第2話「イジメの糾弾」

前の話 目次 次の話




 翌朝、担任がいつものようにホームルームを開始して、席についた生徒の点呼を取る。手はずは整っているという話だが、本当に何かが起きるのだろうか。

「それでは、今日はイジメ撲滅委員会の方から派遣された葉山純一さんを紹介します」

 担任が言い出すなり、教室の戸が開く。
 現れた男は、昨日栗木の前に現れたスーツの男性その人だった。
「初めまして、イジメ撲滅委員会の葉山純一です。ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、近年になってイジメ対策にまつわる法案が可決されました。イジメって軽い響きですが、深刻なものになると本当に大変でしょう? 被害者は自殺し、加害者はその後ものうのうと生きていくなんてケースはザラにあります。そうした事態を防ぐため、わたくしには大きな権限が与えられているのです」
 葉山は一通り説明口調で語ってから、一人の生徒を指した。
「野之宮明日美さん。あなたは栗木健太を対象にイジメを行っていますね?」
「はぁ? 遊んでやってるだけだよ」
 容疑者に指名されるなり、明日美はほぼ反射的に言い返した。
「イジメをしている人間はみんなそう言います。悪ふざけ、遊んでいただけ、といった言い訳をなさりますが、わたくしが出てきた以上はそうした言い訳は通用しないとお考え下さい」
「っるっせーな。ふざけはんぶんでも小突いたりくらいすんだろ。そんなのイジメ認定してたら世の中イジメっ子だらけになるじゃねーか」
「もちろん厳正な判断は必要ですが、今回は確実に調べがついています。でっちあげの痴漢を言いふらす行為、自分のゴミを捨てさせる行為。紙ゴミの投げつけ、教科書への落書き、顔写真のインターネット上へのアップロード等々。他にもネットコミュニティを利用して、本人の実名をあげて悪口をつぶやく、書き込むといった行為を繰り返しています。全て調べはついているわけですが、その上で言い訳をする場合は、こちらも相応の対応をするとお考え下さい」
「だからやってねーって!」
 明日美はあくまで否定する。
 葉山は嗤った。
「もう一度言いますが、イジメ撲滅委員会には高い権限が与えられており、被害者に罰則を課すこともできるのですよ。素直に謝罪をして、謝るのでしたら今のうち。しかし、反省の色が見られない場合は相応の対応を取らせて頂きます」
 目の前で起きている展開に、栗木は空いた口が塞がらずにいた。
 葉山は本当に学校に現れ、イジメ対策を行使しようとしている。みんなの前で明日美の罪状をあげつらい、本人に反省を求めている。同時に自分が受けた仕打ちが晒されているのと同じだったが、あまりの衝撃に栗木はそんな事など気にしていない。むしろ明日美が一体どうなるのか。栗木の関心はそこだけに集中した。
「へいへい、すみませんね」
「本当に反省していらっしゃいますか?」
「してるしてる。ごめんな? 栗木」
 悪びれもしない、いつもの口調だ。
 そんな明日美を見て、葉山はニヤリとする。
「残念ながら、野之宮明日美が自分の行いを反省しているとは判断できません。よってイジメ撲滅委員会として、あなたに罰則を命じます」
「はぁ? 今謝っただろうが!」
「口先だけでは反省とはいいません。あなたは何も罪悪感を感じていないのでしょう? 今まで挙げた以外にも数々の行いをしてきているというのに、これっぽっちも反省の色がありません」
「うるせーな。だったらコイツのキモさなんとかしろよ」
 明日美は栗木を指す。
「苛められる側にも原因がある。という主張ですね。確かに被害者には気の小さい傾向などが見受けられますが、だからイジメはしてもいい。という話にはなりません。あなたにはこの場で罰則を受けてもらいます」
「何が罰則だよ。あたしは受けねーからな?」
「逆らっても構いませんが、わたくしは法律に基づいて動いています。もし罰則事項を守らない場合は刑事罰を行使して、あなたに懲役を科すことにもなりまねませんよ?」
 すると、明日美はさーっと青ざめた。
「は、はぁ!? なんだよ懲役って!」
「最近の法律はご存知ありませんか? 実際に条文にきちんと記されている内容です。なんでしたらこの場で暗記した内容を言っても構いませんが。さて、わたくしに権限が与えられているという意味は理解できたでしょうか」
「ちっ……」
 明日美は舌打ちする。
「では明日美さん。教卓の方へ来て下さい」
「はっ、なにやらせよーってんだ?」
 明日美はずかずか進んでいく。
「栗貴君も、前へ」
「は、はい!」
 何だろう。
 明日美への罰で自分が狩り出されるなど、一体どういう内容なのだろう。

 ――あなたのイジメにエッチな報復を致しませんか?

 昨日の言葉が頭をほぎる。
 まさか、明日美はこの場で卑猥な目に遭うとでもいうのだろうか。
 この、全生徒が見ている前で……。

「ではこれより、スパンキングの刑を行使します。明日美さんのお尻を叩くのは、被害を受けていた栗木君です」

 スパンキング?
 いやまさか。
 本気で言っているのだろうか。
 さすがに冗談では? と思うのだが。
「明日美さん。教卓の上に上がって四つん這いになりなさい」
 確かにそう命令している。
「は、はぁ? ざけんなよ! 何がスパンキングだ! 受けねーぞそんなもん!」
 明日美はそれに声を荒げていた。
「今お尻を叩かれるのと、刑事罰で懲役を受けるのと、どちらがよろしいですか? 懲役になると最低でも三年は出られません。わたくしとしてはスパンキングの方がおすすめなのですが、どうなさいますか?」
「て、テメェ……! 本気か?」
 法律を盾にされ、明日美はそれ以上口答えできない。ただ葉山を睨みつけ、栗木に凶眼を向け、従うでも逆らうでもなく、ただただ冷や汗を流してその場に立ち尽くしていた。
「本気も本気、大真面目です。我々には実際にそうした命令権が与えられているのですが、どう致しますか?」
「くっ、糞が……」
 さすがに懲役の方が恐ろしいと判断したのだろう。
 明日美は屈辱を飲み込みながら、栗木を睨みつけながら、上履きを脱いで教卓にのぼる。
「さあ、お尻は向こうです」
 クラス全員にお尻を向けた四つん這いを前に、栗木はごくりと息を呑んだ。