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  • 第14話「窓越し戦争」

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     意地悪、しすぎたかな?
     一時は日和の方が機嫌を損ねていたのだが、仕返しのあまりに今度は晴美の方がヘソを曲げる結果となった。
     さすがに申し訳なくなった。
    「あのさ、ごめんね?」
     教室に着いてから、日和は晴美の席まで言って一言謝る。
     しかし。
    「ふんっ」
     プイっと顔を逸らされて、悪いと思っていた気持ちが一瞬にして反転する。素直に謝っているのに機嫌を直してもらえない。日和は意地になって顔を背けた方向へ回り込み、顔を覗き込むようにして強引に謝る。
    「ねえ、ごめんね?」
    「ふん」
     それでも、逆方向へ逸らされる。
    「ごめんねってば」
    「ふーんだ」
    「ねえねえ」
    「知らなーい」
     何度謝ろうとしても、晴美はどうしてもそっぽを向く。こうなっては日和も唇を尖らせて、ぷんすかと怒り始めた。
     そんな態度を取るのだったら、もう知らない。
    「こっちこそ知らないよ。ばーか」
    「ふん。ばーか」
     仕方がないので日和は自分の席へ戻っていき、機嫌の悪そうな顔をしながら本を読む。教室の中で、とっくにクラスメイトが集まっている時間帯にこのやり取りだったので、さすがに多少は目を引いてしまったのが気まずかった。
     付き合い始めてからは、お互いそういう事をおおっぴらに話すタイプではないので、周りには自分達の関係は喋っていない。隠そうというわけではないが、気恥ずかしい恋愛話をする相手がいないので、話題にする機会がなかった。
     それでも二人で図書室へ行ったり、何かと喋ることが増えたので、最近の二人は仲良しだなと感じているクラスメイトは十分いる。中にはもしや付き合っているのでは、と勘ぐる者もいるが、好奇心からぐいぐい迫って関係を聞き出そうとするタイプの人間は、幸いこのクラスにはいなかった。
     なので、付き合ったからといって、その件についてクラスメイトに絡まれたことは、現時点では一度もない。とはいえ、今の一連の痴話喧嘩によって、二人の関係を怪しんでいたクラスメイト達の中では、疑惑が確信に変わっている。ああ、こいつら付き合ってるな。と、少しでも敏感な人間はみんな感じ取っていた。
     ただ、それだけ。
     気づかれたからといって、特に何も起こらない。
     二人に対して、特別に踏み込もうとする者は特にいないのだ。せいぜいひっそりと陰で噂になるか、付き合っているらしいよと、本人達の知らないところで密かに話題の種にされる程度で終わるだけで、何らの害は発生しない。二人が付き合っている事実など、クラスにとっては数ある話題の種の一つで終わるだけのものだ。
     親しいグループ同士でなければ余計な干渉はしてこない。クラスのそういう体質は日和には有り難い。良く言えば平和で静か。悪く言えば冷たいクラス。晴美との関係が出来上がるまでは寂しい日々を送っていたが、それはそれで楽な部分もあり、孤独感と付き添いながらも一人で過ごす時間は嫌いじゃなかった。
     だが、晴美との時間はもっといい。
     二人で過ごす時間。一緒にどこかへ出かけたり、窓越しに話をしたり、登下校をするのはそれだけで幸せな気持ちがする。とても嬉しいことなのだ。だからこそ相手を思い通りにしてみたくなって、好きなように幸せを貪ろうと人前でのキスをせがんだのかもしれない。それをしてもらえていれば、それが晴美の自分に対する気持ちの強さを証明する事になっていた。
     思い通りにならなかったので、腹いせをした。
     すると、晴美が拗ねて怒り出した。謝っても無視されて、中々許して貰えない。
     考えれば考えるほど、元はといえば自分が悪い。
     だけど、謝ったのに許してくれない。
    
     うん! 晴美だって悪いもん!
    
     そう結論に至った。
     そして学校終了から帰宅、夕食と入浴を済ませた夜。
     窓を開いてみれば、晴美側の窓はカーテンと共に閉ざされていた。それ自体なら、別に二十四時間いつでもカーテンを開けているわけではないので、問題じゃない。ただ、身を乗り出してノックをしても返事がないのは問題だ。
     コンコン。
    「もしもーし。留守ですか?」
     帰ってくるのは静寂だ。
     単に部屋にいない可能性もあるのだが、晴美のいつもの生活リズムであれば、基本的には顔を出し合う頃合いだ。
     なのに、返事がない。
    「出直そう」
     日和は諦めて窓を閉じ、後でまたと思ってカーテンも一緒に締める。
     すると、だ。
     コンコン。
     と、窓を拳で打ち揺らす音が聞こえてきた。
    「晴美? なんだ。いるんじゃん」
     ちょっぴりむくれて、日和は窓を開け直す。
     しかし。
     確かにノックが聞こえたはずが、にも関わらず晴美の窓は閉まっている。たださっきと違うのは、カーテンの端っこが窓の隙間からはみ出ていることだ。つまり晴美は日和の窓をノックした後、急いで隠れたというわけだ。
    「ピンポンダッシュならぬ、ノックダッシュ?」
     なんてやつだ。腹立たしい。
     よし、仕返しだ。
     日和は手の平でバンバン叩き、素早く自分の部屋へ引っ込み締め直す。するとカーテンを閉ざした向こうから叩き返され、ムキになった日和はさらにその仕返しをしようと窓を開く。
     バンバン。
     窓を叩いて揺らす。一応、割れないようにと加減は念頭に置いているが、なるべく音の出る叩き方を意識した。
     今度は逃げない。
     晴美が仕返しのために顔を出すのを待ち伏せし、窓が開く瞬間を狙い……。
    
     ――ガラッ
    
    「パンチ!」
     額の下、目と目のあいだの日和の鉄拳が直撃する。
    「いったぁー! なにすんのさ!」
     そして、晴美は大きくむくれた。
    「だってムカついたんだもん」
    「それは、日和が無茶言うからだろ? 人前でキスとかさ」
    「いいじゃんケチ!」
    「ケチとかじゃないしー。見せびらかしたくないだけだしー」
    「そんな事いって、本当は度胸がないんでしょ? わかるんだからね」
    「なんだって? じゃあ日和には度胸があるの? どれくらい?」
    「それは……わ、私から晴美にキスできるくらいはあるよっ」
    「本当に?」
    「本当だもん!」
    「証明できる?」
    「ううー……」
    「できないよね。そんなに目立つの好きじゃないよね。お互いそのはずだったけど、どうしてあんなこと言ったの?」
    「それは……」
     言えない。
     好かれている実感欲しさだったなど。ましてや、ちょっと意地悪をしてやろうと迫ったことなど打ち明けられない。
    「あんなに言ってくるんだもん。ほんと焦ったよ」
    「だから謝ったのに」
    「わかってるよっ。じゃあ、おやすみっ」
     晴美は一方的に窓を閉め、自分の部屋へ戻ってしまう。
    「馬鹿バカばか。ふーんだ」
     日和も腹を立てて窓を閉め、布団に潜り込んでさっさと寝た。
    
    
    


     
     
     


  • 第13話「喧嘩なような」

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      その日は着替えを覗かせないようにして、閉ざしたカーテンの内側でパジャマを脱いで制服を着る。
    「ふふんっ」
     あえて覗きをさせなかってことで、日和は一人でご機嫌になった。
     日和は決して、晴美を嫌ったわけではない。むしろ、好きだからこそ望みを聞いてもらえないことにムッとして、だったら意地悪でもしてやろうとカーテンを閉ざしておいた。こうしてやれば、きっと晴美は驚くだろうという悪戯心からでもあった。
     嫌われたと思わせて、残念な思いをさせられた仕返しをする。
     日和がしているのは、要するにそういうものだ。
     子供じみているとは日和自身思っているが、それでもやらずにはいられなかった。
    「……お、おはよう」
     玄関を出た先、出迎えに待っていた晴美が不安そうに挨拶する。やりにくそうな、気まずいようなといった顔つきだった。
    「ふーんだ」
     日和はわざとそっぽを向き、すたすたと早足で進んでいく。
    「ねえ、なんか機嫌悪い?」
     晴美も早足になり、小走りで日和の隣へ追いついて、不安そうに恐る恐る尋ねてくる。
    「別に?」
    「でも、なんか怒って見えるし……」
    「別に? なんでもないよ?」
    「本当に?」
    「本当だけど?」
     日和はそっけなく返し続ける。言葉の上では否定していても、その語尾の上向いた不機嫌な気持ちの篭った喋り方では、逆に機嫌の悪さを肯定している。日和の目論見通り、この一連のやり取りを通して、晴美の表情はみるみるうちに不安の影へと染まっていた。
    「ねえ、まだ怒ってるの? 昨日のこと」
    「べつにー?」
    「絶対怒ってるよ!」
    「ぜんぜーん?」
     煽れば煽るほど、晴美は面白いように不安がる。よっぽど、晴美が自分を好きでいてくれている証拠のように思えて、こんなことが少しばかり楽しく思えた。
     意地が悪いだろうか。
     ほんのりと自覚しつつも、ここまできたらやめられない。
    「ねえ、どうすれば機嫌直るの?」
     無視して、歩みを速めて晴美を引き離す。
    「ねえってば!」
     慌てて追ってくるところにキュンときた。まるで子犬が飼い主に置いていかれまいと、必死に足元まで着いてくるような愛らしさを感じて胸が引き締まった。
     やめられない、止まらない。
     本当にどうしよう。
     ――このままいっちゃえ!
    「教えて欲しい?」
     日和はにやりと笑みを浮かべる。
    「うん!」
     晴美は即座に、かなり反射的に、大きく首を縦にして頷いた。まるで主人に尻尾を振る、可愛い子犬だ。
    「じゃあ、ここでキスして?」
     ――ふふっ、できまい。
     日和か腹黒くほくそ笑んだ。
     人目のある場所でのキスを要求したら、昨日は散々に抵抗をしめして結局は最後までしてくれなかった。クラスメイトがいつ通るかもわからない通学路では、抵抗感はさらに一段と強まるはず。
     できないであろうことを要求して、晴美を大いに困らせる。
    「うぅ……」
     躊躇い、途方も無く困り果てる晴美の顔が面白かった。
    「できないの?」
     意地悪く追求してやる。
    「だ、だって……」
    「ねえ、してよ。キス」
     晴美が視線を逸らすのを見て、日和はすかさず詰め寄った。晴美はますます困り果て、困らされることによって追い詰められる。
    「……こんな場所だよ?」
     晴美は許しを請うような上目遣いまで向けてきた。
     だが、許さない。
    「してくれないと、私の機嫌は直りませーん」
    「そんなこと言われても……」
    「ほらほら、ここだよ?」
     日和は自分自身のぷっくりとした唇を指し示し、強気なまでに晴美を挑発した。晴美の視点からすれば、日和の唇はそれだけで魅惑的な色香を発しているはずだった。
    「でもぉ……」
    「いいの? 私とこのままで」
    「よくないけど……」
     やはり、道の真ん中だ。
     同じ生徒やクラスメイトこそ見かけないが、一般の通行人が立ち止まっている二人の横を通過する。その際に、痴話喧嘩の様子をちらりと気にして、横目で一瞬だけ二人の顔を見ていたことは、日和にも晴美にもよくわかった。
     同じような通行人が、二人を横切るたびに現れる。
     そんな環境下でキスをするなど、やはり晴美には耐え切れないらしい。
    
    「もう! 日和の馬鹿!」
    
    「……あっ」
     追いつめ過ぎてか。
     逆に晴美の方が言葉を吐き捨て、日和を置いて走り去ってしまうのだった。
    
    
    
    


     
     
     


  • 第12話「キスしてよ」

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     その日も日和をデートに誘って、晴美はなんとなく町をブラブラしてまわっていた。映画はもう見たばかりなので、今回はお金をかけずに本当に散歩だけだが、それでも日和は嬉しそうに笑っている。
    「ふふーん。ふふーん」
     よっぽどデートが嬉しいらしい。
     ご機嫌に鼻歌まで歌っていた。
     しかも街中だというのに、日和は晴美の腕を掴んで縋りついているのだ。
     人目のある中であからさまにイチャイチャするなど、今にもすれ違いにチラチラ視線を寄越される気がして気恥ずかしい。
    「ねえ、こんな場所だよ?」
     なので晴美は、そんな遠慮したい気持ちを遠回しに伝えた。
     接触したいのは山々だが、日和は今にもぷるんと揺れそうなほどの胸をしているのだ。腕へくっつかれると乳房が肘に当たって、街中で股間が反応しそうで困ってしまう。せめて手を繋ぐだけで勘弁してもらいたいのが本心だった。
    「いいじゃん別に」
     軽く横へ流された。
    「いやそんな……。だって、今日は地元なんだよ? 遠くじゃないんだよ? つまり、知り合いに見つかる可能性もあるわけだし」
     晴美は言い訳のように述べるのだが、日和はそんな事情などお構いなしだ。
    「気にしない気にしない」
    「僕が気にするから……」
    「いいじゃん。それより、キスしない?」
    「なんでそうなるの……」
     街中、人ごみの中でキスをするカップルがいるだろうか。
    「いいじゃんってば」
     日和はむくれる。
    「……良くないよ?」
    「ねー。お願い」
    「駄目」
    「お願い」
    「駄目だから」
    「お願いってば」
     日和は執拗に食い下がってくる。
    「駄目駄目」
     晴美はあくまで断った。
     キスそのものはまんざらでもない。むしろ、砂糖の溶けるような甘いキスなら何度でもしたいほどだが、静かに落ち着いて過ごしながらのキスだから美味しいのだ。人目につく場所でするなど真っ平である。そんな目立つところでするよりも、きちんと二人きりで濃厚な口付けを交わしたかった。
     それが普通の気持ちだと思うのだが、果たして日和は違うのだろうか。
    「だったら、どこならいいの?」
    「家とか」
    「それじゃあ、つまんない」
    「そう言われても、だったら日和はどこでしたいの」
    「人前」
     日和は不機嫌気味にそう答えた。
    「……なんでなの」
    「私のこと好きなんでしょ」
    「それはそうだけど」
    「好きならできるでしょ?」
    「だから、何故そうなるのさ」
     こうした人目につく場所での口付けなど、当然目立つ。
     お互い大人しい者同士、他人の目に晒されるなど落ち着かなくてそわそわするものだと思うのだが、どうして日和がそんなことを言うのだろう。晴美は二人きりで落ち着いていられる時こそベタベタしたいが、日和は果たして違うのだろうか。
     どうして、落ち着かない状況でイチャイチャしなくてはいけないのか。
     二人の世界に浸れる時が一番ではないのだろうか。
    「好きだったら、どこでもキスできるはずだと思います」
     日和は強く主張してきた。
    「好きだからこそ、二人きりがいいと思います」
     晴美も負けじと言い返す。
    「なんで?」
    「なんでって、普通そうでしょ?」
    「そう?」
    「そうだよ!」
    「そうかなぁ?」
     日和はあからさまに首を傾げた。
     こちらもきっぱり言うしかない。
    「そうだって。人前なんて恥ずかしいし、抵抗あるし、見せびらかすみたいでなんか嫌だ。二人の時じゃないとキスなんて出来ないよ」
    「いくじなし」
    「あ、そういうこと言う? でも、そんなこと言っても駄目だからね。キスは二人きりの時にしかしないからね」
    「ふん。じゃあいいよー」
     すると、日和はそっぽを向いてすたすたと早足で進んでしまう。
    「あ、待ってよ!」
     晴美は慌てて追いかけるが、日和が足を緩めることは一度もなかった。
     四六時中、微妙に不機嫌で根に持つような顔をしたまま日和はい続け、この日は最後の最後までなんとなく居心地の悪い気分で過ごしていた。
     そして……。
    
     翌朝、いつもなら開いているはずのカーテンが閉ざされていた。
    
    
    
    


     
     
     


  • 第11話「それからの朝」

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     日曜日の朝だった。
     眠気からゆっくりと目覚めつつあった仁藤晴美は、自分の身体を圧迫する温かな重量感にぎょっとして覚醒した。仰向けの晴美に重なる心地良い柔らかさは明らかに女の子の感触で、目覚めた矢先に人が自分の上に乗っているなど、普通に生活する分には到底起こりえない事態に心臓が飛び出そうになっていた。
    「うわっ!」
     思わず悲鳴を上げてしまった。
     自分の状況に対し、ただちに連想されたのは幽霊である。昔見たテレビの心霊特集で、旅館に泊まったある男が、腹のあたりがずっしり思いと思ったら、恐ろしい顔をした女が自分の上に座っていたという話を思い出した。
    「えへへ、びっくりした?」
     戦慄していた晴美は、その正体にすぐさまホッとしたため息をつく。
     相手は佐藤日和だったのだ。
    「ほんとビックリしたよ……。窓の鍵、開いてたっけ」
    「開いてたよ。だから来ちゃった」
     まさか忍び込まれるとは予想外だが、驚く晴美の顔に日和はくすくす喜んでいる。よほど人を脅かしたかったようである。窓から窓へなど少々危ない気もするが、さほど距離が遠いわけでもないので良しとした。
     そして、パジャマ姿の日和が同じベッドにいるとわかるや否や、今度は股間が反応した。日和は掛け布団の内側に潜り込み、仰向けの晴美の上にべったり重なっているのだ。シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐり、色香と興奮に息が乱れる。
    「……悪戯しちゃうよ?」
     晴美は背中へ手を回し、指先でうなじをくすぐる。
    「んにゃぁ……」
     日和はくすぐったそうに肩を縮めた。
    「可愛い」
     頭をくしゃくしゃ撫で回すと、日和は身を任せるようにうなだれる。晴美の顔横へ頭を落として、衣服を掴んでしがみつき、離れまいとがっしり晴美を包んでいる。そんな日和の耳やうなじや背筋を撫で、指をそっと這わせるたびに、日和はくすぐったそうに身悶えしていた。猫がじゃれてくるかのようで、愛らしくてたまらなかった。
    「ねえ、朝でしょ?」
    「朝だね」
    「なにかやることがあるよね。晴美」
     日和は期待に満ちた顔を向けてくる。
    「やること?」
    「わからない?」
     日和はやけにニヤニヤしている。
    「朝やることって、歯を磨くとか着替えるとか? うーん。そんなんだよね?」
    「そういうのじゃないよ?」
    「じゃあ、どういうの」
    「どういうのでしょう」
    「うーむ……」
     答えを求めても教えてくれる様子は一切なく、あくまでも晴美が言い当てなくてはいけないようである。難問を前に晴美は唸り、頭を捻って答えを搾り出そうと思考を巡らす。こうして当てさせようということは、日和は晴美に何かをさせたいのだ。
    「当てないと離れてあげなーい」
     日和は肩を握ってしがみつき、胸板に頬ずりしてくる。
     可愛らしい。
     このままくっついてくれていても結構だが、本当に磁石のように引っ付かれたままでは、いずれ親も起きてしまう。
     部屋には鍵がかかっているので、勝手に出入りされる心配はないが。
     朝食も取れないのでは困ることに気づいて、晴美はどうしようもなさに苦笑した。
    「もう、どうすればいいのさ」
    「ヒントはおはようの何かだよ」
    「おはようのねぇ……」
     迷いに迷った挙句、ピンとくる答えが浮かんだ。
     ただ、それを実行する前に日和と上下入れ替わり、晴美が上から覆いかぶさる形となって日和の頬の両手を当てる。
    「こういうこと?」
     晴美はゆっくり、顔を近づけた。
    「うん。へへっ」
     日和は照れ気味に笑い、瞳を閉じた。
     晴美はその唇へ顔を下ろしていき、そっと、自分の唇を重ね合わせた。ぴったりと触れ合わせたまま目を瞑り、唇の触感を長く長く堪能し、唇を離したあともそのまま抱き合う。日和の唇は蕾のように柔らかく、ふんわりとして心地が良い。
    「二回目、しちゃったね」
     日和は照れたような喜ぶような顔で笑った。
    「もう一回してみない?」
    「うん。もう一回」
    「んちゅぅ……」
     再び唇を重ね合わせ、とろけ合う。
    「晴美ぃ、もっとぉ……」
    「ちゅぅ……」
    「もっともっと!」
    「舌入れちゃうよ」
     晴美は唇へ貪りつき、舌を捻じ込みながら日和の口を食していく。相手の舌に自分の舌を絡ませ粘膜を味わい、舌先で互いの口内を舐め合って、晴美は唾液を流し込む。
     日和は晴美の舌を伝って流れる唾液を受け取り、抵抗無く自分の舌へ滲ませ飲み込んだ。
     舌を絡め合う心地の良さは、まるで甘いチョコレートが口の中で濃厚にとろけ、舌全体に味が広がるような甘味がある。
     心がとろける気持ちがする。
     きっとこのまま、自分の心と日和の心がとろけ合い、癒着してしまうのではないだろうか。
     通じ合える喜びに晴美は浸った。
    「はい、お終い」
     日和はポンと肩を叩いて、そろそろどくようにと合図してくる。
    「うん。じゃあ、また後で」
     晴美は日和の上から体をどかし、すると日和は窓を開いて自分の部屋へ飛び移る。
    「後でね。じゃあ、着替えるから」
     などと言いながら、日和はカーテンを閉めることなくそのまま着替えを始めてパジャマを脱ぐ。今日のブラとパンツを見せてもらって、それから晴美も着替え始めた。
    
    
    


     
     
     


  • 第10話「ファーストキス」

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     甘くとろける。
     こんな野外でノーパンになって、お尻に股間をあてがわれ、いやらしい状況に身を落としながらするオナニーが気持ちいい。官能的なとろけた痺れが全身に回り、日和はしだいに牝の表情になっていた。
    「だ、駄目ぇ……」
     温もりにアソコが疼き、秘所はもうぐっしょりだ。
    「そういいながら、自分でオナニーしてるよね?」
    「だってぇ…………」
     耳元で指摘され、日和の手はますます活発になった。膝が緩んで姿勢が崩れ気味になっていき、日和の腰はくの字に折れる。晴美の股元へ向かって余計に尻を押し出す形になり、既にこれ以上ないほど股間は密着していたが、さらに日和の側からも密着のために力が入り、お尻と股間はますます親密に押し合った。
     日和自身も、いつしか腰を動かし始めた。
     秘所の方では手淫を活発に行いつつ、晴美の股間を味わおうと腰が左右に動いてしまう。押し付けてくる晴美の力に応えるように、日和からも押し返し、密着状態のお尻を振った。割れ目に挟んだ股間を左右に動かしてやらんばかりにずり動き、晴美の肉棒を思い描いて日和はクリトリスを弄り回した。
    「日和のお尻って、大きくてふわふわってしてるんだよね。こうしていると柔らかい二つの山にギュゥってきつく包まれてるみたいで、すっごく心地がいいよ」
     晴美は堪能するように腰を動かし、上下にずるずると往復のスライドをする。お尻は大きな餅のように変形を繰り返し、晴美の股間へ圧迫感を与えていく。
    「晴美のが……晴美のが……」
     強い押し付けとその摩擦で、日和は肉棒の形状をこと細かに感じ取った。ズボンとトランクスを挟んで布越しではあるわけだが、それでも勃起の熱さが通じてくる。尻肉がブニブニと股間を包むだけに、それはどれほどの大きさで、どんな太さをしているのか。自分のお尻に対してサイズのほどが理解できた。
    「どうしよう……私……晴美の……知っちゃったよぉ……!」
     すごく、プライベートな秘密を勝手に握ったような気持ちになり、そんな情報を得てしまった日和は赤面した。もちろん正確なサイズとは到底いえないが、少なくとも割れ目にぴったりと合うだけの長さはあるし、自分の指でいうと何本分の太さなのかもイメージできた。とてつもない情報を握ってしまった気分になり、日和はオロオロするのだった。
    「随分、神経を集中したんじゃない? でなきゃ、わかんないでしょ」
    「そ、そんなこと……」
    「日和って、僕のこんなところに興味があったんだ」
    「違うもん……! そんな……」
    「あったんでしょ?」
    「………………はい」
     否定しかけた日和だが、すぐに認めた。
     どうしてなのか。日和の心は晴美に対してどこか跪いていて、日和はおかしなほどに従順に頷いてしまっていた。
     支配されかかっている。
     日和という存在が、心身ともに晴美のものになりかかっている。
     そのことを日和自身が強く自覚し、それが妙に怖く思えた。このまま、きっと日和はどんどん晴美を好きになり、のめりこんで、晴美の言うことなら何でも聞くようになっていく。いつしか従順な召使いと化し、何を言われても逆らえない自分が完成する。エッチな言うことは何でも聞かされ、性奴隷となってしまうのだ。
     そんな自分の未来が見えた気がして、少しばかり怖くなった。
     きっと、対等の関係というよりも、自分は晴美の所持品と化す。信頼しあうパートナーと言うには微妙な関係になってしまう。そういう気がした。
     ――どうしよう……晴美君……。
     日和自身ではどうにもならない。
     日和はもう、従順になりかかっている。
    「ねえ、日和」
     晴美は言った。
    「大好きだよ?」
     ――ドクン!
     いきなり言われて、心臓が跳ね上がった。
    「大好き、大好き。すっごく好きだよ。愛してる」
    「そ、そんなこと言われたら……私……」
     ますます好きになっていき、一生晴美から逃れられなくなってしまう。
    「本当に好きだから、僕の存在も日和のものだよ」
    「……私の?」
    「そうだよ。日和は僕のもので、僕は日和のものだよ」
    「そっか」
     優しく言われて、日和は儚く微笑んだ。
     晴美の存在だって、日和のもの。
     それなら、いいかもしれない。
    「晴美ぃ……そっち向かせてぇ……」
    「はい、いいよ」
     腹に巻きつく腕が緩んで、日和はそのあいだに正面へ向き直る。胸へ縋りつくようにして晴美を見上げ、上目遣いでオナニーを続行した。
    「可愛いよ。日和」
    「そんなこと……」
    「今の日和の顔、すっごくエッチだよ? 甘くとろけた感じになってる」
     晴美は日和の頭を優しく撫でる。
    「恥ずかしいってば」
    「日和のアソコがクチュクチュいってるのが聞こえるよ?」
    「うぅ……」
    「もっとよく聞かせて?」
     日和は秘所の愛液を掻き回し、泡立てるようなつもりで指を回す。粘液が糸を引くクチュリとした音が立ち、一層晴美の耳を楽しませた。
    「すごいクチュクチュいってるね」
    「それは……晴美のせいだもん」
     日和が口を尖らせた。
    「え、僕?」
    「だって、ドキドキしちゃうから……。今だって、いい台詞言って……」
    「そんなにいいこと言ったかな」
    「うん。言った」
     日和は晴美の胸に顔を埋め、頬ずりして顔を擦り付ける。猫が飼い主にじゃれるかのように頭を何度も押し付けて、晴美の腕に包まれながら温もりにどっぷり浸かった。じゃれつかれた晴美も、猫を可愛がるようにして頭を撫で、頬を撫でた。
    「可愛い。日和可愛い」
    「好きって言って?」
    「うん。大好き。愛してる」
    「それじゃあ……」
     日和は晴美に顔を向け、求めるような表情で上目遣いをじぃっと寄越した。そのままゆっくりと瞼を閉じ、顔を差し出すようにして首を上げ、つま先立ちで背伸びする。
     その意味を理解した晴美は顔を近づけていく。
     そして……。
    
     唇を重ね合わせた。
    
     日和のふんわりとした桜色の部分に自分の唇を重ね合わせ、そのまま長い長い時間を口付けの中で過ごしていた。
    
    


     
     
     


  • 第9話「お尻ずりずり」

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     日和は秘所を弄り続ける。
     身体の密着で腕が動かしにくかったが、包まれる温かさがそれ以上に心地良い。この中で快楽に浸かれることで、そんなことは気にならなかった。そんなことより、いつまでもこの温もりの中でうっとりしていたいくらいだった。
    「日和……」
     晴美も興奮している。味わうように日和の背中を撫で回し、腰に、うなじに、べったりと手を這わせた。温かい手に撫で上げられ、くすぐったいような感覚に背筋がゾクゾクして日和もしだいに興奮する。
     顔を首筋に埋め込まれ、すーっと、匂いを嗅がれた。
    「はうぅぅ……」
     日和はますますゾクゾクして、興奮で火照っていく。
     何よりも日和の気持ちを刺激するのは、抱き合うせいで当たってくる硬い突起物の気配であった。それはちょうどお腹の下、下腹部の付近へと押し付けられる。オナニーをする日和の腕には、当然、それがぶつかっていた。
     腕を上下にするたびに、きっと肉棒に摩擦がいっている。
    「日和……日和……」
     耳元で息を乱しているところから、晴美がそれに興奮していることなど容易に理解できた。
     気持ちいいのだ。
     オナニーのために動く日和の腕が、股下を擦る感触に晴美は快感を覚えている。
     ただ自分自身の快楽だけでなく、もう晴美に性感を与えてしまっているのだ。自分がそんなことをしている事実を思うと、日和は余計に赤面した。
    「向き、変えてくれる?」
    「……うん」
     日和は晴美に背中を向け、すると晴美は背中に密着するように抱きついた。背中全体に胸板をべったり押し付けながら、日和の腹へ腕を巻きつけ、首筋に顔を当てて匂いを嗅ぐ。これだけでも、日和はもうどうにかなりそうなくらいドキドキしたが、その上お尻に当たるべきものが当たってくるのだ。
     男の硬い硬い突起物が、日和の尻に押し当てられる。
     これがもう、効いていた。
     自分がこれから、どんな風にされるのか。どれくらい、晴美にカラダを食べられてしまうのか。不安なようでいて期待感もあり、日和は大人しく晴美のされるがままとなっていた。晴美の男としての欲望を受け入れるために。
     腹に巻きつく腕が、上へ上へとスライドした。そのまま乳房を持ち上げられ、ドキっとするような接触に身を竦める。
    「スカート。後ろの方を全部捲って?」
     耳元で囁かれた。
     お尻を全て出せというのだ。この、硬いものを押し当てられた状況で。
    「うん。こうかな……?」
     日和は恐る恐る後ろへ手をやり、丈を掴んでずりあげる。生の剥き出しになったお尻に向かって、肉棒が途端にぐいぐいと押し付けられる。
    「あっ……」
     享楽の声が上がった。
     晴美は押し込まんばかりに強く押し当て、腰をずり回して尻と肉棒の摩擦を作っている。さながら腰を振るようにしてみたり、押し当てたまま左右にぐにぐに動いたり、要するに股間を使って日和の尻を撫で回す。
     お尻が使われている。
     割れ目や尻肉に向かって如実に伝わる肉棒の形に、日和はいいようのない緊張を覚える。これが電車の痴漢だったなら確実に不快で気持ち悪いが、相手は晴美だ。想いの相手に自分を味わってもらえていると思うと、恥ずかしいようで、ちょっぴり嬉しい。だからなのか、こんなことをされて喜んでいる自分がいた。
     むしろ、晴美のものに興味すら沸いている。ふつふつと静かに煮えるような緊張があるものの、お尻に感じる肉棒の形に意識がいく。そこに神経を集中し、晴美の一物はどんな形状をしているのか、細かなフォルムまで想像しようとする自分がいた。
     自分はエッチな子だろうか。
     なんて、想像を巡らせる自分に対して思ってしまう。
    「向こう向いてみよっか」
    「え、あっちって……」
     晴美に体を動かされ、身体の向きが変えられる。
    「ほら、向こうには普通に人が歩いているよ」
     茂みの奥で見つかりにくいとはいえ、ただでさえあった緊張感がこれ以上ないほどに増幅して、日和の表情は石のように硬直した。仮に通行人がこちらをちらりと覗いたところで、確かに二人がなにをしているかなどわかるまい。カップルが密着して、愛し合っているようには映るだろうが、まさかノーパンのお尻にぐりぐりと押し当てられているなど、到底見ただけではわからない。
     だから、ばれないといえばそうなのだろう。
     しかし、日和にとってこれはばれるばれないの問題じゃない。それでなくとも野外なのに、こうして道行く一般人の姿を見せられれば、自分たちがいったいどんな場所で行為に及んでいるのかという事実を嫌というほど思い知らされる。
    「僕達って、すごいいけないことしてるよね。もし警察にばれたりしたら、これって捕まったり補導されるようなことだよね――たぶん」
     性に対する背徳感。罪の意識をほじくられる。
    「うん……そうだよね……」
     ぺろり。
    「――あっ」
     耳を舐められ、小さな鳴き声をあげた。
    「いけない子だね。日和って」
     腹に巻きつき、乳房をさりげなく持ち上げている腕の一本が、右手が日和の唇へと運ばれた。瑞々しい桜色の膨らみを撫で、口内へと指を差し込む。こうして伸びている腕は、やはりさりげなく乳房を潰していた。
    「私……いけない子……」
     だから、いけないお仕置きをされるのだ。
    「胸も、お尻も、大きくてたまらないよ」
     そんな言葉を囁かれ。挿入された指で口の中を犯される。日和はその二本を重ねた指を自ら舐め返し、火照った顔で目を細めながら咥え込んだ。
     そして、日和は再び秘所へ手を伸ばす。
    「うぅぅぅ…………」
     スカートの中をなぞり上げ、背中をゾクっとさせるような快感に肩を震わせた。
    「えっちな日和。このお尻はとってもすごいよ? ほら、割れ目に沿って腰を持ち上げるように動かすとね。一人のお肉がたぷんとくっついてくるんだよ」
     耳元で、晴美はお尻の感想を述べてくる。
    「ほら、わかる?」
     晴美は強く腰を押し当て、割れ目に沿って力強くスライドさせる。
    「こうすると、密着してるからお尻の肉が持ち上がるんだよ? でね、割れ目の中にぎゅうって包まれていくのがすっごく気持ちいい。日和のお尻、最高」
    「――うううっ、駄目ぇ……」
     自慰の手が激しくなり、日和は淫らに息を乱した。
    
    
    


     
     
     


  • 第8話「オナニープレイ」

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     晴美は胸に日和を抱き締め、人目も憚らずに背中を撫でる。胸板に向かって豊満な乳房が潰れてきて、ゴムボールのような弾力を意識せずにはいられない。この密着感と温もりを味わおうと、腕の中により強く締めつけた。
    「人前だね」
    「……うん」
     人通りの中で抱き合うなど、晴美自身周りの目を意識しないわけではない。ちらちらと背中に視線を向けられているようで気になるし、もしも知り合いにでも見られたらと想像すると気が気でないところはある。
     もっとも、元の町からは一駅分離れたここで知り合いが通るなど、さほど起きやすい事例とはいえないが、完全には安心できない気持ちだった。
     なのでそのままベンチの裏側へ、茂みへ移動してからその背中を撫で回す。
    「……ねえ、晴美君」
    「なに?」
     日和は恥ずかしそうに、ほっそり言う。
    「履いてないのに一人になるのは怖いから、私から離れるのは禁止だよ? 私の手の届かないところへ行くのは駄目」
     そう言って、まるで人形を手放そうとしない子供のように、日和は晴美の背中へ回したでて強く衣服を握り締めた。
     ドキっとした。
     健気に離れまいとするか弱い挙動に心臓が跳ね上がり、晴美はその体を大切に抱き締める。
     日和の言いたいことはよくわかった。
     欲望のままに乳房へ触れてしまい、てっきり不快な思いをさせてしまったものかと猛反省するところだったが、あれは嫌だったから上げた悲鳴などではない。ただ、おさわりを受け入れる心の準備が出来ておらず、日和自身でも準備不足が自覚できていなかっただけの話だ。
     そう示したいがために、埋め合わせをしたいがために日和はパンツを脱いでいる。
     自らをノーパンという状況に落とし、変わりとなるプレイをさせてくれようということだ。
     おかげで佐藤日和という人間が少しずつわかってきた。
     日和は根は普通の女の子で、人並みの恥じらいこそ持ってはいるが、マゾスティックで見られたがりな性癖を抱えているのだ。だから一度スイッチが入ったり、心の準備が整っていれば下着姿は見せられるし、手で大事な部分さえ隠していれば全裸にさえなってしまう。
     基本的には平凡な少女。
     ただ、少し変わった部分がある。
     それだけ――というには色々と体験しすぎているが、言うなればそういうことだ。
     晴美が相手だからこそ、日和はこうして健気に体をくれているのだ。
     ならば、自分も日和だけを見ていなくては――と、晴美は密かに気持ちを固めた。
    「僕には日和だけだから、日和に色々させてもいいかな」
    「いいよ。なんでも聞く」
    「スカート、たくし上げて? くっついていれば誰にも見えないでしょ?」
    「――う、うん」
     日和は明らかに耳を染め上げ、恥じらいからくる躊躇いを見せていた。いくら人から見えないとはいえ、密着度合いから晴美にすら中身は覗きようがないといっても、こんな一般人のいるような野外でスカートを持ち上げるなど恥ずかしくてたまらないはず。
     それを、やらせる。
     まるで小動物でも苛めるような快感を覚え、晴美は悪魔的な嫌らしい笑みをニヤニヤとこぼさずにはいられなかった。
     ――ああ、僕ってSなのかな。
     我ながら自覚していた。
    「じゃあ、やるね?」
     日和は随分とやりにくそうに、抵抗ありありながらも、晴美の望みを忠実に守って、身体の密着しあった狭間でミニスカートをずりあげた。
     これで、生のアソコが晴美の体に接触していることになる。
    「私……丸出し…………」
     声が震えている。
     羞恥心が高まると、人はこんなにも声色が変わるものなのか。声帯からぶるぶる震えた声が出るものなのかと、どうでもいいところに関心してしまうほど、日和の声は恥ずかしさの色に染まっている。
    「そうだね。こんな場所でアソコ丸出しだね」
     晴美はわざと、日和の耳元へ恥ずかしい言葉を囁いた。
     もちろん、間違っても無関係な一般人には聞こえないよう声量には気を遣うが、悪魔ぶった囁きで意地悪を言ってやるには、これだけ密着していれば小さな声で十分だ。
    「そんな……」
    「ねえ、毛は生えてるの?」
    「そんなこと、こんなところで……」
    「教えて欲しいな。今、こんな場所で」
     日和の表情は本当に、歪んだ。ここまで豊かに表情筋は動くのかと、またも関心してしまいほどに日和は羞恥で顔を歪めて、いかにも恥ずかしそうに頬を赤く染めている。
    「…………………………………………生えてる」
    「ん?」
    「生えてるよ」
     震えた声で、無理をして平然さを装っているのがなんとも意地らしくてたまらなかった。
     可愛い、クラクラする。
     ただ異性の肌が密着しているだけでも、男が興奮するには十分だ。それでなくとも、実は下半身に血流が集まっているところを、日和の仕草一つで、声色一つで、果てには顔を見るたびに胸がきゅっと引き締まり、息苦しさに体力を奪われる。
     それだけ、晴美の目には日和が可愛らしくてたまらない存在として写っていた。
     もう駄目だ。
     もっと、色々しないと気がすまない。
     この子猫のように可愛い自分の彼女を、もっとたくさん苛めてあげたい。
    「オナニーしよっか」
     晴美は意地悪く囁き、そして――。
    「――え?」
     日和は目を丸めていた。
    「だから、オナニーだよ」
    「え、でも……。こんな場所で……」
    「こうしていればバレないでしょ? それに、やっぱり外じゃできることなんてあまりないし、頼めることなんてこれくらいしかないよね」
    「そ、そうだろうけど……」
    「そうなんだよ。わかっているなら、やってみよう? ね、日和」
     要求する内容はそれなのに、しかし晴美は、まるで大人が子供を諭すような口調を使って優しげに強要している。
    「…………うん。でも、ついちゃう」
     日和が気にするのは、単なる恥ずかしさ以外にもそれがあった。
    「ついちゃうって、なにが?」
    「わかってるくせに……。その……私の…………エッチな汁が…………」
    「愛液がついちゃうかもね」
    「そ、そう。だから……」
     さすがに嫌だろうか。
     それとも、苛めて平気だろうか。
     どうしたものかと読みかねる。
    「……どうしても、して欲しい?」
    「――うん」
     日和の方から聞き返され、流されるように頷いた。
    「じゃあ、してあげる」
     日和はもぞもぞと腕を動かし、密着した身体の隙間に腕を滑り込ませる。手の平をアソコへやり、ずり上がったスカートの中を弄くり始めた。
    「始めた?」
    「……うん。私、こんなところで……。こんな……オナニーしちゃってる……」
     声が震えていた。
     触っているのだ。
     日和は自らの秘所へ指をやり、縦筋を上下になぞっている。腹に当たってくる腕の動きでその様子は生々しく想像できた。
    「恥ずかしい…………」
     真っ赤な顔を肩へ埋めて、日和はアソコを貪り続ける。
    「気持ちいい?」
    「……うん」
    「どれくらい?」
    「…………すごく」
    「もう濡れてる?」
    「………………うん」
     日和は恥ずかしそうに頷いて、自分の秘所の具合を小声で伝える。
    「蒸れるぐらいに濡れてきて……それで……表面に触ると、もうヌルヌルしてるぐらいに濡れてきてるよ」
    「じゃあ、そのまま続けて」
    「うん……」
    
    
    


     
     
     


  • 第7話「パンツを脱いだよ」

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      自分で思っていたほど、体を許す準備が出来ていなかった。
     というのは確かなのだが、しかし悲鳴まで上げた理由とは少し違う。
    
    「ひゃ!」
    
     日和が喘ぎを発したのは他でもない。
     感じたからだ。
     晴美の指先が乳房に触れ、山の頂点と潰してへこませてきた瞬間、静電気の弾けるようなビリっとした性感が乳首に走った。その思いもよらぬ快感に、日和は悲鳴にも似た喘ぎ声を上げたのだ。
     自分で揉むだけでは、これほどの感じはしなかった。
     晴美の指が触れた途端、ここまでの性感が走るなど日和自身でも予想外だ。
     そんな真相をまさか正直に話せるわけもなく、ひとしきり慌てた早口で喋ったあとは、日和はもう黙りこくったまま口を開けない。
     指先であれほど感じるなら、揉みしだかれたらどうなるのか。ましてや服の上ではなく、直に触れられたらどうなるのか。本当のところ興味があるが、さすがに野外で胸を揉まれるのは怖いと思う。
     では、きちんと二人きりなら胸を許してやれるのだろうか。
     まだ、無理かもしれない。
     そもそも、下着姿を見せられるのも、やはり『カーテンを閉め忘れただけ』という心の建前があるからだ。確かに昨夜のプレイでは、日和はより堂々と覗きを許している。最終的には面と向かい合ってまで手ブラやオナニーを披露したわけだが、そんなことができたのも、やはり閉め忘れが起点にあるからだった。
     始まりはそこなのだ。
     まず『覗かせる』ことに慣れていたから、その発展系である『見せつける』行為にまで及んでいる。閉め忘れというスタート地点からレールを延ばし、閉め忘れという建前は死んだように思えて生きているから下着さえ手渡せた。窓越しという路線の上でなら大胆になれたものだが、別の路線に乗り換え変えると話も変える。
     今回は窓越しではなかった。
     閉め忘れからエスカレートしたわけではない、正真正銘のエッチである。無意識のうちに気持ちは切り替わり、前の路線では消えていたはずの抵抗感がここでは復活していた。
     部屋にいなければ、こういうことに対するスイッチの切り替えができなかった。
     やはり、エッチなことは恥ずかしいし緊張する。
     建前で抵抗を和らげなければ、きっとパンツを見せることさえ今はできない。
     どうして昨夜はあんなに大胆になれたのか。
     日和は今になって初めて、自分の性行為にまつわる心を自覚していた。
    「ごめんね?」
     なので、謝る。
     自分自身でいけると踏んでおきながら、おっぱいを揉ませてやれなかった。
    「い、いや……」
     謝っただけ、晴美は困った顔をする。
     こんなことで頭を下げられても、恐縮させるだけなのだろうが、それでも一言くらいは謝らなければ日和としては気が済まない。
    「胸だとちょっと、ハードルが高かったみたい」
    「……うん。そうだよね」
     なんとなく、重い。
     別に嫌だったり、不快感を味わったわけではない。本当は快感への喘ぎ声をあげたのだが、耳で聞く分にはリアルな悲鳴に思えただろう。痴漢や暴漢に襲われた女性を彷彿させ、晴美の居心地を悪くさせている。
     それが最も申し訳なく思えて、日和は数回にわたって謝った。
    「ベンチ、行こっか」
    「……うん」
     晴美に連れられ、とりあえず並んで座る。
     しかし、沈黙は続いた。
    「……」
    「…………」
     話題がないわけでなく、気まずいがための静寂が二人の喉を締め上げ、下手な台詞は発せない。二人きりの空間の静けさに対し、周囲の喧騒が対照的に響いていた。
     この空気を打開するには、いっそ気持ちよかったと伝えればいいのだろうか。
     頭に案を浮かべはするが、どうしてもそれが最良の一手とは思えず、しかも乳房の敏感さを申告するなど恥ずかしい。かといって他にアイディアが出るでもなく、何も言葉を思いつかないせいで喋れない。
     晴美もきっと同じ状態に陥っていた。
     ――やだなぁ……。
     この状況のことだ。
     晴美と気まずいままでなんて、いたくない。
     喘ぎ声が悲鳴じみていた埋め合わせだ。
     なんとしても打開したい。
     ――そうだ!
     ここで妙案が浮かぶ。
     必要なのは建前だ。
     カーテンをわざと閉め忘れるのと同じように、なんらかのうっかりを根拠にすれば、できることがあるはずだ。
    「ちょっと、トイレ行くね?」
     日和は一旦、ベンチを離れ――。
     そして。
     公共トイレの個室でパンツを脱ぎ、日和はノーパンになった。
    (……あ、スースーする)
     スカートの内側を流れる大気が、いつもなら布地に包まれているはずの部分を撫でてくる。
     この慣れない感じが落ち着かない。
     トイレを出て、晴美の元へ戻るおり、別に風が強いわけでもないのにスカートを手で押さえずにはいられなかった。もし、不意に突風がきたら。もし、そのせいで通行人に中身を見られたら。恐ろしい可能性ばかりが頭をよぎる。
     ミニスカートなだけに、丈が揺れ動くことさえ気になった。
     そもそも、ただ男性とすれ違うだけで、通行人にバレないかと不安になった。
     しかし、半ば恐怖からくる緊張感は、晴美のベンチへ戻った瞬間に別のものへと変化した。
    「お待たせ」
     そう言って、隣に腰を落ち着ける。
     すると、途端にじわじたとした切ない熱さが下腹部を満たす。甘い欲求が沸き立ち、外だというのに日和は秘所を気にして手で押さえ、いじらしく太ももを摺り合わせた。
    「あのね、晴美。私って、いつもカーテン閉め忘れるよね」
     覗き覗かれの話題を、かなり遠回しに切り出した。
    「……毎朝、ね」
    「だから、私はそういう、うっかり屋さんなわけでして――。昨日から履いていたパンツが、やっぱり思っていたより汚れていたかなって」
     決して、ストレートには打ち明けない。
     あくまでも遠回しな言い方で、察してもらうことを前提に日和は話した。
    「もしかして日和、今ってスカートの中――」
     案の定。
     晴美は察した。
    「……うん」
    「え、ええと……。今さっきのこのタイミングで、何故そういったことを」
    「空気を入れ替えたくて」
     つまり、お互いの気まずい空気を解消したい。『空気』という言葉を含めただけ、割りに直積的な言い回しなようでいて、やはりどこか遠回しに、まるで部屋の空気でも示すようなつもりで日和は言った。
    「そっか。でも、何故またそのような方法を」
    「さっきのアレ、決して嫌な思いをしたわけじゃないので。ちょっと自分でもビックリするようなことがあったと言いますか。私もその……。晴美が考えるようなこと、興味がないってわけではないから、少々そのアピールをと」
     遠慮がちに、かなり控えめな口調で日和は語った。
     いきなり胸など揉みしだかれては、自分がどうなってしまうのかわからない怖さがある。快楽の海に溺れはしないかと不安だが、もっとその手前。接触のない方法でスリルを味わうのなら、むしろ楽しめる。
     という気がした。
     現在の建前設定は、要するに愛液でカピカピになったパンツが今になって気になって、アソコが痒いので仕方なく脱いでいる、というものだ。
     そこまで明確に通じているかはわからないが、少なくとも何らかの建前を張り、それを理由に『仕方なく』ノーパンになっていることは、晴美は理解している顔だった。
    「じゃあ、そのアピールには応えた方がいいってことかな」
     気まずそうだった表情に、ちょっとしたニヤけが浮かぶ。
    「その通りです」
    「もちろん、無茶は無しだよね。僕以外の視線は……」
    「うん。晴美以外は嫌かな」
    「わかった。じゃあ、どうしよっかな。ひとまず、脱いだものは僕が預かっておくよ」
    「……はい」
     ――ドクン。
     心臓から深い鼓動が鳴った瞬間、来た、と感じた。
     胸の奥から湧き上がる羞恥が、風通りの良くなったスカートの内側が、今にもパンツを求めている。どうしようもない落ち着かなさで、すぐにでもトイレへ駆け戻り、脱いだものを履きなおしたい気持ちにかられる。
     衣服は体を隠す防壁だ。
     盾は自分の手で握ってこそ安心感が沸いてくる。
     それを今、ポケットにしまっていた昨日のパンツをゆっくり取り出し、安心を手放す心細さを嫌というほど味わいながら、晴美の手に預け渡した。
    「すぐには返さないからね」
     手渡したパンツが、晴美のポケットへ消えてしまう。
     秘所を守ってくれるものが、なくなった。
    「さて。これで日和のスカートの中はどうなってるの?」
    「え? そんな……。言わせる気?」
     この状況は晴美も十分理解したはず。履いていないことなど今更確認するまでもなく、ましてや通行人が増えている。
     初めにいた人気のない茂みと違って、石畳の通路に開けたこのベンチの前は、さっきから何人もの男女が行きかっている。近くに学校でもあるのか、休日練習から帰る運動部の学生姿がちらほら見える。ジャージを来た男女、テニスラケットをバッグで背負った高校生、あるいは野球ユニフォームの男児、様々だ。
     そんな人通りのある場所で、はっきりと口にするなどしたくない。
     しかし。
    「言って欲しいな」
     晴美の期待に満ちた顔。
     そんな表情を見せられては、日和は弱かった。
    「の、の………ノー…………ノーパン…………です」
     随分小さな声で、日和は言った。
    「小声でもいいけど、聞こえにくいな。僕の耳元に囁いてよ」
    「……うん」
     日和は晴美の耳へ顔を近づけ、再び言う。
    「……ノーパン……です」
     とうとう言わされ、顔がみるみる熱くなる。
    「履いてない?」
    「……履いてません」
     じんわりと広がる顔の熱さは、すぐに顔面から耳へ渡って熱気を帯びさせ、日和の顔は真紅に染まっていった。
     ノーパンプレイだ。
     今さっき気まずかったばかりで、おさわりはしないだろう。
     しかし、直接的な行為がない分、果たしてどんな風に苛めてもらえるのか。不安なようで期待してしまうマゾヒズムが疼きだし、日和はほのかに恥らった。
    
    
    
    


     
     
     


  • 第6話「ほんの失敗」

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      彼女を連れ歩くことには、ただ嬉しさだけでなく、こんなに可愛い日和をものにしている優越感があった。さっきからすれ違う男の視線が日和の谷間や太ももに向いているが、胸が大きくて脚の艶かしい彼女がいるなど、みんなさぞかし羨ましいのだろう。
     ピンク色の可愛らしいシャツから覗く、大きな乳房の摺り合わさった色めく谷間。揺れるミニスカートからチラつく太ももの白さ。そんな自分の格好に恥じらい気味になりながら、遠慮がちに裾を握ってくる仕草。
     日和の全てが可愛く思えた。
     しかも、日和の今日の下着は昨夜と同じ。
     晴美がオナニーに使用して、肉棒に巻きつけたものなのだ。そんな下着を日和がつけているというのは、動物がナワバリに自分の匂いをつけるのと同じように、まるで彼女にマーキングをしたような気分がする。
     そして、日和もそれを拒否していない。
     佐藤日和は自分のもの。
     そういう気持ちがどこからか沸いていた。
     こんなにも可愛くて、しかも気の合う彼女が出来て幸せだ。
     だが。
     しかし、話題に困った。
     晴美の計画では、まず日和を映画館へ連れて行き、小説原作の人気作品を鑑賞することに決めている。そのあとでお昼にお茶をして、あとは一緒に書店巡りをして帰るだけ。いたって単純なスケジュールだ。
     問題は駅で次の電車を待ち、一本先の駅で降り、そして劇場まで徒歩五分ほどの道のりをいくまでのあいだ、なにか楽しい話題でも振るべきではということだ。
     仮にも初デートなのだから、それなりにリードしてやりたい。
     だが、晴美の頭の中では、会話のネタになるべき事柄がすっかり枯渇しているのだ。
     観に行く映画は小説原作。
     日和も晴美も、お互いに気に入っている作品の映像化た。よくある漫画やアニメの悲惨な実写化とは違って、原作ファンでも納得のいく出来栄えだと評判なので期待している。上手いこと落とし込んでいるという話なので、面白いかな、楽しみだね。という会話も本当ならできたはずだが、それは実は学校の休み時間で消化している。
     では成功した漫画アニメの実写映画とは何か。という話題も考えたが、それもそれで、もうしたことがあったので、ここで振っても今更になってしまう。
     困ったことに何も浮かばず、結局は一つも口を利かないまま映画館に到着し、チケットの購入まで終わって座席での上映待ちとなってしまった。
    「…………」
     口を開きたいのは山々だが、晴美は相変わらず消化済みの話題しか思いつかない。
    「………………」
     日和も同じ。
     何度もこちらをチラチラ見ては口を開きかけ、何かの話題を振ろうとしている。しかし、日和からも結局は何も出ず、沈黙が続いている状態だった。
     それが、少し気まずい。
     お互い慣れ親しんだ間柄。
     ネタさえあれば、本当なら会話は弾む。
     普通の友達とは上手く喋れず、晴美も学校では適当な相槌だけで済ませてばかりだ。日和の口下手さには引けを取らない自負があるが、日和が相手であれば、まるで明るい友達グループのように少しは盛り上がったり、笑いあったりできるのだ――ネタさえあれば。
     なければただ、黙るしかない。
     昨日のエッチについて話を振り、たくさん言葉責めをしてやることも思いつきはする。あの告白のあと、好きな人になら苛められてみたい。好きな人が相手なら色々平気な気がする、ということを、日和はメールで伝えてきた。
     だから晴美も言葉を投げかけ、昨晩はサディスティックに楽しんでいたわけだ。
     日和の色っぽさについて、今付けている下着について、耳元に囁いてあげる方法も浮かびはする。
     だが、今はデート中だ。
     デート中にそれはいけない。
    「いよいよだね」
     やっとのことで、そういう話の振り方もあったことを思いつき、言ってみる。
    「うん。楽しみ」
    「だね」
    「うん」
     会話はこれで終わった。
     これではいけない。
     せっかく誘っておきながら、きちんと楽しませてやれなくては意味がない。どうすればいいのか頭を回すが、そうこうするうちに上映開始が迫ってきて、証明が落とされ放映前の予告映像が流される。
    「観てる最中って、喋る?」
     再び話を振ったはいいが、それは上映中にお喋りをするタイプかどうかの確認だった。
    「喋らないよ? 終わるまでは」
     聞くまでもなく、日和なら静かに鑑賞するに決まっていた。
     こうなったら、言葉以外のアプローチだ。
     晴美は決意を固める。
     そして。
     黙って手を伸ばし、そっと日和の手を握った。
    「――晴美?」
     日和は少し驚いた顔をして、しかしすぐに上映が始まったので、何も言わずに手に力を込めて握り返す。
     映画上映の約九十分間。
     最後まで手を繋いだまま鑑賞した。
     基本的には映像に集中しながら、ふと何度か、繋ぎ合った手の体温を感じ取る。胸をドキドキさせながら映画を楽しみ、上映が終了したあとは、そのまま流れで、手を繋ぎ合ったまま劇場を後にしていく。
     無言のままではあったが、街中さえも手を繋いで歩いてしまう。
     そしてファミレスへ足を運び、二人用の席に向かい合って座るため、離れる必要性が生じるまで握り合った手は離れない。そのいざ離す段階でも、お互い何度も指を絡め直し、本当に席に着くまでには時間がかかった。
     離したあとはお互い名残惜しい気持ちを抱え、手の平に残留した相手の体温、手汗の触感をなんとなく握り締めた。
    「映画、楽しかったね」
     日和が言った。
    「うん! あの例のシーンやるかなーって気にしてたけど、本当にやるからびっくりしたよ」
    「私も! あそこはやっぱり外せないもんね」
     ようやく、会話に弾みがかかった。
     やはり小説原作なので、どのシーンが再現され、どこが残念だったかなど、映画の内容についていくらでも語り合う。
     作品にはしばしばファン注目の人気シーンや台詞などがあったりするが、それらがことごとく押さえてあり、キャスティングも上手いことやっていた点。ただ、どうしても多少はカットが入るので、是非とも映像で見たかった部分が見られなかった点。
     挙げられるポイントを挙げていき、少しは残念だったところもあったが、総合的には良作で原作ファンにもお勧めだということで落ち着いた。
     そして、話題が落ち着き静かになる。
     そこで日和は、注文していたドリンクのストローから口を離し、ゆっくりと呟く。
    「……ありがとう」
    「え?」
     急に理由のわからないお礼を言われ、晴美は少々戸惑う。
     しかし、すぐに心臓が跳ね上がった。
    「……初デート。楽しいかも」
     そんなことを、日和はとても恥ずかしそうに、照れ隠しで顔を若干下げながら、ほっそりと口にしたのだ。
     もう心臓を狙い撃ちされたも同然だ。
     ドキドキしすぎて胸が壊れる。
    「い、いえ! どういたしまして!」
     晴美は相当、緊張に上がりきった硬い声を発していた。
    「あのね。一緒に出かけられるだけで嬉しくって、楽しいの。だから、話題がないときはそんなに頑張らなくても大丈夫だよ?」
    「う、うん」
    「でね、今日の映画……。一人で観るより、絶対に楽しかった」
     日和は自分の手をいじり、気にしてみながら言っていた。それは晴美が握った方の手だ。
     少しは楽しませてやれたらしいことに、晴美は我ながら安心する。
    「うん。僕も」
    「ねえ、次はいつ誘ってくれるのかな」
     日和は期待に満ちた顔で身を乗り出す。
    「つ、次って。まだ帰るわけじゃないのに気が早いなぁ」
    「だって楽しいもん」
    「まあ、僕も楽しいけど」
    「どこでもいいの。どこでも。とにかく晴美と一緒にどこかへ行ければそれでいいから、なんなら近くのコンビにに誘ってくれてもいいよ」
    「……うーん。そんなにどでもいいのか」
     さすがに本当にコンビニに誘うなどできないが、図書館へ行くのもいいかもしれない。デートといえば遊園地や水族館が真っ先に浮かびやすいが、日和としては賑やかすぎる場所はどうなのか。植物園なら物静かな方だろうか。
     次に誘う場所を浮かべつつ、晴美もドリンクを飲み干した。
    「じゃあ日和。家デート。とかは?」
    「行きたい! あと、晴美も私の部屋に来て欲しいな」
    「なら、そのうち」
     もう数回デートしたら、お互いの部屋を出入りしよう。
     などと、晴美は心に決めるのだった。
    
    
     午後は書店巡りを行った。
     二人が来ている町は元々本の多いところで、大型書店はもちろん古本屋も充実している。それらの店を二人でまわり、特に買うわけでもない本の背表紙を一緒に眺め、まるで博物館か美術館でもまわるような感覚で書店を歩く。
     本が大好きな晴美にとって、日和にとっても、これで十分楽しかった。
     なんというか、落ち着くのだ。
     自分の好きなもので溢れた空間。
     ただそれだけで、なんとなく、ずっとそこで過ごしてみたい気分になる。好きなジャンルの本棚を前にしていると、その感情は特に強くなった。
     大衆向け小説のコーナーをまわり、海外ファンタジーのコーナーをまわり、ライトノベルの棚を眺め、何冊か手に取っては買うか買わないかしばし迷い、しかし財布の中身には限りがあるので棚へと戻す。
     晴美も日和も、一緒になってそんなことを繰り返した。
     ところが、どうしても欲しい本に行き会った。
    「高い……」
    「高いね」
     晴美は二人で苦笑いを浮かべた。
     一応、それは単なる文庫本に過ぎない。
     しかし、その分厚さはレンガ並みだ。
     妖怪をテーマとして扱うその小説シリーズは、一冊ごとのページ数がとにかく多く、五百ページや六百ページなどまだ少ない。千ページ前後などざらに出て、二人が今目にしている最新版に至っては、約千五百ページが上下巻に分かれているのだ。
     となると、値段も上がる。
     上下巻それぞれ千五百円する本を両方買えば、合計三千円となる。大人の財力でなら買おうと思えば買える値段だが、中学生の金銭事情では、よほどのおこずかいをくれる家庭でもない限り、三千円は十分に大金だ。
     デートで消費しながらこの出費では、財布の中身も寂しくなる。
    「割り勘しよっか」
     提案したのは日和だった。
    「割り勘って、本を?」
    「うん。二人で買って、二人のものにするの!」
    「なるほどねぇ」
     一緒に何かを共有したくての案なのだろう。物を割り勘しても、どちらが管理するかが面倒だが、そう考えると日和の気持ちも可愛く思える。ここは面倒を買ってでも日和の考えに乗ってみたい。
    「よし、割り勘しよう」
     晴美がそう決めると、日和はとても嬉しそうな顔を浮かべた。
     本は上下とも同じ値段。
     二人並んでレジへ行き、精算した後のレジ袋は男である晴美が持つ。荷物持ちだ。
     買ったあとの日和はいつになくはしゃぎ気味になり始めた。
    「へへ、買っちゃった。買っちゃったねっ」
     本当に嬉しそうに言いながら、晴美の腕にしがみつく。肘に大きな乳房があたり、その柔らかな弾力が嫌というほど伝わり、晴美は改めて意識した。
     今の日和は露出度が高い。
     覗こうと思えばいつでも谷間を拝める上、日和は晴美の視線を嫌がらない。胸への視線に気づくと、日和はむしろ見えやすいように腰を屈めたり、シャツの胸元を引っ張り、露出面積を増やしてくれるほどなのだ。
     どうして、こんなに肌の見えやすい服を着てきたのだろう。
     ひょっとしたら、日和自身、晴美を刺激するつもりではないだろうか。
     つまり、もしかしたら……。
    
     ――いけるのではないだろうか?
    
     胸の底から邪念が沸き立つ。
     覗き覗かれが続いていたせいもあり、まだこれが初デートにも関わらず、日和はオナニーまで見せてくれている。胸やアソコまでいくと抵抗があるようだが、手ブラという形でなら下着を取ってもらえたし、毛布で隠されたとはいえパンツも脱ぎ、考えてもみれば日和は晴美の前でとっくに全裸になっている。
     だったら、いきなり本番は無理だとしても、ある程度のことはさせてもらえるはず。
     晴美は欲望の実現を目論む自分の気持ちをなんとなく自覚し、しかし昨夜の興奮を思うと自分の心に歯止めが効かない。
    「ね、ねえ。公園にでも行かない?」
    「公園? いいけど」
     日和はきょとんとしたような不思議そうな顔で頷き、なんの疑いもなく晴美へ着いていく。
     書店を出て、十分程度歩いたところにはやや大きい公園がある。ブランコや滑り台のある普通の公園と違い、晴美が向かったのは、どちらかといえば自然が多く、身を潜められる茂みのあるような広めの公園だ。
     当然、そんな公園へ向かう目的は、日和を茂みへ連れ込むことだ。
    「どうしたの? こんな場所で」
     人気のない茂みの奥、木々の陰へ連れて行くと、日和は不思議そうに首を傾げた。
     本当に疑いがない。
    「あ、わかった。ギュってしてくれるんだね。ギュって」
     日和は一人でそう納得して、照れたような喜ぶような、期待に満ちた笑顔を浮かべながら、どこか恥じらいがちに肩を縮める。
    「う、うん。まあ……」
     晴美が今、日和のその体を狙っていることなど気づきもしていない。
    「じゃあ、お願いします」
    「……うん」
     晴美はゆっくり、日和の両肩へ触れ、胸の中で抱き寄せる。柔らかな身体を腕に包むと、晴美の身体へ向かって日和の乳房がプニっと潰れる。晴美はその胸の感覚へ神経を集中し、心地良い体温を感じながら背中を撫で回した。
     腰へ手をやり、堪能するように締め付ける。
    「えへっ、温かいな」
     日和は嬉しそうに、小さく呟いた。
     その体を好きなようにしてやりたい、男としての欲求に日和は気づいていないのだろうか。
    「ねえ、日和」
    「なあに?」
    「その……」
     胸、触っていい?
     などとは、急には聞けない。
     昨日のプレイではなんとなくスイッチが入り、言葉責めまで行えていたのだが、今はそんな頼みをいきなりできるほど心の準備が出来ていない。
     だから晴美は、何を言うでもなく無言で手を動かし、腰から脇腹へなぞっていくように、手の平をだんだん乳房へ接近させる。
     ――ドクン。
     心臓が高鳴った。
     腹を撫で上げ、とうとう乳房への接触直前までやってきたのだ。あと少し手を上へスライドさせれば、もう日和の下乳に触れられる。
    「ねえ、どうしたの? 晴美?」
    「い、いや……。その……」
     この手を上げれば、揉んでしまえる。
     揉みたい。
     日和の胸を、この大きな乳房を揉みしだきたい。
     揉みたい、揉みたい。
    「晴美? は、る、み、くん? ねえってば。なにか言ってよ」
     日和はただただ、晴美の胸に抱かれてはしゃぎ気味になっている。内気な性格にしては妙に高いテンションでいるところが、抱きしめられて喜んでいるのだという確かな証拠だ。学校にいる時の日和では、こうも明るくなることはない。
     どうして、他人には決して見せない明るい顔を日和は見せてくれるのか。
     答えは一つ。
     日和は晴美を好きでいてくれているからだ。
     ならば、揉んでしまっても平気ではないか?
     いや、どうだろうか。
     好きだからこそ、いきなりこれはどうなのだろう。
     もちろん、今まで覗きをしていたこと、昨晩のプレイと、早すぎる関係を結んでいる。きちんと恋仲が成立したのは、ついこの前の話でありながら、普通のカップルとは初めから何かが違っている。
     揉んでいいのだろうか?
     いいのだろうか……。
     ……駄目だ。
     どうしても、日和を性欲の対象に見てしまっている。男とはそういうものだが、そういう目でばかり日和を見てしまう自分が醜い人間に思えて、晴美は沸き立つ邪念を封じ込めた。
    「ご、ごめん!」
     晴美は抱き締める腕を放し、日和から数歩の距離を取る。
    「あれ? 晴美?」
     日和はますます首を傾げた。
     どこまでも、晴美を疑ってなどいないのだ。
    「僕、悪いこと考えているよ? 覗きもやめられなかったような人だし、そりゃ昨日は色々とあったのは百も承知ではあるんだけど……」
    「ん?」
     日和は不思議そうな表情だ。
     晴美の言いたいことが、これだけでは日和に伝わりきっていない。
    「だからね、つまり……。僕は日和のこと、欲望の対象のように考えているかもしれなくて、それって純粋じゃないよね。たぶん。純愛とか、なんか恥ずかしい言葉になっちゃうけど、そういう綺麗な愛じゃなくなっちゃうよね。あんまりエッチなことばっかり考えちゃ」
    「……そっか」
     ここまで話して、ようやく言いたいことが伝わった。
     晴美はどうしようもなく、日和の体に興味がある。男なのだから当然だ。そこに女の体があれば、ましてや下着姿やオナニーを見せてくれる恋人とあっては、色んなことを期待してしまうのも仕方がない。
     しかし、そういう目的ばかりで日和を見ては、日和に対して失礼ではないのだろうか。
     途中までは日和の胸に取り付かれ、揉みしだきたい欲求に負けていたが、晴美は本当に直前のところで思い留まったのだった。
    「だから一応、謝ろうかなって。デート中だったのに変なこと考えちゃったから……」
     晴美は懺悔のように小さく言う。
     すると、日和もかなり言いずらそうにしながら、遠慮がちに言い出した。
    「そっか。悪いことじゃ、ないと思うけどな……」
    「――え?」
    「だって、男の子なら仕方ないんだろうし……。それに、何度も言うけど、私のことをエッチな目で見るのが、好きな人かそうでないかで全然違うよ? 晴美になら、そういう目で見られても平気だし……」
    「う、うん。そうなんだろうけど……」
    「カーテンだって、わざと開けていた私も同罪というかなんというか……」
    「あ、うん……」
     それはそうなのだろうが、日和を悪く言うのは遠慮され、晴美はやたらに躊躇いながら頷いていた。
     そして。
    「おっぱいだよね?」
     ――ギク!
     日和は承知していたのだ。
     悪巧みを見抜かれていたような居心地の悪さに襲われ、晴美は大きく顔を歪めた。
    「えーと、まあその……。否定したら嘘になる。かな? なんて……」
    「揉もうとしてたもんね」
    「えっ、うん。まあ……」
     なんとも予想外で、晴美はますます頭が下がってしまう。
     どう見てもなんの疑いもない様子だったような気がしたが、こうも当然のように色情を看破されているとは思わないだが、考えても見れば、女の子は男のいやらしい視線に敏感なものなのだと、どこかで聞いたのを思い出した。どこから生まれた説なのか、果たして本当に根拠のある話なのかはわからないが、少なくとも仲良し相手の気持ちが読めても不思議はない。
     きっと、実際のところ茂みへ連れ込んだ時点で日和は色々とわかっていたのだろう。
    「私は人の視線には敏感なので、本当は晴美がどう来るかなーっていうのを。ちょっとね」
     そんなことを申し訳なさそうに言ってくる。
     もし揉んだら、それは許してもらえたのか。
     それとも拒絶されたのか。
     そこまではわからない。
     いくらカーテンをわざと半開きにする子とはいえ、恥を知らないかといえば、そういうわけでもない。一般的な少女とはズレた部分があるのは確かにしても、覗かれたがる性癖さえ覗けば全く普通の女の子だ。
     受け入れてくれたのかもしれないし、怒られていた可能性も捨てきれない。
    「そうだったのか。やられたなぁ……」
    「やっちゃいました」
     もう、お互い苦笑するしかなかった。
     疑いのない無垢な少女の顔をして、実のところ男の出方を伺うなど、日和もとんだ悪い子ではないか。
     下手をすれば、気まずくなってもおかしくない。もし胸を触って、怒られるなり拒絶されるなりしていれば、もう口など開けない空気になっていた。
     そういう橋を渡っていたばかりだというのに、そんなことは既にどうでもよくなった。
     そんなことより、日和の悪戯な一面を知れたことが、まるで冒険で宝物を発見した瞬間のように嬉しかった。
    「さて、晴美君」
     日和は場を改めるべく一言入れ、そのままストレートに尋ねてくる。
    「揉みたい?」
     そう問われては、見抜かれていた邪念を今から否定しても仕方がない。
    「……うん」
     悪事を認めさせられるようで、少し居心地が悪かったが、晴美は小さく頷いた。
     すると。
    「……わかった」
     日和はやや躊躇いがちに、ほっそりと呟いた。
    「え? わかったって、それってその……」
    「いいよ? よくないけど」
    「どっちなのさ」
    「えーとね。思いきり揉むのは駄目。指でツンツンするなら有りということで」
     日和にとって、許せるラインはそこらしい。
    「うん。わかった」
     もし怒られたり、泣かれたりでもすれば、晴美はひたすら戸惑うか、あるいは何をするでもなくじっと下ばかりを向いていることになっていた。そんな矢先に乳房をつつくことが許されても、どこかやりにくい心地がする。
     どうしても、遠慮のある手つきになってしまうが。
     晴美は人差し指を真っ直ぐ伸ばし、日和の胸元へ運んでいく。乳房の膨らみの頂点へ向け、乳首のボタンでも押すようなつもりで、プニっと。胸を柔らかに潰した。
    「ひゃ!」
    「え!?」
     悲鳴を上げられ、まるで熱い火に触れてしまった瞬間のように、晴美はほぼ反射的に手を引っ込めた。
    「あ、あの! ごめんなさい!」
     自分の悲鳴を、日和はただちに謝罪してくる。
    「い、いやそんな……」
     おっぱいをつつかれ悲鳴を上げた。
     そんなことを謝られても、晴美としては困るばかりた。
    「――へ、平気かなって、思ったんだけど。ほら、覗かせたりはしたし、昨日は色々すごかったし、つついてもらうだけならって思ったの。――ええと、つまり、少しなら受け入れられるかなって思って――なのだけど――」
     日和も随分慌てた早口になっている。
    「いや、あの。ごめんね? 日和」
    「だから! 違くて――いけるかなって、自分でも思ってて。ちょっとならって思ったのに、やっぱり駄目だったみたいで……」
    「う、うん! わかった! わかったから」
     つまるところ、一人で自転車を漕げると思い込んでいたらすぐに転んだ。できると思い込んでいたことに挑戦したら、即座に失敗したということか。
     もちろん、自分でつつくだけなら大丈夫だと言いながら、そこで悲鳴を上げてしまうのは理解できない部分があるが、そう解釈すればわかりやすいだろうと晴美は自分で納得した。日和自身でさえ、自分がどこまで晴美に体を許せるのか、把握していない状態だったのだ。
    「…………」
     口を結ぶ日和。
    「………………」
     何かしら言葉をかけはしたいのだが、思いつかない晴美。
     とうとう本当に気まずくなり、重い空気が二人の肩に圧し掛かった。
    
    
    
    


     
     
     


  • 第5話「デートのお誘い」

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      せっかくそこに彼がいる。
     お互いに窓を開いて挨拶を交わしたい。いささか古いラブコメにあるようなやり取りをしてみるのが、佐藤日和にとってはちょっとした夢だった。
     今日、夢は叶った。
     朝起きて、窓からトントン音が聞こえたかと思うと、見れば隣に住む仁藤晴美が身を乗り出し、ノックしていたのだ。
     日和は大喜びで飛び出して、晴美の首に腕を巻きつけ抱擁を求めた。
    「おはよう。晴美」
    「おはよう。日和」
     温かい。
     朝からこうして抱き締め合えるだなんて、日和はとても幸せだ。
    「昨日の下着、まだつけてるよね?」
    「……うん」
     耳元で囁かれ、日和は儚げに頷いた。
     着替えをわざと覗かせる建前から始まった一種のプレイは、恋仲が成立し、お互い合意の上になるなり、昨日のうちに随分とエスカレートした。単に下着を見せる以上の行為をもうしてしまっている。既に二人で窓を開け、直接顔を合わせながらのオナニーまで許したのだ。しかも、日和は晴美のために自分の下着を上下両方使わせている。
     だから日和の現在の下着は、一度肉棒を包んだまま洗っていない。先走り汁を吸っているかもしれなかったが、目立つ汚れはついていないからと、日和は夜まで下着は付け替えないつもりでいた。
     我ながらマニアックかもしれないが、日和はそんな下着を付けていたい。マーキングを受けた自分でいてみたかった。
    「これから着替える?」
    「うん。カーテン――っていうか、窓。閉め忘れておこっか」
    「お願い」
     そう、あくまで閉め忘れ。着替えを覗かれるのも偶然に過ぎない。
     どこかで建前は生きたまま、今も二人のあいだに見えない線を引いている。その内側にいる限り強引には襲われないはずという、微妙に根拠のない安心感から、日和は彼の視線を浴びながらでもパジャマを脱いでいけるのだった。
     下着姿になった日和は、全身を見やすいように窓際へ体を向ける。
    「綺麗だよ。日和」
    「ありがとう」
     体つきを褒められるのは、羞恥というより単なる照れくささが上回り、日和は気恥ずかしさで身をモジモジさせてしまう。
    「おっぱい。谷間が見たい」
    「はい、どうぞ」
     窓から少しだけ身を乗り出し、すると晴美は乳房の狭間を覗き込む。熱い視線がまるで湯水を流すように注ぎ込まれ、胸元が熱されていくような心地がした。
    「やっぱり綺麗。大きくて、丸くて、すっごく色っぽいよ」
    「……もう、言わないでってば」
     途端に羞恥心が膨れ上がり、日和は頬を染め上げた。
    「言われたいくせに」
    「そうだけど……」
     日和は俯いた。
     少々マゾっ気のある日和は、恥ずかしい言葉を耳元で囁かれることが嫌じゃない。もちろん何の好意も持たないただの男が相手であれば、さぞかしゾっとしていただろう。好きな人が相手というだけで、本当なら不快だったり嫌な思いをするはずの事でも、不思議と悪い気分にはならないのだ。
     晴美は何か特別な魔法でも使っているのか。
     もちろんそんなわけではないのだが、少しはそんな思いがよぎるほど、それは日和自身でも不思議なことだった。
    「ねえ日和、今日は土曜日だよね」
    「うん」
    「あのさ、デートしない?」
    「……え?」
     一瞬、きょとんとして首をかしげた。
     しかし、今や恋仲。
     自分が一体どんな誘いを受けているのかをしっかり自覚し、羞恥心とは別の意味で日和は顔面を染め上げた。
    「……で、で、デート! ですか!?」
     声が上ずる。
    「……まあ、ね。彼氏だったら誘わないのはおかしいと思うし、休みだから出かけたいし、どうせ出かけるんだったら日和とがいいし……」
     晴美もどこか言い訳がましく理由をならべ、気恥ずかしいような顔で視線を泳がせる。彼も彼で、さらっと言ってのけたように聞こえたが、本当は勇気を出して誘ってくれたのだ。
     けれど、どうせなら可愛い格好で誘われたい。
    「だったら、ちゃんと服を着た私を誘って?」
    「う、うん! わかった」
    「どんな私服を着るかはお楽しみなので、今回は閉め忘れ禁止だからね!」
     日和は窓もカーテンもきちんと閉め、隙間がないことを確認する。デートへの誘われただけのことが、日和にとってはあまりにも嬉しすぎた。興奮で顔を合わせていられず、その窓の閉め方はやや高速で手早かった。
     クローゼットの服を選ぶ。
     さて、どの服がいいか。
     迷った挙句に黒のミニスカートで脚を出し、上は赤いパーカーを羽織って赤と黒の組み合わせに決めてみる。
     着替えを済ませた日和はメールを送った。
    『待ち合わせ、しよ?』
     隣同士だ。玄関を出てすぐに会う方が早いは早いが、きちんとどこかで待ち合わせをした方がデートらしさが上がる気がする。
     わざわざ手間をかけさせるが、初めてなので色んなことを試してみたかった。
    『わかった。駅前でいい?』
    『いいよ』
     そのまま正確な場所と時間を話し合い、十分後には外出する。
    
     町の方向へ脚を向け、そして……。
    
     駅前に立つ銅像へ向かう。
     そこで既に到着している晴美がそわそわし、腕時計を見ながら日和が来るのを待ち構えている様子を、遠目から少しだけ眺めた。自分を待ってくれている姿を確かめたい、ちょっとした悪戯心だ。
    (うん。待ってる待ってる)
     人混みの中から今にも日和の姿は見えないかと、晴美は切実に待っている。女の通行人が晴美の方向へ歩いていくと、晴美は一瞬だけ期待した表情を浮かべるが、それがただの一般人とわかるとしょぼくれていた。
     なんとなくわかる。
     もし日和が先に到着していたら、やはり通行人が自分の方向へ来るたびに、やっと晴美が来たといちいち期待してしまう。自分でもするであろう反応を晴美もしていることに、日和は親近感を抱いていた。
     そんな晴美の様子を少しだけ楽しんだ。
     本人には悪いかもしれないが、昨日は散々恥ずかしい姿を見せているので、これでおあいこといったところだろう。
     そして、ドキドキしながら晴美の前へ飛び出した。
    「お待たせ。晴美」
     私服を見せるのは初めてだ。
     下着なら、今までいくらでも見せていた。似合っているのか。どこか変ではないか。どんな評価を下されるか。何度でも覗かせてきた分、そういう意味での緊張は一つもなかった。
    「私の服。どう? かな……」
     日和はひどく恐る恐る尋ねた。
     初めて私服を見せたことで、まるでテスト提出後に味わう良い点数が取れているかの不安に似た、これから下される評定に対する緊張感が溢れてきた。家を出る前までの日和はもう少し自信を持っていたはずだったが、いざ本番となると後ろ向きな気持ちが表に出る。
     そもそも、日和はそう積極的な性格ではない。
     本当ならもっと地味な服装を好むところを、せっかくのデートだからと、かつて母親から買い与えられたものの着る機会のなかった、やや華やかな柄入りのパーカーを実は初めて着ているのだ。
     初デートに張り切りすぎて、日和は少々無理をしている。
     晴美はなまじ会話し慣れた相手だ。慣れない相手との会話では途端に言葉が出にくくなり、口数は大幅に減ってしまう。ふられた話題の返事を考えているうちに時間が経つことがしばしばで、あまり無意識のうちに夢中で喋ってしまうような真似はできないが、慣れ親しんだ相手であれば多少はお喋りできる方だ。
     どちらかといえば内気な日和は、服装でも目立ちすぎないものを好んでいたが、せっかくの慣れ親しんだ相手に少しは派手な格好をしてみたい。自分なりに地味すぎるものは避け、目立ちそうな色を選び、靴下もカラフルなものを履いきている。
     自分に華やかなものなど似合わない。きっと変に見られるだけだろう。
     それが日和の自己評価だ。
     しかし、晴美だったら褒めてもらえるかもしれない。
     小さな期待感を抱きながら、日和は普段なら絶対に履かないミニスカートまで履き、街中で太ももをチラつかせながら歩いてきたのだ。しかもパーカーの内側に来たシャツは、ピンク色でアルファベットの黒字の刺繍が入っている。大きな乳房が布地を膨らませ、刺繍を内側から盛り上げて、街中にも関わらず谷間が見えかけだ。
     普通の女の子なら、これしきの露出度は当たり前なのかもしれない。
     しかし。
     人の視線を嫌う日和にとって、谷間も脚も出ているこんな露出度で出歩くなど、それだけで羞恥プレイに他ならない。裸で外を出歩くような恥ずかしさだ。しかも、相手が晴美限定の時なら下着姿にまではなれるが、不特定多数の一般人の視線をこうして受けるのはやはり不快で気持ち悪い。自分でこんな服を着ておいて、自業自得なのはわかっているが後悔した。
     地味な自分がこんな格好をして、おかしくはないか。
     そんな不安を日和は抱いていた。
     それでも。
     自分などを好きになってくれて、日和はとても嬉しかった。だから日和も精一杯のアピールで返してやり、自分も晴美が好きなのだと伝えたい。そのためにいつもと違う雰囲気を作ろうと努力して、大冒険に出かける気持ちでここまできた。
     伝わるだろうか……。
     ただ服が似合っているかだけでなく、日和が抱くのはそういう不安だ。
     そして、晴美の口がゆっくり開く。
     吐き出される言葉は……。
    
    「可愛い!」
    
     褒められて、日和は胸がきゅっと引き締まった。
    「ほ、ほんと?」
    「うん。とっても似合ってるよ」
    「そ、そうかな……」
    「こんなに可愛い日和とデートだなんて、本当に幸せだな。ありがとね。日和」
     晴美はそう言って日和を撫でる。
    「いえ、こちらこそ」
     頭をくしゃくしゃと撫で回され、日和は子犬のように喜んでいた。