた織田彦は、犬がエサにありつくかのように、勢いよく秘所に顔を接近させ、閉じ合わさった性器の観察する。まじまじと眺め、指でクパっと中身を開き、薄ピンクにところどころ血管の赤みをまぶした肉壁が晒される。
    
     み、見てる! そんなところ……!
    
     処女を散らすまでへの最後の手順として、凛菜が本当に処女であるかを、こうして織田彦は確認しているのだ。
     人としての尊厳が壊されていく。プライドに罅を入れられ、何かを失ったような喪失感にさえ見舞われた。
    
     死にたくなる……。
     こんな、こんな!
     覚悟はしてたけど、こんなに……!
    
     トン、と。織田彦の指先が、凛菜の下腹部の陰毛あたりを軽く叩いた。
     妖術だ。
     男の少ない妖力でも習得かのうな、女の感度を引き上げて、瞬く間に愛液を分泌させる淫らな術――。
     挿入の準備のため、織田彦は術を使って、凛菜のアソコを汁の滲んだ状態へ変えたのだ。
     そして、いよいよだ。
    
     さ、されちゃう……。
     このまま、よりによってこんなのに私の初めてが……。
    
     亀頭の先端が割れ目に触れて、ぴたりと潰れる。生まれて初めて股間同士が触れ合う緊張に全身が強張って、凛菜は自分の気持ちをほぐそうと、全身の力を抜いていく。
     納得のいかない気持ちはある。
     戦いに一定の意識を持つ凛菜に対し、性欲を動機にしている織田彦だ。顔に目を瞑っても、運命に覚悟を決めても、それだけが納得いかない。
     納得ができないまま、割れ目に亀頭が触れるところまで来てしまった。
     もう、このまま入ってくるのだ。
    
     は、はじまる……。
    
     亀頭が膣口を圧迫しながら入り口を拡張する。ただ受け入れるしかない肉棒が、腰の進行によって押し出され、亀頭をだんだん埋め込んでいく。未経験だった小さな穴は、それに合わせて広がって、裂傷のように一部を裂く。
     これが、初めての痛みだった。
     痛みには個人差があるし、戦闘訓練を積んだ凛菜にとって、怪我そのものは怖くない。初めてセックスをすることに関して、痛みという理由で恐れはない。ただ乙女にとって大切なものが、本来ならおいそれと渡すことのない、目には見えない財産が、織田彦なんかの手に渡ろうとしているのだ。
     そういう緊張と、そういう恐れ。
     このまま自分は織田彦のものになるのだという、その事実が決定付けられてしまうことに対する恐れが、緊張感で凛菜の体を硬くして、顔もどこか強張っていた。
    
     ――あ! ああ……。
     は、入って……!
    
     腰の進行がさらに進んで、亀頭は全て膣へと埋まる。
     さらに竿までゆっくりと、スローモーションのように入り始めて、自分の処女がこうして散らされていることを、凛菜はありありと実感していた。こんなにもゆっくり、丁寧に挿入しているのは、織田彦が初めての挿入を味わおうとしているからだ。
     ゆっくりと入れることで、一度しか出来ない処女への挿入を、できるだけ長く味わおうとしているのだ。
    
     なんで、こんな人だったんだろう。
     男ってこいうもの?
     他にマシな人、いたはずだよね……。
    
     織田彦はじゅるりと舌なめずりをして、凛菜の処女を奪った事実に満足そうな表情を浮かべている。戦利品でも勝ち取ったような誇らしげな顔で、荒い鼻息をあげている。肉竿の半分以上が埋まり、根元まであと少しだ。
     凛菜ちゃんの処女を奪ったのはこの僕だ。
     僕が凛菜ちゃんの初めての相手だ。
     と、そう言いたげな表情がよくわかって、自分の膣に入っているのが、そういう男の肉棒だという事実をますます実感させられる。
    
     全部、入った……。
    
     先端から根元にかけて、全てが埋まり、凛菜の膣壁の狭間で蠢いている。
     ゆさゆさとしたピストン運動が開始され、凛菜は物言わぬまま揺らされる。勝ち誇った顔で自分を犯す織田彦の顔を、凛菜はただ見ていた。
     ボディランゲージというように、相手の動きや顔つきを見ていれば、どんな気持ちで腰を振っているのかよくわかる。セックスありきを名言していた織田彦は、こうして女を自由にできる立場を使って、相手を欲しいままにしているのだ。
     欲望のまま、相手を玩具にしたがっている。
     全裸を鑑賞され、肛門を視姦され、アソコを見られ、そして挿入されている。
     その一つ一つが、これから性処理道具としてデビューするための入門手続きに思えて、この儀式も織田彦も、何もかもが恨めしく思えてきた。
     これが、凛菜の初めてのセックスだった。
    
    
    


     
     
     


  • 一度はやりたい 女子高の健康診断医


     
     
     
          これは良い検査AV

      きちんと学校検査に徹していて、きちんとフェチマニア向けにできていました。

      医者の前で体操着をたくし上げ、触診で胸を揉まれる光景をたっぷりと楽しめます。

      この作品は7つのパートに分かれていました。

     ○着替え&身体測定
     ○健診パート①
     ○検尿パート①
     ○健診パート②
     ○検尿パート②
     ○健診パート③
     ○個別健診

      健診と検尿がそれぞれ①とか②とかに分かれていますが、
      女優が違うだけで診断方法の違いなんかはありません。
      人数が多いから、それぞれパートごとに区切りをつけながらやっているようでした。

      検尿パートは全てトイレで紙コップに出しているだけなので、
      医者の前で放尿みたいなことはありませんでした。
      (というか検尿③がなかった)

      では詳しいレビュー

      まずは最初の着替えシーン


      お喋りで騒がしい様子の教室で、女の子達が制服から体操着へと着替えていきます。
      何故か首から下ばかりが映っていて、個人の着替えをじっくり見せたり、
      顔が見えやすいようなアングルがなかったのが個人的には気にかかる。

      とはいったものの、ショーツの上にブルマが被さり、
      ゴムの端からプニっとお尻がハミ出るまでの一連の光景は、
      なんだかんだいって見ていて楽しい。



      ↓持ち上げる際にショーツがハミでる。
       でも直すというシーンも見れました。



      身長測っているシーンとかは、イメージ映像風に流れる程度。
      普通に体操着を着ているので、あまり力は入れていなかった感じですね。

      自分の身長聞いて
      「変わってなーい」とか
      「伸びた伸びた!」とか
      「え、変わんない」みたいな

      数字でいちいちはしゃいでいるノリは、学校らしさを出せていたと思います。



      本番は健診パートからですね。

      椅子で順番待ちの生徒が、服を脱がずにブラジャーを外すテクニックを使用。

      そして、医師の前に座るという流れ。



     1:首のリンパ触診
     2:おっぱいにメジャーを巻く
     3:聴診器を当てる
     4:おっぱい触診



      健診パートは全てこの流れです。

      上記で述べました通り、①や②に分けられているけど内容は同じです。

      サディスティックヴィレッジなら、もっとギョウチュウ検査やモアレ検査など、
      他の検査内容をやっているところなんですが、この作品は項目が少ないのが惜しいですね。

     
      とはいえ、おっぱいへの責めがその分なかなか執拗です。

       微妙に位置を変えながら押し込んだり、乳首を責めたりなどしています。




      触診では鷲掴みにして、乳首をつまんでみたり。
      指でさーっと撫でるような触れ方をしたり。
      時間をかけておっぱいを責めていました。




      聴診で1~2分以上
      触診で1~2分以上
      胸囲も何十秒かかけているので、

      全ての女の子が合計五分近くほどおっぱいを出し続けているわけですね。

      最後の個別診断では、気になった子を各自呼び出し。
      それぞれ詳しくチェックするというわけですが、
      ここで再登場するのは4人だけみたいですね。

       まずはおっぱい再チェック

       ショーツを脱いで・・・・・・

      

       四つん這いとなり・・・・・・

      

       丸出しのお尻を『診察』してしまいます。

      

     「お尻の穴見られるの初めて?」
     「……こんなところ見られるの初めてです」
     「じゃあなおさら診てあげないとねぇ?」

      と、羞恥を煽るやりとりがあったのもツボ。

      肛門に力を出し入れさせるプレイがあったのも最高です。

      動画じゃないとわかりにくいかもしれませんが、
      ギューっと力を入れ、そして力を抜いています。

          

      医師の手によってまで開閉されたり、
      じーっと観察されたりしてしまいます。



      恥ずかしそうに隠しているのも可愛らしい。


      この可愛さの子の肛門を観察したかと思うと得した気分になりますね。




      それによく見るとこの子、肛門にホクロあるんですねぇ?

       

      ちなみにこの葉山未来ちゃんだけにおまけセックスシーンがありました。

     FANZAで購入
     
     


  • スパイ容疑 フォトの身体検査

    
    
    
    
     *第二十巻「夫婦の話」のあと
    
    
         ***
    
    
     オレの名前はソウ。モトラドだ。
     小型車のトランクに積んで持ち運べるように設計された、ちょっと特殊なモトラドだ。もともと車体が小さいが、ハンドルやシートを折り畳むと、さらにコンパクトになる。まあ、速度は出ないけどな。
     オレの乗り主の名はフォト。性別は女。年齢は十七。黒い髪は背中まで長い。
     つい先日、とある夫婦からの仕事を引き受けた。記念写真が欲しいらしかったが、カラー写真の現像が終わる前に、夫の方は亡くなってしまった。依頼主が亡くなるだけでも驚きなのに、実は夫はスパイだったとかで警察が捜査にやって来た。
     そして、奥さんまでもがスパイだった。お互いがお互いに、スパイだと気づかないまま社会的身分を保つために結婚して、スパイ同士で夫婦生活を営んでいたのだ。
     さて、大事なのはここからだ。
     奥さんが逃亡したあと、フォトの鞄からいつの間にか、試し撮りした白黒写真だけがなくなっていた。代わりに鞄のポケットには、何故か大金入りの封筒が入っていた。わざわざ説明するのも野暮な話だが、まあ何だかんだで記念写真は欲しかったのだろう。
     この先が問題だ。
     そう、捜査は終わったはずだった。
     何もかも、めでたしめでたし。
     良い話だったなーと、締め括られたはずだったのに、どういうわけかフォトの体に、再び捜査の魔の手が伸びてきたのだ。
    
    
     あれから、数日後のことだ。
    「フォトさん。ちょっとお話いいでしょうか」
     店の前に一台の車が止まり、チャイムが鳴らされ、フォトが玄関を開けると偉そうな警察がずかずかと踏み込んできた。
     背後に二人。若い部下を引き連れた偉そうな警察は、顔立ちが醜いので醜男とでもしておこうか。
     こいつらは普通の警察ではない。もっとヤバイ連中だ。
     巨大な犯罪や、重大な事件――、それこそ、国家を揺るがすような事件を取り扱う連中。この国ではなんと呼ばれているかは知らないが、いわゆる公安警察だ。
    「あなたから奥さんのもとへ、何かが渡っていることが判明しました」
     白黒写真がバレたわけではないのか?
     いや、もしかしたら、わかっているが余計な真実は伏せているのかもしれない。
     ――え、あの写真が?
     なんて、うっかり口にしようものなら、
     ――おかしいですね。写真、とは一言も言ってはいませんが。
     といった具合だろう。
    「ええっと、ですね。あなたがスパイと断定されたわけではありません。あくまでも容疑の段階ですが、つきましては――」
     醜男はつらつらと用件を述べる。
     つまりはこうだ。
     フォトから奥さんへと、『何か』が渡ったことが判明したので、実はフォトもスパイで、グルだったのではという疑いがかかっている。我々はあなたを疑っていますと、わざわざ伝えに来るなんて、どうぞ警戒して下さいというようなものだ。もしも本当にフォトがスパイで、しかも今から逮捕されるわけでも、軟禁されるわけですらないのなら、逃亡の猶予が出来るというわけだ。
     まあ、本当に逃げるかどうか試そうって腹なのだろうが。
     さらに話を聞いてみれば、どうもそういう目論みではなさそうだった。
    「疑いがかかっているわけですが、確認さえ済めば容疑が晴れるか、もしくは確定します」
     まとめるとこうだった。
     逃げた奥さんを追って情報収集をしていると、この国には過去にもスパイがいたことが明らかとなり、その特徴はフォトとよく似た容姿の少女だったとか。一度は捕らえて、身体検査によって隅々まで調べたが、どうも逃げられてしまったらしい。
     そして、見た目の特徴が似ているフォトがここにいる。
     そりゃあ、調べないわけにはいかない。
     服を脱がせて、以前捕らえた過去のスパイと同じ特徴はないか。つまり、同じ場所にホクロがあったり、そういったことを誤魔化すための整形手術の痕跡があればアウトってわけだ。
     フォトの生い立ちから考えれば、どこにもスパイをやる暇なんざない。
     別に逮捕とはならないだろうが、容疑を晴らす方法が問題だ。
     身体検査。
     全裸にして、隅々まで観察して、穴の奥まで特徴を確かめる。恥じらいある乙女ってものをある意味では殺しにかかっている。
    「おい。違法じゃないのか?」
     と、オレは言った。
    「裁判所から既に令状も出ています」
     ってことは、無理に逆らえばこっちが違法扱いか。
    「わかりました! その検査。受けます!」
     おい、いいのか?
     もちろん、良くないとは言っても、令状には逆らえないが。
    「どうぞ調べて下さい。自分の無実を証明したいです!」
     なんて馬鹿正直な。
     フォトの生まれた国では、『人類皆仲良し』とか、『愛は世界を救う』とか、現実離れした用地な戒律がたくさんあって、おおむね皆がそれを信じていた。
     だからフォトも、真面目に人を神事、人を疑わず、人を騙さず、人を傷つけず、全ての隣人を愛していれば、素敵な人生になるとしんじていたのだ。
     他意のない誠実な身体検査だと信じているのだろう。
     そりゃ、公安のやることだ。屑が素直な人間を騙して、いいようにしてやろうとしているわけではないが、もしも女の裸を見たいだけの屑が公安の中にいたとしても、フォトはその人を信用してしまうだろう。
    
    
     フォトが連れていかれた施設の部屋は、シミ一つない真っ白な壁に床に天井が広がって、いるだけでぼーっと心が病みそうだ。
    「では身体検査を開始します」
     醜男が言う。
    「はい!」
     フォトは素直に返事をしている。
    「ここで全裸になって下さい」
    「わかりました」
     茶色のチノパンに、薄手のセーターを、フォトは何の疑いもなく、だけど恥ずかしそうに脱ぎ始めた。
     醜男以外にいるのは、検査に関わる白衣の男が数人だ。
     醜男はここに立ち会うだけで、女の裸を医学的な意味で観察できるのは、白衣の男達だけなのだろう。
     セーターを脱ぐと、ブラジャー付きの上半身が現れる。チノパンを脱げば、白いショーツの尻が現れる。
    「いひ」
     醜男の奴、嬉しそうに顔色を変えやがった。
    「…………」
    「…………」
     対して白衣の連中は、実に事務的な真面目人間の表情で、フォトの裸を見ても欠片も興奮していない。
     ブラジャーを外して乳房を出すと、パンツ一枚の格好に。
     パンツも脱ぐと、いよいよ一糸纏わぬ姿だ。
     せめて大事な部分は手で隠していたいのが人情だろうに、フォトはバカ正直な気をつけの姿勢で全てを晒している。胸は丸見え、アソコの毛まで見られ放題。白衣どもは真面目だが、醜男の顔つきは、だんだんと言い訳の聞かないいやらしさになっていた。
    「うーむ。いいオッパイだ」
     ぐっと顔を近づけて、醜男はフォトの乳房を品評する。
     隠す気もないとは恐れいるが、フォトもフォトで、それが職務上の必要行為だとでも信じているのか。顔を真っ赤に染め上げて、恥ずかしいのも我慢しながら、どうぞご覧下さいとばかりに背中を反らし、胸を突き出している有様だ。
     どうしたものかとオレは迷ったが、醜男の下心など知らない方が幸せだろうか。
     しかし、こんな奴が公安警察で権力を持っているなんて、スパイが紛れ込んでいるよりも恐ろしい真実じゃないか?
     ポチっと。
     ボタンでも押すみたいに、醜男は人差し指をフォトの乳首に押し込んだ。
    「……ん」
     何やら我慢の声を漏らしたフォトは、醜男のご立派な職務行為を真摯に受け入れ、好きなように乳首を触らせている。
    「さて、調べろ」
     権限は醜男にあるわけだ。
     指示が出てから、初めて白衣の男達は動き出し、今度こそ『仕事』のためにフォトの裸を観察する。ほとんど点検だ。機械整備の人間がメンテナンスを行ったり、出荷前の商品チェックで破損がないかを確かめたり、そういう光景と変わらない。
     いたるところを触られていた。
     うなじに指を当て、肩の肉を掴み、背中を撫で回す。あらゆる部位に顔を近づけ、至近距離から観察する。
    「ホクロの一致は」
     その隣で一人だけ、書類を片手に突っ立っている男がいた。
    「背中、腕、いずれも一致無し」
    「手術の痕跡無し」
     検査を行う面子がそう言うと、そいつは書面にペンを走らせた。
    「乳房を確認します」
     そう言って、白衣の一人が両胸を鷲掴みにして揉みしだいた。
     実によーく確かめていやがる。細やかな指使いで、もっとじっくりいくかと思えば、用など一瞬で済んだとばかりに、すぐに揉むのをやめてしまった。
    「どうですか」
    「豊胸などによる胸ではありません」
    「触感の一致は」
    「書面にあったスパイの乳房の感触と酷似して、もっちりとした弾力にあたるものの、乳首の色合いが異なります」
    「では脚をお願いします」
    「了解」
     どれだけ事務的なやり取りだ。
     それはそれで嫌なものだと思うのだが、フォトは真面目な顔であり続けている。この光景を眺める醜男だけが、楽しいものを見て喜ぶ表情でおいでなわけだ。
     太もも、膝、ふくらはぎ、足の甲から裏側まで、くまなく観察と触診を行うが、スパイとのホクロやアザの一致とやらはいずれも無し。
     しかし、どこまでフォトは正直なんだ。
     だんだんと、体全体が硬直して、表情も見るからにこわばって、まるで痙攣してるみたいに震え始めた。顔の染まりっぷりも、いつの間にか耳まで及んで、もうジュワっと顔から蒸気が噴き出ておかしくない勢いだ。
     それでも、フォトは素直に耐えている。
     真っ直ぐに姿勢を保って、検査を妨げないように背筋もピンと伸ばしている。恥ずかしがったり、手で隠したり、身じろぎすれば、検査がやりにくいはずだと思っているからだ。
    「下腹部に移ります。自分の足首を掴んで下さい」
     本当に配慮がないな。
     フォトがどんな気持ちかわかっているのか。ひょっとして、こいつらは本当に商品か何かの点検と同じつもりでやってるのか。真面目さが勢い余って、恥じらいだとか、人の尊厳といったものを忘れてはいないか。
     しかも、ポーズもまずい。
     全裸の女が自分の足首を掴むってことは、体を前屈状態に折り畳んで、丸出しの尻を高らかに掲げることになってしまう。
    「わかりました」
     言うまでもなく、フォトは素直に従うだけだ。
     尻の割れ目が左右に開ける姿勢だから、フォトの肛門が視線に曝け出されている。醜男はわざわざポジションを移動して、好みのアングルから眺め始める。
    「肛門の皺の数は」
     書類片手の男が尋ねる。
    「確認します」
     と、白衣の一人が尻の穴に顔を接近させた。
     さすがにフォトもやばいだろう。
     あれだけ至近距離に顔があったら、呼吸の息もかかってくるし、じっくりと観察してくる視線の気配も如実に違いない。
     一本、二本などと声に出し、本数をカウントして数えている。
    「本数不一致。色合いも一致しません」
     カウントした本数に対して、書類持ちの男はデータを確認しながら答えた。
    「性器を開きます」
    「サーモンピンクと一致しますか」
    「一致しますが、膣口の形状が異なります」
    「スパイの膣口は数センチ程度の極小の穴でしたが、サイズが違うと」
    「はい。それよりは広く、指が二本以上入ると思われます」
    「了解した」
     とはいえ、これで終わったか?
     顔の目や鼻から始まって、手足の指の一本ずつから、穴の中まで確かめたんだ。しかも不一致が多いのなら、もう十分なはずだろう。
     オレはそう思ったが、
    「待て」
     醜男が余計な思いつきを顔に浮かべた。
    「私がそれを確かめよう」
     なんと、醜男の奴。
     本当に指が二本以上入るかどうか。確かめるために挿入しやがった。
    「んくぅ……!」
     準備無しでの挿入だ。
     フォトは苦しそうな声を上げた。
    「なるほど、まずは一本目」
     醜男はご丁寧に左手を尻に置き、丹念に撫で回しながら、右手の中指を出し入れする。それが済んだら一度引き抜き、人差し指と中指を同時に挿れ、ピストンを行いやがった。
    「あっ、くぅ……!」
     畜生、フォトが嫌がっている。
     もう耐えることはないんだぞ?
     もう我慢しなくていいんだぞ?
    「ほうほう。これはいけない穴ですなぁ?」
     ほれみろ、醜男は下心を隠してもいない。
    「ま、まだ……私の無実は……」
    「ああ、もうちょっとで晴れるよ」
    「あっ、あぁ……ありがとう……ございます……んんぅ……!」
     ありがとうじゃないだろう。
     そいつがやっているのは、もうただの手マンじゃないか。尻をナデナデと可愛がっていやがる左手の動きも、おかしいとは思わないのか。
    「おい!」
     たまらずオレは声を上げた。
    「なんだね?」
    「何もかも不一致。指も入った。別人だってわかっただろう」
    「ま、それもそうだ」
     醜男は不満そうに切り上げて、フォトの膣内から指を抜く。
    「おめでとう。これで君の無実は晴れたよ」
     何がおめでとうだ。
     最後まで偉そうなやつめ。
    「よかった。私、スパイじゃないって!」
     そんなこと、オレは初めからわかっているが。
     最後までフォトは誰一人疑わず、本当に容疑が晴れたことを喜ぶ顔で、この場所から去ることとなったのだ。
     ったく、なんであんな男が公安に?
     この前の連中は、もう少し良心的だったはずなんだが。
     案外、あいつもスパイか?
     というより、組織を内側から腐らせるガンかもしれないな。本当に味方な分だけタチが悪い。いっそ敵か何かの方がマシだろう。
    
    
    


  • 深雪 羞恥の定期検査 後編

    前編

    
    
    
     全身検査。
     それは頭の先から足の先までをくまなく調べ、皮膚科系はもちろんガン系のしこりや筋肉の張り等の正常さを確かめるものだ。ここでは三人の検査医が女子生徒を取り囲み、それぞれの手で視診触診を行っていく。
     深雪はコレまで以上に赤くなり、首から上はほぼ別色といえるほどに顔面を熱くしていた。
    (こ、これって一番……)
     至近距離から、三人の男が手で触れながら視診してくるのだ。
     両腕を真っ直ぐ左右に伸ばし、二人がそれぞれの両腕を触って調べている。残る一人は背後へ回り、脇の下へべったりと手を貼り付ける。上から腰のくびれまでへと、ボディチェックを行うように撫でていく。
    (ふあ、あぁぁ……)
     上下に手をスライド往復される刺激に震えた。
    「右腕問題なし」
    「こっちもです」
    「肌は全体的にサラサラですね」
    「ふんわりと柔らかく、羽のわたのように優しい肌です」
     深雪は涙ぐんだ。
     三人の検査医達は深雪の体を事務的に弄くりまわし、合計六本の手がいたるところを這いずり回る。あくまで触診でしかない手が、しかし太ももを揉み始め、うなじをくすぐり、耳まで触れて全身を調べ尽くす。
     まるで拷問だった。
     悪いことなどしていないのに、途中からは頭の後ろで両手を組まされ、そして脇の下から足の裏までベタベタと触られる。体中いたるところに手垢をつけられ、もはや手の当たっていない面積部分など残されないほど、触診は丁寧に行われた。
     きっと兄へ差し出したかった大切な肌だというのに。
     そんな深雪の事情などお構いなしに、女が嫌だと思う部分を検査医は平気で調べ、指先で素肌をくすぐっている。
    「かなり発育がいいですね」
    「筋肉と脂肪のバランスがいい」
    「スタイルも抜群の部類でしょう」
     検査医達は深雪の体をああだこうだと論じていった。
    (こんなに観察して、意見を言い合うなんて……恥ずかしすぎます!)
     深雪は悶える。
    「お手本のようです。教科書に載せたいくらいですね」
    「はっはっはっは」
     軽く、笑われた。
     もちろん、検査医達に深雪を貶める意志はない。深雪の体への感想を疲れた気分を紛らわすために言い交わし、地道な作業疲れをほんの少し癒したのだ。何十人もの検査を受け持つ彼らにとって、深雪がどんな気持ちになっていようと、選りすぐりの美少女であろうと、大勢いる検査対象の一人にすぎないのだ。
     もっと言えば、処理しなくてはいけない仕事の一部だ。
    「乳房に入ります」
    「了解」
     もはや本人の意思などないも同じ。
    「健康的ですねぇ」
    「硬さは?」
    「やはりふわっとした柔らかさで、餅が手に張り付くかのようです」
    「なるほど」
     一人が乳房を両手で掴み、揉み始めた。なんの断りもなく、ただ仕事上のノルマを消化したい検査医は顔色一つ変えずに指を押し込み、皮膚の内側に何かがないかを探している。彼らに卑猥な心は欠片もないが、それだけに業務を淡々とこなしすぎていて、深雪の気持ちに対する配慮や紳士的接し方さえ欠片もない。
    (お兄様……助けて下さい……深雪はこんなのもう嫌です……)
     深雪は唇を噛み締めた。
     男の指が乳房を持ち上げ、プルプルと揺らしてくる。表面を撫でるようにして形をなぞり、乳肌の皮膚を調べてくる。乳首を摘み、グリグリとつねってくる。引っ張ったり、押し込んだりされ、突起した乳首は執拗に虐め抜かれた。
    (お兄様ぁ……)
     身をよじったり、体が逃げる反応をすれば「動かないで下さい」と注意が飛ぶ。胸をいいように扱われながらも、後頭部に手を組んだまま、深雪はひたすら我慢していなくてはならなかった。
    「乳首もコリっとしています」
     そんな情報を声に出される。
    「ええと、いずれも疾患は無しで、それから……」
     そして一人はチェックシートにペンを走らせ、今までの診察結果を書き込んでいる。書類の記入欄には、深雪の乳房や太ももの感触について書く項目もある。その人の語彙力が許す限り正確に、体つきから何もかもまでが記入されている。
    「しかし、やはり綺麗ですね」
    「ボディラインは人一倍優れていそうですしねぇ?」
    「触れた感じも全体的に柔らかく、ふんわりです」
    「なかなかいませんよ。ここまでの子は」
     他意はなくとも、深雪の体つきにまつわる感想が事務的に述べられていた。
    (お兄様……ぐすん……お兄様ぁ…………)
     それでも、耐えることしか許されない。
     深雪にできるのは、この時間が一刻も早く終わることを願うだけである。
    
    「では、臀部及び陰部へ移りましょう」
    
    「……!」
     おもむろにショーツに指をかけられ、深雪は戦慄した。全身に緊張がほとばしり、それでなくとも真っ赤な顔へさらに血流が集まって、心臓は早鐘のようにドクドクと大きな音を打ち鳴らす。
     検査項目は事前に通知されている。初めから内容はわかっていたし、腹を括ってきたつもりもあった。だが、いざこの瞬間を迎えた時、大事な部分が曝け出される危機感に、全身に警戒信号が行き渡り、鳥肌さえ立てながら深雪はごくりと息を飲んだ。
    (嫌ですわ! やはりここだけは……)
     ショーツは最後の砦だ。
     それを履いている限り、乙女の秘密だけは隠してくれる最後の盾だ。これを失えば最大の弱点が外へ晒され、深雪は無防備となってしまう。
     それに対する危機感。
     本能から警戒信号が発令され、深雪はほとんど条件反射的に抵抗した。いや、抵抗といっても抑えはしている。ただ脱がされかけたショーツを手で引き止め、深雪は自分の最後の防壁を失うまいとしていた。
    「どうしました?」
     検査医はそんな深雪を不思議そうに見つめていた。
    「脱がないと検査が進みませんが」
    「ほら、他の子達も待っているんですよ?」
    「あなた一人に時間はかけられないんです」
     口々に言われる。
    「わかっています。わかっていますが……」
     深雪は震えた。
     どうしても、こんな場所を見せなくてはいけないのだろうか。
     晒さなくては許されないのだろうか。
     女に生まれ、この学校に入学したというだけで……。
     悲しい、悲しすぎる。
     羞恥心が胸の内側で膨張し、風船を一気に膨らませていくかのように大きくなる。ただ恥ずかしさという一色だけが、深雪の感情を染め上げている。あまりに酷い恥をかかされて、泣けてきた。
    「司波深雪!」
     注意の声を上げるのは教師である。
    「これは規則なんだ。決まりを守れないようであれば、お兄さんにも迷惑がかかるが?」
    「お、お兄様に……!?」
     深雪ははっとした。校則違反に対しては当然指導が行われる。深雪への厳重注意に伴って、兄妹として同居している兄にも深雪の話をされかねない。問題行動だ、兄からもきちんと言って聞かせるように、といった具合に。
     兄に迷惑をかけることは本意じゃない。
     脱ぐしか、ない。
     泣きたくなるほど嫌なことでも、少し我慢すれば事は過ぎ去る。耐え抜いて、耐え抜いて、耐え忍ぶのだ。
     きちんと、兄の言いつけ通りに。
    「……すみません。恥ずかしくて、つい。きちんと受けますので」
     反省の素振りを見て、教師は一歩後ろへ下がる。
     これから陰部を晒されるのに、それでも謝るのは自分の方である事実を悲しく思った。
    「では改めて」
     検査医はその瞬間、ばっさり。
    「――――っ!!!」
     遠慮無しに一気に引き下げ、心の準備をする猶予もなく、深雪の全てが男達の視線の中へと曝け出された。
     ――カァァァァ!
     と、沸騰せんばかりに首から上がまんべんなく熱くなる。顔から蒸気が出てもおかしくないほど、火照るという言い方では生易しいほどに血流が頭部に集中する。全体的にきめ細かく、美白肌の深雪だが、首を境界線として顔面と両耳だけが真紅に染まっていた。
    (……こんな! こんな人前で生まれたままに姿になるだなんて!)
     あまりの顔の熱さに、額や頬からだけ汗が吹き出た。
     雪をふんわりと積らせたような白い尻は、触れれば崩れそうなほどに柔らかい。あるいは清潔な羽綿のように優しく、大きすぎず小さすぎない控えめなカーブでプリっとしている。
     手前の方では、毛が丁寧に手入れされている。切り揃えられた陰毛は草原の領地を控えめにして、貝の割れ目がくっきりと目に見える。ぷにっ、と微妙な膨らみを持つ皮は、ぴったりと閉じ合わさってラインを明確に浮き出していた。
    (こんなの……深雪は生きていけませんわ……)
     深雪は震えた。
     これは刑罰か何かだろうか。そんなものを受けるほど悪いことはしていないのに、検査医三人と男性教師、合計四人の男に囲まれた状況下で最後の盾を失ったのだ。こんな目に遭わされる人間は、他には捕虜か奴隷くらいだ。
     検査医の顔がアソコへ近づく。
    「陰毛はカットしていますか?」
     そんな質問をされ、深雪は深く俯いた。
    「……はい。手入れはしています」
    「そうですか」
     そっけない。
    「…………」
     特に意味はない。素朴な疑問を何気なく、そして深雪の気持ちなど考えずに投げかけて、答えがわかれば適当に頷いた。ただただ、深雪の心が削られるだけのやり取りだった。
    「では四つん這いになって下さい」
    「……え?」
    「性器及び肛門を検査するための姿勢です。
     事前に説明が行っていると思いますが」
    「……は、はいっ。申し訳ありません」
     どうして自分が謝るのだろう。
     情けのない気持ちになりながら、死にたい気持ちになりながら、深雪は床に膝をつく。そして両手をべったりつけ、全裸でお尻を差し出す犬同然のポーズとなる。
    「では肛門ですが……」
     一人の検査医が深雪のお尻へしゃがみ込み、尻たぶを掴んで割り開く。
    (いやぁぁあぁぁああ……!)
     深雪は強く目を瞑り、歯を噛み締めた。
     親指で押し広げたその間で、桜色の雛菊皺がヒクっと蠢いた。真っ白な尻肌の中央にぽつんと咲いた可憐な色は、およそ排泄気孔とは思えないほど、皺の花びらを放射状に広げている。
     それを検査医は凝視した。
    (うぅ……お尻の穴まで…………)
     ただの視線一つが鋭い針のように深雪へ突き刺さり、肛門をチクチクと痛めつけている。
    「とても綺麗ですよ。黒ずみがないんです」
    「本当ですか?」
    「どれどれ」
     肛門を覗いていたのは一人だったが、今ので残る二人も同時に深雪のお尻を観察し、尻穴の桜色に次々と簡単の声を上げていく。
    「ほほーう」
    「こんな場所がここまで綺麗だなんて」
    「普通は黒ずみがあるはずですが、これは白い肌に桜色を乗せた色感が効いています。
     純白から薄紅色へと変化していくグラデーションのように、美感がありますよね」
     よりにもよって肛門について品評され、激しい羞恥の情動が胸の中身を荒らし出す。頭の中からまともな思考は削がれていき、この恥ずかしさに悲鳴を上げたい、自分の状況を恥じた気持ちだけが深雪の頭を占めていく。
    (……恥ずかしすぎます!)
     深雪の心は叫んでいた。
    (こんなこと……深雪は恥ずかしさで死にそうです……!)
     恥じらいに熱された顔全体に汗が滲んで、皮膚が湿っぽくなっていく。その吹き出た汗が上昇した体温に温められ、いよいよ本当に顔から湯気が出てもおかしくない。
     硬く強く食いしばられた歯は癒着したかのように離れなくなり、瞼も自身の眼球を潰さんばかりに力の限り閉じられる。床に置いた手は握りこぶしとなって、内側に爪を食い込ませるまで強く握られていた。
     体のどこかに力を入れ、硬く震えることによって、深雪はかろうじて耐えていた。
    「性器を開いてみましょう」
     くぱぁ……。
    (んく――んんん……! な、ナカを見られるなんて……!)
     桃色の貝の中身を左右に開かれ、今度は肉ヒダへ視線照射が集中した。ヒクヒクと蠢く陰唇が、包皮に覆われたクリトリスが、まだ男を知らない膣口が観察される。
    「血色はいいですねぇ」
    「ビラの大きさも」
    「おや、処女ですか」
     視診された中身の状態を口にされ、もはや手付かずの恥部は残っていない。全てを余すことなく観察され尽くし、しかし二つの穴への触診はまだ行われていない。一人がチェックシートを片手にペンを構え、もう一人は深雪の背中を押さえて動いても手で固定できるようにポジションを取る。
     そして、診察用のゴム手袋をはめた一人が中指で性器をなぞり、男に触れられる言い知れぬ感覚に背筋全体がゾクっとした。
    (いやぁ……)
     淫らな意思を持たない『触診』は、それでもクリトリスの周囲をそーっと、触れるか触れないかといった微妙さで指の腹を当てている。デリケートな部分を傷めないよう、優しく撫で擦るやり方は愛撫に近いところがあった。
    (嫌ですわ……嫌ですわ……)
     検査医は膣口の周囲をなぞっていき、具合を探る。まだ未使用の入り口に余計な傷をつけない程度に先端を挿し、グリグリと回すようにして触感を確かめる。その刺激が甘い痺れを生み出して、内股のあたりをピリピリさせた。
    「特に何もありませんね」
     検査医はゴム手袋を取り替えて、次は肛門を診るためにワセリンを塗り始める。
    (いひぁ……!)
     ひやっとして、皺が一瞬ヒクンと縮んだ。
    (は、入ってくる……)
     中指が直腸へと進入し、内側を探り出す。肛門から異物が入ってくる違和感と、内部を調査されている心地の悪さ。検査医は指を左右に回転させ、出し入れしつつ触診位置を調整し、指の腹に感じる直腸の触り心地で丁寧に症状を探っていた。
     ズプ、ズプ、ズプ……。
     内部を摩擦するために、指がゆっくりピストンされる。
    (そんなぁ……)
     性器を観察された挙句に尻の穴までほじくられ、頭がどうにかなりそうなほどに猛烈な羞恥が膨れていく。もしかしたら、自分はこのまま恥ずかしさで死ぬのでは。膨大な羞恥心が容量を超えて多量に溢れ、堪えきれない感情量が全身にいきわたり、やがては事切れてしまうのではと、ありえない想像さえよぎってくる。
     ズプ、ズプ、ズプ……。
    (駄目です! もう……もう死にそうです……!)
     ヌプッ。
     それはゼリーを塗りたくった指が抜ける音。
     限界点を越えた時、ようやく指が引き抜かれたのだ。
    「異常なしです」
    「了解」
     これで、直腸検診までが終了した。
    (……た、助かりましたわ)
     羞恥心が死因になるなどないだろうが、深雪自身は本当に死ぬ思いをしていたのだ。やっとの事で解放された安心感で、自分が全裸の四つん這いでいることをつい一瞬忘れてしまう。けれども、安心の直後にすぐに自分の姿を思い出し、薄くなりかけていた赤面濃度は途端に元に戻るのだった。
    
    「あとは尿検査だけですね」
    
    (にょ、尿検査……!)
     深雪の表情は絶望に変わった。
     ようやく尻穴から指が抜かれて、つい安心しすぎてしまったが、事前の通知で採尿が行われる事はわかっていた。
     本人の尿であることを確認するため、放尿は検査医の前でとなる。三人もの男と、加えて男性教師が立っている前で、トイレでもない場所で容器の中へ用を足す。立ち会った教師が確かに司波深雪本人の尿であるとお墨付きを与え、それを検査医が病院へ持ち帰る。何らかの症状が判明した場合はその後本人に連絡がいき、健康であれば通達は特にない。
     しかし、尿を出せと言われて出せるとは限らない。相応の尿意が必要なため、事前の連絡でも直後に水分を取るよう指示が出て、朝も紙コップが学校から配られて、利尿性の高い飲料を一人一杯飲んでいる。
     これを終えてこそ、正真正銘の解放なのだ。
    
            ◇ ◇ ◇
    
     ジョォォォォォオオオォォオォォ――――
    
     尿道口から飛び出る黄色の水が、宛がわれた尿瓶の中へ溜まっていく。万が一にも床を汚さないため下にはタオルが敷かれており、尿瓶も大きめのものが使われている。たくさん出すぎて容器から溢れるといった心配はなさそうだった。
     ジョロロロロロロロロ…………。
     プラスチック容器を打ち鳴らしていた水音は、すぐに水面を鳴らす音へと変化していた。
    (こんなこと……こんなこと……)
     深雪が受けている仕打ちは、幼少の子供か赤ん坊扱いそのものだ。
    (こんな……こんな……!)
     赤すぎる顔を両手で隠し、深雪はもはや目の前の相手の顔さえ見れていない。こんなことは現実じゃない、悪い夢だと言い聞かせ、全力で目を瞑っている。瞼を閉じ、歯を食いしばるという行為には、筋力が許す限り最大限の力が込められていた。
     ジョロジョロジョロ――。
     放尿とは一度始まったら止まらない。トイレそのものを我慢しなければ、途中で中断がしにくいものだ。普通の生活を送る分にはそんな事で困る機会はないが、今ばかりはその生理的仕組みが残酷だった。
     ジョォ――ジョォ――ジョォオオオ――。
     深雪は開脚した股を持ち上げられ、そこへ尿瓶を当てられている。まるで一人でおしっこができない年齢のような扱いを受け、その光景を男性教師と余った検査医はまじまじと眺めているのだ。
     しかも、クラスメイトもいる中だ。
     既に先に順番が回っているか、あるいは後で同じ運命を辿ることに決まっているとはいえ、身内が同室にいる状況での放尿は最も耐え難いものである。ぐすん、と涙ぐんだ声が出て、硬く閉じられた瞼の隙間からも水滴が滲んでいた。
    (お兄様……深雪はこんなことをさせられています……)
     ジョロロロロロロロロロ。
     尿の勢いは少しずつ緩んでいるが、まだ止まらない。温かい尿液はみるみるうちに水かさを増し、大きめだった尿瓶の半分を突破している。
    (……人前でおしっこを致しました)
     ジョロ、ジョロ。
     尿が切れ始める。
    (アソコを見られました……お尻に指を入れられました……。そして、おしっこまでしているのです……)
     深雪の心は懺悔のように語っていく。
    (こんな深雪をどうか嫌いにならないで下さい。どうか……)
     ジョ、ジョロ…………。
     放尿が途切れ、溜まっていたものは全て出し切られた。
    
            ◇ ◇ ◇
    
     無事に生きて帰って来れた。
     生死の危険などありもしないのに、家へついてから深雪が感じたのはそんな思いだ。あんな悪夢のような目に遭わされ、それでも一応死なずに済んでいる。
     一応……。
     ただし、深雪の痴態はきっと教師の記憶に刻まれている。いかに医師にそういう感情がないとしても、男性教師はきっと深雪をオカズにするに違いない。そうはっきりと予想できるほど、教師が視姦していた対象はほとんどが深雪だったのだ。
    「お兄様、何でも一つ言う事を聞いてくれるのでしたよね」
    「ああ、そういう約束だったな」
    「……人の記憶は消せますか?」
     例え世界中から今日の深雪の記憶が消えても、歴史そのものは変わらない。拷問も同然だった出来事の数々は他でもない深雪に刻まれている。
     しかも、だ。
     同じ内容の検査は年に一度行われる。
     過ぎ去った悪夢が再びやって来ることは規定事項なのだ。
    
     深雪は負けません。
     それでも、元気を出して頑張ります。
    
    
    


  • 時槻雪乃とエロマッサージ 中編

    前編 後編

    
    
    
      苦痛。恐怖。憎悪。悲嘆。かつて遭遇した<泡渦>の中で焼印のように心に焼き付いた感情を汲み出すことが、自分の中の悪夢の<断章>を紐解く最初のプロセス。日常というぬるま湯に漬かることなく、孤独の中で過去を反芻し、ただひたすらに自分を切り刻み続けることが、化け物と戦う化け物であるために、雪乃に必要なことだったのだ。
    
     ――しかし、こんな苦痛。
    
     雪乃はおっぱいを攻められていた。
     上半身を起こされて、胡坐をかいた雪乃の背中は、斉藤の胸に密着して預けられている。背後からの乳揉みに囚われて、数分以上も揉みしだかれた上、さらに乳首まで刺激され、雪乃はその快楽をどうにもできない。
    「気持ちいいでしょう?」
    「うるさい……!」
    「これはねぇ? 一応、ちゃんと効果があってね。こうして乳首の血流を活性化させることにより、バストアップの効果が出るんだ」
    「……興味ないわね」
     美容など考えもしない雪乃には、本当にどうでもいい知識だが、斉藤はお構いなしに雪乃の乳首を苛めている。
     クリクリと、コリコリと。
     アイマスクの分だけ皮膚感覚に意識のいく雪乃には、ただでさえ強い刺激がより如実で、ともすれば指の動きが正確にイメージできる。指の腹でプレスして、その強弱によって乳首を摘み続けてから、左右に弾くような刺激を行い、軽く引っ張る真似もする。乳輪を延々となぞり続けもする。
    「ん……くふぅ……ぅ…………」
     せめて声だけは抑えていた。
    「我慢しないで、もっと大きな声で鳴いてもいいのに」
    「ふざけないで…………」
     何も知らなかった雪乃の身体は、大人の指に快感を教え込まれて、いいように敏感にさせられている。もっと早くに疑っていれば、こんなことにはならなかったかもしれないが、後悔してももう遅い。
     気持ちいいことによって息は乱れて、歯を食い縛っていなければ、どれほどみっともない声が漏れていくことか。
    「そう言わないで鳴いてごらん?」
     アソコへと手が伸びるに、紙ショーツに潜った指がクリトリスを見つけると、静電気が弾けるような快感に雪乃は激しく身をよじった。
    「…………あっ!」
     背中が斉藤に密着しきり、中年の胸板が壁となって、仰け反りようがないにも関わらず、それでも仰け反ろうとした雪乃の身体は、背中を強く押し付けた。
    「ほら、可愛い声だ」
    「この……ぉっ、あ……あぁ……!」
     腕が二本ともアソコへ群がり、クリトリスにも膣口にも指が取り付くと、肉芽への攻めと指のピストンが雪乃を襲い、雪乃はさらに身をよじる。
    「もっともっと鳴いていいんだ」
    「あぁ……ぅ……ぁ……んっ、んぁ……!」
     首でも仰け反り、雪乃の後頭部が斉藤の肩へと押し付けられる。背中ももっと、それ以上は増しようのない密着度合いをそれでも増そうと動いている。
    「雪乃ちゃんは完全にオジサンのコントロール下にあるんだからね」
    「コントロールって……!」
    「ほら」
    「……あん!」
     雪乃は悟った。
     まるで楽器でも奏でるように、この男は自在に雪乃を喘がせている。太い指の出入りが緩く、まだ手加減されているうちだけは、声を我慢することが許される。
     屈辱。羞恥。快感。
     雪乃の感情に新しい焼印が与えられ、「――あ! あっ、あん!」と、さも弦を奏でるつもりのような指先が、雪乃から鳴る音色を自在に引き出す。
     ……悔しすぎる。
     自分はいつ死んでも構わないし、自分の<断章>は不測の戦いにも向いている。<騎士>として戦い続けた自分が、こんな形で辱めを受けているなど最悪だ。どんな憎悪や恐怖も糧としてきた雪乃には、これまで積み上げてきたプライド全てが汚されているも同然だった。
    「……うっ、あっ、あくぅぅっ」
     そして、雪乃はここに来て、これまでにないほど必死に耐えた。
     何かが――来る気がした。
     全身に張り巡らせてある神経が、ある一点に信号を集めていき、それがいつしかアソコの中で爆発する予感に見舞われ、初めての体験に何がなんだかわからない雪乃は、とにかく必死に我慢をした。
     太ももから足首まで、筋肉が完全に強張るまでに力を入れ、腹にもぐっと力を込める。必死の必死に歯を食い縛り、我慢に我慢を重ねる雪乃のアソコから、たった一度だけ手が離れる。もちろん愛撫をやめてくれるわけではない。雪乃の足を持ち上げて、M字開脚のポーズに変えるためだった。
     足を左右に投げ出して、誰がいるわけでもない壁に秘所を見せ付ける。
     情けないとも卑猥とも言えるポーズのアソコは、女を知り尽くした指に蹂躪され、穴もクリトリスも嬲りつくされ、ついに雪乃の我慢の限界を突破した。
     ――来る!
     来る、来る、何か――。
    
    「――――――――っ!」
    
     声にもならない、絶叫に近い喘ぎ声。
     この時、時槻雪乃は生まれて初めての絶頂を味わった。
    
         ***
    
     イクことを覚えても、敏感になった肉体はまるで静まろうともしていない。触れればそこで快楽の電気が弾け、肩に触れても足に触れても、ビクっとした反応を雪乃は示す。そんな自分の反応を、今しばらくのあいだ雪乃は自覚していない。
     頭が真っ白になった余韻から、だんだんと脳を離れた意識が戻り、自分の置かれた状況を明確に思い出す。
     そうだ。
     こいつは性犯罪者で……。
    「どうだい? お尻も気持ちいいだろう?」
     いつの間に自分が四つん這いになっていることを自覚して、おまけにショーツまで脱がされていることに気づいた雪乃は、ハっとした反応で惨めな姿勢を変えようと試みた。
    
     ぺちん!
    
     雪乃の取ろうとした行動を、その一撃は完全に先読みしていた。
    「な……!」
     そして、雪乃は驚愕した。
    
     ぺち、ぺちっ、ぺちん!
    
     お尻を叩かれている。
     痛いわけでも何でもない、ただ尻肉をタップして、平手で振動を与えたいだけのスパンキングに過ぎないが、幼い子供が親にお仕置きを受ける時を覗いて、人がこんな体罰を受ける機会はどれほどあるか。いや、だいたい、親によるお仕置きだろうと、こんな形で子供を教育するのがどれほどいるか。
    
     ぺち! ぺち!
    
     生まれて初めて、雪乃はお尻を叩かれていた。
    「ふ、ふざけないで!」
    「雪乃ちゃんが勝手にポーズを変えようとした罰なんだけどね」
     斉藤は両手で尻を鷲掴みに、好きなように揉みしだき、撫で回す。敏感になった雪乃の皮膚神経は、いやらしい手つきを存分に感じようと、雪乃の過去や今の気持ちに関係なく、尻揉みのマッサージを味わっている。
    「何が罰? 性犯罪者がよくも――」
    
     ぺちん!
    
     また、手の平が良い音を打ち鳴らし、言葉による反抗も、勝手にポーズを変えようとした気持ちも、何もかもが一撃だけで封印される。
    「お尻を叩かれて悦んでいるのは誰かな?」
    「馬鹿馬鹿しいわ! 喜ぶわけ――」
    
     ぺちん! ぺちん! ぺちん!
     ぺちん! ぺちん! ぺちん!
    
     二つの尻たぶが交互に打たれ、プルプルと振動するに、雪乃はどこか身動きが封じられた思いでスパンキングを続けてもらう。
    
     ぺちっ、ぺちん! ぺちぺち!
     ぺちぃっ、ぺちん! ぺち!
    
     こんなことをされながら、雪乃は自分が本当に喜んでいることを自覚する。本当に軽い力に過ぎないが、こんな扱いを受ける苦痛に、精神的な痛みに心が喜び、もっと叩いてもらおうと体が後ろへ動いていた。尻を少しだけ突き出して、自らお仕置きをねだっているのに、雪乃は自分で歯噛みしていた。
     これも<痛み>だ。
    「……いいわ」
     こうした屈辱から生まれる憎悪でさえも、雪乃は復讐の糧にしようとしていたのだった。そのことに気がついて、明確に自覚した瞬間から、どこかで何かが吹っ切れて、そのうち辱めに泣いたかもしれない自分のことを鼻で笑う。
    
    「好きなようにして頂戴」
    
    「おや?」
    「どんな形だって構わないわ。屈辱ぐらい望むところよ」
     死んでも構わない覚悟をしておきながら、お尻を叩かれるのは嫌など通らない。
    「何か気が変わったみたいだね。じゃあ――」
     斉藤は考えている。
     次はどうやって雪乃を辱めるのか。
     断じて期待しているわけではない。本当の意味で喜びなどしない。ただ心を刻み取る何かがある限り、<断章>の痛みを忘れない。自分のことを憎しみに浸すための、ただただ糧を取り込むためのプロセスだ。
    
    「お尻の穴を見てあげるよ」
    
     ぐにぃっ、と。
     二本の親指によって、閉じ合わさっていた尻の割れ目が開帳され、その奥に隠されていた皺の窄まりが中年男性の視界に現れる。
    「うぅ……ぅ……」
     これまでにないほど、雪乃の顔は赤く染まった。色白だから赤面がわかりやすい、雪乃の首から上だけを見る分には、いっそ肌の色が別の人種に変わったまで例えられる。
    
     じぃぃぃぃ――。
    
     皮膚を焦がさんばかりの視線照射が、肛門目掛けて浴びせられていた。
    「君の肛門の皺の本数を数えているよ?」
    「……変態ね」
     そう返すのがやっとのように、雪乃はそれだけの不機嫌な声を返した。
    「知りたいかい?」
    「どうでもいいわ」
    「○○本!」
    「だからどうでもいい!」
     怒鳴ってから、雪乃はぐっと歯を噛み締めた。肛門などをジロジロと視姦され、皺の本数まで知られるなど、いかに<泡渦>と戦う人生であれ想像もしなかった。
    
         ***
    
     肛門視姦をたっぷりとされた後も、雪乃の全身はこれでもかというほど愛撫され、乾いてきたオイルを改めて塗り直す。身体を火照らす効果がさらに染み込み、全身熱く疼いた雪乃の肉体は、指を触られても気持ちいいほどにデキ上がっていた。
    「あぁ……あ……あう……んぁ……あぁぁ……ぁ……ふぁ…………」
     太い一本の指が、雪乃のアソコに出入りしている。自然と足は開いていき、言われたわけでもないのにM字開脚となった雪乃は、快楽に溺れないことだけを意識していた。
     自分は憎むべき犯罪者の辱めを受けているのだ。この憎悪を糧としなければならない。気持ち良さに夢中になり、ただただ喘いで終わるのは違う。みっともなく、惨めな扱いを受けていようとも、せめて心だけは<騎士>でいるのだ。
    『そうよ。それが正しい食べられ方。可愛い雪乃には、優しい王子様に抱かれる甘い初めては似合わないわ』
     ……でしょうね。
     と、心の中だけで受け止めて、雪乃は気持ちよさを我慢する。
     浸ってはならない。くつろいでも、癒されてもいけない。そんなものは自分には必要ない。
    「あふぅ……んぅ……んっ、あっ、あぅ……あぁぁ…………」
     たったの指一本だけに、雪乃の全身が支配されていた。
     暴れようとも思っていないが、仮に暴れて抵抗しようにも、全身を甘く解かされた今の肉体では何もできない。こうして指のピストンだけで、脳まで快感に貫かれ、意識していなければとっくの昔に溺れ喘ぐだけの乱れた女と化していた。
     何度もイカされた。
     絶頂の予感がするたびに、天国が近づくにつれて斉藤の指は活発化して、ピストンの激しさが愛液を撒き散らす。
    
    「あ……う……うぁ……あぁ! あ! ああ! あぁぁ! あああん!」
    
     喘ぐ声のトーンが上がり、絶頂に朽ち果てると、一度は指が抜かれるが、やはり火照った全身の熱が冷めるわけではない。まだまだ体力を残した身体が、次の快感を求めてしつこいほどに疼いており、すぐに愛撫は再開される。
     自分はさしずめ、横たえられた玩具に過ぎない。斉藤は有り余る技巧で好きなように雪乃で遊び、雪乃の喉から聞きたい声を絞り出す。
     斉藤はご丁寧なことに、イクたびに数分くらいはインターバルを挟んでから、一度だけ水分補給のドリンクまで持ってきた。「エッチなお汁がたくさん出たから」と、わざわざ嫌な言い方をしながらも、唇に当たったストローから雪乃は水分を取り込んだ。
     そんな愛撫が止んでいる最中さえ、雪乃の恥ずかしいポーズは持続していた。いつ再開しても構わないため、アソコを嬲ってもらうため、秘密の部分を解放したままでいる自分をいつしか自覚して、雪乃はもうそのままであり続けた。
     十回もイった頃には、膣に指が入っていなくとも、まだピストンが続いているような余韻が残り続ける。思考が弾けて頭が真っ白になる際の、アソコの中で一気に跳ね上がる瞬間も、膣壁の神経が覚えている。
    
     アイマスクが外された。
    
     中年の顔と目が合うと、斉藤は既に施術用ベッドに乗り上がり、見ればズボンを脱いで出すべきものを露出している。
    「はぁ……はぁ……ぁ……ふぁ……あぁぁ…………」
     雪乃はすっかり息が上がっていた。
     もはや手が触れていなくとも、余韻が残っているだけで気持ちいいアソコは、そのワレメの奥から欲望の汁を滲ませている。
    「さぁて、雪乃ちゃん」
     ぺったりと、ワレメの線に沿うように、アソコに肉棒が乗せられた。その未知の存在感が猛烈な勢いで意識を引き摺り、全ての集中力がアソコへ行って、肉棒から発せられる熱気を感じ取ろうと神経が必死になった。
     こんな男に挿入されるだなんて――自分の中に、レイプを拒む気持ちが残っているのを確認すると、雪乃はそんな自分の気持ちを大事に抱えて肉棒を意識した。他の男を知らない雪乃は、今自分に当たっているのが大きいのか小さいのかわからない。わからないにせよ、きっと太くて長い方に思えるサイズだ。
     ムラムラと滲み出る淫気というべきか。ありていに言えばオーラが出ていると、稚拙に例えてしまえば済むかもしれない、肉棒から絶えず放出され続ける何かが、アソコの触れている部分からだんだん奥へと染み込んでいく。
     股間の筋肉が意識せずとも反応して、膣肉がヒクヒクと蠢いていた。
    
    「オジサンとセックスしようか」
    
     雪乃は静かに中年を睨んだ。
    「……すればいいじゃない」
     誰からも不機嫌とわかる眼差しが、憎しみと敵意を含んで細められ、眉間にも眉の寄せられた雪乃の顔は、明らかにセックスに合意していない。心だけは堕ちていない証拠が、気持ちという目には見えないはずの証拠品が、表情さえ見ればありありと浮かんでいた。
     それでいて乳首は突起していれば、クリトリスも勃っているのだ。
     合意がなくても気持ちよくなる状態が、気持ちの上では憎悪さえ吹き荒れていながらも、それでも快楽が溢れてしまう肉体が、とっくの昔から完成していた。
    「雪乃ちゃんは初めてだよね? 初めての体験を忘れないように、じっくりゆっくりと、オジサンのオチンチンを感じてごらん?」
    「ふん。気持ち悪い」
     にべもない雪乃。
     だが、斉藤の腰が動いて、肉槍の切っ先がワレメをなぞると、生まれて挿入される瞬間がこうして一秒ずつ近づいていることを、雪乃は存分に感じ取る。
    
     ヌルゥゥゥゥゥ……。
    
     オイルにも愛液にも塗れ、十分すぎるぬかるみを帯びた雪乃のワレメで、亀頭が上下に動いて感触を擦り付ける。腰を前後に動かすことで、またアソコに竿が乗るように、そして形や長さを教えるようになすり付け、雪乃は無言でそれを感じる。
     圧迫感があるほど腰を押し付け、竿の側面が密着すると、自分のアソコに対してどの程度の太さなのかが嫌というほど雪乃に伝わる。勃起というものが、肉棒をどれほどの硬度にするのかも、果てはどれくらいの長さなのかも膨らんで、雪乃の頭の中には少しずつ、斉藤の持つ肉棒の正確な形状が作られていた。
     ただでさえ、純粋な施術による血行の効果も出て、今の雪乃には活発に血が通っている。必要以上に敏感になり果てた神経が、見えない手で包んで測定しているように、ちょっとした反りや血管の浮き出た具合まで、何もかもを知ろうとしてやまなかった。
    「これから雪乃ちゃんの中に入るのは、どんなオチンチンかわかったかな?」
     そう、わかっていた。
     直接は目で見ていない、にも関わらず想像力だけで限界まで正確に、雪乃はこの男のペニスを知っていた――否、挿入前の予習のように教え込まれた。
    「時間の無駄よ。さっさと挿れたらどうなの」
     変態じみた問いかけを、雪乃はそうして突き放す。
    「そうだねぇ? そろそろ、味わってもらおうかなぁ?」
     もうそこには、第一印象にはまだあった穏やかさが欠片もない。おぞましいほどに唇の変形した微笑みが、元の顔立ちの良さを台無しにして、ルックスではそうでもなかった中年が、気持ち悪いだけのオジサンにしか見えなくなった。
     また亀頭がワレメをなぞり、膣口に狙いを定める。
    
     私にはお似合いの初体験ね。
    
     自嘲的になる雪乃の脳裏には、一瞬だけ白野蒼衣の顔が掠めて、どうしてあんなヘラヘラとした男がと、「ちっ」と雪乃は舌打ちする。
    
     ずにゅぅぅぅぅぅぅぅ…………。
    
     想像以上にゆっくりと、根元まで押し込むのに何分かける気でいるかもわからないスローペースで、中年による挿入行為は開始された。
    「――ぐっ、うっ」
     穴の幅よりいくらか太い、それでも散々にほぐされたおかげで痛みが最小限の膣口は、その太さによって拡張されていく。ワレメの皮膚ばかりが覚え込んでいた肉棒の形状が、今度は膣壁の神経を通しても脳に伝わり、その一ミリの進行ごとに雪乃の中で、肉棒の存在感は拡大していた。
     亀頭の先が、半分が、そしてカリ首まで収まると、先っぽの形が細やかに感じられる。膣の筋肉にヒクヒクと力が入り、締め出さんばかりに力んでしまっても、肉棒はたった一ミリとて後退したりなどしない。余りある滑りの良さが、膣肉による圧迫などまるで無視して、どれだけ膣圧があろうと数ミリずつ、ゆっくりゆっくりと、雪乃の穴へと収納される。
     そうやって力が入る分だけ、膣壁と肉棒の密着度は最大限になっていた。
    「くっ……あ……あぁ……あぁぁ……あぅ……んぅ……んぅぅ…………」
     四分の一――さらに数ミリ。数秒間もかけてやっと何センチか入っていき、三分の一、そこからさらに数秒かけ、やっと半分までが入っていく。
     十秒でも二十秒でも、何十秒でもかけるつもりの腰の動きで、本当にやっとのことで、ようやく根元までが入っいた。
    「ほら、全部入った。感想を教えて欲しいな」
    「……別に……んぅ……あなたを殺したいだけよ」
     敵意。憎悪。殺意。およそ黒いといえる感情ばかりが表情から噴き出て来て、睨み殺さんばかりの眼差しで睨んでいる。普通の感覚をしていれば、誰であれ恐れるほどの目付きであれ、もう挿入を済ませてしまった斉藤には、毛ほどの恐怖にもなりはしなかった。
     レイプの犯人を呪いたくもなるなんて、女としても、まして時槻雪乃という少女の感覚からしても、当たり前すぎるものだった。
    
     ――殺す。
    
     そんな言葉が、嵐の勢いで表情から吹き荒れる。
    「はい」
     それほどの表情でさえ、斉藤が乳首をタッチしただけで、若干の色気を含んで歪み、そのまま快楽に染まりかねない顔が、ほどなくして憎悪のものへと立ち戻る。
     右手でも左手でも、雪乃の乳房を包み込み、丁寧に撫でては指先で乳首を苛める。その技巧が雪乃の口から淫らな吐息を引き摺り出し、どう控え目に見積もっても、感じている女のそれでしかない乱れた呼吸の音が響き渡った。
    「はぁ……ぅっ、ぁ……あぁ……はぁ……ふはぁ…………」
     息遣いだけが興奮しても、もう簡単に表情は変わらない。
     ただ、耳まで朱色に染まっているだけだった。
    「ほーら、動いちゃうぞ?」
     ニタァァ……と、おぞましく変形する表情は、誰しもを戦慄させかねない恐怖を孕む。
     その恐怖にこそ、雪乃は身を浸していた。
    「さっさと動けばいいじゃない」
     殺意を増してさえいる雪乃の声。
    
     だが、身体は肉棒のピストンを待ち侘びていた。
    
     中年の腰振りが開始され、ゆさゆさとした動きで膣壁を抉り抜くと、想像以上の快楽電流がせり上がり、雪乃はその激しすぎる気持ちよさに目を見開いた。
    「あぁぁ――!!」
     大きな喘ぎ声が天井を貫いた。
    
     ――じゅぷっ、ずぷっ、にゅぷ! つぷ! じゅぷ! じゅぷん! じゅぷん!
    
     ピストン運動の腰がぶつかり、肉棒の根元にある陰毛と、雪乃の股にあるオイルに愛液が衝突するたび、ねっとりとした水気の捏ね合わさった水音が鳴り響く。
    「あ! ぐっ、うっ、うっ、ぐっ、あぁ! あっ!  あっ!」
     快楽が凄まじすぎた。
     ピストン運動がそのまま快楽発電であるように、無尽蔵に生まれる電気は決して体外に逃げてくれることはなく、溜まるだけたまって快楽の密度を上げる。脳まで染まりそうなほどの激しさに喘ぎ、鳴き散らしながらも自分を保ち、最後まで斉藤を睨み続けている決意で、雪乃はシーツ代わりに敷かれているタオルを鷲掴みにした。
    『そうよ。あなたは堕ちてはならない。獲物を求める狩人は可愛い雪乃の方なんだから』
     風乃の声が聞こえてくる。
     頭が痺れるなどというものではない。雷を絶えず落とされ続けて思える刺激の強さに、いつ意識が飛んでもおかしくなかった。
    「あぁぁ……! がっ、がぁっ、んんんん! んん! んあああ!」
     歯を食い縛っていることも許されない。
    
     男は射精するんでしょう!?
     それさえ済めば話は終わるわ! それだけ! それだけよ!
    
     暴風雨の激しさに晒され続け、懸命に自分を保つ雪乃の目は、このまま絶頂を迎えても相手を睨み続けていた。
    「イったねぇぇぇぇ!?」
    「っさい! うる――さっ、あぁ! あぁ……! あぁぁ……!」
    「ほーら、また次の絶頂が待ってるよぉぉ?」
    「うるさい! うるさ――いぁああ! ああああ! んん! んが、あぁぁああああ!」
     ピストンに合わせて背中が弾み、リズム通りに反り返った背筋が施術ベッドに打ち付けられ、それが一切のリズムを変えることなぬ何分間も、五分以上も続いていく。その五分間だけでも五回はイキ、別の体位を求める斉藤は仰向けに寝そべった。
     騎乗位となった雪乃の肉体は、自分で弾む義務などないのに、自ら上下に跳ね回り、快楽を貪っていた。
    「殺す! ころ――こっ、ん! んん! ああん! あん!」
     コントロールされているのだ。
     下から突き上げる腰使いに雪乃の肉体は反応して、意のままに操られ、十分に誘導したところで肉棒は動きを止める。結果として雪乃は自分で弾んでいるのだった。
     イったと共に雪乃は倒れ、その乳房を中年の胸に押し当てる形となって、抱擁に迎え入れられ密着し合う。そうして上半身が捕らわれてなお、尻だけは上下に弾み続けて止まらずに、雪乃は自分自身を狂おしく呪っていた。
    
     私が求めてるなんて!
     私が――私が――!
     自分から動いているなんて!
    
     自分をそのようにした元凶に、そのような憎しみが新たに沸き、それが睨む視線を辛うじて保たせていた。
     バック挿入に変わると、自分からは男の顔が見えない状態で貫かれ、腰と尻のぶつかり合う打音がパンパンと鳴り続ける。
    
     パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン!
    
     初めは斉藤だけが動いていた。
     腰のくびれを両手で掴み、雪乃のことを逃がさないようにしたピストンで、さらに三回の絶頂を体験させる。
     しかし、途中からは棒立ちで、むしろ雪乃の身体が前後していた。
    
     パン! パン! パン! パン! パン! パン! パン!
    
     同じ音でも、微動だにしない男の腰に対して、雪乃の尻が積極的にぶつかっていき、自分で自分の動きを抑えられない雪乃にとって、自らの肉体が忌まわしい。初めてセックスしている中で加減がわからず、肉棒の長さに対して前に出すぎて、抜けてしまうまで何分間も、雪乃の前後運動は続いていた。
     そして、肉棒が抜けてしまったことで、また入れ直してもらえることを体が望み、自分がいかに乱れているのかと自覚しながら仰向けとなり、挿入を求めるサインとして、入れてもらうためにM字開脚のアソコで誘った。
     挿入したら殺す顔をしていても、肉棒はあっさりと雪乃の穴に入り込む。
    「あん! あぁん! あっ、あぅ――うぁぁ……! あぐっ、んんぁぁあああ!」
     何度絶頂を味わったか。とても数える余裕はない。単に物凄い回数をイったことしか理解できずに、実に二時間近くも性交を続けてから、やっとのことでピストン運動の停止する休憩時間が挟まれる。
     抜かれるようなわけではなく、根元まで肉の栓がハマったまま、激しさがやんだ分だけ肉棒の存在を意識しやすい。未だにピクっと、血管が脈打っているのが膣壁に伝わって来る。雪乃のアソコは肉棒を握り締めようと、ヒクヒクと力を加え、その強弱によってマッサージまでしているのだった。
    「初めてなのにいっぱい気持ちよくなれて嬉しいねぇ?」
     もはや当然でしかないように、また胸に斉藤の手が置かれた。
    「はぁ……あぁ…………はぁ…………」
     激しかった余韻はアソコどころか、気持ちよすぎて痙攣した脚の筋肉にも、つま先にも、真っ白になりかけた脳にまで残っている。それでいて、この肉棒がもう一度ピストン運動を始めるだけで、また同じ激しさに呑まれるのだ。
    『……うふふふふふ。最低で、愚かで上手な狼さんね』
     耳元で囁く、恐ろしく純粋な、硝子のような悪意の笑い。
     その耳に流れ込む声の、あまりにも透明な悪意と凶器に心が引っ掻かれて、雪乃の感じる空気の温度が一気に低下した。
    「…………!」
    『この何も知らない愚かな狼さんに教えてあげましょう? 自分が、燃え盛る篝火をつついているのだと』
    「……」
     その亡霊の声を、雪乃はただ黙殺する。
    「気持ちよすぎて声もでないかなぁ?」
    「……るさい」
     どちらに対して言ったのか。
     確かに、この男を焼き尽くしてしまえば、犯された復讐心は晴らせるだろう。
     そんな自分の心の声と、風乃の言葉を、雪乃は共に黙殺する。自分に言い聞かせる。『話つぃの目指す化け物は、そんな安いものじゃない』、と。
    「………………別に」
    「初体験でいっぱい気持ちよくなれたねぇ? 嬉しいねぇ?」
    「嬉しくないわ」
     これだけ精神が堕ちてもおかしくない陵辱の中でさえ、そんな風に返せる自分がこうして残されている。<神の悪夢>の次に憎い、破滅ばかりを囁く亡霊への感情も、雪乃を支え抜いた一つに違いはなかった。
    「これからプレゼントをしてあげるよ」
     斉藤の腰がまた動く。
    「んっ……んぅ……んふぅ……ふあっ、あぅ……ふぁ……あぁ……」
     まったりとしたピストンで、先程までの激しさがあるわけじゃない。緩やかな刺激であれ、快楽漬けとなった肉体では、息を荒く乱したような喘ぎぐらいは出してしまう。
     プレゼント?
     想像がつかなかった。
    「ん……ぐっ、は……ぅ…………んぅ………………」
     これなら唇を噛み締めて、声を抑えていることは出来そうだった。
    
     こんな奴に気持ちよくさせられている。
    
     憎むべき、忌まわしい事実に身を浸し、雪乃はこうして自分を刻む。
    ここまでゆったりしていても、手足が溶けているような、それとも熱に溶かされやすい甘い何かに肉が変質しているような心地良さに支配され、気をつけなければすぐにでもうっとりと目が細くなりそうだ。
     中年の老獪な手つきが、ピストンと共に乳房を揉み続け、時折乳首も苛めているのが、心地の良さに拍車をかけた。
    「ねえ、このままオジサンのペットになろうよ」
    「……っ! ふざけているの?」
     口を開けば乱れた息を吐き出しそうで、そのことに顔を顰めた雪乃は、喋ってすぐに唇を引き締めた。
    「気持ちいい思いを何度も何度もさせてあげるよ」
    「……ひっ、必要ないわ……あっ、さっさと済ませて……ぅ……さっさと……ぁっ、か、帰らせて……もらえないかしら」
    「でも、雪乃ちゃんは結局はペットになる」
     完全にふざけている。ここまで憎しみを保った雪乃のどこに、心を捧げてペットとやらに成り下がる要素があると思っているのか。雪乃には本気でわからなかった。
    「そろそろだ。プレゼントを出してあげる」
    「……出す?」
     ここまで、雪乃の理解は遅れていた。
     快楽に漬け込まれた脳のおかげで、判断の速度が鈍っていたことも、それに性交経験が一度もなく、そういうことに慣れてもいないから、なかなか発想が出なかったのだ。
     出すとはもしかして――。
    「ま、待ちなさい!」
     雪乃は心の底から焦り始めた。
    
     出すとは、精液のことではないか?
    
     そう気づいた雪乃を逃がさないかのように、ピストンのペースが途端に速まり、自分が何をされるかわかっていながら、雪乃には逃げることもどうすることもできなくなる。感じて喘いで睨む以外、あらゆる抵抗の手段が快楽によって潰されていた。
    「……あっ、あぅ! ん、んくぅっ、んん、んぁっ、あ!」
     みるみる早まるピストンが、その予感を雪乃の中に膨らませる。
     そして、とうとうペニスは脈打った。
    
     ――ドクン! ドク、ドクン! ドクドク! ビュックン! ビュルルゥゥ!
    
     白濁の熱い汁が、熱気が膣に広がって、おそらくは子宮にも染み込んでいる。肉壷には入りきらない精液は、肉棒と穴の狭間から吹き零れ、その熱さは膣壁全体にも浸透した。
    「そんな………………」
     膣内射精。妊娠の恐怖。
     雪乃の表情には絶望の色が見え隠れして、そんな雪乃を満足そうに眺める斉藤は、実に楽しかったように肉棒を引き抜いた。その開いた穴の中から、肉栓が抜けたことにより、さらにいくらかの量が流れ出し、それがタオルに染みを広げる。
    「事後避妊薬があれば赤ちゃんはできないけど、欲しい?」
    「…………」
     そういうことだったのだ。そうしてこいつは、人をペットにするつもりだ。
    「あとね。ここ、隠しカメラがあるから動画もあるよ?」
    「…………最低ね」
     中年の性犯罪者を本気で軽蔑している雪乃の目など、気にも留めずに雪乃の裸に腕を回して抱き起こす。
     そして、斉藤はベッドに乗り上がり、雪乃の目の前で仁王立ちになった。
    「で、避妊薬だけど、欲しい?」
     眼前にまだ勃起している肉棒を突きつけ、今までまともに目で見ていたわけではなかった雪乃は、初めて見せ付けられて反射的に顔を背ける。
    「…………」
     黙して、雪乃は斉藤を睨み上げた。
    「いらないとは言えないよねぇ?」
    「で、欲しかったら何をしろって言い出すわけ?」
    「フェラチオだよ」
     冗談じゃなかった。
     男の手で被害に遭わされ、合意無しに犯されていたのと違い、こちらから奉仕の行動を取るなど考えたくもない。
     しかし、雪乃は考える。
     受精はしてしまったのだろうか。赤ちゃんが出来るのだろうか。犯罪者の子供を絶対に生みたいとは思わない。だいたい、腹が大きくなったら学校は、それから伯父夫婦にも何をどう話せばいいのか。
     何よりも<泡渦>との戦いは……。
     ありとあらゆる不安が駆け巡り、こんな男一人のために、雪乃のこれまでのあり方が、音を立てて崩れ落ちていくかのようで、それでなくとも憎い男が、余計に殺してやりたくなった。
     本気で震えた。やりきれない怒りが全身の筋肉に伝わって、痙攣のようにピクピクと、プルプルと震えを起こして、握り締めた拳には爪が喰い込む。
     歯茎が壊れるほどに歯を食い縛り、かつてないほどの凶眼で斉藤を睨んだ。
    
    「……いつか殺すわ」
    
     本物の殺意。
     いずれ本当にこいつの焼死体を作ってやりたい、本気でそう思えてならない、呪いたいし殺したい憎悪の膨らみが、睨んでも睨みきれないほどに視線を鋭く研ぎ澄まし、そんな雪乃の形相さえも、中年はニタニタと見下ろしていた。
    「で?」
     改めてペニスを突きつけ、雪乃の凶眼はその切っ先に向く。
     この男の象徴が、これが雪乃の中に精液を……。
     そう思うと、こんな目に遭ったからには自然な感情と言えた。世の全ての男がこんなわけではない。犯罪に走る方が少数だ。理屈的なことがわかっていても、急速に膨らむ心の中では明確に、一つの思いが芽生えていた。
    
     男性そのものへの憎しみと、男を象徴する男性器への殺意。
     こんなもの、本気で焼いてしまいたい。
    
    
    
    


  • 時槻雪乃の精密身体検査(前編)

    中編 後編

    
    
    
     時槻雪乃の通う学校では、毎年、精密身体検査が実施されている。精密というように、普通の測定や診断と比べて、遥かに詳しく全身を調べるものだ。そんなものを好きで受けたがる女子はいない。いや、男子だって恥ずかしい。
     乳房の測定、性器の観察。
     プライバシーを著しく侵害する検査内容が、毎年当然のように実施されている。人権団体や女性団体あたりが抗議に来てもおかしくないような検査方法が、利権を持つ大人達の手によって、特例として認められていた。
     入学前までの雪乃はそんな事など露も知らず、入学後になって初めて、そういう検査があるらしいことを耳に挟んだ。
     そんな検査の対象に、雪乃は選ばれていた。
     ほぼ、生贄だ。
     どこぞの医学界だか、大学だかと契約を結んでいる関係上、学校は毎年一人の生徒を差し出し、検査を受けさせなくてはならないらしい。そこで、大抵の教師は気弱でものを断るのが苦手そうな生徒を狙うが、どこでどう根回しがされたのか。
     初めは別の誰かが話を持ちかけられていたらしいのが、情報を手にした女子達が団結し、率先して別の生徒を対象にするよう教師達へ呼びかけたのだ。あの子はやめて、可哀想。他にふさわしい子がいるはず。という風に。
     そうして、クラスから差し出されたのが時槻雪乃。
     雪乃を提供する変わりに、自分達の安全を保証してもらう。
     つまりは、雪乃は生贄なのだった。
    「あーあ。大変そうね」
     ひそひそと片隅で、女の子達が交わしている言葉が聞こえる。
    「検査対象なんでしょ?」
    「引き受けたの?」
    「らしいよ」
    「よくやるねー」
     教室にいるクラスメイトの多くは空気のように雪乃を無視するが、無視できない者は明らかに疎ましげな、あるいは好奇の視線を雪乃へ向けたりする。そんな一部の、雪乃に対して陰口を叩く女子グループが、それらの言葉を交わしていた。
    「アソコとか調べるんでしょ?」
    「なにそれ、拷問じゃん」
    「問題になんないのかなー。絶対おかしいよねー」
     それらの言葉を風のように無視して、雪乃は頬杖をつく。
    「……」
     ただ黙々と、窓の外を眺めて過ごしていた。
     雪乃は、クラスメイトを含め学校の全てを、空気のように扱おうとしていた。皆からも、自分が空気のように扱われることを望んでいる。
     そうすれば、お互い楽だろうに。
    「そういえば、先輩が検査受けたらしいんだけどさー」
    「嘘、どうだったの?」
    「やっぱりね。いっそ死にたくなる思いだったって」
     そんなひそひそ声が、嫌でも雪乃の耳をつく。
    「酷いねー」
    「裸とかなるんでしょ?」
    「ありえないって」
     女子達が話題にしている精密身体検査の対象に、今は雪乃自身がなっているのだ。自分の数日後の未来に関係のあることだけに、腹の底では無視したくても、聞こえてくる言葉の数々がどうしても耳の奥まで響いてくる。
    「受けるの、あいつで良かったね」
    「本当にねー」
     自分達でそう根回しをしたくせに、まるで他人事のようにホッとしている。
     本当ならもっと、腹立たしい。
     ちっとも怒りが沸かないといえば嘘になる。拷問的らしい身体検査に人を叩き込んでおきながら、自分達でした根回しも忘れて、さも自然とそうなったかのように振舞う。何も思うところがないといえば嘘になる。
     だが、雪乃はそれを甘んじて受け入れていた。
     所詮、雪乃は『普通』の幸せを捨てていて、クラスメイト達は普通の世界に生きている。言って見れば別の世界に生きている連中など、会話すら、するだけ無駄だ。
     こうした雪乃の態度は、明らかにクラスメイトとの軋轢を生んでいるが、雪乃はそんな軋轢から生まれる痛みをも、自らの糧にしようとしていた。
    
     ――この痛みがある限り、<断章>の痛みも忘れない。
    
     苦痛や恐怖。かつて遭遇した<泡禍>の中で、心に焼きついたトラウマに類する感情をくみ出す事こそ、自分の中の悪夢の<断章>を紐解くプロセスだ。
     クラスのこうした、雪乃に対する反感や敵意も、全ては雪乃にとってそれらの感情を忘れないための糧となる。孤独の中で過去を反芻し、ただひたすらに自分を切り刻み続けることが、化け物と戦う化け物であるために、雪乃に必要なことだったのだ。
    
         †
    
     検査当日の時槻雪乃は、誰も生徒のいない、教員も限られた人員しかいない日曜日に登校した。余計な生徒達が初めからいない日曜日なら、わざわざ男子を追い出したり、無関係なクラスメイトを隔離する配慮が必要ない。そうした日程による配慮自体が、これから行う検査の恥ずかしさを暗示するようで、さしもの雪乃も気が重くなっていた。
     学校とは煩わしい義務だ。
     しかし、義務教育でもない高校に雪乃は通い続けている。伯父と叔母に対する、ほぼ唯一といってもいい負い目が雪乃にはあるからだ。
     三年前の忌まわしい災禍により、孤児となった雪乃を、それが当然であるかのように、伯父と叔母は引き取ってくれた。二人はやや気弱なところがあるものの、穏やかな人格者で、とても良くしてくれている。
     そんな二人が雪乃の幸せを願って、せめて高校を、できれば大学にまで行って欲しいと思っている。
     ただそれだけが、雪乃が高校に通っている理由だった。
    
         †
    
     いつものように上履きに履き替え、しかしクラスではなく、身体検査用に指定された別の教室へと雪乃は足を運んだ。
     がらん。
     戸を開き、教室に踏み入る。
     検査用に机の並べ替えられた教室には、幾人もの関係者が集っていた。机を横並びにした席に、まるでこれから、面接でも行うような雰囲気で座っている中年たち。
     白衣を着た、検査を担当するであろう数人以上の医師。学校内でも何度か見かけた覚えのある男性教師。あらゆる種類の男性が集まっていた。
    「…………っ」
     雪乃は歯噛みした。
     脱衣の必要性があると聞く検査だというのに、立ち会いの関係者全てが男性だけで構成されている。都合良く女性を用意できるとは限らないにせよ、これだけ何人もの関係者が集まるのなら、一人くらいは女性がいても良さそうなものだ。見渡す限り、若手に見える男から中年まで、年齢がバラけている以外に女性らしき姿はどこにもなかった。
     十人以上いる男達の中で、自分一人だけが女の子。
     普通の少女なら、狼の群れに放り込まれた羊の気分を味わうところだが、雪乃はそれを良しとしない。化け物と戦う化け物たる己が、こんな事で緊張したり萎縮するなど、雪乃にとってあってはならない。
     これしきを恐れるほど、程度の低い存在じゃない。
     風船のように膨らむ緊張感を、雪乃は胸の内側で封殺した。
    「市立一高一年四組。時槻雪乃です」
     挨拶する。
    「えー。では時間も勿体無いことだから、早速、市立一高の精密身体検査を始めるとしよう」
     一人の男が、事務的にそう言った。
     そして、別の男がさらに指示する。
    
    「では、衣服を脱いで下着のみになりなさい」
    
     淡々と告げられる指示に、雪乃は一瞬固まった。
    「……ここで、ですか?」
     つい、雪乃は質問を口にしていた。
     裸になるらしいことは、事前の説明で知っていた。断ったり、抗議の言葉でも唱えたかったのは山々だったが、クラスでも孤立している雪乃が、仲間の声も借りずに、一人で学校制度に楯突くためには並々ならない決意がいる。そうするより、それを『痛み』として受け入れる道を選んだ雪乃は、決して積極的な気持ちなどないにせよ、こうして検査を受けに来ていた。
     しかし、ここまで配慮の欠片もないことまでは、想像していなかったのだ。
     例えば、脱衣を行う場合。
     どこか別室で服を脱ぎ、バスタオルでも巻いて移動する。あるいは衝立を用意して、そこで脱ぐ。肌を出すのは必要な場合に限られて、いきなり脱がされることはないだろうと、正直なところ甘く考えていた。
     その想像が、一言で覆されたのだ。
    「ええ、ここで脱いでください」
     当然のように告げられる。
     そして、雪乃を取り囲む男達全てが、無言のプレッシャーを雪乃にかけていた。
     早くしろ、時間が押している。
     声無き声が、その表情と部屋全体の空気から、雪乃には痛いほど伝わっていた。
    「どうぞ」
     と、教師が脱衣カゴを足元へ置いてくる。
     それもまた、プレッシャーに感じられた。
    「……わかりました」
     いいだろう、脱いでやる。
     彼らは所詮、普通の世界に住む別の生き物。雪乃は<泡禍>と戦う<騎士>であり化け物だ。ならば、別の生き物に裸を見られるなど、犬や猫に見られるのと変わらない。
     雪乃はそう強がり、気丈なまでにさっさと脱いでみせようとしていた。
     雪乃はセーラー服のスカーフを抜き、脇腹あたりにあるボタンを外す。こんな事は何でもない、余裕であるとアピールするかのように、雪乃は実に早々に上を脱ぎ去る。
     スカート、靴下まで、まるで時間をかけずに普通に脱ぐ。捨てるかのようにして、脱衣カゴへと叩き込んでいた。
     だが、雪乃は確実に赤面していた。
     カァァァアア――!
     顔面全体が面白いほどに変色し、首を境界線にして、頭と胴体がほぼ別色と化している。
    「ふんっ」
     トマト顔で鼻を鳴らす雪乃が、本当は恥ずかしがっていることなど誰の目にも明らかだった。
     狼の群れで無防備になっているようなものだ。
     一人だけ服を脱いでいる状況下で、本当に何も思わず、無心を貫くことなど不可能だった。
     そこへ、雪乃だけに聞こえる亡霊の声。
    『……うふふふふ、可愛い雪乃』
     三年前に家族を惨殺して死んだ、雪乃の姉、時槻風乃。
    『花も恥らうウブな乙女が気丈に振舞うその姿。とても、とても傑作よ?』
     歌うような不快な声を、雪乃は硬い表情で無視する。
    『それに、黒なのね』
    「……るさい」
     下着の色をわざわざ声で指摘され、雪乃は呻くように小さく口の中で呟いた。
     雪乃の下着は黒い。
     ゴシックロリータを戦闘衣装のようにしている雪乃は、<騎士>として活動する際、なるべく下着にもこだわる。普段からゴシック風のものをつけているのだ。
     黒い布地全体を、白いレースで飾ったブラジャー。肩紐もほとんど白レースになっており、ショーツも同様の華やかさで白いリボンを生やしている。両側をリボン結びで止めるタイプになっているので、紐を少し引っ張れば、簡単にはらりと落ちてしまうショーツだった。
    「ブラジャーを外しなさい」
     厳格な指示者の命令。
     雪乃は自分に躊躇いを許さずに、恥じらいを胸の内側に封印した、唇を内側に丸めて何かを堪える表情で、背中のホックを外してブラジャーを取り外す。
     曲線の丸い、陶器のように白い美乳が曝け出された。スベスベと、あるいはサラサラしていそうな乳肌は、その頂点で乳首をツンと尖らせている。新鮮で、甘く柔らかそうな果実の香りを放って見えた。
    
     じぃぃぃぃ……
    
     十人以上の男達が放つ、四方八方からの視線は、間違いなく胸や尻へと向けられる。ここにいる男性は、建前上れっきとした検査の名目で来ているが、心の底では役得を楽しむ気持ちを抱いている。
     真面目な男が、少しは興味を持ってしまったり。
     あるいは、初めから好奇心だけで見学に来ている者。
     様々な種類の視線が雪乃を包囲し、全身をくまなく、目だけで撫で回す。
     見ているのは、何もいやらしい部分だけではないのだろう。
     左腕に巻きつけられた包帯と、そこに薄っすらと滲んでいるリストカットの痕跡。嫌でも目立つ部分だが、あえてそこに触れる大人はいなかった。
    
     ドクッ、ドクッ、ドクッ……
    
     雪乃の耳に聞こえるのは、自分自身の心音だ。
    
     ドクッ、ドクッ、ドクッ……
    
     舞台の本番でも迎える直前のような、否、そんなものは比べ物にならない途方も無い緊張感が雪乃の全身を硬直させ、鼓膜を心臓の音で満たしていた。
     雪乃はそっと、目を瞑る。
     ここにいる男達は一人残らず、普通の世界に暮らす自分とは違う生き物だ。自分と同じ生き物なら、動物に見られて恥ずかしいなど、雪乃の目指す化け物はそんな安いものではない。
     もっと、この程度では何も感じない。
     完膚無きまでの、化け物だ。
     そうであるためだけに、膨れ上がる羞恥心を胸の内側に封じ込めて堪えていた。
    「……ぬ、脱ぎました。早く進めて下さい」
     今にも震えそうな声に意志を込め、赤面ながらも、真っ直ぐな瞳で雪乃は言う。
    「これより、面談形式での意識調査を行います」
     一人の男が、説明を開始した。
    「事前にお渡ししたプリントで、既にいくつかの項目について質問を行っていますが、ここではその内容を元により詳しい事情をお聞かせ願います」
     口調も、表情も、ひどく堅苦しく事務的だった。
     雪乃の正面で机を並べ、書類を広げてボールペンを片手にしている男達が、面談形式の担当者だ。五人もの中年男性が横並びになり、それぞれが厳格な面持ちで、まるで会社の面接でもするような硬い雰囲気を放っている。制服さえ着ていれば、本当に入試面接にしか見えない光景だったはずである。
    「自慰行為の経験について、有りの方に○がついていますね」
    「……」
    「では何歳の頃から、どのような方法で主に自慰行為を行っているのか。具体的に説明しなさい」
     雪乃は一瞬、口をつぐんで、心の準備を整えた。
     学校で、精密身体検査を受けるようにと担任から頼まれ、とうとう了承してしまった雪乃は、その日の間に書類調査用のプリントを渡されている。そこには自慰経験や初潮の時期などについて尋ねる質問があり、『はい』か『いいえ』に○をつけるか、時期年齢を記述するなどして回答している。
     中年男性達の手にあるのは、きっとそのコピーだ。
    「初めては、○歳の時で……。それから、最初は下着の上から触って……。慣れてきてから、中に手を入れた。……と、思います」
     自分で嫌になるほど、たどたどしい受け答えになった。
     これが普通の質問で、普通の面談だったなら。
     例えばやっていた部活でも聞かれ、当時はどんな活動をしていたかを答えるような、常識的な内容だったら。スラスラとはいかずとも、ここまで気が弱そうな、すっかり肩の縮んだ声が出るようなことはなかったはずだ。
     気の小さそうな震えた声を出してしまった、自分自身の声帯が呪わしい。
    「なるほど。クリトリスに触れたり、中に指を入れるなどは」
    「いいえ」
    「道具。例えば鉛筆で擦る、バイブを購入するなどは」
    「……ありません」
    「手、のみを今も昔も使用していると」
    「はい」
    「では、初めてアソコに手を触れようと思ったきっかけは何かありますか?」
    「それは……」
     と、雪乃はきっかけについてまで語っていく。
     もはや面接だの面談だのというより、取り調べを受けている気分に近い。ここまで来て、制度や規則を相手に逆らえず、ほぼ強制的に質問への返答を要求される。心が折れたという理由でここにいるつもりは断じてないが、何かの理由で取調室にでも閉じ込められ、警察に調査を受けている気持ちに近い。
     どう考えても、脱衣の必要性のない内容を、裸でやらされているせいだ。
     こういう扱いを受ける犯罪の容疑者が、実際にどこかにいるかもしれない気がしていた。
    
    「初潮の時期は○歳の○月とありますが、この時の気持ちを覚えている限り語って下さい」
    「胸の膨らみ始めで感じた事、思ったことを語りなさい」
    「陰毛が生えたのは○歳の時とありますが、初めて自分の成長に気づいた時はどう思いましたか」
    
     書類を元に、女の子なら誰でも感じる、その時の気持ちについてを語る要求。
     雪乃がそれらを述べていくと、中年男性達は素早くペンを走らせて、書き取っていく。犯罪者が取り調べの供述を目の前で記録されたら、まさにこんな気分がするかもしれなかった。
     さながら囚人が受ける扱い。
     なるほど、いっそ死にたくなる。
     だが、普通を捨てた者がそれではいけない。こんなことで、たかだか意識調査を受けただけで、鬱に陥ることなどあってはならない。
     雪乃にあるのは、自分自身に対する戒めだった。
    
         †
    
     疑問があった。
    「……」
     面談調査から次の測定へ移り、身長計で背筋を伸ばしていた雪乃としては、何か思わずにはいられない。
     どうして、初めから脱ぐ必要があるのか。
     先ほどの質問調査も、身長の計測も、どちらも脱衣の必要性は全く皆無だ。脱がなくても出来ることをまとめてやって、脱衣の必要がある内容は、全てその後にでもして欲しい。それを事前に脱がされ、裸でいる時間が無駄に長引いているのだ。
     純粋に、納得できない。
     納得がいかないまま、指示通りに身長計に足を乗せ、顎を引いて背筋を伸ばした、気をつけの姿勢を取っている。しかも、測定を行う男が、背中をしっかりくっつけるためと言わんばかりに腹に手を当て、押している。ただ押すというより、皮膚を揉んでいるようでもあった。
     不快なセクハラを交えてバーを下ろされるのが、雪乃をますます不機嫌にしていた。
     こうして腹を触るばかりか、座高では肩を触られ、体重計では正面からまじまじ見られた。ただ脱がせるに飽き足らず、注ぎ込む視線の量にも配慮はない。表立ってニヤついていないだけで、彼らは十分に胸を眺めていた。
     身長を初めとする身体測定を担当するグループのことごとくは、全て男性教師である。雪乃にとって、どうでもいい人物には変わりはないが、学校内で幾度となく顔を見かける相手に裸を見られる。そこに何の感情も沸かないわけがない。
    「○○センチ」
     バーを読み上げ、教師が告げる。
     別のもう一人の教師が、書類に数字を書き取っていた。
     そしてまた、別の教師がメジャーを手にして、雪乃の胸へと巻きつける。
    「トップバストは○○センチです」
    「……」
     理科教師、数学教師、英語教師。
     授業のたびに顔を見る教員が、こうして胸を測ってくる。
     雪乃は他人に無関心を貫いているが、彼らは今後、雪乃を見るたびに今日の出来事を思い出し、こっそりニヤニヤするのだろう。先程の性情報や今測っているスリーサイズが、ことごとく男の妄想のネタにされ、使われるのかと思うと気が重い。
     せめて服を着せて欲しい。
     切実な思いが募り、声を荒げて抗議したいほどの気持ちになってはいる。しかし、雪乃がずっと周囲の一般人から距離を置くために作り上げてきた他人への無関心が、それについて声を上げることを阻んでいた。
     腰にメジャーを巻かれる。
    「ウェスト、○○センチ」
     尻に巻かれる。
    「ヒップ、○○センチ」
     スリーサイズが全て知られた。
     自慰行為の経験や、初潮や陰毛の生えた時期までもを知ってしまっている教師達は、もう随分と雪乃の情報を握ったことになる。脅迫やセクハラに使えるであろう秘密を、ことごとく手に入れられ、弱みでも握られたような、かなりの居心地の悪さを覚えてくる。
    『皿に置かれたご馳走と変わらないわね』
     風乃が言った。
    『目の前にある美味しい果実を、彼らは思うままに箸で摘んで味見しているわ。その真っ赤な顔で、強がっている表情は、どんな味がするのかしらね』
    「……るさい」
     口の中だけで、かすかに呟く。
    『ふふっ』
     風乃は薄笑いを浮かべるだけだった。
    
         †
    
     より精密な情報を集めたいらしいこの検査は、スリーサイズだけには留まらず、他のあらゆる部位にまでメジャーを当てて長さを読み上げ続けていた。
    「右人差し指○○センチ」
     というように。
     あらゆる箇所の長さを測る。
     気恥ずかしかった。
     もちろん、裸でいる時点で気がどうにかなりそうだが、腕だの膝だのの長さまで測る。自分でも知ることのなかった情報を調べられるのは、裸体を見られるのとはまた違った、別の気恥ずかしさが沸いてくる。
     駄目だ、堪えろ。
     自分はこの程度ではないと、雪乃は耐える。
     太ももにメジャーを巻かれるのも、乳首と乳輪の大きさを測るために、胸に指が当たってくる不快感も、全て『痛み』だ。これら全てが、糧となる。
     やるならやれ、用が済んだら帰るだけだ。
    「――っ!」
     直後、雪乃は驚いたような険しい顔で目を丸め、諦めたように目を伏せる。
     ショーツが下げられたのだ。
     あまりにも突然、スッ、とショーツは膝へ下ろされ、大切な下腹部は丸晒しになっている。アソコにも、お尻にも、男達の視線は集中し、これで雪乃の全てが見られた。
    「~~~~っっっ!」
     普通の裸ですら、初めて人に見せているのだ。その日のうちに秘所まで見せるなど、刺激と衝撃の強い体験だ。これでも無心でいられるほど、雪乃の羞恥心は安くはない。
    「尻の割れ目は、と……」
    「!」
     次に教師がしてきたのは、割れ目に沿ってメジャーを当ててくることだった。
     目盛りを固定するための親指が、割れ目の上端、尾てい骨のあたりを強く押す。お尻のカーブへ向かってメジャーは伸び、狭間へ食い込み、下腹部のほぼ真下へと目盛りは合わされた。
     雪乃は全身を硬直させた。
     男の指が、性器のすぐそこにあるのだ。
     今にも触れてきそうなきわどい位置で、しかも男の顔が股下を覗いている。
    
     じぃぃぃぃ
    
     目盛りの数字を見るために、太ももの隙間が覗かれる。
     恥ずかしい!
     さすがの雪乃も、歪んだ顔が叫んでいた。
     ……恥ずかしすぎる。
     仮に日常生活でスカートを覗かれたとしても、下着がある以上はここまでの気持ちにはならないだろう。その日、一日は気分が悪くなるだろうが、パンツを見られてトラウマ並みのショックに至ることはまずありえない。
     だが、これは十分にトラウマになり得るレベルだ。
    「――くぅっ、うぅ…………!」
     胸を深く抉り取るほどの、鋭い羞恥が雪乃の心に刃を立てて、突き刺されたような精神の苦痛に雪乃は悶える。恐ろしく不機嫌に見えるほど表情を強張らせ、頬を硬くし、真っ赤な顔で肩を震わせていた。
    「○○センチ」
    『へえ? そうなの』
     男性教師は事務的に、風乃の声は好奇心たっぷりに、それぞれの言葉が雪乃の鼓膜に突き刺さる。
     ひどく恨めしくなった。
     尻の割れ目の長さなど、一体どこでどう役に立ち、活用する機会のある情報なのか。どうしても無駄にしか思えない、そして恥ずかしすぎる測定が、恨めしくなってくる。
    「ここからは少し測りにくいので、少し姿勢を変えましょう」
    「さ、時槻。足を肩幅に開いて」
    「それから、足首を掴むんだ」
     つまり、下腹部が無防備になる姿勢。
    「…………」
     雪乃はすぐには従えず、さすがに躊躇った。口をつぐんだまま数秒以上は下を向き、早くしろ、と注意され、同じ指示をもう一度出されるまでは、動けなかった。
     安くなる気がした。
     これがそういう検査で、従わなければ終われないのはわかっている。ただの少女一人にどうにかできる制度や規則でもない以上、受け入れるしか道がない。
     そうとわかっていても、言われたから、はいそうですかと従順に性器を曝け出せるほど、雪乃のプライドは安くない。
     動物に裸を見られたからといって、別の生き物を相手に恥らうなど無駄だし無意味だ。
     しかし、動物相手に従わされ、乙女にとっての大切な場所を勝手気ままに観察されるなど、到底許せることではない。こんなことまで受け入れたら、人としての尊厳やプライドまでもが安物と同じになる気がして、出された指示には即座には反応できなかった。
     だが、結局はやるしかない。
     ――……殺す。
     心の中でだけ、呟く。
     膝にかかった黒ショーツが、ぴんと伸びる程度に、足の幅を広げる。
     腰を折り曲げ、腕を下へ、足首を掴む。
    「~~~~~~っっっ!」
     尻に集まる視線に顔を歪めた。
     雪乃の取ったこのポーズは、折れ曲がった腰から下腹部の全てが丸見えになってしまう。茂みを生やした綺麗な秘所と、薄紅色の肛門が、測定者の視線を受け止めている。
     尻穴さえ丸見えだ。
     恐ろしく、屈辱的だった。
     向こうの指示とはいえ、自分でこんなポーズを取るなど、自ら恥部を見せつけているようなものだ。犯罪者の取り調べですら、こんなことは普通はあるまい。まるで尊厳を無視した扱いは、不服どころの問題ではなかった。
    「ではでは、肛門から性器までの距離は。と」
     必要性のわからない箇所を測るため、メジャーがそこへ当てられる。
    「――くっ、くぅ!」
     雪乃は歯軋りした。
     目盛りを指で固定するため、男の親指が肛門に乗せられ、ぐりぐりと押し込むようにしてくるのだ。
     こいつ……!
     雪乃の姿勢からでは、自分の尻は見えない。ただ親指が押し付けられる感触だけが肛門を襲い、恥ずかしいあまりに意識がいき、ぐにぐにと皺を揉むようにしてくる指つきが、嫌というほど如実に伝わった。
     そしてメジャーの目盛りが、女性器の割れ目の先端へあわせられる。肛門と性器の距離という、雪乃には到底理解できない情報が、書類へと書き取られた。
     記録係がペンを走らせる姿など見はしないが、静かな部屋で、ペン先が紙を引っ掻く音が耳に伝わる。乳首の直径も、乳輪の大きさも、普通なら測ろうとも思わない箇所の数字が書かれている事実を、そのペン先の音が雪乃に痛感させていた。
     そして、こんなポーズで、恥ずかしい部分を測定されている有様を、そのさらに周囲にいる男達が眺めている。恥部を見られること自体の恥ずかしさと、惨めな扱いを観賞される二重の羞恥が雪乃の顔を赤くしていた。
    「うぅ…………」
     目尻から涙が滲みそうになってきて、雪乃はそれをぐっと堪えた。目の下の頬肉に力を入れ、表情を歪ませ、雪乃は力いっぱい、屈辱を堪えた。
     今度は性器に沿って、メジャーが当てられる。
    「――っ!」
     決して、人に触れられることなどありえない場所。肉体関係まで進んだ恋人でもいなければ、絶対に明け渡すことなどありえない大事な部分を、直径を測るなどという目的のためだけに触られている。
     完全に指が当たっていた。その温度と感触が、嫌というほどアソコに伝わる。
     いや、メジャーが肉貝に触れているだけでも、想像を絶するほどの不快さが雪乃を襲っていた。
     例えるなら、汚物でも喰わされるような屈辱。あるいは全裸で靴でも舐めさせられるほどの屈辱。そんな例えが現実味を帯びるほど、この性器測定という行為は、羞恥と屈辱で雪乃をひどく苦しめていた。
     本当に、涙が出そうだ。
     だが、こんなことで、泣いてたまるか。
     泣けば、それは敗北だ。
     せめて、ここで負けてやる程度の存在にだけは、なりたくないしなってやらない。
     不幸中の幸いで、今なら顔を見られる心配のない雪乃は、強く強くまぶたを閉じた。筋力の許す限り強く引き締め、眼球が潰れるほど強く閉じきり、思う存分に涙を堪えた。
     ただ存分に堪えることだけが、今の雪乃にある『不幸中の幸い』であった。
    「縦の長さ○○センチ」
     数字が書き取られると、向きが変わる。
    「横の長さ、○○センチ。片方につき○センチですね」
     今度はメジャーを横に這わされていた。
    「じゃあ、あとは」
    「中身ですね」
     そう聞いて。
    「……っ!」
     雪乃は戦慄した。
     既に十分にプライドを傷つけられ、人間扱いされないことの屈辱を味わっている。外側のサイズを取られただけでも、いっそ死にたいほどのところを、その上さらに、肉貝の中まで覗こうというのだ。
    「んじゃあ、お願い」
    「はーい」
     二人の男のやり取り。
     しっかり測定しやすいために、肉貝を開く係と、測る係に別れての分担作業となったのだ。
     一人の教師が、前屈状態の背中から腕を回し、下腹部へと手の平をべったり乗せる。太ももの付け根あたりが掴まれ、その指先が秘所の皮肉に触れ、雪乃はビクンと、バネで弾むかのように肩を跳ねさせ、すぐに全身を硬直させた。
    ――見られる。
     危機感を前に、雪乃は動けなかった。まるで銃口でも向けられて、引き金を引かれる瞬間、死の危機を前にしながら、恐怖で体が動かないかのような状態。
     ただ、中身を見られるという危機感だけに頭が満たされ、それだけが全身を支配し、関係のない全ての思考が一層されていた。逃げよう、抵抗しようという、そういう考えが浮かびさえもせず、ただ見られるのを待つばかりと化していた。
     アソコへと触れかけている指に、力が入る。
     肉貝を開くために。
     指が皮膚に押し込まれて、雪乃はますます硬直する。
     そして。
    
     くぱぁ……
    
     血色の良いサーモンピンクの肉ヒダが、数人以上の教師の視線に晒される。
    「――――っっっ!」
     歯肉が潰れかねないほど、雪乃は強く、歯を食いしばった。
     もっとも敏感な部分に触れてくるメジャーの気配に、ただでさえ強張っている雪乃は、さらに足首を掴む手に力を込め、自身に爪を食い込ませていた。
    
     じぃ、
    
     覗かれている。
     尻の穴さえ丸見えであろうこの状態で、添えた目盛りを読むために、測定者が雪乃のアソコを覗いている。
    「膣口~センチ」
    「小陰唇~センチ」
    「陰格亀頭~センチ」
    「陰核包皮~センチ」
    「尿道~センチ」
     女性器を形成する全てのパーツに、メジャーの目盛りは順々に合わされていき、数値情報をことごとく暴かれ、大きく声に出されて発表された。
    「……うっ…………ぐぅ…………このぉ…………」
     苦痛だった。
     自分でも知るはずのなかった情報を抽出され、わざわざ大きな声に出されるのは、日記を人に朗読されるなんて例えでは生温い。
     もっと恐ろしいほどの、それを死因にできそうなほどの屈辱感と恥ずかしさで、雪乃の全身は満たされていた。一生記憶に残りそうなほど、ただ数字を発表されるだけが強烈だった。
    「肛門の直径~センチ」
    「~~~~~っっっ」
     尻の穴にまで、メジャーを握る指は添えられた。
     さらに。
    「あとは肛門の皺の数か」
    「じゃあ、数えるよー」
    「……!」
     雪乃はただ、戦慄していた。
     恥辱だけに満たされていた雪乃の全身に、より一層の羞恥と屈辱の感情が注ぎ込まれた。満タンのコップに水を注ぎ続ける時のように、減ることのない羞恥と屈辱がドバドバ溢れ、体中が恥ずかしさに濡らされた。
     そんな雪乃の感情を示すかのように、汗が滲む。
    
     ぐにっ。
    
     尻が鷲掴みにされ、割れ目が手で押さえられた。
     性器の中身が視線から解放された変わりに、この姿勢なら初めから見えているはずの肛門のために、両手の平が尻たぶの上へと移されたのだ。
     しっかりと指が食い込み、指の狭間から尻肉がプニっとはみ出ている。あからさまに揉んでは来ないが、お尻を触られているショックで意識が尻に集中し、ほんの少しの手の動きも、雪乃には敏感に感じ取れた。
    「はい、どうぞ」
     自分の体を、お尻の穴を、まるで雪乃自身には所持権がないかのように、身勝手に明け渡す。そんな台詞。
    「えーと? 一、二、三――」
     本数を数えるための、カウントが始まった。
    「四、五、六、七……」
     肛門を見られている。
     じっくりと、至近距離から。
     自分のお尻の真後ろに、男性教師の顔はある。自分でも見ることのない穴の形と、皺の本数が、こんなどうでもいい人間によって暴かれるのだ。
     そして、雪乃がそうされている有様を、周囲にいる関係者達が観賞している。
    「八、九……」
     カウントが進む。
     雪乃が思うのことは、ただ一つだ。
     ――やめて欲しい。
     肛門の皺の数など、知りたくもない。
    「十、十一、十二……」
     しかし、無情にもカウントは進んでいく。
     その本数もまた、嫌に大きな声で発表され、書類へと書き取られた。
    「肛門の皺の本数。○本!」
     そんな言葉に耳を突かれた瞬間、いっそ死にたいような思いにかられた。
     いや、いっそ殺したい。
     その気になれば焼き払える連中など、いっそ本当に炭にでも変えてやりたい。
    「はい、終了ね」
     今まで雪乃の恥部を見ていた測定者は、おもむろにショーツを掴み、膝に絡んでいたそれを一気に持ち上げ、雪乃の尻へと履かせ直した。
    
    「…………………………っ」
    
     雪乃はただうな垂れ、与えられた屈辱を噛み締めた。
     最後の最後で、人にパンツまで履かされた。
    「はい、もう立っていいよ」
     ペチッ、ペチッ。
     尻を叩かれた。
     それは苦難を終えた相手を励ます、本来なら肩でも叩いて、よくやったぞ、と努力を讃えるような叩き方だが、それを尻たぶに向かってされたのだ。
     トドメを刺された気分でしかない。
     測定と名の付く拷問をやっとの事で切り抜けたと思ったら、あと一つだけ試練が残っていたような、思ってもみない扱いを追加で受けた。
     それが、強烈すぎる羞恥の余韻をあと少しだけ色濃くして、身を焼かれるような思いだけが雪乃に残った。
     もう、真っ平だ。
     たかが検査でと思ったが、普通を捨てて化け物であろうとする雪乃とて、この扱いであっけからんとしていられるほど、常識的なプライドまで消えてはいない。
     真っ平だが、まだ項目は残っている。
     その事実が、雪乃の気持ちを暗くして、心をすっかり純粋な黒へと染めていた。
    
    
    


  • 風鳴翼 入院中の羞恥

    
    
    
    
    「防人の生き様、覚悟を見せてあげるッ! あなたの胸に焼き付けなさいッ!」
    
     立花響の前で見せた絶唱により、敵装者を撤退に追い込んだ風鳴翼は、その大きな負荷を受けて入院を余儀なくされた。
     翼が運び込まれた二課医療施設は、表向きは総合病院の体裁を取っている。私立リティアン音楽院高等科に隣接しており、戦場で傷ついたシンフォギア装者を治療する以外にも、ノイズによる負傷者や死亡者についのデータを収集している研究機関としての側面も持つ。
     一命を取り留めたはいいものの、意識を取り戻した後も、しばらくは自分では起き上がることすらできない日が続いた。
     ベッドから天井を見上げるばかりの生活上、風呂やトイレの行き来も自由にならない。
    (奪われたネフシュタンも取り返せず、これはとんだ生き恥だ)
     今の翼は薄い検査着を着ているだけで、簡単にはだけてしまうような衣服の中身は、医師らによって用意されたブラジャーとオムツのみである。心もとない格好もそうだが、性器に挿入された導尿カテーテルが、ベッド下にある尿入れ袋に繋がっている。
     動けない患者への措置だ。
     まあそういうものだろうと理解も納得もしているが、女子には辛いというのは変わらない。
     何よりの屈辱は身体の清掃だ。
    「おはようございます。風鳴さん」
     朝、中年の看護婦が現れる。
     いつもは彼女が、翼の身体をタオルで拭くのだが、今日に限っては若手の男性看護師を引き連れていた。
    「そちらの方は……」
    「あら、言っていなかったかしら? 最近こちらに配属になったんだけど、彼はまだまだ看護経験が足りないから、ここで実践経験を積んじゃおうってわけ」
    「は、はあ……」
     声にも顔にも出さないが、翼は心中穏やかではいられない。
     風呂に入れないからタオルで拭くのだ。当然のように裸になり、乳房や尻といった部分にも手が回る。
     それを男が……。
     そう考えるだけでも、翼の頬は既に朱色に染まりつつあった。
    「というわけで、私がここで見ているから、手際良くやってみせて頂戴」
     看護婦の指示を受け、男性看護師は翼の検査着に手をかける。
     ただ紐を解き、左右にはだけるだけで、簡単に人を裸にできる構造だ。簡素な白い下着姿は簡単にあらわとなり、隙間を通して導尿カテーテルを挟んだオムツ姿も見えている。肌を出すだけでも恥ずかしいのに、人の手で脱がせてもらうというのは、まるで幼児が母親からされるような世話をこの歳で受けている気持ちがしてならない。
     ブラジャーを取られる以上に、オムツを取ってもらうことが苦痛だった。
     動けない患者への措置――わかる。頭では十分にわかる。
     しかし、オムツは赤ちゃんが穿くものという概念を誰しもが抱いている。翼自身も、もしかしたら看護婦や男性看護師も、本当は赤ちゃんのものなのだと思いながら、今の翼の姿を拝んでいるのかもしれない。
     排便付きのそれを取り上げられる苦痛に耐え忍び……。
     丸裸にされるまで、そう時間はかからなかった。
    「いい? いくら患者さんが綺麗でも、見蕩れちゃ駄目よ?」
    「わかってますって」
     人の裸をネタにして、冗談めかした表情を浮かべる看護婦の方が、よほど言葉によって翼を辱める。
     しかし、触れてくるのは男の指だ。
     まずは顔から、温かい濡れタオルでオデコや頬を綺麗にする。顎や首元から、肩に二の腕に鎖骨といった部位が終われば、次のターゲットは乳房となる。
    (とんだ恥だ……)
     乳肌を拭くタオルの感触に歯噛みして、ひたすら顔を横向きに背ける翼は、どうするでもなく恥ずかしい時間を去るまで待つ。
     ただ、そうするしかない。
     これは看護的な『措置』なのであり、患者を辱める目的はない。不衛生では体に悪いのだから、一人で風呂に入れるまでは仕方がない。せいぜい、一日でも早く動けるように回復するのを祈るだけだ。
    (この身が剣なら、手入れを受けていると思えばいい)
     そう考えることで、翼はこの羞恥に耐えていた。
     タオル越しの指で乳輪をなぞり、乳首まで綺麗にしてくる男性看護師が、腰のくびれや太ももまで拭いている。
     うつ伏せになる際は、二人がかりの補助を受け、やっとのことでひっくり返り、背中もタオルで拭かれていった。
     当然、お尻も……。
    (くぅ……ッ!)
     顔を枕に埋め込みながら、尻肌に乗るタオルの熱気を感じ取り、さらにタオル越しの男の手でさえ如実に感じ、撫でるように拭かれていた。
     一人でトイレに行けないお尻の汚さなど想像もしたくない。
     ならば自分で拭きますと申し出るほど、身動きが取れるだけ回復しているかといえば、していないからこんな世話をされている。そんな口が利けるだけ体力が戻っていれば、一体どんなに良いかと無念でならない。
     だから、もうタオルによって撫でられているより他はない。
     次は仰向けに戻った。
     陰部を洗いやすいようにするため、脚を大胆にM字に開き、アソコがよく見えるポーズを披露するのだ。どう考えても乙女がやるべきではない格好にさせられて、その両脚とも看護婦の手で押さえつけられている。
    (……なんという生き恥かッ!)
     無念のままに秘所に視線を浴びているしかない。
     お尻の下にシートを敷き、ボトル入りの適温の湯をかけていくことで、陰部を少しずつ綺麗にしていく。ガーゼにお湯を染み込ませ、外側は石鹸を泡立てて洗ったが、中身はお湯をかけるだけで汚れを流す。
     きちんと綺麗になっていることを確かめるための視線が――。
    
     じぃぃぃぃぃぃぃぃ…………
    
     よく膣口を覗いた上で、ガーゼの面を変えながら、実に丁寧に拭き取っている。
    「陰部が終わったら肛門部よ?」
    「わかってますって」
     今度は尻の割れ目へと、新しいガーゼの指が入り込む。
    (くッ、この体が十全になれば、こんな思いはしなくて済む……ッ!)
     お尻の穴まで触れられている事実に、翼はすっかり耳まで染め上げていた。
    「もう少しですからねー」
     放射状の窄まりに沿って、皺の隙間まで綺麗にしようと、中心から外側に沿って一本ずつ丁寧に拭いていく。円を描く拭き方で、さらに皺の周りを綺麗にすると、その清潔具合を確認するため、顔がぐっと接近した。
    
     じぃぃぃぃ……
    
     肛門に浴びる視線により、水が沸点に達する静かな泡立ちのように、翼の頭はしだいにふつふつと煮え滾り、存在しない蒸気が上がるほどに熱い赤面となっていく。
    (それでも恥ずかしいッ! 防人の私がこんなッ!)
     まだ汚れが気になったのか。
     再度、ガーゼ越しの指が伸びてきて、尻の穴をツンツンつつく。
    (うう……ッ!)
    「はい。終わりですよー」
     その後はまたオムツを穿かされ、惨めな姿で検査着を羽織ることになる。
     早く良くなりたい。
     翼の思いはとてもとても切実だった。
    
         **
    
     一人で歩けるまでに回復しても、まだ十全とは言い切れない。
     数々の検診を受け、経過を確かめるのは当然だが、分娩台で股を開いて性器を視触診されるなど、恥じらいある女子の心を深く抉り取るようなものである。
    (やっぱり、恥ずかしいものね)
     どこか諦めきった気持ちで、指で大きく開かれた肉ヒダに視線を浴びた。
     今、翼の下半身は、婦人科にあるようなカーテンに仕切られ、その向こう側で医師が粘膜を視診している。
    
     じぃぃぃぃぃ……
    
     相手の姿が見えないからこそ、気配に敏感になった素肌が、如実なまでに視線を感じ取っている。一体何センチの距離まで顔が近づき、膣粘膜のどんな部位を見ているのか。どれほど膣口を覗いているのか。必要以上によくわかった。
     そして、自覚していた。
     自分が濡れていることを……。
    (こんなはしたない……ッ!)
     例えば愛する異性とのセックスなら、むしろ濡れて当然だろう。
     しかし、医療に過ぎない中で、少しでも愛液が滲み出るのは、まるで自分がいやらしい反応をアピールしてしまっているようで心もとない。
    (バレていなければいいけど――)
     診察で濡れたと医師に伝われば、一体どんな目で見られることか。
     だが、ムズムズとした甘い痺れは止まってくれない。
    「入れますからね」
     一言の断りから、すぐに指が挿入された。
    (んっ、くぅぅ……)
     指という異物が、膣壁の狭間に入り込む。もう片方の手で腹を押さえ、触診として中身を探る手つきには、愛撫のようないやらしさこそないものの、翼の頬を染め上げるには十分すぎるほどだった。
     指が抜かれる瞬間だ。
    「んっ、ふぁ…………」
     声が出てしまった。
     ――まずい!
     バレただろうか。感じたことに気づかれただろうか。
    「大丈夫ですよ。よくあることですから」
    (気づかれている……!)
     もう頭が沸騰した。
     アソコを布か何かで拭き取っているのは、きっと愛液を拭っているからだ。
    (くッ! こんなところで死にたくなるとはッ!)
     そんな場所を拭いてもらうというのも、それが濡れたからだというのも、何もかもが恥ずかしくてたまらない。
    
         **
    
     さらに翼を恥らわせるのは肛門の検査である。
     四つん這いのポーズで腰を突き出し、胸や頭は下につけ、尻だけを高らかに掲げる卑猥極まりない姿勢を要求されたのだ。
    「こちらをご覧下さい」
     一人の研究者がモニターを操作すると、巨大画面にはお尻の穴が投射される。
    「そして、右側が現在の肛門の状態です」
     つまるところ、絶唱による負荷のかかった初期状態と、治療の進んだ現在のお尻の穴の画面上に並べて比較している。過去の肛門は画像だが、現在の肛門に関しては、まさに翼の後ろに三脚カメラを立てたリアルタイム映像である。
     何人も何人も、数々の男の視線が、お尻の穴を眺めているのだ。
    「各種内臓から直腸にも負担がかかっていたことで、肛門の状態もご覧のように荒れが見受けられましたが、現在ではこのように綺麗なものとなっています」
     という切り出しから始め、その研究者は学術的な見解を長々と述べている。まるで教材を元にした大学の講義か何かだ。
     教材として扱われることもそうだが、この十分以上かかる講義の最中、翼はずっと尻を突き出したままでいることを強いられていた。
    「では風鳴さん。お尻の穴に力を入れてみて下さい」
    (何故そんなことを……)
     しかし、研究に協力するのも役目だ。
     枕に埋め込んだ顔から、密かに涙を零しながら――
    
     ――きゅぅっ、
    
     自分の肛門など見たくもない。
     だから翼自身にはわからないが、画面映像の中にあるお尻の穴は、皺の長く伸びていた状態から、まるで穴の内側に巻き込むように小さく窄まり、尻山の筋肉が内側へ閉じようとする動きと共に収縮した。
     こんなことから何か学術的な説明ができるらしく、これを題材に講義を続ける。
    「というわけで、そのまま力を出し入れして下さい」
     どれだけ恥を晒せばいいのだろう。
    
     ――きゅぅっ、きゅぅっ、きゅぅっ、きゅぅっ、きゅぅっ、
    
     小さな窄まりとなる肛門は、力を抜くと同時に瞬間的に、元の形に戻ろうとする力によって放射状の皺を伸ばしている。
    
     ――きゅぅっ、きゅぅっ、きゅぅっ、きゅぅっ、きゅぅっ、
     ――きゅぅっ、きゅぅっ、きゅぅっ、きゅぅっ、きゅぅっ、
    
     絶えず動き続ける尻の筋肉のため、お尻全体がプルプルと、ゼリーを細やかに振動させているかのような揺れを披露している。その中央でお尻の穴は、脈拍を打つようなリズムで淡々と力の出し入れを繰り返した。
    「ご覧下さい」
     研究者が、軽い力でペチペチと、翼のお尻を叩いていた。
     それは自慢の愛車を誇るような、あるいは可愛い孫を見せびらかしたいような、自信があって仕方のない教材を披露する気持ちから、研究者自身も気づかないうちにさりげなく叩いたわけである。
     どんなに本人に悪気がなくても、翼にはたまったものではない。
    (……叩かれたッ!)
     翼はますます涙ぐんだ。
    (早く戦場へ戻りたい……ッ!)
     その思いの切実さは、もはや雲を貫いてもおかしくないほど、この場で一気に高められていくのであった。
    
    
    


  • 第7話「おマンコ開帳とアナル公開」(最終話)

    前の話 目次

    
    
    
      天利を見る男の視線は、もはや全てがギラついていた。ユースティティアの全裸を見て、服従のポーズまで見せられては、嗜虐心を刺激されるのも無理はない。
     おまけに犬の鳴き真似だ。
    「わんっ、わんっ」
     自分を視姦している全ての男達に対して、天利は醜態を晒している。
     これに何も思わない男はいない。
    「みっともねぇ……」
    「これがユースティティアなのか?」
    「無理を言っちゃ駄目だよ。人質さえいなければ従う理由はなかったんだから」
     すっかり天利を蔑んでいる目もあれば、まだ同情しているような男もいる。しかし、ユースティティアを気の毒に思っている人間ですら、股間は限界まで勃起して、ズボンがテント状に張っているのだ。
    (……本当にみっともない。これが私だなんて)
     赤面しきっている天利は、羞恥にガタガタと震えている。屈辱が目にこみ上げ、涙となって目尻に溜まり、恥ずかし泣きの涙が顔の両端から流れ落ちていた。
    「ではユースティティアさん。あなたの口から、次のクイズを出して下さい」
     ハジィが耳に顔を近づけ、その内容を伝えてくる。
     口元にマイクを差し出され、天利は震えた声でクイズを出した。
    「……こ、ここで問題ですッ。わ、わた、わらひは――しょ、処女でしょうか。それとも非処女でしょうか!」
     声が上ずるあまり、台詞まで噛んでしまった。「私」でなく「わらひ」だなんて、天利はもうまともに喋れてもいない。
     そして、問題を出した途端に男達はニヤニヤと考え込む。
    「みなさん。イエス・オア・ノーで答える簡単な問題です。女性の人質はまだまだたくさんいますので、あなた達が正解した人数だけ、女性陣をランダムに解放しましょう。最大三十五人も助かるわけですね」
     やはり、人の命がかかっている。
     ニュース中継を介して、シェームズは実際に解放の意思があることを証明しているため、男達はますますやる気になるだろう。
    「ひ、人質のためだ! 女性が助かるんだからな」
    「そうだ! ユースティティアには彼氏はいるのか?」
    「あれだけの怪力だ。そうそう付き合える男は……」
    「わかんないぞ? ユースティティアだって女の子だ。好きな男の一人や二人いるだろう」
    「だからってなぁ」
     大義名分を得ている三十五人は、あくまで人命のためだと自分自身を騙しながら、あるいは初めからいやらしい気持ちで堂々と、ユースティティアが処女か非処女かについて熱い議論を交わしている。
     M字開脚の股を見て、そこにあるワレメを視姦しながら、誰も彼もが肉ヒダを開いた中身を想像している。
     一度でも肉棒が出入りしたのか。
     それとも、まだ男を知らない純情な穴なのか。
     自分の貞操がクイズの題材にされているなんて、最悪だった。
    (……こんな状況……頭がどうにかなりそうだッ)
     男達の視姦はまるで、目には見えないねっとりとした物体が、ヌルリと素肌に絡み付いてくるかのようで、皮膚全体が総毛立つ。今はアソコに集中的で、存在しない透明な指に愛撫されているようでもあり、天利は腰を震わせていた。
    (そ、それでもッ――。それで人質が解放されるのなら、一人でも多くの人が正解するように祈るしかないんだ…………)
    「さあ、ユースティティアが処女だと思う方は右サイドへ! 非処女だと思う場合は左サイドへ移動して下さい!」
     男性三十五人はぞろそろと左右に分かれる。
     処女の予想は二十一人。
     非処女の予想は十四人。
    「果たしてどちらが正解か。その答えはユースティティアさん自らがおマンコを開帳し、みなさんに処女膜の有無を見せびらかして下さいます!」
     天利の前にプロジェクターとカメラがセットされ、アソコが大型スクリーンの中に大きく映し出される。全裸で恥部を隠せないだけでも死ぬほどの恥ずかしさなのに、閉じ合わさった綺麗な肉貝が生映像として拡大され、そこに全員の視線が集中するなど……。
    (くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~ッッッ!!!)
     恥ずかしさのあまり、足の指に力が入り、つい床にひび割れを入れてしまう。力の制御を忘れかけたことにハっとして、今一度必死になって自分を抑えた。
     そして、両手で自らの秘穴を開くため、ワレメの左右に指をかける。
    (犠牲者が出るよりマシ! 犠牲者が出るよりマシ! 犠牲者が出るよりマシ!)
     心の中で必死に唱えた。
    (見せたって死ぬわけじゃない! 人質も助かる! 人の命が助かる!)
     そうだ。これは人質救出のためだ。
     天利は二十一人の命を救うため、指で肉ヒダの中身を開き、まだ処女膜のついた未経験の膣口を曝け出した。
    「あれは環状処女膜ってやつだ!」
    「血色が良くて健康的だぞ」
    「挿入してぇぇぇぇ!」
     ところどころから感想が飛んできた。
    「おめでとうございます! なんと二十一人の人質解放が決定されました! みなさんにも、きちんと証拠をお見せしましょう」
     スクリーンが地上はチャンネルに切り替わり、建物をバックにマイクを握る中継アナウンサーの姿が再び映る。その口からは囚われていた人質の解放が告げられており、またしてもこんなことで人の命が救われたことを証明された。
    「残念ながら、不正解となった十四人の男性は後ろに下がっていてもらいます。正解した二十一人の方達には、次のクイズを出題しましょう」
     次の問題内容も、ハジィの口から耳打ちされ、ユースティティア自らの口から出題するよう強要される。
     こんな恥ずかしいことを言うなんて……。
    「も、もんら――ゴホンッ。問題です。わたッ、わ、私の――その……。こ、ここ肛門の皺は何本でしょうか!」
     ……言ってしまった。
     いくら強要されたとはいえ、お尻の穴までクイズの題材に使われて、男達はその本数を想像するのだ。
    「15本以下と予想するなら右サイド。16本以上なら左サイドへ!」
     二十一人の男はそれぞれ左右に分かれていく。
     右が十人。左が十一人。
     ほとんど半々に分かれていた。
    「では確認しますので、ユースティティアさんは四つん這いとなり、頭と胸は床につけ、お尻だけを高くした姿勢になって下さい」
    (そんな恥ずかしいポーズ…………)
     天利は床に両手を突き、上半身を床に伏せ、まるでお尻を差し出すような敗北感に浸りながら、言われたままのポーズを取った。
    
     むにっ、
    
     ハジィの両手が尻たぶを鷲掴みにして、指に強弱をつけるように揉んでくる。力の制御を忘れればどうなるか、とっくに学んでいる天利は、拳を限界まできつく握り締め、手の平に爪を食い込ませることで堪えていた。
    「この87センチあるプリプリのお尻には、とても綺麗な薄桃色の菊の花が――すなわち肛門がヒクヒクといじらしく蠢いております。これから、その皺の本数をカウントして、みなさんの正解及び不正解を発表しましょう!」
    
     じぃぃぃぃぃぃ――!
    
     ハジィの顔が接近して、息がかかるほどの距離から肛門を視姦される。
    (嫌ァァァァァ! 恥ずかしい!  恥ずかしいよォ!)
     天利は羞恥に苦悶した。
     もう頭が沸騰して、脳みそが全て蒸発しそうだ。
    「いーち! にーい! さーん! しーい! ごーお! ろーく!」
     楽しそうな元気な声で、ハジィは本数をカウントしている。お尻の穴を見せるだけでも恥ずかしすぎて、いっそ死にたい気持ちが何度も何度も頭をよぎるほどなのに、羞恥心ある高校生の乙女に対して、これはあまりにも最悪の扱いといえた。
    (うぅぅぅ~~~ッッ! こ、こんなァ!)
     もし羞恥心で人が死ぬことがありえるなら、いっそ殺しにかかっているといっても過言ではないほどの仕打ちである。
    「なーな! はーち! きゅーう! じゅう! じゅーいっち、じゅーに、じゅうさん、じゅーし、じゅーご、十六! 十六! 町を守る正義の使者! あのユースティティアのお尻の穴の本数は! アナルのしわしわの本数は! なんと16本です!」
     必要以上にはしゃぎたて、場を盛り上げようとする実況か司会者のような発表で、天利のあたまはますます温度を上げて沸騰した。
    (イヤァァァァ! し、知られたァァ! こんなたくさんの人に、こんな情報を知られてしまった!)
    「ユースティティアさん。あなたは自分の肛門を見たことがありますか?」
    「そんなものはないッ!」
    「ではごらんになって下さい! これがあなたの皺がじ16本ある美しいアナルです!」
     見上げると、スクリーンには肛門のアップが映されていた。
     自分では決して見ることのなかった部位が、まずはハジィに手で暴かれ、次に三十五人の男とその周りの武装者の目に晒され、最後の最後で天利本人に見せつけられたのだ。
    「うぅぅ…………」
     頭の中から沸騰の泡が弾け、ジュワァァァァと蒸気が立ち上っているような、これまでにないほどの羞恥の表情が浮かんでいた。恥ずかし泣きの涙が溜まった目尻は強張り、頬も力んで震えている。唇は口内に丸め込まれ、眉間にも力が入り、全ての顔のパーツが歪んだ表情と化していた。
    「肛門括約筋に力を入れ、お尻の穴をキュって縮めてみましょう!」
     愉快そうにハジィは言う。
     見て、命令して、楽しんでいる方が気持ちいいだろうが、天利にとっては肛門を見世物にしろという恐ろしい宣告だ。
    
     キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――。
    
     花開くように皺を伸ばしていた天利の肛門は、皺が丸く縮まるように内側へと引き搾られ、力を抜くと元の皺の長さへ立ち戻る。
    「リズムにのって、お尻の穴をパクパクさせましょう!」
     楽しそうな手拍子と共に、ハジィのリズム取りが始まった。
    
    「ワン・ツー! ワン・ツー! ワン・ツー! ワン・ツー!」
     ――ヒクッ、ヒクッ、ヒクッ、ヒクッ!
    
    「ワン・ツー! ワン・ツー! ワン・ツー! ワン・ツー!」
     ――ヒクッ、ヒクッ、ヒクッ、ヒクッ!
    
    「うわっ、マニアック!」
    「こんな映像を見ることになるとは……」
    「俺は肛門マニアだからよ。スッゲー得した気分だぜ!」
    「おいおい、ユースティティアだぞ?」
    「マニアじゃなくたって、お得な気分になるって」
    
     男達は口々に語っている。
    
    (私は……お尻の穴なんかで芸を披露しているんだ……アソコもお尻も、全て見世物のようになってしまっているんだ…………)
    
    「ワン・ツー! ワン・ツー! ワン・ツー! ワン・ツー!」
     ――ヒクッ、ヒクッ、ヒクッ、ヒクッ!
    
     肛門芸を披露させられているこのあいだ、天利は顔の筋力が許す限り限界まで、強くまぶたを閉ざして耐え忍んだ。
     怪力のある天利の顔面は、果たしてどんな表情筋肉のパワーで歪んでいるか。
     傍目には羞恥の限界を極めた表情と映るだろうが、天利の顔は外側からは決してわからない力で歪んでいた。
    
     全ての羞恥の表情は、カメラマンの手によって撮られている。
    
     芸の披露も、それに対する衆人環視の反応も、何もかもがカメラに収まり、それは後に販売用のAV動画として編集される。表立っては販売できない映像だが、裏ルートを知る権力者の手に渡る運命にあるのだ。
    
    『本物! あのユースティティアの赤面羞恥体験』
    
     そんなタイトルで販売され、権力を持つユースティティアのファン達は、こぞって購入することとなるのだ。
    
    
    
    
    
    


  • アナルまで診られる彼女

    
    
    
      やっばい。風邪ひいた。
     ってわけでお願いがあるんだけど。
     学校終わったら、家まで迎えに来て?
     できれば病院まで連れてって欲しいな。
    
     ――送信。
    
     彼氏へのメールを送った明瀬エナは、熱のだるさと悪寒に耐えながら、ベッドにもぐり眠りにつく。早く治すためにも、寝よう寝ようとは思うのだが、学校の時間に合わせた普段通りの生活リズムで目が覚めて、それからもう一度寝るというのは、なかなか難儀なものだった。
     恋人の名前は新藤ヒロマ。
     中学では同じテニス部に所属していて、まあ強豪には程遠いが、都大会で何回か勝ち上がる程度の強さはある。関東や全国など夢のまた夢だったが、熱血なことにヒロマはもっと上まで行きたいと日々励み、史上初めて関東大会まで進んだことに驚きを隠せなかった。
     いつの間にかエナは惹かれ、途中敗退で悔しい涙を流すヒロマのことを抱き締めた。
     中学三年から付き合い始め、高校一年になってもうじき一年。
    
     先、進んでもいいよねぇ……。
    
     これだけ長く付き合って、ディープキスまでしかしていない。
     正直に言って、進行は遅いだろう。
     まあ、高校でもお互いにテニスを続け、練習ばかりでデートは少ない。メールや電話だけは毎日するが、テニスにも集中しなくてはいけないヒロマだ。自分が下手に誘った遊んでばかりになってはまずいだろう。
     そんなちょっとした責任感から、なかなか前に踏み出せないが、日々の努力のご褒美ということで、なにかこう、してあげてもいいような……。
     もちろん、風邪が治った後。
     迎えなんて頼んだのも、ハードメニューが続いた末の休みの日であるからだ。
     あいつに風邪は移るまい。
     いや、そもそも、半日もあればちょっとは良くなる。それでも病院にわざわざ行くのは、さすがに熱が高かったから、心配した親がお金を置き、ちゃんと行っておくよう煩く念を押してきたからだ。
     しかし、楽しみだな。
     あいつを呼び出し、あいつの迎えで、病院まで送ってもらう。
     お姫様気分というのも言い過ぎだが、そんな時間が乙女心に待ち遠しかった。
    
         *
    
     今日はテニス部が休みだ。
     地獄のような練習メニューで、いつか身体が壊れそうなほどの負荷を抱え、しかしオーバーワークについてはコーチがきちんと管理している。休みというより、厳密には練習禁止となっているのが今日である。
     エナの風邪が今日だったのは、不幸中の幸いだろうか。
     迎えに行ってやれるから。
     学校が終わるにすぐに校舎を出た新藤ヒロマは、徒歩十五分ほどのエナの自宅へ向かい、インターフォンを押して彼女を呼び出す。
     階段を駆け下りる音が、玄関の外まで聞こえて来た。
    
    「待ってたよ! ヒロマ!」
    「うおっ、おい!」
    
     腕を絡めるように飛びついて、実に嬉しそうに微笑んでくる。
    「移ったらどうしてくれる」
    「むしろ移してやる」
     一応、半日もあれば少しは元気になったのだろう。
     ヒロマの身長に合わせ、背伸びしながら飛びつかんばかりのキスをしてくる。柔らかい心地に高揚感を覚え、ヒロマの方からも強く抱き締め、軽く舌を捻じ込み口内を蹂躙する。もはや風邪など気にせず二人の世界に入り込み、お互いの舌に糸を引かせて見つめ合う。
     エナはずっとヒロマを応援してくれている。
     中学の頃に、もっと上まで勝ち進みたいという熱意が沸いた時からそうだった。
     ――いいじゃん! やっちゃいなよ!
     そう言って、練習相手をしてくれた。
     支えとなった大切な存在が、こうして腕の中にいてくれると、たとえ明日世界が滅ぶとしても安らぎが得られるような気さえする。
    「エナ。病院。行くの?」
    「一応ね。今朝はすっごい熱だったし」
    「四十度くらい」
    「うん」
    「マジかよ……」
     心配するのも当然か。
     見ればエナは、既に出かける準備のため、Tシャツとジーパンに着替えている。豊満な胸のサイズがシャツを押し上げ、くびれた腰のカーブがよく目立ち、尻の部分もパンパンに膨らんでいる。
     ……触れてみたい。
     しかし、ディープキスまでは進んでいても、まだ胸を揉むまでいっていない。風邪をひいたばかりのエナに手は出せまい。いつだって、先に進んで肌を曝け出させてやりたい欲望を抱えているが、大切なものを傷つけたくもないヒロマは、ずっと押し倒すことに踏み切れない。
     とはいえ、さすがに交際一年。
     とっくに進展があってもいいはずだ。
     だから、風邪が治って、次に二人きりになる暇ができたら、その時は……。
     などと考えつつ。
     照れくさそうに笑い合い、手を繋ぎ、ヒロマはエナを病院まで導いた。
    
         *
    
     奇跡的に空いていた病院で、受付から程なくして待合室のベンチに座る。
     診察室への出入り口は、ドアの代わりにカーテンをかけ、布一枚で仕切ったものだ。向こう側で診察を受けるオジサンと、診ている医者のやり取りが、ごく普通に聞こえてしまう。プライバシーの観点からして、この作りはどうなのか。
     それに、ここから診察室を覗ける窓がある。
     いや、カーテンによって閉ざされてはいる。向こう側にかかっているので、こちらからの開閉もできないのだが、照明が上手い具合にシルエットを浮かび上げ、だから一度はベッドに寝そべるオジサンが、仰向けで触診を受けた様子がわかってしまった。
     オジサンの診察が終わる頃には人が増え、会社帰りのサラリーマンやTシャツの中年に、大学生ほどの男子がベンチに並ぶ。
     そんな中で名前を呼ばれた。
    「待っててね。ヒロマ」
    「おう」
     エナはオジサンと入れ替わりで、診察室へ踏み込んだ。
     丸椅子に座り、眼鏡をかけた中年医師と向き合うと、すぐに何の来院の理由を尋ねて来る。熱は何度あったのか、昨日は何を食べたか。痛い場所は、だるさはあるのか。問診によって行われる質問の数々に応えていき、そして中年医師は聴診器を手に取った。
     男の手が胸に近付いてくるのは好きではない。
     だが、診察のためにわがままも言っていられずに、シャツの上から当てられる程度は我慢するも、それでは聴きにくかったらしい。
    「ちょっと持ち上げて下さる?」
     少しだけたくし上げ、服の隙間に中年医師の手が入った。
     聴診器のひやりとした感触が、ブラジャーを介した乳房の生え際に当たっている。中年医師はエナの顔や胸を見る様子を欠片も見せない。初めから音にしか興味がなさそうなのは、下心の無さに思えて安心する。
     しかし、シャツに潜った手が動き、谷間の部分に当てようとして来た時、胸にその手が擦れて辺り、中年医師はすぐに腕を引っ込めた。
     エナの胸は、少し大きいのだ。
     シャツをなるべく引っ張っても、胸の中央に聴診器を当てるには隙間が狭い。そのまま聴診を行うには、谷間に手首を挟んでしまうしかなかった。
     さすがに、そうなると困る。
    「失礼。当たってしまうので、完全にたくし上げて頂けます?」
     淡々として作業的な、仕事の邪魔になるからどけてくれという、それ以外の意思を全く感じられない物言いだった。
     それに、やや大きめの声。
     エナがシャツを持ち上げて、胸を出し切ることが、外で待つみんなにも聞こえてしまう。
    (嫌だなぁ……)
     渋々。
     白いブラジャーの胸を出し切るために、シャツをたくし上げていく。
    (……はあっ、嫌だ)
     自分の手で露出を行い、人に見てもらう行為を好きにはなれない。
     いくら性的な気持ちが皆無でも、一応男の視線が乳房に刺さる。きっとエナのこの光景は、待合室にも伝わっている。自分の彼女が医者に胸を出しているなど、ヒロマも決して良い気分ではいないだろう。
     だいたい、他の患者さんの頭の中に、エナのこうしている姿があるかと考えると、それもまた面白くない。
    「発疹が見受けられますね? 皮膚科を受診されたことは?」
     聴診器を当てようとするなり、何かに気づいて胸を凝視し、そんなことを訪ねて来る中年医師の表情は、ただ仕事の上で気づいたことを確認しようとするものに過ぎない。何らいやらしさのない、視姦には程遠い視線とはいえ、その目ははっきりとエナの胸を眺めていた。
    「え? いえ……」
    「では――」
     胸のあたりに痒みは、痛みは、といった質問が開始され、一向に聴診が行われないせいで、かといって勝手に隠すのもどうかと思えて、胸を出しっぱなしにした挙句だ。
    「シャツとブラジャーを脱いで頂けますか?」
    「……へ?」
    「上半身裸です。お願いしますね」
     そう言いつつ、この中年医師がエナの裸に無関心なのはよくわかる。
     しかし、機械でも動物でもない、れっきとした人間相手に、だから羞恥心が湧かないかといえばそうでもない。だいたい、やはり声の大きさで、カーテンの向こう側にも、エナがこれから脱ぐというのが伝わっている。
    (嘘……本当に嫌なんだけど……)
     エナは泣く泣く脱ぎ始め、脱衣カゴへとシャツを置く。
     背中のホックに腕を回すと、中年医師は正面からまじまじと、早く仕事を進めたくて待ち構える。事務的な視線を気にしつつ、ヒロマにも見せたことのないおっぱいを、無念にも曝け出してはブラジャーもカゴに置く。
     丸っこさのある、大きく張りのある乳房が、真正面から中年医師の視線を受け止める。
     おっぱいを見ているが見ていない。
     いくら物理的な視線が突き刺さっても、症状を調べることだけに、中年医師の持つ全ての興味が注がれている。上半身裸の指示にも関わらず、そこにセクハラの意思は存在しないと、問答無用で納得させるだけの事務的な表情がそこにはあった。
    (エロ医者ではないんだろうけど……)
     真面目な診察なだけに、隠したり、恥ずかしがることは失礼だという気持ちが働く。ならば堂々と背筋を伸ばしていなければならないが、彼氏に裸を見せたことがなく、羞恥心の強い高校生の年頃には、やはりこの状況には辛いものがあった。
     左胸の生え際。
     エナにそうした知識はないが、医者としては心尖という部位に当てたい。何となく、その部分に当てることに意味があると悟ったエナは、そうはいっても驚きに目を丸めた。
    「――うっ!」
     乳房を持ち上げたのだ。
     手の平の先端で、四指を束ねて掬い上げてやるように、ほんの少しだけ垂れのあった左乳房を上へとどかし、そこに聴診器が当たって来る。
    (やば……い……さすがに、ヒロマに悪い……)
     診察だ。診察だとわかっている。
     それに意味があるのなら、彼氏に悪いと言い張って、医者を困らせるのもまずい。
    (我慢、我慢、我慢……)
     これくらい、冷静に耐えられる。
     幸い、手はすぐに離れていき、胸の真ん中に当てて音を聴く。
    「触診しますね」
     聴診が終わって、次の一言がそれだった。
     エナは聞くに引き攣った。
    (そ、それって、おっぱい揉むってことじゃ……!)
     中年医師の手が伸びた。
     ヒロマにも揉ませたことのない乳房が、名前も知らない男に触れられることに対して、拒否反応が全身の神経に行き渡る。
    (……嫌っ!)
     だが、逃げられない。
     れっきとした診察の場において、エナのおっぱいはあえなく鷲掴みにされていた。
    
         *
    
     皮膚の色合いから考えられるのは……心音や熱の様子から、風邪には違いなく、しかしこの張りの中に何かしこりが隠れている可能性も……。
     中年医師の頭にあるのは、そんなものだった。
     おそらくEカップかFカップのあたりだろうが、彼女の乳房が何センチであろうとも、そこに性的な好奇心はない。ただ頭の中にある数々の症例と、こうして揉んでいる乳房の感触を照らし合わせ、誤診のないようにしっかりと『診る』ことしか考えてはいない。
     脇下から横乳へと続く筋肉に、べったりと手の平を当て、リンパ節を確かめる。
     五指を存分に躍らせ、揉み心地をチェックして、そのうちに手の平の中央に乳首の突起が硬くぶつかる。乳輪をなぞり、乳首をつまむと、明らかに何かを我慢した表情で、唇を大きく丸め込むが、医師としては何より仕事を済ませることが先決だ。
     この女子高生の後にも、まだ他の患者が控えている。
     迅速に済ませ、客を回したい考えが頭を掠めるに、時間をかけざるを得ない理由が見つかることで、顔には出さないが、心の底ではため息をついた。
    
         *
    
     自分の彼女が上半身裸の指示を受け、おっぱいを揉まれまでしていることは、新藤ヒロマの元にも伝わっていた。
     隣に座るサラリーマンが、中年オヤジが、大学生ほどの男も含めて三人とも、どこか前屈みになっている。こいつらの頭の中には、エナが触診を受ける場面の妄想がありありと浮かんでいるのは明白だった。
    (くそっ、こいつら……)
     どうにかしたいとは思っても、覗こうとでもしない限りは糾弾できない。
     人の頭の中身を勝手に決めつけ、俺の彼女を妄想のネタにするなと怒っても、そんなことをしても無用なトラブルに発展するだけなのだ。
    「ベッドで仰向けになって下さい」
     中年医師の声はここまで聞こえた。
     窓ガラスの向こう側で、カーテンにはエナが横たわろうとするシルエットがくっきりと動いている。仰向けとなった乳房の形が、自重によって少しだけ潰れつつ、ツンと天井に乳首を突き出しているのが浮かんでいた。
     男達の視線が一点集中していることは空気でわかる。
     さらに順番待ちの患者が増え、三十代の男が二人も加わるなり、乳房に気づいて視姦する。
    (エナ……)
     乳房への触診は続いていた。
     中年医師のシルエットが、その胸へと両手を伸ばし、揉みしだく。それがいかに医学的に理に適った触れ方で、症状を探るべくしての手つきであるかなど、知識もなければ影しか見えないヒロマにはわからない。
     きっと診察なのだろう。
     だが、こうも揉まれるところを見せつけられ、胸が万力で潰されているように痛い。
    「痛みや違和感はありますか?」
    「いえ……」
    「こちらはどうですか?」
     まるでクレーンゲームのアームの先端だけでつまもうとするように、中年医師の五指が乳首の部分に集中する。シルエットであろうと、影の形を見ればそのくらいのイメージはつく。指圧による強弱をつけ、引っ張り、押し込み、いいように乳首を刺激しているのだ。
    「んっ、ん……ん……」
    「どうしました?」
    「い、いえっ、大丈夫……です……」
     その声にヒロマは唇を噛み締める。
     この場の空気が嫌に静かで、どことなくギラついている。中年医師がどうであれ、ここに待つ男達が、シルエットを性的な目で見ているのは疑いようがない。
    「こちらに痛みはありますか?」
     今度は腹の方を指で押して訪ねていた。
     何の病気だったか、風邪だったか、腹部へのそういう触診なら、ヒロマにも覚えがある。
     やはり、普通に診察だ。
     乳房にも、きっと何かあったのだろう。
    「脚のリンパを診ますんで、ちょっと失礼しますね」
     中年医師のシルエットが、エナの下半身に向かって動き、そしてチャックを下げる際の金属の歯が、左右に開けていく音は、すぐにヒロマの耳にも届いてきた。
    「一瞬お尻を上げて下さい」
     そんな言葉の次に聞こえる衣擦れの音で、ジーパンを下げているのもわかる。
    (くそっ、どれくらい下げた? 全部は脱がしてないだろうけど、パンツまで見えて、ほぼ裸にされてるじゃねーか……)
     そういえば、脚の付け根の部分を揉むことで、リンパの触診を行う方法があったはず。エナはそれをされている。中年医師の手の平が、太ももの内側の、それもアソコに近い位置へと当てられているはずなのだ。
    (畜生……)
     診察だ。診察なのだろう。
     しかし、それでも……。
    
         *
    
     乳首は硬く突起しきり、ジーパンは膝まで下がっている。ショーツ一枚の裸と違いのない姿にさせられ、せめて胸だけでも両腕のクロスで隠し、リンパ節への触診に耐え忍ぶ。
    (外の人達……見てるのかな……)
     このベッドに寝ていると、カーテンのシルエットで待合室まで様子がわかると、さっきまで順番待ちをしていた明瀬エナにはわかっている。こうして仰向けになっているのも、中年医師が触診をしてきていることも、外に伝わっているはずだ。
    (お願い……誰も見ないで……スマホ弄ったり本読んだりしてて……)
     切実な願いを抱き、カーテンからの視線をどうしても意識する。
     先ほども、ベンチソファのぎしりと軋んた音がして、待合室の方で人が増えたことがエナにはわかった。一体何人が見ているのか。もしかしたら、本当にスマホを弄って何も気づかない人がいて欲しいが、きっとそうはいかないのだ。
    (うぅぅぅぅ…………)
     中年医師の触診にも震える。
     両手で太ももを包む手が、マッサージとしては心地よく指圧を加えて来るが、ショーツの生地に触れるかもしれないギリギリの位置に指があっては、エナは緊張で全身をまんべんなく強張らせてしまう。
    (パンツ見せるのも、初めてはヒロマが良かった……)
     悲しげに顔を背け、赤く染まった耳が真っ直ぐに天井へ向けられる。どこでもない、何を見るわけでもない方向へぼんやりと視線を向け、肌をする音さえ響く静寂の中で、じっと診察の終わりを待つ。
    
     すり、すりっ、すり、すり、すりっ、すり……。
    
     それは皮膚と布とが擦れる音だった。
    (やっ、ちょっと……!)
     ショーツの内側で閉じ合わさった肉貝の、本当に端っこだけに、中年医師の上下に動く手が擦れている。悶えるように全身が反応して、より強く我が身を抱き締め、頬も唇も強張らせるエナは、下腹部の熱い感覚に焦っていた。
    (何っ……? この感じ……まずい……)
    「どうしました?」
     本気で首を傾げる中年医師。
    「い、いえ? 大丈夫です」
     明らかに声が上ずってしまった。
     人並みにエッチなことへの好奇心はあり、彼氏が出来てからは、いずれはヒロマとセックスをするのだと想像して、週に何度かは自慰行為をしているのだ。自らの指で鍛えた感度は、この程度の摩擦でもじわりと来て、エナの下腹部はきゅっと熱く引き締まる。
    (まずい、まずい、まずい、まずい――)
     エナは内股気味に太ももを引き締め、肩でモゾモゾと身悶えする。
     そして、中年医師の顔を見やれば、そんなエナの反応にどこか不思議そうな顔でいた。自分はただ診察をしているだけなのに、どうして感じた素振りを見せているのか。まるで理解していない、どこかきょとんとした目でさえある。
    (や、やば……このままじゃ……)
     下半身に何かが集まる。
     それは尿意に似ているが、そうではない。
     もっと別の……。
    
     じわぁぁぁぁ……。
    
     白いショーツのアソコ部分に、みるみるうちに染みが広がり、それが中年医師のどこか驚いた視線を引き寄せる。それは高校生にもなってお漏らしをする人間を目撃して、信じられないものを目撃したような、驚愕の色さえ浮かぶ表情だった。
    (そ、そんな……! うそっ、なんで、わたしっ、ぬ、濡れ……!)
     温かいお湯を滲ませたような熱感で、エナのショーツはぬかるんでいる。
     もう泣きたかった。
     いくら違うものを漏らしても、オシッコを見られた気持ちと変わらない。ヒロマとエッチしてこうなるなら、一体どれほどよかったか。診察室の真面目な医療の現場において、こんなところで濡れてしまったエナの方がおかしいのだ。
    「大丈夫ですか?」
    「ごめんなさい……」
    「替えの下着を持って来ましょうか?」
     中年医師が言った途端である。
    
     ――え?
     ――替えって……。
    
     外からの小さな声が、エナの耳まで届いてきた。
     この人の声が大きいから、だいたい防音性も悪いから、替えの下着などという言葉が漏れて、エナが何故だか濡れたことが、見知らぬ男やヒロマにまで伝わっている。
     エナは必死に首を振った。
     そんなことをしても、濡れたアソコを否定できるわけではない。起きてしまった出来事は変わらない。しかし、横に振らずにはいられない。
    「汚れるといけないので」
     中年医師はジーパンに手をかけて、膝に絡んだそれを完全に脱がしきる。
     ショーツ一枚のみの姿にされ、エナは滑稽なほど表情を歪めていた。
    
         *
    
     こんなことで濡れるとはさすがに予想外だな。
     まったく、他にも患者は残っているんだ。
     こいつだけに時間をかけたくない。
     しかし、気になる点もあるからな。
     はぁ……やれやれ……。
     もう少し調べるしかないか。
     誤診などあってはならんからな。
    
         *
    
    「……え?」
    「替えって……」
     ヒロマの隣に座る男の二人が、中年医師の言葉を聞くなり、ついつい思わずといった風に反応して、どこか無意識のうちに呟いていた。
     心中穏やかではいられない。
    (し、下着が濡れたのか? パンツだよな?)
     どういうことだ?
     何故、パンツが濡れる?
     この歳でさすがにお漏らしはしないだろう。もし完璧に漏らしたら、尿の香りはここまで漂う。指がアソコに当たるか、どうにかして、ちょっとした刺激で、微妙に出してしまったということなのか。
    (いや、なに考えてんだ! 俺は馬鹿か!)
     ヒロマはエナを心配する。
     とにかく、少しばかり下着が濡れ、エナはどんな心境でいることか。何よりも、ヒロマと同じベンチソファに座る男達は、誰もが満面のニヤけぶりを発揮していた。
    (こいつら……!)
     ジーパンを脱がせる衣擦れの音で、エナが下着一枚のみにされたとわかり、憤りでヒロマは拳を握り締める。
    「直腸からの診察を行いますので、四つん這いになって頂けますか?」
    (尻の穴ってことじゃないか!)
     シルエットが身体を持ち上げると、犬のようなポーズに変わる。両手をついて、中年医師にお尻を向けてしまった体勢で、垂れ下がった乳房の先から乳首の形もくっきりしている。
     肩のあいだに頭を落とし、うなだれきったエナの心境が、ヒロマに痛いほど伝わった。
    (恥ずかしいよな……こんなの……)
     エナを純粋に思う心。
     だが、もっと黒く煮えたぎる思いも湧く。
     もちろん、ニヤけていやがるこいつらに対しての感情ではあるのだが、いくら診察とはいえ中年医師に対しても、嫉妬の炎は大きくなる。
    (だいたい、俺だって見たことないのに!)
     当然の感情だった。
     乳房を暴かれ、ショーツを暴かれ、ヒロマが知らないものを次々見ている。
     そして、今度は四つん這いの尻に手を伸ばし、ショーツまで下げようとする中年医師のシルエットがそこにはある。手の動きで、太ももに絡む位置まで下がったことが伺えて、次には尻たぶを掴みさえする。
    「直腸検温です。しばらくそのままでいて下さい」
     尻に向かって蠢くシルエットが、さっと後ろへ離れると、体温計を尻尾のように生やした影があらわとなった。
    (え、エナ……)
     屈辱すぎる。
     あたかも自分自身が同じ目に遭っているように、他人に尻の穴まで見られ、物を挿入されることの恥辱がヒロマの胸に急速に膨らんでいた。
    
         *
    
     お尻を向けるだけでも恥ずかしかった。
     それがショーツを下げられて、尻たぶを掴まれまでして、肛門をはっきりと見られた上で体温計を挿入された。
     尻尾を生やしたままの明瀬エナは、拳をぎゅっと握り締め、目に涙を浮かべている。これ以上ないほどの赤面はトマトと形容するに相応しい。熱で沸騰しそうな頭は、パニックによって思考回路が乱れている。
    (あぁぁ……! こんなっ、こんな……!)
     直接ではないだけで、ヒロマや他の知らない男達にも、自分のこんな姿を見られているも同然だ。
     体温の測れた音が鳴り、体温計が引き抜かれる。
    「頭は下にしちゃって下さい」
     尻だけが高いポーズとなり、まるで下半身を差し出しているかのようだった。
     肛門が丸見えの、そのすぐ真下には性器のワレメも丸出しとなっての、こんなにも大胆に差し出すポーズが、シルエットだろうと何人にも見られている。
     ヒロマ以外にさえ……。
    (ごめんっ、ごめんヒロマ……!)
     ぺたりと、左の尻たぶに、中年医師の左手が置かれ、エナはぶるりと震えて顔を歪める。
    「肛門括約筋の反応を診ますので、動かないで下さいね」
     クリトリスを摘ままれた。
    (あ……ッ!)
     放射状の皺の窄まりは、ヒクっと力んで収縮する。
     中年医師のやることは、つまりこうやってお尻の穴を反応させ、ヒクヒクと蠢く様子を眺めることだとわかるなり、まるで頭の中身がみるみるうちに蒸発していくように、羞恥によって煮立った脳から蒸気が立つ。
    (無理無理無理無理! な、ちょっと! こんなの無理だよ!)
     指の強弱によって、クリトリスへの刺激が甘い痺れとなって迸り、さながら肛門で呼吸でもしようとしている光景がそこに生まれていた。
    
     ひくっ、ひくんっ、ヒク、ひくっ、ヒク、ひゅくっ、ヒキュゥゥ――。
    
     縮んでは緩み、縮んでは緩む。
     それがクリトリスへの刺激によってコントロールされている。
    (み、見ないでっ、見ないで――無理っ、これ無理、無理無理――!)
     羞恥心によって思考回路がショートして、脳神経のどこかが焼ききれそうに、お尻の穴を見られる恥ずかしさが激しく頭脳を循環していく。それはパイプの太さに見合わないほどの容量とも言え、あまりにも速い流れに摩擦で擦り切れそうでさえある。
    
     ひきゅぅぅぅう……っ、ひきゅっ、ひくっ、ひくっ、ひく――。
    
     恥ずかしさが死因になりそうなほどの有様は、歪みに歪んだ表情として現れて、エナの顔つきはぐにゃぐにゃの一言で表現できる。口周りの筋肉で、唇が面白いほど波を打ち、頬も面白おかしく動いている。眉間に皺が寄っては離れ、まぶたが激しく力んでいる。
     肛門括約筋の動きをチェックするのは、実に一分に満たない時間に過ぎなかった。
     しかし、永遠と思われた地獄から、やっとのことで解放された気にまでなり、その安心もつかの間に、中年医師は透明なビニール手袋を嵌めていた。
     医療向けの、触診時に衛星のことを考えて装着するものだ。
    (ひぐっ、なっ、なっ! まだあるの!?)
     ひんやりとしたゼリーを乗せた指が、肛門の周りをぐにぐにと、皺を一本ずつなぞるように丁寧に塗りたくる。
    
     ずにゅぅぅぅぅぅぅぅぅ……。
    
     肛門に指が入り込む感触に、エナの頭で火花さえ弾けていた。
     根本まで埋まった指に、内部を探られ、エナはもう、ただ全身から恥じらいの信号を放出するだけの存在でしかなくなっている。
    (やばいっ、やばっ、やだ駄目無理無理っ、無理――!)
     ベッドシーツを力強く鷲掴みに、足の指まで力んでいた。
    
         *
    
    【中年医師】
    
     やはり、腹に触診した時のあの感じ……。
     まあ薬で十分か。入院はいらん。
     が、となると、この女子高生にまだ時間を使う必要が。
     はぁっ、仕方あるまい。
    
    
    
    【サラリーマン男性】
    
     うわっ、マジでエロいな。
     四つん這いでアナル弄られまくってんのか。
     っていうか、ここ肛門科じゃないよな?
     いや、エロいからいいや。
    
    
    
    【中年オヤジ】
    
     さて、と。スマホでも弄るか。
     実はこれ、動画撮る時も音が鳴らないアプリがあるんだよな。
     どこで手に入れたっけ?
     まあいい、どうせカーテンに移った影だけなんだ。
     どうせ誰だかもわからないんだし。
     撮っとけ撮っとけ。
    
    
    
    【新藤ヒロマ】
    
     なんだよ、なんなんだよ。
     みんなエロい目で見てやがんのか。
     た、ただのシルエットだろ!
     くそっ、このオヤジ動画まで!
     注意してや――いや、待てよ……?
    
         *
    
     隣のオヤジがスマートフォンを動画モードにしているのが、横目にちらりと見えた時、それを注意してしまえば、その声がエナにも聞こえるはずだと気づき、声を出そうとしかけて躊躇った。
     だったら、黙って見ているしかないのか。
    「座薬を挿入しますね」
     一度は抜かれた指が、再び肛門へ押し込まれていく。
     腕と尻の影が一つとなり、カーテンの上では一体だった。
    「このまま一分ほど、溶けるのを待ちますよ」
     医師の目から見たエナの姿が、どうしても脳裏に浮かぶ。
     あれだけ丸い尻のフォルムを正面から拝んでいるのだ。さぞかし征服欲を刺激する物凄いアングルに違いない。エナのそんな姿を拝む権利があるのは、仮にも彼氏という立場の、世界でも新藤ヒロマただ一人だ。
     ここにいる連中は、本来何の権利もない。
     それが、こんな風に晒されて……。
    「はい。いいですよー」
     中年医師が指を抜き、手袋を外す動作のあと、次に両手を太もものあたりに伸ばしていた。何かを持ち上げているシルエットの動きを見るに、最初に下げたショーツを穿かせ直したことは明白だ。
     しばらく、いや、数秒間、きっとエナはフリーズしていた。
     色々とわけがわからなくなってしまって、もう終わったこともわからなかったのだ。
    「いいですよ?」
     改めて告げる医師は――ぺちっ、と。
     エナのお尻を叩いていた。
     あまりにも悪意のない、やった本人は自分がセクハラをしたことに気づいてもいないであろう、ただただ診察は終了しました旨を告げたいという、それ以上でもそれ以下でもない、ペチンという一撃が、さらにもう一度だけ加えられ、エナはそうして跳ね起きた。
     高速で着替える気配が、衣擦れの音によって伝わる。
     心を読める超能力者などでなくとも、一刻も早く自分の衣服を取り戻し、裸の状況から抜け出そうとする気持ちのたっぷりとこもった衣擦れは、エナが一体どれだけの感情に溺れて赤らんでいたかを如実なほど伝えて来た。
     何の露出もしていない、ただ座っていただけのヒロマが、それでも少し赤面するほど。
     カーテンの向こうから出て来るエナは、お湯の中から取り出した直後の、存分に蒸気を纏った茹でトマトのようになっていた。
     そんなエナへと視線が集まる。赤面しきった面白い顔を見るために。
    
     カァァァァァ――!
    
     もう赤くなる場所は残ってもいないのに、それでも赤くなろうとしているエナの顔は、いずれは破裂してしまうのではないかと思え、いてもたってもいられずヒロマは立つ。正面から抱きとめて、この背中でエナの姿を男達の視線から隠してやった。
     エナはそれに縋りつき、ヒロマもその背中を抱いて、病院から連れ出していく。
    「辛かったな」
     一声、かけた。
    「……ごめんね。ありがとう」
     そんなエナの声に胸が締め付けられた。
     あんな思いをして、それてもエナは、ヒロマに対する罪悪感を覚えているのだ。診察だから仕方がないというのに、それなのに……。
     エナ、エナが大切だ。
     これからも、ずっと大事にしていこう。